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七.運命共同体

 気がついたら、あっしは一人で森の中にいたっす。

 さっきまであにさんと二人、村で子供を探していたはずなのに、おかしいっすね……

 仕方なく周りを散策していると、大きな泉があって、キレイな女の人が立っていたっす。見たこともない髪の色、見たこともない目の色をした、色っぺえおねえさんはこう言ったっす。





「異世界からの来訪者よ……
 今この世界は魔王によって滅ぼされつつあります。しかし、この世界の人々はそれぞれの利権を争うばかりで、一つとなって魔王と戦う道を示すことが出来ていません。今こそ異世界からやってきた貴方の力が必要なのです」

 後から知った話なんすけど、あっしはこの女神様の力でこの世界に呼び寄せられたらしいっす。あにさんのことは心配でしたけど、こっちの世界はもっと大変みたいだったんで、こっちで魔王を倒す戦いをすることにしたっす!

 ◇

 どうやら異世界からやってきたあっしには無条件で強力な“魔法”が使えるらしく、魔王軍相手にも連戦連勝だったっす。
 そうやって勝ち続けるとどんどん仲間が出来て、一国のお姫様とか、その側近のめえどさんとか、女騎士さんとか、えるふの娘さんとか、魔女っことか、とにかくたくさんの人が力をかしてくれたっす。しかも、どうやらみんなあっしのことを好いてくれているみたいで、ムッフッフっすね! でも、そういうのは全部魔王を倒した後にとっておくっす!





 その過程は正直どーでもいいので結果だけ書くっすけど、激闘の末に魔王を倒したっす!

 お姫様は世界を救った功績として、あっしに大きなお屋敷をくれやした。世界中から称賛された勇者となったあっしは“もてもて”で、一緒に戦った仲間達だけでなく、世界中からおなごが押し寄せてくるほどでやした!

 いやー、もてる男は大変っすね!! 体がもたないっす!

 ◇

 たのしい時間はあっという間に過ぎるっす!
 あっしはこっちの世界で35人のお嫁さんと、40人の子供に恵まれたっす。それでいて魔王を倒した報酬と、魔王から奪った財宝の一部だけで一生遊んで暮らせるだけの蓄えができやした。幸せの極みっすね!

 ただ、時々ふと思い出すんすよね。

 あにさんは今、どうしているのか……
 浦島さんを殺した犯人は誰だったのか……


 ある日、あっしはまた一人、あの森に戻ってきたっす。
 今度は自分の意志で。

「女神様、お願いしやす。元の世界に帰してほしいっす。あにさんのところに戻りたいっす。あっしがいなくても大丈夫か、心配なんす」
「異世界からやってきた勇者よ……元の世界に帰れば、二度とこちらの世界には戻って来られぬぞ。それでもよいのか」
「いいっす。もうこの世界でやることは全部やったっす!」

 力を失っても……
 勇者ではなくなっても……

 やっぱりあっしは元の世界に帰りたいっす。
 あにさんと二人で旅を続けたいっす。

「そうですか、分かりました……では、この箱を貴方に授けましょう」
「なんすか、この箱は?」
「何でもありません。この箱は決して開けてはなりません」
「??? なんでそんなもん渡すっすかね」

 まぁ、もらえるもんは全部もらっておくっす。
 そうして、あっしは元の世界に帰してもらったっす。

 ◇

 あっしは「あにさんのところ」に帰してもらう約束をしたはずなのに、そこは人が一人もいない、ただの荒れ果てた場所だったっす。
 いや……この砂浜と、その向こうの岩場は見たことがあるっす! あにさんが釣りをしていた場所じゃないっすか。あっしはちゃんと元の世界に帰ってきたってことっすね!! 

 でも、周りを見渡してもあにさんはいやせんでした。
 というか、村人も一人もいないし、家も全部なくなってるっす。あっしはそこら中を探して走り回ったっす。

「どうして……あにさんは、どこに……」

 女神様はあにさんの居場所を間違えたんすかね。

「いや、間違ってはいないぞ」

 見上げるとヨボヨボで白い髭を伸ばしたおじいさんがこっちを見ていたっす。村人っすかね! でも、聞き込みをした時にはこんな人は見かけなかった気がするんすけど。

「その男は確かにここにいる。他のどこにもいない」

 おじいさんがそう言うので、あっしは周りを見回しやした。
 でも、ここにはあっしとおじいさんの二人しかいねえっすよ?


「おまえがここを去ったことで、おまえが『あにさん』と慕っていた男はおまえが村人に殺されたと思ったのだ。浦島太郎と同様に」

 そんな! あっしはただ異世界に飛ばされていただけなのに、そんな勘違いをしてしまうだなんて……

「浦島の母親とその男は、必死に犯人を探した。いもしない犯人を。
 だが、村の人々からしてみれば、実際に人が二人もいなくなって、その犯人を探されている。それは気分のイイものではなかった」

 それが助け合う村という共同体。
 村の誰かが犯人扱いされるなら、それをかばう。

 本当は犯人なんていなかったとしても――――

「夜、本来なら村中が寝静まるようなころ、浦島の家は村人たちからの襲撃を受ける。浦島の父は殺されてしまうが、母と男はなんとか逃げ出した。母は息子と夫を殺された恨みを、男は相棒を殺された復讐心を捨てられなかった」

 それが 本当は 誤解だったとしても――――

「母と男は村に火が放ち、村人を一人また一人と殺していった」

 何故……

「家も燃え、畑も燃え、村人は皆殺しとなった」

 何故……

「だが、復讐を遂げた側の母と男も満身創痍で、炎の中から抜け出す力はもはや残っていなかった」

 何故……

「おまえが今立っている場所が、男が絶命した場所だ」

 何故そんなことになっちゃったんすか!!!!!

 誰も、本当は人を殺したりなんかしていなかったのに。
 どうして誤解でそんなことになっちゃったんすか。

「おまえは分かっているはずだ」

 悪いのは“村のため”に浦島さんちを切り捨てようとした村人たちっす。

「おまえは分かっているはずだ」

 悪いのは、殺人事件だと決めつけて村人を疑ったあにさんたちっす。

「おまえは分かっているはずだ」

 悪いのは、あっしを勝手に異世界へと呼び寄せた女神様っす。

「おまえは分かっているはずだ」

 悪いのは、

 悪いのは、
 悪いのは、
 悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、悪いのは、あにさんが待っていることを忘れて、異世界で楽しくやっていたあっしだと言うんすか。


「うわああああああああああああああああああああ!!

 これが罪なんすか。

 待ち人を待たせた罪。

 あっしのせいで、あにさんが死に、浦島さんの両親が死に、村のみんなが死んだっす。小さな子供も、子供をお腹に抱えた妊婦さんもいたのに、みんな! みんな死んじまったっす! あっしのせいで!! あっしのせいで!!


 気が狂いそうっす。

 もう、狂っているのかも知れないっす。

 後悔と罪の意識を抱えて、

 そのすべてを捨てて、あっしは こ ん な こ と を 思ってしまった

「異世界に戻りたい………」

 もう戻ることはできないと女神様には言われやしたけど、勇者として“ちやほや”されて、たくさんの嫁さんと、かわいい子供たちに囲われた、幸せしかない場所――――そこに、戻りたい。



 それ こそ が
 あっしの 最大の 罪


「ならば、その箱を開けるがよい」

 おじいさんはそう言い、立ち去っていったっす。
 箱――――!

 そうっす! 女神様から授かった箱があったっす。
 決して開けてはいけないと言われたっすけど、それは「元の世界に帰りたい」場合の話であって、「異世界に戻りたい」今ならこれを開けるべきかもっす。


 急いで紐を解いて、箱のふたを開けたあっしが見たのは一面の煙だったっす。モクモクモクモクモク、この煙の向こうに異世界があるんすかね。

 そう思っていたら、煙の中にあにさんが現れました。

「あにさん! あにさん!」

 しかし、あっしの声はあにさんには届きやせん。
 あにさんはいなくなったあっしを必死に探し、夜に村人の襲撃を受けて、命からがら逃げて、村に火を放ち――――――


 これは、あっしがいなくなったあの日から今日までにこの村に起こった出来事っす。この箱は“自分が待たせてきた人達がどうなったのか”を見せる箱だったんす!




 そうして、煙の中で村が滅び、あにさんが死ぬ姿を見せつけられ、煙が晴れた先で待っていたのは……華やかな異世界ではなくて、やはり荒れ果てた場所でやした。かつて村があった場所、かつてあっしとあにさんが立ち寄った場所。

 いや、ちょっとちがうっす……箱を開ける前と比べて、ちょっと目がかすれてよく見えねっす。煙が目に染みたんすかね。と思ったんすけど、体の様子もおかしいっす。ひざが痛くて、腰も痛くて、立っているのがキツイっす。

 とにかくノドが渇いた……っす。
 よろよろと歩いて、川までたどりついたあっしは驚きやした。
 水面に映っていたのはヨボヨボで白い髭を伸ばしたおじいさんだったっす。さっきのおじいさんと同じように。





 これが“報い”なんすか……
 あっしが犯した“罪”の……


 そう言えば、さっきのおじいさん……
 まるで見てきたかのようにこの村のことを知っていたし、箱のことも知っていやした。いったい、あの人は何者だったんすかね……

 THE END.


 ◇


 読み終えた私は、ふーーっと息を吐き、スマホをカバンにしまった。
 なるほど、こういう締めくくりか。確かに『浦島太郎』の結末では村がなくなっていたはずなので、そこに理由付けをしたのは面白い。「竜宮城に行っていた」という浦島の物語を、今流行りの異世界ものに絡めて終わるのも斬新と言えるだろう。

 どうなることかと思ったこの作品も、決着してしまえば悪くなかったんじゃないかと思える。

 だが……


「センパーイ!! 見ましたか、あの終わり方」

 頭から湯気が出ていそうなほど興奮している上野がやってきた。今日の昼食はラーメンか。これはまた汁が大変なことになりそうだな。

「納得いかないっす! なんすか、アレ! 異世界に行ったり、帰ってきたり、突然おじいさんになったり、脈略のない展開の連続は!!  女神様はなんであんなイミフメイな箱を渡したんすか!?

 それ、きっと日本中の子供達が『浦島太郎』を読んだときに通過した道だから。

「そして、何より! 結局、浦島さんを殺したのは誰だったんすか !?

 そうだ。結局「浦島太郎が何をしていたのか」はこの作品の中では説明されなかったのだ。そこはもう「本編を読んでください」としか言いようがないのだが……


 “浦 島 太 郎 は 誰 に 殺 さ れ の か?”か……

「浦島を殺したのは、多分、人を待たせた時間の重み……かな」

 人を待たせるということは、その人の“時間”を奪うということ。
 玉手箱の“報い”が「老人になる」というのは、その“時間”を自分も同様に奪われるとも言える。若者でいられる貴重な時間を奪われる“報い”。私達が生きるリアルでは「TAKE2」からやり直すことはできないのだから。

「は? 何すか、それ。人を待たせるのなんて、そんなに気にすることっすか?」
「待ってるこっちの身にもなってくれ」


この本の内容は以上です。


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