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ガイ編15

 ガイは砂と燃えた後のカスみたいなものを、鉄の棒で混ぜ合わせながら言った。

 

「まず、村が燃えてもかまわない理由を聞きたいの? ははは」
「そうです」

 

 ガイは鉄の棒を砂山から取り出し、手で回し始めた。
「俺、浮浪者だから。家のある浮浪者だから。前にも言わなかったか?」
「その、なぜ家があるのに浮浪者なのか、というのを教えてください」
「あー、……じゃお前になら、語ろうか」

 

 ガイは火の方を向いた。顔が赤く輝く。
「俺の両親は、しっかりしてた。もちろん、定職について、働いてた。俺は、十五歳を過ぎても、遊びたい放題だった」
「はい」

 

 木々の緑が炎に照らされ赤に変わる。不思議で、不気味でさえある風景だ。そして炎が立ち上がるとき、オレは右手の傷が痛むように感じてしまう。
「ひとりっ子だったから、わがまま放題、近所のガキと共に、フラッとあるのか無いのかわかんねえような門を出て行って、川で泳いだり、キノコを探したり、木に登る競争もしてた……何だか遠い昔みたいに思うよ」
「そうですか」

 

「ところが、俺の両親は、俺が二十一歳の時、亡くなった」
 両親? 世話係のオヤジから聞いていた。オレには両親がいたと。とりあえず、あいづちを打った。

 

「……なぜ、二人いっぺんに亡くなったか知ってるか? 疫病、つまり病気だよ。父は、母より一日だけ、早かった。俺は隔離されてた。亡くなった両親の顔を、見た事もねえな。見たのは、骨だけだ。火葬がディザータの伝統だ」
 ガイが、丸い目を限りなく広がる夜空の方へ向けた。

 

「それで、寂しいとかじゃねえよ。何もする気が無かっただけ」
「それはどういう意味ですか?」

 

「どうにかなるだろうと思って、何も考えず、遊ぶだけの大人になった。でも、大人になっても、どうにもならなかったんだよ! 何も変わんなかった。つまり、俺には何の夢もねえんだ。バカだから、やりたい事さえわかんねえな! 普通は、両親が亡くなったら、村の誰かは『かわいそうに』という目で俺を見たと、思うだろう?」
「はい」

 

「そう俺も思ったんだ。孤独になって、ずっとその言葉を待ち続けた。ところが、小さな子どもならともかく、二十一歳という事は、十五歳で成人してからもう六年も経ってる」
「そうですね」

 

「両親が亡くなったらさ、『かわいそうに』どころか、『なぜあいつは両親もいねえのに、しっかりしないんだろう。早く定職につけばいいのに』という目で見られるようになったさ」
 ガイが立ち上がって、火を足で消した。あたりが一気に、真っ黒になった。

 

「俺は生まれ育ったあの村は好きだ。でも、それからは、もうやってられなかった。『かわいそうに』と言われたって、今ならそいつぶん殴るだけだけど。両親の家はあるぜ? 森林がある。水がきれいだ。犯罪もめったにない。奴隷もいない。いい村だ。でも聞いてくれ、キャメル。どこにも居場所が無かったら、どこへ帰れと言うんだろう? 夢も、何にもねえのにな!」

 

「ガイ、――オレたち、浮浪者ですね」
 半月の下だ。黒くて、ガイはわずかにしか見えない。
「そうだ、俺たちは、自由な浮浪者だよ。自由すぎて帰る場所もねえな。浮浪者同士、仲良くやっていきたい。いや――そうじゃなくて」

 

「そうじゃなくて?」
 オレは、ガイの言葉の続きが気になって、わざわざ質問した。

 

「十歳以上年下のお前と今、ここにいる。森林の中にいるぜ! 東ザータを離れたら、何か変わる気がした。あと、俺は笑っていたい。どんなに今が悲しくてもね。ははは!」
 ガイは、両手をたたいて笑った。

 

 

 


この本の内容は以上です。


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