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   バス停


 この通りに、三メートル離れて、バス停が二つある。

 一つは星鉄のバス停。およそ十分間隔で、駅行きその他のバスが来る。もう一つは虹鉄のバス停。およそ三十分間隔で、市内を一周する循環バスが来る。

 僕がいるのは、虹鉄のバス停。ベンチに座ってハンドクリームを塗っている。

「その手荒れ、痛いでしょう」
「え。はい」

 声の方を向いた。隣にきれいな女の子が座っていて、僕を見ていた。大学生くらい?



「それ、ソフトの方でしょう。ベトベトする感じがいやだから?」
「そうなんです」

 ずっと同じハンドクリームを使っている。○○○ソフトだ。手に塗ったとき、サラサラしているので、ずっとこれだ。ソフトがつかない○○○の方は手に塗ったとき、ベトベト感が気になって無意識で拭いてしまうからだ。

「そこまで酷くなったら、ソフトの方でなくて、○○○の方がいいと思うよ。わたし、今持ってるから、塗ってみなよ」
「え、でも……」

 女の子は鞄から○○○を取り出した。僕は塗ってみる。

 おや? 手の感じが……


「ほらね。こっちの方がいいでしょ」
「そうだね。今度から、ソフトじゃない方にするよ」

 女の子がにこっと笑った。

「どれくらいソフトの方を使ってたの?」
「三年くらいかな」

 今の食品加工工場に勤めて始めてからだ。毎日、手指のアルコール消毒の義務があって、ひと月くらいで指が赤くはれるようになった。

「長い間、サラサラタイプを使っていて、ベトベトタイプを使う準備ができていたのね」
「そういうモノなの?」

 女の子がうん、とうなづいた。


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「お味噌汁は好き?」
「何で?」

 突然、お味噌汁の話になった。

「あのね、荒れた肌の再生のために、お味噌汁がいいんですって」
「そっか。知らなかった。知ってたら、もっと飲んでたのに」

 これからは、意識して飲むようにしなくちゃ。

「ねえ、今から飲みに行こうよ。いいお店があるんだ」
「まるでお酒に誘うみたいだね」

 女の子がちょっとしかめ面になった。言い過ぎたかな?

「お酒じゃないよ。定食屋さんなんだけど、お味噌汁だけも注文できるんだよ。まったく、あなたって……。そうだ、呼び方を決めましょう」
「あ、僕は……」

 女の子の手が僕を止めた。

「あなたは……、のび太くんに似てるから、“のっくん”ね」
「眼鏡もしてないし、小学生でもないけど」

 女の子がパチンと僕の指をはじいた。痛てて……

「いいの。雰囲気だから。わたしの事は、そうね、“お嬢様”と呼んでね」
「はい。“お嬢様”」

 僕は逆らわないことにした。

「バス来たわ」
「そうだね。行こう」


奥付



僕とお嬢様とスキンケア


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著者 : zen-aku
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