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三.絶望的観測

 朝起きると、あにさんの姿は既になかったっす。

 こういう時はきっと、一人で調べたい何かがあるからで、あっしにはあっしでやるべきことをやることになってるっす。

 病気のお父さん・お母さんの代わりに、水を汲んできてお湯を沸かしてあげたっす。しかし、薬が買えないからか二人の調子はあんまりよくなんねーっすね。浦島さんが早く帰ってきてくれたらイイんすけど。一体どこに行っちまったのか、待ってるこっちの身にもなってほしいっす。


 あにさんがどこに行ったのか探しつつ、村の人達に“聞き込み”をしたっす。この村はどうやら旅の者があまりやってこないみたいっすね。よそもののあっし達と話すのが珍しいとみんな言ってたっす。





 探したら、あにさんは砂浜の向こうの岩場で釣りをしてたっす。
 見たところ小さな魚が多かったっすけど、結構釣れてるみたいっすね。

 ……?

「あにさん、その釣り竿とか諸々の道具はどうしたんすか?」
「浦島という男が昔使っていたものを、使わせてもらっている」
「えー、勝手に人のものを使うのは良くないっすよ」

 こういう迂闊な行動がインターネット上では炎上につながりかねないんすよ。




 TAKE2でやんす。

 朝起きると、あにさんは浦島さんのご両親と何かを話していたっす。
 どうやら浦島さんの行方を探すために必要なことがあって、その了承を取っているみたいっすね。感心感心。何事もちゃんと言葉にして説明してくれないと、要らぬ誤解を生みかねないっすからね。


 あにさんが出かけた後、病気のお父さん・お母さんの代わりに、あっしは水を汲んできてお湯を沸かしてあげたっす。しかし、薬が買えないからか二人の調子はあんまりよくなんねーっすね。浦島さんが早く帰ってきてくれたらイイんすけど。一体どこに行っちまったのか、待ってるこっちの身にもなってほしいっす。


 あにさんは砂浜に行ったらしいので、あっしの方は村の人達に“聞き込み”をして回ったっす。この村はどうやら旅の者があまりやってこないみたいっすね。よそもののあっし達と話すのが珍しいとみんな言ってたっす。





 一通り“聞き込み”が終わったので、あにさんのところに向かったっす。あにさんは砂浜の向こうの岩場で釣りをしていやしたね。見たところ、あんまり釣れていないみたいっすね。


「あにさん、その釣り竿とか諸々の道具は浦島さんが昔使っていたのを借りてるんすよね?」
「そうだ、ちゃんと御両親の了解も取っているぞ」
「なら、安心っす!」

 ◇

「小僧、お主の方は何をしていた?」
「村の人達に浦島さんの評判を聞いて回っていたっす」

 浦島さんの行方については誰も知らないということなんで、浦島さんがどういう人間だったのかから調べたんす。

「ふむ……では、まず俺の方から報告しようか」

 わざわざ浦島さんの釣り道具を借りたのは、浦島さんの行方を探すためと御両親に説明していやしたもんね。これで一体何が分かるんすかね?

「もっと朝早くから出かけていれば、もっとたくさん釣れたと思う!」
「……負け惜しみっすか?」
「ちがうちがう。この海でどのくらい魚が釣れるのかを調べたら、浦島の行動がつかめるかと思ったのだが……時間帯が変わるとどうも魚の動きも変わってしまうみたいだな」

 ……? あにさんは何を言ってるんすかね?

「魚が釣れなくて、浦島はどこか別の場所に移動した可能性があるのかを調べたかったのだ」
「あー! そういうことっすか!」

 あにさんは浦島さんがいなくなった原因を一つ一つ潰してるんすね。流石あにさんでやんす!
 それならば、昨晩の間に浦島さんの釣り道具を借りる約束をして、早朝に出かけるべきだったっすね。このままだと「日が昇ってから釣りに出かけるだなんて常識がなさすぎる」「釣り経験ゼロのくせに釣りシーンを書くとかwwwwwwww」みたいなレビューが付きかねないっす。




 TAKE3でやんす。

 昨晩の間にあにさんは浦島さんのご両親と何かを話していやした。どうやら浦島さんの行方を探すために必要なことがあって、その了承を取っているみたいっすね。そんでもって、今日は朝早くから出かけたみたいっす。あっしが起きた時には既にあにさんの姿はありやせんした。
 こういう時はきっと、一人で調べたい何かがあるからで、あっしにはあっしでやるべきことをやることになってるっす。


 あにさんが出かけた後、病気のお父さん・お母さんの代わりに、あっしは水を汲んできてお湯を沸かしてあげたっす。しかし、薬が買えないからか二人の調子はあんまりよくなんねーっすね。浦島さんが早く帰ってきてくれたらイイんすけど。一体どこに行っちまったのか、待ってるこっちの身にもなってほしいっす。


 あにさんは砂浜に行ったらしいので、あっしの方は村の人達に“聞き込み”をして回ったっす。この村はどうやら旅の者があまりやってこないみたいっすね。よそもののあっし達と話すのが珍しいとみんな言ってたっす。





 探したら、あにさんは砂浜の向こうの岩場で釣りをしてたっす。
 見たところ小さな魚が多かったっすけど、結構釣れてるみたいっすね。


「あにさん、その釣り竿とか諸々の道具は浦島さんが昔使っていたのを借りてるんすよね?」
「そうだ、ちゃんと御両親の了解も昨晩の間に取っているぞ」
「なら、安心っす!」

 ◇

「小僧、お主の方は何をしていた?」
「村の人達に浦島さんの評判を聞いて回っていたっす」

 浦島さんの行方については誰も知らないということなんで、浦島さんがどういう人間だったのかから調べたんす。

「ふむ……では、まず俺の方から報告しようか」

 わざわざ浦島さんの釣り道具を借りたのは、浦島さんの行方を探すためと御両親に説明していやしたもんね。これで一体何が分かるんすかね?

「たくさん釣れたぞ!」
「……見れば分かるっすよ」
「ちがうちがう。つまりな、この海では簡単に魚が釣れちまうんだ。ここ数日は雨も降っていないし、今日だけが特別というワケでもないだろう。きっと浦島がいなくなった日も、だ」

 ……? あにさんは何を言ってるんすかね?

「魚が釣れなくて、浦島がどこか別の場所に移動したとかはなさそうだ」
「あー! そういうことっすか!」

 あにさんは浦島さんがいなくなった原因を一つ一つ潰してるんすね。流石あにさんでやんす!

「ちなみに、浦島のものと思われる小舟も留めてあった。沖に出たということもないだろう」
 舟じゃないものに乗って海に出ることもなさそうっすもんね。

「じゃあ、あの若奥さんが言ってたように、海に落ちちゃったとかっすかね……」
 その場合は、その場合は、待てども待てども浦島さんは帰ってこないってことじゃないっすか。それじゃあ、あの御両親はどうなっちまうんすか。

「それも調べてみた」
 そう言ってあにさんが指したのは岩場の向こうっす。丸太が幾つか浮かんでいるっすね。

「ここから落ちた場合、潮の流れでどこにたどりつくのか、時間帯を変えながら見てみた。最終的には、全てあそこに集まるようになっていたな」
「つまり……もし、浦島さんが海に落っこちたなら、あそこに一緒に浮かんでるはずだってことっすか」

 だとすれば、だとすれば……浦島さんはどこに行っちゃったっすかね。


「小僧、お主が調べてきたことを教えろ」





「この村にある家は浦島さんちを含めて8軒っす。
 村人は全部で42 名。基本は三世代が同居していますが、浦島さんちだけ御両親と三人暮らしでやんすね。」
「そうだ、そこが気になったんだ。浦島は嫁を取っていないのか?」

 浦島さんの年齢は二十五だそうっす。
 これを読んでいる人は「二十五で結婚していないことにゴチャゴチャ言われたくない」って思ったかも知れないっすが、一話で説明したように、この時代の大体の寿命は三十代なんで、十五~六で子供を作るのが一般的なんす。二十五で独身というのは、深刻な行き遅れっす。

 それと、この時代の結婚は恋愛結婚なんてほとんどなく、村ぐるみで結婚相手を用意するんす。じゃないと、あっという間に人口が減って村がなくなっちゃいますからね。

「十年くらい前に隣村から嫁さんが来る予定だったのが、直前に破談になったって村の人が言ってたっす」
「理由は?」
「それはちょっと分かんなかったっすけど、あの一家は村の中で孤立してるとこはあったみたいっすね」
「どうりでな。昨日、母親が浦島を探して村中をかけまわったというのに、村人は俺達が行くまで見て見ぬフリをしていたもんな。高齢で病気の夫婦を放っておけばどうなるか分からないでもなかろうに」

 ちょっと……可哀想な話っすね。

「あと……これも言うべきか悩んだっすけど」
「何だ? 言えよ」
「昨晩、夕飯をたかりに行った時の話っす」
「善意の施しを受けたと言え」
「あの時、その家の男の子がちょっと様子おかしかったっすね」
「ん? そうだったか」
「あい。飯をもらっている間はそうでもなかったんすけど、あにさんが隣の息子がいなくなったみたいな話をし始めてからは、ずーっとこっちをチラチラ見てたっす」

 そう言うと、あにさんはしばらく考えるように顎髭をなでていやした。

「しかし、子供一人で犯行ができるか……?」
「犯行って何すか?」
「浦島太郎を殺害して、死体をどこかに隠すことだよ」
「!!!!!」

 あにさん、突然なにを言い出すんすか!

「海に落ちたワケではない、沖に行くための小舟は使っていない、他の村に行く理由もない、だが姿は見えない―――そうなれば、誰かに殺されたと考えるのが妥当だろう」

 うーむ、確かに。
 でも、子供一人の力じゃムリっぽいっすよね。浦島さんの体格がどれくらいかは分かりやせんでしたが、特に小柄という話も聞きやせんでしたし。

「考えられるとしたら、村の他のものが殺害した現場をその子供が目撃してしまったとかか」

 ◇

 魚釣りを切り上げたあっし達は、手分けしてその子供を探したっす。あにさんの推理だと村の大人達の誰かが浦島さんを殺した犯人かも知れないので、大人達にはバレないようにしたんすけど、なかなか見つからないっすね。
 まさか、浦島さんと同じようにその子供も……? とは考えたくないっす。こんな平和な村に子供も容赦なく手にかける殺人鬼が混じってるとか、怖くて仕方ねーっす。

「小僧、ちょっと来い」
 あにさんに呼ばれて行ってみると、女の子供が二人いやした。年齢は七~八つくらいっすかね。

「あにさん、あっし達が探してるのは女の子じゃねっすよ。男の子っす」
「分かってる。なぁ、お嬢ちゃん達。一昨日の朝は何をして遊んでいた?」

 二人は顔を見合わせる。
 一人の子は畑の手伝いを、もう一人の子は弟・妹の世話で、遊ぶどころじゃなかったらしい。

「でも、男の子たちは浜辺に行ってたみたい」

 !!!!!! 新情報っす!
 大人達からは聞かれなかった話っす!

「それは何人だい?」
「三人。あの三人はいつもいたずらばっかしてて、いやんなっちゃう」

 浜辺に行っていた「いたずら小僧三人組」……それが浦島さんと何か関係があるんすかね。

「そこで何をしていたかは聞いたかい?」
「なんか、帰ってきたときに声をかけたんだけど……すごくふてくされてたよね」
「うん」
 もう一人の女の子も頷いたっす。
「大人に怒られた後みたいだった。どこかでいたずらが見つかったのかな」
 そういって、二人の子は向かい合ってキャッキャッ笑っていた。
 いつの時代も、おなごの話題の華は男子の悪口なんすねー。

「どんないたずらをしてたか分からないかい?」
 あにさんがそう聞いても、二人とも首をかしげるだけっす  ……と思いきや!
「そういえば、亀がどうこうとかってその日は聞いた気がする」と一人の女の子。

「でも、次の日その話を聞かせてって言っても、その話はもうしちゃいけないって言われたの」

 “も う し ち ゃ い け な い”?
 どういう意味っすかね。

「それは、ひょっとしてあの家の子かい?」
 あにさんが指したのは浦島さんちの隣の家、昨晩あっし達が夕飯をたかりに行った家っす。


 女の子が頷くとあにさんは考え込んでしまったので、二人に礼を言って帰ってもらったっす。

「いなくなった釣り人、いたずら好きの子供達、亀、そして次の日にはその話を禁じられる……」
 あにさんはぶつぶつとつぶやき、そして何か閃いたかのように立ち上がったっす。

「そうか! 分かったぞ!
 浦島を殺した凶器は亀だ!生きた亀で浦島をなぐり殺し、そのまま海に返せば凶器が残らないということだ!」


  to be continued...


この本の内容は以上です。


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