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風 狂(第48号)目 次

 

 津和野へ                   出雲 筑三

 7月プール開き              高  裕香

 勇気ある者へ                 高村 昌憲

 諺辞典(二)                 なべくら ますみ

 飯盛女                  長尾 雅樹

 死んだ男                 原 詩夏至

 

風狂ギャラリー

 三浦逸雄の世界(三十二)         三浦 逸雄

 

エッセイ

 会議という名の無責任構造          神宮 清志

 

 アラン『大戦の思い出』(十四)        高村 昌憲 訳

 

執筆者のプロフィール

 

読者からのコメント

 


津和野へ     出雲 筑三

 

萩から津和野への路線バスに乗る

山陰のなだらかな山を越える七十六分

客は最前列に座ったわたし一人

 

バスは畑をどんどん飛ばして行く

二十分もすると 老婦人が乗ってきた

これで乗客は二人になった

 

この車は萩には往かんのかのう

ばぁちゃん 逆コースじゃけん

一時間も待ったのに間違えたんか

 

野や山がどんどん現われて

どんどん萩は去っていく

かなり走ってバスは道端に停まった

 

ばぁちゃん バス停が見えるだろう

あそこから戻りなさい

金はいらんけぇ

 

わしゃ耳が遠くてよう聴こえん

いいから早く降りてくれ

金はいらん と言ったろう

 

ばぁちゃん 今度は気をつけや

おばあさん 足許に気をつけてね

ほのぼのとバスは峠に向かった

 

津和野か あそこは蒸し暑い処だよ 

この停車場で五分休むけん

お客さんが散歩から戻ったら出発するけん

 


7月プール開き      高 裕香

 

7月に入るやいなや夏休みがやって来たような猛暑

三鷹図書館のバス停前小学校からプールの歓声が上がる

1オクターブ高い歓声としぶきの音が思い出を運んで来る

 

50数年前の大阪の小学校 プールは校庭

クーラのない教室から解放され天国そのもの

みな紺の水着、黄色い水泳帽、そして、大きなゼッケン

 

夏休みに入ると、10円プールが始まる

スポーツ施設もなく、兄に連れられ毎日通いつめる

ばた足、クロール、平泳ぎ、飛込までなんでもこい

 

家では、最新型冷蔵庫で麦茶が待っている

おやつは、トウモロコシや棒アイス、かき氷--- 

大きく切ったスイカにかぶりつき種を庭に飛ばす

 

子供がうんと少なくなった

プールも室内プールが増え

校庭プールの歓声やしぶきは私の宝物だ

 


勇気ある者へ    高村 昌憲

 

恐怖とは目に見えないものを想像し

本当の危険を見ない時に起きてくる

見ることとは見るのを望む強い意志

怖いものを正視すると怖くなくなる

 

見ることは正しい判断力にも繋がり

本当の正義を見分ける精神の源泉だ

曖昧を許容する者の眼は不正に曇り

非開示の中で正義を腐敗させる菌だ

 

服従を正義と錯覚する儚い時代の雨

開示することは勇気ある行為である

奴隷状態を潔しとしない自由を求め

服従と尊敬を分離させる行為である

 

開示と自由を無鉄砲と受け取るなり

非開示と服従が戦争の原因にもなる

お互いに逢引きする様に性急になり

幻の戦争を恐れて辛抱出来なくなる

 

勇気ある者は継続させる力を保って

本当の危険を正しく判断できる者だ

恐怖に震えた想像で幽霊に盲進して

自らの結果と成果を捏造しない者だ

 


諺辞典(二)    なべくら ますみ

*鹿を馬と

 

 

登山道の深い奥を動くものがいた

こちらを試すようにゆっくりと歩いて来る

ちらりと見えた頭

 馬だ!

仲間の誰かが大きな声を挙げた

 

こんな所に馬がいるか

鹿じゃないか 結構大きな鹿だ

 いやあれは 馬だ

 角がないもの

物知り顔の爺さんが主張する

 

彼はいつもそうだ

自分が正しいと言い張る

違っている とうすうす気がついても

意地を張る

 

馬と鹿 を一緒くたにして

漢字で並べ

馬鹿 と表記するのは

両者にとって大変失礼である

 と いう説が起きた

 

だから ばか と書くか

    バカ と記すべきだ

いや それらとは関係のない

莫迦と書くべきだ

 

 そんな莫迦げた話どこにある

 

馬鹿には

馬と鹿の迷惑そうな顔が浮かぶ

莫迦には

得体の知れない抹香臭さを感じる

やはり

馬鹿は馬鹿で良い

 

誰に向かうでもなく

ちょっと大きい声で

 

 バカヤロウー  

  と叫んでみる

 

ふわりと 浮かび上がった笑い

 



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