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Scene.01 ぼくはねこ

 僕は猫。

 僕だって生きているんだ。

 だから、殺さないで……

 だから、苛めないで……

 

 ある日、僕は生まれた。

 いつ生まれたのか。

 そんな昔のことはわからない。

 気がついたら生まれたのだ。

 

 生まれたのだから仕方がない。

 

 僕は、じっと空を見ながらママが帰ってくるのを待っていた。

 

 でも、帰ってこない。

 でも、お腹は空きました。

 

 僕は、ゆっくりと箱のなかから飛び出ると外の世界を見てみた。

 そこには、見たことのない世界が広がっていた。

 

 初めて見る広い世界。

 そこには、僕を見つめる存在がいた。

 

 ヒトだ。

 ヒトの子だ。

 

 ママに教えてもらった。

 ヒトは甘えて声で鳴くとご飯をくれる。

 

 だから、僕はヒトに甘える声で鳴いてみた。

 

 するとヒトは僕の尻尾を掴みそのまま僕を誘拐した。

 

 僕の必死の抗議も聞いてもらえない。

 なぜなら、彼らには僕の言葉を理解する知能がないから……

 

 誘拐犯は、大きな家の前に立つと大人のヒトに何かを話している。

 

「飼ってもいいでしょ?」

 

「だって、かわいそうだもん……」 

 

「さあ、ママも一緒に捨ててあげるから……」 

 

 僕は、ヒトの言葉を理解できない。

 なぜなら僕は子どもだから……

 大人のヒトは、僕を箱のなかに入れた。

 

 明かるかった世界が暗くなる。

 そして、そのあと大きな地震が来たあと箱の底から不味い水が溢れてくる。

 僕、どうなるの?

 

 苦しい。

 僕が、ゆっくりと目を開けるとそこには僕がいた。

 水の底……うずくまっている僕……

 

 でも、それは僕ではないのかもしれない。

 だって僕はここにいるのだから……

 

 僕は、はじめて体験する水の中で必死であがいた。

 だけど、水の底に近づくばかり。

 

 だから僕は、降参した。

 

 苦しい……けどつらい。

 

 先ほどうずくまっていた僕のように僕は死ぬのだろうか?

 

 僕は覚悟を決めてじっとした。

 すると僕の体は水の底からだんだんと離れていく。

 

 静かに……ゆっくりと……

 

 僕はそのまま我慢して空気のある場所に浮かぶことが出来た。

 空気が美味しい。 

 僕は、初めてそれを実感した。 

 

 息を吸えた事に安心した僕に、安息は訪れなかった。 

 最初は、気のせいかと思った。 

 だけど、それは現実だった石が降ってきたのだ。 

 

 飛んでくる石の数が、2つ、3つと数が増えるたびに僕はこれが気のせいでないことに気づいた。

 石が僕に当たると、喜ぶヒトの声が聞こえた。

 

 僕はヤメロって抗議した。

 だけどヒトは僕の言葉を理解できない。

 

 僕は耐えるしかなかった。

 ずっとずっとずっと……

 

 痛いよ。

 痛い。

 痛いよ……

 

 僕はただうずくまることしか出来ない。

 ただ、耐えることしか出来なかった。

 

 暫くするとヒトの子は、石を投げるのを辞めた。

 飽きたのだろう。

 僕は、痛みに耐えながらお寺の下に隠れ傷を舐める。

 

 舐める度に激痛が走る。 

 目の前を、優雅そうな猫が横切った。 

 猫は僕を横目にこう言った。 

 

「ダッサーイ」 

 

 猫は首輪をつけていた。 

 飼い猫だ。 

 その首輪を見たら無性にママに会いたくなった。

 だけど僕はノラねこ。

 ネコの子だけど僕はノラだ。

 

 あ、そっか。

 僕はノラ、つまり捨てられたんだ。

 

 僕は、涙をこらえて傷をなめた。

 泣いたって何も変わらないのだから……

 だから、僕は鳴く。

 泣けないのなら僕は鳴く。

 ただ、ただ、ただ、ひたすらに……

 

 すると野良イヌが僕の前に現れる。

 そして、僕を咥えた。

 

「おいボウズ。

 俺がこのまま力を加えるとどうなると思う?」

 

 僕は、何も答えない。

 僕は死ぬのだろう。

 このままこの犬に殺され食べられるのだろう。

 

「じゃぁな!」

 

 犬は、そう言ってアゴに力を入れた。

 ガリっと大きな音が鳴った。

 でも、犬は何かに驚いて吠えながらどっかへ走っていった。

 僕は下を見る。

 するとそこには、犬の牙が転がっていた。

 

 そっか。

 僕の首輪の金具にあの犬の牙がひっかかったのか。

 

 

 僕は生きている。

 犬に噛まれたところは痛いけれど……

 今は、生きている。

 首を噛まれたので舐めることは出来ない。

 

 僕はゆっくりと目を閉じた。

 だけど眠ることなんて許されなかった。

 ヒトが来た。

 ヒトは、また僕をプラスチックの冷たい箱のなかに入れた。

 僕は、もう死ぬのかもしれない。

 


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