目次
(借景資料集)
【速報!】 第2回 「青い鳥文庫小説賞」
(第4稿)
(第4稿)as(最終稿)
(添付挨拶状)
(あらすじ) (2018年9月23日)
序章 《 朝日ヶ森 》
第1章 リツコ、異世界へ行く。
第2章 リツコ、異世界で目覚める。
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、取材する。
第8章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第9章 リツコ、役に立つ。
終章 リツコ、地球に帰る。
(第3稿)
(第3稿)
(表紙)
(あらすじ) (2018年9月16日)
序章 朝日ヶ森 学園
第1章 リツコ、異世界へ行く。 (2018年9月16日)
第2章 リツコ、異世界で目覚める。 (2018年9月16日)
第3章 リツコ、皇女様にあう。
第4章 リツコ、仲良しができる。
第5章 リツコ、旅に出る。
第6章 リツコ、旅をする。
第7章 リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第8章 リツコ、戦う。
第9章 リツコ、地球に帰る。
(第2稿)
(第2稿)
(あらすじ) (2018年9月8日)
1-0-0.朝日ヶ森「学苑」(おもて)
1-0-1.朝日ヶ森(うら) (2018年9月8日)
1-1-0.リツコ、呼ばれる。 (2018年9月8日)
1-1-1. リツコ、出かける (2018年9月8日)
2-0-1.リツコ、異世界に着く。 (2018年9月9日)
2-0-2.リツコ、挨拶する。
2-1-1.リツコ、清峰鋭にあう。
2-1-2.リツコ、異世界の村へ行く (2018年9月9日)
2-1-3. リツコ、空を飛ぶ。 (2018年9月9日)
3-0-0. リツコ、悪夢をみる (2018年9月10日)(加筆)
3-0-1.リツコ、起こしてもらう。
3-0-2. リツコ、情報交換する
3-1-0.リツコ、朝寝坊する。
3-1-1.リツコ、右将軍にあう。
3-1-2.リツコ、皇女に会う
3-1-3.リツコ、マシカとあう。
3-1-4. リツコ、市場へ行く。
3-1-5. リツコ、天幕に泊まる。 (2018年9月11日)
4-0. リツコ、早起きする。
4-1. リツコ、パレードに参加する。
4-2. リツコ、誇大広告される。
5-1. リツコ、旅をする。
5-2. リツコ、記録する。 (2018年9月12日)
5-2. リツコ、話せるようになる。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。
第6章 リツコ、旅をする。
(第1稿)
(第1稿)
(あらすじ) (2018年8月17日)
( 目次 ) (2018年8月18日)
0-1.(おもて) (2018年8月18日)
0-2.(うら) (2018年8月18日)
1.リツコ、親善大使になる (2018年8月18日)
1-1. リツコ、出かける
2. リツコ、異世界へ行く。
2-1.リツコ、挨拶する。
2-2.リツコ、清峰鋭にあう。 (2018年8月19日)
2-3.リツコ、運ばれる。
3.リツコ、白王都へ着く。 (2018年8月22)
3-1-0.リツコ、寝坊する。 (2018年8月22日)
3-1-1.リツコ、皇女に会う (2018年8月22日)
3-1-2.リツコ、マシカにあう。 (2018年8月24日)
3-1-3. マシカ、市場へ行く。 (2018年8月24日)
3-1-4. マシカ、天幕に泊まる。 (2018年8月24日)
4-0. リツコ、目覚める。
4-1. リツコ、行列に参加する。
4-2. リツコ、センデンされる。
5-1. リツコ、記録する。
5-2. リツコ、観察する。
6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。 (2018年8月26日)()
6-2. リツコ、小鬼を救う。 (2018年8月26日)
7. リツコ、まきこまれる。 (2018年8月26日)
8-1. リツコ、魘される。
8-2. リツコ、龍にのる。
9. リツコ、会議にでる
10-1. リツコ、よばれる。
10-2. リツコ、地球にかえる。 (2018年8月26日)
(草稿&没原稿)
(草稿&没原稿)
(1) 朝日ヶ森 (2018年6月3日)
『 リツコへ。 第一日 』 (@中学……1年か2年?) 
(あらすじ) (プロット&目次)
(あらすじ) (プロット&目次)
【投稿用】プロットメモ (2018年7月22日)
400字~800字程度のあらすじ。 (2018年8月17日)
(設定資料集)
(設定資料集)
このコだ! 「鍵になるキャラ」…っ!www (2018年6月30日)
(( ことばよ、つうじよ! ))  (2018年8月9日)
(サ行前の雑談など)
(サ行前の雑談など)
【ぐれてる理由】。(--;)。 (2018年5月13日)
『 リツコ 冒険記 』 ~ 夏休み ・異世界旅行 ~ (1) (2018年6月3日)
(案の定【天中殺中】で頓挫している) (2018年7月22日)
…ちっ! …やっぱり…『落ちた』か…★ (2018年8月12日)
次ぃ征くぞ! 次っ! (2018年8月12日)
★ 【講談社 『 青い鳥文庫 』 の呪い!?】の謎。 ★
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(第1稿)

(第1稿)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(第1稿)

 

 


(あらすじ) (2018年8月17日)

http://85358.diarynote.jp/201808180013462979/

(2018年8月17日)

 

 

『 リツコ冒険記 』-夏休み・異世界旅行-

               霧樹里守(きりぎ・りす)

(あらすじ)

高原リツコは家族の事情で、私立学園の寮に住んでる。

その学長から「夏休みの手伝い」を頼まれた。

なんと、「異世界への親善大使」!

えぇ?!

…っと思ったけど大人たちや先輩たちはみんな忙しくて行けないらしい。

「行って、みんなと仲良くして、まわりをよく観察して、レポートを書いてきてくれれば、それだけでいいの。

行ってくれたら他の宿題はぜんぶ免除してあげる!」

大好きな学長がそう言ってくれたので、喜んで引き受けた。


「姉弟世界」と呼ばれる大地世界ダレムアスでは、優しいお兄さんに世話してもらっちゃうしぃ♪

食べ物は美味しいし、お祭りは楽しいし…、

…皇女サマには意地悪されたけど…。

もうひとつの異世界ボルドムとの戦争終結のための講和準備会議?とか、

同じ大地世界のなかでも、民族紛争とか、皇位継承争い?とか…

そういう問題には、ショックを受けたけど…。


たっぷりのレポートを抱えて、友達と涙でお別れして、

リツコは夏休みの終わりとともに、元気に帰国しました。

 


( 目次 ) (2018年8月18日)

http://85358.diarynote.jp/201808181451568839

 

 

 

『 リツコ冒険記 』-夏休み・異世界旅行-

               霧樹里守(きりぎ・りす)

 

 

( 目次 )



0.まずは、朝日ヶ森学園

1.リツコ、親善大使になる

2.リツコ、異世界へ行く

3.リツコ、清峰鋭にあう

4.リツコ、皇女殿下にあう

5.リツコ、お祭りでうたう

6.リツコ、キャラバンにはいる

7.リツコ、虜囚公女とであう

8.リツコ、小鬼をたすける

9.リツコ、思い出す

10.リツコ、会議に参加する

00.リツコ、帰国する。

 

 

 


0-1.(おもて) (2018年8月18日)

http://85358.diarynote.jp/201808181638312153/

 

 

0. まずは、朝日ヶ森学園。


0-1.(おもて)


朝日ヶ森学園。

知ってるかな?

「天才児が集まる」ので秘かに有名。

超のつく贅沢な校舎と自由奔放なカリキュラムで知られていて、
子どもを私立に進学させたい親たちにとっては、憧れの学園だ。

基本は全寮制だけど、都心から新幹線で通勤・通学してくる生徒や先生もいる。

緑の豊かな地方都市の新幹線の停車駅から、自動車なら迂回して20分くらい。

歩くなら、ほぼ直線コースの県立公園の遊歩道を抜けてくるのが速い。

自転車?

…まぁ、モトクロスを乗りこなせる人なら、抜けられる道だと思うよ…?

学園の敷地は広くて、一見すると壁とか塀とか柵とかは何もない。

でもセキュリティは万全で、目立たないところに監視カメラ網がばっちり。

不審者は立ち入れないけど、内部の見学とかは許可制の予約ツアーに参加すれば入れる。

校舎や講堂や寮の建物は、一見シンプルだけどしっかりお金のかかった造りで、
見た目は柔和な感じだけど、どんな災害にもまけない頑丈な骨格なんだって。

もちろん、屋外と屋内(温水)の両方のプールがあるし、体育館とか柔道場とか剣道場とか弓道場とか、もちろんスケートリンクもスキー場もテニスコートも、全天候対応型のやつが、それも複数個所にある。
さすがにサッカーコートとラグビー場は、屋外だけらしいけど。

図書館ときたら外部の大人がまる一日かけて調べものしに訪ねてくるほど蔵書数が多い。

広大な敷地はゆるやかな起伏があって、種々沢山の緑が豊か。

天気のいい日は生徒たちがあちこちの芝生や木の下で、寝ころがったり自由課題を片づけていたりする。

時間割は自習が多くて自由で、給食もメニューを自由に選べて美味しいらしい。

都心から新幹線で週1のスクーリングに通ってくる通信制の生徒たちには芸能関係の子役とかが多い。

全寮制の一番奥の建物に住みついているのは、三歳から二十五歳までの、
「天才」と呼ばれる、生まれつき知能指数の高い、ちょっと変人が多い。

それから一番多いのはやはり親が金持ちとか有名人とかで、コネと金をふんだん
に使って我が子をここにがんばって押し込んだ!という家の子たちらしいけど。

それ本当はちょっとだけ、気の毒な話なんだ。

なんでかって…?


ここはあくまでも、関係者からは「おもて」と呼ばれている場所(学苑)で…

本当の朝日ヶ森「学園」は「うら」と呼ばれていて、別の場所にあるから。

なんだ…

 

 

 


0-2.(うら) (2018年8月18日)

http://85358.diarynote.jp/201808181752415407/

 

0-2.(うら)


さて。

「うら」とか「真」とか呼ばれている、「ほんとうの」朝日ヶ森について…

説明するのは、難しい。

場所は秘密で、首都からは「裏日本」と蔑視されている、辺鄙な山中にある。

こちらも敷地は広大だけど、頑丈なレンガの壁にきっちり囲われて、特殊な警備隊が昼夜わかたず厳重な監視をしている。

生徒の種類はおもに2つに分かれる。

ひとつは国内外の要人の子女で、家族と一緒にいれない事情のある者…病弱とか、テロや誘拐の危険とか、相続争いとか、隠し子で正妻には内緒とか…そんな感じの。

だからちょっとひねた性格のやつらが多い。

もう一方はもっと特殊で…

「ふつうの」人間じゃない能力…や外見…を持って生まれた、「特別な家柄の」子孫とか跡継ぎとか…

とにかく、そんなのだ。

角や牙があったり、翼や鱗があったり、呪術や魔術が使えたり、人の心が読めたり…

本人たちは、「一応、神でも悪魔でもないから、人間なんだけどー」と主張する場合が多いが、

今の世の中ではうっかり一般社会を出歩くことができない。

「一族それぞれの隠れ里にこもってばかりでは世間にうとくなるし、幼なじみと親戚以外は友達も恋人もできないし!」という理由で「遊学」しに来て、文字通り「羽根を伸ばして」学園生活を楽しんでいたり…する。

そんな、観た感じからして不思議な…「地球内治外法権」の…

「朝日ヶ森学園」。

このお話は、そんな場所から始まる。


1.リツコ、親善大使になる (2018年8月18日)

http://85358.diarynote.jp/201808181850402014/

 

 
1.リツコ、親善大使になる


1-0.リツコ、呼ばれる


リツコは平凡な子どもで、セレブの子女でも天才児でもなく、残念ながら美少女戦士でも子役アイドルでもないかわりに、妖怪変化の類でもなかった。

(こう書いたら「失礼ね!」とクラスメイトに怒られた。)

しいて言うなら特技は木登り。
親から習ったのでキャンプとか大好きで野外炊飯とか年齢のわりには大得意。

虫とか蛇とか平気で、まぁ女子からは引かれるけど、いざって時のサバイバルには向いてる。

見た目は凡百。顔はのっぺりして日焼けとソバカス。黒目だけデカイかな。
へろへろのくるくる天パがコンプレックスで、
ご飯はよく食べるけど、それ以上に暴れてる。

から太ってはいない… たぶん。

前いた学校ではソフト部でいいセンいってた。
投げたら当たる。これはけっこう、長所?

まぁそんな程度のリツコが「うら」朝日ヶ森にいるのには…

事情があった。


そんな事情のひとつ、「大叔母様」からの呼び出しがあったので、とある7月の昼下がりに学長室までとことこ歩いて行った。

大叔母様というのは都合上の呼称で、本当は実の祖母のイトコだ。

学園はすでに夏休みで、生徒たちの大半は帰省か旅行に行ってる。

セミ時雨のほかは静かな構内をえんえん歩いてようやく事務棟に辿りつくと、
勝手知ったる建物内には無言のまま入って、こんこんと学長室のドアを叩いた。

「はい。どうぞ!」

若々しい声の大叔母様の返事でドアを開けて一応「失礼します」と頭を下げる。

「なんですか?」

「お願いがあるのよ!」

元気な声でいきなり言われて、リツコはかなり面食らった。

「欠員が出ちゃってね! 代わりに行ける人がいま他にいないの。バイトと思って引き受けてくれないかな。お礼として、他の夏休みの宿題は、ぜんぶ免除するから!」

…この「大叔母様」の名前は清瀬律子という。リツコと同じ「りつこ」だ。

やはり妖怪でも天才でもない「ただびと」のはずだが、何故かここの卒業生で、当代の学園長まで務めてる。

リツコの産みの母はこの気さくな美人叔母(ほんとうは母の母の従妹だ)が大好きで、彼女が一時行方不明になって死んだと思われていた頃にたまたまリツコを身籠ったので、思わず名前をもらって付けてしまった。という話…
まぁそれはいいけど。

「…朝日ヶ森の生徒の欠員て… それ、あたしでも務まる用事?」

「だいじょうぶよ! なんて言うか…そう! 親善大使! みたいな役目なの。
行って、滞在して、皆さんと仲良くして…最後の会議で、コレを私の代理で音読してくれればいいの!」

渡された手書きの紙にざっと目を通して、それから声に出して読んでみた。

…べつに、難しい漢字とかは、無いよね…

「…行っても、いいけど… どこ…??」

「異世界よ!」

大叔母さんの無邪気な一言に、リツコは「はぁ?」と口を開け、目を点にした…。

 


1-1. リツコ、出かける

http://85358.diarynote.jp/201808182007137491/

 

1-1. リツコ、出かける


「…あ、あらっ? ウケなかったかしらっ? イマドキの、『ただびと』…いえ、ふっ『普通世界』の子どもには、こういう言い方のほうがウケ………いえ、判りやすいかな~と、…思ったんだけど…っ!???」

いつも穏やかでニコニコしている大叔母様が真っ赤になってわたわた取り繕うという珍しい光景を、リツコは口をあけたままあんぐり眺めた。

「…べつに危ないこととかは無いと思うのよ? 戦争は終わったっていうし、和平会議だし、おばさまの初恋の人とか、向うに行ってるしっ」

「はぁ?」

「だからねっ!…だから、私と同じ名前の遠縁のあなたが、向うであの人に逢ってきてくれたら、本当に、わたし嬉しいのよ…っ!」


「…………わかった。とにかく、行ってくるから…………。」


「ほんとっ?」

としがいもなく頬なんか染めちゃった大叔母様(たしか七十歳は過ぎているはずだ…)が、慌てて咳払いなんかしながら色々と説明してこまごまと持たせてくれた資料と道具に一通り目を通し、リュックに最低限の着替えと小物を詰め、お気に入りの藤のバスケットには往きの列車内で食べるお昼と果物とを詰めて…

三日後、リツコは学園前から無人の送迎バスに飛び乗った。


最寄駅から鈍行に乗って、乗り換え駅から特急に乗って、検札のひとに

「小学生が一人で?」と尋ねられたら教えられた通りに

「ママのお墓参りに行くんだけどパパは夏休みが取れなかったのー!」

と無邪気なふりしてにこにこ返事して。


慣れない長距離列車に揺られてクーラーが寒くて辛くて鼻水垂らしてぐずぐず言いながら、ちょっとだけ肘枕で窓にもたれて眠って。

乗り降りする他の乗客たちの会話の声の大きさにはたと目が覚めると、もうすぐ、降りる駅で…


二面戸町駅のホームの待合室でくるりと振り向いて教えられていた秘密のドアを開けると。

「高原リツコ様ですね? 異世界旅行社の送迎サービスの者です~!」

どう見ても二足歩行の巨大カエルな人?に曲がりくねった不思議な山道を案内されて…、

教えられた大樹によじよじと必死で登って。

教えられた通りの樹上の空洞から、えいっと、勇気を出して、

飛び降りて、どすんと…

いえ、ふわっと…


なにか柔らかいものの上に、落ちて…


目を開けたら、そこは、異世界?

だった…。


2. リツコ、異世界へ行く。

http://85358.diarynote.jp/201808191550129196/

 

2. リツコ、異世界へ行く。


2-0.リツコ、異世界に着く。


はじめ何も視えなかった。とにかく眩しかった。

(…太陽…? …は、…地球とおんなじ光? なのかな…??)

とりあえず薄目だけ開けて、手のひらで顔の上を遮ってみた。

反対側の手でからだとまわりを探ってみる。

…怪我はない。まわりは…もふもふ? もそもこ? …している…???

しばらくして、自分が何か柔らかくて細かいもの?のやまの中に埋もれこんでいる…? ということが判った。

薄目だけ開けながら、もっそもっそと手探り膝さぐりで、何かふかもこしたものが、上から落ちて来たリツコを受け止めた衝撃で弾け跳んだらしい綿埃?…らしきものが光の中を舞い踊っているなか、1mほどの斜面をのそのそよじ昇る。

ちょうどそのくらいから、まわりのあちこちから、声が聞こえ始めた。


「…ま~るめる! まるった! えら。えららう。まるる~ん…???」

「えるった!らう!」

「まるぇ? えら。あらぅ。…あろ、…あっかせっか!」

「か~ぃせ! えのっかあるっか、らぅらぅらぅ。あごん!」

「まれった!」


…そんな感じのまるまるした可愛い声の、可愛いコトバで…

…もちろん、ひとっことも、解らない…!

(………ほんっとに、異世界? 来ちゃった~???)

…そう思いながら、もこもこの白い山の上からようやく顔を出すと。

「えらっ! あまっあまままあまま、あそっ?」

可愛い仕種で、どうやら「だいじょうぶ~?」と心配してくれているらしい声が、かかった。

(…か、かわいい…っ ♡ ♡ ♡ )

語尾と目じりが思わずハート型になってしまうような生き物たちが、そこらじゅうにいた。

全体的に、白くてもこふわ。

うさぎのようなふわふわ毛並みの、見た目はむしろ猫? …二足歩行の…猫??

サイズはかなり小さそうだ。リツコの膝上までぐらい?

「あいにゃ! うにゃう?」

リツコはへろっと笑いながら、とりあえず手を振ってみた。

「ごめん! コトバわかんない! ケガはないよ~。だいじょぶ!」

それからちょっと心配になって体の下のもふもふを手にとってよく見てみた。

白猫?たちとよく似た色だから、下敷きにしたのかと思って。

(…違うみたい…これは…毛玉? …繭…???)

なんかカイコのような大きさの、毛玉…毛糸玉? のようなものが、いかにも「落ちて来くるもの受けとめ用クッション」という形に盛り上げられた…

そこは、大きなテント…ティピ? のような… 布だか皮だかでまわりをぐるっと囲まれた…

大樹の、下だった…


2-1.リツコ、挨拶する。

http://85358.diarynote.jp/201808191754076232/

 

2-1.リツコ、挨拶する。


古びて節くれだってぼこぼこと溝やウネができてところどころに緑の苔まで生えた大樹の根元、眩しい陽光が燦燦とさしこむあたり。

巨木の幹にできた大きな空洞(うろ)から「何かが落ちてきたら」受けとめられるように…と、高さ三~四メートルほどに積み上げられていた「もこもこ」の山の斜面をずるずると滑り降りてみて、そこでリツコはしばらく困り果てていた。

膝丈ほどの二足歩行の「喋る猫」…としか思えない白くてふわふわの生き物の群れにわらわらと取り囲まれて、

「まうまうまう」
「あうれ?」
「あっかのおっか?」
「おねぅおねぅ!」

などなど…ちっとも解らない言葉で、おそらく質問責めに?されたあげく、よじよじとリツコのからだに登り始めて頭の上に乗っかっちゃったりする、おちびさんまでいる…

(………えーとぉ。これは~………☆)

ふかふか可愛い生きものにまとわりつかれて思わず撫でてみたり、へろ笑いをしながらも困り果てていると、すこし離れたところから、すこし違う声が響いた。

「えっけれねん! あうら! かなりっこさる!」

とたんに、リツコをとりまいていたチビさんたちが慌てて動き始めた。

「あけーーーーーね!」

なんとなくリツコにも意味が分かった。

『あんたたち何やってるの、だめでしょ! 離れなさい!』
『はーい!』

くらいの話じゃないかな? たぶん…

ちびさん達がどいてくれた隙に慌てて立ち上がると、やってきた人?たちの姿がようやく見えた。

(…あれ…?)

膝丈ほどのちびさん達は、とにかく「仔」猫(?)だったらしい。

やってきたのは大人?で…そして。

横丸な顔で耳も短くて猫似の仔どもたちに比べると、やってきた数人?(匹?)は、おそらく育つにつれて顔も手足も縦長になり…

耳が長く立ち上がり…やがては垂れて…地球でいう「垂れ耳うさぎ」が二足歩行で、服着て荷物も持ってきた…としか見えない、人?たちだった…

(…えーと!)

リツコはとりあえずとにかくピシッと「気をつけ!」の姿勢をしてみた。

「こんにちは! はじめまして、高原リツコっていいます。よろしくお願いします!」

きちんとした大人たちがきちんとした時にきちんとやるみたいに、きちんと手をそろえてきちんと頭を下げて、きちんとした挨拶をしてみる。

おとな兎?たちは、ちょっとキョトンとした後、やおら長い耳を頭上に掲げて左右にぱたぱたとうちふり、片手で巻きスカート?の脇をちょっとつまみながら膝をかがめて、

「まうまうまう!」と声をそろえた。

(まうまうまう?)とリツコは考える。

(さっきから何度も聞いたコトバだな~、あいさつだったのか!)

まねっこをして両手を耳のかわりに頭の両脇にたてて左右にふってみて、スカートは履いてないのでそこは省略して、膝だけまねっこしてぴょこんとかがんで、

「まうまうまう?」と、首をかしげながら挨拶をしてみた。

おとな兎たちはリツコの発音の悪さにウケたらしくて笑いながら、「まうまう!」と返事をしてくれた…

リツコはえへへと笑った。

「えっけれねん、あうりっこさるれぅある?」
「あっかいおす、おっかいねん?」

再び意味が解らない…

困り笑いをしていると、おとな兎たちのうしろから、新たな声が響いた。

「ごめんごめん!遅れた!やっぱりちょっと時間計算に誤差があったね!」

(…………日本語だぁ~!!!!)

こんな短時間でことばの壁からホームシックになりかけていたリツコは、自分がものすごいほっとしていることに、むしろ驚いた…

 


2-2.リツコ、清峰鋭にあう。 (2018年8月19日)

http://85358.diarynote.jp/201808191830401117/

 

2-2.リツコ、清峰鋭にあう。


膝丈のおちびさん達よりはだいぶ大きいとはいえ、地球の日本の小学校高学年としては標準サイズのリツコと同じくらいの身長しかない、おとな兎たちの群れの後ろから、ひょひょいと胸半分ほど上に現われた青年は、ものすっごい美青年?だった。

(…うそっ? 少女漫画かアニメかなんかっ?)

リツコはちょっと呆然とする。

すらりと伸びた細身で、薄茶色のさらりとした髪は肩にかかるくらい長くて、優しそうな色白で、瞳も澄んだ明るい茶色で、きらきらしていて、とても優しそう…

ぽかんと口を開けて上を向いて見惚れているリツコにちょっと困った笑顔で、

「…リツコさんだよね? 遅れてすいません。迎えの者です。」

「はいっ! 高原リツコですっ! 高天原からテンを抜いたタカハラ! リツコはぜんぶカタカナっ!」

見惚れていたのが決まり悪くて、リツコは思わずフルサイズで自己紹介をしてしまった。

(…あ、恥ずかし~!)

「…どうぞよろしく? ぼくは、清峰鋭といいます。」

「……………嘘っ?!」

「え?」

「…だって! それ大叔母さんの初恋の人!…の名前! …ってことは、七十歳は過ぎてる筈でしょうっ?」

「…あ~、…聞いてないかな? 向うとこっち、時間の流れもトシのとりかたも違うんだよ…」

「聞いてないっ!」

…美青年なお兄さんは、困ったような笑顔で、にっこり笑った。

「じゃあ、解らないことは後で話すから、道中、何でも聞いて?」

(…つまり、今はその場合じゃない。ってことよね…?)

いちおう考えたリツコは、とりあえずハイと頷いた…

 


2-3.リツコ、運ばれる。

http://85358.diarynote.jp/201808191925435874/

 

2-3.リツコ、運ばれる。


わきゃわきゃとからみついてくる仔猫なこどもたちと垂れ耳ウサギなおとなの女性たちと一緒に歩いて村まで降りて行くと、そこにいたどうやら垂れ耳が広くて犬似の顔のひと?たちは、どうやら同族の男性らしかった。

案内された村一番の大きな家の庭先の木の下の居心地のいいテーブルで、出してくれた果汁や香草のお茶や飾り切りの果物や木の実を潰して焼いたお好み焼きみたいな見た目のお菓子をすべてたいらげた後、やおら大学ノートを取り出して、リツコは清峰鋭に尋ねた。

まずは日付を書こうと思ったけど、リュックから出してみた電子機器類はすべて圏外どころか教えられていた通り画面が真っ暗で、スイッチをいくら押してもうんともすんとも、電源すら入らない。

「…ほんとだ…」

「それは聞いてた? こっち電気を使うものは全部ダメなんだ。物理法則が根本から違うらしくて。」

「空とか木とか、見た目はおんなじなのにねー。」
「空と太陽と風だけが共通項、って言われてる。」
「ふーん…」

日付と時間はあきらめて、「訪問1日目。昼ご飯のあと。」とだけ書いて。

大叔母様から山のように渡された体験報告記入用の大学ノートの一冊目に、やはり1ダース入りの匣ごと渡された鉛筆の1本目をがりがり削って、ざっと報告のメモだけ書いて、仔猫とおとな兎とおとな犬?の見本を家族風に並べた落書きを手早く描いて、

「ねぇねぇ、このひとたちは、なんていう名前?」

「本人たちはマウレイレイって名乗ってる。うさぎひと族。みたいな意味かな。
 まわりからはもっぱら猫兎とか犬兎とか… リツコ、イラスト巧いね?」

「あ、ほんと?」

「うん。簡単な線なのに、特徴をよく捉えてる。」

「わーい褒められたー♪♪」

素直に喜ぶリツコの笑顔に、美青年もつられて笑った。

「適任者が行くわよ!って清瀬さんが手紙に書いてきた意味が分かったよ。」
「なんでー?」

「前に来たオトナは、電波が通じなくてもデジカメとパソコンで記録は撮って帰れるだろ。…って思ってたらしくて…機械全滅で、アイデンティティーが崩壊してた。」

「うーん…」

リツコは苦笑する。オトナって…ときどき、「使えない」よね…。

「ところでリツコ、きみは馬には乗れる?」
「…動物園とかの10分1000円のやつしか乗ったことない…」
「じゃあやっぱり、運んでもらったほうがいいねー。」
「はい?」

リツコがきょとんとしている間に、うさぎ人たちと普通にネイティブ言語で会話して、打ち合わせだの連絡だの会議だの?していた清峰鋭は…(うさぎ人たちからは何故だか「ミキーレ」と呼ばれていた)…何か指示をひとつ追加すると、しばらくしてその返事が返ってきたらしく。

「そろそろ、行くよ?」とリツコに声をかけて、どうやら「ごちそうさま」に相当するらしいお礼のコトバを言って、席を立った。

リツコも慌てて同じコトバで挨拶してみて、荷物をまとめて後を追う。

そこに待っていたのは…

背中に翼の生えた…鳥人間?…の一族の人たちで…

や、…槍刀? 剣かな? …で、武装?していて…

なにか運動会の球入れのカゴのようなでかい蔦網の籠を持ってて…

「リツコ、高所恐怖症じゃないよね?」

にっこり笑った清峰鋭に指示されて、リツコは恐る恐る、その籠に乗って…

翼人間たちが4人かかりでロープを持って舞い上がり…

(……………きゃーーーーーーーーーーーっ!)

必死で声を呑みこむリツコだけを乗せて、カゴはどんどん空高くに上がって行き…

恐る恐る見下ろしてみると…

清峰鋭は騎馬の一団とともにはるか下の草原を駆けているのが…

遠目に見えた…

(嘘つきーっ! 「道中、何でも聞いて?」って言ってたくせにーーーっ)

心中で絶叫すること数時間。

夕陽が赤く燃え上がる頃、空飛ぶ籠は、ようやく地面に着いた…。


3.リツコ、白王都へ着く。 (2018年8月22)

http://85358.diarynote.jp/201808221403234175/

 

3.リツコ、白王都へ着く。


3-0.リツコ、寝こける。


 リツコは、うなされていた。

「お母さん! お父さんっ! 早くっ! …早く! 逃げてっ!!!!」

 いつもの夢だ。怖い夢。もう、起こってしまったこと。そして、…

「…リツコ! リツコ! 起きて! …夢だよ、起きて!」

「…お母さんッ!」
 リツコは飛び起きて、声をかけてくれた人に必死でしがみついた。
「あぁ良かった…無事だったのねっ!」
「…リツコ…」
 …ん??
 ぎゅっと抱き着いてみたら…違う…?
 硬いし、細いし…
 これ、お母さんじゃないし…お父さんでもないし…大叔母様でもないし…
「…………あ!? 鋭? ………ごめんねっ? …あ、あたし…寝ぼけて…っ」 びっくりして飛びすさったら、「ううん。」と、美青年は優しく笑ってくれた。
 …やっぱり見惚れる。
 鋭はまた苦笑して、
「それにしても、度胸がいいねーぇ? 天運籠のなかで気がついたら爆睡してたって。鳥人のみんな、呆れてたよ?」
 うなされていたことは無視してくれて、にやにやからかってくる。
「え? …えぇ?」
 リツコは慌ててあたりを見回した。
 知らない部屋だ。
「…ここ…??」
「うん。日が暮れる寸前くらいに白王都に着いたんだけど。いくらゆすっても起きないからさ。…運んじゃった。」
「……うわーっっ?? ごめんねっ?」
「ううん~? 軽かったし。」
「え~? 軽くないよ~?? 重いよ~??」
 リツコはぱたぱたと顔とか髪とかに手をやって赤面した。いや~ん…っっ
「だってさっ!だって向う側の木の穴からえいっって出発したのは夕陽が沈んだ後だったのにっ! こっち着いたらまだお昼前で! お昼2回も食べたでしょっ? 飛んでるあいだあたしは暇だったしぃっ!」
 とりあえず必死で言い訳してみる。
「うん。きみが適応能力のとても高い大物の卵だってことは、よく解ったよ?」
「いや~んっ!」
「知らないところでさ。一人で目が覚めたら、いやでしょ? お腹もすいてるだろうと思って。」
 優しい口調ながらまじめな顔に戻って言うと、リツコが寝かされていたベッドを覗き込んでいた鋭はひょいと立って歩いて行き、部屋の中央の食卓と椅子らしいセットのほうへ戻った。
「ごはん用意しておいたから。…あ、手と顔が洗いたかったらそっちね。トイレもそっち。」
「ありがとっ!」
 リツコは清潔で気持ちのいい木の床の草編みらしい模様入りのゴザのようなものの上をぱたぱたと裸足でかけていって、教えられた場所でトイレと洗手洗顔を済ませて、ぱたぱたと走って戻った。
 置いてあった箱形のお盆?の蓋をとると、ふわりと優しい香りがする。
「わぁ、美味しい!」
「そぉ? 良かった。」
 何種類かの野菜と何かの肉と小魚…を、香草と一緒に蒸して和えたらしい簡単だけどすごく美味しいおかずが山盛りと、おせんべいと焼きおにぎりの中間のようなしっかりしっとりした噛みごたえの、何かの穀物の粉を練って平たくして焼いた、主食らしいもの。
 箸休め?的なちょっと摘まめるコリコリした歯ごたえの何か。浅漬けみたいな感じの新鮮な生野菜が数種類。それからデザートに、食べやすいように切ってあった汁けたっぷりの甘酸っぱい香り高い果物!
 それらをがっついている間に、鋭が卓上焜炉的なものの鉄瓶からお湯を注いで、温かい草のお茶を淹れてくれる。
「ふ~ぅ。おなかいっぱーい!」
「おなか落ち着いたらもう一度眠るといいよ。まだ朝まで時間あるから。」
「もしかしなくてもあたしのために起きててくれたの?」
「まぁやることも色々あったし。夜中に寝ぼけますからよろしくって、清瀬さんからの手紙にも書いてあったし。」
「えぇ!?」(…はっずかし~っ!)
 …と、身もだえしてみせると、鋭はまたふふっと笑った。
「まぁフツウ組のひとが朝日ヶ森に保護されてるからには、何か事情があるとは思ってたけど」

「…鋭は、地球のジジョウについては、どれぐらい知ってるの?」
 リツコは思い切って聞いてみた。なにしろ知らないことだらけだ。

「う~ん。清瀬さんからは何も聞いてないの?」
「そんな暇なかったもん。初恋の人だ~ってノロケ始めちゃったし。」
「えぇ? それ初耳!」
「え、うそ? しまった!」
 リツコは慌てて口をふさいだ。遅いけど…
「…言っちゃったこと、内緒ね…?」
「う~ん、まぁ時効だし…。なにしろそっち時間だと、五十年も経ってるし…。
 でも清瀬さんとはほんと喋ったこともあまり無かったんだよ? 数十年ぶりに地球側と連絡がとれて、当代の朝日ヶ森の学園長が清瀬律子サンって署名してあっても、最初は同じ人だと思わなかったくらいで。」
「そうなんだ?」
「うん。…そもそもなんで彼女が朝日ヶ森にいるのさー?」
「え? 同級生だったんじゃないの?」
「その前にいた全く普通の地元の学校でだよ。今のキミと同じ4年生の時にね。彼女転校生だったし。そのころ口がきけなくて筆談だったし」
「あ、それは聞いたことある。心因性とかのショックで喋れなかったって。」
「それで僕はIQ高かったんで《センター》に誘拐されて。」
「えぇ?」
「逃げ出して朝日ヶ森に保護されて…そしたら何故か清瀬さんも朝日ヶ森に保護されてて… まぁ色々あって僕その直後にこっち側に飛ばされちゃったから、以来五十年?お互い音信不通。」
「そうなんだー?」
 リツコはちょっと目を丸くして混乱した。話の全体像がよく解らない…けど。
「あたしはほんとにフツウなのー。お父さんお母さんがハンセイフって目ぇつけられちゃって。逮捕に来たから『逃げて!』って言って。走って逃げたらばらばらになっちゃって。それで山ん中で一人でサバイバルしてたら朝日ヶ森のひとが保護しに来てくれて。でもお母さんたちは先に亡命しちゃったんだって。次のルートが確保できるまで、朝日ヶ森で待ってなさいって。」
「…ほぼ僕と同じ状況らしいけど。…それを『普通』って言っていいのかなぁ…。」
 鋭が苦笑して遠い目をする。

「それでか。『こっちとそっちの行き来を兼ねて別の場所に出られないか』って質問」
「え?」
「聞いてない? リツコこっちに来たあと朝日ヶ森に戻すか、もし可能なら、地球上の別の場所に出してくれてもOKって。」
「そうなんだ…」

「でもキミの今回の時差の件もあるし、ルートがほんとかなり不確定なんだ…。
 ぜったい安全って確認できるかどうか、もうちょっと待っててね。」
「うん。わかった。」

 それからしばらくはリツコが地球と日本の最近の事件の話をして、うとうとしはじめたら布団に入れと言ってもらって。

 …最後にみた大きな満月が、地球より大きいな~と思ったところまでで、リツコの記憶は途切れた…。

 


3-1-0.リツコ、寝坊する。 (2018年8月22日)

http://85358.diarynote.jp/201808222012536184/

 

3-1.リツコ、謁見する。

3-1-0.リツコ、寝坊する。

 再び目が覚めると、どうやらもうすっかり朝も遅い、という時間帯のような雰囲気だった。大小色々いるらしい鳥の声が賑やかで、人の声や馬?のいななきとかのざわめきも遠くから聴こえる。
「…んんん……よっく寝た…?…あれ…???」
 あたりを見渡して知らない部屋だということを再確認して、昨日なぜか異世界とやらに来てしまったんだった…ということをぼんやり思い出し、
「…夢じゃなかった!」…と、正気にかえって、慌てて起き出した。
 着ていたのは持参した寝間着で、自分で着替えたのは覚えてる。
 木と竹?と紙と布でできたシンプルな…何というか和モダン?…風なしつらえの部屋のなかで慌てて昼の服に着替える。…そうだ。脱いだ服の洗濯は、どうしたらいいのかな…?
 昨日おしえてもらった場所でトイレと洗面を済ませて、水はたっぷりあったし天気も良かったので、ついでだから大きな盥でじゃぶじゃぶ洗濯もしてしまって、邪魔にならないかなー?と思いながら土間のすみっこの植え込みの枝に紐をかけて勝手に干す。
 昨日と同じように卓の上に用意されていた朝食らしいものを勝手にたいらげる。
「いただきます!………ごちそうさまでした!」
 3分でがつがつ平らげると…物音を聴きつけてやってきたのか、旅館の中居さんのような感じの動きやすそうな服装をした知らない女のひとがにっこり笑って立っていた。
「あにょんまるにえん、えなら?」
「あっ!おはようございますっ!ごあん勝手にいただきましたッ!」
 おもわず噛んじゃいながら慌てて挨拶すると、にっこり笑って「えんえん。」と返事をしてくれた。
「まによ?」
 リツコの食べ終えた食器を手早くまとめて持って、「ついて来て?」という風に首をかしげるので、リツコは急いでリュックをひっかけて、あわててついていった。

 行った先には鋭がいた。
 大きな部屋で、同じような服装と髪型をした同じような雰囲気の人たち沢山と、地図だの一覧表だのを広げて、慌ただしく何かの打ち合わせをしている感じ。
「まるにえん。えーらんてーい。」
 女のひとが声をかける。鋭が降り向いた。
「あるっくあい。…あ、リツコ起きた?」
「おはようございますっ。寝過ごしてごめんなさいっ!」
「い~よ~?」
 それから鋭は周りの人に声をかけ、自分の見ていた書類は簡単に片づけて、上衣を手にとった。
「じゃ、行こうか。」
「どこへ?」
「皇女サマにご挨拶~。」
「えぇ!?」
「あれ、ゆうべ言わなかったっけ?ここの皇女サマって朝日ヶ森に居たんだよ。
『霧の校庭・運動会行方不明伝説』って、学園七不思議になってるって聞いたけど。」
「え~っ? 何十年か前の、障害物競走の途中で生徒3人がイキナリ消えた謎?
 …あれ実話だったんだ…」
「そうそう。そん時に巻き込まれた僕がここに居るからねぇ。」
 …つくづくあの学校はフシギだらけだ…とリツコがあきれながら鋭と一緒に歩いて行くと、玄関らしき場所に出て、
「あっあたし靴っ」
「だいじょうぶ、昨日ここで脱がせたから、ここにある。」
「あっそうなんだ~。」
 ほんとに鋭って気配りというか、用意がいい人だなぁ…と感心する。

 玄関先の気持ちの良い小径を歩いていくと、すぐに大きな道に出た。
「うわ…」
 市場だった。いや…大きな町? 商店街…?
「とりあえず質問と観光は後にしてー。皇女サマは怒らせると怖いからー」
 きょろきょろしながら呆然と立ち止まってしまったリツコの肩を押して鋭が苦笑する。
「それでなくてもキミきのう寝ちゃったからさ? 歓迎パーティーすっぽかしたんだよー」
「…きゃーーーーーっ! ごめんなさいっ!」
 リツコは恥ずかしくて悲鳴をあげた。

 さらに歩いて行くと開放的な感じの大きな門があって…
 特に検問とか見張りとかは何もなくて、ひょいとくぐると、入ってすぐのところに、大きな男の人が立っていた。
「おう鋭! 来たか! そのコか?」
「うん雄輝。この子だよ~、高原リツコ嬢。」
「あっこんにちわっ! タカハラですっ! よろしくお願いしますっ!」
「リツコ、これが『校庭行方不明事件』のもう一人。翼雄輝。」
「おう、よろしくな。タカハラって何県のタカハラ家?」
「…………翼…………!」
 リツコは質問されてることに返事ができなかった。紹介された人の背中に大きな翼があったから。
「ん?珍しいか? 朝日ヶ森にも居るだろう?」
「居るけど… 怖くて殆ど話せなかったし…」
「あ~、天狗系のやつらは、気難しいからな~…」
 そういう問題だっけ…
「おれは善野の鷹羽ヶ峰の一族の、元主家の翼の最後の一人。…って解る?」
「ごめんなさい。わかんないです。うちは一族って滅んじゃて残ってないので。
あたしたちは、分家の分家で。…大叔母様か、お父さんなら知ってるかもだけど…」
「あ~気にすんな、そんなもんそんなもん。」
 からからと笑って男の人はリツコの肩をぽんと叩いた。
「マダロ・シャサ!」
 ちょっと離れたところから呼ばれたのは、その翼のある人のこっちでの名前らしい。
「じゃな。マーシャ怒ってるからな~。せいぜい庇ってやれよ?」
「…うへぇ…」
 鋭が、すっごい嫌そうな声を出した… (リツコはびっくりした。)

 


3-1-1.リツコ、皇女に会う (2018年8月22日)

http://85358.diarynote.jp/201808222150112690/

 

3-1-1.リツコ、皇女に会う

 少し足早になって歩いて行く。そこはかなり大きな広場で、馬車?や荷車らしきものや、きのう乗せてもらったような飛び籠と同じようなものが大量に並べられ、そこへひっきりなしに人や馬が荷物を運び込んできて、移し替えたり、積み上げたり…何か同じような風景を観たことがある…とリツコが思い出してみると、前にテレビで見たシルクロードのキャラバンの準備に似ていた。
 どうやら大勢で旅に出る?仕度をしているらしかった。
 その前庭を抜けると綺麗に手入れされた植え込みに飾られた広い道に出て、そこを少し歩くと正面に宮殿?らしいものがあった。
 リツコの記憶でいうと一番似ているのが奈良とか日光とかにある寺院建築で…鮮やかな朱紅と緑の飾り彫りで覆われた木造建築。ってところなんかそっくりだと思う。
 案内も請わずに鋭はすたすたと宮殿の小道の奥まで入っていくのでリツコも遅れないように後を追う。
 通りすがりの役人らしい人たちが鋭を見るとみな頭を下げる。
「マウレィディア!」
「マウレィディア、リレク、エイセス!」
「マウレィディア。」
 鋭はうなずくだけで軽く返して、どんどん歩いて行く。

「アウレクセス、マルニエン、エネ?」
 広間の入り口の椅子に並んで腰かけている人たちの先頭には頭を下げ手刀で拝むようなしぐさをしながら声をかけると、
「マウレニエン、エネ、エネ!」
(どうぞお先に!)と言っているのだろう仕草で、相手の人は喜んで順番を譲った。

 広間で謁見の最中だった人がそのやりとりにふりむいて、急いで自分の席を譲ろうとする。
「アウネ、ソノ!」
 若い女性の声が鋭く響いて、その人はまたちょっと困った顔で、前に向かいなおした。
(構わない、続けて!…って言った?)
 リツコは推測する。
 どうやらそこが謁見の間…正面に座っているのが、これから挨拶する「皇女サマ」らしかった。
 若い女の人だ。さっきの男の人…翼雄輝…と同じくらいの年齢に見える。つまい鋭よりは何歳か年上? まぁ地球人の時間の感覚で、だけど。
 碧色の豪華な巻き毛を肩のまわりに広げて、朱色と金色のすっきりと美しい衣装を身にまとい、美人だけどかなり性格キツそうな顔で、ちょっと苛苛した感じで眉をしかめながら、前に座った人の報告を聴き、いくつか指示を出して確認を得てから、仕種と声とで退出を命じる。

「遅いわよ、あなた!」次にいきなり日本語で怒られてリツコは飛びあがった。
「昨夜は歓迎の宴を用意したのにすっぽかすし! 今日は私もう出なくちゃいけないのにいつまでも待たせるし! それになに? チビな上にタダビト組なの?
 なんで清瀬律子が自分で来なかったのかしら!」

 これはもう挨拶とか自己紹介とかさせてもらえるどころじゃない。
 リツコはふるえあがった。
「あのぅ…ゆうべはスイマセンでした。あたし時差ボケで、寝ちゃって…それに大叔母様たちは今すごく忙しいんです。最近大掛かりなテキハツがあって、大勢タイホされちゃったんで…」
「…あら、そう…」美人皇女は、素早く眉をしかめた。

「鋭、その報告は後で聞くわ。今日はとにかく忙しいのよ。その御チビさんで大体揃ったし。明日はもう出発するわよ! あなたも準備急いで!」
「らじゃ。」
 鋭はちょっとふざけた感じで地球式の挙手の礼をすると、あわあわしているリツコの肩をさっきと反対側に押して、とっとと逃げ出した…。

 


3-1-2.リツコ、マシカにあう。 (2018年8月24日)

http://85358.diarynote.jp/201808242054253271/

 

3-1-2.リツコ、マシカにあう。

 謁見の順番を譲ってくれた先頭の人に軽く頭を下げてとっとと退出しようとした時、鋭は急に気がついたようにおっと!と立ち止り慌ててふりむいた。
「…マーシャ。今の。決定事項でいいんだよね?」
「え? あぁ。…日本語で言っちゃったわね。」
「伝令まわすよ?」
「えぇ。お願い。」
 鋭は部屋と廊下に並んでいる者みなに聴こえるよう大声で呼ばわった。
「アウレイメイ! ミウンテア! ソンナイ!」
 ざわ!と列をなしていた人たちの間に波がはしる。
 鋭は繰り返して言った。
「アウレイメイ! ミウンテア! ソンナイ! …ディウンディアーイ!」
「アワッ! ディウンディアーイ!」
 短く返事をして走り出していく、制服を着て剣や槍を帯びている人たち。
 並んでいた列から離れて慌てて宮殿の外へ急ぎ足で去って行く人たちも大勢。
「…いま、何て言ったの?」
 おそるおそる鋭に聞いてみると、
「マーシャが言ってたことだよ。出発は明日!正午!…伝令ッ!」
 それから鋭もリツコの歩調を気遣いながらも足早に歩き始めた。
「行こうか。…怖かったでしょう?」
 苦笑している。
「ううん。あたしこそごめんなさい。きのう寝ちゃったりしなければよかった。」
「いや~、彼女は最近ずっとあの調子だから。きみが悪いわけじゃないんだよ。」
「そうなの?」
「きみとは全然関係ない理由で、機嫌が悪いんだ。八つ当たりされて、ごめんね?」
「それならいいけど…」

 宮殿の外に出ると、先程の広場でごったがえしている荷駄や人のざわめきが、さらにいっきに活性化していた。
「ミウンテア! ソンナイ! ディウンディ!」
「ミウンテア!」
 大声で伝達しながら駆けて行く複数の声がどんどん遠ざかり、周囲に復唱されて広がっていく。
「…ねぇ、もしかして鋭ってかなり偉い人なの?」
 いっせいに動きだした人々や動物たちの騒ぎをきょろきょろ眺めながら聞いてみる。
「…なんでそう思った?」
「だって若いのに宮殿のみんなが膝を曲げてあいさつしてたし。順番もすぐに譲ってもらえたし。とっても偉そ~な、あのお姫さまのこと名前で呼んで、ため口きいてたし。」
「…うーん、そっか。いい観察力だね。」
 鋭はまた苦笑した。
「まぁ偉いっていうか…皇女サマの友人…というか側近かな?…ってことになってるし…最近はヨーリア学派の長っぽくなってるし…」
「…やっぱりかなり偉いの?」
「うーんまぁ、さっき会った雄輝ほど有名人ではないよ。まぁ雑用係だねぇ…」
「そうなんだ?」
「そう。それで、明日出発ってことはぼくも準備しなくちゃで忙しくなっちゃったんで、旅のあいだキミの世話をしてくれる人のとこにこれから連れてくからね。」
「そうなの?」
 リツコは旅とかいってもずっと鋭と一緒なのだろうと思って安心していたので、びっくして目を丸くした。
「うんそう。だって昨日はもうしょうがなかったからぼくのとこに泊めたけど、旅のあいだずっと男のぼくと女のコのきみが同室ってわけにはいかないでしょ?
ほんとは昨日もそっちに泊めてもらうはずだったんだよ…
 …あ、いたいた!」
 広場の一角のへんにたくさんの生き物たちで混みあっている感じの場所へ鋭がまっすぐ突っ込んでいくと、小鳥たちや大鳥たちや小動物や四足獣たちや人間の子どもやら大人やらが、一斉にわっと散って隙間をあけてくれた。
「マシカ!」
「リレク!」
 呼ばれて振り向いて鋭の名前を嬉しそうに呼びかえしたのは、鋭と同じくらいの年齢に見える…大人に近い少女というか…まだとても若い女の人だった。
 秋のイチョウの黄葉とモミジの紅葉をまぜまぜにしたような明るい色彩の長い巻き毛を首の後ろで結んで、緑と茶色の動きやすそうな服に歩きやすそうな柔らかい皮の靴。手には草の束?のようなものを持って、大きな黒馬の世話をしていた。
「動物たちの調子はどう?」
 鋭はそのまま日本語で話しかけ続けた。
「モンダイないわ。あしたシュッパツですって?」
 驚いたことにその人は、ちょっと発音が怪しかったけれども、なめらかな日本語で答えた。
「そう。で、この子が例の子。頼める?」
「わかったわ。よろしくね、リツコ? あたしは、マシカよ。」
「こんにちわ! びっくりした。日本語が話せるんですね!」
「リレクやマーシャたちからナラッタのよ。」
「そうなんだー!」
 リツコはほっとして笑った。さっきの怖い皇女サマと違ってだんぜん優しそうだし、言葉が通じるなんて!
「マシカこれから時間ある? リツコを市場に連れて行って、着替えとか旅に必要なものを一式買ってあげてほしいんだ。これ予算。足りるかな? 諸侯会議にも出るからさ、ちょっと豪華っぽい服も必要なんだけど。」
「えぇ。なんとかなると思うわ。知り合いの店が安くしてくれるのよ」
 マシカは渡された布袋の中身をかるく確認してにこっと笑った。
「あと例のあの、言葉の術のやつも頼める?」
「あら? マーシャに会いに行ったんじゃなかった?」
「ものすっごい機嫌が悪くてさー。頼むどころじゃなかった。」
「あらあら…」
 マシカも、よ~くワカッタ、という仕種で肩をすくめた。
「わかったわ。あたしの神力じゃ弱いけど。全然ないよりマシでしょ。」
「じゃ、ごめん、リツコ。また明日ね。もしぼくに用がある時はマシカにそう言ってくれれば、すぐに連絡がつくから。」
「うんわかった! ありがとう!」
 リツコが慌てて手を振るうちにも、鋭はどんどん歩いて行ってしまった。
 それを追いかけてきた人たちが次々に話しかけたり、書類らしいものを渡したりしている。
 …やっぱり、本当は偉い人で、ほんとうに忙しかったらしい…
 リツコは、あたしみたいな子どもの世話なんかさせて、悪いことしたなー、と、ちょっと反省した。

 


3-1-3. マシカ、市場へ行く。 (2018年8月24日)

http://85358.diarynote.jp/201808242228407081/

 

3-1-3. マシカ、市場へ行く。

「ちょっと待っててくれる?」
 鋭を見送ったあとリツコにそう言って黒馬の世話を最後まで仕上げたマシカは、まわりに挨拶らしい言葉をかけると手を洗って髪をほどいた。
 ふわりと広がった朽葉色の巻き毛は、とても豪華だ。
「きれ~い!」
 リツコが思わずそう誉めると、マシカはにこっと笑った。
「そう? ありがとう。リツコの髪もすてきよ?」
「えぇ? あたしのなんか焦げ茶色で癖毛でへろへろで~。全然ダメ」
「そうなの?ダレムアスでは大地の色って一番いい色だけど?」
「そうなの?」
「えぇそうよ。ほら可愛い。あたしたち姉妹みたいね?」
 マシカはそう言ってリツコの固く縛っていた癖毛もほどいてしまった。
 リツコは「えへ~」と照れた。
 マシカはそんなリツコを見てにこっと笑って、それからちょっと下がって気息を整えて、ひとこと歌うように叫んだ。

「ま~りえった! れっと、せっと、えッ!」((ことばよ、通じよ!))

「え?」
「まうれいにあ、あむにや、あむねえむね?」((わたしの言うこと解る?))
「えっ? …解る! …???」
 リツコは目を丸くした。何がどうなったの??
「マーシャは神力ってヤクしてるけど、鋭はマホウって呼ぶわね。あたしは血の力は弱いから、マーシャみたいに喋るほうまで出来るようになる術はむりなの。
時間も短いと思うんだけど… とりあえず、それでやってみましょう?」
 リツコはまったくわけが解らなかったが、とりあえずうなずいた。

 マシカは楽しそうな顔でずんずん市場に分け入っていく。
 リツコはきょろきょろしてしまって大変だ。質問したいことを全部聞いていたら一歩も進めなくなるだろうってくらい、目にはいるものがすべて珍しい。
 それはリツコを見る側からもそうらしかった。
「ティケット?」((地球人?))
「ティケットナン?」((地球人か?))
「あやけったていか!」((おっとびっくり!見てごらん!))
 通りすがりの商街の人々がリツコのTシャツと短パン姿を見て目を丸くする。
(………え? なんであたし、意味が解るの?? ティケット…ってチケット? 英語? 切符?…じゃない。よね…????)

「エベルディン、スレイガ!」((出て行け、敵め!))
 マシカが入ろうとした店の角で、鋭い声をかけてきた男がいた。
「…あんま、のうてぃあ、あろんでろぃ。」((なにか御用で?お客さん))
 店員らしい人も誰だこの怪しい奴め、という顔で見ている。
 リツコは知らない人から突然(( 敵!))と言われた事にびびった。
「まるまっかあれ。」((あたしの連れよ。))
 マシカが言うと、ざわめきが収まった。
「ジョルディイリヤン、ダレッカ。リレキセース、オルディイイン」((諸侯会議に出るお客様。リレク様からお預かりしたの。))
「あんにや、ましか!」((いらっしゃい、星の娘!))
 奥から店主が出てきて、あとはもう買い物が大変だった。
 マシカがかけてくれた魔法?のおかげで、相手が言っている言葉は何語であれリツコにはなぜか意味が(なんとなく)解るのだけど、リツコが喋ってる日本語は、相手には全く通じてないらしい。
 あれやこれやと店主が出してきてくれる衣類や旅行用品?に、半分はマシカに通訳してもらって、マシカにもうまく翻訳できない時にはとにかく身振り手振りで、好きな形や嫌いな色や肌触りかどうとか説明しまくって、試着してみてあーだこーだと、最後にはマシカが値切り交渉までしてくれて、一通りの品物を揃えて店を出た時には、リツコは喉が枯れて、おなかもぺこぺこだった…。

 マシカが気を利かせてくれて、通りすがりの屋台で何か甘いものを軽く食べさせてくれる。色とりどりの豆と触感の違う何かが入った、あんみつと冷しるこの混ざったようなお菓子だ。
「おいしーーーい!」
 叫んだリツコに、マシカは笑った。
「元気でた? じゃ、ちょっと遠いけど宿まで歩きましょう。」
「あ、ちょっと待って! あたし今朝、洗濯物を干してきちゃったの!」
「センタクモノ?」
 なぜかこれがマシカに通じなかった。リツコはがんばって説明してみた。
「服を洗って~、干して~、こう…。部屋の中においてきちゃったの!」
「あぁ。洗った。服を干した。乾いた?」
「そう。洗濯物。」
「センタクモノ。」
 マシカはうなずいた。
「リツコ、わたしニホンゴまだまだみたい。たくさん教えてね?」
「うん!こっちの言葉も教えてね!」
 リツコとマシカはすっかり仲良しになった。

 


3-1-4. マシカ、天幕に泊まる。 (2018年8月24日)

http://85358.diarynote.jp/201808242323141303/

 

3-1-4. マシカ、天幕に泊まる。

 じゃあセンタクモノを取りに一旦戻ろうという話まで進んで、リツコは困った。
「どうしよう!あたし帰りも鋭と一緒だと思ってたから、道を覚えてない!」
「ヨーリア学派の寺院でしょ? わかるから大丈夫よ」
「えっほんと? よかった~!」
 しばらく歩いて、なるほど見覚えのある植え込みの門のちかくまで着くと、マシカはその手前の店で買い物をしてくるからその間にセンタクモノをとってきて、と言う。
 ひとりで門を入って、見覚えのある玄関まで行って…勝手に上がるのもなんだと思ってとりあえず声をかけてみた。
「すいませ~ん! 誰かいませんかー!」
「…もうどれっ、えんにやえん。」((*********))
(??? …あれ…???!)と、リツコは思った。
 さっきまで声と一緒になんとなく解っていた「ことばの意味」が…分からなくなってる!
 さっきマシカが言ってた「時間も短いと思うんだけど」の意味のほうが判ったー! と思いながらも、幸いにして出てきてくれたのが今朝リツコを案内してくれたあの女の人なので、再び「センタクモノ!」の身振り手振りをして、取りに行きたいので部屋に入っていいか? という許可をとるのは、そんなに難しいことでもなかった。
 鋭の私室だったらしい部屋に戻って今朝ほした洗濯物がきれいに乾いていたのをこれ幸いと、急いで畳んでリュックに詰め込み直す。
「どうもすいません!ありがとうございました!」
 ぺこりとお礼を言って退出すると、女の人はにこにこして手を振って見送ってくれた。

 それからまたマシカと合流して、店を出て歩きながら、言葉がわからなくなったことを説明する。
「う~ん、だいたい半日なのね…」
 マシカはちょっと悔しそうな顔をした。
 すぐにまた術をかけなおしてくれるかなと思ったけど、そういうわけでもないらしい。
「もしかして、実はすっごく難しいとか、マシカが疲れるとか…する?」
「そんなことはないけど。だってもともとあの三人といっしょに旅してた時に、あたしだけ言葉が通じなくて不便だったから覚えようと思って、意味が解るように自分に毎日かけてたのよ。でもアタマがとても疲れるでしょう?」
「…そう言われてみれば、そうかも。」
「今日はもう眠るだけだから、また明日にしましょう。」

 それから色んな話をしながら歩いているうちにマシカたち薬師の一行が寝泊まりしている天幕の仮村に着いた。薬師たちはみんな明日の出発に向けて忙しそうに飛び回っていたので、簡単な挨拶だけしてリツコたちはすぐに天幕にひっこんだ。
「マシカは用意はしなくていいの?」
「なんとなく明日だろうというのは昨日のうちに解っていたので準備は済んでるの」
「そうなんだ」
「でも明日は早起きしなくちゃだから、今日はもう寝ましょう?」
「うん!」

 それからマシカとリツコは本当の姉妹のように一つの寝床で一緒に眠った。
 問題は、リツコのために追い出されてしまったマシカの沢山の同居動物さんたちだった。
 ぶぅぶぅ(それぞれの鳴き声で)文句を言いながら長椅子に移動させられた栗鼠熊や仔猫や老犬や小鳥や虹フクロウやシマヘビや…その他いろいろ…だったが、けっきょく朝になってリツコが目を覚ましてみると、二人の人間のあいだとまわりじゅうに、たくさんの動物がぎっしり詰まって乗っかって眠っていたのだった…。

 


4-0. リツコ、目覚める。

http://85358.diarynote.jp/201808251552274769/

 

4. リツコ、西へ行く。

4-0. リツコ、目覚める。

 翌朝、天幕の上で鳥たちの鳴き交わす声がすごくて、リツコはびっくりして目が覚めた。
 すでに開け放ってあった天幕の戸布の四角い部分から見える世界はまだ夜明け前で、空は東?の山並みの上の薄い金色の線から、反対側の闇青色と星々の瞬きまでのグラデーションが綺麗だ。
 …う~ん、これは地球と同じに見えるんだけど…とリツコは思った。
「あら、起きた?」
 広い空の下で髪に櫛をかけてまとめていたマシカがにこりと笑った。
「今日もお寝坊さんなのかと思っていたわ」
「うーん。だって昨日は早く寝たし。マシカいてくれたから嫌な夢も視なかったし。」
「うん。よく寝てたわね。ミーボナンに踏まれてるのに起きなかったもの」
 リツコは苦笑して、自分も起きる仕度を始めた。寝ている間にベッドの上は動物だらけで、今も目を覚ました連中はマシカの髪にまとわりついたりして、色々と仕度の邪魔をしている。
 まわりの天幕の薬師たちもみな早起きなようで、あちこちで出発の準備を始める賑やかな物音や声がしていた。
 教えられた通り川辺に降りて顔を洗い、水場より下流に用意されたトイレ!(川の上に付き出していて、全自動水洗?式だ…)で用をたす。
 戻ってきて、はたと悩んだ。
「ねえ?マシカ。今日って何を着たらいい?」
「あ、そうねぇ…、どうしましょうか?」
 昨日買ってきた装束類の小山と、自分が持ってきた少しの着替えを並べて、天気と気温を見て、マシカの意見も聞いて、結局「地球式」の略礼装?が良いだろうということになった。
 ちょっと学校の制服みたいなカッチリしたデザインの明るい色の動きやすい夏ワンピに、Tシャツを下に重ね着して、ボタンは適当に開け放って、動きやすいように七分丈のズボンと合わせた。
 靴はやっぱり履きなれたスニーカーのままにする。だって相当、歩くらしいから。
「きゃー、マシカ可愛い♪」
 そう褒めてくれながら、マシカは以前から決めてあったらしい衣装にさっさと袖を通している。
 やっぱり昨日の仕事着?と同じような、日本で言うと作務衣みたいな動きやすそうな簡素なデザインだけど、新品で、手織りらしい布地が上等な感じで、何だか民族調っぽい刺繍とか金の飾りとかが付いていて、ふわりとしたマントも羽織ったら、とても上品に華やかだ。
「きゃー! マシカすてき! とっても綺麗!!」
 リツコが手放しで誉めると、うふんと得意そうに笑った。
「そうでしょう? この布を織るのは苦労したのよ。…リツコ、髪型はお揃いにしましょうよ!」
 身支度が終わると、マシカは昨日の昼にやったように、ちょっと気分を改めるようなしぐさをして、息を整えてから、リツコの頬に手を添えて、額を当てて、唱えた。

「…ま~りえった! れっと、せっと、…えっか、ろう!」

(あれ?昨日と少し違う…)とリツコが思う間もなく、

(( ことばよ、通じよ! …日暮れまで! もつように! ))

 …という意味が、頭のなかに字幕が映るような感じで、急に流れ込んできたのだった…。

 


4-1. リツコ、行列に参加する。

http://85358.diarynote.jp/201808251707334319/

 

4-1. リツコ、行列に参加する。

 ちょうどその頃に朝日がしっかり差し込んできた。からりと晴れた上天気だ。
「朝ごはん出来てるよー、早く食べちまっとくれ!」と、食堂?の係の人から声がかかったので大急ぎで出かけて行った。
「おはよう!」とか「よく眠れた?」とか色々と声をかけてくれる年上の薬師の人たちに、リツコは日本語と手振り身振りで挨拶を返しながら、食堂や集会室として使われているらしい大天幕に行って、色々な野菜と豆とか干物?とかがどっさり入った温かいスープをおなか一杯食べさせてもらった。
 食器は各自で持参制で、昨日マシカに買ってもらった新品一式を持っていった。
 また水場に行って食器を洗って、簡単に拭いて収納して、マシカはどんどんと自分の天幕の中にあったものを大きな匣と布袋の中に詰めて行き、リツコもがんばって出来るところを手伝ってみて、最後に天幕を一緒に畳むと、うんうんと担いで何往復かして木製の頑丈そうな荷車に運び入れ、それからマシカが耳の短いロバのような小型の馬のような、四足の荷駄を連れてきて繋いで、出発の準備は完成だった。
「ごめんなさい。先に行くわねー!」
 マシカが声をかけるとまわりの皆が口々に返事をして、手を振って見送ってくれた。

 荷物満載の荷車を牽いた小型馬の手綱を引いて、人間二人はとことことその横を二本の足で歩く。
「これは《白の街道》というのよ。」
 マシカが教えてくれる。
 夕べはもう薄暗くなった中を星を見上げながら歩いて来たので気がつかなかったが、歩きやすいよう白い石畳できちんと舗装された、けっこう幅の広い道だ。

「あ、いたいた、鋭!雄輝!」
「マシカ、おはよう!」
「似合うぜ。綺麗だな!」
 街道から街中を通って、昨日の皇宮前の広場に入ってすぐのところに、鋭と雄輝と他にもたくさんの、重臣?ぽい人たちがいた。
 みんなきちんとしたおしゃれというか、正装?ぽい服装で、ばりっと格好良く整えている。
 初めて会う人たちもみんなマシカとリツコの女の子二人に対してきちんとした挨拶をしてくれるので、リツコも一生懸命「おはようございます!」と日本語で言って頭を下げた。
「リツコ、おはよう。可愛いね!」
「おー、地球式の服にしたんだ?」
 鋭と雄輝がお世辞でもなく本気で誉めてくれたので、リツコは照れて、えへへと笑った。
「どうかしら?一応こっち式の礼服もちゃんと用意はしたんだけど。地球からの御客人が諸侯会議に参加するってことは、皆にセンデン?したほうが良いのよね?」
「うんそうなんだ。これだと一目見て地球人て判るね。さすが! ぼくじゃ思いつかなかったよ。やっぱり女の人に任せてよかった。」
「あら… 褒めても何も出ないわよ?」
 鋭に褒められてマシカが照れて頬を赤くしたので、リツコはちょっとあれっと思った。
 それから少し話しあいがあって、せっかくだからと、リツコは目立つように、荷馬車ではなく鋭の馬の前に乗せてもらうことになった。荷馬車は雄輝の部下の人が列の後方から連れてきてくれることになる。
「じゃ、私はマブイラに騎せてもらって行くことにするわ」
 そう言ってマシカが鋭にリツコを預けてどこかから連れてきたのは…なんと!
 大きな枝角を掲げた、ものすごく立派な銀灰色の鹿だった。
「………マシカが鹿に乗る………」ついつい小声でこそっと言ってしまうと、
「ね、やっぱりちょっと笑っちゃうよね?」鋭がこそっと相槌を打った。

 それからどんどん広場に人が増えてきて、中央に列をなした着飾った旅装束の人たちと、周囲に並んだ見送りらしい服装の人たちで、ぎっしりと隙間もないくらいになった。
(昨日の山のような荷馬車や荷車は、後方の脇に寄せられていた。)

「…刻限!」「まもなく!」「刻限!」
 これ以上はもう人が入れない…という頃、ドンドンと威勢よく大鐘と太鼓が打ち鳴らされた。
 居並んだ人たちが、ざっと威儀を正す。
「みな、御苦労!」
 例のおっかない皇女サマが、昨日マシカが世話をしていた特別に大きく立派な黒馬にまたがって、みごとに華麗な正装で、広場の中央の人並みを分けて堂々と進んできた。
「少し長い旅になりますが、みな無事であちらへ着くように! 留守の者たち、不安もあろうが、必ず和平を為して来る。しっかり頼みます!」
「道中、御無事で!」
 留守役の代表らしい身分の高そうな衣装の年輩の女の人が門の脇から進み出て来て、深々とした礼をとった。
 みな、唱和する。
「道中、御無事で!」
「…出発!」
 雄輝が、皇女の後ろ脇にみごとな金鹿毛の馬を並べて号令した。
「出発!」「出発!」
 伝令が次々と声を並べていく。
「行くよ? 笑って!」
 白い優雅な馬にまたがり、鞍の前にリツコを乗せて、鋭は皇女サマの後ろ、雄輝と並ぶ位置に、するりと当たり前のように並んだ。
 …つまり、リツコの位置は、一国の代表として旅に出る皇女サマの、すぐ、真後ろ。ということで……………

(きゃーーーーーーっ! 嘘っ! 聞いてなーーーーーーーいッ!)

 心の中で絶叫しながら、リツコはとにかく、必死で御愛想笑いをして、皇女サマと同じように、笑顔で出発の行列を、やりとげた…。


4-2. リツコ、センデンされる。

http://85358.diarynote.jp/201808251917305969/

 

4-2. リツコ、センデンされる。

 後から思いかえしても、つくづく、前から二番目なんていう身の程知らずの大それたポジションに強制参加じゃなくて、沿道の観客でいたかった…というのが、リツコの素直な感想だった。

 豊かな碧緑の巻き毛を風になびかせ朱紅に金糸の刺繍飾りのあでやかな衣装をまとい美しい黒毛の戦馬にまたがった、物語の主役たる風格ばつぐんの、文句なしの華やかさを誇る美人皇女殿下を先頭に。

 右後ろに並ぶ金色の馬にまたがるのは背中に翼ある戦士装束の雄輝。
 左後ろに並ぶのが白銀の馬にまたがる優しそうな絶世の美青年の鋭。
 二人の後ろに堂々たる角をそびえ立たせた大鹿に乗った美女マシカ。

(鋭の鞍にちょこんと載ってるあたしはこのさい余計だ。とリツコは思った)

 沿道に居並ぶ見送りの人々は、歓呼の叫びと噂話で、ぶんぶん唸るハチの巣のような有り様だった。

『見ろよあの先頭のかたがたが、戦を終わらせてくれた四軍神だ!』

『なんてお美しいのかしら皇女様!』

『きゃーーーーーーっ! リレク(鋭)様、お凛々しいッ!』
『ちょっと何よ、あのチビ?』
『泥球界(地球)からのお客人らしいよ。何でもさる有力な部族の長の縁者とか』
『泥球界の? 王族なの?』
『そうじゃないかぃ?』

(えぇぇぇぇっ!)とリツコは思った。

 いくらちょっとだけオシャレめワンピを着てみたからって、実は通販のしかもバーゲンで買った安物だ。『さる有力な部族』ってなに! たしかに大叔母様は朝日ヶ森の学長だけど、それって別に王家でもなんでもナイわよ!??

 むしろこの国の言葉が喋れなくて良かった。と、つくづく思った。話が出来たら絶対に、必死になって無責任な噂話を否定しにまわってしまっただろうから…

「…鋭ッ?なんかあの人たち、すっごい大誤解してない?」
 思わず小声で叫んでしまったリツコの百面相をにやりと笑い飛ばして、行列の間中、鋭はとにかく、「笑って! ほら笑って! 手を振って!」とだけ主張して、自分自身も率先してまわりじゅうに愛想をふりまき、観るひとすべてをその超絶笑顔うっとりとさせていた…。

 そんなこんなで街から出るだけでもしばらく時間がかかり。

「ねぇ鋭。もう笑うのやめていい?」

 ようやく道沿いに見送りの人が少なくなってきて、やっと聞けたころには、リツコの顔はばりばりに強張っていた…。

 それから歩いて来た時よりゆっくりぐらいの速度で《白の街道》を西の方角に戻ると、途中の河原でキャンプしていた薬師たちの一行の、半分くらいが荷馬車隊を率いて皇女の行列の後ろに入る。

 あとの半分くらいは、列には入らず解散する?らしい。

 夕暮れ前にその日の野営地らしい場所に着き、行列の後ろの荷馬車隊ががらごろと追いついてきて、食糧や天幕を降ろし火を起こして大人数分の食事の仕度を始める。

 荷を降ろすと、そのまま手を振って別れて元の街の方角へ戻り始める人たちも数十人あった。

「リツコ、今日もあたしと一緒の天幕だけど、いいわよね?」

 あいかわらず小鳥とかの群れに取り囲まれながら大鹿から降りてやってきたマシカにそう言った頃、ちょうどリツコの「聞いた話が解る魔法」はとけてしまったのだった…。

(鹿は勝手に歩いて行って、そのへんの草で食事を始めた)

 そんな風にして、この旅は始まった。

 


5-1. リツコ、記録する。

http://85358.diarynote.jp/201808252044381803/

 

5. リツコ、西へ旅する。

5-1. リツコ、記録する。

 そこからの旅の日々は最高だった!
 夜はマシカと一緒の天幕でぐっすり眠って、朝は鳥たちや動物たちの騒ぐ声で起こされ、身支度を済ませると《言葉の魔法》をかけてもらって、皆と挨拶をしながら大天幕でご飯を食べさせてもらい、えいやっと自分たちの天幕を畳んで荷物を荷馬車に乗せて、準備の出来た者から順に出発して、歩いたり荷馬車に便乗して昼寝したり馬の乗り方の練習をさせてもらったり、色々しながらとにかく西へ向かって白の街道を進み続けて、陽が傾いてきた頃に次の宿営地に辿り着く。
(お昼ご飯は各自で勝手に、停まって休憩したり荷馬車で進みながらだったりして、適当に食べた)。
 半日先行して街道沿いの警備がてら宿営地で食事の支度をして待ってくれている雄輝たちの隊とご飯は一緒に食べて(なぜかその夕飯の宴の間だけ皇女サマの機嫌がちょっとだけ良くなる?のを、リツコは興味津々で観察していた)
 その警備隊が日暮れ前にまた出発してしまうのでそれを見送って、残った面子は毎晩のように食後は飲んだり歌ったり踊ったりの楽しい宴会になるのでリツコも途中まではつきあって、《言葉の魔法》が切れる頃にマシカと一緒に天幕に引き上げて、あとは眠くなるまでお喋りして、色々なことを教えたり習ったりしあった。
 ただしマシカは旅団の《筆頭薬師》という役職だったらしいので、合間合間に朝から晩まで行列のすべての動物の健康状態をチェックしたり、具合の悪くなった人に薬草の調合をしたりしていた。時には沿道の寒村の人から往診の依頼があったりして、夜中でも大鹿にまたがって出かけたりするので、時々はリツコは取り残された。
 そんな時は鋭が自分の天幕に呼んでくれて、淋しくないように気を使ってくれた。
 ただし、しばしば皇女サマやその側近の人達の、気難しい話し合いに巻き込まれてしまったりするのが、厄介だったけど…。
 鋭は旅団の経理責任者?らしくて、人の出入りや体調に気を配っていて、しばしばマシカと一緒に怪我人や病人の治療にも当たってた。
 リツコはとにかく周りの人たちの仕事を出来る範囲で手伝いながら、暇さえあればマシカと鋭と(可能ならば雄輝と皇女様も!)質問攻めにしていた。

 そんな日々のなかで、やっと自分の置かれた状況が判ってきたので、とにかく戻ったら大叔母様に報告しようと、大学ノートの山に手書きでガリガリ書いて記録を残した。

 それはこんな風だった。


【この世界のこと。】

 名前はダレムアス。
 意味は《大地の国》。または《大地平界》。
 昔々、女神マライアヌ様と仲間の神様たちが創った。
 神様たちは沢山いたけど、戦争して滅んじゃった?らしい。
 今は人間がいちばん多くて、他の生き物もたくさんいる。

 同じ頃に別の神様たちが創った別の世界《ボルドム》と、
 最近まで戦争してた。
 戦争はガンバッテ闘ってなんとか勝ったけど、
 まだ色々と問題が残っている?らしい。


【ショコウ会議のこと】(※マシカは字が判らない。後で鋭に聞くこと!)

 戦争してたボルドムと話し合うのかと思ったら、そうじゃないみたい。

 ダレムアスの王さま?皇帝さま?
(皇女サマのお父さんとお母さん)が、

 前の戦争で殺されちゃって、今いないので、
 誰が後を継ぐかとか、そういう話し合いが必要?

(なんで皇女サマが継がないの?と聞いてみたら、なんだか難しかった。)

 あたしがなんでここに呼ばれたか?というと、

 ボルドムと戦争して終わって弱っているダレムアス世界に、
 今度は地球人が攻め込んでこないか?という心配があって、

「攻め込んで来ないように万全の手は打ってるから、安心してほしい」という
 ハッタリ?をかませることが、会議のコウショウのために必要。
(よくわかんない。)


【この世界と地球世界のこと】

 地球のことは《泥の球》って呼ばれてる。
 丸くて宇宙に浮かんでる。っていうのが「信じられない!」らしい。

 この《大地世界》はとにかく平らなんだって。
 そして果てとか終わりが無い。(と信じられている。)んだって。

 戻ったら、社会科の教科書の歴史の図版と見比べたいな。

 それで神話では地球と大地世界は「弟と姉」の関係なんだって。

 昔から行き来はあったけど、
 時差の関係?で地球では「大昔のこと」になっちゃって、
 記録が失われている、らしい。

 浦島太郎とかコチュウテンとか伝説があるでしょ?
 と鋭が言ってた。
 コチュウテンて何?


【魔法のこと】

 女神さまの子孫とかが特に使える。
 鋭は地球人だから全く使えない。(と言ってるけど、なんか怪しい?)

 皇女サマは特別チカラが強い。マシカは例外的に?マホウが巧い。


【翼とかのこと】

 雄輝が地球の「翼」家の人間だったり。
 昔から「地球に移住した人たちの子孫」とか、その逆とかが居たらしい。


【朝日ヶ森のこと】

 あの学園にいる「妖怪とか系」の人たちって、つまり、そーいうこと???



 そこまで書いて書きかけのまま寝てしまったリツコの肩に毛布をかけながら、
『諸侯会議』だと鋭は漢字を書き足した。

 


5-2. リツコ、観察する。

http://85358.diarynote.jp/201808252146433109/

 

5-2. リツコ、観察する。

 それにしても皇女サマはいつ見ても機嫌が悪かった。
 せっかく超のつく美人なのに、眉間にシワを寄せては誰かれなく睨みつけ、ちょっとしたことで色白な肌が真っ赤になるくらい怒ったり怒鳴ったり。いつもイライラしていて、「ヒステリー」としか言いようがないくらい。
 こんなんではいくら戦争が上手で敵に勝っても、平和になったら国民は誰もついて来ないんじゃないかしら。だから後継者問題でモメてるのかしら?とリツコは疑ってみたが、その割には鋭やマシカたちも含めて、部下たちからの信頼というか人望は、ものすごく厚いらしい。
(今日もまた機嫌が悪い―!という愚痴は毎日のように飛び交っていたが。)
 楽しい旅ぐらしの毎日の中でも、いつでも皇女サマの天幕まわりの侍従の人たちだけは、戦々恐々として、どよんと昏い空気が漂っていた。
 のだが…

 ある日。

 よく晴れた西の空に鳥や雲とは違う影がくっきりと視え始めた。
『…龍だ! フェルラダル様も居らっしゃる!』
 誰かが叫んだ。
『皇女殿下にご報告を!』
『聴こえたわ!』
 すごい勢いで皇女サマがすっ飛んできた。あれあれ?とリツコは見守った。
 空の影は一人は自分で飛んでる?らしい人間で、もう一つは、出発式の日に挨拶して西の空へ消えていった、伝令役の?あの白いほうの龍のように思える。
『お兄様! 伯父様!』
 びっくりしたことに大地世界の皇女殿下サマはいきなりふわりっと空に浮かんだ。
 そのまま文字通り「飛ぶように」すっとんでいって、空の真ん中で『お兄様』と『伯父様』を抱きしめる。
『遅くなって済まなかった。出立式の日までには戻りたかったのだが。』
 年齢からするとこちらが『伯父様』なのだろう凄い美形の年輩の男性が言いながら地面に降りてきた。
『フェルラダル様ッ!』
 もう一人、ものすごい勢いですっ飛んできたのは…マシカだ。
『御無事で!』
 飛びつくように抱きついて挨拶している。
 あれあれ…とリツコはすぐに解った。マシカが言ってた『一番好きな人』って…この人だ?

(たしかにちょっと…鋭に雰囲気とか見た目も…似てるかなー?)

『…マシカ…わたしも居るんだけどなー…』
『…あらごめんなさいミヤセル様? 御無事で何よりですわ?』
 …皇女サマから『お兄様』と呼ばれたということは、その人の名前はマリシアル皇子って言わなかったっけ…?
 リツコは聞きかじりの話とつなぎ合わせながら、興味津々に目を点にしながらなりゆきを見守った。
「あ~、また話が賑やかになった…」
 苦笑しながら、いつのまにか鋭がリツコの隣に立っていた。
「…さて、吉と出るか、凶と出るか…
 吉かな?」
 『兄上』と額を突き合わせるようにして何か話をしている皇女サマを鋭は静かに見守って、やがて笑った。
「…安心して、リツコ。これでマーシャの機嫌は直ったみたいだから…」

 話のとおり、その日の夕飯時に雄輝たちの先行班と合流した時の皇女サマは、これが昨日までのあの女性とほんとに同一人物?と目を疑うくらい、にこにこして、上機嫌で、頬なんかピンク色で、食欲も旺盛だった。
 側近の人たちがみんな後ろでこそこそと情報のやりとりをしていたが…
 鋭はあまり気にしていなかった。それから食後のお茶を呑み終わった皇女サマたち主賓席のところへリツコを連れて行った。
『お久しぶりです。御無事で何よりでした。フェルラダル様、マリシアル様。
 こちらが地球から来たリツコです。最近はマリーツ(地栗鼠)という愛称で呼ばれています。
 …で、マーシャ? 機嫌が直ったところで… いい加減、この子、喋れないと不便なんだけどな? 会議で挨拶だってするんだし…?』
『…………わぁかったわよ! もうッ!』
 皇女サマはなんとも可愛らしく、(リツコは目を点にした)
 ぷくっとふくれてすねた。

『ちょっと待っててリツコ。今まで八つ当たりしてたことは謝るわ。それで…』

 すらりと立ち上がってこちらへ来る。リツコは思わずびびって逃げかけた。
 その肩を遠慮なくがしっと捕まえて、
「だから謝るわ、って言ってるでしょう?」

 高飛車に言い切ると、それからすぅっと息を吸い、大地を抱えあげるような独特の舞のようなしぐさをして、謡うように唱えた。

『…マレッタ! れとけぃえる、せるかまろうでぃ、いええん!』

 それから急に、リツコがマシカのマホウで相手の言葉を理解できるようになっていたのと同じように、リツコが日本語でふつうに喋っている言葉を、聞いたダレムアス人はみんな意味が理解できるようになった。しかも半日とかの時間限定でもなかった。

「ありがとう!」と後からお礼を言いに行ったリツコに、
「だから、遅くなって悪かったわよッ!」と皇女サマはもう一度ふくれた。

 


6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。 (2018年8月26日)()

http://85358.diarynote.jp/201808261445484961/

 

6-1. リツコ、囚われてはいないお姫様にあう。

 なにしろリツコは元々かなりのおしゃべりの質問魔で、好奇心旺盛だ。今までは人が勝手に言ってくることを一生懸命聞きとるだけで、こちらから質問できる相手は主にマシカと鋭だけだった(日本語が通じるもう二人のうち雄輝は周辺警備の任務に就いていたので基本不在だったし、そのせいで?なのか、皇女サマは恐かった!)が、今度からは、自分が知りたいことについて、積極的に聞いて回れる!
 大喜びで鉛筆と鉛筆削りと沢山のノートを持って、キャラバン中を前から後ろまで、そして朝から晩まで、雑用があればちゃんと手伝いもしながらだが、すべての人を質問攻めにして歩く姿が、旅の名物のひとつになった。
 行列の順番は日によってかなり変化した。特にマシカたち薬師の一行はその日によって、病気や怪我の人間や獣がいれば看護を先にして半日遅れで追いかけたりもするし、先発して地元の村の広場に乗り入れて出張往診大会?的なものを開催したりもしていた。
 が、だいたい鋭たちヨーリア学派やその他の学者さんや役人さん?たちが普段から整理整頓が良くて身支度が簡単なせいか朝一番に出発することが多く、ほぼ同時に旅慣れていて気の短い皇女サマと侍女や侍従たちの一行が続き、続いて軍臣たちと重臣たちとその家臣と侍従たちが続き、それから何故か家柄のいいお嬢様たちらしい美人の集団が、いつもきゃあきゃあと賑やかに遅れがちに続き、その侍女たちと賑やかな掛け合いをしながら商人組合と職人組合の代表者たちや手伝いの見習いさんたちが続き、そのまた最後から列の後ろをゆっくりついてくるのが、その土地ごとに一日二日交代ぐらいで参加してくる応援の人たちが多くいる荷駄隊だった。
 さて。
 なぜこの旅に参加しているのかが不思議で尋ねると皆一様に、『さて、何故でしょうね?』と含み笑いをして答えをはぐらかす深窓の令嬢風な着飾った美姫たちの車列の前、重臣たちの車列との間に。
 いつもひっそりとついてくる、謎の馬車隊があるので、リツコはとても気になっていた。
 他の大地世界の学者や家臣や美女たちからは、なんだか距離を置かれている。
 リツコがそこへ話しかけに行こうとすると、なんだかやんわりと引きとめられたりもする。
「ねぇ鋭? あの馬車の中の人に話しかけてはダメなのかしら?」
 思い切って、リツコの行動の管理責任者、ということになっているらしい鋭に質問してみる。
「うーん。悪いってことは何もないよ?彼女も退屈しているだろうし…ただ。」
「ただ、なに?」
「ボルドムのね。敵国の御姫様なんで…見た目がちょっと。こっちの人たちには怖いらしくって。」
「…見た目ー? だってこっちの人って普通に、毛皮だったり四足だったり羽根が生えてたり…」
「まぁ、ぼくら地球人からすると、区別が判らないんだけどねー。」
 苦笑して、うんうんとうなずきながら、鋭がべつに話しかけに行っても誰からも怒られはしないと保証してくれたので、リツコは早速、昼ごはんが終わった頃合いらしくてゆっくり動き始めたばかりの馬車に、正面から訪問してみた。
「こんにちわー!」
 他の美女たちの馬車群とは違って、この馬車隊だけはキャラバン全体の護衛とは別に、皇女サマ直属隊の兵士たちが交代で護衛についている。侍女や従僕もみんな大地世界の人たちだけで、ボルドム人なのは客分の姫様ひとりだけ?らしい。
 取次を頼むと、
【だれか?】
 それまで聞いたことのないシュウっとした音の多い言葉で、馬車の奥から低めの女のひとの声がきこえた。
「リツコっていいますー! あのね、退屈じゃないかと思って、遊びに来たんですけど!」
【おや?あの地球人の子どもか?】
 声の感じはむしろ嬉しそうだった。
【マーライシャにでも言われたか? よければ上がっておいで。】
 リツコはむろん大喜びで豪華な箱馬車に上がり込む。
 どのくらい豪華かというと皇女サマのより手が込んだ細工で値段が高そうだ。
 お姫さまはそれまでは脱いでいたらしい大きな布をするりとかぶってリツコから視えないように姿を隠したところだった。
「えーと…見たらまずいのかしら?」
 リツコはちょっと遠慮しながら聞いてみる。
「あたしボルドムの人ってまだ見たことがなくて~」
【…大地世界人と同じで、焔洞界の者の姿も、千差万別なれど。】
 するりと布がはずされた。
【怖くなければ見るが良い。】
 七色に光る鱗に覆われて、縦長に切れた大きな瞳の、なんというか…巨大トカゲに似た感じの、だいたいは人型で黒髪の姫様だ。良の手の爪が長くてとがっていて、何て言うか…キラキラしたネイルアートがしてある。
 怖いと言えばその眼と爪は恐いかもだったが、同行者の中には横長に切れた山羊目の人だっているし、とんでもない爪飾りの人は、地球には多い。
「……………キラキラしてて、きれいなウロコね!」
 すなおにリツコは褒めた。
 こちらの世界での唯一の友人であるマーライシャの機嫌が悪くて話し相手に餓えていた敵国からの亡命姫さまは、すっかりリツコが気に入ってしまって、それから長い旅の間、しょっちゅう一緒におしゃべりをした。


6-2. リツコ、小鬼を救う。 (2018年8月26日)

http://85358.diarynote.jp/201808261541145181/

 

6-2. リツコ、小鬼を救う。

 長くゆるやかな下り坂が続いた山岳地帯を抜けて大平原の太湖を何艘かの大きな船に分かれて渡ると、対岸の都城には諸侯会議の開催地である《西皇国》からの使者と護衛隊が待っていた。
 どうも雰囲気が剣呑だ。和平交渉とか友好親善とか、そういう印象ではない。
 リツコが挨拶するとぎろりと睨まれたし、鋭も雄輝も『…地球人が!』とか、陰口をたたかれている。
「…俺ここで帰ろっかなー。」
 陰険な扱いに閉口したらしい雄輝が歓迎の宴から息抜きに逃げて来て半分本気でぼやく。
「おいおい。」鋭が顔をしかめる。
「まぁ約束通り、沙漠までは送るけどな。」
「とにかく逆に彼らにボルドム公女を暗殺されたら最悪なわけだから…」
(………暗殺?)
 目を丸くしてリツコが聞いていたのに気がついた鋭は慌てたように口をつぐんだ。
「…何でもないよ。心配ないから…」
「…でも一応、いつも鋭か俺かマシカのそばに居たほうがいいなー。」
「…うん解った。」
 リツコは慎重にうなづいた。
 天幕に戻ってからマシカに聞いてみる。
「あたしもよくは知らないのよ。まぁ元々、西皇家のかたがたは女神の血が薄い白皇家を見下しているそうだし、そもそも西皇子の誰かがマーシャと結婚するはずだったって話らしいし。」
「え、そうなの?」
「本人は小さかった時に、親同士が話し合ってたんですって」
「えー、そんなの無効!」
「でも戦争も終わったしそろそろ婚約の話を、とか今になって蒸し返されたらしいわ」
「でも皇女サマの好きな人って…」
「…どうもやっぱり、雄輝が本命みたいよねー?」
 最近もう誰の目にも明らかなので、実は婚約者がいたとか今頃になって急に言われたら、そりゃもうアノ不機嫌の謎にも説明がつく。
「…でも雄輝はたぶん、そうじゃないよねー??」
 とても気の毒な話で、さらに皇女サマは片想いというかフラレているらしい。
「それにしても会ったこともない人と結婚話って、ふつうダレムアスでは言わないし。…地球ではよくある話なんですって?」
「うーーん…昔はね? たぶん。」
 そんな話をした後、歓迎の宴には参加せずにひっそりと籠っているボルドム皇女の馬車へ、状況説明係として行く。
 その途中で、馬車のまわりで騒動が起こっているのに気がついた。
『こいつ!やはりボルドムの間者か!』
『えッ!…待って違うっ ………誰かー! 鋭ッ! 雄輝ッ!!』
 小鬼が公女の馬車にしのびこもうといていた。

 


7. リツコ、まきこまれる。 (2018年8月26日)

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7. リツコ、まきこまれる。

 驚くほどあっという間に、鋭と雄輝と、率いられた数人の部下たちが馬を駆っててやってきた。
『キサマやはり裏切者!皇女殿下をたぶらかし、地球人とボルドムと結託して大地世界を裏切るつもりであろう!』
 決めつけられて雄輝はげんなりする。
「ち~が~う~って。おれは文字通り背中のハネも自由に伸ばせない地球に戻るつもりはもうないの! こっちに帰化して骨をうずめるつもりなんだよ!…でもマーシャを嫁にもらう気はないけどな!」
「雄輝いまそれ言ってもこいつらには通じない!」
「あいつはおれにとっちゃ妹なんだよ!あくまでっ!」
 知ったことかという感じで敵が白刃を抜いて斬りかかり、金属音が鳴り響き、敵味方ともに剣を抜いて戦闘が始まった。
「マシカ、リツコを頼む!」
 反対側から来たマシカのほうにリツコを押しやって、鋭と部下の一人が公女の馬車の両脇の護衛につく。
 他の部下たちは雄輝にならって敵の群れに正面から突っ込んで行った。
『マルレエッタ! ボグン! エ! カ!』
 どうやら向こうの皇族関係者らしい人の何かの呪文が響く。
 激しい衝撃音がして何人かが馬ごと吹っ飛んだ。
 見たかんじ味方のほうが苦戦を強いられている?
 リツコはマシカの背中にかばわれながら焦った。
 『四軍神』の一人に数えられているマシカは短い弓を構えていて、たぶん戦列に加われば、もっと力になれるはず。
 …リツコがいるせいで見方が一人減ってるんだ…
 足手まといになっていることに気づいて、リツコは激しく落ち込んだ。
「…あたしを公女の馬車に入れて!そうしたらマシカも戦えるでしょう?」
【…良い案だが、少し無駄じゃな】
 そう言って、公女自身が中から箱馬車の扉を開いた。
【仔細が判らぬが、我も闘おう… カ!】
 彼女が気合をこめて念じると同時に、その右腕に巨大な武器が現われていた。
 そんな場合じゃない、と思いながらもリツコは目を丸くする。
【誰ぞ! 我の敵手を務めよ!】
 箱馬車や天幕の中ではいつもずっと膝を抱えるようにうずくまっていたけれども…外に出て背すじを伸ばすと、公女はとても長身なのだった…
 そう。馬に乗った大地世界人と、対等に、渡りあえるほどに…
『まぁびっくり。』
 リツコと同じく、知らなかったらしいマシカが呟いた。
 乱戦。
 敵の動きをおちついて観察すると、明らかに「殺すつもり」で襲われているのはボルドム公女と地球人マダロ・シャサの二人だけで、大地世界人には手加減している。
 とはいえ敵のほうが魔力がある分、絶対に優勢だった。
 しかも…
「雄輝!危ない!」
 敵の一人が手近の樹に登り、短矢に何かを塗りつけた上で、雄輝に向かって弓を構えた。
 雄輝は敵隊長と激しく斬りあっていて、リツコの声には気がつかない。
 リツコはウェストバッグからパチンコを取り出した…
 枝が邪魔で、狙撃兵を狙えない。
 後ろの樹上に身軽に駆けあがった。
 銀玉をこめて狙う。撃つ!
『キサマぁッ!』
 戦闘員と見なして、敵が下から突き上げてきた。
『リツコ!』
 斬られて真っ逆さまに墜ちるリツコを見てマシカと鋭が悲鳴を上げる。
『…そこまで!』
 マーライシャの気勢の籠った制止の声が響いた。
『双方、剣を引きなさい! 何の騒ぎなの、これはッ!』
『…リツコ! リツコ! …大変!』

 …マシカの悲鳴を聴きながら、リツコは、気を失った…

 


8-1. リツコ、魘される。

http://85358.diarynote.jp/201808261839172015/

 

8. リツコ、夢を視る。

8-1. リツコ、魘される。

 リツコは夢を見ていた。またあの夢だ。
 お母さんとお父さんが捕まりかけている。
 お姉ちゃんが泣いている。腕をガッチリ掴まれていて逃げられない。
「逃げて!」
 リツコが叫ぶと、お母さんとお父さんが首をふった。
「カノコを置いては行けない…。おまえは逃げなさい!」
「逃げて!」
 …あの時、リツコは何も出来なかった。何も…
 うなされているリツコの額の汗を拭いてくれているのは、マシカだ。
 ぼんやりと目を覚ますたびに、それは他の薬師の人だったり鋭だったりした。
 リツコのスリングショットの弾は当たった。みごとに命中した。
 狙っていた奴はギャッと悲鳴をあげて毒矢の弓を取り落とした。
 それは、覚えている…
「逃げて!」
 …夢の中で、リツコはスリングショットを構えた。
 もちろん、あの時は遠すぎた。弾もショットも持ってはいなかった。
 でも、もし…
 ビシっと、スリングショットを構えて放つ。
 ギャッと悲鳴を上げて、緑の制服のやつらが次々と倒れる。
「逃げて!」と、また叫ぶ。
 お父さんとお母さんと御姉ちゃんが声をそろえて、「ありがとうリツコ!」
 一目散に、逃げ出す…

 逃げて、逃げて、無事で…

 …もう、会えなくてもガマンするから、生きのびて…!

「…リツコ! …リツコ!」

 うなされている。夢をみている。
 そうだった。
 下から短剣を投げられて…左胸に真っ直ぐ刺さりそうになったのを危うく避けて、バランスを崩して…
 墜ちる途中で木の枝に後頭部を打った。それから真っ逆さまに、地面に落ちた…
「リツコ!」
 胸の切り傷と全身の打撲で、リツコは何日も、熱を出して眠っていたらしい。
 はっと目が覚めると、枕元で心配そうにのぞき込んでいたのは…
 ずっとついて居てくれると思っていたマシカでも鋭でも薬師の人でもなくて…
 驚いたことに、皇女サマ、その人だった。
「…………あぁ良かった! 起きたわね!」

「…あたし… 死にかけてた…??」
 かすれた声で、ぼんやりきいてみる。
「危ないところだったわね… もう大丈夫よ。鋭たち交代で、ずっと心配して徹夜で付き添ってたんで、もういい加減に寝かせたわよ」
 半分涙目で、皇女サマが答える。
「悪かったわね? 私で!」
 ううん。とリツコはにやりと笑った。案外、この性格、可愛いかも、しれない…?
「雄輝は?」
「無事だったわ。あなたのおかげよ。猛毒でね。矢に塗ってあったの。いくら雄輝でも、あれが当たってたら、私でもマシカでも、治療をする暇もなく死んでるところだったわ。」
「そうなんだ。…あたし、役に立った…?」
「えぇ!とても!」
 ずっと苦手と思っていた皇女サマが、ぎゅぎゅっとリツコの手を握ってくれた。
「彼を救けてくれてありがとう!」

「…………えへ~。」

 照れて笑うと、リツコは、再び眠った…。

 


8-2. リツコ、龍にのる。

http://85358.diarynote.jp/201808261901124456/

 

8-2. リツコ、龍にのる。

 それからまた何日か、眠ったり起きたりして、熱が下がって傷の腫れがひいたら、とたんに食欲がもりもり湧いてきたので、がつがつ食べた。
「よかった~!」
 マシカがどんどんお代わりをよそってくれながら、それにしてもすごい勢いねと、ほっとした声でけらけら笑った。鋭も何度も、様子を見にきてくれた。
 ようやく起き出して歩きまわれるようになったころ。
 何だかんだでずいぶん行列は遅れてしまっていた。
「足ののろい連中は先に行かせたわよ!」
 皇女サマがにやりと笑って言う。
「要するに白皇家の血をひく姫が誰か西皇家に嫁げばいいわけなんだから!私が着く前にちゃっかり皆で西の三皇子を攻略しておいてくれるといいんだけど!」
「………あ、あの人たち、そーいう目的で…」
「むちゃくちゃ着飾ってたでしょー? そうよ、玉の輿狙いよ!」
 リツコは納得した。…なるほど、『オトナの事情』だ…。
 そして西皇家よりのあの使者たちはしっかりろ叱責された上で、追い返されていた。
 残っていたのは皇女の一番の側近の精鋭数十名ばかりで、それもリツコが死なずに済んだことを確認するのとほぼ同時に、かわるがわるで枕元に挨拶に来て、徒歩での砂漠越えに出発してしまった。
 リツコの体力ではまだ歩いたり駱駝に乗っての砂漠越えは無理なので。
 行程ははしょって、最後に残った一行はみんなで空を飛ぶことにしたという。
 また鳥人の籠で運んでもらうのかと思っていたら、なんと!先日みたあの龍が背中に載せてくれた。
 飛仙族と呼ばれるフェルラダル様と手をつないでもらってマシカはそのまま宙に浮かんで、飛んでいくという。それを悔しそうな横目で見やって、兄上マリシアル様は皇女サマと手をつないで飛んでいった。
 鋭が一緒に龍に乗ってくれて、リツコの後ろでしっかり背中をささえてくれる。
「きゃーーーーー!最高!」
 はるか眼下の広大な砂漠と岩山とオアシスと、霞む広大な地平線(丸くない)を眺め渡して叫んでいるうちに、わずか半日ほどで、半月前に出た一行の後に追いついた…。


9. リツコ、会議にでる

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9. リツコ、会議にでる

 砂漠のほとりの大きな隊商都市で先行していた側近の人たちと待っていた荷駄隊と合流し、衣装と体調を整えて、そこから数日の駱駝行で、西皇家の都についた。
 開放的で慌ただしく雑多な民族で賑わっていた白の仮皇宮とは何もかも違って、数千年?の時代を経た石造りの皇都は重厚で、壮麗で、格式高くて、絶対的な身分の差。というものが大きくのしかかっているようだった。
 宮殿に上がる前に市場の庶民の街で見物とか観光とかしたい。と仰せの皇女サマの『わがまま』は、『とんでもございません!』と新たに迎えに来た使者から巌として却下にされた。
 まぁとにかく、期日通りに間に合って、東の白皇家の代表者たちは、西の皇家に挨拶する。
 その儀式にはリツコや鋭やマシカたち『平民と余所者』は参加が許されなかった。代わりに白皇家の旅のあいだは居心地悪そうだったボルドム公女は《公主》と呼ばれてマーシャと同格に厚遇された。なんでって、「ボルドム世界の創造主たる男神グアヒィギルの血を濃く引く特別な一族」の出だから。だそうだ。
 そのほか、各方面から大地世界各国諸勢力の代表者たちが続々と集まって…
 いよいよ、諸侯会議が開催された。

 リツコは初日と最後の日に、『地球から来た地球人代表』ということで一言ずつ挨拶をするのが役割だった。
 また一生懸命マシカと相談して、今度は初日はユカタを着て出た。
 可愛いと好評だった。
 大叔母様から出発前に渡されていたあの挨拶状を声に出して呼んだ。
 朝日ヶ森学園というのは国とか民族ではなく、こちらの世界のヨーリア学派と同じように、有力な学者の集団だ。ということにしておいた。
 それから会議はたくさんの分科会に分かれて、あちこちで紛糾したり白熱したり和合したり満場一致で拍手喝采のあと大宴会になったりしていた。
 リツコとマシカは終りの日まで暇になった。市場に繰り出して買い物に明け暮れた。
 皇女サマや鋭たちは、ものすごく忙しそうだった。

 


10-1. リツコ、よばれる。

http://85358.diarynote.jp/201808262000216747/

 

10. リツコ、地球に帰る。

10-1. リツコ、よばれる。

 明日は会議の最後の挨拶だというその晩、リツコは慌ただしくマーシャの部屋へ呼ばれた。
 鋭もマシカも皇子様たちも公女も、なぜかみんないた。
「なあに?」
「リツコあなた案外有能だから。このままこちらに居てもいいのよ?」
 いきなり不機嫌丸出しの声で皇女サマがぼそっとのたまう。
「へ?」目を点にすると、鋭が言い出しにくそうに苦笑しながら補足した。
「地球の欧米側に出られる通路があったらそちらに。って清瀬律子さんから頼まれてたのは、前に話したよね?」
「あ、うん。聞いた。」
「西のヨーリア学派とも連絡とってて。どうやら確実に通れる通路が、今夜だけ、開く。」
「今夜!?」
「…急だから…みんなびっくりしててさ。」
「うん。」リツコもびっくりして、うなづく。
「それを逃すとしばらく地球に帰れる通路は確定できてない。へたすると数年先かな?」
「…そうなんだ…」
「それで、今夜、地球に帰るか、数年先までこっちに居てくれるかな?…って」
「……………そうなんだ……」
「リツコきみこっちで楽しそうだったし。」
「もうしばらく居てくれたら、あたしは嬉しい。けど…」
「言わないのは卑怯でしょ!」
 また唐突に皇女サマがぶすくれた声でつぎ足す。
「…実は、リツコのお父さんとお母さんと、連絡が、取れたよ。」
「ほんとッ!?」
「うん。今夜、行くなら、迎えに来てくれるって…」
 鋭の眼から涙が溢れるのを、リツコは二重にびっくりして見ていた。
 マシカも泣き出してしまった。
 リツコも泣き出した。でも、言った。

「うん。…急だけど… あたし、帰るよ!」

 もう一回、声に出して、自分に確認してみた。

「地球人だから… 地球に帰る。」


「あたしね。ずっと…自分のこと… 天才でも魔法使いでもないし…
 役に立たなくて、残念だな! って思ってた。

 でもね、こっち来て、ほんとの天才の鋭とか、魔法が使える王女様のマーシャとか、見たけど…

 …べつに天才じゃなくてもね。凡才でも、マホウも使えなくても…

 …あたし、結構、役に立つよね?!」

「えぇ。役に立ってくれたわよ。」皇女サマが悔しそうに涙をにじませて言う。

「だから… こっちの世界はこれからもう、平和になるから…」


「自分の世界に帰って、がんばれることを、やってみる!」

「そうだね。」

 雄輝がちょっとそっぽを向き、鋭がうん。とうなずいた。


10-2. リツコ、地球にかえる。 (2018年8月26日)

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10-2. リツコ、地球にかえる。

 慌ただしく、来たときのリュックとバスケットに荷物を詰めて、来た時の服に着替える。
 こっちでマシカと買ったばかりの服や小物や甘いものの大半は、残念だけど諦めるしかなかった。
「リツコ… あたし本当の妹みたいだなーって、思ってたのに…!」
 マシカはもう泣いて泣いて大変で、手伝いは期待できない。
 やっぱりぐすぐす鼻を鳴らしながらでも、鋭はさくさくと荷造りを手伝ってくれた。
 挨拶を出来る人たちには挨拶をして回って、会議の後の宴会であちこち賑やかな城のすみから、地元のヨーリア学派の人たちの案内で、そっと抜け出す。
 皇女サマと公女様は宴会から抜けられない立場なので、門の中で最後のお別れをした。二人とも眼が赤くなっていた。

 短い夜の道を歩き、寺院のような場所から地下の泉水井戸に入る。
 小さい祠があって、それをどけると短い洞窟があった。
『入って。』ヨーリア学派の人が言う。
『リツコ!…リツコ行かないで!』マシカがうしろからしがみつく。
『マシカ…!』リツコも涙で前が見えなくなる。
『あまり時間はない。すぐに通路はまた塞がってしまう。』
「リツコ、
「鋭、また…いつか、どこかで、会えるかな…?」
「手紙を書くよ。小さいものなら、通せる通路は確保してあるから」
「うん…」

 動けない。やっぱり…行きたくない! 帰りたくない!

 リツコは思った。

 すると洞窟の向うから、真夜中なのに、太陽の光? らしいものが射しこんできた。

「リツコ! …リツコなの? 居るの?!」
「リツコ!?」

「…お母さんッ? お父さんッ!」

 …マシカが、抱き着いていた腕を、放した…

「ごめん!みんな! あたし、行くね!」

『リツコのお母さん! リツコとっても良いコでした!ありがとう!大事にしてあげてね!』

 マシカが洞窟の奥に向かって叫ぶ。

「リツコ!? そこに居るのよね?!」

 リツコはがんばって一歩踏み出し、それから駆けだした。

 後ろを振り返る暇もなく、あっと思う間もなく、ステン!と転んで…



 明るい場所に、お母さんとお父さんが、立っていた…

「リツコ!元気で!」

 最後に鋭の声が聴こえて…


 それっきり。


 その後ついに、大地世界に戻る機会は…

 なかった。



 fin.