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明晰な、儚すぎるその…

 

 

 

 

 

 

 

 

Quartet

 

 

明晰な、儚すぎるその…

 

 

Sleepless

 

 

 

 

 

 

 

 

日差しに目を背ける。熱帯の日差し。ベトナム、ホーチミン市。旧名サイゴン、サイゴン陥落。日に色あせた、砂埃りにまみれたけだるい都市。

 

水が、

撥ねた。

ハンという名の女が、(…少女、が?)背後で光、わたしの熱帯の、首筋の光。匂いを…充溢する。嗅ぐ。それは、鼻で、空間に、かすかな、うがつ。媚びるような…穿つ。笑い声。

光は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すこし、むこう。

少しだけ向うで。いま、

きざむ。…笑う。汗ばんだ…刻む。匂いを光は。彼女は…ひかり、嗅ぐに違いなく、その自分のみずからの匂いに存在を。麻痺した鼻は、常に、決してすでに、それをもう…、捉えはしない。

 

小さな、

音さえ

たてずに、

あと2ヶ月?…サイゴン。もう一年も、この廃墟が群がったような、でたらめな都市にいた。9月。一年近くにわたった、取るに足りないベトナム出張。

…撥ねる。

雨期の雨が叩き付けるように降る。そして聞いた。

…どこに?

脆弱なわたしは、都市機能はいつも破綻する。降りしきる水はけしない雨のその雨水の轟音、膨大なその流れが響き、主幹道路をさえを音そのもので水浸しにし、破壊しつくして大量のバイクが、すべてを、トラックが、すべては、それらを…怯えた。撒き散らして都市はわたしは泥にすべてが染まる。破壊されて仕舞う雨水に、予感に匂いが繊細なあることに、一筋の、いつも膨大な気付く。無際限なまでの水が雨の醗酵したような群れの匂い。暴力に最初、すべてがそれは破壊されて自分のすべては濡れたもはや髪の毛の匂いだとなすすべもなく想った。

 

九嶋圭輔が好きだった

わたしの涙ぼくろを

そうではなかった。もはや、それは、ただ、純粋に、轟音の中に。空にふれてたたきつけ、穢された雨のあふれかえって、匂いだ。…そんな事は耳を聾する、知っている。日本で、雨期の、まだ十歳のとき、家出の挙句に台風の雨に濡れたときに、轟音の中で。雨に臭気があることなど知っていた。

 

かつて誰もが

いまだかつて

ハンがわたしの体を求めていることは知っている。…なぜ、体、ではない。体を得ることによって、君は、いつも彼女が得ることができる、ある、所有権のようなもの。

指先でふれて

僕は悲しい振りをした

…愛された実感、欲しがるの?というべきもの。

 

誰れもがかつて

光の中に

18歳の少女。18歳になると、愛されることを。わたしたちは結婚できます、と言った。…わたしに。タンがわたしの耳元で、声を立てて笑った。その、彼女の言葉をわたしに通訳して見せたときに。秘密めかせて。

圭輔を失った、あの

雨の七月の朝に

わたしの白い耳元に、褐色の肌をわたしの寄せ、白い唇が耳元にあやうく褐色のふれそうになる肌を距離感の中に、寄せ、ささやきながら。

 

いまだかつて

ほんの数時間だけ降って

あの日の雨はやんだ

雨。轟音、…もはや暴力でしかない

雨上がりの空に羽撃く

鳩を見た。いつものように

 

かつて誰もが

少なくとも、一人は。

雨期の雨が降る。その日、熱帯に。雨期の雨が視界のうちを窓の外をたたきつけるので、満たした。朝の7時、その雨のわたしはまだホテルの部屋の中に轟音が。いる。

橋の向うに

雨上がりの空を

いつの間にか住み込んでしまったハンは、守衛に毎日細かな金銭を渡す。

 

かつて、いまだ

目覚めさえせず

この国では、未婚の状態で、外国人の男が、本国人を部屋に連れ込むことなど、法律違反だったから。

悲しいくらい、俺、…と言いかけて

言葉に詰まった圭輔を

すくなくとも、タンに聞いた。公式には。まともにあるいは、日本語が話せないわたしのしていることは通訳のタンに。犯罪だと言っていい。すくなくともこの国においては。

なにが?振り返ったわたしが、

わざと何も聞こえなかった振りをしたのを

そしてハンはいつも、充足した顔つきを曝す。守衛に。金をてずから渡すときに。…しかたないわ。微笑んで、わたしは彼の、なにかを女だから。諦めたように。

「すき?」

かつて誰もが

いまだかつて

「なにを?」

18歳になったら結婚できるということは、…すき?彼女は何歳なのだろう?俺のこと、お前、現状で17歳なのだろうか?なんで、お前、…18歳を過ぎているのだろうか?まだ、すきなの?17歳にさえ圭輔の声。遠く及ばないのだろうか?

「なにを?」

目覚めさえせずに

かつても

「見て、…ね」

すぐに、なんども耳元になのか。やがては、ささやかれた、なのか。いつかは、その音声。なのか。結婚できる日までの時間的な距離は?

「あれ、見て…ね、」

いまも?

いまだ

「風船が上がってく、…」

わたしはどれくらいの犯罪者で、人間のくずで、恥ずべき人間なのだろう?

いまなお

誰もがかつて

「…空に。」言った僕を、圭輔は

振り向きて笑いかける

意味無く笑ったわたしを咎めるように、後からしがみついたハンが何か言っている。何? Sao… ? …ねぇ、Anh à, …どうしたの? Sao vy ? やだ? Nói gì vy ?  秘密?

雨上がりのくすんだ

 Anh à… 秘密なんか Anh à… しないで…何を言っているのかなどわからない。ハンはベトナム語以外に英語さえ話せない。わたしはベトナム語など話せない。

空に。

…この。

 

聞きなさい

「どうしたの?」言ったわたしに、圭輔は咎めるような眼差しをくれた。

心臓の音

わたしは19歳だった。圭輔は、まだ21歳になったばかりだったに違いない。

まだ、止まらない

 

…え?

圭輔のホモの唇が、ホストの

「お前、」圭輔の

裏切り者にすぎない

かすかにふたえのゆがんで、まぶたに

僕たちは

「…お前、」ぼくは聞いてなかったの?「違うって…」

裏切った

何が?嫉妬した。圭輔。憧れた。美しい男。愛した。

女たちをも

「見惚れてたの。」

男たちをも

見惚れてたんだよ、僕は、…圭輔に。ただ、

家で少年の成れの果て

歌舞伎町のホスト

馬鹿。圭輔を。…言って、ホモの圭輔はホストの笑った。僕は。…女たちに、「見惚れてただけ…」抱かれてやりながら。

僕はそして、圭輔に抱かれた

女たちを帰した後に

壊れる

その

「マジだよ。…これ、…」…ねぇ、

かならずしも嘘ではなかった。

差し込む窓越しの午後の陽光の

温度の中で

壊れた

話しが下手な圭輔の、つまらない話を聞いているくらいなら、…きれい、すっごく…その顔に、お前の、見惚れているほうが涙ぼくろ。マシだったから。

時に嫉妬する、圭輔の

美しさに

その

長く伸ばされた髪の毛をいま、無造作にひっ詰めた首筋に、お前ってさ、かすかな後れ毛がなんで、いっつも発生する。その、窓越しの笑うとき、陽光の逆光に、かすかに照り、なんで、鼻掻くの?翳になる、それ。

わたしは

ひとりで、嫉妬した

肉体。…そのうごきに連動して、信じられないのは、息遣われるたびに、他人じゃないんだ。それはかたちを崩す。

ときに

おれ自身だから。崩れ、むしろ、崩され、俺、崩して、

すでに

俺が、崩れ去る。信じられないんだから。色彩。…だから、肌の。口籠る圭輔を褐色の。

いつも

 

 

 

 

 

 

 

 

 


明晰な、儚すぎるその…

 

 

 

 

見詰めた。日焼けしたそれ。わたしは、父親はフィリピン人だと言った。

与えられなかったもの

わたしに

荒廃。ただ、すこしだけ、わたしは、肌に荒廃した息遣いが見詰めた。ある。頬をよせれば、ざらついた。…お前、

与えられなかったものに

圭輔に

ふれた

…壊して

誰?と、いつでも不意にそう言ったような眼差しをする。犬のように、知っていた。わたしはすでに。圭輔の匂いを嗅ぐ。

むしろ

すべて、ときに、話しつくされていた。息をひそめて。はじめてふれあった圭輔も、あの日から。ときに、はじめてあるは、愛したときに、その日から、その匂いの存在にもう、気付いたときに、すでにわたしたちは確認しあうのだった。言葉は尽きていた。お互いの匂い。

壊れる

ふれた

ここに、なにも、まだ存在していることの証明。話されないうちに、

 

撥ねる

音が

「…あ、」すでに。

わたしがつぶやく。

「…さわって」

撥ねる

「…いい?」

雨が?…ふれて。

「…ん。」

水とともに

「いい?」

もうすうぐ、雨が?

「ん?」

撥ねた

「…感じた?」

わたしは空を見上げる。感じて。

「…ん。」

水は

…あげる。

「どうしたの?」僕を。…桜。光を、並木に、そして代わり映えのしない桜が咲き乱れ、知って。目黒川だから。僕が君を愛しているというどうしようもなく確定的な事実そのものを。当たり前の風景に過ぎない。それは、と、…え?

君にすべてを

圭輔が言った。「…え?」なぜ、いま

どうすれば、ささげられるの?

なに…「どうしたの?」まばたいたの?ほほに、まぶしそうに、不意に、光など水滴が当たってさえふれた気がした。

君に、

…いないのに。確認した指先は濡れていた。まったく、

…すべてを。

確実に、…なにも。水滴は落ちたのだった。

雨。…と、喉の奥で、独りだけ独り語散、それは、圭輔に作った秘密ではなかった。「…なに?」

雨は降り注ぐ。

散る、

圭輔、ひそかに非難する、彼の眼差しを見詰め、口籠り、何も言えなくなったのはなぜだろう?

あの、散る

花々にさえ、その

秘密にされたものなどなにもなく、秘密にされるべきものなどどこにもなかったのに。

雨は不意に降り注いだ

5月の

わたしは、傷ついた想った、圭輔は、傷つけたと、一瞬だけ圭輔を、なじるようなそして、その表情を曝し、僕は気付く。なすすべもなく圭輔が、傷付く。圭輔を傷ついていることに、傷つけたその時、僕のそして。ある、決定的な無力さに。桜が舞う。

はかなさを見事に装った、数百年の時間の、図太く強靭な生命体。…樹木。

僕は、傷

匂う。

傷そのものだった

花々。そして樹液。土の匂い。

圭輔の眼差しの前で

アスファルト。

その背後でさえも

鉄。

つねに

髪の毛の。

僕は

空気、穢れた?

まだ冷たい、醒めた空気。

痛みそのもの

匂い。

きみを傷つけるとき

肌。すれ違った女の。

きみを微笑ませるとき

皮のコートの。

君の唇

混濁、

君の声

匂う。

君の存在

…しきらない、混濁した、匂い。

君のすべて

匂った。

僕は傷

言葉など必要ない。ハンが想うことが、無防備な直接性で、わたしを攻め立てる。

いつも

もはや、強姦するかのように。

いつでも

手篭めにされ、後でに括られ、全裸で、守るべきすべもなく、守られるべき可能性も、一瞬の猶予さえなく。

僕は

轟音と共に。降りしきる雨の中で。…愛してる。

…と、Anh à… 彼女が em yêu 言う。Anh.

 

無言のうちに、「永遠に、」そう、anh à… 彼女は…あなただけを。言う。Anh à… 少なくともいまは。あなー…

言葉?

聞いた

むしろ、言葉を回避するために駆使されるもの。…言葉。

耳を塞ぎながら

自らによって、もっと悲惨な裏切りかたをされた、永遠に救われないもの。

君の言葉を

 

愛してる。とハンは言った。

雨の中で

圭輔

唇は、わたしの唇を塞いでいた。

その

諦めたように彼は

まどごしの陽光が、まぶたの上部にふれた。

色彩

ときに、僕の頬を

からだに、ハンの体の体温があった。

冴えた

左手で撫ぜてくれながら

髪の毛の匂い。

白い

言う、…なんで

嗅ぐ。

匂う

お前じゃないと駄目なのなって

ハン。

匂い

それって、すっごく

匂う。

水滴の

難解な問題

15歳程度にしか見えない。彼女は、いま、彼女の生涯の男を抱く。

無数の

…って、想わない?

休日。午後。サイゴン。ホテルの中。汗。

匂う

なんで、誰か、すきななるって

 

熱帯の、大気の温度。天井で白い旋風機が回っているのを、薄めに見る。

こんなに、なんか

 

目を開け切ることはできない。

…難解

 

斜めにさす陽光。

まばたく

よくわからない

 

温度。…汗ばむ。体温。濡れたからだ。湿った、…汗で濡れたからだ。

どうすればいい?

嗅ぐ。

 

音を聞く、窓の外の。バイク。話し声。時に。騒音。響き。騒音、以前的な、何か。…音響。

 

 

 

 

 

 

 

 


明晰な、儚すぎるその…

 

 

 

 

…教えて

群れて、固まらずに、崩壊することさえなく、消え去っていた。

それらは、聞き取られたときには、すでに。

…ね

 

震えた空気の、たどりついた静止。

そう言ってわたしを見ていた圭輔の

あの日、ホテルのドアが勝手に開いた。鍵をかけていなかった、自分のせいでもあった。

その背後に降っていた雨が

ハンがそこに居て、はにかむように笑った。一瞬だけ。目を伏せる。恥じらいを、押し隠すように、そして戸惑い、何かが葛藤しあい、やがて暴力的に、無根拠な諦めが、すべてを破綻させた。

いま、眼の前の雨と

彼女はうつむき、世界中の苦悩のすべてを背負ったような表情を曝し、部屋の中に入り、ソファーに座り込み。

同じ雨である必然性など

ややあって、わたしを見上げたハンの眼差しには、泣いてもないのに、何だが零れ落ちそうな潤いにむせ返る。

どこにもなかった

わたしも愛しています。

… Em cũng yêu anh

彼女は言っている。

… Em cũng vy

あなたと同じように。

 

見覚えのない女…少女だった。まったく見覚えのない、すべてが虚弱で、すべてがやつれた女。…あるいは少女。

すきだよ

褐色の肌に、かすかな荒れがある。肌の荒廃。

僕は言った。圭輔に

「お前の、…肌の感じ」

「ばか…」

 

…圭輔が?

…貧弱な、褐色のハン

「若干、穢くない?…おれの」

「そんなこと、」

と想った。覚醒剤で、頭の中を飛ばしているときに、彼は独りでラブホテルの部屋を出て行く。

わたし以外には、誰も知らないままに終わるハン

…ないって

「すきだよ」

圭輔を、その日《買った》女、日向愛花という源氏名の女が、裸のままで、裸のまま出て行く圭輔を眼で追う。

疾走するバイクごと血に塗れたハン

圭輔の、ざらついた

荒れた肌

体中を、クスリが駈けずりまわり、心臓に、手触りもないままに巣食う。女はただ、眼で追う。

わたしを愛していた

「おれは、すきだよ」

「…ばか」

言葉などかけない。なにもかも、わかっている気がする。

なにもかも、すでに、知っていた気がする。

ハンの体中が、そして

…ばか

…圭輔が?と、

わたしは知っている

圭輔は死ぬ。ラブホテルを出たその足で、ライオンズマンションの、わたしが借りていた部屋に行く。

愛していた

口付ける

微笑む。

ハンを

そっと

全裸になって、飛ぶ。

わたしは

息遣う

あさの9時。わたしは寝付いたばかりだった。

少なくともいまは

生きている

圭輔が帰ってきたことにさえ、気付かなかった。

すべてを悔いる

愛している

何を見た?

君は。最後の風景は?

君を愛しているいま、

 

ハンの体の匂いを嗅いだ。見て。あの、ほら、雨の日に。

わたしはすべてを悔いるのだった

ハンが指が、わたしを震えてる。裸にする。

なすすべもなく

わたしは見て。無抵抗に、ほら、彼女の思わず、言いなりにまかす。

わたしが犯したすべての破壊行為

誰?

愛するということ

君は誰?…笑っちゃう。…ハン?

わたしが愛したのは

初めて思わず、…部屋に入ってきたとき、…ね?戸惑いながら、わたしが何か言おうとした瞬間に、ハンは滂沱の涙を流す。

誰?

不意に。

私を愛したのは

前触れもなく。

ほら

一気に。

そうでなければならない正確さで。

昼下がりの

いつか、見たことが在る。

アスファルトが照る

わたしは訝る。

純白の

もはや、戸惑うことは何もなく、もはや、憚ることはなにもない。

きらめき

強姦するかのように。強姦された気がした。何も知らない少女を、君に。わたしは抱く。戸惑いながら、彼女が、抱きしめた。まだ、君を。何も知らなかったことに驚く。なぜ、ハンがわたしを導きさえしなかったのか、わたしは戸惑った。

20年前、19歳のときの圭輔のように。

暴力的な、夢のような交尾。…交感。

…穢らしい。感じあう。

 

お互いが、ここに存在している事実を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


明晰な、儚すぎるその…

 

 

 

 

シーツが、血で穢れた。

ハンの。鼻血。…わたしのこぶしが、殴りつけるのと同じ強さで、彼女の鼻を愛撫したかも知れない。何度か。

途切れ途切れに。…なぜ?

かさついた、荒廃した皮膚。頬の、にきび、…のようなものが、薄く血の玉を蓄えた。

僕は

唇をふれた。

口付けて

ハンがまばたく。

感じた

…許します。

皮膚の触感を

彼女は言っている。

想いだす

君を見つめながら

その眼差しと、皮膚と、骨格と、体臭と、それら存在のすべてが、明示する。

ときに

いつも引き起こされる逡巡は

…あなたを、許す。

不意に

君を、愛していたから

涙は乾いていた。

 

意味さえ知らずに

圭輔とわたしは、愛し合った。

その概念の

愛、し、会う。合う(重なる)。った。(一致する)(混ざる)(同一化する)

定義さえ

その言葉の正確な意味は、ふれ、合う。いまだに、かなね、合う。かつても、みとめ、合う。わかったことなど一度もわかり、合う。ない。どうすればいいのかひかれ、合う。わからない。にくみ、合う。圭輔、しり、合う。どうやってささやき、合う。愛すればいいのか?きずつけ、合う。どうすれば、いやし、合う。それはあわれみ、合う。愛と呼ばれ獲るのか?

…なにが?

君を愛することに

戸惑いながら

言いよどむ、口籠り、《…なにが》まばたく。

にもかかわらず

そこにはなんの

為すすべもなく、まばたき、息を吐き、吸いかけて、上目越しに見詰めた。

孤独もなかった

圭輔を。

いかなる

瞬く。「…なにが?」

孤立も

圭輔はなにも言わない。

感じたのは、君の眼差し

そんな事など、すでに予測されていた。愛想がつきるほどに、すでに、いつも、そして、わたしはなじるように、…何が?言った。

嗜虐的?

窓越しに

…自虐的。

空を飛んだ

殺してくれればいいのに。

その鳩が

むしろ。

不意に

君を愛する、愛し仕方さえ、しらない。

旋回をしくじりそうになって

死んでくれればいいのに。

笑った

最早。

思わず

なにもかも、手遅れだから。

君は、不安げな

もう。

眼差しをくれる

世界を、破壊したい。

…なに?

…愛にまみれながら、愛、し、方をさえ知らないのだから。

君は、そして僕は

…世界を(その、比喩としての《世界》などではなくて、言葉としての《世界》などではなくて、この、世界のざらついた、この、そのものを。

見て

まばたく

これが

…いま。)

君の

微笑んだまま、

世界

なんでもない

君がくれた

…なんでも

美しい、世界

君の心にだけ、かすかな不安が残ったのには気付いている

 

「1週間前に、会社のみんなで、焼肉屋さんに行きましたよね?あそこの店の娘さんじゃないですか?あの店で見かけましたから。」

タンが言った。

 

「1週間前に、あの子、誰?会社のみんなで、あなたは、焼肉屋さんに記憶にありませんか?行きましたよね?あの子、誰?あそこの店の誰なのか、娘さんじゃないですか?覚えてますか?あの店でわかりますか?見かけましたから。」…どう?

タンが言った。いすかまえかいさぁわみんあしゃんに Tht Nướng きましたのにこどもいえす。たぶんね、みまった。

「覚えてませんか?」…なにを?おぼえまぃか?

「…まったく」

「あなたに、誘われたといってますよ。身の危険を感じるほどに、潤さんに求められたと。」ゆんさんさそいました、います。あぶない、…ね。あぶない、…ゆんさんさそいます。…いつ?

 

タンはハンと話し込み、わたしは端の傍らでタンのビールをあけてやり、わたしも自分のビールを空ける。ホテルの部屋に、タンを呼んだのはわたしだった。ハンは、まるでわたしの妻のように、振舞った。タンに、ハンから何を聞き出させても、すべて、手遅れである気がした。彼らは、時に声を立てて笑い、微笑みあい、わたしに目配せをくれ、「この人は、ハンさんです。」Hng さんじぇつ タンは、わたしに親密な「あなたの、恋人です。」ゆんさんのこいびとおじぇつ眼差しをくれて、歓迎するように「ハンさんが言いました。」Hng さんあいまった わたしの肩をたたく。

 

 

ピアノの音が聞こえる。耳を澄ましたのは、  

ハンは、そして

川の向うの、僕だけだった。どこかのその家から。ピアノの音に

ときに、すべての事象の犠牲者であるかのような

曲名はわからない。

眼差しを、無意味に

圭輔がわたしに覆いかぶさる。

日差しの中にくれた

わたしは抵抗しない。

カフェの日陰から

ふたりのそれが、こすれあって、肉体が決して交わりはしないことを明示する。

向うの、白く輝くアスファルトのきらめき

当たり前だ。何が?

舞い上がった砂埃に

肉体の経験ではないから。それは。

バイクと大型トラックの騒音に

性欲…あるいは、肉体の救いようのない経験を孤独をさえ経験した、孕みこんだ、わたしの精神の眼差しの中の営み色彩。だったから。…あざやかな。

音響

…愛。肉体が重なり合うべき…ねぇ、必然性など僕たちはない。ときに

目をしかめて、日差しから守り

むしろ、嘲笑う。愚劣だ。重なり合う肉体など。

見詰めた。すべてのものが

肉体は、その単なる常に無力だった。合理性など。

彼女を傷つけてやまないことをすでに

唾棄すべき肉体を自然な重ねる。妥当性など。

あえて許して、やさしい諦めのなかに

一之瀬愛という源氏名の女のそこに、わたしのそれが挿入させられる。

赦したかのように

完全に一致することなど一瞬の、ない。

もう

絶対に。痛み。

何も言わないでいいです

そのこじ開けるように。先端に

赦しましたから

静止を、感じられた…当然の眠りを、にぶい、暴力的にしずかなこじ開けるように。痛み。

わたしは、あなたを

声。痛い?愛が声を立てた。君も。拷問されたようなかすかに、声。すこし。助けを繊細な、でも請うような。若干の、許してください、と、執拗さを持ったなぜ、薄皮をめくるような叫ぶようなその、痛み。あなたはこんなにも、ふれあい、無慈悲なことが、こすれあうこと、なぜ、かさなること立てられる叫ぶようなその、痛み、出来るのか、と。ナーヴァスな、…声。…その。

あなたを

「…ねぇ、」愛が言った。明けて、朝。

「お前とさ、…結婚してやってもいいよ」ベッドの上に大またを広げて、すべてを曝して。

確信に満ちて、微笑む。…躁。次に手首を切るまでの間の。

 

くわえる。

なめる。

かぐ。

みる。

みつめる。

ふれる。

はじく。

かむ。

おす。

にぎる。

つぶす。

にぎりしめる。

ふるえる。

いく。

だす。

いれる。

はく。

とめる。

いきをとめる。

うかがう。

なげだす。

なげうつ。

まなせる。

だく。

つかむ。

すう。

あららげる。

すいこんだ。

わめく。

だまる。

しめる。

ふるわす。

沈黙。…どこ?行為が終わった後で、ここは?ハンが息遣う。わたしの体の上で。…なぜ?

言葉が。

なぜ、言葉が必要だったのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 


明晰な、儚すぎるその…

 

 

 

 

体温がすべてを語る。

かすかなふるえ、二の腕の。わたしはすべてを理解する。眼差し。無慈悲なまでに。

わたしは理解した。

聞く。

残酷なほどに、見透かされた、すべての、彼女の、すべての、…聞く。音を。

感じた。

息遣いの。

言った。愛しています。その音は、…あなたを。何をも言っていないに等しい、永遠に。無防備な、あなただけを。無意味な言葉。

 

何を語っただろう?

圭輔は時に、その無慈悲なまでに

鋭い眼差しを曝して、女たちを

圭輔は?

後から、まるで雄犬のように

抱いたものだった。美しい、

何を語りえただろう?

知性のかけらさえない馬鹿な圭輔は

まるで家畜をあやすように、わたしたちは、

わたしは?

剥きだしの軽蔑と、容赦ない侮蔑とともに

留保なき差別主義として彼女たちに

膨大な時間の中で、

奉仕してやりながら、どこかで

どうしようもなく彼女たちそのものに

膨大な時間を濫費し、

陵辱されたのは自分たち自身だったと

いつかは、きっと、自分自身で

それそのものに触れることさえなく、

確信して仕舞うに過ぎないことさえをも

わたしたちは気付きながらも

いつの間にか、時間は忘却した。

。る見

。た見

わたしのことをさえ。

、を君

、日のあ

自殺に限りなく近い、事故死。

、を君

、はしたわ、で中、のめあ

圭輔の死体。無様な。

?をにな

、はしたわ

あきらかな、肉体の破綻。

?をにな

、にみき

魂の不在。精神は、所詮は、

?をにな

、がみき

肉体の隙間を穿った、事故に宿った可能性にすぎないと、

?をにな

 

…したら?

 

 

ハンの体。貧弱な。女の、美しさ?…なぜ、君が。ここに?ハンの、痩せた、栄養失調児のような、君が、拒食症の、ここに?少女のような、…なぜ?

君が、ここに?「…圭輔」わたしは呼ぶ。

ハンが振り向く。

ハンにひざまづき、ふれる。Tシャツをめくらせた(無造作に)腹部に、(無造作に)わたしは顔をうずめ、(無造作な)皮膚。その(無造作な)触感、(無造作に)嗅ぐ。

匂いを。…圭輔。想う。

なぜ、ここに?

おかまの圭輔が、なぜ?

 

 

ハンがトイレで吐く。その音声が聞こえる。えづく。内臓を、吐き出して仕舞わなければ気がすまないような。

 

 

振り向くと、圭輔の眼差しがそこにあったとき、(あの、圭輔の誕生日イブの日に)それはわたしを見詰め。(…プレゼント、)戸惑い。(買わなきゃ…)若干、(明日までに。)程度の。

かすかな。

表情を失った、その。…すき。

 

ん、…

 

…すき、だよ。

 

 

その単純な、数個のシラブルさえ、燃え尽きた後に。圭輔が僕を見詰めていたことに、振り向いて、気が付いたわたしは、微笑むことに失敗した、その数秒の、そして、ややあって、微笑んでいるわたしを圭輔は見つめたのだった。

 

「…なに?」

圭輔が言った。訝るように。…なに?

「え?…」言いよどんで、わたしは、言葉を捜し、殺してしまいたい。圭輔をではない。自分自身ですらない。

 

 

世界そのものを。

愛していると、その一言さえもが言えず、そして、その言葉が何をも生み出さず、何をももたらさないのだとしたら。

 

 

雨。

 

 

あの日、雨が降った。

ハンが、ベッドの上で、わたしに戯れる。

笑う。

 

声。…聞く。

自分の、…ハン。彼女の、それら。

重なり合い、空間に。

消えうせる。

空間に。

 

 

いつから?

 

ハンが咬む。わたしの乳首を。

かるく。

決して、傷付けたりしないように。

鼻で笑う。上目に見て。

 

いつ?

 

 

いつ、世界を、破壊できるだろう?

わたしは。そして、知っている。わたしは気付いていた。ハンは圭輔の生まれ変わりに違いなかった。「…知ってる?」証明する手立ては圭輔が言った。「お前、」なにもない。「この、世界の」証明する「…秘密。」意味もない。

ハンは、圭輔と同じだった。同じ人物とは言えないくせに。そのすべてを異ならせながら。なにをも共有しないくせに。

ハンは。…生まれる前の記憶、あるんだよね。俺。

 

 

足の下に、地球があったの

あと2ヶ月で。

足なんか、ないんだけど

九月の雨が降り、あと2ヶ月で、とあの日、想った。

宙ぶらりんなんだけど

日本へ。

光の束なの。…みんな

帰還。

綺麗だった…地球

出張期間の終わり。

真っ青な、ぼうっとして、鮮明な

ハンは何も知らないままに、わたしにしがみつき、戯れ、圭輔。

わたしは、二度と省みないに違いない。

見惚れていた

ハンを。陵辱して、捨て去る。

迷ってた。どうするか…堕ちるか

ベトナムの少女を。

留まるか

現地で、慰みものにして、捨て去る。

でも、決めた

ごみくずのように。

なんでだろ?

使い棄てて。

忘れたけど、もう…

水に流す。

何でだろ。でも

トイレの、穢れた紙のように。

俺は、選んだ

 

…汚物。

穢れもの。…

 

星々が堕ちた

けがれた植民地主義者の、唾棄すべき肖像。

そのとき、下から上に

東南アジアにおける日本人の典型的パターン。

堕ちた

 

…まばたく。まぶしい。

あの日。しばたたかせた。日差し。

熱帯の日差しが、そっと、まぶたに当たる。わたしは

あの日。君に身を預けた。11月。為すすべもなく。あと二日。

…圭輔。その死の、

 

 

わたしがいなくなった部屋で、三日前に、ハンは愛の見ている前で。どうするのだろう?

…圭輔。…ねぇ、愛してる、圭輔のこと、と言う。愛してる。

 

そう、実は、…言うしかないから。俺。

 

愛し方も知らないくせに。愛は、無表情になって、

 

一瞬

まばたく。

見詰めた。

日差し。

無言で、

 

雨期の終わり。

沈黙「…うそ。」…まじ?

 

雨さえ降らない。

 

「…まじで?」…なの?…なん、だ…そう、なんだ、…

わたしは、渇く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.05.17.

Seno-Lê Ma

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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