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(6)雲の上の人たち-2

「お父様でもある前社長がご病気で亡くなる一ヶ月も前に社長は内示を受けていたはずですが?」
「俺は飲み屋であいつと話をした時にあいつを試してみようと思ったんだよ。自分の会社とそのトップを甘く見ているあいつをな」
「それにしても社長の小芝居はともかく気球というのは少々大げさ過ぎる仕掛けではありませんか? 他にも吉沢さんを試す方法はあったでしょうに」
「あいつが『雲の上の人』になりたいと望んだんだ。昇進試験だけに気球だ。がっはっは」
 神木は丸尾の胸元を指さして尋ねた。
「なるほど……、ところでそのネクタイピンは?」
「ん? ああ、これな、コレの部屋に行った時に置いてあったモノを貰ったんだよ」
 丸尾は小指を立ててそう答えた。
「それは私が吉沢さんに差し上げた物ですが」
「ほう、そうなのか。吉沢の『聡美』に代わって礼を言っておくぜ」
 神木は鋭い眼光でこう言った。
「社長の本当の目的は痴情のもつれからくる吉沢さんの処分ではありませんか?」
 丸尾は笑いを押し殺しながらこう答えた。
「くっくっく。まさか、友人の俺がそこまで考えるはずもなかろう。もっとも、痴情、いや地上でもつれて雲の上の人になるってのは洒落てるじゃないか。がっはっは」
「本当に大胆不敵と申しますか。丸尾社長というお人は底知れませんね……」
 呆れたように神木がそう言うと、丸尾はあっさりとこう言い放った。
「一応、言っておくが俺は今フリーだ。聡美も後半年後にはフリーだ。俺たちの間に何の問題もない」
 丸尾は社長職着任後直ぐに離婚していた。
「本当に酷い方ですね、丸尾社長という方は」
「ふん、だがそんな俺を抜擢したのはお前だろう? 神木担当兼執行役員さん」
 苦笑しながら神木はこう答えた。
「ふふふ、そうでしたね。我々役員はあなたの今後の活躍に期待していますよ」
「いや、しかし部下の素振りから気球の手配までアッサリとやってのけるなぁ、お前は」
「いえいえ、いろいろな方のお世話になりっぱなしです」
「まさか、あの神木執行役員が実はお前の名前をもじった架空の役員だとは思わんよな。
ところで、誰だよ、あのオッさん?」
「売れていない役者さんですよ。私もあの演技力に感服しました」
「使えそうだから契約社員として雇っておけ」
「承知しました」


(6)雲の上の人たち-3

 そして、二人の短い歓談が終わると神木は立ち上がってこう言った。
「さて、ではさっそく吉沢さんのウチへ行って参ります」
「何か用事か?」
「香典の手配をして参ります」
 今度は呆れたように丸尾がこう呟いた。
「本当に優秀な奴だよ、お前は」(了)

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