9. リツコ、会議にでる
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9. リツコ、会議にでる
砂漠のほとりの大きな隊商都市で先行していた側近の人たちと待っていた荷駄隊と合流し、衣装と体調を整えて、そこから数日の駱駝行で、西皇家の都についた。
開放的で慌ただしく雑多な民族で賑わっていた白の仮皇宮とは何もかも違って、数千年?の時代を経た石造りの皇都は重厚で、壮麗で、格式高くて、絶対的な身分の差。というものが大きくのしかかっているようだった。
宮殿に上がる前に市場の庶民の街で見物とか観光とかしたい。と仰せの皇女サマの『わがまま』は、『とんでもございません!』と新たに迎えに来た使者から巌として却下にされた。
まぁとにかく、期日通りに間に合って、東の白皇家の代表者たちは、西の皇家に挨拶する。
その儀式にはリツコや鋭やマシカたち『平民と余所者』は参加が許されなかった。代わりに白皇家の旅のあいだは居心地悪そうだったボルドム公女は《公主》と呼ばれてマーシャと同格に厚遇された。なんでって、「ボルドム世界の創造主たる男神グアヒィギルの血を濃く引く特別な一族」の出だから。だそうだ。
そのほか、各方面から大地世界各国諸勢力の代表者たちが続々と集まって…
いよいよ、諸侯会議が開催された。
リツコは初日と最後の日に、『地球から来た地球人代表』ということで一言ずつ挨拶をするのが役割だった。
また一生懸命マシカと相談して、今度は初日はユカタを着て出た。
可愛いと好評だった。
大叔母様から出発前に渡されていたあの挨拶状を声に出して呼んだ。
朝日ヶ森学園というのは国とか民族ではなく、こちらの世界のヨーリア学派と同じように、有力な学者の集団だ。ということにしておいた。
それから会議はたくさんの分科会に分かれて、あちこちで紛糾したり白熱したり和合したり満場一致で拍手喝采のあと大宴会になったりしていた。
リツコとマシカは終りの日まで暇になった。市場に繰り出して買い物に明け暮れた。
皇女サマや鋭たちは、ものすごく忙しそうだった。
10-1. リツコ、よばれる。
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10. リツコ、地球に帰る。
10-1. リツコ、よばれる。
明日は会議の最後の挨拶だというその晩、リツコは慌ただしくマーシャの部屋へ呼ばれた。
鋭もマシカも皇子様たちも公女も、なぜかみんないた。
「なあに?」
「リツコあなた案外有能だから。このままこちらに居てもいいのよ?」
いきなり不機嫌丸出しの声で皇女サマがぼそっとのたまう。
「へ?」目を点にすると、鋭が言い出しにくそうに苦笑しながら補足した。
「地球の欧米側に出られる通路があったらそちらに。って清瀬律子さんから頼まれてたのは、前に話したよね?」
「あ、うん。聞いた。」
「西のヨーリア学派とも連絡とってて。どうやら確実に通れる通路が、今夜だけ、開く。」
「今夜!?」
「…急だから…みんなびっくりしててさ。」
「うん。」リツコもびっくりして、うなづく。
「それを逃すとしばらく地球に帰れる通路は確定できてない。へたすると数年先かな?」
「…そうなんだ…」
「それで、今夜、地球に帰るか、数年先までこっちに居てくれるかな?…って」
「……………そうなんだ……」
「リツコきみこっちで楽しそうだったし。」
「もうしばらく居てくれたら、あたしは嬉しい。けど…」
「言わないのは卑怯でしょ!」
また唐突に皇女サマがぶすくれた声でつぎ足す。
「…実は、リツコのお父さんとお母さんと、連絡が、取れたよ。」
「ほんとッ!?」
「うん。今夜、行くなら、迎えに来てくれるって…」
鋭の眼から涙が溢れるのを、リツコは二重にびっくりして見ていた。
マシカも泣き出してしまった。
リツコも泣き出した。でも、言った。
「うん。…急だけど… あたし、帰るよ!」
もう一回、声に出して、自分に確認してみた。
「地球人だから… 地球に帰る。」
「あたしね。ずっと…自分のこと… 天才でも魔法使いでもないし…
役に立たなくて、残念だな! って思ってた。
でもね、こっち来て、ほんとの天才の鋭とか、魔法が使える王女様のマーシャとか、見たけど…
…べつに天才じゃなくてもね。凡才でも、マホウも使えなくても…
…あたし、結構、役に立つよね?!」
「えぇ。役に立ってくれたわよ。」皇女サマが悔しそうに涙をにじませて言う。
「だから… こっちの世界はこれからもう、平和になるから…」
「自分の世界に帰って、がんばれることを、やってみる!」
「そうだね。」
雄輝がちょっとそっぽを向き、鋭がうん。とうなずいた。
10-2. リツコ、地球にかえる。 (2018年8月26日)
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10-2. リツコ、地球にかえる。
慌ただしく、来たときのリュックとバスケットに荷物を詰めて、来た時の服に着替える。
こっちでマシカと買ったばかりの服や小物や甘いものの大半は、残念だけど諦めるしかなかった。
「リツコ… あたし本当の妹みたいだなーって、思ってたのに…!」
マシカはもう泣いて泣いて大変で、手伝いは期待できない。
やっぱりぐすぐす鼻を鳴らしながらでも、鋭はさくさくと荷造りを手伝ってくれた。
挨拶を出来る人たちには挨拶をして回って、会議の後の宴会であちこち賑やかな城のすみから、地元のヨーリア学派の人たちの案内で、そっと抜け出す。
皇女サマと公女様は宴会から抜けられない立場なので、門の中で最後のお別れをした。二人とも眼が赤くなっていた。
短い夜の道を歩き、寺院のような場所から地下の泉水井戸に入る。
小さい祠があって、それをどけると短い洞窟があった。
『入って。』ヨーリア学派の人が言う。
『リツコ!…リツコ行かないで!』マシカがうしろからしがみつく。
『マシカ…!』リツコも涙で前が見えなくなる。
『あまり時間はない。すぐに通路はまた塞がってしまう。』
「リツコ、
「鋭、また…いつか、どこかで、会えるかな…?」
「手紙を書くよ。小さいものなら、通せる通路は確保してあるから」
「うん…」
動けない。やっぱり…行きたくない! 帰りたくない!
リツコは思った。
すると洞窟の向うから、真夜中なのに、太陽の光? らしいものが射しこんできた。
「リツコ! …リツコなの? 居るの?!」
「リツコ!?」
「…お母さんッ? お父さんッ!」
…マシカが、抱き着いていた腕を、放した…
「ごめん!みんな! あたし、行くね!」
『リツコのお母さん! リツコとっても良いコでした!ありがとう!大事にしてあげてね!』
マシカが洞窟の奥に向かって叫ぶ。
「リツコ!? そこに居るのよね?!」
リツコはがんばって一歩踏み出し、それから駆けだした。
後ろを振り返る暇もなく、あっと思う間もなく、ステン!と転んで…
明るい場所に、お母さんとお父さんが、立っていた…
「リツコ!元気で!」
最後に鋭の声が聴こえて…
それっきり。
その後ついに、大地世界に戻る機会は…
なかった。
fin.
(1) 朝日ヶ森 (2018年6月3日)
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『 リツコ 冒険記 』 ~ 夏休み ・異世界旅行 ~ (1)
2018年6月3日 リステラス星圏史略 (創作) コメント (1)
ひみつ日記
『 リツコ 冒険記 』 ~ 夏休み ・異世界旅行 ~ (1)
霧樹里守(きりぎ・りす)
(1) 朝日ヶ森
もちろんみなさん御存知でしょうが「朝日ヶ森」といったら「IQがとても高いスペシャルな天才児が集まる」ことでこっそり有名な、私立の学校です。
ただし生徒がぜんぶ天才児だけではなくて、両親がものすごい金持ちだとか、昔から続く古い古い家柄の娘や息子であるとか、外見がとてもすてきに生まれついたおかげで赤ちゃんのころから芸能界で人気の子役をつとめているとか…
なにかひとつ優れているところがあれば、入学できる、とも言われています。
ただし「お受験で。」…は、ないんです…。
どんなに頑張って受験勉強させても、「ウチの子をぜひぜひ!入れてやってください!」と、ご両親や祖父母やお偉い親戚さんとかが、大金を積んで土下座しても…
「招待」されないと、入学できません。
その「招待される・されない」の、基準が…いまひとつ、よく解らないので…
ウチの子はとてもスペシャルに、すばらしい!…と思っている親たちオトナたちは毎年、「ウチの子はとても優秀だと思うけれども…あの、朝日ヶ森ガクエンに、…入れてもらえる?…ほど特別? かしら…?」と…
入学や編入を許可する「招待状」が届く季節と噂されている秋の終わり頃には、使者の先生がたの来訪を待って、やきもき、そわそわ、するはめになります。
どこかの魔法学校みたいでしょ?
…え? そんなこと、みんな知ってます!…って…?
…あらあら、あなた、詳しいのね…?
…招待状を、待ってるクチかしら…?
…でも、これは知ってるかしら…?
「有名な」朝日ヶ森には、じつは「学苑」と「学園」の、2つがあるんです。
それを知っている「関係者」はみんな、「学苑」のことは「オモテ」、「学園」のほうを「ウラ」または「ナカ」とか「真」とか呼びます。
「学苑」のほうは南東北の、東京からも新幹線で日帰りできる、便利な地方都市の便利な郊外にあるんですよ。
きちんと申し込めば、取材だって見学だって、できます。
そして、「学園」の、ほうは…
…どこにあるのか…?
一般には、知らされていない。と、いうことを…