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盗賊

 

 

 

 

 

 

 

 

盗賊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その対象が君である必然性はなかった。と、とはいえ、私は彼を愛した。

慶介と言う、女垂らしの、その名の彼は、穢らしいいホスト。私に愛されて、

私を

愛する、という

愛し、

あまりにも美しい、そのあまりにも空虚で、

からっぽな

大きすぎる 夢のような容姿を誇った、

その

概念でしか、穢れたホスト。

概念

結局のところ 19歳だった。私はその感情を

使い古され

私は。

だれも触れたことがない、

呼ぶことができないことに、

その

自分自身に対する

愛と呼ばれるしかない

自分自身の

概念

裏切りにすぎないような、圭輔は、いくつ? その、たぶん、どうして、21歳、とか? こんなにもむごたらしくさえ あるいは。感じてしまったのだろう?私たちはその屈辱感を。愛し合う。いつでも。飽きもせず。なじるような感情とともに たぶん、君に愛してると、私たちが それだけ 全滅するまで。呟くときの。

 

空回りする饒舌を君は笑うだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聴く。彼が笑った声を聞いて、訝った私はなに?と、その声は君も聞いたに違いない。私の仰向けに寝かされた身体にまたがって、それは、君が強制したものだった。突き出された臀部の白い肌に 私をひざまづかせた後で、差した光が、その、窓越しの、きらめくのだった。彼の、光にまばたき、その、それが、わたしが君のそれを いよいよ白く。くわえ込んだごほうびに。照って、光。犬に差し出された骨のように。指先が、先端に触れるたびに、声をあげそうになる。何の、声さえ立てないくせに。舌が這って、匂われもしない彼の唾液の匂いをかいだ気がした。その、至近距離に。

口の中に、まだ、君が吐き出したものの匂いが残っている気がする。その舌触りさえ。少なくとも、味覚。わたしはまだ、その。それを感じていた。あるいは、こんなことなどん、と。

 

ん、と、圭輔が鼻に立てた音声の断片が耳に残って、「何?」こんなことじゃない。

もとめているのは、こんなことではなかった。にも拘らず、なすべき何もなく、なされるべき何の可能性も見つからないとき、私たちは、《愛し合う》以外に、すべを持たなかった。なしくずしの、その、射精し、され、させられ、させるたびに、あからさまな屈辱感を感じたのは、その意味は、よくわかっている。

 

言うまでもなく。君は、挫折のようなもの。微笑む。私たちは、ときに、時間をただいたずらのばれた 浪費した、それら、子どものように。個人としては 内気な、明らかに 子ども。膨大な、その、そして挫折が私を咬む。

爪を立てて。服、脱ぎなよ、と、圭輔が 咬みつかれたその感情は 言って、なんで? もはや、笑う。単なる ふたたび、日常に過ぎない。いつものように圭輔は笑っていた。いつでも、こんなくだらない、いつでも、何か企んだような、行き止まりの そして、救いようのない 実は 優しい、何もたくまれてなどいない事が明らかな、ささやき声と、その。

気遣いと、眼差し。繊細な、見詰められるままに 震えるような わたしは衣服を脱ぎ捨てるのだが、気配に満たされた、見ないで、地獄のそこのような世界。と。わざと、ストリップめかして、満たされるものはなにもなく、「見ないで」

 

まじ、見ないで。」あっち、向いてて。腰を振ってみせ、絶望感さえ、存在しない。くねった腰に 舌が触れる。光が差して、君の。輝かせた白い光を、もう一度、君は さらに、見ただろうか? そしてもう一度。そのときに。何度も。声を立てて笑いながら、骨をしゃぶる犬の ひざまづいて、と、戯れのように、彼の眼差しが なぶる。言葉もなく、なぶられるままに、その、私は、逃げようもない命令のままに、まかせて、ひざまづいた 圭輔の口はやがて 私の前で、くわえ込んだ 曝された 私のそれに変形させられ、圭輔のそれに、ゆがんだ、触れて。と。

 

触れて。

触れな。

触れろよ。

触れれば?触ってみなよ、と、その、不細工な形態を曝すしかない。君の指先がつぶやいていた。明示された暗示として。私の手のひらに 私の髪の毛を 両手で、撫ぜた、頬を、その。撫ぜられるままに、舌が触れれば、首を使うわけでもなくて、一度、ただ、逃げるように 舌と口蓋だけで のけぞったそれに、もてあそぶのだった。私の息は いつも、かかったに違いない。圭輔は。その、へたくそなフェラチオ。

 

イタリア語?たぶん。「穢い。」藤井加奈子が言った。

 

「穢くない?わたしのお口って、あんな穢いの咥えるためにあるんじゃないからって、」私は声を立てて「まじで、」笑う。「穢い。」

彼女の隣で、ベトナム。南部の都市、ホーチミン市、旧名サイゴン「まじで想う。まじで、」熱帯の町。げー、と、加奈子は、その飲食店の中で、これ見よがしに舌を出し、汚らしく口を開いて、白目さえ剥いて見せるが、広げられた鼻の穴がかすかに痙攣し、彼女の傍らで、ベトナム人たちに食べられていたのは Bún というベトナム料理だった。

ベトナム人であふれている店の中だった。ベトナムにはじめて来た加奈子を連れてきたのだが、明らかにそれは失敗だったに違いない。

現地食の店に連れて行け、と言ったのは加奈子のほうだった。ヘルシーだ、という、日本国内でのみ流通したベトナム料理の売り文句をそのまま信用した加奈子が、そう言ったのだった。生暖かいスープに、米粉をひいた麵がぶち込まれ、骨付きのまま砕かれた豚肉が盛大に乗っかっていた。黒ずんだ廃屋のような低層住居のガレージに、プラスティックの赤い、低い、安っぽい椅子と机が並べられ、床に吐き捨てられた骨と、投げ捨てられた楊枝と、口拭き紙が散乱する。

ベトナム人たちがつまらなそうな顔をして、骨をつまみ、肉を、音を立ててしゃぶった。

ふきっさらしの店内だというのに、スープの味の素と、煮込まれた肉と、骨の匂いと、それらの湿気が、無意味なほどに、いっぱいに充満する。

ねぇ、吐きそう」不快感を表明せずに居られない加奈子は、その場に唾を吐き、その、明らかなマナー違反に、周囲のベトナム人たちが、哀れみと、怯えの交差した眼差しを、加奈子にくれた。

咎められもしない。誰もが彼女を、頭のおかしな、かわいそうで、怖い外人だと想っている。

いま、懐から銃を出して、彼女が自分の頭を吹っ飛ばしたとしても、もはやそれほどの驚きではないくらいに。

 

いつものことだった。

君に抱かれるたびに、どうしようもなく反社会的な行為をしている気がした。世界中、あるいは世界の存立そのものに責められながら。それが、同性愛だから?ではない。私は、だから? そして彼は、それがどうしたというのか? むしろ 例え、同性愛者ではない人間を、世界そのものが敵対したとしても 軽蔑するべきではないかとさえ、そんな、たかが知れた横槍などは。疑った。

軽蔑の正当性を、確信することをはためらわせた。私と圭輔が、にも拘らず、あくまでも哺乳類である限りにおいて。その、不可避的な逡巡。いずれにしても、いわば、家畜たち。繁殖のために、自分の意志さえあるのかないのかわからない、その、或いは、肉体が求めたのか、精神が求めたのか、それさえも定められはしない、いわば穢らしい静物的な情欲と、例えば、愛。

ただ、

そう、美しく呼ばれることを求める

愛。

それ。それらの曖昧な区別、かつ、(非過分的であるにも拘らず本質において不自然な、その)混濁の中に失墜せざるを得ない、異性愛者たち。

彼(彼女)ら、夥しい群れ。いわば、家畜のような。

にも拘らず、私は知っているのだった。私と圭輔の、精神の営みが、所詮は肉体の性感身体に張り巡らされた神経の束と、脳内物質の問題。

ドーパミン、覚醒剤のようなもの。

現実的に覚醒剤が与えるのが、そのドーパミンの決壊だというのなら、それはむしろ愛に等しい。愛することの意味が、

 

覚醒剤が、やがて破壊した圭輔は

 

ついには《愛し合う》ことに他ならないとするならば。君の、

 

 

老いさらばえた50代のように見えた。その

25歳の誕生日イブには

彼の指先を愛した。わたしは圭輔の、その繊細な、そしてときに暴力的で、わがままな 痛いよ、と。指先。痛いから、軽蔑しながら。馬鹿。私は それらの行為、言った。彼の 穢らしい、指先が、その、激しすぎる動きを 軽蔑せざるを得ない。腸内に ついには、示したときに。見つめあった時間が、いつも、それにたどり着かねばならないに他ならないにも拘らず。

持ち堪えられなかった雪の起こした雪崩のように。決壊。崩壊。私たちは、合う、し、愛、し、合い、あい。

あう。

焼き尽くして仕舞えれば、と想った。肉体そのものを。同性愛、あるいは、その精神性それ自体が、私たちの愛の正当性そのものを破壊している。

それは、留保無き屈辱に過ぎない。

いつも。

いつでも。

 

私が案内してやったホテルの部屋に入ったとたんに、加奈子が私にしがみついた。いきなり、ねぇ?振り向くまもなく。

背後から、ねぇ、って。ね?

「信じられる?」

なに?

聴く。

「めっちゃ、会いたかったの?」

誰に?

早口の、その

「あんたに」

なんで?

音声を。

「飢えてた。むしろ」

何に?

加奈子の、それ。

「穢ったないちんちんにだよ、ばか。」

どうして?

舌を咬みそうになって

「ぶたではげでくそのまんこやろうにぶち込まれたくて仕方なかったの。」

なんで?

私の服を脱がせながら

「お尻の穴にも十本ぐらいぶち込んじゃいたいくらい」

なに?

目だけが笑っていた。

ねぇ、体中あんたのきったない液でびしょびしょにされたいんだけど。」

あいかわらず、

驚くほど明らかに、その

「体中なめてよ」

頭おかしいね、

眼差しだけが

「わかる?」

お前。

しかめ面の真ん中で

「わかる?」

 

ん?

「愛してるって言ってんの。」最大級の表現。穢ったないくらい、最大級の、わかる?

Can

豊満な身体。

you

無様なまでに、豊満な、それ。

understand

午前十一時。

?

その時間は、昼なのだろうか、朝なのだろうか。

あるいは、午前十時をも含めて。

光。

光には温度がある。

触感さえも。

肌を灼く触感。

光が、いま、じかに触れているのがわかる。

たとえ、それがカーテン越しのものであったとしても。

光。

すくなくとも、熱帯に於いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終った加奈子の身体が、仰向けになって、全部を曝して息遣う。彼女が本当に感じていたのは知っている。わざと、演技で声を立てたことも。感じてはいないものまで、彼女は表現し、彼女は心のそこから感じ切っていた。

そこに、嘘はなかった。完璧な虚偽が表現されながらも。

それが、どうしようもなく、むごたらしかった。彼女の、その。それ。私自身と同じような。その。私と同じように。圭輔が、求めていることをかなえるために、私はいつも射精をあせった。見詰められただけで、射精して仕舞えればいいのに。ときに、なじられさえしながら、、見下されたりしながらも、君の、その眼差しに。

そうすれば、

「なにが?」

証明できるのに。

「バッテリーが死んでる」

僕たちも死んでる

愛していること、君を。完璧に?

嘘。ただ、

まじだ。」

言ってみただけ

その虚偽で。言って、私は、自分の身体を圭輔の至近距離に接近させるが、君が拒むはずもなかった。彼は私を受け入れる。

圭輔のバイクの故障のために、カフェの駐車場で立ち往生し、バイク屋がやってくるまでの間に時間を潰す。

ガードレールに座って。やるべきことはなにもなく、二人で決めたのだった。

今日は休みだ、と。わたしも圭輔も、歌舞伎町のホストに過ぎなかった。女を壊す事が仕事の、町の掃き溜めの中の糞野郎。そうに違いない。

かりに、その女が、私と引き裂かれたことを理由に、自殺未遂をして仕舞った事実があったとしても。なにが、壊れたというのか?なにを、壊したというのか?誰が、壊したというのか?

千葉の海が、向うのほうに。敷き詰められた、雲の下で。

その女を閉じ込めたのは、両親だった。大学生の、馬鹿な女。内緒で水商売に走った。初体験は早かったし、体験人数も多かった。男などいくらでも知っているはずだった。とはいえ、その、狂気、と呼ぶべきもの。

愛する。

その、精神的な?肉体に突き動かされたにすぎない?いずれにせよ、その、行為、愛、という、その。

女を軟禁したのは両親だった。アダルト・ヴィデオに出た瞬間に、彼女の秘密は決壊した。

一気に。

それは、裏切りであり、犯罪でもあった。少なくとも、その両親にとっては。

その女が自殺未遂、両親の松涛の豪邸の、一般住宅よりは高いが、所詮は二階に過ぎないその部屋から飛び降りて。

左足に障害を残しただけに過ぎない。

源氏名は姫華か姫花だった。

本名は知らない。

 

死ねるわけがないのに。

不意に首だけを起こして、加奈子が言った。

ねぇ」

「何?」ん?

 

っと、ね。

 

沈黙し、首だけ不自然にもたげられた、その、不自然な姿勢が彼女の首を震わせたが、すぐに、力尽き、倒れこむように脱力すれば、高級ホテルの、安っぽいベッドが軋む。

そんな暴力には耐えられないとばかりに。

 

ま、いー、や。

加奈子が言った。

何で?

眼差しは打ち捨てられて天井だけを見詰め、

どうしたの?

まばたくたびに、かすかに黒目が揺れた。ふたたび、なに?

 

なに?

まぶたが開かれた瞬間には常に。

言えよ。

「なんでもない。」形態。

 

加奈子のその。誇るような大柄な体躯が、骨格を大袈裟に張って、肉が、正確にただ、女性的な豊満さを形成するためだけに奉仕した。豪奢な外国人のようだった。明確に、どこの国の、と言うわけではなくて。何か、めずらしく、貴重でさえるに違いない身体。色気を撒き散らす、まさに、男たちの欲望が見せたポルノの中の夢のような女だった。そして、どこか、惨めなほどに恥ずかしく、かつ、女たちあるいは、加奈子自身にとっても、それを美しいとは決して認知できないに違いない、そんな類の、身体。

 

目の前にそれは曝されて、終ったときに脱力されたそのままに、広げられた股の、その、伸びたふくらはぎには、カーテンの切れ目からの光が差す。

 

私はカーテンを引き開けた。一気に。音を立てて。飛び込む、その光と温度の群れ。

 

肌寒いほどに効かせたクーラーの中でさえ。ん?

 

「何?」加奈子が言った。

窓の外したに大通があった。バイクの群れ、「ん?」夥しいその、そして「うん、ね?」私のその声を、「てか、」目の前の、向かいホテルの中は見えない。「ね、」

「何?」加奈子が「どうしたの?」言った。

「見たいじゃん」振り向いて私は言う。「もっとよく。お前の裸。明るいところで。すみからすみまで。三ヶ月ぶり、だっけ?」

 

圭輔は好きだった。私の乳首をつまんで見せて、眼差しを上げ、嘲笑うように笑って見せるのが。

 

「馬鹿?」声を立てて笑ったのは、加奈子だった。「あんた、バカになった?」おかしくて仕方がないと、むしろ「まじ、頭、」この、「変になったね?」おかしくて仕方がないこの、あまりにもくだらなく惨めでむごたらしく無意味で糞以下の価値しかないファニーな世界の本質そのものを嫌悪しているかのように、彼女は笑う。

声を立てて。

 

私だって笑っていた。

同じように。

 

初めて抱いたとき、加奈子はつぶやくように言った。私が、彼女の乳房を、再び触れたときに。「穢い」

 

終った(振りをした)あとで、

「なに?」ん?

「私の体じゃない?」穢いんだよ。なんか、ね?

穢いんだよ。つぶやくように、彼女は、あるいは、つぶやきそのもの。「コンプレックス?なんか。あるの?そういうの。」

「ない。ある。てか、穢い」閉じられもしない眼は、私に投げ捨てられていて「事実として、」上目遣いに加奈子が、「単純に穢くね?」何も見ては居ないことには気づいていた。

「いいじゃん。」

「なにが?」

「セクシーじゃない?」ばか。「いますぐ、オナニー百回くらいできそう」

「そういうの、まじで穢いんだけど」

萎える」

「それ、傷付くから。」笑う。その気もない笑い声を浪費するあるいは、逃避する。

 

絶望のために。

ある、どうしようもない、その。

目の前に広がった、留保無き、純粋極まりない絶望。

圭輔を見詰めながら、言葉を失った。

完璧な絶望。

言葉もなく。

言葉が、意味を失ったから。あるいは、意味を見いだそうと渾身の努力をすることに、それを一瞬でもする、その直前に、飽きて仕舞ったから。

一瞬のたじろぎを、私のまぶただけが、かすかな震えとして曝したに違いない。恥ずべき、何か。そんな、いたたまれない、やわらかい感情に、つかまれる。

心臓と喉元の近くのどこかを。

圭輔に微笑みをくれながら私は、言葉が常に、愛の前で言葉を失って仕舞う瞬間ばかりを量産せざるを得ないというならば。

胸に君の頭を抱いた。

圭輔の、髪の生え際の匂いが、鼻から侵入して、嗅ぐ。匂い。沈黙を生めるための努力に時間は費やされ、やがて力尽きた瞬間に、私たちは《愛し合う》に違いなかった。

 

裏切られた肛門。

二重に。

排出されるべき器官から挿入され、かならずしも《愛し合う》ことの完成をは意味をしない、その行為において、《愛し合う》。私たちが《愛し合って》いることをなんども再度、確認しながら。

その、留保無き、絶望の正当さが、そして。

私の胸に預けられた、君の頭が、転寝を始める。彼の、その、圭輔の、その、頭部を私は、子どもにしてやるように私は、撫ぜたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、目を覚ます。

加奈子のホテルに泊まったあとで。

ベッドの上に、加奈子は居ない。

夜、部屋の明かりを消してから、自分の中に、渇望のかけらを探してみた。彼女の肉体に対する、その。一度抱いた後でも、さらに、にもかかわらず、もっと、いまも、どうしても、欲しくて、欲しくて、仕方ないんだ、と。その肉体におぼれて、壊れてしまいたいくらいだと。そうつぶやいてくれる声のかけらの断片くらいでも転がっているのではないかと。

彼女のために。

欲しいものは何もなく、感情にさえ、なにかに充足しているかけらすらない。

加奈子が何も言わずに、ベッドの前で服を脱いだ。わたしもそれに従った。ベッドの中で、身をよじって。怯え、のような、そんな感情。衣類を、ベッドの下に放り投げていけば、加奈子が、無意味な笑い声を小さく立てる。

「何?」■■■■……。その、ん、と、ふん、の、その中間の微妙な音色、加奈子の鼻から立たったそれを、私は聞いた。

 

私たちは裸になって、腕と腕を絡めるようにして、そして、それ以上のことはない。

 

フェラチオ。全身愛撫。体中に舌を這わす。何度も、何度も、彼女が私に繰り返してきた、風変わりな行為の意味がわかる気がした。セックス。もはや、そんなものに、意味を見いだすことさえできない。埋められない時間の存在が、彼女に、結局はそれを強制するにしても。

 

《愛し合う》こと。それに一切の疑いをさしはさみ得ない人間は、家畜に等しい。肉体の。そして、それが形成した精神そのものの。

 

《愛し合う》こと。あまりにも、惨めな、最終形式。《愛》そのもの、の。

 

私の胸に頭を乗せて、寝息を立てる。

 

体温がある。

 

体臭。

 

髪の毛の匂い。

 

それら。

 

その散乱。

 

そしてでたらめな羅列。

 

 

目を開く。

加奈子は居ない、ベッドの上には。

朝の日差し。

気配さえ感じられないことに訝り、時間が過ぎて行くのを無意味に数えた。

温度。日差しの。

加奈子が、私を好きなのかどうかはわからない。

少なくとも、加奈子は私を愛していた。おそらくは。「愛する」それは、他動詞だから。

他動詞には決意が存在する。愛、を、することの決断が。決断が下されたのなら、例えもはや好きではなく、あるいは好きであったためしさえなかったとしても、それは、まさに愛しているという、それ以外ではない。

そして、私が加奈子を好きになったこともなければ、愛したこともないことくらい、私だって知っていた。

 

もてあました時間の後で、たかが。

たかが、十分に満たないそれ。

 

身を起こした私は、部屋の中、周囲を見回す。カーテンを引きあけ、外を見る。ぐるっと。

 

加奈子は居ないし、居るはずもない。

 

どこにいったのか、狂ったように心配して、どこにいるのか、泣き叫びながら警察を呼んで、一体、どうすればいいと言うのか、懇願しさえしながら町をさ迷い歩くべきだったろうか?

 

探す前から、飽きていた。

その半面で、同時に、心の浅い、執拗な部分に、不安と心配と焦燥、それらを薄く混ぜたペーストのような感情が張り付く。

 

尿意を感じた私が、開いたバスルームの中、バスタブの中に裸のままの加奈子がいた。ひざを抱え、うずくまって。

声を立てることさえなく、泣いていた。しゃくりあげさえせずに。何かを壊わして仕舞ったように、何かが壊れて仕舞ったように、流れる。ただ、さらさらと、涙。それが、流れ落ちて。どうしたの?その言葉を吐こうとした瞬間に、加奈子は「見たの。」言った。「夢、見たの。」どんな?「いっぱい、花、咲いてるの。真っ白い花。真っ白。向うまで、全部、真っ白。信じられないくらい。でね、で、居ないの。まじで。誰もいないの。手遅れなの。気付いた。わたし、その時。もう、ね?滅びちゃったの。人類ってか、全部。世界の全部。物も、空気も、色も、形も、何も、かにも、あれも、それも、どれも、人間以外も、全部。すべて。ぜんぶ、花だけ、咲いてるの。私だけ生きてるの。気付いた。てか、思い出したんだよ、その時、あー、って。あー、わたし、そういえば、死ねないんだって。もう、ね?わたし、死ねないの。世界が5万回滅びても。壊して。そうなの。ねぇ、そうだったの。やだ、もうやばいって。濡れちゃってる。気付いたの。私って、わかる?超淫乱なの。永遠だよ。びちょびちょ永遠より長い、もう、ながーい、ぐちょぐちょなの。わかる?めっちゃくちゃにして。ねぇ、いかせて。わかる?めっちゃいかせて。目の前に、いかせまくっていいよ。咲いてるの。百万回いかせて。花だけが。容赦しないで。、真っ白い、ねぇ、むしろ花だけが。」壊して。そんな、笑うしかないほどみだらな言葉を吐き続けているようにしか見えない、その美しい、贅沢なほどに豊満な体を曝したまま、加奈子のまぶたから、涙が静かにこぼれつづける。

 

音もなく。

 

私はただ、眼をそらす。なすすべもなく梅花(うめのはな)

零覆雪乎(ふりおほふゆきを)

抱持(つつみもち)

君令見跡(きみにみせむと)

取者消管(とればけにつつ)

(巻十 春雑歌 詠鳥)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018.06.08

Seno-Le Ma


奥付


盗賊


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著者 : Seno Le Ma
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