目次
(借景資料集)
【速報!】 第2回 「青い鳥文庫小説賞」
(第4稿)
(第4稿)as(最終稿)
(添付挨拶状)
(あらすじ) (2018年9月23日)
序章 《 朝日ヶ森 》
第1章 リツコ、異世界へ行く。
第2章 リツコ、異世界で目覚める。
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、取材する。
第8章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第9章 リツコ、役に立つ。
終章 リツコ、地球に帰る。
(第3稿)
(第3稿)
(表紙)
(あらすじ) (2018年9月16日)
序章 朝日ヶ森 学園
第1章 リツコ、異世界へ行く。 (2018年9月16日)
第2章 リツコ、異世界で目覚める。 (2018年9月16日)
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第8章 リツコ、戦う。
第9章 リツコ、地球に帰る。
(第2稿)
(第2稿)
(あらすじ) (2018年9月8日)
1-0-0.朝日ヶ森「学苑」(おもて)
1-0-1.朝日ヶ森(うら) (2018年9月8日)
1-1-0.リツコ、呼ばれる。 (2018年9月8日)
1-1-1. リツコ、出かける (2018年9月8日)
2-0-1.リツコ、異世界に着く。 (2018年9月9日)
2-0-2.リツコ、挨拶する。
2-1-1.リツコ、清峰鋭にあう。
2-1-2.リツコ、異世界の村へ行く (2018年9月9日)
2-1-3. リツコ、空を飛ぶ。 (2018年9月9日)
3-0-0. リツコ、悪夢をみる (2018年9月10日)(加筆)
3-0-1.リツコ、起こしてもらう。
3-0-2. リツコ、情報交換する
3-1-0.リツコ、朝寝坊する。
3-1-1.リツコ、右将軍にあう。
3-1-2.リツコ、皇女に会う
3-1-3.リツコ、マシカとあう。
3-1-4. リツコ、市場へ行く。
3-1-5. リツコ、天幕に泊まる。 (2018年9月11日)
4-0. リツコ、早起きする。
4-1. リツコ、パレードに参加する。
4-2. リツコ、誇大広告される。
5-1. リツコ、旅をする。
5-2. リツコ、記録する。 (2018年9月12日)
5-2. リツコ、話せるようになる。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第6章 リツコ、旅をする。
(第1稿)
(第1稿)
(あらすじ) (2018年8月17日)
( 目次 ) (2018年8月18日)
0-1.(おもて) (2018年8月18日)
0-2.(うら) (2018年8月18日)
1.リツコ、親善大使になる (2018年8月18日)
1-1. リツコ、出かける
2. リツコ、異世界へ行く。
2-1.リツコ、挨拶する。
2-2.リツコ、清峰鋭にあう。 (2018年8月19日)
2-3.リツコ、運ばれる。
3.リツコ、白王都へ着く。 (2018年8月22)
3-1-0.リツコ、寝坊する。 (2018年8月22日)
3-1-1.リツコ、皇女に会う (2018年8月22日)
3-1-2.リツコ、マシカにあう。 (2018年8月24日)
3-1-3. マシカ、市場へ行く。 (2018年8月24日)
3-1-4. マシカ、天幕に泊まる。 (2018年8月24日)
4-0. リツコ、目覚める。
4-1. リツコ、行列に参加する。
4-2. リツコ、センデンされる。
5-1. リツコ、記録する。
5-2. リツコ、観察する。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。 (2018年8月26日)()
6-2. リツコ、小鬼を救う。 (2018年8月26日)
7. リツコ、まきこまれる。 (2018年8月26日)
8-1. リツコ、魘される。
8-2. リツコ、龍にのる。
9. リツコ、会議にでる
10-1. リツコ、よばれる。
10-2. リツコ、地球にかえる。 (2018年8月26日)
(草稿&没原稿)
(草稿&没原稿)
(1) 朝日ヶ森 (2018年6月3日)
『 リツコへ。 第一日 』 (@中学……1年か2年?) 
(あらすじ) (プロット&目次)
(あらすじ) (プロット&目次)
【投稿用】プロットメモ (2018年7月22日)
400字~800字程度のあらすじ。 (2018年8月17日)
(設定資料集)
(設定資料集)
このコだ! 「鍵になるキャラ」…っ!www (2018年6月30日)
(( ことばよ、つうじよ! ))  (2018年8月9日)
(サ行前の雑談など)
(サ行前の雑談など)
【ぐれてる理由】。(--;)。 (2018年5月13日)
『 リツコ 冒険記 』 ~ 夏休み ・異世界旅行 ~ (1) (2018年6月3日)
(案の定【天中殺中】で頓挫している) (2018年7月22日)
…ちっ! …やっぱり…『落ちた』か…★ (2018年8月12日)
次ぃ征くぞ! 次っ! (2018年8月12日)
★ 【講談社 『 青い鳥文庫 』 の呪い!?】の謎。 ★
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(あらすじ) (2018年9月23日)

 『 リツコ冒険記 』 …夏休み・異世界旅行…

               霧樹里守(きりぎ・りす)

(あらすじ)

 高原リツコは家族の事情で、私立学園の寮に住んでる。
 その学長から「夏休みの手伝い」を頼まれた。
 なんと、「異世界への親善大使」!
 えぇ?! …っと思ったけど大人たちや先輩たちはみんな忙しくて行けないらしい。

「行って、みんなと仲良くして、まわりをよく観察して、レポートを書いてきてくれれば、それだけでいいのよ。
 行ってくれたら他の夏休みの宿題は、ぜんぶ免除してあげる!」
 大好きな学長がそう言ってくれたので、喜んでひきうけた。

 地球の《姉世界》と呼ばれる大地世界《ダレムアス》では、漫画かアニメの王子様?…かと思うような超美形!の、優しいお兄さんに世話してもらっちゃうしぃ ♡
 食べ物は美味しいし、お祭りは楽しいし…、
 …あいにくながら、残念な性格の皇女サマには、意地悪されたけど…。

 もうひとつの異世界《ボルドム》との戦争終結のための講和準備会議?とか、
 同じ大地世界のなかでも、民族紛争とか、皇位継承争い?とか…
 そういう深刻な問題には、ショックを受けたけど…。

 たっぷりのレポートを抱えて、友達と涙でお別れして、
 リツコは夏休みの終わりとともに、元気に帰国しました。

 


序章 《 朝日ヶ森 》

 

  『 リツコ冒険記 』…夏休み・異世界旅行…

 

                    霧樹里守(きりぎ・りす)

 

序章 《 朝日ヶ森 》

 

序章 1 (おもて)

 

 朝日ヶ森学園。
 知ってるかな?
「天才児が集まる」ので秘かに有名。
 超のつく贅沢な校舎と独特の自由奔放なカリキュラムの秀逸さ、そして学費の高さでも知られていて、我が子を名門私立に進学させたい親たちにとっては、憧れの学園だ。
 基本は全寮制だけど、都心から遠距離通勤・通学してくる生徒や先生もいる。
 緑の豊かな地方の新幹線の停車駅から、自動車なら迂回ルートで二十分くらい。
 歩くなら、県立公園のなかの遊歩道をまっすぐ抜けてくるほうが速い。
 自転車? …まぁ、モトクロスを乗りこなせる人なら、抜けられる道だと思うよ…?
 学園の敷地は広くて、一見すると壁とか塀とか柵とかの仕切るようなものは何もない。
 でもセキュリティは万全で、目立たないところに監視カメラ網がばっちり。不審者は入り込めないけど、内部の見学とかは許可制の予約ツアーに参加すれば入れる。
 校舎や講堂や寮の建物は、一見シンプルだけどしっかりお金のかかった造りで、見た目は繊細で温和な感じだけど、どんな災害にもまけない頑丈な耐震骨格なんだって。
 もちろん、屋外と屋内の両方に冷水と温水の競技用プールがあるし、体育館とか柔道場とか剣道場とか弓道場とか、もちろんスケートリンクもテニスコートも、全天候対応型のやつが、それも学年別とかで、複数個所にある。
 さすがにサッカーコートとラグビー場とスキー場は屋外だけ。らしいけど…
 図書館ときたら外部の大人が泊りがけで調べものをしにくるほど、質量ともに充実した蔵書を誇る。
 広大な敷地内にはゆるやかな起伏があって、四季折々の豊かな緑花がきちんと手入れされている。
 天気のいい日はあちこちの芝生や木の下で、生徒たちが一人でゆったり寝ころがったり、賑やかにグループ課題を片づけていたりする。
 もちろん複数ある学内食堂は合計すれば二十四時間営業で、メニューはもちろん各自で好きに選べる上に、無添加とか有機栽培とか産地指定とか、どんなにうるさい親でも納得させるだけの厳選素材を使って、健康管理やアレルギー対策には十二分に配慮されている。しかも調理法は一流シェフによる監修で、名門レストランなみに美味しいと評判だ。
 時間割は自学自習に重きを置いていて、選択科目が多くて自由。
 各学年のクラスは三つに分かれてる。
 都心から新幹線で週1程度のスクーリングにくるだけでいい通信クラスに在籍しているのはテレビ撮影や映画出演で忙しい、超のつく有名子役やアイドルの卵が多い。学内では主に「タレ組」と俗称されている。
 それから学園の売りの「天才組」は、その名のとおり生まれつきの知能指数が平均よりはるかに高い子どもが集まっていて、その分かなり変人が多くてつきあいづらい。
 そして生徒のなかでも一番多いのはやはり、親が金持ちとか有名人とかセレブやVIPで、コネと金を使いまくってお受験競争を乗り越え、我が子をここに「押し込んだ!」と自慢してまわるような家の子たち。なんだけど…
 …それ、本当はちょっとだけ、気の毒な話なんだ…
 なんでかって…?
 ここはあくまでも、関係者からは「おもて」と呼ばれている外向きの場所(学苑)で…
 本当の朝日ヶ森「学園」は、「うら」とか「真」とか呼ばれていて、もっと別の秘密の場所にあるから。なんだ… 

 

 


序章 2 (うら)

 

 さて。
「うら」とか「真」とか呼ばれている「ほんとうの」朝日ヶ森について…説明するのは、難しい。
 場所は秘密で、首都圏からは「裏日本」なんて蔑称されている地域の、辺鄙な山の奥にある。
 こちらも敷地は広大だけど、目立たないように全域が頑丈な壁できっちり囲われていて、特殊な警護部隊が昼夜をわかたず厳重な監視をしている。
 さらに一見はまばらに点在して見える贅沢な造りの低層建築群は、実は主に地下通路でつながっていて、むしろ地上より地下部分のほうが質量ともに広壮な、実質的な本体だ、とも噂されているが、実は在学生でも現職の職員でも、その全貌を把握できている人は、ほとんど居ないらしい。
 ほとんど「秘密基地」という構えだ。
 こちらに在学する生徒の種類も、おもに三つに分かれる。
 ひとつは国内外の要人、つまり政治・経済的なVIPの子どもたちで、なんらかの事情で家族とは一緒にいられない者…生まれつき病弱とか、テロや誘拐の対象にされる心配があるとか、相続争いによる暗殺の危険を避けるためとか、はたまた、隠し子で正妻には内緒でないとまずい存在とか…そんな感じの。
 だからちょっとひねた性格のやつらが多い。
 ふたつめのグループは、もっと特殊で…
「ふつうの人間じゃない」能力や外見を持って生まれた、「特別な家柄」の跡継ぎとか、先祖返りとか…
 角や牙があったり、鱗や翼があったり、魔術や呪術が使えたり、過去や未来や、人の心が読めたり、はたまた、操れちゃったり…
 本人たちはそれでも「神でも悪魔でもないから、いちおう人間なんだけどー」と主張する場合が多いが、今の世の中ではうっかり一般社会を出歩くことができない。
 それで、「一族だけしかいない隠れ里に閉じこもってばかりでは世間にうとくなるし、幼なじみと親戚以外は友だちも恋人も探せない人生なんて!」…という理由で「社会体験」と称して「朝日ヶ森学苑に遊学」しに来て、広い構内で文字通り「翼(はね)を伸ばして」学園生活を楽しんでいたり…する。
 生徒の内の三つめのグループについては…
 長くなるので、また後で説明しよう。
 まぁそんなふうに、観た感じからして不思議な…秘密の、 「朝日ヶ森・学園」。
 このお話は、そんな場所から始まる。


第1章 リツコ、異世界へ行く。

第1章 リツコ、異世界へ行く。

 

 1-1.リツコ、呼ばれる。

 

 朝日ヶ森「学園」生徒の第三のクラス・通称「ただびと組」に属する普通人のリツコは平凡な子どもで、セレブの子女でも天才児でもなく、美少女戦士でも子役アイドルでもないかわりに、妖怪変化の類でもなかった。(こう書いたら「失礼ね!」と、妖怪変化な学友たちから怒られた。)
 しいて言うなら、特技は木登り。
 親から習って育ったのでキャンプとか大好きで、野外炊飯なら得意。
 虫とか蛇とか平気で、まぁ女子からは引かれるけど、いざって時のサバイバルには向いてる。
 見た目は十人並み?
 顔はのっぺりしてハナはちんまりして黒目はキョロっとでかくて、日焼けしてソバカスだらけで、へろへろのくるくるの天パの髪がコンプレックス。歯並びだけは自慢で真っ白で、まぁ時々「笑うと可愛い」くらいは褒めてもらえる。
 ご飯はよく食べるけど、それ以上に暴れてる。…から、まだそんなに太ってはいない。…たぶん。
 前の学校では野球部で、三年生にして県大会優勝投手。(全国は初戦敗退)。
 投げたら当たる。これはけっこう、…長所?
 まぁそんな程度のただのおてんば娘のリツコが「うら」の朝日ヶ森にいるのは… 事情があった。
 そんな事情のひとつ、「大叔母様」からの呼び出しがあったので、とある七月の昼下がりに学長室までとことこ歩いて行った。
 全寮制の学園はすでに夏休みに入っていて、家のある生徒たちの大半は帰省か家族旅行に行ってしまった。
 今を盛りと鳴きすだくセミ時雨のほかは静かな構内の、広壮な芝生と緑の濃い木立ちと、英国庭園風のベンチをしつらえた花壇や迷路の中を、小汗をかきながら十数分ほど歩いて、ようやくレンガ造りの事務棟に辿りつくと、勝手知ったる建物内には無言のまま入って、こんこんと学長室のドアを叩いた。
「はい。どうぞ!」
 若々しい声の大叔母様の返事を聞いてからドアを開け、一応「失礼します」と頭を下げる。
 大叔母様というのは都合上の呼称で、本当は、祖母のイトコだ。
「なんですかー?」
「お願いがあるのよ!」
 元気な声でいきなり言われて、リツコは面食らった。
「欠員が出ちゃってね! 代わりに行ける人がいま他にいないの。バイトと思って引き受けてくれないかな? お礼として、夏休みの宿題はぜんぶ免除するから!」
 …この「大叔母様」の名前は清瀬律子という。リツコと同じ「りつこ」だ。
 やはり美女でも妖怪でも天才でもない「ただびと組」のはずだが、朝日ヶ森の卒業生で、なぜか今では学園長まで務めてる。
 リツコの母はこの気さくな美人叔母(ほんとうはリツコの母の母の従妹だ)が大好きで、たまたま彼女が事故で行方不明になってもう死んだかと思われていた頃にリツコを身籠ったので、思わず名前をもらって付けてしまった。という話…(そしてその後けろっと本人が生還したので、親族一同は呼び名の区別に困った。)
 …まぁその話はいいけど。
「朝日ヶ森『学園』の生徒の、欠員の代理って… それ、『ただびと』のあたしでも務まる用事?」
 そっちのほうが当面の問題だ。
「だいじょうぶよ! なんて言うか…そう! 親善大使! みたいな役目だそうなの。行って、滞在して、まわりの皆さんと仲良くして… 最後の会議で、コレを私の代理で音読してくれればいいの!」
 渡された手書きの便せんにざっと目を通して、それから声に出して読んでみた。
「…゛みなさん、おまねきありがとうございます。今日のこの会議の”…」
 ちょっと長いけど、読めないほど難しい漢字とかは、無いよね…?
「…行っても、いいけど… どこ…??」
「異世界よ!」
 ちからいっぱい無邪気に宣言した大叔母さんの予想外なセリフに、リツコは「はぁ?」と口を開け、目を点にした…。
 

 

 1-2. リツコ、出かける。

 

「…あ、あらっ? …ウケなかったかしらっ? イマドキの『ただびと』…いえっ、『普通世界』で育った子どもには、こういう言い方のほうがウケる…いえ、判りやすいかな~? と、…思ったんだけど…っ?」
 いつも穏やかで余裕ありげにニコニコしている大叔母様が、真っ赤になってわたわた取り繕うという珍しい光景を、リツコは口をあけたままあんぐり眺めた。
「…べつに危ないことは無いと思うのよ? 戦争は終わったっていうし、和平会議なんだし、おばさまの初恋の人とか、向うに行ってるしっ」
「…は?」
「だからねっ! …だからっ、私と同じ名前の、血のつながったあなたが、向うでっ …あの人に、…会ってきてくれたら… 本当に、わたし、…嬉しいのよ…っ!」
 真っ赤になって、照れながら、なにやら意味不明に身もだえしている。
 …え~と…。…ハツコイの、ひと…?????
 …とりあえず、何も解らないけど、断れそうにないらしい。ということだけはリツコにも判った。
「…………わかった。とにかく、行ってくるから…………。」
「ほんとっ?」
 小さい子どもみたいに身を乗り出して喜色満面になった大叔母様(たしか七十歳は過ぎているはずだ…)は、それから慌てて咳払いなんかしながらやっといつもの調子を取り戻して、色々と説明してくれた。
「…持って行ってほしいものは、もう購買に頼んで取り寄せてもらってあるから、部屋に戻る前に受け取って行ってね。それから、旅仕度に必要なものは何でも『おばさまの支払いで。』って言えば、好きなだけ買えるようにもう伝えてあるから。」
 そう言いながら渡されたのは「絶対に!持っていくもの」と書いてある買い物リスト。

 

・計算尺 1つ (購買にもう頼んであります。)
・ノギス 1つ      〃
・大学ノートかリングノート(リツコの好きなほうで)10冊くらい
 (持てて書けるだけ、なるべくたくさん!)
・鉛筆(ポールペンやシャーペンじゃなくて) 1ダース(1箱)か、もっと。
 なるべくたくさん。
・色鉛筆(カラーペンじゃなくて) 1セット以上、欲しいだけ。
・消しゴム(多めに)
・鉛筆削り(忘れないで!)

 

「…この計算なんとかと、ノギスって…なに?」
「それは向こうからのお土産のリクエストなの。着いたら渡してあげてね。」
「…わかった。…ねぇねぇ。色鉛筆って、二十四色のやつ買ってもいい?」
 思わず目をきらっと光らせながら聞くと、
「四十八色のでもいいわよ!」
 大叔母様が笑って言い切ってくれたので、リツコは大いに気をよくした。
(自分のおこづかいだけじゃ買えないやつだー!)
 それからこまごまと書いてくれてあった、行先への道順の説明をよーく読んで、解らないところは質問して、細かいところの打ち合わせもして。
 その後ひとりで購買に寄って、言われたものを忘れずに全部と、リュックとか下着とか、要りそうなものをよく選んで買って。
 それから夜遅くまでうんと考えて、必要最低限の着替えと小物だけを揃えてしっかりリュックに詰めて、翌朝、列車内で食べるお弁当と飲み物を、予約しておいた食堂で受け取って、お気に入りの籐製の手提げバスケットに詰めて…
 用意した荷物を念のため大叔母様にもチェックしてもらってOKをもらって出発の挨拶してから、駅まで向かう朝一番の路線バスに、リツコは飛び乗った。

 


 1-3.リツコ、一人旅する。

 

  最寄駅から普通切符を買って鈍行に乗って、乗り換え駅から特急に乗り換えて、検札に来た車掌さんに目的地までの特急券を頼んだら、
「小学生が一人で?」と、やっぱり不審がられたから、大叔母様から教えられた通りに、
「ママのお墓参りに行くんだけど、パパは夏休みが取れなかったのー!」
 と無邪気なふりしてにこにこ返事して。
「降りる駅に着いたらちゃんとおばあちゃんが迎えに来てくれてるから。」と言ったら車掌さんは安心して向こうへ行ってしまった。
 それから慣れない長距離列車にちんまり座って揺られていたら半袖ではクーラーが寒くてこごえてしまい、鼻水垂らしてぐずぐず言いながら、ちょっとだけ、うとうと眠って。
 乗り降りの仕度を始めた他の乗客たちのざわめきに、はたと目が覚めると、もうすぐ、降りる駅で…
 慌てて起きて、乗り換えて、また乗り換えて、乗り継いで…
 日暮れ前にようやくたどり着いた二面戸町駅のホームの待合室でくるりと三回転半してから振り向いて、後ろの正面の七つと三番目の教えられたとおりの秘密のドアを、特別なやりかたでひねって開けると。
「高原リツコ様ですね? 多元旅行社の送迎サービスの者です~!」
 …どう見ても二足歩行の巨大なカエルの人?がいて、曲がりくねった不思議な山道を、おかしな形の、タイヤのない変な車で案内されて…
 教えられた森の中のこぶこぶした不思議な形の大木に、よじよじと必死で登って。
「…今ですよ!」
『地球の大地の端から、太陽の端っこが、完全に沈んで消える瞬間』…ちょうどに!
 教えられた通りの大木の幹の空洞から、えいっと、勇気を出して…
 目を閉じて、しっかり荷物を抱えて、真っ暗な穴のなかに…
 飛び降りて、どすんと…
 …いえ、ふわっと…
 なにか柔らかいものの上に、落ちて…
 目を開けたら、そこは、異世界?
  だった…。

 


第2章 リツコ、異世界で目覚める。

第2章 リツコ、異世界で目覚める。

 

 2-1. リツコ、仔猫につかまる。

 

 ちょっとの間だけ、気絶していた?らしい。
 はじめ何も視えなかった。とにかく眩しかった。
(…太陽…? あれ? だって「陽が沈む瞬間に!」って、飛びこんだよね…?)
 変だなと思いながら、明るすぎて何も視えなかったので、とりあえず薄目だけ開けて、
両手で自分のからだとまわりの様子を探ってみる。
 …怪我はない。まわりは…もふもふ? もこもこ? …している…???
 しばらくしてようやく、自分が何か柔らかくて丸っこいものの山の中に、かなり高いところから落ちた勢いのまま、ぼふーんと埋もれこんでいる…? ことが判った。
 その何かふかもこしたものが、落ちて来たリツコを受け止めた衝撃で弾け跳んだらしい綿埃? …らしいものが、ほぼ真上から降り注いでくる金色の陽光の中を、ぶわぶわと舞い飛んでいる。
 触ってみた感じでは、リュックもバスケットも、壊れたりはしていない。
 とにかく眩し過ぎたので、薄目だけ開けながらもっそもっそと動いて姿勢をかえて腹這い向きになり、それから手探り膝さぐりで、1mほどのふかもこの斜面をのそのそとよじ登る。
 ちょうどその頃から、まわりのあちこちから、声が聞こえ始めた。
「…ま~るめる! まるった! えら。えららう。まるる~ん…???」
「えるった!らう!」
「あらえ!」
「まるぇ? えら。あらぅ。…あろ、…あっかせっか!」
「か~ぃせ! えのっかあるっか、らぅらぅらぅ。あごん!」
「あうのいあ!」
 …そんな感じの、まるまるした声の、可愛い響きのコトバで…
 もちろん、ひとっことも、解らない…!
(………ほんっとに、異世界…? …来ちゃった~…???)
 そう思いながら、もこもこの山の上からようやく顔を出すと。
「…えらっ! あまっ! あまま、ままま? あまま、あそっ?」
 可愛い仕種で、どうやら
『だいじょうぶ~?』と心配してくれているらしい声が、あちこちからかかった。
(…か、………かわいい…っ ♡ ♡ ♡ )
 目じりが思わずハート型になってしまうような生き物たちが、いた。
 全体的に、白っぽくてもこふわ。サイズはかなり小さそうだ。一番大きいコでも、リツコの膝までぐらい?
 うさぎのような、モヘアのような、ふわふわ毛並みの、横長のまるい顔立ちの、大きな吊りあがりぎみの、黒くて丸い眼の…見た目は、むしろ、猫…?
 エプロンドレスのような…巻きスカートのような…きんたろさんのような…形はそれぞれ違うけど、手織りの手縫いらしい可愛いパッチワーク模様の、色とりどりの服を着た…
 二足歩行の…、仔猫…??
「…あいにゃ! うにゃう?」
 心配してくれているらしい、表情豊かな大きな瞳が、とてもとても、愛らしい。
(これ、意味、たぶん、『だいじょうぶ? けがはない?』って聞いてる感じかな…?)
 リツコはとりあえずぱたぱたと手を振ってみた。
「ごめん! コトバわかんない! ケガはないよ~。だいじょぶ!」
 それからちょっと心配になって、体の下のもふもふを手にとってよく見てみた。
 白猫? たちとよく似た色だから、生きてる仲間を下敷きにでもしたかと思って。
(…違うみたい。…これは…毛玉? …繭…???)
 なにかカイコのような形の肉まんくらいの大きさの、毛玉?のようなものが、いかにも「落ちて来くるもの受けとめ用クッション」という形に、高さ数メートルくらいにもりもりと盛り上げられている。
 その小山を取り囲む(…風から護っているのかな…?)ふうに張り巡らされた、屋根はないテントのような…幔幕のような…場所の、前は大きく開いていて、見晴らしが、すごく良いことにリツコはやがて気がついた。
 おそらくとても高い山の斜面に広がっている森のなかの大樹の、節くれだった太い幹の上にのほうに開いている大きな空洞の、その真下にリツコは落ちたのだった…

 


 2-2. リツコ、白ウサギに挨拶する。

 

 『何かが木の洞から落ちてきたら』受けとめられるようにと、平屋建ての小さな家くらいの勢いで積み上げられていた『もこもこ』の山の斜面をずるずると滑り降りてみて、そこでしばらくリツコは困り果てていた。
 二本足で歩く『しゃべる猫にんげん?』…としか思えない、白っぽくてふわふわの小さい生き物の群れに、わらわらと取り囲まれて…
「まうまうまう!」
「あうれ?」
「あっかのおっか?」
「おねぅおねぅ!」
「まうまうまう! …まうまうまう! まうまうまうーっ!」
 などなど…まるっきり解らない言葉で、おそらくたぶん質問責めに?されたあげく、とりあえず適当に日本語で受け答えをしている間に、よじよじとリツコの脚や腕に登り始めて、頭の上にまで座っちゃったりされて埋もれてしまって、うかつに身動きできない…
(………えーとぉ。これは~………っ☆)
 ふかふか自体は可愛いので、思わずもふもふと撫でてみたり、へろへろと笑いながらも、ちょっとかなりこれからどうしたらいいのかと困り果てていると、すこし離れたところから、いくらか低めの声が響いた。
「…えっけれねん! あうら! かなりっこさる!」
 とたんに、リツコを取り囲んでいたチビ猫さんたちが、慌てて散って逃げた。
「あけーーーーーね!」
 なんとなくリツコにも意味が分かった。
『あんたたち何やってるの、だめでしょ! 離れなさい!』
『ごめんなさーい!』
 …くらいの意味じゃないかな? たぶん…
 ちびさん達がどいてくれた隙に慌てて立ち上がると、後からやってきた人?たちの姿がようやく見えた。
(…あれ…?)
 膝丈ほどのちびさん達は、どうやらとにかく『子どもの』猫(?)だったらしい。
 やってきたのはたぶん大人?で…、ちびさん達よりだいぶ大きい。とはいえ、地球の日本の小学生高学年としては標準サイズのリツコと、同じくらいしかない。
 子どもたちは横丸な顔で耳も短くて、地球の猫によく似て見えるのに、やってきた何人かの大人?たちはおそらく、育つにつれて顔も体も縦長になり…とくに耳が長くなっていったん立ち上がり…やがてもっと長くなると重さで垂れて…地球でいう「垂れ耳うさぎ」が巻きスカートのようなエプロンドレスのような手織りの服を着て、荷物を手で持って、二本の足で立って歩いてやって来た。…としか、思えないのだった。
(…えーと!)
 リツコはとりあえず大叔母様から「皆さんと仲良くしてね。」と言われて来た、自分の『親善大使』という役割を思い出して、ピシッと「気をつけ!」の姿勢をとった。
「こんにちは! はじめまして、高原リツコっていいます。よろしくお願いします!」
 きちんとした大人たちがきちんとした時にきちんとやるみたいに、きちんと前に手をそろえてきちんと頭を下げて、きちんとした挨拶をしてみた。
 おとなウサギ?たちは、一瞬キョトンとした後、やおらそれぞれの長い耳をゆっくりと頭上に掲げてぱたぱたと左右にうちふり、両手はいったん体の横に垂らして手のひらをリツコのほうに向けてから、なにかを持ち上げるような仕草で左右に開きながら上げて、同時に膝をちょっと折って前かがみになって、
「…まうまうまう!」と声をそろえた。
(まうまうまう?)とリツコは慌てて考える。
(さっきから何度もちびちゃんたちから聞いてたコトバだな~、アイサツだったのか!)
 了解したので慌ててまねっこをして両手を耳のかわりに頭の両脇にたてて左右にふってみて、それから手のひらを相手側に向けておすもうさんみたいに広げて。膝をぴょこんと折って前かがみもまねして。
「まうまうまう?」と、首をかしげながら挨拶をしてみた。
 おとな兎たちはリツコの発音の悪さにウケたらしくて笑いながら、元気に声をそろえて「れいまうまう!」と返事をしてくれた…
 ので、リツコは嬉しくて、えへへと笑った。

 

 

 2-3. リツコ、『王子様』にあう。

 

「…えっけれねん、あうりっこさるれぅある?」
「あっかいおす、おっかいねん?」
 …再び意味が解らない…
 えへえへと頭をかく仕草でごまかしながら困り笑いをしていると、おとな兎たちのうしろから、新たな声が響いた。
「…ごめんごめん! 遅れた! やっぱりちょっと時間の計算に誤差があったね!」
(…………日本語だぁ~……!!!!)
 生まれて初めての『ことばの壁』に疲れて、早くもホームシックになりかけていたリツコは、自分がものすごく安心して気がゆるんだことに気がついて、むしろ驚いた。
「ミキーレ!」
「ミキーレ! あうのぁさるのみぇ、えれ?」
 おとな兎たちは歓迎しているらしい声で、ふりむいて何かを説明?している。
『あうれりぁ、おうのおうあえら。』
 少しだけ違う発音で、だけどごく流ちょうなウサギ語?で受け答えをしながら斜面を登ってきて、リツコの視界に現われたのは…、ものっすごい…美青年! だった…
 リツコと同じくらいの体格のおとな兎たちの背後からひょいと胸半分ほど出る背丈の、すらりとした細身で、薄茶色のさらりとしたまっすぐな髪は肩にかかるくらい長くて、薄い水色のメガネをかけている瞳も澄んだ明るい茶色で、優しそうな笑顔に、ものすごく賢そうな白い額がきれいに広くて、三国志みたいな青い上衣と長めの外衣を羽織って、動きやすそうな細めの水色の袴?を履いて、さりげないけどセンスのいい服装をしている。
 …なんだか雰囲気全体がきらきらしていて…少女漫画かアニメの美形キャラのようだ…と、リツコはこんなに綺麗な青年をリアルで見たことがなかったので、呆然と見惚れる。
 ぽかんと口を開けたまま固まったリツコに、美青年はちょっと困った笑顔で、
「…リツコだよね? 遅れてすいません。迎えの者です。」
「…はいっ! 高原リツコですっ! 高天原から天を抜いたタカハラ! リツコはぜんぶカタカナっ!」
 リツコは思わず大声のフルサイズで自己紹介をしてしまった…。
「…どうぞよろしく? ぼくは、清峰鋭(きよみね・えい)といいます。」
 ウサギたちからは『ミキーレ!』と呼ばれていた青年の自己紹介に驚いて、
「嘘っ?」…リツコは思いっきり大声で反応してしまった。
「…え?」
「…だって! …それ大叔母さんの同級生の人! 七十歳は過ぎてる筈でしょっ?」
「…あ~、聞いてないかな? 向うとこっち、時間の流れも、トシのとりかたも、違うんだよ~?」
「…聞いてないっ!」
 断言したら、美青年なお兄さんは、困ったような顔で、にっこり笑った。
「…じゃあ、解らないことは何でも聞いてくれていいから、とりあえず、移動しようか?」
 なんだか有無を言わさない迫力ある笑顔に気圧されて、リツコは、ハイと頷いた…

 


 2-4. リツコ、異世界の村へ行く。
 
「この世界は《ダレムアス》と呼ばれていてね。意味は《大地の世界》。いま僕らがいるのは世界の真ん中の《大地の背骨》山脈の端っこで、あの大河を渡ったところにあるのが、これから行く《仮皇都》」
 見晴らしのいい山腹の草原の道を並んで歩きだしながら、リツコが質問するより速く美青年が教えてくれる。
 空は地球と同じような色の澄みきった青で、流れる白い雲と乾いた風がとても気持ち良くて、リツコがよく知っている地球の日本の森とは少し違う樹木が密生している大森林には色とりどりのたくさんの蝶や小鳥がたくさん飛び交っている。
「…きれ~い!」
 リツコは思わず深呼吸して叫んだ。
「最初は地球と似て見えると思うけど、空と太陽と星だけが共通項って言われてて、けっこう違う点があってね。まず電気製品とか電子機器とかが一切使えないんだけど、それは聞いてるかな?」
「あ、それは聞いてた。…あ、ほんとだー!」
 言われて思い出して歩きながらリュックから端末をとり出してみたが、『圏外』どころか画面も真っ暗なままで、何度スイッチを押しても、うんともすんとも言わない。
「金属加工の技術はあるんで、水力発電施設なんかも造ってみたんだけど、全く反応しなくてね。まず何しろ魔法なんて非科学的なものが存在してるくらいで、根本から物理法則が地球と違ってるんだ。」
「…そうなの? 見て目は似てるのにねー?」
(…ブツリホウソク…って、電気とか重力?とかの仕組みとか、そういう話だよね…?)
 リツコはこっそりと頭のなかでおさらいをして、慌てて相槌を打った。
「それから生き物がそうとう違ってる。…まぁ、見れば判ると思うけど…」
 わきゃわきゃと賑やかに足元に絡みついてくる子猫?なこどもたちと、垂れ耳ウサギなおとなの女性たちと、その中間で立ち耳ウサギみたいな、リツコと同年代か上?くらいの少女?と一緒に、山腹の平地に開けた村まで降りて行くと、そこにいた垂れ耳の犬?そっくりなひと?たちは、どうやら、おとな兎な女性たちと同じ一族の男性?らしかった。
 子ども時代はみんな横長の丸い顔に短くとがった三角耳で、色はオフホワイトやアイボリーとか「だいたい白系」のもふもふ毛並みなのが、ちょっと育ってくると耳と顔と胴体が長細くなってきて、色は薄くなるのと濃くなるのに分かれて、毛の長さも短くなるのと長くなって巻くのに分かれて。それがもっと育つと、短い真っ白い毛の垂れ耳うさぎ似のおとなの女の人?と、濃色の長めの巻き毛の垂れ耳の犬に似たおとなの男の人?に、なる。という種族であるらしかった。
 その他に、なんとなく鹿似のひと?とか、どう見ても丸ごと犬だけど喋ってる?みたいな人?とか、服を着て立って歩く熊?っぽい人とか、歩く観葉植物人?とか樹木な人?とか、とか…が、村の中心らしい街道を賑やかに行き交っている。
 それから地球人と言っても通る『普通の人間』に見える人たちや、目や耳の形や色彩がちょっと違うけど『ほぼ地球人と同じ』な人たちや、角や牙や尾っぽがあるけどだいたい人間に近いような形、という人なんかも、本当に色々と、たくさんいるようだった。
 街道沿いになんとなくの等間隔で並んでいる家々は丁寧な細工の木造で、まるで白雪姫の小人の家みたいな可愛らしいサイズ。なので、体格的に、うさぎいぬねこ人の家には入れない大きさのひと?たちは、村のまんなかの広場や、わざわざ大きめに造ってあるらしい休憩所風のあずま屋とかに座って、なにか飲んだり食べたりしていた。
 

 

 2-5. リツコ、観察する。

 

 そんな人?たちが、降りてきたリツコたち一行に気づいた。
「ミキーレ!」
「リール!」
「イーキレ!」
「リレク!」
 地球の日本人の清峰鋭と名乗ったはずの美青年に、親し気に何種類もの名前?で呼び掛けながら、わわっと群がってくる。
「まうまうまう!」
「ぐわーごっぱ、うわぅ~」
「アマルカッシュッ! パキャワシュ」
「ギャギャギャガノキュ、ギギュィユギギ!」
「ゴワーガ! ヴォ~ノ”マーレ!」
 …なんだかとても多種類の、それぞれぜんぜん違う言語に聴こえる…。
 リツコは混乱して固まった。
 それにまた平然と、それぞれの言葉を使い分けて返事をしている?らしい隣の地球人を見上げて、リツコはまた困り笑いを浮かべて、ちょっとかなり、後ずさってしまった…。
「…えーとあのう…、清峰サン…?」
 思わず敬語付きになってしまった。
「鋭でいいよ? リツコって呼んでいい?」
「いいデスけど…」
「ですじゃなくていいよー?」
 にっこり笑う顔にまた思わず見惚れてしまいながら、
「いい、…けど?」と、リツコは言い直した。
「…この世界って、言葉が何種類くらいあるの? で、鋭は、何ヶ国語が喋れるの…?」
 美青年がちょっと驚いた顔をして、ふわりと嬉しそうに笑った。
「…今のを聴いただけで、ちがう言葉が何種類もあるって判った?」
「…うーんとね。」
 リツコは説明をしてみる。
「もちろん意味は全然わかんないんだけどー。…昔ね、おばあちゃんがまだ生きてた頃、近所におばあちゃんの友達で、翻訳の仕事の人がいたの。で、おばあちゃんと一緒に遊びに行くと、大人たちが喋ってる間、子ども向けの色んな言葉のビデオとか観せてくれたの。…だから、地球にも、色んな国の、色んな言葉があって、色んな挨拶とか習慣とか、違う考え方とかがある。…ってことだけは、解るの。」
「…それは、貴重な体験だったね。」
 きれいに笑って美青年が言う。
「…だけど、この世界の言葉が全部で何種類あるかって、たぶん誰も数えられたことないんじゃないかなー? なにしろ《朝日ヶ森》では『天才組』のトップにいた僕でも、まだ習得してない言葉のほうが多いし? 本人たちは同じ言葉を話してるつもりでも、お互いすごい訛ってて、全然通じてない。なんてこともよくあるし…。みんな言葉が通じないのに慣れてて、あんまり気にしないで何とかしてるから、リツコもとりあえず日本語で喋ってていいよー?」
「…うん解った…。」(ていうか、それしか出来ないし―。)とリツコは苦笑した。

 


 2-6. リツコ、歓迎される。

 

 どうやら目的地に着いたらしくて、村で一番大きな家の前の大きな木の下の地面と同じ高さに、敷く…というか張られた? 地球のウッドデッキのような木の床に、鋭はリツコを案内しながらすたすたと靴のまま上がった。
「靴は履いたままでいいからね? こうやって、床の上にじかに座って、片膝を立てて片アグラをかくが、こっちの世界での正座。…これきみの食器。各自で持って歩くのが習慣だから、なくさないようにして。で、立てたほうの膝のうえにこう『膝敷き』を乗っけて、その上にお皿かお椀を乗せて左手で支えて、右に置いた小盆から食べるものに合わせて箸か匙を選んで、使い分けて食べるのが、こちら式。」
「…へ~え。お箸なんだ…」
 渡された小さなお椀とお皿とその蓋にもなるお盆と、お箸とお匙のセットの木彫りの丁寧さや、鍋敷きならぬ膝敷き?の刺繍の細かさを眺めて感心している間に、鋭は代表者っぽい貫禄の人としばらく話して。
「…ごめん。実はぼくの計算ミスで、きみが予想より二時間ほど早く着いちゃったもんだから、お昼ごはんの仕度がまだ出来てないって。それでお茶とお菓子の略式の歓迎会になっちゃうんだけど、ごめんね?」
「お昼ごはん?」
 リツコはちょっとびっくりして言った。
「あたしあっちで太陽が沈む瞬間に飛びこんだのに?」
「…うーん…。時差がやっぱり昔の記録とずれてるなぁ…まぁ遅くなるよりは、早く来てくれてよかったよ?」
 鋭の言ってる意味がリツコにはまったく解らなかったが、さっきの人たちや初めての人たちが色々、わらわらと同じ木の床の上に集まってきて、何やらそれぞれの言葉で今度はリツコに、あらためてきちんと挨拶をしてくれている雰囲気だったので、とにかく日本語で一生懸命、「こんにちは! よろしくお願いします!」と挨拶をしまくった。
 それからリツコは、こんなに色んな種族のたくさんの外見の人?たちが一堂に集まっているのだから、てっきりこれが挨拶をしなくちゃいけない『講和会議』なんだと思って、挨拶ぜめがちょっと途切れたすきに、こっそり聞いた。
「ねぇ、鋭。大叔母様からの手紙は、どのタイミングで読んだらいいの?」
「えっ? …あぁ、違う違う。その会議は、もっと先の、ずっと西へ行った後の話だよ? 今日のこれは、はるばる来てくれたきみに挨拶がしたいって地元の人たちが主宰の、たんなる歓迎会。」
「…あ、そうなんだ…。」
 気負っていたリツコは、勘違いが恥ずかしくて赤面した。
 それから乾杯の音頭みたいな全員一緒の挨拶?があって、その後、木の床の真ん中に敷かれた清潔な敷布の上に、冷たい果汁や温かい香草のお茶や飾り切りの果物や、木の実を潰して焼いたお好み焼きみたいなお菓子?だか軽食だか等々が、色々と次々に出てきた。
 もちろんリツコは勧められるままに「いただきます!」と手を合わせてからきれいに全種類たいらげて、「ごちそうさま! おいしかった~!」と、もう一度手を合わせて言った。

 


 2-7. リツコ、誉められる。

 

「もひとつごめん。質問たくさんあるとは思うけど、ぼく先にこの人たちと色々打ち合わせしなくちゃなんだ。ちょっと待っててくれる?」
「うんわかった。」
 そう返事して、食べ終わった後もかなりゆっくりお茶を飲んでても、隣の席の鋭はまだ反対側を向いて、入れ替わり立ち代わり座りにやってくる大勢の人たちと次々に「打ち合わせ」とやらを続けている。
 …のを見て、暇になったリツコはやおらリュックの中から大学ノートとペンケースと、古い小さな日本語の辞書を取り出して開いた。
 まずは一頁一行目に日付と時刻を書こうと思ったけど、携帯が使えないので判らない。
 仕方がないので『訪問1日目。昼?ご飯のあと。』と書いて。ざっと報告の文章は箇条書きでメモだけ書いて。
 それから「四十八色!」入りの色鉛筆の缶をわくわくしながら広げて、子猫とおとな兎とおとな犬を家族風に並べて、簡単なスケッチ風の落書きを、丁寧に手早く描いて。
「…ねぇねぇ、このひとたちは、なんていう名前?」
 ちょっとだけ暇ができたらしいタイミングをねらって鋭に聞く。
「…本人たちは《マウレイレイ》って名乗ってる。《賢く礼儀正しい一族》みたいな意味かな。まわりからはもっぱら《兎犬猫族》とか《森中族》とか… リツコ、イラスト巧いね?」
「あ、ほんと?」
 えへらっと笑う。
「うん。簡単な線なのに、特徴をよくつかんでる。」
「わーい褒められたー ♪ ♪ 」
 素直に喜ぶリツコのへしゃっとした笑顔に、美青年もつられて笑った。
「…適任者が行くわよ!って、清瀬のほうの律子さんが手紙に書いてきた意味が分かったよ。」
「なんてー?」
「前に来たオトナの人は、電波が通じなくてもソーラーで充電しながら、デジカメとパソコンで記録は撮って帰れるだろ。って思ってたらしくて…記録用の機械が全滅で、報道マンとやらのアイデンティティーが崩壊してた。」
「…うーん…」
 リツコは苦笑する。
 アイデンティティーって言葉は解らないけど、オトナって…たしかにときどき、「アタマが硬くて使えない」時があるよね…。
 

 

 2-8. リツコ、空を飛ぶ。

 

「ところでリツコ、きみは馬には乗れる?」
 ひと段落したらしい鋭が唐突にそう聞いてきた。
「…ウマ? …動物園とか観光地とか、10分1000円とかの体験乗馬しか乗ったことない…」
「じゃあやっぱり、運んでもらったほうがいいねー。」
「?」
 リツコがきょとんとしている間に、鋭はまた他の人たちとそれぞれのネイティブ言語で会話して、何かの伝言を追加すると、しばらくして、
「…そろそろ、行くよ?」とリツコに声をかけて、どうやら「ごちそうさま」に相当するらしいお礼のコトバを言って、席を立った。
 リツコも慌てて同じコトバを真似して挨拶して、忘れ物がないように気をつけながら手早く荷物をまとめて後を追う。
「…ねぇ! 今日って、ここに泊まるんじゃないの?」
「うん。地球に帰る時は別の道を通るから、もうここへは戻って来ないよ?」
「えー! もっと猫ちゃんたち、モフりたかったー!」
「………もふる? …って、なに?」
 鋭は『モフる』という日本語を知らなかった!
 鋭が地球にいた頃には、まだ無かった言葉。らしい…。
 それから、ちょっともじもじしながらトイレの場所と使い方を、鋭に通訳してもらって女のひとに聞いてもらって。 その後。
 集まっていたみんながぞろぞろ見送りについて来てくれるなか、来た方向とは逆の、もう一段下の崖の上の広場につくと、そこに待っていたのは…
 翼の生えた…鳥? ただの鳥じゃなくて… 喋るから、鳥人間? …の、人たちで…
 なんだか見た目が怖い上に、…槍? …剣かな? …で、武装?していて…
 …なにか、運動会の球入れのカゴのような、でかい入れ物?が置いてあって…
「…リツコ、高所恐怖症じゃないよね?」
 にっこり笑って超絶美青年が指示するのでやむなく、リツコは恐る恐る、その籠に乗りこんで…
 ことばを喋る大型猛禽類?たちが4人?がかりで、そのロープをそれぞれの両脚の手?で、ガッシリ掴んでやおら舞い上がり…
(………………きゃーーーーーーーーーーー…っ!)
 見送ってくれる人たちに挨拶をする余裕もあらばこそ。
 必死で絶叫を呑みこむリツコだけを乗せて、カゴはどんどん空高くに上がって行き…
 …ようやく揺れが収まってきてから、恐る恐る見下ろしてみると…
 清峰鋭は随行の騎馬の一団とともに、はるか下の草原を駆けているのが…
 遠目に見えた…
(嘘つきーーーーっ! 「道中、何でも聞いて?」って言ってたくせにーーーっ)
 心中で絶叫すること数時間。
 強い風にも、怖い顔の猛禽類たちにも、だんだん慣れてきて…
 広い広い《大地世界》を上から見下ろして…いや、背後に広がる《背骨山脈》とやらの山頂は、それよりまだまだ、はるかに上に霞んでそびえたっているのを眺めて…
 眼下は草原と森、丘陵と谷、畑地と街と村と荒野と…
 少し風が寒いけど、この世界は平和で。平和で。平和で…
 …地球の日本の日没とともに異世界行きの穴に飛びこんだ後、まだ午前中だった異世界に着いてからさらにまた半日以上も、がんばって起き続けていた、小学四年生のリツコは…
 いつのまにか、深く深く…寝入ってしまって…いたのだった…。

 


第3章 リツコ、皇女様にあう。

第3章 リツコ、皇女様にあう。

 

 3-1. リツコ、悪夢をみる。

 

 リツコは、うなされていた。いつもの夢だ。
 懐かしい家。山のふもとの、ちょっと不便な、だけど緑が豊かな南向きの斜面にある…温かい木の壁の家。
 いつものように休みの日の朝には家の裏の土手を登って、日当たりのいい上の畑からお昼ごはんに使う野菜や果物を採ってくるのが、リツコの当番だった。その日はお母さんのリクエストで、小ネギとラディッシュとミニトマトを沢山と、葉レタスを1株採った。
 ちょっと重たくなった収穫カゴを抱えて、崖道を降りようとすると…
 村はずれの集落へと向かってくる行き止まりの一本道を、見慣れない車の集団が、凄い速さでやってくる…
 ……見慣れない車……
 …だけど、あの色は…!
 リツコは急斜面をころげるように横切って走りながら、叫んだ。
「お母さんッ! 大変ッ! 逃げて!」
「…リツコ? どうしたの?」
 お母さんとお父さんがのんびりした顔で、台所の窓から一緒に顔を出す。
「……お姉ちゃんっ! 緑衣隊よ、逃げてッ!」
 家の下のほうの斜面で洗濯物を干していた5歳上の姉にリツコは叫んだ。
 …もう遅い。
 妖しくてらてらと光る変な緑色の特別な自動車の一群は、家の前の小道にがっと乗り入れて次々に急停車するなり、ばたんばたんと音を立ててドアを開け、ばらばらと降り立って来た妖しくてらてらと光る変な緑色の特別な制服の男たちが、びっくりして動けないままシーツを握りしめて立っていた姉を、数人がかりで乱暴に捕まえた。
「………きゃあッ!?」
「エツコ!」お母さんが叫ぶ。
「何をするッ!?」お父さんが怒鳴る。
「高原ワタルとシズカだな?」
 男たちのリーダーらしいヤツが、すごく嫌な声で怒鳴った。
「反政府罪で逮捕する。逃げたら…」
「きゃああッ!」頭に銃をつきつけられて、お姉ちゃんが絶叫した。
「…エツコ! …やめて! やめてッ!」
「…わかった! 頼むからやめてくれ! 娘は関係ないッ!」
「ふん。反逆者の娘は、しょせん反逆者の娘だ。」
「お父さん! 逃げてッ!」
 なおも崖の上から叫んだリツコをめがけて、男達の何人かが、ばらばらと走り始めた。
「リツコ! 逃げなさい!」
「お父さん! 逃げてよッ!」
「エツコを置いて逃げられない。おまえは逃げなさい! おばさんの所へ行くんだ!」
「リツコ! 逃げて! あたしは平気!」捕まったままエツコが叫んだ。
「逃げなさい、リツコ! …きゃあ!」
 叫んだお母さんが乱暴に殴られた。
「…やめろ! 抵抗してないだろう!」
 怒鳴ったお父さんも殴られた。何度も… 何発も。
「お父さん…ッ!」
 リツコは、叫びながらそれをただ見ていた。何も出来なかった…
 絶望した。
 そして崖を駆けあがって来る大人の男達の、動きの速さを悟った…
 …急がないと、逃げ遅れる!
「………おばさんの所で待ってる!」
 叫んで、あとはもうふりむかずに、一目散に、山の中に逃げ込んだ。
 勝手知ったる裏庭山だ。大人には通れない深い崖の上の細い枝をするすると渡り、ターザン顔負けの軽業で幹から幹へ飛んで、とりあえず秘密の場所に逃げ込んだ。
 隠しておいたお菓子と缶ジュースで一息ついて、様子を見ていたのだけど…
 妖しい制服の男たちがリツコを探して山狩りを始めたらしいので、陽が沈む間際を狙ってこっそり逃げて、今までは「子どもだけで入っちゃいけません!」と言われていた、奥の奥の神山のふもとへ逃げ込んだ。
 そこから、月明りだけを頼りに、山伝いに、歩いて、歩いて…
 …おなかが空いて、でも見つかるから、街へは降りられなくて…
 何日も、山の中で眠って、歩いて…歩いて… おなかがすいて…
 雨が降って、寒くて…
 …いつもの夢だ。怖い夢…
 もう、起こってしまったこと。
 リツコは、何もできなかった…。
 ただ自分ひとり逃げるばかりで…
 家族を… 救えなかった…。
「…逃げてよ、お母さんッ! 逃げてぇ……ッッ!」
 眠っているのに、涙が出てくる。
 リツコは、叫んだ…。

 


 3-2. リツコ、起こしてもらう。

 

「…………リツコ! リツコ! …起きて! …夢だよ、起きて…!」
「…………お母さんッ!?」
 リツコは飛び起きて、声をかけてくれた人に、必死でしがみついた。
「…あぁ、良かった… 無事だったのねっ!」
「……リツコ…… 大丈夫だよ…。」
 優しく抱きしめて背中をぽんぽんしてくれた人に、ぎゅぎゅぎゅ~…っと、抱きつきかえしてみたら…
 …………… ん?? ………違う…?
 リツコはまだ半分寝ぼけたまま両腕で相手の背中を探ってみて、目をぱちくりさせた。
 ……細いし… なんか、硬い? し…??
 …これ、お母さんじゃないし… お父さんでもないし…
 お姉ちゃんでも、大叔母様でもないし…
「………… あ!? 鋭? ……ごめんねっ? …あ、あたし… 寝ぼけて…っ」
 ようやく頭がはっきりして… びっくりして飛びすさったら、
「ううん~?」と、美青年は優しく笑ってくれた。
 …やっぱり美形すぎて、思わずまた目をハートにして、見惚れる…。
 鋭はまた困った顔で苦笑して、
「…それにしても、度胸がいいねーぇ? 気がついたら天荷籠のなかで爆睡してたって。鳥人のみんな、呆れて笑いころげてたよ?」
 寝ぼけたことはとりあえず無視してくれて、にやにやと揶揄ってくる。
「 …え? ……えぇ?」
 リツコは慌ててあたりを見回した。
 …知らない部屋だ。
「 ……ここ……?? どこ…?」
「うん。日が暮れる前に《仮皇都》に着いたんだけど。いくらゆすっても起きないからさ。失礼ながら運んじゃった。」
「 ……うわーっっ?? ごめんねっ??」
「ううん~? 軽かったし。」
「え~? …軽くないよ~?? あたしけっこう重いよ~??」
 リツコはぱたぱたと意味もなく暴れ、顔とか髪とかに慌てて手をやって赤面した。
 …こんな美形のお兄さんの前で、もっと小さなコドモみたいに、寝こけて寝ぼけるなんて……っっ
「…だってさっ! だって、向う側の地球の木の穴から、えいって出発したのは夕陽が沈んだ時だったのにっ! こっち着いたらまだお昼前で! だからお昼ご飯二回も食べて、しかもたくさん食べたでしょっ? 飛んでるあいだ、あたしは暇だったしぃ…っ!」
 とりあえず必死で言い訳なんかしてみる。
「…うん。きみが環境適応能力のとっても高い、度胸のいい大物だ。ってことは、よく解ったよ?」
 意味は解らない単語が入っていたが、なんだか皮肉られていることは判る。
「いや~んっ!」もっと赤くなって身もだえしながら叫んだ。
「…知らないところでさ。一人で目が覚めたら、いやでしょ? お腹もすいてるだろうと思って。」
 ふっとまじめな顔に戻って優しい声で言うと、リツコが寝かされていたベッド?を脇から覗き込んでいた鋭は、ひょいと背筋を伸ばして向うへ歩いて行き、部屋の中央に置いてあった食卓と椅子らしい家具のほうに戻った。
 机の上には色々な…分厚い本らしいもの?とか大きな紙?の図面?とか、地図のようなもの?…なんかが色々と広げてある。
 部屋のようすは何というか…和モダン風? 木と紙と竹?…と、布や皮や毛皮かなにかで出来てて…落ちついた感じの、優しい色調だ。
 明かりは小型の竹の灯篭?のようなものが何か所かに置いてあって、開け放した窓からは月明り?も射してる。
 風はないけど暑くはないし、半袖一枚でも寒くもない。
 …秋の初め? …かな? とリツコは思った。
「ごはん用意しておいたから、食べられそうだったら食べて? …あ、手と顔が洗いたかったらそっちね。トイレもそっちの奥。」
「…ありがとっ!」
 リツコは気持ちのいい木の床に敷かれた模様入りのゴザのようなものの上をぱたぱたと裸足まま駆けていって、教えられた場所でトイレと洗手洗顔を急いで済ませてから、またぱたぱたと走って戻った。
「あのね! それでね! 大叔母様からおみやげ? …預かってたのに、渡すの忘れてたー! ごめんなさい!」
 タオルを出し入れしたおかげで思い出したので、購買部で受け取ったままの状態でリュックに入れっぱなしだった包みを二つ、急いで鋭に渡した。
「…あ、持って来てくれてたんだ? ありがとう!」
「…これでいい、の? …ていうか、それ、なに?」
「ノギスと計算尺って言ってね… こっちの世界には無い道具なんで、あったら便利だろうな~って思ってたんだけど、ぼくの記憶だけじゃうまく作れなくって。…これなら関数電卓とかと違って電気は要らないから… うん。やっぱり、使えそうだね!」
「…ふうん…?」
 なんだか分らないけど、すごく嬉しそうにして鋭が早速あれこれいじくり回して試しに使ってみたりしているので、リクエスト通りの正しいお土産だったらしい。…よかった。
 とりあえず一つくらいは役に立てたと安堵したリツコは、急におなかが空いた。
「これ食べていいの? …いただきます!」
 今度は木の床ではなくて木製の椅子に腰かけて座るとちょうどいい高さの木の卓の上に置いてあった箱形の木製のお盆? …日本語だと時代劇とかに出てくる『箱膳』に似てるかな? …の蓋をとると、ふわりと優しい香りが立った。
「…わぁ、美味しい!」
「そぉ? 良かった。」
 何種類かの野菜と山菜?とキノコと、何かの柔らかい肉と、小海老?みたいなの…を、香草と一緒に蒸して、ふんわりと優しい味の餡でくるっと和えてある、簡単だけどすごく美味しいおかずが山盛りと、濡れせんべいと焼き味噌おにぎりの中間のような、しっとりした噛みごたえの、何かの穀物の粉を練ったのかな?…平たく焼いた、主食らしいもの。
 浅漬けみたいな感じの薄味の生野菜の色どりのきれいな盛り合わせと、箸休め的なコリコリした何か。それから、食べやすいように綺麗に切ってくれてあった、汁けたっぷりの…甘酸っぱい…香りのいい、果物!
 もう夢中になって猛然とがっついている間に、七輪というか炭火の卓上コンロ的なもの…日本語だと『火鉢』って言うかな…? の上でしゅんしゅん沸いていた鉄瓶からお湯を注いで、鋭が温かいお茶を淹れてくれていた。

 


 3-3. リツコ、情報交換する。

 

「………ふ~ぅ。おなかいっぱーい! …ごちそうさま!」
「落ち着いたら、もう一度眠るといいよ。まだ朝まで時間があるから。」
「………もしかしなくても、あたしのために起きててくれたの?」
 リツコはちょっとぎょっとして、それは申しわけなかったなと思いながら聞いてみた。
「まぁやることも色々あったし。『夜中に寝ぼけますからよろしく』って、清瀬の律子さんからの手紙にも書いてあったし。」
「…えぇ?!」(…はっずかし~っ!) …と、頬に両手を当てて身もだえしてみせると、鋭はまたふふっと笑った。
「まぁフツウ組のひとが朝日ヶ森に保護されてるからには、何か事情があるとは思ってたけど」
「鋭は、地球のジジョウについては、どれぐらい知ってるの?」
 リツコは聞いてみた。なにしろ知らないことだらけだ。
「う~ん? 清瀬さんからは何も聞いてないの?」
「そんな暇なかったもん。鋭のこと『初恋の人なの~!』とかノロケ始めちゃったし。」
「…えぇ? それ初耳!」
「え、うそ? しまった!」
 リツコは慌てて口をふさいだ。遅いけど…。
「………言っちゃったこと、内緒ね…?」片目で様子をうかがうと、
「う~ん、まぁ時効だし…? なにしろぼくはこんな見た目のまんまだけど、地球の時間だと、あれからもう五十?…六十年くらいかな? 経っちゃってるし…。
 でも清瀬さんとは、ほんと喋ったこともあまり無かったんだよ? 数十年ぶりにやっと地球と連絡がとれて、手紙の返事に当代の朝日ヶ森の学園長が清瀬律子サンって署名してあっても、最初は同じ人だとは思わなかったくらいで。」
「そうなんだ?」
「うん。…そもそもなんで彼女が朝日ヶ森にいるのさー?」
「え? 同級生だったんじゃないの?」
「その前にいた全く普通の地元の小学校でだよ。今のキミと同じ、4年生の時にね。清瀬サンは転校生だったし。そのころ口がきけなくて挨拶も筆談だったし」
「あ、それは聞いたことある。子どものころ一族みんな死んじゃった時に、心因性ナントカってショックで、しばらく喋れなかったんだって。」
「そうだったんだ…」
 『一族』という単語が出たところで何か納得してくれたらしく、鋭は話題を換えた。
「それで僕は、IQ高かったんで普通の学校から《センター》に誘拐されて。」
「えぇ?」
「《センター》は、まだある?」
「あるよ!」
「緑軍のために安く効率的に人を殺せる強力な武器を開発しろー!…なんて勉強をさせられてさ? 人体実験とかやらされるの厭だったんで逃げ出して、山ン中で生き斃れかけてたらマーシャに拾われて、朝日ヶ森に保護されて… そしたら何故か清瀬さんも朝日ヶ森に保護されてて… まぁ色々あって僕は天才組だし彼女はフツウ組だし、あんまり喋る機会もなくてさ? 結局そのすぐ後に僕はマーシャの… あ、あした挨拶につれてくけど、こっちの世界の皇女サマのことだけど。ごたごたに巻き込まれてこっちに飛ばされちゃったから、以来まったく数十年間? お互い音信不通。」
「…そうなんだー?」リツコはちょっと目を丸くして混乱した。
 話の全体像がよく解らないけど、そんなに長く時間がたっても、大叔母様は『初恋の人なの~!』…が、忘れられなかった? のかー…。(…もしかして、それで独身?)と思ったが、それはいま鋭にいう話でもないと、慌てて考えなおした。
「あたしはほんとにフツウなのー。お父さんとお母さんが反政府って地下活動やってて目ぇつけられちゃって。緑衣隊が逮捕に来たから『逃げて!』って言ったけど遅くて。
あたしだけ走って逃げて山ん中でサバイバルしてたら大叔母様に頼まれたって朝日ヶ森の魔法組のひとが保護しに来てくれて。家族もみんな無事に救出されてたんだけど、あたしより先に亡命しちゃってたんだ。で、次の亡命船が確保できるまで、朝日ヶ森で待ってなさいって。」
「…そこまでは、ほぼ僕と同じ状況らしいけど…。…それを『普通』って言っていいのかなぁ…。」鋭が苦笑して遠い目をする。
「…それでか。『こっちとそっちの行き来を兼ねて、地球の別の場所に出られないか』って、清瀬さんからの質問」
「…え?」
「聞いてない? リツコこっちに来たあと、またすぐ朝日ヶ森に戻すか、このままこっちで暮らすか、もし可能なら、地球上の別の場所に戻してくれてもOKって。」
「そうなんだ…」それは聞いていなかったなと思いながらリツコはうなずいた。
「日本から外に出さえすれば、まだわりと移動の自由はあるって? ストリームラインと連絡さえ取れれば、お母さんたちと合流させられるって。でもキミの今回の二時間ずれた件もあるし、こっちとあっちの昔の通路はほんとに、ほとんど埋もれたり忘れられたりしてたから、まだ調査が足りてなくてね。情報が、かなり不確実なんだ…。うっかり抜けたら下に受け止めるクッションがなくて地面に激突とか、時代がもっとズレて浦島太郎になっちゃったりとかしたら、嫌でしょ? 絶対安全って保障できる通路が用意できるかどうか、もうちょっと待っててね。」
「うん。わかった。」
 それからしばらくは主にリツコの方が、地球と日本のここ最近の事件について…小学生のリツコにも解る範囲の話だけ、だったけど…説明をして。
 うとうとしはじめたら鋭が抱っこしてくれて、布団に入れてもらって。
 …最後にみた大きな満月が、地球より大きいな~と思ったところまでで、リツコの記憶は途切れた…。

 


 3-4. リツコ、寝坊する。

 

 再び目が覚めると、どうやらもうすっかり朝も遅い、という時間帯の雰囲気だった。
 大小色々いるらしい鳥の声が賑やかで、人の声や犬らしいものや馬?の吠える声とかのざわめきも遠くから聴こえる。
「…んんん…… よっく寝た…? …あれ…??? ここ、どこ…???」
 あたりを見回して家でも学校の寮でもない部屋だと再確認して、それから、昨日なぜか異世界とやらに本当に来てしまってたんだった。…ということをぼんやり思い出し、
「…夢じゃなかった!」
 …と、慌てて起き出した。…鋭の姿はすでにない。
 服のまま寝てしまっていたので、急いでトイレと洗面を済ませて、ちょっと冷たかったけどついでに水浴びして髪も洗って、とにかく新しい服に着替える。
 …そうだ。脱いだ服の洗濯は、どうしたらいいのかな…?
 必要最低限の荷物しか持って来られなかったから、こまめに洗濯しないと、すぐに着替えがなくなる。
 電気がないんだから、洗濯機だって無いよね…?
 井戸水はたっぷりあったし天気も良かったので、水場の脇にあった大きな盥がたぶんそれ用だろうと考えて借りて、じゃぶじゃぶ手と石鹸で洗濯して。邪魔にならないかなー?と思いながら、土間のすみの植え込みの端っこの枝を選んで紐をかけて干した。
 昨日と同じように卓の上に用意されていた箱盆の朝食を勝手にたいらげる。
「いただきます! ………ごちそうさまでした!」
 3分でがつがつ平らげて手を合わせて礼をしてからふぅと目を上げると、旅館の中居さんのような動きやすそうな服を着た知らない女のひとが、物音を聴きつけてやってきたのか、にっこり笑って部屋の前に立っていた。
「あんによんまるにえん、えなら?」
「…あっ! おはようございますっ! …ごあん! 勝手にいただきましたッ!」
 おもわずもごもごと噛んじゃいながら慌てて日本語で挨拶すると、にっこり笑って
「えんえん。」と返事をしてくれた。
「まによ、えんにえんね?」
 リツコが食べ終えた食器を手早くまとめて箱盆ごと持って『ついて来て下さいな?』という風に首をかしげるので、リツコは急いでリュックをひっかけ、慌ててついていった。
 気持ちのいい明るい長い廊下を何度か折れ曲がって、案内された先には鋭がいた。
 広くて天井も高い大きな部屋で、鋭と同じような青と水色系の優雅だけど動きやすそうな服と、長めに伸ばして後ろでまとめた髪型の同じような雰囲気の…頭が良さそうで性格が穏やかそうな、でもちょっと頑固そうなところもある…学者さんタイプ?みたいな大人たちがたくさん(ほとんどが普通の人間タイプと、毛皮や耳つきも何人か)いて、大きな布や皮製の地図だの表だのを広げて賑やかに、打ち合わせか何かの準備をしている感じ。
 真ん中の大きな机の上には昨日リツコが渡した「お土産」のノギスと計算尺が置いてあって、みんなでその寸法を測ったり絵図に写したり、興味津々で観察したりしている。
「…リレキセース。まるにえん。…えーらんてーい。」
 案内してくれた女のひとが戸口から声をかけると、すぐに鋭が降り向いた。
「あるっくあーい。…あ、リツコ起きた? おはよう。」
「おはようございますっ。寝過ごしてごめんなさいっ!」
「い~よ~?」
 それから鋭は周りの人に声をかけ、自分の見ていた書類などは簡単に片づけて、なんだか昨日着ていたものよりずいぶん高級そうな?かしこまった感じの?上衣を手にとった。
「じゃ、行こうか。」
「どこへ?」
「皇女サマにご挨拶~。」
「えぇ!?」
「…あれ、ゆうべ言わなかったっけ? ここの皇女サマって前は地球に亡命して朝日ヶ森に居たんだよ。『霧の校庭・運動会行方不明伝説』って、今じゃ学園七不思議になってるって書いてあったけど。」
「え~っ? …何十年か前の、障害物競走の途中で生徒がイキナリ消えたって謎の話? …あれ実話だったんだ…」
「そうそう。そん時に巻き込まれてダレムアスに来た僕が、ここに居るからねぇ。」
 …つくづくあの学校はフシギと謎だらけだ…とリツコがあきれながら鋭と一緒に歩いて行くと玄関らしき場所に出て、その先の気持ちの良い小さな木立ちのなかの小径を歩いていくと、すぐに大きな道に出た。
「うわ…」
 市場だった。いや…大きな町?…商店街?…と、見慣れないものだらけの景色に、リツコはきょろきょろしてしまう。
「…とりあえず質問と観光は後にしてー。皇女サマは怒らせると怖いからー。」
 どこから観察したらいいかと立ち止まってしまったリツコの肩を押して鋭が苦笑する。
「それでなくてもキミ、きのう寝ちゃったからさ? 歓迎パーティーすっぽかしたんだよー?」
「…きゃーーーーーっ! ごめんなさいっ!?」
 リツコは恥ずかしくて悲鳴をあげた。

 


 3-5. リツコ、右将軍にあう。

 

  街道を右に曲がってまっすぐ歩いて行くとやがて活気のある市場から広い庭のお屋敷が立ち並ぶ区画に変わって、いきあたった四辻でまた右に曲がると、開放的な感じの大きな高い門があって、特に検問とか見張りとかは何もなくて、わいわいと行き交う人たちと一緒にひょいとくぐると、入ってすぐに大きな男の人たちがなにか話しあいながら立っていて、そのうち一人が振り向きざまに、すごく嬉しそうな声の日本語で話しかけてきた。
「おう鋭! 来たか! そのコか?」
 背が高くて筋肉もりもりで肩幅が広くて日焼けしていて、ばさりと無雑作に伸びっぱなした感じのすこしクセのある髪はつやつやした真っ黒で、笑った歯は真っ白だ。
 赤と黒の派手なデザインだけど動きやすそうな服に、大剣と短剣と投げ矢?とか弓とかなにかの武器をたくさん、いかにも扱い慣れている感じに、隙なく身に着けている。
「うん雄輝。この子だよ~、高原リツコ嬢。」
 手のひらで紹介して気軽そうに喋ってるけど、まだ若い青年の鋭よりは十歳くらい年長に見える。とても偉そうなマントを羽織った、大人の男のひとだ。
「こんにちわっ! タカハラですっ! よろしくお願いしますっ!」
 近づいて来た相手をかなりのけぞって見上げながら、リツコは精一杯、元気に挨拶してみた。
「リツコ、これが『校庭行方不明事件』で消えた三人のうちのもう一人。翼 雄輝。」
「おう、よろしくな。ところでリツコって何県のタカハラ家?」
 リツコは質問されてる意味がわからなくて返事ができなかった。
 それに、紹介された人の背中には、焦げ茶色のまだら紋様のある、大きな翼があった。
「………羽………!」
 昨日リツコを運んでくれた『ほぼ鳥に見えるけど服を着て喋って脚の手?で道具を操る人』たちとは違って、『ほぼ人間』な姿で、背中にだけ大きな翼があるタイプだ。
「…ん? 珍しいか? 《朝日ヶ森》なら今でも居るんじゃないか?」
「居るけど… すごく怖い人たちで…、近くで見たことなかったから…」
「あ~、天狗系のやつらか? あいつらは気難しいからな~…」
 うんうんと勝手に納得している。
「おれはオオノのタカバの谷のモトシュケの『ツバサ』一族の最後の一人のユウキ。
…って言って解るか?」
「ごめんなさい。わかんないです。うちは分家の分家のまた分家とかで、本家の一族ってずいぶん前に滅んじゃてて、誰も詳しい人が残ってないそうです。…お父さんなら、もうちょっとは知ってるかもだけど…」
「あ~気にすんな。そんなもん、そんなもん。」
 からからと笑って男の人はリツコの肩をぽんと叩いた。
 地球には、古くからの伝説を語り伝えて来た、いくつかの「一族」に属する「遠い場所から来た人々」の子孫と、それとは別の「新しい土地で生まれた人々」という、区別がこっそりあるという。
 ものすごく漠然とした話だけしか、リツコは知らない。
「マダロ・シャサ!」
 広場の向うから呼ばれたのは、翼が生えてる地球人の、こっちの世界での名前らしい。
「…じゃな。…マーシャ怒ってるからな~。せいぜい庇ってやれよ?」
「うへぇ…」
 リツコには謎の言葉を残されて、鋭が、ものっすごい嫌そうな声を出した…(リツコはびっくりした。)

 

 

 3-6. リツコ、皇女サマに会う。

 

 心なしか鋭は少し早足になって歩いて行く。リツコの身長だとすこし小走りにならなくちゃいけないくらいの歩調だ。
 そこはとても大きな広場で、馬?車や人が曳くリヤカーのような荷車や、きのう乗せてもらった鳥の人が使うカゴに似たものなどがところ狭しと並べられ、ひっきりなしに人や獣や植物の人?たちが荷物を運び込んできては、移し替えたり、積み上げたりしている。
 何かで同じような光景を観たことがあるなとリツコが思い出してみると、前にテレビでやっていたシルクロードとかの隊商の出発準備に似ていた。
 …どうやら、大勢で旅に出る?仕度をしているらしかった。
 その慌ただしく雑然とした前庭を抜けるともう一つの門があってくぐるとまた広場があって、こちらはまだ比較的すいている感じで、少し伸びすぎた芝生のような、昼寝したら気持ちが良さそうな、ふかふかした草がびっしりと生えた植えこみが両脇に長く伸びている幅の広い道を抜けた正面に、宮殿?らしいものがあった。
 リツコが知っている範囲でいうと一番似ているのは奈良とか日光とか鎌倉とかいわゆる古都にある八幡宮とかの寺社。鮮やかな紅朱と金や緑の曲線的な木彫り細工で華麗に丁寧に飾られた木造建築で、広大な敷地内に渡り廊下や欄干でつなげて点在していて、屋根がとても高いけれども全体的に平屋建て。せいぜい部分的に二階屋もあったり火の見櫓みたいな塔がところどころにあるくらいで、全体的に平べったい。広場から続いている屋外の道の床は関帝廟みたいな石張りか玉砂利の部分も多くて、建物の中も地面と同じ高さの床は石。階段を上がると木の床。
 鋭は案内も請わずにすたすたと敷地の奥の奥に進んで、そのまま最寄りの脇玄関をくぐって内廊下にまで入っていくので、リツコも遅れないようにがんばって後を追う。
 驚いたことに、通りすがりの偉そうな役人らしい服の人たちが、鋭を見つけると皆すぐに頭を下げる。
「マウレィディア!」
「マウレィディア、リレク、エイセス!」
「マウレィディア!」
「アノネ、カイエ。」
 鋭は軽くうなずくだけで短く返して、どんどん歩いて行く。
 やがて着いた場所の開け放たれた大きな扉の前の廊下の、壁沿いに並んだたくさんの椅子の列に座って何かの順番待ちをしているらしい人たちの前は挨拶だけしながらすたすたと通り抜け、扉のすぐ脇にある先頭の椅子で待っていた人にだけ、
「…アウレクセス、マルニエン、エネ?」
 と、頭を下げて片手でちょっと拝むようなしぐさで遠慮がちに声をかけると、
「マウレニエン、エネ、エネ!」
(どうぞお先に!)と言っているのだろう仕草で、相手の人は喜んで順番を譲った。
 その大広間のなかで拝謁の最中だった人が、その声にふりむいて、慌てて自分の場所を譲ろうとする。
「…アウネ、ソノ!」
 若い女性の高飛車な声が鋭く響いて、その人はちょっと困った顔をして、また前に向かいなおした。
(…構わない、続けて!…って、言った?)と、リツコは推測する。
 どうやらそこが謁見の間で、真ん中の大きな椅子に偉そうに座っているのが、これから挨拶する「皇女サマ」とやら、らしかった。
 色が白くて唇が真紅で、ものすごい美女だけど、かなり性格がキツそう。碧緑色の華麗な巻き毛を肩のまわりにふわっと広げて、瞳も同じ碧緑色だ。朱色と金色の豪奢だけどすっきりと洗練された意匠の繊細な装束。
 まだ若いめだけど、おとなの女の人だ。さっきの男の人…翼雄輝…と同じくらいか、ちょっとだけ下くらいの年齢に見える。つまり、まだ青年の鋭より五歳か十歳くらい上? と推測してから、(まぁ地球人の感覚で、だけど…)と、七十歳は過ぎているはずの大叔母様と鋭が、六十年前の地球の小学校で同級生だった、という話を思い出して、うーんとうなった。
 その、きつそうな性格の美女が、ちょっとかなり苛苛した感じで眉をしかめながら、目の前に座っている人の報告をそれまで最後までちゃんと聴いていたらしい感じで、いくつか短く指示を出して、またその返事を得てから、仕種と声とで偉そうに退出を命じる。
「…遅いわよ、あなた!」
 次にいきなり日本語でビシッと怒鳴りつけられて、リツコは思わず首をすくめた。
「… は、はいッ! …ごめんなさいッ!」
「昨夜は歓迎の宴を用意したのにすっぽかすし! 今日は私もう出なくちゃいけないのにいつまでも待たせるし! …それになに? チビな上にタダビト組なの? …なんで清瀬律子が自分で来なかったのかしら!」
 …これはもう…挨拶とか自己紹介とか、マトモにさせてもらえる状況ではない…?
 リツコは震えあがり、あやうく涙目になりかけながら必死で言い訳をした。
「あのぅ…ゆうべと今朝はすいませんでした…あたし時差ボケで、寝ちゃって… それに大叔母様たちは今すごく忙しいんです。最近かなり大掛かりなテキハツがあったせいで、大勢タイホされちゃったんで…」
「…あら、そう…。」
 美人皇女は、素早く眉をしかめた。
「鋭、その報告は後で聞くわ。今日はとにかく忙しいのよ。その御チビさんで大体揃ったし。明日もう出発するわよ! 正午発! あなたも準備急いで!」
「らじゃ。」
 鋭はちょっとふざけた感じで地球式の挙手の礼をすると、あわあわしているリツコの肩を反対回りに押して、とっとと逃げ出そうとした…。



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