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「先生」

帰りのホームルームを終えた後、アンジェラが職員室に来た。

 

「ジェニーのことかい? 」

ディックは、アンジェラが近づくなり、聞きたいことがわかっているようだった。

「神父様の容体は? 」

ジェニーは、三日間学校を休んでいる。診療所の病室で、神父のそばに付き添っていることは、アンジェラも知っていた。

「正直なところ・・・・・・あまり良くはない」

ディックは硬い表情をする。

 

「そう・・・・・・私に何か出来ることはありませんか? 」

アンジェラは、何かジェニーに手助けしてあげたい気持ちがあった。

ディックは、しばらく考えて、「授業内容をノートに書いて、それをジェニーに渡してあげたらどうだい? 」

「それはいい考えだわ。試験も近いことだし」

アンジェラも賛同する。

「それじゃ、明日ノートを持ってきます」

「頼むよ」

アンジェラが職員室を出ようとすると、携帯電話が鳴った。

 

「はい・・・・・・」

ディックが、電話に出るなり青ざめた表情に変わった。

「すぐに行きます」

「先生、何かあったんですか? 」

アンジェラも電話の内容が気になった。

「神父の容体が悪いようだ。今から診療所に行ってくる」

「私も行っていいですか? 」

「わかった。一緒に行こう」

二人は、慌ただしく職員室を出た。

 

 

 


ディックとアンジェラが病室に来ると、ジェニーが座って、ベッドに寝ている神父の体を両手でさすっていた。その横でドクターが立っている。

 

急に神父が目を開けた。

「ジェニー、神父が何かを言っているようだ」

ドクターが気付いた。

 

ジェニーは右耳を、神父の口元に近づけた。

神父の口元が動いて、小さくつぶやくように言った。

「レプリカ・・・・・・!? 」

ジェニーが、神父の言ったことを口にした。

再び、神父の口元が動く。ジェニーが神父の口元に近づける。


「十字架・・・・・・十字架が欲しいの? 」

ジェニーは、神父の首元にかけてある十字架を外して、「十字架よ」

ジェニーが、神父の右手に十字架を握りらせる。

神父の口元が動く、ジェニー右耳を近づけた。

「えっ!」

ジェニーが目を丸くして驚いた表情をした。

 

 

神父は目を閉じた。

ドクターが、意識の確認をして、「午後5時22分。ご臨終です」

ドクターが静かに言った。

その瞬間、ジェニーは、神父の寝ているベッドに顔を埋めて泣き崩れた。



次の日。

神父の葬儀が行われた。

 

ドクターの付き添いで、ジェニーが喪主を務めた。葬儀は町の人々が参列して、神父の死を悼んだ。

 

夜。ジェニーは、ひとり家のリビングにいた。ここ数日間、慌ただしかった。すべてを終えて、ひとりになると、自分はひとりぼっちになったことを感じた。途方に暮れて、自然に涙がこぼれてきた。すると、窓の方から鳴き声が聞こえてきた。

 

ジェニーが、窓を開けて下を見渡すと、以前に見た黒い子猫がいた。ジェニーは、外に出て子猫に近づく。

「どうしたの? 」

ジェニーは子猫を抱きかかる。

「お母さんはいないの? 」

ジェニーは周りを見渡す。

「ニャー」

いないことを答えているように、子猫は鳴いた。

 

ジェニーは、子猫を抱きかかえ家に入って、ミルクを与えた。子猫は、お腹を空かしていたのか、勢いよく皿に入ったミルクを飲み始めた。

 

「ひょっとして、あなたも、ひとりぼっちになったの? 」

「ニヤー」

子猫はひと言鳴いて、皿の中のミルクを飲みほした。

 


次の日。

ジェニーは、神父の墓へとやって来た。

墓地は丘の上にあって、そこから町全体が見下ろせた。まだ、春先だが肌寒い冷たい風が吹いている。

 

ジェニーは、神父の墓石の前で、しゃがみこんで花を供えて祈った。そばで、ドクターとディックも立ったまま祈った。その時、墓に近づいてくる男の姿が見えた。男は、ハット帽を被りコートを着ていた。

 

「ハリス・コークさんのお墓でしょうか? 」

男が尋ねると、ジェニーは、神父を訪ねてきた白髪の男だと気付いた。

 

「はい」

ジエニーが答える。

「お祈りをさせていただけませんか? 」

「どうぞ」

ジェニーの言葉で、男は、墓の前で膝間ついて花を供えて祈った後、三人に礼をした。

 

「以前、教会でお会いしましたね」

ジェニーが言うと、「覚えてくれていたんだね」

男は嬉しそうに言った。

 

「失礼なことをお聞きしますが、神父とは、どういうご関係なんでしょうか? 」

ドクターは、どう見ても町の人間でもなく、神父の知人でもなさそうな、男のことが気になって尋ねた。

 

「彼とは、ロンドンにいた頃の仕事仲間でした」

「ロンドン・・・・・・」

その言葉に、何故かドクターは秘密めいたものがあることを感じて、「どういったお仕事ですか? 」

「商社で働いていました。彼は実に仕事の出来た人間でした」

男は、墓石の方に目をやる。

 

「ここ数日、彼のことが気になっていました。亡くなったことを知って、ここに来たわけです。彼とは約束がありました」

「約束・・・・・・?」

「ジェニーを引き取りに来ました」

「・・・・・・・」

白髪の男の言葉に、ジェニーは目を丸くした。ドクターとディックは、顔を見合わせた。

 


「どう思う? 」

ドクターが診察室の椅子に腰かけながら、書面を机の上に置いて、ディックに尋ねる。

「ここに書いてあるサインは、神父のものと間違いないんでしょうか?」

ディックもわからない様子で尋ね返した。

 

白髪の男が、ジェニーを引き取ることを告げた時、一枚の書面を取り出した。それは、神父が亡くなった後、白髪の男が、ジェニーを引き取るということの約束の書面だった。

 

「ジェニーは、彼が引き取るということでしょうか?」

「そういうことになる。1991年3月10日に神父はサインをしている。ジェニーが3歳の時のことのようだ。神父は、その後に、この町に帰ってきている。まさか、こんな約束をしているなんて・・・・・・・」

 

「彼は一体、どんな人物なんですか? 」

ディックが不安そうな顔をする。

「エディ・アーノルドと言っていた。彼は、ロンドンで貿易会社を営んでいる資産家のようだ。ジェニーが、そこに行けば生活面は心配することはないが・・・・・・」

ドクターは、言葉を切って考え込んだ。

 

「本当に信用できるんでしょうか? 」

ディックの言葉に、ドクターは黙りこんだままだった。

 

ドクターは、エディに対して信用できないようなところがあった。

神父から、ジェニーの面倒を見て欲しいと頼まれていた。その時、エディのことを言っていなかったことが気になった。

 

「もし可能であれば、ドクターがジェニーの親代わりになっていただけませんか? 」

ディックが願うような言い方をする。

 

「ジェニーには身内がいません。少なくとも、成人するまでは気の知れた人間が、そばにいてあげていたほうがいいと思います」

「・・・・・・そうだな。ハリスからも頼まれていた。ジェニーの親代わりになろう」

ドクターも心を決めた。

 

「後は、どうやって、ジェニーを引き止めるかですね」

ディックは、書面に書いてあることを気にかけた。

 

「心配することはない。最終的に決めるのは、ジェニー自身だ」

「そうですね。ジェニーが、エディのところに行かないと言えば、この書面の意味もないということですね」

「そういうことだ」

ドクターは、自信を持ったように笑みを見せた。

 

 

 



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