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ガイ編11

 ガイとオレは、『美女』を捜すために、馬で西ザータへ向かっていた。もっとも、オレが興味があったのは、『美女』ではなくて、この世界だったのだが。ガイには言わなかった。

 

 ガイが、馬を走らせながら、あいかわらず陽気な声で言った。

「もうそろそろ西ザータへ着くぜ。それにしてもお前、あの塔から歩いてか、または走って俺の村まで来たんだろ。それともラクダか? ははは。けっこう距離あるぜ? よく来れたもんだ。馬なら半日かければまあ着くけどな。ラクダは見た事あるけど乗って旅した事無いので知らん。そして、訂正!」

 

 うっすら細い建物が、やわらかな青い空気に包まれて、小さく見えていた。あれでは日が暮れたら、消えてしまいそうだ。そうか、遠くにあるものは小さく頼りなく見えるのだ。ついこの前見た星は、塔に比べて、ずいぶん小さかった。しかし、なぜ明るかったのか? 星を探そうとした。

 

 ガイは振り向いて言った。いろんな方向を見ては喋って、よく馬から落ちないものだ。
「訂正。お前、最初に会った時は、火のようだと思った。でも今は、炎のようにも感じる。うまく言えねえけどさ。ははは!」
 馬が、一番後ろにある黒い毛のようなものを動かした。

 

「炎? オレが?」
「うーん、どうやって説明していいのかわからんわ。俺、バカだから。とりあえず、お前、何歳? 塔に閉じこめられてたとかで、ひょろひょろしてるけど、十八歳くらいか? もう成人してるだろ。違う?」
「オレは、オヤジに『たぶん十五歳』と聞きましたが」

 

 暗くなってきたのもあって、いつの間にか前を走っているガイの表情はまったく見えなかった。いくつかに結った髪が踊るのだけがかろうじて見える。

 

「たぶん十五だって? いい加減なオヤジさんだなあ。ははは。やっぱり成人してたけど、思ったより年齢下だった! 俺、二十代後半、無職だけど。お前と十歳以上年離れてると思わんかった!」
 ガイの笑い声は、大きかった。何かをバカにしているのか。何かをかき消そうとしているのか? そんな風に思った。

 

「今夜は、ここで泊まろうか? キャメル」
 ガイが突然馬を止めたので、オレは急に手綱をあやつった。
「危ないですよ。ガイ。何をするんですか」
「立ち止まった。以上」

 

「あの塔がほとんど見えなくなりましたけど、もう近くですよ。あの付近が、どう考えても目指す西ザータでしょう。三角や四角が、青く見えます」
「知らねえ。お前は旅について、慣れてないだろ。違う? まだまだ結構ある。今夜は、ここで野宿しようと思う。森のお嬢ちゃんでもいればいいなー。ああ、何だか眠くなってきた」
 ガイが振り向いたのが、動きでわかった。

 

 

 

 

「さて、これが火炎放射器だ」
 オレの持ってきた太めの木を組んで、ガイは何やら木でできた道具を取り出し、あっという間に火をつけてしまっていた。火ってあんなにすぐつくものなのか。オレは世話係のオヤジの持ってきた火を、ランプに移してもらうのが火の扱い方だと思っていたので、かなり驚いた。
「すごいですね」
「これを、『炎』というんだ」

 

 激しい火。黒い空気に揺すられて、消えてしまいそうなのに、それでもどうにか存在を主張している、そんな風に思えてしまう。炎には煙が伴う。この匂いは、塔の中でも知っていた。塔の中の生活が、すべてだった。過ぎたばかりの過去を、かきたてるような『炎』という生き物。
「お前も火炎放射器、使ってみる?」
「遠慮します。――ガイ、この炎が、オレに似ている?」
「そうだよ」
「一体、どのあたりが?」

 

 赤や黄色の光が、森を、オレとガイ二人を縁取っている。ときどき、炎のかけらが空を飛ぶ。今まで見た中で、一番大きな火。ときどき、そのかけらがすぐ目の前を通り過ぎてゆく。

 

「そうだなあ……お前、自分の見た目知らないだろ。自分の声も喋り方も、知らないだろ。ははあ、きっと塔の中には鏡が無かったんだろうなあ。お前、弱そうに見えるよ。でも、話し方がなんか違うなって」
「話し方とは?」
「どこかに、強さを感じる。そして、危険だと思うよ。ははは! 末恐ろしい。特に、その『何ですか』っていうのと、その横に大きな目は」

 

 ガイにはとっくに、見透かされているのかも知れない。小さな不安の種。言わないけれど。でもオレを、ガイはそれだけではない人として見ているのだろうか。

 


この本の内容は以上です。


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