閉じる


<<最初から読む

14 / 21ページ

乗り換え駅

「100年後に無くなる国が10こあるんだって」

「先生に聞いたの?」

「動画で観た」

「そうか…。二酸化炭素はどうにかせにゃいかんよな」

「1億年後には地球が無くなるんだって」

「動画で観たの?」

「友達に聞いた」

「太陽に飲み込まれるとか、そんな話?」

「知らね」

 あいつは小さな画面に首を折り、コントローラーを操作する。飽きないね。俺はスマホを取り出した。地球の最期ってもっと先ではなかったかしら。

「100年後なんて関係ねぇと思ってるでしょう?」

 俺はギクリと肩を揺らす。

「そんなことはない」

「1億年後は?」

「関係ないかなぁ」

 列車は減速しはじめた。

「急行に乗り換えだよ」

「いいよ。座って行こう」

 シートに深く座り直すと、あいつは腰を上げる。

「俺、乗り換えるよ」

 いつの間にそんなに大きくなったのか。目を丸くして見上げる。立ち上がるあいつはどこまでも大きく、俺を容易に踏み潰した。


安全神話

 人民をモルモット扱いし続けたこの国に、放射線耐性を持つ俺たちが生まれた。いくら遺伝子が傷ついても修復タンパク質がほぼ完璧に機能する。稀に生じる癌細胞も免疫応答により排除された。

 しかし、マイノリティに温かい国では無い。声を掛けてくるのは貧困を善とする手配師ばかり。俺たちは日雇いの作業員として廃炉に従事させられた。

「安全神話は遂に現実となりました」

 拍手の鳴り止まない議会。繰り返し報道するマスメディア。情報を遮られた俺たちはカメラを付けたヘッドセットから指示を受ける。毎時1000μSvを超える現場で重機を操り、夜は飯場で雑魚寝した。

 ある日、新たな作業員を従えて手配師が現れた。何かいつもと様子が違う。なにより防護服を着ていない。

「お前たち、いつまでこんなことをしているつもりだ?」

 飯場がざわつく。手配師はヘッドセットを装着した。

「俺たちとあいつらのどちらか優れていると思う?」


俄然下山

 はじめから登山など興味なかった。それでも趣味はなんなのか、週末はどうしているのか、いちいち聞いてくる輩がいるじゃない。どうしてこなすべきかと窓の向こうを眺めれば手頃な山。一度くらい登っておいて週末は主に山だと答えようか。

 そして週末、登山口まで列車で出向き、杖をつく老夫婦追いかけながらゆるゆる山頂を目指した。坂道を登り続けるのに何が楽しいのか。山頂からの曇った景色に何を思えばいいのか。はやくも下山を考えた。表参道の一号路を登ってきたから、獣道のような六号路を下ってみようか。右足でガゼンと踏み出せば、左足がゲザンと追い越した。右足がガゼンで左足ゲザンだ。なんだろう。この充足感。

「週末は山に登るとか」

「山は俄然下山だね」

「趣味は登山なんですね」

「いえいえ、私は俄然下山」

 ガゼンゲザンと獣道を踏みしめる。このままどこまでも下り続ければ、もう二度と面倒な輩をこなす必要もなくなる気がしてる。


そんな

 壁から次々と生えてくる。一本や二本ではないのだ。あまりに生えてくるので一本捥いでみる。そして、恐る恐る鼻先へ近づけた。こんなものを欲した覚えはない。どうせ生えるならばと考えて、特に壁から生えて欲しいものはないと思い至る。それでも貧乏生活にはありがたかった。バイトの給料日前、お陰で3日くらいはなんとかしのげた。

 ある日、気まぐれに人差し指で押し込んでみた。すると、次々壁に吸い込まれていくではないか。俺は慌ててその一本を捕まえる。少し力を込めれば難なく抜けた。あとは残らず消えてしまった。

 今頃、お隣さんの壁からこいつらが次々生えているのだろうか。俺は手にした一本を眺める。

「お隣さん?」

 角部屋ではないから両側にお隣さんがいるはずだ。しかし、俺はお隣さんを知らない。こいつを手に訪ねてみようか。

「おまえの仕業かっ」

 なんて怒られてみるのも一興。

「あなたのお陰ね」

 なんてことには、ならないか。


にゃん十億光年の

 群れることはあまり得意ではなかった。まるで孤独を感じない訳ではない。孤独が好きなのかと問われれば嫌いではないが、時にふれあいを求めることもある。それは同じ毛のものであろうとなかろうと。

 いつだったろうか、ぼんやりと光る四つ足の生き物と遭遇した。とても弱い光だったけれど、ちょうど太陽の隠れる時間だったから、俺はなんとかそれを認識することができた。この辺では見かけることのないつるつるの身体でパペポピポと鳴いた。俺はニャアと鳴いた。続いて、ピポピポパと鳴くものだから、俺はゴロゴロと喉を鳴らした。すると、あいつは光を増した。僅かな変化だったけれど、思わず目を閉じた。次の瞬間には残光があるのみ。

 あれから空を見上げることが多くなった。光を放つものと言えば夜空に浮かぶものと考えたから。まばゆい星々の隙間に僅かな光を放つあいつが隠れているようで。何十億光年の彼方まで届くように俺はニャンと鳴いた。

 

 課題「猫SS」



読者登録

puzzzleさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について