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目 次

         まえがき

 

第1章  古くて新しいエネルギー問題

          クラウジウスが創始したエントロピー理論 /クラウジウスのみたエネルギー問題

           /クラウジウスの先見性と卓見      

 

第2章  資本主義の登場は産業革命にあり

          石炭を動力源として利用した産業革命 /産業革命から経済学が誕生

          /大量生産・大量消費・大量廃棄の社会到来

 

第3章  地球温暖化はエネルギーの使い過ぎ

          槌田エントロピー理論 /エントロピー理論からみた地球温暖化 /遠大なパリ協定

 

第4章  21世紀のエネルギー問題

          右肩上がりの石油需給と価格 /パリ協定を受けた脱炭素の道程 

          /化石燃料に代わる熱・燃料

 

第5章  エネルギーから考える資本主義

          不都合な米国経済 /エネルギーと資本主義と覇権 /資本主義の行き詰まり

 

第6章  激変する社会体制

         崩壊する石油漬けの経済と社会 /先行すべき価値観の転換   /22世紀の社会に向けて

 

付記

         付記1: 海水冷却の原発は稼働中に二酸化炭素を放出

         付記2: トリウム溶融塩炉を自然エネルギーのベースロード電源に

 

         あとがき

 

         参考文献


まえがき

 2017年12月17日(日)に放送された、NHKスペシャル 『脱炭素社会の衝撃』 をユーチューブで偶然見ました。私自身も衝撃を受けた一人であり、NHKスペシャルの反響ツイートも、世界の潮流に逆行する日本に、じくじたる思いの方が大部分です。脱炭素社会は、エネルギー資源に化石燃料を使わず、再生可能エネルギー100%の社会です。再生可能エネルギーの機運は、1973年の第一次石油ショックの翌年に 「サンシャイン計画」 がありました。しかし、再生可能エネルギーの機運は、なんらかの理由からしりすぼみになりました。代わって、原発がエネルギーの安全保障になるとされ、全国に54基まで建設されました。それでも、原発は震災直前の2010年度の一次エネルギー供給の内、11%占めただけです。その時は、化石燃料が一次エネルギー供給の約82%を占めました。第一次石油ショック後から原発を数多く新設しても、エネルギーの安全保障は実現できません。逆に、最悪の原発事故を起こし、その対処に多額の国富を費やすも、四苦八苦するだけで解決に目途さえつきません。

 日本政府は、2015年12月のパリ協定から3年目に突入しても、改憲を叫ぶだけで、脱炭素社会実現の優先度は低いままです。脱炭素社会とは、再生可能エネルギーを100%にするわけで、エネルギー安全保障から言えば理想的です。しかも、原発のような致命的事故も起こらず、化石燃料の輸入に国富を流出することもありません。現在社会の問題は、化石エネルギーの使い過ぎです。エネルギーの使い過ぎか否を判断する理論が、エントロピー理論です。エントロピー理論の創始者であるルドルフ・クラウジウスが、1885年に石炭エネルギーの使い過ぎに警鐘を鳴らしていました。

 18世紀初頭のニューコメンの蒸気機関の発明及び1760年代のワットの蒸気機関の改良を経て、英国で産業革命が起こりました。石炭が単なる暖房用の熱源としてだけではなく、強力な活動源としての利用が欧米社会を変えていきました。第二次世界大戦後は、安価で大量の石油が民需用として消費され、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会が後の先進国に広がりました。グローバル資本主義では、化石燃料が世界中で膨大に消費され、便利で快適な生活をしています。しかし、化石燃料の使い過ぎが、地球温暖化の公害を生みました。二酸化炭素による地球温暖化は、1990年の国連気候変動に関する政府間パネルで、最初に公式報告されました。しかし、新自由主義あるいはグローバル資本主義が、経済成長競争を各国に浸透させ、化石燃料の使い過ぎを招き二酸化炭素の排出量を増大させ、温室効果による事態を悪化させました。その結果、地球温暖化の行く末に赤信号が灯り、パリ協定に至ったと思われます。

 WWF(世界自然保護基金)ジャパンの 『脱炭素社会実現に向けた長期シナリオ概要版』 によれば、化石燃料から再生可能エネルギーへのエネルギー転換と、省エネの両方を進めれば、2050年に脱炭素社会が実現します。筆者は、再生可能エネルギーの主力である太陽光発電と風力発電を組み合わせても、共にお天気任せであり、電力の需要に即した安定的な供給は無理と考えます。更に、再生可能エネルギー100%の社会実現に大きな課題があります。それは、75%に及ぶ需要場所における熱・燃料(例ガソリン・ジェット燃料・軽油・重油)です。WWFジャパンは、需要場所における熱・燃料に水素とバイオ燃料の技術革新に期待を寄せています。筆者は、脱炭素社会に期待しますが、再生可能エネルギーのエネルギー収支比が10未満であることから、大量生産・大量消費・大量廃棄の文明様式を維持することは困難と考えます。その結果、経済成長はできなくなりますが、困ることはありません。現に、普通預金の利子が0.001%、定期預金の利子が0.01%です。預金利子がゼロとは、預金の利子はもとより、資本の増殖ができないことを物語っています。日本は、既に化石燃料を使いながら 「定常社会」 に突入しています。脱経済成長が、脱炭素社会の先行思想であり、産業革命以降に実現した資本主義社会と異なる社会に進みます。


第1章 古くて新しいエネルギー問題

 クラウジウスが創始したエントロピー理論

 ルドルフ・クラウジウス(1822-1888)は、現在のポーランド出身の熱力学の物理学者です。熱力学とは、蒸気機関の運動に代表される熱機関の学問です。彼は、熱力学第一法則(※1)と熱力学第二法則(※2)を基盤に、諸々の熱機関の熱と力学の相互現象からエントロピー理論を創始しました。エントロピーとは難解な概念ですが、エントロピー学会によるエントロピーの説明を次にします。→A

 

 熱は高温から低温に移動し、その逆は、他に変化を及ぼさずには起こらない。物質は濃度の高いところから低いところに拡散し、その逆は、他に変化を及ぼさずには起こらない。これらの熱と物質をひっくるめての拡散の度合いを定量的に示す量がエントロピーである。

 拡散した熱や物質は元の状態に戻すには仕事が必要だから、エントロピーは劣化の度合いを表す指標とも言うことができる。

 

 エントロピー学会の説明にあるように、エントロピーは熱と物質をひっくるめての拡散の度合いであり、直截的に言えば熱エントロピーと物エントロピーの和です。クラウジウスは、理想気体におけるエントロピーを熱容量(=熱エントロピー)項と体積(=物エントロピー)項の和で示しています。なお、エントロピー理論で扱う温度は絶対温度です。エントロピー理論は、小さな系(例:人間、もっと小さな系もある)から大きな系(例:地球)まで、熱の入出力が伴うすべての系に適用でき、かつ、系全体の状態を定量的に俯瞰できる優れた理論です。

 また、クラウジウスは系(たとえば地球)を含む環境全体のエントロピーが、必然的に増大する熱力学第二法則の発見者でもあります。ただし、地球は開放系であり、太陽からエントロピーが低く質の高いエネルギーである光を受け、物質循環を生起して、夜間に宇宙空間へ赤外線でエントロピーが高く質の悪いエネルギーを捨てる気象動作から 「熱的死(=エントロピー増大)」 を免れています。

 

 ※1 熱力学第一法則(別名はエネルギー保存の法則)

    ある系が獲得したエネルギーは、外界の失ったエネルギーと等しい。

 ※2 熱力学第二法則

    熱はひとりでに温度の低い物体から高い物体に移動しない。

    つまり、熱はひとりでに高い物体から低い物体に移動する。なお、温度の低い物体から

    高い物体に熱を強制的に移動させることはできるが、その為にはエネルギーが必要にな

    る。(例:冷蔵庫)

 

 クラウジウスのみたエネルギー問題

 クラウジウスは1885年に一般聴衆者向けに講演を行い、その内容を論考して論文 『自然界におけるエネルギーの諸蓄積と人類の利益にとってのそれらの価値評価』 にまとめました。講演録を基にしたこの論文の後半部分の抄訳を次に示します。→B

 

  「力学的エネルギーの消費についていえば、私たちは、今日、すばらしい時代に生きている。経済学には、いかなる商品についてもある一期間におけるその消費量は、同期間におけるその生産量をこえることはできないという一般的な原則がある。それゆえ私たちは、本来なら森林の成長を通じて再生産される燃料のみを消費すべきである。だが実際には、私たちはそれとはまったく違った生活をしている」 。

  「私たちは、遠い昔に起源のある石炭が地下に埋蔵されていることを承知している。その石炭は、きわめて長い期間にわたって、当時地球上に存在していた植物の成長を通じて大量に蓄積されてものである。その期間に比べれば、人類史の時間などは無限に短いものにさえみえる。私たちはいま、そうした蓄積を消費し、幸福な遺産継承者としてふるまっている。人間の力と技術的な手段が許す限りたくさんのものが大地から採取され、それは、あたかも枯渇することがないかのように消費されている。鉄道や蒸気船や蒸気機関を装備した工場の数は、驚くべき勢いで増加しており、このため、私たちが将来を展望するとき、ひとたび埋蔵石炭が枯渇するとき何がおこるだろうかという問題が不可避的に浮かび上がってくる」 。

  「石炭の埋蔵量は豊富であるにもかかわらず、これは決してとるに足らない表面的な問題ではない」 。

  「私たちは、絶対的な明晰さをもって、可能なことと不可能なこととを峻別しなければならない。エネルギーは、エネルギーの使用なしには創出しえない。・・・・・科学は、それがいくら発達しようと、ひとたび資源、すなわち石炭が枯渇してしまえば、新しいエネルギー源を創造することはできないであろう。反対に、人間は、太陽がきわめて長期にわたって放射しつづけるエネルギーとうまくつきあっていくよう運命づけられているのだ」 。

  「太陽エネルギーは、一方では、酸化可能で植物の成長を通じて得られる物質の形で、そして他方では、水の運動として私たちに提供されている。水の運動はかなり大量のエネルギーを生産することができるから、急流は大きな炭田の代替(水力発電)となりうる。自然愛好者は、滝すなわち美しい山岳景観の主要な源泉を構成する泡立つ野生が機械に捉えられてしまうことを醜いことだと思うであろう。しかしこれは、急流にとって不可避的な運命である。それぞれの急流の近くに発達する活発な産業活動が、犠牲となる美観の償いになるであろう」 。

  「蒸気機関のようなさまざまの機械の発明と改良のおかげで、いま終わろうとしている(十九)世紀は、以前にはまったく知られていなかった規模での天然のエネルギー源の使用によって特徴づけられてきた。来るべき数世紀は、天然の諸資源、それらのうちでも主として私たちが過去の時代の遺産として発見し、再創造できないがゆえに浪費してはならない資源の消費に関して、賢明なる節約の方法を導入することを時代の主要な課題としてになうことになるであろう。速く変化がおこればおこるほどよりよい結果が得られる。最も文明化した諸国は、森林の利用をよく組織化された状態におくための管理と同様なやり方で石炭採掘を管理すべく、共同の行動をとるべきであろう」 。

                                                                                                          (XX)は、筆者が挿入

 

 クラウジウスの先見性と卓見

 18世紀初頭のニューコメンの蒸気機関の発明及び1760年代のワットの蒸気機関の改良を経て、石炭の有用性が飛躍的に高まりました。石炭は単なる暖房用の熱源としてだけではなく、強力な動力源として利用され始めました。この結果、英国の石炭生産量は、18世紀初頭の300万トン/年から、18世紀末には1000万トン/年に、19世紀半ばには1億トン/年と爆発的に伸び、19世紀末の年間石炭消費量は、薪炭換算で英国全土の森林をわずか4ケ月で食いつぶす量に達した。→C 英国の産業革命は、たちまちフランス・ドイツなどの西欧に広がり、蒸気機関を動力源とした繊維産業、鉄道、蒸気船などが勃興しました。クラウジウスは、科学技術文明が輝いていた時期に、一般聴衆者向けにエネルギーの行く末の講演をしました。

 前項の論文は、蒸気機関が発明されて以降の人類のエネルギー利用による社会変革に触れた後で、論文執筆当時の主なエネルギー資源であった石炭は、いずれ枯渇すると述べています。その前に、滝の落下による水力発電、太陽によって得られる自然エネルギーに移行しなければならないと結論しています。1885年に書かれたこの論文は、クラウジウスのエネルギー問題に対する先見性と卓見を示しています。2018年時点で、この論文の石炭と記している箇所を石炭と石油に置き換えて読んでも、内容が色あせず、いささかの違和感がもありません。クラウジウスは、石炭の大量消費による豊かな社会に対する価値評価をしています。石炭が豊富に埋蔵されている間に、エントロピー理論にかなう自然エネルギー(今で言う再生可能エネルギー)への移行が必要だと結論しています。

 クラウジウス没後の社会は、クラウジウスの思いとは逆に石炭よりも使い勝手の良い石油を、1859年に米国ペンシルバニアでドレーク大佐が掘り当てました。幸福な遺産継承者の米国は、安価で大量の石油を湯水のごとく消費し、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を各国に広めました。2018年現在、人類は原油と天然ガスとシェールオイルなどを一日当たり約1億バレル消費しています。その結果、繁栄や富の増大、便利で快適な生活等の恩恵を享受するも、石油の枯渇が近未来にせまり、地球温暖化で呻吟しています。それもこれも、経済成長すれば金持ちになれ、技術進歩により幸せになれるという現在人特有の教条にとらわれ、地球温暖化の加害者兼被害者の立場がエネルギー問題の解決を一層困難にしています。

 97%の科学者が認めている気候変動という事実に対し、一部の国・学者・評論家などは地球温暖化に難癖を付けていますが、エントロピー理論による化石燃料の使い過ぎに言及することはありません。人間は、エントロピー理論たる物理法則から免れるかのような経済行為をしています。

 


第2章 資本主義の登場は産業革命にあり

 石炭を動力源として利用した産業革命

 16世紀頃に始まった大航海時代がスペイン、イタリアといった西欧南部からオランダ、英国といった北部にその中心を移していきました。その頃、英国では放牧により森が縮小し、人々は木材の代わりに石炭を燃料として使い始めました。18世紀初頭にニューコメンが、炭鉱の排水ポンプ用に蒸気機関を発明しました。それを1760年代にワットが、熱効率の良い蒸気機関に改良しました。蒸気機関を使う前は、牛馬や水車によって、炭鉱の排水を行われていたが、効率が悪くて深い石炭層の採掘はできませんでした。しかし、蒸気機関を使うことで、掘り出した石炭を動力源の燃料とすることで、その何十倍もの石炭を労せずして掘り出せました。エントロピー理論から言えば、石炭が有する低エントロピーのエネルギーが、蒸気機関で熱と物のエントロピーに変化する際に、回転運動なる力学的エネルギーとして取り出し、残りを外部に高エントロピーとして排出します。

 一方、17世紀に英国で発明された、石炭を乾溜して炭素純度を高めて、より低エントロピー化したコークスは、18世紀初めには製鉄工程の一部に利用され始めた。→C さらに、18世紀後半に反射炉が発明されてから、石炭/コークスのみで鋼鉄の大量製造ができるようになった。→C この蒸気機関 → 石炭・石炭 → 鋼鉄という再生産の相互効果こそが、産業革命の核心である。→C 以降、蒸気機関は、1807年の米国のフルトンによる蒸気船の実用化、1830年に英国のスティブンソンの蒸気機関鉄道への実用化など、熱機関の応用は加速度的に進みました。石炭は、石炭の持つエネルギーだけで自らを拡大再生産できました。蒸気機関を使い石炭を掘り、石炭を蒸気機関で運び、その蒸気機関を動力源にして自動織機を稼働させました。

 英国から始まった石炭エネルギーを動力源とする工業経済は、たちまちフランス、ドイツなど西欧に広まりました。クラウジウスの言う、 「力学的エネルギーの消費についていえば、私たちは、今日、すばらしい時代に生きている」 を迎えたのです。

 

 産業革命から経済学が誕生

 16世紀頃に始まった大航海時代に、株式会社の源になる考えができました。アジアとの貿易を行い巨万の富を得るため、船を作り、船員を雇い入れ大航海に乗り出しました。しかし、ひとりの金持ちが全てを賄うことは可能でしょうが、失敗時の経済的危険は多く、複数の人間で賄う考えが出て来たのです。代わりに、大航海貿易で得られた富は、お金を拠出した仲間で分け合います。ここから、株式会社の組織が芽生えました。そして、会社の経理面を支援する画期的な複式簿記が、イタリアの自由都市で発明されました。マックス・ウェーバーは、近代西欧社会を成立させた原理が、近代科学、資本主義の市場、近代法体系、複式簿記であると述べています。産業革命前に、期せずしてマックス・ウェーバーが述べた近代西欧社会を成り立たせた原理が整い、アダム・スミス(1723-1790)の時代に、近代資本主義の基盤が出来上がりました。

 産業革命前は、農業が各国の経済を支えていました。産業革命により、生産力の飛躍的な増加が実現しました。農業は天候、土地条件等の制約を受けるため、生産量に制限があり、経済は概ね定常状態です。産業革命で出現した工業経済は、自然との繋がりがなく、エネルギーと鉱物原料を投入すれば、製品が生産できます。アダム・スミスは、封建制社会から産業革命を経ての近代資本主義社会の成立という時代に生き、国富を増加させる石炭エネルギーを動力源にした、工業社会特有の経済体制を 『国富論』 として1776年に発刊しました。 『国富論』 で有名なのが、商品の需要と供給が事後的に決まる 「神の見えざる手」 です。そのアダム・スミスの 『国富論』 から、経済学が誕生しました。ですから、経済学はエネルギーを使った大量生産・大量消費に何ら異議を差し挟みません。逆に、経済学はエネルギーの使い過ぎを問題にせず、 「経済成長」 なる甘い言葉で更なるエネルギーの消費を助長します。

 

 大量生産・大量消費・大量廃棄の社会到来

 19世紀末から20世紀にかけて、電気・科学・内燃機関を中心とする第二次産業革命が発生しました。第二次産業革命は、蒸気機関が発電機や内燃機関に、石炭が電気や石油に支配権を譲ることから成立しました。石油の爆発力を利用した内燃機関は、石炭利用の蒸気機関、すなわち外燃機関に比べると、小型軽量で効率も圧倒的に優れています。この長所は、直ちに兵器に応用され、石油燃料の軍艦、航空機の登場と急速な発展、トラックや戦車の登場など兵器革命を起こしました。現在でも、石油がなければ兵器の製造ができず、石油がなければ兵器を動かすことができません。それも、石油は、石油の持つエネルギーだけで自ら拡大再生産することができたからです。第二次世界大戦前の石油大国の米国は、内燃機関による利便性にて大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルを確立しました。

 第二次世界大戦後は、中東で次々に巨大な油田が発見され、石油は軍需用の希少資源から豊富低廉な民需用資源に代わりました。石油は誠に使い勝手がよく、利用範囲の広いエネルギーであり、火力発電の燃料以外に自動車、飛行機、船舶などの燃料、プラスチック、合成繊維原料、合成ゴム、塗料原料、合成洗剤などに利用され、現在文明を石油文明と形容できるほど重宝しています。安価な石油が大量にあればこそ、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルが成立します。2018年現在、人類は原油と天然ガスとシェールオイルなどを一日当たり約1億バレル消費しています。

 クラウジウスが1885年に一般聴衆者向け講演を基に論考した論文は、産業革命前と比べ石炭エネルギーを多量に使った大量生産・大量消費の価値観を批判しています。第二次世界大戦後は、エネルギーの消費が加速し、グローバル資本主義になりエネルギーの消費が更に加速しています。産業革命以降の特徴は、起業家の出現です。起業家は、科学技術を応用し便利な商品を次々と大量に生み出しました。その結果、われわれ人類が湯水のごとく化石燃料を消費して、地球温暖化が叫ばれようとも、人は何とも思っておりません。つまり、大多数の人間は大量生産・大量消費・大量廃棄の価値観を批判しません。大多数の人間は、自分の時代に資源を浪費し、自分の子孫のことあるいは自然環境のことなど少しも考えない、ある種の利己主義に陥っています。この利己主義からの脱却は、市場原理主義の経済にからめとられ、かつ、利便性を手放したくないゆえ非常に困難です。なぜなら、市場原理主義は善悪の価値観ではなく、経済性なる企業の損得を価値観にしているからです。


第3章 地球温暖化はエネルギーの使い過ぎ

 槌田エントロピー理論

 地球を巨大な熱機関と見做せば、熱機関を対象にするエントロピー理論が適用できます。槌田敦は、1976年、日本物理学会誌上に論文を発表し、 「空気と水を作業物質とする気象エンジンとしての地球」を初めて描出し、人間を含む地球上の動植物の活動により不断に増大するエントロピーを処分する機構を解明することにより、地球が熱死を免れている姿を示した。→A 地球環境にエントロピー理論を適応したこの考え方を、 「槌田エントロピー理論」 と呼ばれています。

 地球を巨大な熱機関と見做せば、地球は低エントロピーで高エネルギーの資源を太陽光(平均q=257kcal/㎠/年)で受け取ります。図1は、これを100として、一部は雲で反射されるので地表に47届き、温室効果・植物の光合成成・ 生命活動などに使われます。

               

                                          図1:水惑星のエントロピー入出力分析

                                                                    出典元:エントロピーと物質循環(槌田 「熱学概論」)

 

地表で受け取った低エントロピーで高エネルギーの資源を使い、人間を含む地球上の動植物の活動で生じる高エントロピーで低エネルギーの廃棄は、図1の右側の気象エンジンで宇宙空間に捨てられます。水と大気の存在により、温められた水蒸気と大気は上昇し、上空で結露することにより雨となり水が地表に戻ります。一方、結露時に気化熱の放出という形でエントロピーを大気に受け渡し、温められた大気はさらに上昇し、熱放射を通じて宇宙空間にエントロピーを放出し、大気は下降します。気象エンジンが、エントロピーの廃棄を水循環と大気循環で実現しています。

 金星は、太陽系で太陽に近い方から二番目の惑星で、大きさと平均密度が最も地球に似ています。しかし、金星の大気は二酸化炭素がほぼ全てを占めており、わずかに窒素を含む程度です。しかも、金星には水がないため、気象エンジンが作動せず、膨大な二酸化炭素の温室効果により、金星の地表温度は平均で464度なる灼熱惑星です。金星は、灼熱状態でエントロピーの入出力が釣り合っており、地球は人間を含む動植物が活動できる状態で、エントロピーの入出力が釣り合っています。

 

 エントロピー理論からみた地球温暖化

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、1990年に第1次評価報告書を発表しました。この時は、 「人為起源の温室効果ガスが気候変化を生じさせる恐れがある」 でした。時は移り、2013年9月のスウェーデン・ストックホルムで発表されたIPCC第5次評価報告書では、 「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の要因である可能性が極めて高い(95%以上)」 に変わりました。温室効果ガスによる気候変動は、気候モデルを作り、スーパーコンピューターでシミュレーションします。気候モデルに不確定要素はあるものの、気候モデルの精度は上がっており、人間活動による気候変動の可能性が、95%以上である結果を得ました。

 第二次世界大戦後は、中東で次々に巨大な油田が発見され、石油は軍需用の希少資源から豊富低廉な民需用資源に代わりました。20世紀半ば以降に観測された温暖化は、豊富低廉な石油を消費し始めた時期と符合します。グローバリズムの今日、各国はあらそって大量の化石燃料を消費しています。図1を見て下さい。人間は、化石燃料を大量に使うことで、地表において化石燃料のエントロピーが加わります(143を超える)。化石燃料が有する物エントロピー(=低エントロピーで高エネルギー)が熱機関で熱エントロピー(=高エントロピーで低エネルギー)に変化します。入力側では、その差分のエントロピーが増えます。エントロピー廃棄の出力側は、増えた化石燃料のエントロピーも含めて宇宙空間に捨てなければなりません。しかし、温室効果ガスの影響もあり、気象エンジンの能力が低下し大気から宇宙空間への熱放射能力が下がります。(70未満)槌田敦は、 「エントロピーは、単離しては存在せず、熱か物に付着して存存在する」 としています。熱エネルギーに付着したエントロピーは蓄積され、地球温暖化になります。

 地球の気温は、これからどうなるのか? IPCC第5次評価報告書では、(1)低位安定化シナリオ、(2)中位安定化シナリオ、(3)高位安定化シナリオ、(4)高位参照シナリオの4つのシナリオで気温のシミュレーレーションをしています。この内、(1)と(4)の二酸化炭素濃度は、2100年までに(1)低位安定化シナリオで約421ppm、(4)高位参照シナリオで約670ppmを予想しています。

 

                

                           図2:1950年から2100年までの観測と予測の気温変化

                                    出典元:全国地球温暖化防止活動推進センターのウェブ

 

図2に、(1)低位安定化シナリオと(4)高位参照シナリオの1950年から2100年までの観測と予想の気温変化を示します。(1)低位安定化シナリオ(RCP2.6)では、地球の平均気温の上昇が上振れしても、産業革命前から2度C未満に抑えることができます。温室効果ガスの排出量を現状のままにする高位参照シナリオ(RCP8.5)では、世界の平均気温が21世紀を通じて上昇し続け、最大4.8度C(ブレあり)にもなります。既に、1880~2017年までに世界の平均気温は1.1度C上昇しており、残された気温上昇の余地は少ないです。

 

 遠大なパリ協定

 地球温暖化をもたらす温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、オゾン、一酸化二窒素などがあります。温室効果ガスの累積総排出量と世界の平均気温の上昇は、おおむね線形関係にあります。一度排出された温室効果ガスは、減らす手段がなく現状の濃度を保つことだけです。過去の温室効果ガスの累積総排出量と二酸化炭素以外の温室効果ガスを考慮すると、人間に残された二酸化炭素排出量の余地は少ししかありません。それでは、人間に残された執行猶予期間を計算します。なお、排出する二酸化炭素量を3.67で割れば、炭素量換算になります。

 

 ① 低位安定化シナリオの累積総排出量は、1兆トンが上限です。ここから、二酸化炭素以外の

   温室効果ガス分を引くと、二酸化炭素の排出量は炭素量換算で7900億トンが上限になり

        ます。

 ② 1870~2011年までに排出した二酸化炭素を、炭素量換算すると5150億トン排出

         しており、残りの二酸化炭素を炭素量換算すると 7900億トン-5150億トン=

         2750億トン です。

 ③ 2012年に317億トン、2013年に322億トン、2014年に324億トン、

        2015年に321億トン、2016年に330億トンの二酸化炭素を排出しており

         炭素量換算すると

   (317+322+324+321+330)÷3.67≒440億トン

 ④ 残された二酸化炭素排出量を炭素量換算すると 2750億トン-440億トン=2310

         億トンです。 仮に、2017年以降も2016年と同じ量の二酸化炭素を排出すれば、

         単純に計算して

   2310億トン ÷ (330億トン÷3.67)≒ 25年 つまり、2041年に上限へ

         達します。

 

 「パリ協定」 とは、2015年12月にCOP21(国際気候変動枠組条約21回締約国会議)で採択され、2016年11月に正式に発効となった、地球温暖化対策のための新しい国際協定です。そのパリ協定とは、IPCC第5次評価報告書の低位安定化シナリオを踏まえて、 「地球の平均気温の上昇を産業革命前から2度C未満に抑える」 自主的な国際協定です。ゆえに、パリ協定には強制力がなく、各国が温室効果ガスの削減目標を掲げて、その達成に向けて努力します。そして、5年ごとに目標を見直し、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする遠大な取り組みです。つまり、パリ協定が世界で採掘される石炭や石油などに消費期限を設けたことになります。先に示した試算では、現在のペースで化石燃料を使い続ければ、25年後の2041年に上限に達します。上限を過ぎた化石燃料は、採掘しても使えないため、全くの無価値となります。パリ協定前までは、化石燃料の枯渇を問題にしていましたが、パリ協定後は枯渇前に化石燃料が使えなくなるわけで、原発(付記1を参照)を含めた発電及び需要場所での熱・燃料(例:ガソリン・軽油など)のエネルギー構造に激変が予想できます。

 

 



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