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ゔぉんゔぉキャンキャンゥバゥッギャンギャンヴヮンッヴォォォキャンッゥゥバゥッ(ごづ、ごづ、ごづ、ごづ).........


はやめに帰って、遠くのスーパーまであるく途中、ひらたくて横に長めの古いお家がある。
表札はない。木造。屋根とか、ポストとか、窓枠とか、いろんなところがほんの少しずつ、壊れているようにみえる。
七時前ぐらいに通ることができれば、この音響なタイミング。
硝子戸のむこうは、いつもぼんやりとしか電気がついていない。最近はもう夏だから、外のほうがぜんぜんあかるい。
ただの勘だけど、三匹と二頭、ぐらいいると思う。もしかしたら、声をださないものも、あとすこしぐらいいるのかもしれない。
ついでにこの勘は、これは、のぞきこんだらいけないほうのだよ、ともいってくるので、たちどまったことはない。
ご飯の時間=闘い なのが、ばきばきに伝わる。
つい最近のこと。夕暮れ未満のその戦場を、いつもの歩調で通り過ぎたあたりで、ふくよかなおばあさんと、そのおばあさんに手を引かれた女の子が前からあるいてきた。
おばあさんがふっくらしているからなのか、女の子がちいさいからなのか、ということを一瞬考えるバランスのふたり。
おばあさんの髪は真っ白で、夏の夕方のひかりにきれい。そして、女の子の髪はほんとうのまっくろ。ひかりがなくてもたぶんひかっているような黒だ。
そんなに狭い道ではないけれど、なんとなく急に狭く感じた。
おばあさんと女の子と私とゥォンキャンバゥバゥでぎゅうぎゅうづめの瓶の中みたいだった。
だいたいすれ違う寸前、おばあさんの顔を見あげて、女の子が言った。

「なんかおるよ」

おばあさんは何も言わなかった。
女の子の方を向きもしなかった。

「ここなんかおるよ」

ねー、ねー、おるよ、と女の子の声だけがそのあとも続いて、ふたりは遠ざかっていった。

私はそのままスーパーに向かい、桃とコチュジャンを買って帰った。
帰りのそのお家は、いつだってなにもない、がずっと続いているみたいに静かだ。
これからもたまに通るだろうけれど、もうあのふたりには会わないのだろうな、と、思った。

(加賀田優子)


この本の内容は以上です。


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