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ジェニーは、友人のアンジェラと一緒に校門を出た。

アンジェラは、ジェニーの家の向かいに住む少女で、学年も一緒だった。

 

「ねえ、アンジェラは進学する学校は決めたの? 」

「ええ、隣町の学校にしたわ」

将来、アンジェラは学校の教員になりたいと思っていた。

「ジェニーは、どうなの? 」

「うん・・・・・希望する学校は決めたんだけど」

ジェニーが浮かない表情になる。

 

「まだ、神父様が許してくれないの? 」

アンジェラは、察するように尋ねた。

「ええ・・・・・・最近は、神父様の体調も悪くて、言い出すタイミングがなくてね」

「そう。でも早く決めないと」

希望校の願書提出の日が近づいていた。

 

「ディック先生が、神父様を説得してくれることを約束してくれたの」

「そう、良かったわね」

「私の方からも機会があったら、説得してみようと思うわ」

「ジェニーだったら、ロンドンの学校も合格できると思うわ。絶対、説得しなきゃ」

アンジェラが、ジェニーを励ますように言う。

「ありがとう」

アンジェラの言葉は、ジェニーを笑顔にさせた。

 

ジェニーが自宅に帰ってきた。

ジェニーは、教会横の建物で、神父と一緒に暮らしていた。

 

ジェニーは、木製扉のドアノブに手をつけた時、ニャーと声がした。ジェニーが振り返ると黒い子猫がいた。生まれて間もなく、手のひらに入るぐらいの大きさだった。再び、ニヤーと泣くと親猫が近寄ってきて、そのまま子猫の体を口にくわえて、どこかに行ってしまった。

 


「ただいま」

ジェニーがリビングに入って来た。

「おかえり」

神父は、キッチンで夕食の準備を始めていた。

 

「神父様、体調のほうはいいんですか?」

ここ数日、神父は寝込んでいたが、今日は体調がよく起きていた。

 

ジェニーは、今一度、進学のことを相談してみようと思った。体調が悪い時は、話を聞き入るほど余裕もないと思い遠慮していた。だが、今日は顔色もいい様子だった。

情熱を持って話してみたら、ロンドンの学校への進学も許してもらえるかもしれない。

 

「神父様、お話しがあります」と、ジェニーは、希望を持って声をかけた。

「何だい? 」

神父が包丁で人参を刻む手が止まった。

ジェニーは、食卓の上にパンフレントを置いた。

それを見るなり、神父は渋い表情で椅子に腰かけた。

 

「来年は、ロンドンの学校に行きたいです」

ジェニーは願うように言った。

 

「なあ、ジェニー。弁護士になりたいというのは、いいことだと思う。だが、地元の学校に行っても、弁護士になれるはずだ」

「私、どうしても、この学校で勉強したいんです」

希望する学校は、イギリスでも有名校で、卒業生には、司法関係で働いている人間を多く出している。ジェニーは、その学校に通いたかった。

 

「地元の学校ならいいが、ロンドンは許さんよ」

神父は、聞き入れることもなく言う。

「どうして・・・・・・ロンドンの学校に行ってはいけないんですか?」

ジェニーが感情的に尋ねた。

 

「・・・・・・」

 神父は答えなかった。その態度を見て、ジェニーは、

「ちゃんと理由を言って下さい。神父様はズルい! 私、神父様なんかに育てられるんじゃなかった!!」

 

ジェニーは、怒りでつい言葉が出た。その態度を見て、

「ジェニー!!」

神父が声を荒げて、椅子から立ち上がった瞬間、急に胸を押さえて苦しそうに床に倒れ込んだ。

 

「神父様! 」

ジェニーは、驚いた様子で神父に近寄る。

「・・・・・・」

神父の息が荒くなった。

 

ジェニーは、慌てるようにして固定電話の受話器を手にして、どこかに電話をする。


次の日の朝。

神父は、病室のベッドで意識を失ったまま寝ている。ベッドの横で、ジェニーは椅子に座ったまま見守っていた。

 

ドアが開いて、ディックが顔を出した。

ディックが中に入ってきて、「ずっと、起きていたのか? 」

「先生、ありがとうございました」

ジェニーは、思いつめた表情で頭を下げた。

 

神父の容体が悪くなった時、ジェニーは真っ先にディックに電話をした。すぐにディックは、ジェニーの元へ来て、診療所へと神父を連れて行った。ジェニーは、病室で神父に付き添い一夜を過ごした。

 

ドクターが入って来た。ジェニーは下を向いたままだった。

ドクターは無表情だった。そうすることで、ジェニーに動揺させないようにしているようにも見えた。

 

「神父の容体は、どうですか? 」

ディックが、ドクターに心配そうに尋ねた。

ドクターは一瞬考えて、「なぁ、ジェニー」

ドクターの呼びかけに、ジェニーが顔を上げる。

「なるべく、神父のそばにいてあげて欲しい」

 

「はい・・・・・・」

ジェニーは静かに頷いた。

ドクターは頼むような言い方をした。それは、神父の命が長くはないと言っているのだと、二人とも思った。

ドクターが出て行く。

 

「昨日から、何も食べていないだろう」

ディックは、思い出したように鞄の中から紙袋取り出した。袋の中はサンドイッチと、パック入りのオレンジジュース入っていて、それをジェニーに渡した。

 

「・・・・・・」

ジェニーは、じっと神父の寝顔を見つめていた。そして、

「私・・・・・・神父様にひどいこと言っちゃった・・・・・・だから」

ジェニーは、ディックの顔を見て、ピンと張り詰めたものが切れた感じになった。

 

「ジェニーのせいじゃない。元々、神父には心臓に持病があったんだ」

ディックがしゃがみ込んで、顔を下に向けたジェニーに言う。

「私が・・・・・・」

ジェニーは半泣き状態だった。

「神父様、ごめんなさい!」

ジェニーは大粒の涙が出して、ディックの胸の中に寄りかかり泣き崩れた。

 

「ジェニー、君は悪くないよ」

ディックは、優しく言ってなだめた。

 


「先生」

帰りのホームルームを終えた後、アンジェラが職員室に来た。

 

「ジェニーのことかい? 」

ディックは、アンジェラが近づくなり、聞きたいことがわかっているようだった。

「神父様の容体は? 」

ジェニーは、三日間学校を休んでいる。診療所の病室で、神父のそばに付き添っていることは、アンジェラも知っていた。

「正直なところ・・・・・・あまり良くはない」

ディックは硬い表情をする。

 

「そう・・・・・・私に何か出来ることはありませんか? 」

アンジェラは、何かジェニーに手助けしてあげたい気持ちがあった。

ディックは、しばらく考えて、「授業内容をノートに書いて、それをジェニーに渡してあげたらどうだい? 」

「それはいい考えだわ。試験も近いことだし」

アンジェラも賛同する。

「それじゃ、明日ノートを持ってきます」

「頼むよ」

アンジェラが職員室を出ようとすると、携帯電話が鳴った。

 

「はい・・・・・・」

ディックが、電話に出るなり青ざめた表情に変わった。

「すぐに行きます」

「先生、何かあったんですか? 」

アンジェラも電話の内容が気になった。

「神父の容体が悪いようだ。今から診療所に行ってくる」

「私も行っていいですか? 」

「わかった。一緒に行こう」

二人は、慌ただしく職員室を出た。

 

 

 


ディックとアンジェラが病室に来ると、ジェニーが座って、ベッドに寝ている神父の体を両手でさすっていた。その横でドクターが立っている。

 

急に神父が目を開けた。

「ジェニー、神父が何かを言っているようだ」

ドクターが気付いた。

 

ジェニーは右耳を、神父の口元に近づけた。

神父の口元が動いて、小さくつぶやくように言った。

「レプリカ・・・・・・!? 」

ジェニーが、神父の言ったことを口にした。

再び、神父の口元が動く。ジェニーが神父の口元に近づける。


「十字架・・・・・・十字架が欲しいの? 」

ジェニーは、神父の首元にかけてある十字架を外して、「十字架よ」

ジェニーが、神父の右手に十字架を握りらせる。

神父の口元が動く、ジェニー右耳を近づけた。

「えっ!」

ジェニーが目を丸くして驚いた表情をした。

 

 

神父は目を閉じた。

ドクターが、意識の確認をして、「午後5時22分。ご臨終です」

ドクターが静かに言った。

その瞬間、ジェニーは、神父の寝ているベッドに顔を埋めて泣き崩れた。




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