閉じる


<<最初から読む

6 / 21ページ

私小説 01

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしと Cnh が同い歳だったことを知った。それは9月の、二人だけの飲み会だった。もちろん、日本料理屋。日本人街のレタントン通りの、日本人資本の、従業員に日本語が通じる、日本国内と同じ料金を取る店。Cnh の好みだった。

もちろん、現地の貨幣価値から言えば、一握りの富裕層しか通えない、非現実的な店舗に過ぎない。

そのわりには、客の半数以上を、現地の人間が占めていたので、それが、社会主義国家、あるいは、アジアの国家、の当然の姿なのかも知れない。店内はざわめく。歓談する人々の声。

たんよううぃでしょ。

…なに?

たんようび。「…ありがと」わたしは Cnh にお礼を言い、彼にだけ、自分の誕生日を教えていたことを思い出した。「北島さん、誕生日パーティ、するなって言うから…」

「…だって、めんどくさいもん」

「だめよ。…」じゃんとたんよううぅわいわあないちょ。「…そうだね。ベトナムでは、みんな、誕生日は、ちゃんと祝うの?」

「もちろん」Cnh がうなずき、わたしは瓶のサッポロ・ビールを Cnh についでやった。「盛大だよ。」

…そう。いいね。

「むかし、わたしが子どもの頃は、すごく貧しかった。…ベトナムはね、とても貧しくて。」なひぃもーりませんでゅえった「何もありませんでした。でも、…」微笑みながら、わたしは Cnh の話を聞く。「でもね、誕生日だけは、みんなでお祝いする。」相槌を打ち、目線が合う。「これ、いいことです。…ね?」向こうの席に座った女。「…でも、日本は、あんまりそうじゃないね。もっとも、」ベトナム人の、やや肥満した「日本は日本だからね。」あきらかな富裕層の中年女。「…先進国でしょ?」目の前の男は「むかし、わたしたちの、…なに?」主人に違いない。「わたしたちの、」女がわたしを見る。「同じ歳の、」覗き見するように「同じ、…」

「…世代。」わたしが言うと、陽気な Cnh は指を鳴らす。

「そう、世代。わたしたちの世代は貧しくて、建築の勉強なんて、本を読むだけ。」椅子に深くもたれ、わたしは「教科書だけ、…ね?」Cnh の左耳の向こうの「先生は黒板に書いて、」女を見詰めた。「この機械はこうやって、」女はあきらかに戸惑い、「…あの機械は…、」惑って、「ほら、」女は「なにも物はないから、」眼を伏せるしかない。「ぜんぶ説明だけ。」何回も、伺うように「ロシアとか、中国とか、」覗き見しながら。「外国に留学して、」はゆぃめてぇほおんぐものおきかい、「はじめて本物の機械、見ました。…ね?」見ろ、もっと。「でも、いま、ね、」見たいんだろう?「Lap Top, …Smart phone, …mobile, …ね。」従業員が新しい皿を提供し「だんだんと、ね、」うざったいほどの「better, better, better, もっとね、」媚態を作る。その「better に。ね。…もっと、」顔に、「もっと better. 」体中に「将来は、ね。」媚態を。「日本、来たから。」征服は浴衣。「ベトナムに。」安っぽい、「タイランドとか、」水色の「マレイシアとか、」薄手の。「日本来たら、」…腐る。「よくなるから。」視線の中で、「…ね。もっと、」公然と、「もっと、ね」

「…おれ、会社、辞めようかな、って。」…え?と、あっけに取られた Cnh が、かすかに目を剥いて、わたしを見ていた。ぢょずぃたんでゅえしか「…どうしたんですか?」

「ここで、暮らすよ。」

「ここ?」…そう、と、わたしはうなづき、ややあって、一瞬、声を立てて笑った。

わたしは腐って行く。

公共の視線の中で。しずかに。美しいわたしは、穢らしく、腐り堕ちていく。

眼差しが、わたしの穢れた自己崩壊を見つめて、媚を売る。

わたしは本気だった。とっさに口走っただけに過ぎなかったものの。

生活に困ることなどありえない。わたしは知っている。人間は必ず、美しいものに対しては本質的無力で、そして、自分だけを愛するものに対して、女は絶対的に無力だ。

まるで奴隷のように。最上位の女王様はつねに、最下層の奴隷だ。

まるで、隷従するためだけに生まれてきたかのように。

 

34歳の幸人が父親を殺したことを知ったのは、警察を通してだった。なにを裏付けなければならないのかは知らない。いずれにしても、彼らはわたしの証言をほしがった。

大学を出てから、まったく交流はなかった。32歳のわたしが、34歳の父親殺しの犯罪者と、大学時代に交友関係があったことをすぐさま照会してしまえる警察に、一瞬に、苦い恐怖感のようなものを感じた。

要するに、彼らが聞きたかったのは、幸人と幸子の関係の裏づけと、事実関係の照会、らしかった。

誰も彼もが、根も葉もない勝手なことばっかり言うので、もう、収拾がつかないんですよ、と、50代の小柄な警官が言った。

二人組みの、もう一人の方は長身で、若い。絵に描いたような、コンビのように想えた。

一瞬あって、わたしは不意に声を立てて笑いそうになった。ちょっとまって。…そうだったら、なぜ、あなたはわたしだけが、根も葉もある言葉を吐く、と知っているんですか? もしそうでないとしたら、あなたはみずから進んで更に新しい根も葉もない言葉を無意味に収集しようとしているにすぎない。…わかりますか?

わたしは微笑んで、大変ですね。そう言った。

わたしは彼らを部屋に上げて、そしてコーヒーを入れようとしたが、たかが一杯のコーヒーをかたくなに断った。

水だけを差し出したが、手にも触れようとはしない。

かりに、彼らの母親くらいの年配の女が、そんな流儀は日本人の礼儀にもとる、と、言い出したらどうするのだろう? 出されたものくらいちゃんといただけ、と。

幸人の母親はもう死んでいたらしかった。彼が二十五歳のときに。祖母はまだ存命だが、老人介護施設に入っている。祖父は数年前に癌で死んだ。父親は幸人が殺した。妹は幸人が逮捕拘留された日に、部屋で首を吊って死んでいた。参考尋問の出頭の時刻に現れなかったので、不審に想った警官が発見した。

父親の死体は悲惨だった。言い争ったあと、殴り合い、柱に頭をぶつけて、しゃがみこんだ父親の頭に、椅子を何度も打ちつけたらしかった。木製の椅子の残骸が血まみれで転がり、脳漿交じりの血は部屋中に飛散した。

頭部はもはや、残骸しか残ってはいなかった。

どんな表情をして、彼はそれをやったのか、あたりまえだが、警官は何も言わなかった。終わったあと、どんな表情をしたのか? それを聞いてみたかった。

きっかけは、30過ぎても結婚しない、彼ら二人をなじったことだった。彼らが、そういう関係であることは、父親も知っていた。その2月、犯行の半年前、結婚の承認をもとられてもいた。もちろん、父親は、自分の承認以前に、法律の承認さえ取れないじゃないかと、一蹴した。

父親の死を幸子は見ていた。

彼女が、どんなふうに、それを見ていたのか、警察は、もちろん語って聞かせてはくれない。

事が終わったあと、隣のうちに幸子は行って、兄が、父を殺してしまいました。通報してくださいますか? …そう言った。

なぜ、自分でしないのか、その久田扶美香という名の、二十八歳の奥さんは訝った。旦那のほうは、まだ帰ってきていなかった。7月7日。夕方6時53分。あと7分で、7が三つ揃った。

「幸人くんに、関係を告白されたことはあります。」

「…なんと?」

「愛し合っている、と。」

「どんな風に。」

「穢れた関係だと。彼と妹は、ね。…それだけ。」

「それだけ。」

「そう、それだけ。」

「それ以外には?」

「あとは、わたしの推測にしかなりませんよ。」

「いいですよ。参考までに」

「…ひっくり返しちゃうようですけど、」

「…ええ。」

「プラトニックだったんじゃないですか?」

「プラトニック?」

「そう。…純潔を守った、関係。…肉体関係は、なし。」

「どうして?」

「いや。推測ですよ。さっき言ったように。感覚的に、としか言えない。けど、肉体関係があるとは思えなかった。」

「そう…」

「おれには、ですよ。わたしには、…ね。」

「そう…。でも、失礼ですが、…あなた様の経歴、ですけどね」年上の警官が、わたしに気を使いながら言う。「5年くらい、ホスト? されてますね。歌舞伎町。大学生のとき、…ね? 大学を出てからも、一年くらい。就職浪人してたから、…ですか?」

「…ええ。よくご存知ですね。」

「少しだけ、耳にしたので…」全部吐いちまえよ、知ってることを、と、その胸倉をつかんで、壁に頭をたたきつけてやりたくなった。

警官は、必死に、わたしに気を使っていた。「そういう経験の、カン、ですか?」

「…ええ。そうかもしれませんね。ただ、…どっちにしても、彼らはそんな深い関係じゃないと想う。…ぼくは、ね。あくまでも。妹っ子っていうんですか? シスコンっていうか、そういう義人が、過保護にかわいがってただけ、なんじゃないですか? …そんな気さえ、しますね。基本的にはただの仲良し兄妹だった、と。たとえ、それが、ぼくらみたいな他人の眼にどう見えたかはともかく。義人君自体が、何でか知らないけど、それらしいことを匂わしたりしてたことも、事実には違いないんだけれども。彼ら、そうじゃないよ。デキてないですよ。」それは嘘だった。

招待された幸子の誕生日パーティで、幸子はあきらかに女だった。幸人に、まるで自分の夫であるかのような、必要以上にか弱く、わがままな目線を送った。あなたは永遠にわたしの幸せのために生きなければならない。なぜなら、わたしがあなたの幸せのために生きてあげるのだから、と、あたりまえのように永遠の義務を確信された容赦のない眼差し。

ときに、わたしに執拗に色目を使いながら、幸子は、彼女が幸人のものであることを、隠そうともしていなかった。その眼差し、仕草さ、話しかける言葉遣いに、ほんの少しの、身体的な距離感に。

娘の誕生日のホームパーティを、友人たちを招待して開くくらいなのだから、幸人たちの父親は資産家だったに違いない。世田谷の戸建て住宅も広々とした、いかにも金の掛かっていそうな住居だった。

犬を飼っていた。レトリバー。世慣れした、礼儀正しく、やさしげな父親だった。母親は若干の陰のある人だったが、おとなしく無口なタイプの人間が一様に感じさせる類のそれ、にすぎない。

あんな家庭で、どうして、と、不思議な違和感さえ感じた。

色気づいた、あの兄妹のほうが、むしろ、いびつだった。

水。…ふいに、わたしは口走った。「水、飲まないんですか?」

警官は一瞬、いぶかしげな顔をし、わたしを見た。

自分のくちばしった言葉の無意味さに、ふと、わたしは微笑んだ。

 

寝返りを打った妻の腕がわたしの胸元に覆いかぶさって、耳元に寝息がかかり、想い出した。わたしは、夢を見ていた。いまさっきまで。大陸のどこかで、誰かがクーデターを起こした。爆弾が飛び交って、さまざまなヒトの、さまざまな肉体の断片が、血を撒き散らしながら散乱した。

匂い。空爆の匂い。戦争。たぶん、きっと、おそらくは、戦争が起こるに違いないのかもしれないわけにはいかないわけでもない、…そうかもしれない。

戦場に雪が降っている。降り積もることの無い雪。

降っても、降っても、地に触れた瞬間に溶ける。視界の向こうまで、真っ白い降雪がすきまないほど、埋め尽くしているというのに。

その瞬間、気付いた。これは、雪ではない、と。なにか、もっと別のもの。ヒトたちが、滅びて仕舞ったことを知らせるために降っているに過ぎない、と。

…弔う気さえ、ないくせいに。

わたしたちは、再び殺しあうかもしれない。あるいは、わたしたいがヒトで、ヒトであるわたしたちなのだとしたら、わたしたちはヒトとして既に、もう、戦争を続けている。この地球上の数箇所で。さまざまな紛争地帯。暴動。ときに、空爆。わたしたちは、戦争をするだろう。そう想った。夢の中で。わたしたちは、わたしたちが滅びて仕舞うまで殺しあうだろう。

いつか、と、目覚めたまどろみの中で、空を巨大な爆弾が焼き尽くすだろう。わたしは目を開く。その、焦げた匂いが、あきらかな現実としてわたしの鼻をくすぐった。見つめる。わたしたちは絶滅していた。すでに。

…無慈悲なまでに、繁殖をやめないわたしたちは。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.04.30.-05.01

Seno-Lê Ma

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


花々の散乱

 

 

 

 

 

 

 

 

Quartet 

花々の散乱

 

 

 

 

 

 

 

 

花々が散乱していた。どうして?僕は、失った。こんなにも、と、思わず、息を言葉を飲んで、失った。見る。

風景

 

心の中の?

 

なに?

 

目の前の風景

 

見たこともない

 

その

 

風景を

 

見ようよ

 

いつか

 

二人で

 

誰も、まだ

 

見たことのない

理沙が僕の肩に後から寄りかかって、「堕ろしちゃった。」なに?

風景を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向くのも待たずに、何を、言った、「子ども。」言ってるの?そのいま、言葉を、君は。(俺たちの?)

見ようよ

聞いた瞬間に(俺、たちの?)僕は想い出した。夢。明け方に見た、その。意識の(お前、)遠い夢。向こうで(それって、)俺の、かすかに、俺たちの? 夢。(なに?)俺の?見渡す限りの俺、たちの? 海が(誰の?)俺、向うにまで お前、遠く(俺、たちの?)そして、それって、その海に なに? 果てさえないことは、誰の? 知っていた。、たちの? 海が、俺?桜の花々に、ねぇ、その表面だけ、なの?埋め尽くされていた。たった一本の桜の樹木のてっぺんに、器用に立った僕は、足元から舞い散り続ける際限もない花々のこまやかな乱舞を見る。きまぐれで、自由で、好き勝手な、その。「ねぇ」言葉を失ったままの、僕を、なぐさめようとしたのに違いなかった。「まだ、誰も見たこともない風景を、見ようよ。」理沙が言った。耳元に、ささやいて。

 

 

 

 

19歳の理沙が伸ばした手を見た。空間に泳ぐように、一瞬停滞し、光。腕を差す、斜めの。

風景

寝返りを打つ、見る。その、僕は、細い、見た。褐色の。指先にピンクのネイル。

心の中の?

一瞬だけ言葉を(意識さえも、)失った気が(たぶん。)した。(むしろ、)

なに?

なにも、言いたいことなどなかったのに。なんで?

目の前の風景

感じられた理沙の体温が、なぜ、そして、無意味に 僕は 問う。ふれ続けていた。だれに? 彼女の肌に。

目の前に

見たこともない

雨の音がして、知っていた。それは 恥ずべき人間であること。目を閉じていたときからも、自分自身が。その(土砂降りの)音を。

やがて

その

(雨の)誰かも(その音を)聞いているのは(僕は)知っていた。(一人で)どこかで。(聞いていた。)ここではないどこか。理沙の傍らに横たわって。

拡がった

風景を

理沙は?寝息を立て続けて。女たち。聞いただろうか?眠りの向うで。僕は、嘘だらけの、彼女たちを虚言にまみれたキャバクラの女王。傷つけることによって、

その

見ようよ

僕は(理沙の)聞く。(虚言、)生きた。その音を。ホスト。雨の、(自分の出身さえどうせ、偽って)音。嘘しか言わないのなら、意識の向う、いっそ、(すべてを)

風景を

いつか

むしろ、息遣う。何も言わなければいいのに。理沙、(偽装する。)褐色の肌に光が、(やわらかい)雨の日のそれ。(光)耳を澄まして。(その。)もっと。

いま

二人で

お互いの心臓の音が、(父親は死んだ。)聞こえるくらいに、(母親は精神病院にいる。)その、

もはや

彼女、(兄弟はいない。)美しい発熱体の。(初体験は12歳。)体温。(わたし、未来が見えるの。)行為の後で、(知ってた?)その日、朝の。

僕たちは

いつか

光。(無意味な嘘)

記憶しようとさえせずに

見ようよ

愛すること。(意味さえない)愛。し、合う。愛。

し、合うこと。

むしろ

まだ、誰も

その日、お互いに、(嘘。)僕は、わたしは、(無意味な、)悲しかった。(それらの)理沙を、なぜ?その、決まってる。お互いが、君をし、合うこと。

誰も、まだ

愛、し、理沙が、わたしは、し、合うこと。愛。彼女は、理沙を、合う。わたしを。愛。し、君を

し、君と合うこと。

愛し合うこと

見たことのない

ふれる。

君と。

 

あまりにも高飛車な理沙は、客にさえ、憎しまれるようにして愛された。もしろ、彼女を壊したいがために、彼らは、彼女を求めている気さえした。

 

ふれる。

君と。

 

 

 

 

 


花々の散乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理沙が死んだとき、会った理沙の母親を見て、わたしは自分を恥じたものだった。葬式のときに。純白の花々の立てた匂いの向う、気品のある悲しみというたたずまい自体が高貴さを持って表現されたような、その、美しさに。わたしは自分の脱色された髪の毛をさえ恥じなければならなかった。あるいは、理沙はその存在そのものを。理沙は父親似だった。

 

ふれる。

君と。

風景の中で

初めて理沙を抱いたとき、妙にパーツがあわない違和感を拭えない僕を、理沙はごまかす気さえなくて、

いくつかの眼差しが見いだした

上から覆いかぶさったままに僕の頭を撫で続けるのだが、知ってる。ねぇ、たぶん。不意に、

その

そう言った僕に、君の痛みは。「なに?」と、もはや、問い返すのでさえなくて、ただ、不安そうな眼差しをくれた。その瞬間に、

風景

彼女が初めてだったに違いないことに気付いた。何度目かの家出の後で、

心の中の?

 

16歳から風俗店で働いて、それをなかったことにして、いま(そのとき)、歌舞伎町のキャバクラで働いている(た)理沙、この19歳の、

目の前の風

なぜ?と、僕はつぶやく代わりに、「幸せ?」言った。

ばか。ばかじゃね?

見たこともない

そう言って、声を立てて笑い、理沙は、そして、体で客を呼んでいると、陰口をされながら、自分でも、

その

店の女たちにそれを公言してみせながら。

「なんか、変なもん、食べちゃった?」

風景を

昨日は久美子さんを抱いた。40過ぎの。

「お前以外、なにも食ってない。まだ。」

見ようよ

明日は、誰?また、理沙なの?理沙だけを愛していた。

「ばか。」

いつか

いつでも、男言葉でしか話さない、理沙。

「おまえ、俺以外食ったら、殺されるからね。」

二人で

なぜ?そんなこと、聞きもなかった。

「俺に。」

いつか

一度だって。

理沙の髪をかき上げて、その瞬間に、理沙は親指の先をかるく咬んで見せたが、

見ようよ

僕は笑う。声を立てないままに。

「安心しろよ。お前以外、は、さ。

まだ、誰も

もはや、女じゃないからね。」

守られることなどない約束。お互いに、どこかですでに気付いている。

誰も、まだ

 

知ってた。」理沙が言った。表情もないままに、眼差しにだけ何かを訴えて。

見たことのない

何を訴えたいのか、たぶん、何を、自分さえ見てるの?知らない。

君は、間違いなく、いま。きっと。

風景を

髪の毛が胸にかかり、悲しかった。乱れ、僕は、音。心、息遣われた、乱れ、音を。悲しかった。眼差しがだって、捉えた(わたしの、その)壁の失って仕舞ったから。白いクロスの、

見ようよ

君を。(眼差しが)その、やがては(見向きもしないままに)聞き取られる僕は、すべての(捉えたのは、)君の音、すべてを静かな、(存在。)失って、静寂を拒否した、(理沙の、)喪失して、ピアニッシモですらない、(存在、)

まだ、誰も

君は、しずかな、(いま、そのとき、いつも、そのあとで、)もはや、音の氾濫。もう、(胸に頭をあずけた理沙は)聞いた。二度と、(うたたね、)音。(その、)

いつか

なぜ、壊れたの?

命の?(浅い眠り。)心臓の。血が流れる、その。吐息を、(聞いて。)吐く、(心臓の、その)ような、(聞こえる?)その、音を。(眠りの中でさえ。)

僕たちは、

滅びるまでの

まだ世界は滅びない。いつ滅びるのかは知らない。それはいまではない。あるいは。(理沙が、振り向いて、わたしの耳たぶを指先にはじき)

君は

あいだに

まだ僕は死なない。いまではない。いつか、そして、まだ僕は生き続けて、

滅びるまでのあいだに

抱いた。(声を立てて笑った4月に、雪の日の夢を見た。)

なぜ?

僕たちが

腕に。(記憶が、)理沙を。

滅びるまでの

その寝息を(わたしには、記憶が)聞き、(あって、)滅びたこととすでに等価な、(記憶の存在。)世界の存在。

滅びるまでのあいだの

(そして自分勝手に、)わたしそのもの。(書き換えてしまうのだった。)

あいだの、いつか

僕たちは存在した。(僕たちは。いつでも)生きとし生けるもの。する。

やがて壊滅する

存在。命さえないもの。する。存在。し、存在。

前に

する。雨が降った。

存在する

………………………、その

もうすぐやむに違いなかった。記憶。

もの

想いだす。理沙。もう二十年近く前の。

すべて

その間の時間はどこに?わたしだけが、老いさらばえていき、もはや世界から(を、)失われた(ってしまった)理沙は老いさらばえはしない。

壊れる寸前の

 

タンソニャット空港でタンと言う男に三人の少女を渡す。あとはタンが中国まで輸送するはずだった。斜めに照った熱帯の夕暮れの光が、タンを瞬かせ、一瞬声を立てて笑ってしまったわたしに、責めるような眼差しをくれた。人身売買。中国人たちに、ベトナムの少女を売りさばく。タンはベトナム人だった。プライドも何もありはしない。中国人の金に魂を売った売国奴ども。わたしは?

売国奴ども

一番色の白い少女がくしゃみをし、一瞬、うかがうような目線をわたしにくれた後、

人間のくず

はにかんで見せた。必死に媚態を示して。垢抜けない顔で。買受先の中国人の趣味を疑った。

生きる資格もない

なぜ?僕を残して?

君は、

空が

無意味に引き裂かれた、雲から切れ目さえ差し、想いだす、もうすぐ雨がやむ。そのことを、僕は予感し、雨。

色彩の記憶だけ残して

雨がやんだら、ご飯を食べに行く。理沙が言った。その時に、十分前、僕は瞬き、眠りに着く前に、どこ、行く?ささやくように、何、食べる?耳元に、出来損ないのホスト。半ば、町に眠りに落ちながら。のさばるしか喪失。できないわたしは存在。老いさらばえて行く。光。

砕け散る前に

崩壊した肌を撫ぜた。老いさらばえたわたしはサイゴンにいた。40歳を越えて。ベトナム。老いさらばえて。熱帯の町。その温度。熱気。太陽への距離。

いつか

 

24歳のとき、緋村と言う偽名を名乗っていたやくざを殺して仕舞ったあとで、結局は、わたしを引き取ったのは緋村が所属していた組だった。犯罪行為すらなかったことにして。

滅びるまでの

 

さんざん私に制裁を加えたあとで、「命だけはくれてやる」と加藤裕樹が耳元に言った眼差しに、わたしを最初から仲間に引き込むつもりだったことに気付いた。

あいだに

 

十年以上前の、旧防衛庁跡地の近くで、東京タワーでも見えればいいのに、と想った。加藤の《店》の中で。彼らに前歯と鼻の軟骨を折られながら。

僕たちが

 

そうでなければ、こんなところに連れ込むはずもなかった。覚醒剤の一時保管場所。

僕たちが滅びる

わたしに密告されればそれで終わりだった。かといって、わたしを殺すためには明らかに不向きだった。

滅びるまでの

 

加藤の水商売の女名義で借りている《店》ワンルームの。古い。壁は白い。ざらついたクロス。空きだらけの、古びた、

僕たちが滅びるまでのあいだの

元分譲型マンション。タイル張りの外壁をさえクラックが這った。

あいだの、いつか

小指の骨が、取り囲んだ男たちの誰かのかかとにへし折られたとき、わたしは死んで行く緋村を懐かしく想った。想い出しさえしなかったのに。びっくりした顔のまま表情を痙攣させ、

やがて壊滅する

 

この顔のまま死んで行くに違い、存在自体が無意味だったに違い男の末路に、むしろその母親を

その、

哀れんだ。

いつか、と想った。

前に

 

 

 

 

 


花々の散乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは加藤たちを皆殺しにするだろう。

誓いを立てるまでもない。彼らに吸われるべき空気などなく、重力にへばりついている資格さえない。

………………………、その

 

なに笑ってん?ヒグマのような、沖縄生まれの北橋真治が言った。わたしは、自分が笑っていたのに気付いた。

「こいつ、壊れてもたんかな?」ヒグマ。

………………………、その

ヒグマの声を、視線の端の向うで聞いた。自分の、立てられ続けた、いじけたような笑い声を、気狂いになった。自分で、とうとう、聞いていた。人間のくずの、俺は。と、

壊れる寸前の

想った瞬間に、匂いを想い出した。緋村から奪った改造拳銃を緋村の唇に押し当てて、(開けるかな、と想ったのだった。わたしは、そのとき、彼が)引き金を(口を。)引いたときの(あるいは、)

空が

、匂った。(誰でも)煙が立って、(口をあけて、咥えるのではないか、と。)匂う。右腕に(むしろ、自分から。)銃の反動があって(目の前のその、何かを)、

色彩の記憶だけ残して

気付いた。(食べさせてもらうときのように)自分がそのとき、逆腕で発砲していたことに。血が向こう側に吹き飛んだ。そして、いわゆる脳漿と呼ばれるもの、そして

砕け散る前に

あるいは、骨と筋肉と贅肉等の残骸。

声を聞く。ヒグマの声。そして、体中に走る痛み。彼らの、殴打の。

 

例えば

潤んだ眼差しがわたしを捉え、嫉妬したチャンが机を叩いた。カフェの、アルミ製の丸いテーブルが音を立て、「変態。」

あの。例えば、

ね?言った、チャンは、そしてわたしはその日本語のなまりを聞く。ベトナム人の女はみんな変態だから。チャンは言って、

あの、

わたしが笑った意味にさえ気付かずに、じゃ、チャンも?じゃない?

海が

「違う。」それはちがいます。

干上がろうとする前に

「どうして?」それわちがいまっ

滅びかけた

私は違いますけど、わたしわちがいまっけじょベトナム人の女はみんな変態です。気をつけてください。

ふてくされた、わたしをなじる顔を曝して、

壊れかけの

小さく立てた舌打ちが、いつも、チャンは嗅ぐ。わたしを抱くときに、わたしに抱かれるときにいつも、体臭。

太陽に

愛するものの存在を確認する。動物的な、確認される。容赦のない、自分の野蛮な、存在さえ、いじましい、含めて、繊細な、チャンは、その仕草に確認した。わたしは身を曝した。

飲み込まれて仕舞う前に

愛された自分、および愛した自分、および、愛される自分、および、愛する自分、および、そしてそれらを現在のうちに。

焼き尽くされる直前にさえも

嗅ぎ取られた。何が?わたしの存在理由が。あるいは。

痩せたチャンの褐色の肌。寄せられた唇の、かすかな口臭を嗅いだ。

海さえも

世界はまだ滅びてはいない。いまもなお。

なぜ?

焼き尽くされて仕舞う

理沙が目覚めないように頭を撫ぜて、髪の毛の触感。それらが手のひらに、指。

その前に

なぜる。その。指先。

いつか

唇をふれた。

僕たちは

ときに、そっと。

見いださなければならない

笑い、なんで?

僕たちの

無視されたわたしの問いかけはそのままに、なに?

風景を

眼差し。彼女はまばたく。

記憶の中にさえ

どうして?

残りはしないものの

僕を視線に捉えたままに。

誰も

沈黙と同じ強度で、僕たちは饒舌になる。その、無効性をすでに気付き果てながら、セックスさえ、すでに、意味を失う。

記憶しようとさえしない

無意味な交配。重なり合うこと。子どもを作りあいたいわけでもなく、何かが確認できるわけでもないことさえ、すでになんども感づかれていながら、僕は気付いたものだった。

その

理沙がわざと立てた声の向うに見た彼女の風景に。

君の

光。点在する、夜の空間の光。

伸ばされた腕に

光。瞬き、チャン、匂いを嗅ぎ続けるチャン。なにが欲しいの?あなたのわたしの。なにが欲しいの?なにが?わたしは。

光が差した

女たちが、わたしを目で追った。そのたびに、チャンはこれ見よがしに身を寄せて、「いつ、結婚しますか?」

斜めに

「誰が?」

「わたしと、

「まだ早いよ」

「日本へ帰りますか?」日本へ。一人で帰って仕舞いますね。さようなら。もう会いませんね?サイゴンの外れの、砂埃にまみれた路面。

窓越しの陽光に

低層家屋のつらなり。

僕は

クンクリート造の

まばたく

トタン屋根が錆びる。

聞いた

 

「母親、殺そうとしたこと、あんの」

露店のブンと言う麵料理の店で

「だれが?」

チャンが豚肉の骨を

「決まってんじゃん

しゃぶった。骨ごとぶち込まれた

「お前?」

豚肉。指を舐めながら、その時、不意に

「他にいんの?」

チャンの唇でたった、じゅるっ、

「いない」

と、いう音に、わたしは一瞬注意をそらされえ?

「でしょ?」

聞き逃してしまったチャンの言葉を

「なんで?」

聞き返す。もう一度、何ですか?じゅるっ、と

「忘れた」

チャンの唇は音を立て、何か?

「ばか」

何か、ありましたか?いきなり、噴き出して

「怒った?」

笑って仕舞ったわたしを、むしろ

「だったら話すなって」

咎めるような眼差しをねぇ、

「てか、嫌いだったから」

どうしたの?不安を隠して、どうすぃまったか。わたしに

「だれが?」

くれ続けるチャンのその

「俺。」

行き場のない、行き止まりの表情が

だれ?」

さらにわたしを笑わせ、何が、

「母親」

あったの?ごめん、言った。わたしは何が

「そっか」

起こったの?「愛してるよ」え?

「首絞めたんだよ。俺」

わたしの言葉に耳を疑い、チャンは

「マジ?」

何?ねぇ、何?

「後から。」なんか、と、言った。理沙は、後ろから見てたらさ、と、いかにもか弱げなって、あるじゃん?そういうの。そういう、なに?風情?感じ、みたいな?そういうの。なんか、さ、触りたくなった。で、締めたくなった。殺したいわけじゃなくて。触って、締めたいの。なに?壊れてんのかな?俺の頭。

「やっと気付いた?」ばか、と、お前、殺されたい?声を立てて笑い、理沙は、そして僕は見詰めた。おもしろくもないのに笑い転げてみせる理沙。ベッドの上の、終わったばかりの体に、もうすぐ午前十一時になる、カーテン越しの日が当たる。その、それを。

聞いた

「棄てます。」チャンが言った。耳元に、ささやくように早口に、「棄てますね?」なんで?

ささやかな音

君の、寝息

わたしの声を聞く、「なんで、僕の事が好きですか?」なんで?チャンの眼差しが、なじるように戸惑い、違う。

チャンが咳き込んでしまった

彼女は言っていた。わたしが欲しい言葉はそんな言葉ではありません。

不意の

見る

永遠。

ささやかな

寝返りを打った

陳腐なもの。

大気の乱れ

君の

永遠に、繰り返され続ける、約束された永遠。誓われ続け、日差しに灼かれるアスファルトが照る。

腕の上に

白く、滅びて行く。老いさらばえ、わたしだけが。

静止した光

滅びてしまいたい。いますぐに。

その温度。僕が

手を伸ばしたら、空の青の向うにまで手が届きそうな。

感じはしなかった

その、色彩の消滅した黒さに。

その

空。

温度

熱帯の日差し。

あたたかな

空が美しく晴れているとき、どうして?怒りに駆られる。どうして、なにもかにもが、こんなにも、なぜ、いま、こんなにももろく、もはや無骨で、絶望的なほどに理不尽なまでに図太く、美しいのか。そして儚いのか。

僕は

言葉をなんの正当性すらない。失った。

ただ

壊してしまいたい。あるいは、

悲しい

壊されてしまいたい。理沙。

ただ

飛び立つ事。

たんなる

ビルの屋上から。

世界そのものさえ一瞬にして崩壊して仕舞いそうな悲しみ

敵だらけ女だった。

客さえも。ときに。

どうして?

客に(八木沼。)クスリのカクテルを飲まされて、体内に薬をすり込まされる。覚醒剤。単なるセックスのための道具。

声さえ、失って行く

衝動?なぜ。朝の十時に。堕ちて行く足の向こうに見たはずの空。(「死ぬようなことじゃないよな、」おどつきながら、)

今や

見下ろされた空の逆光の向うに、宇宙には星が。(八木沼は言った。すべてが、わたしは微笑んで、埋葬さえもが「かも、ね。」そう、終わったかも、な。後で。言った。)

君を

 

 

 

 

 

 


花々の散乱

 

 

 

 

たとえ、(なぜ?)昼間でも、あの空の青を突き破りさえすれば、星に会えることなど人類の誰もが知っている。

愛するときには

 

寝息。理沙の、そして、目を何度も閉じ、眠りに落ちる努力をする。

群がった

どうしようもなく、冴えた目が、そして聞き取られる寝息を音楽のように聴くしかない。

呼吸音の

音楽。ジョン・ケージ。圭輔が好きだと言った。わたしが好きだったから。

戯れる

壊す。

束なりが

嘘だった。

ほら、

壊される。

聞こえただけ

クラシックなど、わかったためしがない。

もはや

壊れはて、そして。ましてや。壊れない。

なにも、壊れさえしなかった。

もう、

涙さえ流さない。愛が理沙の死を告げたときも。

なにも

自分のマンションにたどり着いた理沙が管理人に曝した青たんだらけの顔。

愛し合う前に、すべては

語りつくされていた

何人に曝したの。新宿のラブホテルから、初台のマンションまで、道端で、タクシーの中、さまざまなものにすれ違いながら。見下ろした空。

すでに

光の逆光。

いつか

色彩は?

ほら、

その、色彩は?

青。

空間を切るような叫び声を立てて、チャンが私にすがりついた瞬間に、その騒音。(がちゃん、と)

その

なにも(かちゃん、)壊れないまでも。(がじゃん、)

青空の

なに?

チャン、泣きそうな、その。どうしたの?「知らない」言った。「日本語、知りません。リザード。」とかげ。

壊してごらん

テーブルの足を、トカゲが這っていて、わたしは声を立てて笑い、腕の中でチャンが大袈裟に非難する。ベトナム語で。

目に映るすべて

手が、触れた

従業員を。店を。ベトナムを。やがては世界の存立そのものを。

もっと、やさしく

すべてさえもが、ほら

チャンの下でベトナム語の発音が踊り、わたしは笑う。

すべての

眼差しがわたしたちを捉えた。

触れてごらん

外国から来たらしい美しい男に保護された、幸福な女。

すべてのものを

いま、そっと

いまだ気付かない。誰もが、すでに滅びていたことに。生まれる前からすでに。

乱れる

生々しく、息遣う。街路樹の、荒々しい樹木の陰を猫が走る。疾走、沈黙した、樹木の強大な生命。

勇気を出して

その存在がふれるすべてを破壊するまで、

撒き散らされ

それらは繁殖する。

触れてごらん

散り散りの

剥きだしの。

君が触れれば

埋め尽くし

生命体。

石ころさえもが

飛び散る

群れる。

輝く

花々の散乱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

匂われた、髪の毛の匂い。じゃれつくチャンの立てた嬌声を聞く。想いだす。昼すぎになって目覚めた理沙と、朝ご飯を食べに行く。昼下がりの日差しの下に、振り向いた髪の毛がわたしの二の腕にふれた瞬間に、道玄坂に轟音が響いた。叩き付けるような。その破裂音。トラックが街路樹にぶつかって、横転していた。群がった人々が歓声を立て、救急車はまだ来ない。人だかりの向うに、血痕が見えた。その、アスファルトを穢した黒い色彩。僕が背伸びするのを「行こうよ」理沙は、僕の袖を「やだよ」破ってしまいそうに引く。力ずくで立ち去ろうとする理沙の、髪の毛の匂い。わたしはそれを嗅いだ。僕は言う、待って。後ろ向きのままの、眼をそらした理沙を、わたしは後から抱いた。僕の腕に、理沙の体温があった。

見たくない。行こう。理沙が言った。

早口に、ささやくように。それは花屋のトラックだった。

散乱

大量に積み込まれた花々が、霞想(かすみそう)道玄坂に薔薇。撒き散らされて、百合。アスファルトは木蓮。その色彩に明日散(あすちるべ)まみれた。華麗人(カトレア)足元から、雛罌粟(ひなげし)向うまで。南国紅(ハイビスカス)埋め尽くされた、純愛花(スイートピー)そして匂う。理沙の髪の毛の匂いの向うに、花々のそれ。背後で悲鳴が立った。男が立ちあがろうとして、血を吐いたらしかった。誰もが、口々に何かを言っていた。叫ぶように。花々を見詰めた。

その色彩を。

匂う。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.05.20.

Seno-Lê Ma

 

 

 

 

 

 

 

 

 



読者登録

Seno Le Maさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について