目次
(借景資料集)
【速報!】 第2回 「青い鳥文庫小説賞」
(第4稿)
(第4稿)as(最終稿)
(添付挨拶状)
(あらすじ) (2018年9月23日)
序章 《 朝日ヶ森 》
第1章 リツコ、異世界へ行く。
第2章 リツコ、異世界で目覚める。
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、取材する。
第8章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第9章 リツコ、役に立つ。
終章 リツコ、地球に帰る。
(第3稿)
(第3稿)
(表紙)
(あらすじ) (2018年9月16日)
序章 朝日ヶ森 学園
第1章 リツコ、異世界へ行く。 (2018年9月16日)
第2章 リツコ、異世界で目覚める。 (2018年9月16日)
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第8章 リツコ、戦う。
第9章 リツコ、地球に帰る。
(第2稿)
(第2稿)
(あらすじ) (2018年9月8日)
1-0-0.朝日ヶ森「学苑」(おもて)
1-0-1.朝日ヶ森(うら) (2018年9月8日)
1-1-0.リツコ、呼ばれる。 (2018年9月8日)
1-1-1. リツコ、出かける (2018年9月8日)
2-0-1.リツコ、異世界に着く。 (2018年9月9日)
2-0-2.リツコ、挨拶する。
2-1-1.リツコ、清峰鋭にあう。
2-1-2.リツコ、異世界の村へ行く (2018年9月9日)
2-1-3. リツコ、空を飛ぶ。 (2018年9月9日)
3-0-0. リツコ、悪夢をみる (2018年9月10日)(加筆)
3-0-1.リツコ、起こしてもらう。
3-0-2. リツコ、情報交換する
3-1-0.リツコ、朝寝坊する。
3-1-1.リツコ、右将軍にあう。
3-1-2.リツコ、皇女に会う
3-1-3.リツコ、マシカとあう。
3-1-4. リツコ、市場へ行く。
3-1-5. リツコ、天幕に泊まる。 (2018年9月11日)
4-0. リツコ、早起きする。
4-1. リツコ、パレードに参加する。
4-2. リツコ、誇大広告される。
5-1. リツコ、旅をする。
5-2. リツコ、記録する。 (2018年9月12日)
5-2. リツコ、話せるようになる。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第6章 リツコ、旅をする。
(第1稿)
(第1稿)
(あらすじ) (2018年8月17日)
( 目次 ) (2018年8月18日)
0-1.(おもて) (2018年8月18日)
0-2.(うら) (2018年8月18日)
1.リツコ、親善大使になる (2018年8月18日)
1-1. リツコ、出かける
2. リツコ、異世界へ行く。
2-1.リツコ、挨拶する。
2-2.リツコ、清峰鋭にあう。 (2018年8月19日)
2-3.リツコ、運ばれる。
3.リツコ、白王都へ着く。 (2018年8月22)
3-1-0.リツコ、寝坊する。 (2018年8月22日)
3-1-1.リツコ、皇女に会う (2018年8月22日)
3-1-2.リツコ、マシカにあう。 (2018年8月24日)
3-1-3. マシカ、市場へ行く。 (2018年8月24日)
3-1-4. マシカ、天幕に泊まる。 (2018年8月24日)
4-0. リツコ、目覚める。
4-1. リツコ、行列に参加する。
4-2. リツコ、センデンされる。
5-1. リツコ、記録する。
5-2. リツコ、観察する。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。 (2018年8月26日)()
6-2. リツコ、小鬼を救う。 (2018年8月26日)
7. リツコ、まきこまれる。 (2018年8月26日)
8-1. リツコ、魘される。
8-2. リツコ、龍にのる。
9. リツコ、会議にでる
10-1. リツコ、よばれる。
10-2. リツコ、地球にかえる。 (2018年8月26日)
(草稿&没原稿)
(草稿&没原稿)
(1) 朝日ヶ森 (2018年6月3日)
『 リツコへ。 第一日 』 (@中学……1年か2年?) 
(あらすじ) (プロット&目次)
(あらすじ) (プロット&目次)
【投稿用】プロットメモ (2018年7月22日)
400字~800字程度のあらすじ。 (2018年8月17日)
(設定資料集)
(設定資料集)
このコだ! 「鍵になるキャラ」…っ!www (2018年6月30日)
(( ことばよ、つうじよ! ))  (2018年8月9日)
(サ行前の雑談など)
(サ行前の雑談など)
【ぐれてる理由】。(--;)。 (2018年5月13日)
『 リツコ 冒険記 』 ~ 夏休み ・異世界旅行 ~ (1) (2018年6月3日)
(案の定【天中殺中】で頓挫している) (2018年7月22日)
…ちっ! …やっぱり…『落ちた』か…★ (2018年8月12日)
次ぃ征くぞ! 次っ! (2018年8月12日)
★ 【講談社 『 青い鳥文庫 』 の呪い!?】の謎。 ★
奥付
奥付

閉じる


<<最初から読む

13 / 104ページ

第7章 リツコ、取材する。

第7章 リツコ、取材する。

 

 7-1. リツコ、神話を知る。

 

 なにしろリツコは元々かなりのおしゃべりの質問魔で好奇心旺盛だ。今までは相手が言ってることを聞いて理解するだけで、自分から質問できるのはマシカと鋭だけだった(日本語が通じるもう二人のうち雄輝は先行隊にいて不在だったし、そのせいで?なのか皇女サマはいつも機嫌が悪かった!)…が、今度からは、知りたいことについて、こちらから聞いて回れる!
 もう大喜びで鉛筆とノートの束を小脇に抱えて、キャラバン中を前から後ろまで朝から晩まで、もちろんちゃんと他の手伝いもしながらだったが、すべての人を質問攻めにしてスケッチやメモをとってまわる姿が、旅の名物のひとつになった。
 さて。
 分秒刻みであちこちから色んな人に呼ばれている鋭よりは少し時間に余裕がありそうなソウの名簿整理の作業を手伝いながら、気になっていたことを聞いてみた。
「なぜ毎日次々に荷馬車隊の人が代わるの? 同じ人たちにずっと泊りがけで付いて来てもらったら、仕事がらくになるんじゃない?」
 なにしろ大人数のキャラバンの食糧や大天幕やその他色々を運ぶ荷馬車隊はそれだけで大小百台近いのに、ごく少人数の馬番以外の荷積みや御者の仕事の人たちは毎日日替わりで地元の人が来て、朝に集合して点呼して名簿を作って担当の荷馬車を割り振って、一日仕事をすると、晩餐会の御馳走と美女たちの舞や歌をめいっぱい楽しんで二日酔いになるほど呑んで、翌朝には日雇いの給金代わりの小さな返礼品を受け取って、新しく集まって来た今日の地元の人たちと交代して、家に戻ってしまうのだ…。
 で、また最初から、点呼して名簿を作って荷馬車を割り振って…の作業を繰り返すソウたちの仕事量は、かなりの負担になっているはず。
『…ああ、御存知ありませんでしたか? われわれ大地世界の住人のうち、生粋のダレムアト達は、自分の土地から遠く離れることを苦痛に感じるのですよ。女神の意志に反するという信仰で。』
「そうなんだ?」
『市井の庶民や農民たちだと、生まれた場所から歩いて日帰り…遠くてもせいぜい一泊かそこらで帰れる距離より遠くへは行かずに、一生を終える者がほとんどですね。それより遠くへ旅することを楽しめるのは、大地世界全土を「我が家」と呼ぶ皇家にゆかりの皆様か、我々のように地球系か《ボルドム》の血が入っているヨソ者か、滅びた《エルシャムリア》の末裔の方々。あとは例外的に、知水神(ヨーリア)学派に属することに決めた人たち。』
 ん? とリツコは引っかかった。
「あれ? ソウさんってヨーリア学派の人じゃないの?」
『違いますよ? 服の色が違うでしょう?』
「…ごめんなさい。そこまで見てなかったー!」
 言われてみれば動きやすくて優雅な形はよく似ているものの、鋭たちがいつも着ているのは深い青か紺か水色を中心にして差し色は白か銀鼠色を使ういわゆる「マリンカラー」で、ソウさん達のは黒か茶色をベースにして飾りに使うのは黄土色とか赤土色とか萌黄色とか、いわゆる「アースカラー」系だ。
『私どもは遠方への移動が苦にならない点を活かして皇家や王家や領主家にお仕えしている外役人です。些細な用件での使者として往来したり、交易隊の管理をしたり。』
「そうなんだ。」
『特に私などは地球系だけでなく《ボルドム》の穢れた血もひいておりますからね。他の仕事に就くことなど出来ないのです。リレキス様やヨーリア学派の方々のような高いお志とは、無縁の者ですよ。』
 自嘲するように低くソウはつぶやいた。
 リツコは目を点にして返事に困った。…穢れた血? …マグルのこと? …ボルドムの穢れた血? …って言った? …今の翻訳? …あってるのかな…??
 何度かまばたきをして、考えてみる。
 …自分が生まれ育った世界に、ご先祖様の国が、一方的に攻め込んで人を殺しまくったりしてたら、どんな気分で暮らさなくちゃいけなくなるのかな…?
 いくらなんでも好奇心だけであれこれ質問しまくってはいけない問題だということだけは、リツコにも判断がついた。
「…えーとそれで…《エルシャムリア》って、昨日、宴会の時にお芝居してたやつ?」
『そうです。今はもう滅びた《天宮界》ですよ。』
「神話じゃなくて、実話なんだー。」
『?』
「…じゃ、遠くまで行ける人たちに、旅のあいだずっと付いて来て、って頼めば?」
『そんなに人数が居ないのですよ。すでに外役人としてどこかの家に勤めている者以外は、皆、独立した商人や遊牧民ですからね。これほどの大人数に長期間の仕事をまとめて頼めるとしたら、長旅には向かない冬の積雪期ぐらいでしょう。』
「そうなんだー。」
 それからリツコは《エルシャムリア》とこの世界の神話について、昨日の宴会芝居だけでは解らなかったことを色々質問して教えてもらった。
 世界は初め四つあって、姉・兄・妹・弟の神様がそれぞれ治めていたが、何やら壮絶な姉兄げんか?が起きて、姉は殺されちゃって《天宮界》も滅びて、兄はその罪で捕まって偉い神様に《ボルドム》世界の奥の牢屋に閉じ込められてて、姉の死を嘆き悲しみながら争いごとの後遺症で死んじゃったらしい妹の神様が遺した世界が、この《ダレムアス》。その兄姉ゲンカをみてグレて家出しちゃった?らしい弟の神様が遺した世界が《地球》。
 おなじ遺された世界同士、昔はもっと仲良しで、地球の時間で数万年くらい前までは、ところどころに残った通路で思い出したように行き来があったらしい。今でも地球世界の各地に翼のある人(天使とか天狗とか)や毛むくじゃらの雪男とか狼男の伝説があったりするのがその名残。リツコがいた朝日ヶ森とかも、たぶん、その流れを汲んでる。
 でも何かでいつの間にか通路がずれ始めて、通りにくくなって、行き来が途絶えて… 
お互い、忘れかけていた。らしい。
 そのズレの原因が《ボルドム》世界からの攻撃?のせいで。地球に繋がっていたはずの通路の遺跡から、あるとき突然、《ボルドム》の鬼人たちが大量に《ダレムアス》に攻め込んできた。
 それで当時の《大地世界》の首都だった《白都》というところが奇襲攻撃を受けて滅びて。今のあの皇女サマの両親もその時に戦死しちゃって。それで占領軍の追手から逃れて皇女サマは地球に亡命して。しばらく朝日ヶ森で暮らして、たまたま知り合った雄輝と鋭と一緒に(鋭の言い分では「まきこまれて」)戻って来て…
 長い長い戦争を戦い抜いて、ようやく鬼人たちを元いた世界に追い返して、封印して…
 …で?
 この旅の一行がいま何のために西へ向かっていて、どういう理由でリツコはここに呼ばれて来たのか?
 そこまで聞く前に、ソウは忙しくなってしまった…。

 
 7-2. リツコ、野球を教える。

 途中から合流したり大きな街道の分岐点で手を振って別れて行ったりで増えたり減ったりしながら常時何百人もの規模で動き続けている旅の一行の内訳はといえば《西方諸国》とくに《西皇家》を相手に北西太湖で開催されるという諸侯会議に《白王家》代表として出席する戦勝皇女とその兄と伯父上と、鋭やマシカやソウなどの側近や幕僚や重臣たち。
 それを手伝うため付いて来た侍女や従者や料理人や職人や、食料や資材の調達係の商人たちと、護衛のために参加している雄輝たち武将の一隊。そして荷馬車隊の馬番までが「ずっと一緒に」行ける人たちで、荷運び人足や御者たち百人くらいが地元密着型の応援部隊で「日雇い」。
 それとは別に、見るからにとても家柄の良さそうな、超のつく豪奢な服装で着飾って旅をしている謎の美女軍団のお姫様たちと、そのまた美形ぞろいの侍女たち従者たち専属の近衛兵たちでこれまた合計が二百人くらいいる。
 このお姫様たちは何故こんな場違いな野宿の長旅に参加しているのか? リツコは前から不思議でしかたがなかったので、言葉が通じるようになると早速お茶に呼ばれて行って質問してみた。するとお姫様たちは一様に笑って、『さて、何故でしょうね?』と答えをはぐらかす。
 夜ごとの宴会でみごとな歌や踊りを披露してくれるし、それを目当てに詰めかける地元の人たちが大層多かったので、最初は諸侯会議に「華を添える」ためのプロの芸人さんたちかとも思ったけれど、聞いてみたらお姫様たちはみんな皇女様たちのイトコとかハトコとか… つまりほぼ全員が「皇族ゆかりの」やんごとなき深窓の御令嬢たちだった。
 それに、旅の間ずっと着飾るばかりで何の仕事もしていないのかと思ったら、そうでもない。
 鋭やソウたちが地元の歓迎係や荷運びの人たちにせっせと配りまくっている「返礼品」…かわいらしい小さい装飾品かと思ったら、「お守り」で…「皇族ゆかりのやんごとなき血筋の」お姫様たちが、旅のあいまにせっせと手作りして「神力」を込めている、御利益のある品物だった…。
 そんなお姫様たちは移動中も箱馬車の中で忙しく手と口を動かし続けていたので滅多に外に出られず、たまに見晴らしの良い場所などで降りて遊び始めると後衛隊から安全確保のために本隊から離れないでくれとせっつかれるしで、ろくに息抜きもできない。
 お姫さまたちのなかでも一番身分の高いらしいソノ姫…『マ・ミア・ミ・ソノワ・エリエリ!』(世界で一番たっとい姫様!)と侍女たちが恭しく呼ぶ、戦勝皇女と兄皇子よりも唯一年上の、《皇家長姉》(皇太女)という立場らしいイトコ姫…に、
『わたくしたち退屈しておりますの。なにか地球の遊びを教えていただけません?』と、キャラバン唯一の子どもであるリツコは頼まれてしまった。
 うーんと、リツコは困った。
 トランプやウノやオセロは持って来なかったし、実はほかの人に教えられるほどルールに詳しくないし、よく似た感じの手札遊びはこっちの世界にもちゃんとあって、わざわざ「地球の遊び」として教えてみても、あんまりアリガタミがなさそう。
 地球というか日本の地元でいつも自分がやっていた遊びというと、こういう女の人むけのお手玉とか綾とりとかオトナシイのは苦手で、もっぱら泥だらけになって泥警とか、缶蹴りとか、屋外の遊びばかりで…
「あ、そうだ。」
 思いついて、ちょっと聞いてみた。
「この世界に、野球とかサッカーとかの球技って…ある?」
『キュウギ? 玉の、技の、遊び。ですか…?』
 発音と漠然とした意味しか通じなかったらしい。つまりこっちには存在してない言葉。そういえば通りすがりの街とかでも子どもがボールを持ってるところを見たことがない。
 …あれだけ色んな踊りが巧いんだから、運動神経は良さそう…とリツコは思って、
「道具を用意するから明日まで待ってー!」
 と言ったら、お姫様たちはすごく嬉しそうに、期待に満ちた目になった…。
 リツコはちょうどその日の午後に通りかかった街の市場で、前に鋭から「なんでも好きに買っていいよ!」と渡されていたお小遣いを使って、分厚い皮の端切れをたくさんと、羊の毛のもしゃもしゃした固まりを一山買って来た。
 お姫様たちが細工物を作るのを見ていたのでやりかたを真似して、まず型紙を書いて、皮を切って、穴を開けて、綴じ合わせて、綿をぎゅうぎゅうと、しっかり詰めて…。
 夜更かしして何時間もかけてようやく出来上がった不格好なしろものを見て、マシカがちょっと絶句した。
「リツコ、その… 鍋つかみのおばけみたいな手袋と、毛玉のおばけみたいな丸いもの…何?」
 すごーく、遠慮がちに、質問してくる。
「グローブとミット! …とボール!」
 バットの代わりにちょうどいいものもちゃんと見つけて買ってあった。料理の時に練粉を伸ばすのに使う、地球のやつと見た目も使い道もそっくりの…大きな麺棒だ。
 翌日さっそく、
「鋭ー! 時間あったら野球やろうよー!」
「えぇ?」
「お姫様たちと! 人数少ないから三角ベースでー!」
 と、声をかけて場所を確保していたら、なんだなんだと、お昼休みで馬車を停めていた人たちが、わらわらと寄って来た。


 7-3. リツコ、勝負する。

 驚いたことに、鋭は野球がヘタだった。運動神経はいいのに!
「うーん。地球に居た小学生の頃は、本ばっかり読んでた科学小僧だったからねぇ…」
 みごとに三振からぶりをかました後、苦笑して仕事が忙しいと言って逃げてしまった。
 代わりにリツコが打ちかたを実演して見せようとしたが、今度は打てる球を投げられるピッチャーがいない…。
「…誰か、投げてみたい人ー?」
 衛兵の誰かなら立候補するかと思って訊いてみたら、また驚いたことに、ミソノワ姫が名乗りをあげた。
『その丸い毛玉を投げて、その革製のマトの凹みに当てればいいんですの?』
 慣れない人が投げる場合はキャッチャーが危ないので、代わりに地面に突き刺した棒の上にはめこんだミットは、マトじゃない…と説明する暇もなく、風変わりなモーションで、ひらひら服のお姫様は一発でみごとに「玉を的に当てて」いた…。
「えっうそ! すごーい!」
『わたくし剣や馬はからきしですけど、当てものなら少しは得意ですの』
「なによ、なに面白そうなことやってるの?」
「リツコ、交ぜて交ぜてー!」
 なぜか皇女様とマシカもやってきた。
 地球で育った皇女様は野球のルールくらいは見知っていたので、リツコが投げた。
 ………ぼふーーーーーーーーーん!
 変な音だったけど、みごとにバット代わりの麺棒の真ん中にヒットして…
 手作りのへろへろボールは一発で縫い目が裂けて羊毛をまき散らしながら、ほぼホームランな飛距離をかっとんだ挙げ句、街道脇の小川の流れに、ぽちゃんと沈んで消えた…。
「…”あ~!…」
 リツコは、ちょっとかなり、ぐれた。
『それでは、当てもの競争にいたしましょう!』
 ミソノワ姫がリツコの頭を撫でて慰めてくれながら、景品にとっておきの一番美味しいおやつを賭けると言った。
 それを聞きつけた女性群が大勢と甘いものが好きな男性陣も集まって来て、われもわれもと、河原の石を拾ってきてはキャッチャーミットに投げた。
 ミットもあっという間にぼろぼろになってしまったので、代わりのものを用意して。
 当てものは得意だと自慢したミソノワ姫はしかし飛距離がなくて、こちらのルールに従ってだんだん的を遠くしていくうちに残念ながら敗退した。
 情け容赦なくビシビシと実戦の大剣で鍛えた剛腕を披露する皇女サマは、距離は飛ぶけど意外にノーコンだった。
 マシカは「弓なら負けないんだけど!」と悔しそうに云いながら中盤ぐらいで消えた。
 少しずつマトを遠くへずらしていって、腕に覚えのある人が順々に投げていって…
 近衛兵で狩人出身という男の人と、リツコが決勝戦になった。
 僅差の接戦で、リツコが勝った。
 だてに小学生リーグ最年少の県大会優勝投手じゃないもーん!と勝ち誇って、優勝賞品の「いちばんおいしいお菓子」に、がぶりと遠慮なく喰いついた…。
  おとなたちは楽しそうに笑って、そんなリツコを優しく見ていた。
 

 7. リツコ、聞き書きする。

 《仮皇都》を出てからずっと広大な平野となだらかな丘陵地が続いて、畑と森と牧場が交互に広がる穏やかな土地を進んできたが、小高い峰が幾つか連なる《屏風山系》からは少々難所で、中腹をうねうねと折り返しながら峠越えする《白の街道》の道幅も少し狭くなっていて、数日かけてゆっくり越えるしかないらしい。
 その山間から右手はるかに見える《北平原》という地域は先の《ボルドム》軍との最終決戦の場だったそうで、遠目にも大地が変にえぐれたりして赤剥けて、数年たってもまだ植物が生えてこない、おかしな状態だと判る。
 皇女マーライシャ以下、雄輝や鋭やマシカたちみんな、その合戦に参加した武人たちは「追悼と慰霊のため」と本体から離れ、馬を早駆けさせてそこまで往復してくるという。
 走る馬にはまだ乗れないリツコは残念ながら留守番組に振り分けられて、その間はミソノワ姫が預かってくれることになった。
 山道は重い荷を曳く馬たちにはきつい勾配なので、姫君たちも丈夫な沓と動きやすい服に着替えて、車列から降りて歩いて登った。
 この山間地には住人が少ないので、両脇の街道口に常駐している荷運び関係の仕事の人たちが、三泊四日?くらいの間、ずっと馬車と一緒に移動してついてきてくれるそうだ。
 毎日大量の「返礼品」作りに忙殺されていた姫君たちは三日も解放されることを喜んでいて、巫女舞の修練で鍛えた脚力を発揮して、文句も言わずにせっせと歩いて登った。
 リツコも、これは良い機会だと喜んで姫君たちに話をねだった。
「あのね、そもそもどうして皇女サマは、あんなにものすごく機嫌が悪かったのに、いっぺんで治っちゃったの??」
『…それは少しばかり長い話になりますけれど…』
 あいまにたくさんの脱線や雑談や、そのときの話題にまつわる神話を謡った有名な歌や遊びや、食事やお茶休憩で中断しながらも、姫様たちは律義に、山越えの間中を使って、だいたいの話を説明してくれた。
『そもそもこの《大地世界》ダレムアスが《初めにありし四界》のうちの一つであり、
《妹女神》と呼ばれるマライアヌ様の創始した界だというのは、もう聞いていますか?
 女神マライアヌ様が愚かな戦乱に倦んでお隠れあそばした後、その御子、女神と人王との間に生まれた《半神女》マリステア様が界の統治を引き継がれました。
 そのマリステア様は半神であられたゆえ、ただ人に比べればたいそう長い寿命でいらっしゃったので、その生涯に何人もの夫や恋人や情人を持ち、何十人ものお子を産んで増やされました。
 マリステア様が亡くなられた後もしばらくの間は、そのたくさんの姉妹兄弟たちの子々孫々は、それぞれの血族ごとに分かれて暮らしながらも、ほぼ穏やかな間柄を保っていたそうですが…
 やがてこの世界の中心《始原平野》マドリアウィが手狭になると、争いを好まなかった人々は新たな土地を求め、野をかこむ山のあちこちの谷筋から抜けて《大地の背骨山脈》の山間から裾野へ、ふもとから四方八方へと、どんどんと散らばり広がり続け、仲の悪い部族同士などはすっかり疎遠になって物心ともに離れ、ばらばらに別れていきました。
 もう今ではマドリアウィ野に戻る神の道さえ失われてしまった時代。お互いの言葉すら遠く異なってしまって、誰ももう世界全体のありようが把握できなくなった時代に…
 それでは何かおかしいと、旅に出て世界と人々を繋ぎ直した、勇敢な姫がありました。
 姫はこの《大地世界》をくまなくめぐって領主や国主を説得して回り、今この私たちが歩いている《白の街道》のもといを作り、宿場と貨幣の制度を整え、またそれまでは冷遇されていた地球やボルドムからの移民を取り立てて外役人という仕事に就かせました。
 その功績をもって、生まれは《血の薄き姫》と蔑視されていた《尊称なきミトル様》は人々から《女神の遠き孫》という美称を授けられ、今はなき《白の都》ルア・マルラインを新皇都と定めて、《大地世界》の再統一を宣言しました。
 ところが、既にあった《聖皇家》モルナスの、女神の血を最も濃く受け継ぐと誇る方々が、移民の子孫や血の薄き者らによる世界の統治には、異を唱えられたのです。
 当時のモルナス皇が、その後継の長子を夫とするようミトル様に要請しました。
 濃き血筋の古株に、白き若枝を接ぎ木として利用するおつもりだったのですわ。
 ミトル姫はそれを退けられ、旅の仲間であった平民の出のアステト・アルラを男皇と定めました。わたくしやマーライシャ姫がこの御二方の子孫にあたります。
 モルナス皇はこの縁組から生まれる《女神の血の薄い》皇家を快く思わず、一時は戦乱になるかと危ぶまれました。
 戦は回避され、《濃き血の力》を誇るモルナス皇家はそれを誇示するために、血の薄き者らには棲みづらい《西の荒野》の向うに都を移しましたが、それ以来…
 何十代の長きに渡って、《西皇家》は《白皇家》の後継者に、婚姻によって二つの皇家を統一するべきだと、説得と求婚を、し続けてきたのですわ…。』
 一体いつ当代の皇女サマの話にたどりつくのか、必死で聞き書きのメモをとりながら、リツコは不安になった。
『そしてもはや百年近くも昔のこととなりましたが、わたくしもマーライシャ姫も、今のリツコよりもっともっと幼く無力であった頃。世界に異変が相次ぎ、間もなくボルドムの悪鬼らが界壁を破って攻め込んでくることが判りました。
 当時の男皇を務めていたのがマーライシャ姫の父君ですが、その皇妹であるわたくしの母が《西皇家》への使者を務め、西の三皇子が率いる援軍が遣わされました。そしてその長子クアロス様が、両家縁組の話を蒸し返したのですわ。
 マーライシャ姫はまだ本当に幼かった。恋も婚姻もなんのことやら解らぬうちに、はるかに年上の、すでに成人していらしたクアロス様に言いくるめられて、求婚に承諾をしてしまったのだそうです。
 幼いとは言え、皇家直系の巫女姫が神力をこめ祝詞を唱えて誓約したのであれば、正式な約定。大人になってから考えなおしたからといって、断ることは難しくなります。
 …ところがマーライシャは…、そのぅ…』
「あ、やっぱり、雄輝のことが好きなの?」
『…やはり、リツコの目から見ても、はっきりそうと解りますか…。』
 少々困ったように嘆息してミソノワ姫は言いよどんだ。
『そのこと自体はあまり問題にはならぬのです。正式な政治上の男皇はクアロス様と定めた上で先に後継の子を産んで、それとはまた別に、マダロ・シャサ殿は武人としても誉れ高いかた。堂々と女皇の情人と誇示して愛すれば、姫の名誉にこそなれ、誰も咎めることなどありません。こちらの世界では特に問題になることではないのですが。そう言って、まわりの者みなで説得を試みたのですが、』
「そうなんだ…」
 リツコはちょっとびっくりして聞いていた。
『ただ… マーライシャ姫はその後、《ボルドム》の追っ手を逃れて地球で育ちました。
今リツコが驚いたように、その考え方はできぬと。望まぬ子は産めぬと』
「…そりゃそーだよね~…?」
『あのように荒れて荒れて…』
 従姉姫は深いため息をついた。
『いっそ、マダロ・シャサ殿と相愛の仲でさえあれば、地球で言う「駆け落ち」でもなんでも、させてやりたいところでしたが。』
「……あれ、やっぱり、…皇女サマの片想い…??」
 おそるおそる質問すると、ミソノワ姫は深くうなずいた。
『このことばかりは他人にはどうにもなりませんが、ただ』
「ただ?」
『西皇家が婚姻の日限を迫ってきたのですよ。戦も終わったことゆえ、昔の約定を疾く果たせと。』
「え~★」
 それはひどい。リツコは初めて、皇女サマのあの荒れっぷりを理解して同情した。
『それゆえ伯父上と兄上が大層ご心配なさって。本当に、幼き頃のマーライシャ姫が神力をこめて《婚約の誓言》を唱えてしまっていたのかどうか…
 そこのところを、探りに行かれていたのですわ。』
「…それって…」
『えぇ。幼いころのマーライシャ姫が理詰めで婚約を迫られて、その説得には首肯したとしても、その場で誓言まで唱えたと言うのはクアロス皇子のハッタリに過ぎない可能性が大きいと。
 その他に、マーライシャ姫が生死不明であった時期に、すでに正式に近く娶っておられた妃女もその子女も複数おられると。』
 …ちょっとリツコはあっけにとられた。
 …そんなんで、よく、あの皇女サマを、騙して結婚させようとか、思うなぁ…!
『それで、婚約無効と断ることが出来ると判明したので、機嫌がすっかり直ってくれたというわけですわ。』
 そんな噂話をされているとは知りもせず、山越えの後半、皇女サマたち別動隊の一行は、無事に予定通りに、本隊に合流しなおしたのだった。


第8章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。

第8章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。

 

 8-1. リツコ、訪問する。

 

 侵略者《ボルドム》軍を元の世界へ追い返す決戦がおこなわれたという合戦場の跡地へ、戦没者の追悼と慰霊の式を行うと言って出かけた皇女サマたちの別働隊が、山越えを終えた本隊と、反対側の山裾近くで無事に合流した後。
 それまで使われていなかった、ずっと何かの予備用なのかと思っていた、特別大きくて立派な馬車に、お客人が増えているらしいことに、リツコはすぐに気づいた。
 いくら行列の中で一番偉い皇女サマとは言っても侍女や従者の数が少し多すぎじゃないかと思っていたうちの半分くらいが、その箱馬車の世話や護衛にまわされている。
 ところが、そんな大事なお客様なら当然、夜宴の時にでも皆に紹介されて歓迎されると思っていたのに… 何日たっても、その馬車の中から出て来ない。
 鋭と皇女サマだけは毎日様子を見に寄っているが、その他の人は、姫君や重臣たちまで含めて、むしろその存在自体も公然の内緒というか「いないふり」「気がつかないふり」をして、避けているような… おかしな雰囲気だったので。
 リツコはまず、こちらの世界の自分の行動の管理責任者ということになっているらしい鋭に、お伺いを立ててみた。
「ねぇ鋭? あの馬車の中の人には、話しかけてはダメなの?」
「うーん。悪いってことはないよ? 彼女も退屈しているだろうし… ただ。」
「なに?」
「ボルドムのね。敵国のお姫様なんで… 見た目がちょっと。こっちの人たちには怖いらしくって。」
「…見た目ー? だってこっちの人って普通に、毛皮だったり四つ足だったり羽が生えてたり…」
「まぁ、ぼくら地球人からすると、区別が判らないんだけどねー?」
 苦笑してうんうんとうなずきながら、
「きみのいう《モフモフ系》の人たちは見た目が爬虫類の人って本能的に苦手みたいで。ソウもあの金色の眼のせいで、なんとなく避けられてるでしょ? それに、家族や友だちをボルドムに殺されてる人も多いしいさ? やっぱり仲良くは、しにくいみたいで。」
「…あ、そうか…」
 リツコは自分が鈍かったことを反省する。
 それでも鋭が、
「挨拶したければ行ってもかまわないけど、もし怖くても、悲鳴をあげたりはしないであげてくれる?」と言うので「うんわかった!」と返事して、早速、昼ごはんが終わった頃を見計らって、ゆっくり動き始めた目あての馬車に、正面から訪問してみた。
「こんにちわー!」
 先日まで皇女サマ付きだった顔見知りの侍女の人たちに取次を頼むと、
【…だれじゃ…?】
 それまで聞いたことのないシュウとかグウとかガ行の音が多い言葉で、馬車の中から、女のひとらしい少しかすれた低い声がきこえた。
「リツコっていいますー! あのね、退屈じゃないかと思って、遊びに来たんですけどー!」
【…おや? あの地球人の子どもか? 我の話し相手に?】
 声の感じはむしろ嬉しそうだった。
【…マーライシャにでも言いつけられたか? 我が怖くないのであれば、上がっておいで。】
 リツコはむろん大喜びで超豪華な大型の箱馬車に上がり込んだ。
 どのくらい豪勢かというと、皇女サマ用のやつより高そうに見える外見で、見れば内装も見事で、細かい細工の繊細な飾りで、綺麗に整えてある。
 敵のお姫さまはリツコが馬車の扉を開けたとたん、それまでは脱いでいたらしい大きな黒っぽい布を頭の上からするりとかぶって全身を隠してしまった。
「…えーと…」
 リツコは面食らって固まった。何かの宗教の衣装のような気もする。
「…お顔を見ちゃったら、なにかまずいのかしら…?」
 ちょっとだけ遠慮しながら聞いてみる。
「…あたし、《ボルドム》の人って、まだ見たことがなくて~…」
【…大地世界人と同じで、《焔洞界》の者の姿も、千差万別なれど。】
 するりと布がはずされた。
【怖くなければ見るが良い。】
 真珠光沢の七色に光る華麗な鱗に覆われた貌の、縦長に切れた大きな金色の瞳の、なんというか…巨大なトカゲな感じのする外見の、だいたいは人型?で、美しい黒いたてがみ付きのお姫様だ。白虹色の肌に金青色のきらきらした爪が長くて鋭くて、何て言うか…ネイルアート?のような複雑な紋様が描いてある。
 怖いか?と聞かれればその眼に睨まれたり爪で脅されたりすればかなり恐いかもだったが、こちらの世界には横長に切れた山羊目の人だっているし、地球にだってもっととんでもない真っ赤に尖った恐い爪をしている人は多い。
「…キラキラして、きれいなウロコね!」
 すなおにリツコは褒めた。お姫様は嬉しそうだった。
 それから侍女の人たちがお茶菓子を持ってきてくれたので、ゆったりと進む居心地良い大きな馬車の中で、色々とおしゃべりをした。
「じゃあ敵国のお姫様でも、捕虜とか人質とかじゃないのね?」
【我はみずから来た。あちらに捕らわれていたマーライシャを救け出して、こちらへ送り還すついでにな。我は我が《焔洞界》ボルドガスドムの後継公主であるが、あの界の今の有り様は好かぬのじゃ】
「どういうこと?」
【我は弱い者虐めを好かぬ。娯しみのためと小者をいたぶり殺すがごとき愚行をなす帝は厭じゃ】
「ふーん…。あたしも、弱い者いじめは嫌い。」
【気が合いそうじゃの】
「そうだね!」
 敵国ボルドムからの亡命姫さまは、リツコが気に入ったようだった。
【我が名は《焔洞界》ボルドアレイ・ガースダルム帝国が後継長公主、ディ・デュイ・リジューディー・ディーディイーリヤという】
 改めて正式に名乗ってくれたのはよいが、
「…でぃ… でじゅ… りじゅー・でぃー… 」
 リツコは絶句した。何度か練習してみたけれども、どうしても、滑らかに発音するのは無理だった。
【…我のことは愛称の《ダーモレア》(黒姫)で呼ぶが良い。】
 そう苦笑して言ってくれて、別れ際には美味しいお菓子をおみやげに持たせてくれた。
 それから旅の間よく一緒にお昼ごはんを食べておしゃべりをする仲になった。

 


 8-2. リツコ、事情を聴く。

 

「じゃあ今までは、その合戦の跡地のそばに居たの?」
【大地世界の余の者には、投降して来た捕虜らの一団であると説明されておるらしいの。いささか不名誉なことではあるが。侵略軍である我らボルドムの者がよく思われぬという事情は解る。したが我々とて大地世界の国々が諍いあうと同じく。一枚岩ではない。】
「どういうこと?」
【我が小叔父であるボルドムの現帝は歴代の中でもとりわけ暗愚にして暴虐。嫌われておっての。気に入らぬと言うては小者をいたぶり殺してゆくがゆえに界の補修が立ち行かなくなり、このままでは遠からず、ボルドムは界ごと滅びる。】
「えぇ?」
【それを苦言した者も殺されて、界が壊れるなら隣の《大地世界》を攻め取って移住すればよいと。それ故こたびの攻略戦とあいなった訳だが。…愚行を苦々しく思う者も多くてな。世継ぎの姫である我のもとに、密かに参集しておった。】
「そうなんだ…」
【したが現帝に感づかれての。神の血の濃き姪である我に、己が卵を産まさしめて、その仔を新たな世継ぎとなし、我のことは処分してしまおうと。】
「えぇっ」
【我は次の排卵の刻が来るまでの命、虜囚の身であった。その獄へたまたまマーライシャも放り込まれて来ての。…つれづれに話をしておったら、何やら境遇が似ておると、意気投合し。…現帝への造反をなすならば力を貸すと、同じ虜囚の身でありながら放言しおるのが面白うてな。つい、我が配下がわれを救出しに来た折に、同道させてついでにこちらへ戻してしまった。】
「それで?」
【最終決戦の際、ボルドム帝軍の後背より奇襲をかけ猛攻によりダレムアスを勝利に導いたは、我が配下の者らよ。惜しくも現帝めは討ち漏らしたが、戦傷癒えず病の床にあると聞く。我はいましばらく身を隠し、数百年のうちにはボルドムの新帝となる。
 したがあの界にはもはや人数は棲めぬ。戦ではなく講和を請うた上で、こちらの世界に我が民らの移住の許可を求めるつもりじゃ。】
 そのために皇女に頼んで、諸侯会議に参加しに連れて行ってもらうのだと言う。
「…ちゃんと、自分の役割が、解ってるんだ…」
 状況に振り回されてばかりで、いまだに何のために自分がここに居るのか判っていないリツコがそう愚痴をこぼすと、黒姫は面白そうな顔になった。
【…知らぬのか? あのマーライシャはたいした大物ぞ? 伝説のミトラ姫とやらが大地世界を再統一したが如く、今ある大地界と焔洞界と泥球界とを、いにしえのように親しく往来しあう一つの世界となすが夢だそうな。】
「…え~っ??」
【そがために地球世界とは密に連絡をとりあいたいと、その使者役を務める者が欲しいというのが、そなたの召喚されし理由であろうよ。】

 


 8-3. リツコ、まきこまれる。

 

 そんな風に旅は終りに近づき、もうあと数日で、会議開催地の北西太湖のほとりに着くはずだった。
 ところが、なにか様子がおかしいと、沿道の街の様子や森の隙間から垣間見える広大な湖面と岸辺の街並みを眺めて、誰もがなんだか落ち着かなくなった。
 港町に着いた。困惑した顔の太守が出迎えた。
 会議に参集しているはずの諸侯らの姿はどこにもなく、街はなにやら荒れている。
 三日前に突然の酷い嵐があり都邑の半分は一時水没したという。そしてその直後になぜか手回しよく災厄見舞いの品々と共に、宿営地の仕度が間に合わなくば議場を《西皇都》に変更せよと、諸侯らを案内する使者と船と大軍とが、遣わされて来たという。
『それゆえ先に来ておられた皆々様はすでに昨日までのうちに西へ向けて移動を開始されました。』
『…聞いてないわ!』
 皇女サマが激昂した。
『それ故、いまこのわたしめが、こうしてお迎えに参った次第で。』
 湖畔の船まで案内された一行に慇懃無礼な挨拶のまねごとだけして出迎えながら、新たに現われた男が云った。
『マデイラ皇子!?』
 皇女サマが…ものすごく嫌そうに…叫んだ。
「…げ…。」
 鋭と雄輝がハモり、マシカも顔をしかめた。
『わが長兄クアロス皇子が誓婚者であられるマルア・ライシャ戦勝皇女殿下には、御機嫌うるわしく。』
『うるわしくないわよ!』
『あいかわらず、そちらの色魔将軍殿からは、ふられておられるそうで。』
 がん!と無言のまま拳で情け容赦なくマデイラ皇子とやらを殴り飛ばした皇女サマを、リツコは呆然と見ていた。
(…平手じゃなくて、グゥなんだ~!)
『……ここは任せた! リツコ通訳に来い!』
『雄輝!?』
『嫌な予感がする! 公主の様子を見てくる!』
『あたしも行くわッ!』
 リツコがまだ唖然としているうちに、ぽん!と雄輝の鞍の前に乗せられて、あっという間に大型馬は本疾走にうつった。すぐ後ろから大鹿マブイラにまたがったマシカが追って来る。
「どういうこと!?」
「黙ってな。舌噛むぜ!」
 全力疾走で駆けに駆けて、長くだらだらと延びた車列の後方、まだ森の中の難所の手前にいた、ボルドム公主の箱馬車隊のそばまで着いた。
『…ちぃ! やっぱりッ!』
 雄輝が舌打ちして唸った。
『マシカ! リツコ頼む!』
 いきなり人形のようにポン!と投げ上げられてリツコは焦ったが、マシカが難なく受け止めて、大鹿の後ろに乗せかえてくれた。
『…きさまらぁ…ッ!』
 今まさに公主の馬車を襲おうと森の中からわらわらと走り出してきた武装した歩兵たちに向かって、雄輝が騎乗のまま突っ込んでいく。すぐ後から側近の部下たちと、逆走していく雄輝の姿を見て異変を感じて追ってきた商隊護衛兵の一団が続く。
「マシカ、どういうことなの?!」
『公主を暗殺しようとしてるんだわ!』
「えぇ!?」
 鋭く剣がぶつかり合う音が響く。
『マ・ゴリゴ! 何のつもりだ!』
 激しく斬りあいながら雄輝が怒鳴る。
『色魔将! キサマも一緒とは都合が良い! まとめて始末してくれるわ、汚物め!』
 敵騎士は憎しみのこもった声で負けじと怒鳴り返した。
『わが主の許婚者を面妖な術で誑かした卑劣漢が! やはりキサマら地球人はボルドムと結託して大地世界を蹂躙するつもりであろう!』
 激しく打ち込んでくる相手の剣を、まだまだ余裕でかわしながら応戦している雄輝は、むしろ一方的に決めつけられたせりふのほうに、おもいっきりげんなりとして返した。
『…ち~が~う~って。おれは文字通り背中の羽根も自由に伸ばせないような地球に戻る気はもうないの! こっちに帰化して骨を埋めるつもりなんだよ!
 …でもマーシャを嫁にもらう気はないけどな!』
『雄輝いまそれ言ってもこいつらには通じない!』
 いつの間にか参戦していた鋭がやはり真剣で切り結びながら茶々を入れている。
『…あいつは! おれにとっちゃ! 妹なんだよ! …あくまでっ!
 それに俺は! 胸がでかくて! 気立てのいい女が! 好きなの! 美人より!』
 懲りずに勝手なことを言いながらばったばったと左右の歩兵を薙ぎ払う。
 数で勝る敵は懲りずに次々と斬りかかり、金属音が鳴り響き、日暮れ近い薄暗い森の中の細い街道で、敵味方ともに入り乱れての激戦が始まった。
 背中にリツコを乗せたマシカと、後から駆けつけた先行隊の兵たちが、公主の箱馬車を囲んで護る。
『…マッレ・エッタ! ボグン! エ! カ!』…(撥ね飛べ!)
 どうやら向こうの皇族関係者らしい将の呪文が響く。
 激しい衝撃音がして切り結んでいる何人かが馬ごと吹っ飛んだ。
 …見たかんじ…味方のほうが…苦戦を強いられている…?
 リツコは生まれて初めて間近で見る本物の戦闘に震えながら、マシカの背中にかばわれていることに焦った。
 《四軍神》の一人に数えられているマシカは油断なく剣を構えていて、たぶん積極的に戦列に加われば、もっと力になるはず…。
 リツコが、背中に乗って邪魔していなければ…。
 足手まといになっていることにリツコは落ち込んだ。
「あたしを公主の馬車の中に入れて! そうしたらマシカも戦えるでしょ!」
【…良い案だが、少し無駄じゃな。】
 そう言って、公主自身が箱馬車の扉を中から開いた。
【仔細が判らぬが、我も闘おう。】
 箱馬車の外側に、装飾品のように高々と取り付けられていた見事な細工の槍剣の鞘からぎらりと抜き身をひき払う。
【誰ぞ! 我が敵手を務めよ! 我が狙いであるなれば、直截に我を攻めるが良いぞ!】
 リツコは目を丸くする。
 箱馬車や天幕の中ではいつもずっと膝を抱えるようにうずくまっていたけれども…
 外に出て獣脚と背すじをすべて伸ばすと、公主はとてもとても、長身なのだった…
 馬に乗った大地世界人と、対等に、渡りあえるほどに…
『まぁびっくり。』
 リツコと同じく、知らなかったらしいマシカが呟いた。

 


 8-4. リツコ、投げる。

 

 乱戦。
 敵の動きを観察すると明らかに「殺すつもり」で襲われているのはボルドム公主と地球人の二人だけで、同じ大地世界人には怪我を負わせる程度で済むよう加減している。
 しかしそれは雄輝たちも同じで、殺す気で攻撃されてもなお相手を殺しかえす気はないらしい。手加減しながら、敵のほうが人数が多い分、こちらが不利だ。
 しかも…
「…雄輝! 危ない!」
 敵の一人が手近の樹に登り、短矢に何かを塗りつけた上で、雄輝に向け弓を構えた。
 雄輝は敵隊長マゴリゴと数人の加勢を相手に激しく斬りあっていて、リツコの声には気がつかない。
 動きが激しいので弓兵は狙いをつけるのに苦労をしているらしい。
 マシカは今は大鹿の上から弓で敵を射ていて、その高さからでは間にある枝が邪魔で、狙撃兵を狙えない。
 リツコは必死であたりを見渡し、一旦地面に飛び降りて、目当ての石を握ると、すぐにその向こうの樹上に身軽に駆けあがった。
 大枝にまたがった不安定なポーズだったけれども、なんとか一瞬だけ上体を固定して、短いフォームで…
投げた!
『ぐわッ!』
 頬に石の直撃を受けた射手が叫びながら、毒矢を落とした。
『…キサマぁッ!』
 こうなれば子どもでも戦闘員と見なして、敵の一人が下から短剣を投げつけてきた。
『…リツコ!』
 血を流しながら真っ逆さまに墜ちるリツコを見て、マシカと鋭が悲鳴を上げる。
 そこまでの騒ぎが、実際にはほんの数分のことだった。
『…慮外者どもッ! 剣を引けッ!』
 皇女サマの厳しい怒声が響いた。
『マ・ゴリゴ! あるじが許婚者の賓客と白皇総将軍を相手と知っての狼藉ッ? ならばこの私を先に斃してからにしなさいッ!』
『…リツコ! …リツコ! …大変!』
 …マシカの悲鳴を聴きながら、リツコは、気を失った…


第9章 リツコ、役に立つ。

第9章 リツコ、役に立つ。

 

 9-1. リツコ、夢をみる。

 

 リツコは夢を見ていた。また、あの夢だ。

 お母さんとお父さんが、捕まりかけている。
 お姉ちゃんが泣いている。腕をガッチリ掴まれて逃げられない。
「逃げて!」
 リツコが叫ぶと、お母さんとお父さんが首をふった。
「エツコを置いては行けない…。おまえは逃げなさい!」
「逃げて!」
 …あの時、リツコは何も出来なかった。何も…
 うなされているリツコの額の汗を拭いてくれているのは、マシカだ。
 ぼんやりと目を覚ますたびに、それは鋭だったり、ミソノワ姫たちだったりした。
 リツコが投げた石は当たった。みごとに命中した。
 雄輝を狙っていた奴はギャッと悲鳴をあげて毒矢を取り落とした。
 それは、覚えている…
「逃げて!」
 夢の中で、リツコは投球動作に入った。
 もちろん、あの時は敵の数が多すぎた。ボールもグローブも、持ってはいなかった。
 でも、もし…
 狙いすまして、呼吸を整えて、放つ。放つ。放つ!
 ギャッと悲鳴を上げて、緑の制服のやつらが次々と倒れる。次々と…そう、全員だ。
「逃げて!」と、また叫ぶ。
「ありがとう、リツコ!」
 お母さんもお父さんもお姉ちゃんも、一斉に走って逃げていく。
 一目散に、逃げ出す…
 逃げて、逃げて、無事で…
「おばさんのところへ行くんだ!」お父さんが叫ぶ。
「お願いがあるのよ!」目をきらきらさせて、大叔母様がいう。
「すごいわリツコ!」マシカが褒めてくれる。
「さすが!適任者!」鋭が快哉を叫ぶ。
「…リツコ! …リツコ!」
 うなされている。
 夢をみている。
 そうだった… 雄輝を狙っていた敵を倒した瞬間。
「キサマぁッ!」
 別の奴から、短剣を投げられて… 左胸に、真っ直ぐ刺さりそうになったのを、危うく避けたら、首の脇が切れて、血が出て、驚いて倒れて、滑って、落ちて…
 墜ちる途中で木の枝に後頭部を打った。それから真っ逆さまに、地面に落ちた…
「リツコ!」
 首筋の深い切り傷による出血多量と全身の打撲で、リツコは何日も、熱を出して眠っていたらしい。
 はっと目が覚めると、枕元で心配そうにのぞき込んでいたのは… ずっと交代でついていてくれたマシカでも鋭でも姫様たちでも、薬師の人たちでもなくて…
 驚いたことに皇女サマ、その人だった。
「…………っ あぁ良かった! 起きたわね!」
「…あたし… 死にかけた…??」
 かすれた声で、ぼんやりきいてみる。
「…危ないところだったわね、かなり。もう大丈夫よ。鋭たち交代で、ずっと付き添ってたんで、もういい加減に寝かせたわよ!」
 半分涙目でにやりと笑いながら、皇女サマが答える。
「悪かったわね? 目が覚めたら私で!」
 ううん。とリツコもにやりと笑った。案外、この性格、可愛いかも…?
「…雄輝は?」
「無事だったわ。あなたのおかげよ。猛毒でね。矢に塗ってあったの。いくら雄輝でも、
あれが当たってたら、私でもマシカでも、治療をする暇もなく死んでるとこだったわ。」
「そうなんだ。」
 リツコは安堵した。
「あたし、役に立った?」
「えぇ! とても!」
 ずっと苦手に思っていた皇女サマが、ぎゅぎゅぎゅっとリツコの手を握ってくれた。
「彼を救けてくれてありがとう!」
「…………えへ~。」
 照れて笑うと、リツコは、再び眠った…。

 

 

 9-2. リツコ、龍にのる。

 

 それからまた何日か眠ったり起きたりして、熱が下がって傷の腫れもひきはじめたら、とたんに食欲がもりもり湧いてきたので、とにかくがつがつ食べた。
「…よかった~!」
 マシカがどんどんお代わりをよそってくれながら、それにしてもすごい勢いねと、ほっとした声で涙を拭きながらけらけら笑った。
 鋭も雄輝も何度も様子を見にきてくれた。
 ようやく起き出して、少しずつ歩きまわれるようになったころ。
 何だかんだでずいぶん行列に遅れてしまっていた。
「足ののろい連中は先に行かせたわよ!」
 皇女サマがにやりと笑って言う。
「要するに白皇家の血をひく姫が誰か一人でも西皇家の婿をとればいいわけなんだから! 
私が着く前に皆でまとめて西の三皇子を攻略しておいてくれると良いんだけど!」
「……あ、あの人たちって、そーゆう目的で~……??」
「そうよー、玉の輿狙いよ!」
 皇女が意味もなく堂々と宣言するので、リツコは納得した。
 なるほど。それで、家柄のいい美女ばっかりあんなにたくさん、同行してたのか…。
「だって白皇家の血縁の適齢期の男の人って兄様以外はみんな白都で死んじゃったのよ? 嫌がってる私と無理に結婚するより、西の皇子を射止めた姫が、皇位を継ぐことにしたらいいのよ!」
 …皇女サマをめぐる謎の『後継者問題』って…
 …つまり『ムコと皇位の押し付け合い』争いだったのか…。
 リツコはなんだか疲れて、もう一回眠った。
 姫君たちと荷駄隊と商人旅団と外役人たちも先に行かせて、最後まで待機していたのは皇女と雄輝の一番の側近の武人たち数十名ばかりで、その人たちもリツコが命をとりとめたと確認できるとすぐに徒歩での砂漠越えに出発した。
 リツコの体力では、まだ歩いたり駱駝に乗ったりの砂漠の旅は無理なので…
 行程をはしょって、残った一行はみんなで空を飛ぶことにしたという。
 そう聞いて、またあの鳥の人の籠で運んでもらうのかと思っていたら、なんと!
 先日のあの金の龍が背中に載せてくれた!
 鋭が一緒に乗ってくれて、リツコの後ろからしっかり背中をささえていてくれる。
 《飛仙族》と呼ばれる《エルシャムリア》の末裔だそうなフェルラダル様にしっかりと手をつないでもらったマシカはとても嬉しそうに宙に浮いて飛んでいく。それを悔しそうな横目で見ながら兄皇子マリシアル様は妹皇女と手をつないで飛び立った。
 銀の龍の背中には、雄輝と副官の人たちがまとめて乗せてもらった。
 その後ろから、公主リジュイディーリヤが美しい漆黒の鱗翅を広げる。
「きゃーーーーー! 最高ッ!」
 はるか眼下の広大な砂漠の美しい砂紋と点在する岩山とオアシスの煌めきと、どこまでも平らに続いて視界の果てまで霞んで見える(地平線が…丸くない!)《大地世界》全体を眺め渡して叫んでいるうちに、わずか半日ほどで、半月前に出た本隊に追いついた…。
「…今度は、寝なかったね?」と、鋭にからかわれながら…。

 

 

 9-3. リツコ、会議にでる。

 

 砂漠のほとりの大きな隊商都市の郊外で先行して待機していたみんなと合流し、衣装と体調を整えて、そこからは順調に数日の駱駝行で、《西皇家》の都についた。
 出発してきた《仮の白都》の雑多な民族が賑やかに行き交っていた開放的な雰囲気とは何もかも違って、長い時代を経た西の皇都は重厚で、荘厳で、格式ばっていて、威圧感のある石造りの建物が多かった。
 皇宮に上がる前に庶民の市場に寄って買い物と観光がしたい。と、迎えに来た使者たちに仰せつけられた皇女サマの『わがまま』は、『とんでもございません!』の一言でがんとして却下に付された。
 まぁとにかく会議開催の期日にぎりぎりで滑り込んだ形なので、さすがの破天荒な皇女サマも物見遊山は帰りの楽しみにとっておくことにして、白皇家の代表者たちは西皇家の本宮に、まずは到着の挨拶をしに行った。その儀式にはマシカや鋭やリツコたちのような『平民と余所者』は参加が許されなかった。
 その代わり白皇家の一行との旅のあいだは居心地が悪そうだったボルドム公主は改めて《公主殿下》と恭しく呼ばれて、白の皇女と同格に厚遇された。
 何故かと聞いたら「ボルドム世界の創造主たる男神グアヒィギルの血を濃く引く一族の聖なる世継ぎの姫だと判明したから。」だそうだ。
 そのほか、各方面から《大地世界》諸勢力の代表者たちが続々と集まって…
 いよいよ、ほぼ百年ぶりとなる《諸侯会議》が開催された。
 リツコは初日と最終日に『地球から来た地球人の代表』(代理)ということで一言ずつ挨拶をするのが役割だった。また一生懸命マシカと相談して、今度は初日はユカタを着て出た。可愛いと好評だった。
 大叔母様から出発前に渡されていた挨拶状を、心を込めて、声に出して呼んだ。
 それは会議の開催を祝し地球からも友好を祈って挨拶を送りますという簡潔な内容で、朝日ヶ森というのは国とか民族ではなく、こちらの世界のヨーリア学派と同じように世の中のため色々な働きをする有力な学者の集団だ。ということにしておいた。
 それから会議は地域ごとや問題別とか産業別とか、つまり「流域別の渡河税法についての検討会」とか「統一交易貨幣再発行開始における各国通貨との両替手数料率の統一可否にかかわる意見交換会」などなど。難しそうなものから馬鹿々々しく聴こえる内容のものまで沢山の分科会に分かれて、あちこちで紛糾したり白熱したり和合したり盛り上がったり場外乱闘したり、満場一致で拍手喝采のあと早々と大宴会になったり、色々していた。
 皇女サマや鋭たちは手分けしてありとあらゆる会合に顔を出して挨拶したり意見を交換したりしなければならないので、寝る暇もないほど忙しそうだった。
 リツコやマシカやおつきの人々の大半は、終りの日までは暇になった。
 市場に繰り出して買い物と食べ歩きと物見遊山に明け暮れた。
 

 

 9-4. リツコ、自分で話す。

 

 西の第一皇子と白皇女マーライシャの何十年も前の婚約の誓言がどうのこうのという件は、うやむやのうちに無かった話にされつつあるらしい。ミソノワ姫たちは会議の合間にせっせと西の皇子たちを追いかけ回して誘惑していた。遠くから眺める限りでは西の皇族はイケメン揃いだったので、うまく恋人がみつかるといいなとリツコは思った。
 黒姫公主リジュイディーリヤは堂々と交渉して、一緒に亡命して来た部下たちとともに《大地世界》の片すみで争わず暮らせるように、荒野のはずれの一角に、移住用の領土を譲ってもらえそうな感じになっていた。
 会議はあちこちで継続していたが、積み残した分科会はそのまま延長戦へと日程と会場の調整が続いて、ひとまずは当初の予定通り、次の満月の夜までで、全体会議は終了の運びとなった。
 うんと考えて、リツコは、最後の挨拶は自分の言葉で言わせてもらった。
(どちらにしても大叔母様から預かってきた手紙は一通しかなかったので。)
 今度は出発の時に来たのと同じ私立の制服風の夏ワンピのボタンもきちんととめて、ちゃんとした「正装」に見えるように気をつけて、靴もサンダルに変えて出席してみた。
「あたしは、まだ子どもですが、これから地球に帰って、今回の旅で見聞きしたことを、大人の皆に伝えます。昔々の《四界時代》の始めが平和で豊かであったように、これからの《三界時代》が、またみんなの行き来の盛んな、お互いに戦争をしない、平和で豊かな時代になったらいいなと思います。そのために、あたしにできることを探して、がんばりたいと思います。」
 …あまりにも短すぎたかしら、と一瞬不安になったけれども、大人たちは満場の拍手で応援してくれた。


終章 リツコ、地球に帰る。

終章 リツコ、地球に帰る。

 

 1. リツコ、呼ばれる。

 

 全体会議の無事終了を祝ってこれから徹夜で宴会だというその晩、リツコは慌ただしく呼ばれて西の皇宮内に設けられていた皇女サマの部屋へ案内された。
 鋭もマシカも皇子様たちも公主女、今夜は忙しいはずなのに、なぜか、みんないた。
「…なあに?」
「リツコあなた案外有能だから。このままこちらに居てもいいのよ?」
 いきなり不機嫌丸出しの声で皇女サマがぼそっとのたまう。
「へ?」
 目を点にすると、鋭が言い出しにくそうに苦笑しながら補足した。
「地球の西側に出られる通路がもしあったら、朝日ヶ森に戻すよりもそちらに亡命させてほしいって、清瀬律子さんから頼まれてた話は、前にしたよね?」
「あ、うん。…聞いた。」
「西皇領のヨーリア学派とも連絡とってたんだけど。君が整理してくれてたおかげで異界文字の解読をできる人がすぐに見つかってね。それによると。どうやら確実に通れる通路が、今夜だけ、開く。」
「今夜!?」
「…急だから… みんなびっくりしててさ。」
「うん。」
 リツコもびっくりして、うなづく。
「それを逃すとしばらく地球の西側に出られる通路は確定できてない。へたすると数年先とかになるかもしれない。」
「そうなんだ…」
「それで、今夜、地球に帰るか、でなければ、数年先くらいまで、こっちに居てくれるかな? …って」
「…………そうなんだ………?」
「きみこっちでけっこう楽しそうにやってたし。」
「もっとずっと居てくれたら、あたしは嬉しい。けど…」
 マシカが真っ赤な目になって言い澱む。
「言わないのは卑怯でしょ!」
 また唐突に皇女サマが、ぶすくれた声で継ぎ足す。
「…実は、リツコのお父さんとお母さんと、連絡が、取れたよ。」
「ほんとッ!?」
 声が、うわずった。
「うん。…今夜、行くなら、…迎えに来てくれるって…、」
 鋭がメガネをはずして拳で乱暴に涙をこするのを、リツコはびっくりして見ていた。
 マシカも泣き出してしまった。
 リツコも泣き出した。でも、言った。
「うん。…急だけど… あたし、帰るよ!」
 もう一回、声に出して、自分に確認してみた。
「地球人だから… 地球に帰る。」
 …うん。
「あたしね。ずっと…自分のこと…天才でも魔法使いでもないし…一番肝腎な時になんの役にも立てないやつで、残念だな! …って、ずっと思ってた。
 …でもね、こっち来て、ほんとの天才の鋭とか、魔法が使える王女様のマーシャとか、見たけど… べつに天才じゃなくてもね。凡才でも、マホウも使えなくても… あたし、
結構、…役に立つよね…?」
「えぇ。かなりとても、役に立ってくれたわよ!」
 皇女サマが悔しそうに涙をにじませながら言う。
「だから… こっちの世界は、これから、もう、平和になるから…」
 マシカが声をあげて泣き出してしまった。
「あたしの世界は… 戦争とか、独裁とか、これからが、いちばん大変なんだから…。
 自分の世界に帰って、あたしにがんばれることを、探して、やってみる!」
「…そうだね。」
 雄輝がちょっとそっぽを向き、鋭がうん。とうなずいた。
 

 

 2. リツコ、帰り仕度する。

 

 慌ただしく、来た時のリュックとバスケットに荷物を詰めて、来た時の服に着替える。
 背負って抱えて歩けるもの以上は運べないという話だったので、こっちでマシカと買ったばかりの服や小物や甘いものの大半は、残念だけど諦めるしかなかった。
「リツコ…! あたし本当に妹みたいだなーって、…思ってたのに…!」
 マシカはもう泣いて泣いて大変で、手伝いは期待できない。
 やっぱりぐすぐす鼻を鳴らしながらでも、鋭はさくさくと荷造りを手伝ってくれた。
 とにかく書き貯めた記録ノートは全部と、足りなくなって買い足したこっち式の巻き布や葉綴じもぜんぶリュックにむりやり押し込む。
 入りきらなくなった二十四色の色鉛筆とペンケースはまるごと鋭に、「薄くて小さい」と驚かれていたアニメキャラ柄の手鏡と、ぼろぼろになったけど日本語の辞書はまだ使えると思うからマシカに、記念にもらってもらった。
「なによ! わたしには?!」
 皇女サマが子どもみたいに拗ねたので、やっぱりちょっと笑ってしまいながら考えて、籐のバスケットに入れてた中身をぜんぶ出して適当な布で風呂敷包みにして持ってくことにして、「これ気に入ってたんだけど、あげる。」と言ったら「じゃあ大事にするわ。」と素直に受け取るので、やっぱりちょっとその性格には笑った。
 挨拶を出来るかぎりの人たちには慌ただしく挨拶をして回って、会議の打ち上げ宴会であちこち賑やかな皇宮のすみから地元のヨーリア学派の人たちの案内でそっと抜け出す。
 皇女サマと公主様は宴会から長くは抜けられない立場なので、門の中で最後のお別れをした。二人とも眼が赤くなっていた。
 篝火のともる夜の道を歩き、寺院のような場所から地下の伏流水の井戸に入る。
 小さい祠があって、それを動かすと短い洞窟があった。
『入って。』
 ヨーリア学派の人が言う。
『リツコ! …リツコ行かないでッ!』
 マシカがうしろからしがみつく。
『マシカ…! ごめんね! ごめんねぇッ!』
 リツコも涙で前が見えなくなる。
『…あまり時間がない。すぐに通路が塞がってしまう。』
「リツコ、」
 鋭がそっと肩を押す。
「…鋭。また… いつか… どこかで、会えるかな…?」
「…手紙を書くよ。小さいものなら、定期的にやりとりできる通路は確保してあるから」
「うん…」
 動けない。やっぱり…行きたくない!
 帰りたくない!
 リツコは思った。
「あたし! …やっぱり…ッ!」
 すると洞窟の向うから、真夜中なのに、太陽の光? らしいものが射しこんできた。
「…リツコ! …リツコ? 居るの?!」
「リツコ!?」
 リツコは叫んだ。
「…お母さんッ? …お父さんッ!」
 …マシカが、抱き着いていた腕を、はげしく嗚咽しながら、放した…
「ごめん! マシカ! あたし、行くね!」
『…リツコのお母さん! リツコとっても良いコでした! ありがとう!
 …大事にしてあげてね!』
 マシカが洞窟の奥に向かって叫ぶ。
「…リツコ!? …そこに居るのよねッ?!」
「いま行くよッ!」
「リツコ!」
 リツコはがんばって一歩踏み出し、それから目をつぶって駆けだした。
 後ろを振り返る暇もなく、あっと思う間もなく、ステン! と、
 何もないのに転んで…
 慌てて目を開けると、明るい場所に、お母さんとお父さんが、立っていた…
「リツコ! …元気で…ッ!」
 最後に、喉に絡んだような、鋭の半泣きの声が聴こえて…
 それで終わりかと思ったら、
「…待ってッ! リツコごめん! 《言葉の術》! 解くの忘れたわ!」
 息せききって追いかけてきたらしい皇女サマのそんな、またしばらく笑えそうなセリフがかすかに、…うんと遠くから、聴こえて…
 それっきり。
 その後、リツコが、《大地世界》を訪れる機会は、二度と、なかった…

 


 3 リツコ、その後。

 

 お母さんがぎゅっとしがみついてきた。
 お父さんが泣いていて、
 お姉ちゃんが泣きじゃくっていた。
 そこは知らない場所で、でも地球の建物だった。
 リツコも泣いてしまって、しばらく何も言えなかった。

 

 それからリツコは独裁国家となって戦争を始めてしまった日本帝国へは戻れず、家族と一緒に外国に亡命して暮らすことになったが。
 なぜか? 言葉が通じないはずのリツコが日本語で喋ると、言葉が通じないはずの相手の人の頭の中に、その言葉の意味が字幕のように、ぽかりと浮かんでしまう…。

 それは地球世界では「ありえないこと」で、不思議な力はテレパシーと誤解され、その後まもなく始まった《超能力者大迫害時代》のせいで地球にさえ居られなくなって宇宙へ移住するハメになったりしたが…

 

 それはまた、別のお話です。

 

                                  fin.


(第3稿)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第3稿)

 

 

 

 



読者登録

霧樹 里守 (きりぎ・りす)さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について