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ガイ編7

 オレは、眠かったけれども、さっきの『歓迎の宴』というものを不思議に思っていた。ガイが言う、オレのような『浮浪者』に、この村の人はやけに優しい。なぜ?

 

「良き労働者になるからじゃ」

 女村長の声がすぐそばでする。
「労働者ですか?」

 

「そうじゃ。この村には、若いもんが少ない。特に力が強くて、頭の切れる、丈夫な若者が不足しているんじゃ」
 黄色い淡い光の中で、さっきの宴会をなんとなく頭に描く。

「へえ、それで?」

 

「なぜ、この村に若いもんが少ないか、わかるかの?」
 頭がぼんやりしていて、なかなか考えられないし、眠い。
「わかりません」

 

「この村にいては、出世が望めないからじゃよ。こんな田舎村には、そう高い給料のもらえる仕事など無い。だから、強い者や頭の切れる者はこの村を捨て、大きな城塞都市へ行って、出世するんじゃ」
「そうですか」
 さっきの宴会の飲み物には、毒でも入っていたのだろうか? しかし、悪い気分はしない。甘い、毒。

 

 女村長は不思議に微笑んで、続けた。
「しかし、東ザータにも若い労働力が必要なんじゃよ。たとえ、外人であっても。若くて力のある者、頭の切れる者であれば、外人でも歓迎じゃ。そして、この村で精一杯働いてもらうために、宴を開くのじゃ」
 なるほど、と思いながら聞いていた。『外人』とは? 浮浪者の事か。

 

「それに、外人はどうせ行き場の無い者たちばかりじゃ。この村で年老いるまで、働いてくれる」
「外人は、行き場が無いのですか?」

 

「そうじゃ。ディザータ王国は大都市になるほど、外人に対する差別があっての。特に首都プルミア市で外人が出世する可能性は、万にひとつも無いと言えよう。運良く、ここは国境に近いし、どうせ出世できそうにもない外人が、たくさん流れて来る。理由も、国を追われたか、シールズ帝国とザラム王国の戦争か何かじゃ。帰れるはずも無く、ここにとどまってくれるのじゃ。ありがたい事よ。中には、有能な者もおる。ほほ」

 

 白く濁った光の午後。もう少しで眠ってしまいそうだ。眠ってしまわないために、女村長と目を合わせる。
「外人が歓迎される、という理由はわかりました」
「そうかの。運命に反して、強い目をしておるな、お前は」

 

 女村長が、口元にシワシワの手を持っていく。太い指。肉がふくらんでいる。

「『運命に反して』とは?」

「ふふ、お前は、ずっと塔に閉じこめられておったんじゃろ、もう忘れたかの?」

 

 女村長は言葉を切って、急に真面目な表情を作った。

「そして、ここからは、わたしの伝えたい事だ」
「そうですか」
 女村長が、目を少し強くした。

 

「キャメル、お前はまだ若いが、他の皆と同じように、五十年生きられるとは思わない方が良い」
 オレは頭の下で腕を組んでいた。そうしないと、寝てしまいそうだったから。しかし、今の一言は、さすがに効いた。
「なぜ?」

 
「人はいつ死ぬかもわからぬ。お前だけではないがの。われわれは、大自然のような不滅の生き物ではない。だが、お前は特に心にとどめておけ。やりたい事があったら、明日にするな。今すぐやる事じゃ。わかったかの?」
「はい」

 女村長はテントをつかんだ。

「若者よ、また会おうぞ」

 

 

  

 

 意識がとろんとしていなかったら、オレはもっとまともな質問ができたのにな、と思う。何か、何を言おうにも思いつかない。考えてはいても、うまく表現はできない。とても不器用なオレだ。

 オレは、五十年生きられない? ――あの女村長も、世話係のオヤジと同じ、ウソつきだろう。会ったばかりで、そんな事がわかるものか。

 

 気がついたら、テントは赤くなり始めていた。きっと今日も、夕日が沈むのだろう。オレは、塔からこの世界へ突然落とされた浮浪者。見つけたいものを、必死で探している。そんな迷子のような自分に、気がついたのだ。

 

 とりあえず、世界が黒くなる前に、テントを離れ、ガイの家に急いだ。オレの家は、もう塔ではない。しかし、ガイの家はガイのものだ。オレは、どこへ行ったらいいのだろう。ここで、何をしたらいいのだろう?


この本の内容は以上です。


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