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予告

 殺人予告が届いた。具体的な時間と場所が記されていたが、そんな場所に縁は無い。電車を二本乗り継げば辿り着く距離だけれど、平日の昼間は仕事だからちょっと。

 ついに俺にもこんなモンが届くようになったと足立に自慢してやろうと思ったが、なにかの間違いだろう。

それでも僅かな可能性を信じて、乗り換え案内で会社からの経路を検索してみる。昼休みに出発すれば会議を一つブッチするくらいで帰ってこられるか。いや、待てよ。帰ってくる時間の心配はいらないか。

 予告犯が現れなかったら。そんな心配もあったが、俺は昼休みにオフィスを後にした。電車を乗り継いで目的地に到着すれば、殺風景な通りの割には妙に人が多い。ポケモンでもいるのか?そして、視線を感じて目を向ければ、口元を強張らせた足立の姿。俺は顔面を紅潮させた。自分だけの予告であれと願ったのは俺だけではないだろう。この際、絨毯爆撃で一掃されても構わない。俺は天を仰いだ。


案の定、幽霊

 結婚記念日に死んだ女房が翌日に帰ってきた。私は涙を流しながら抱きつこうとしたが、案の定、幽霊だった。
 飯は食わない。家事もしない。それでも、いてくれるだけでいい。本当か?
 目覚ましをひっぱたいて、眠い目をこする。女房はまだ敷き布団の上に横たわっている。死んでしまったのかと思って肩を揺すろうとするが、俺の手はすり抜けて枕を掴む。
「起きろぉっ」
 声を上げてしまうことも増えた。女房は驚いて目を開く。
 触りたいのだ。おはようと髪をぐちゃぐちゃにしたい。私の湯呑みを割って舌を出す彼女の頭を小突きたい。時には腕を回したい。
 そして、私たちの特訓がはじまった。私が頭を撫でたら髪を乱すこと。私が頭を小突いたら舌を出すこと。抱き枕などというものをはじめて購入した。こいつに抱きついたらプロジェクションマッピングさながら映り込むこと。
「成仏できないじゃない」
 女房は笑み、私は必死に抱き枕を捕まえた。


心を入れ替える

「今度こそ心を入れ替えて卒業するよ」
「あんたの心って、プリンターのカートリッジみたいね」
 去年はSIMカードだった。一昨年は畳だったか。
「今度は違う」
「何が?」
「切迫感」
 姉貴は笑いながら、ちゃぶ台を打って立ち上がる。そして、冷蔵庫に手を伸ばした。
「もう一缶もらうよ」
「自分で買ってきたんだろ」
「一応、あんたにあげたもんだからさ」
 姉貴は再びあぐらをかいた。
「去年、SIMカードって言ったじゃない」
 覚えてんのかよ。毎年仕込んでんだろ。
「なんか違うよね。主体がSIMなんだから。でも、そうなるとあんたの心ってなんなわけ?」
 あれ、本気説教モード?泣きそうな笑顔が胸を打つ。
 4月で大学8年生。どうにか単位をかき集めないと退学だ。もう酒を抱えた姉貴が訪ねて来ることもないだろう。
 毎年この時期を密かな楽しみにしていた。悲しみの涙で濡らすわけにはいかない。俺は最後の心に入れ替えた。


生活保護と働けるヒト

 まだ若い俺がリストラの対象になるとは思わなかった。収入の断たれた俺はアパートの賃貸を払い続けるより一度実家へ帰るべきだろうと考えた。

「駄目だ」

 電話で親父は即答した。五年前、親父は店を営んでいる最中に突然倒れた。懸命のリハビリでなんとかお袋の手を借りながら暮らしているが、とても仕事を続けていられなくなった。

「おまえは働けるヒトだろ」

「何か問題があるのか?」

「万が一、おまえが帰ってきたら生活保護が打ち切られるんだ」

 その現実を知り唖然とする。続いて、電話を替わったお袋が情け容赦ない声を響かせた。

「ま、帰られたらの話だけど。二度と帰ろうなんて思わないで頂戴」

 たまには帰ってこいと何度も言っていた両親が、こんなことがあるものか。俺は信じられず故郷への切符を手に列車に乗り込んだ。しかし、生活保護は鉄壁だった。駅を下りれば巨大な城壁が、そして、無数の騎馬隊、鉄砲隊が声を上げて攻めてきた。


れいぞうこ

 吸引力の変わらない、ただひとつの冷蔵庫と聞かされていた。

「最期にもう一度言うぞ。決して開けてはいけない」

 父は母を追うようにして死んだ。俺一人で、どうすりゃいいんだよ。

「開けた過ぎるだろ」

 父が命を引き取った三分後にはその両開きのドアに手をかけていた。世界の吸引がはじまった。死んだ父と俺なんてあっという間。家財道具が次々飲まれ、ガラス窓が瞬時に砕けた。アパートは冷蔵庫を中心に圧縮をはじめたかと思えばすぐ消えた。冷蔵庫が街に飛び出した。人々は逃げ惑うが駄目。車は暴走するが無駄。地面ごとズルズル吸い続けるうち自分の吸引力で倒れる。冷蔵庫は地中に引きずられ、地球は括れる。地球の裏側で異変に気づいた人々も次の瞬間に吸われていた。月もチュッと。膨張しているとされていた宇宙の収縮がはじまった。何も無い部屋とは、部屋中のものを取り除き、時間も空間もなくなった様子のこと。冷蔵庫はバタンと閉まる。



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