閉じる


<<最初から読む

14 / 36ページ

11.新入社員と営業時代

11.新入社員と営業時代

 

  昭和53年新卒で入社した最初の企業では、営業職として東京、福岡、北九州、大分、千葉と約11年間の勤務をしてきました。トイレタリー製品の製造・販売をする企業でした。主たる仕事内容は、代理店および量販店を中心とした営業活動をおこなうことでした。特にこの企業の特徴は、重厚長大企業である親会社の影響を受けているせいか、目標販売数量、販売促進費あるいはマーケティングといった機能に関して本社が主導権をもっている典型的な本社ダウン型企業でした。

当然営業活動は、本社が決定したエリア別、製品別販売目標数量を販売目標として与えられて販売活動をするという活動形態でした。また、販売促進費についても本社が決めた範囲内で営業活動をやるということが当り前でした。

事業計画を作るためのP/L、B/Sといった知識も必要なく、また販売した製品の請求に関しても大半が銀行振込ですから、手形や小切手、あるいは支払遅延といった要素が非常に少なく、営業職としては、販売目標数量を販売予算内で販売すことが主たる仕事でした。後は、代理店の仕入担当者や販売担当者とコミュニケーションをとりながら自社製品をいかに販売するかが営業担当者の役目でもありました。量販店の商談においては、ルートセールスとしての販売システムが確立していましたから、新規取引先の開拓といった社員の独自性を必要とする活動形態もほとんどなかったといっていいでしょう。

私自身も、このようなルートセールス中心の仕事を各エリアでおこなってきました。

私が退職した後、この企業は親会社どうしが合併をすることになり、子会社に関しても親会社同様、子会社どうしが合併することになりました。まさに成熟産業の宿命のような合併であり、これにより企業規模の拡大と安定性を確保したようです。

以上のような内容を書いてみますと、なんだか少しも勉強することがない無価値な仕事ではないかと思われるでしょうが、実は、営業の仕事には多くの学ぶべき要素があります。今日コミュニケーション能力ができたことも、また市場分析をおこなえる力がついたこと、あるいは得意先を選別していく能力をもったことなど、意外に他の仕事でも、総務や経理などの仕事でも活用することができるものです。このような様々な能力を確立できたのも営業職を経験したからだ、と確信しています。

  私が、この会社で最初に配属されたのは東京営業所でした。全国の営業所の中で最も販売実績をもつところです。しかも本社部門と同じビルに入居していたためか、妙な緊張感がありました。新入社員として入社して3年間東京営業所で勤務したところで、初めて福岡営業所への転勤発令をもらうことになります。

福岡営業所に赴任して最初に感じたことは、ここも東京営業所と同じように月末集中型の販売、言葉を変えれば、問屋押込型の販売が主流だ、という現実でした。押込型販売は、いうまでもなく実需がないのに製品を販売するわけですから、多くの問題点を発生させます。さらに営業担当者のプレッシャーも相当なものです。

 

押込み販売の問題点

第1 押込時に過剰な販促費等が必要になる。

第2 問屋側でも販売先がないのに在庫負担を背負う。

第3 問屋とって過剰な資金負担が発生する。

第4 翌月過剰な在庫を意識しながら販売活動をすることになる。

 

  結論から話をすると、前記の対応を受け入れてきた多くの問屋が倒産しています。

とは言ったものの、自分の販売目標は達成しなければなりません。矛盾を感じながらも同様の営業活動を毎月おこなっていました。しかし、一方で何とかしてこの現実を変える事ができないか、とも考えていました。転勤してきたばかりですからすぐに市場の状況が理解できるわけではありません。取りあえず福岡市内の量販店や小売店を訪問しては、競合他社を含む市場の各種デーを収集しながら、自社製品の市場におけるポジショニングを確かめることからはじめました。データも少しではたいして役に立ちませんが、数が集まると一定の整合性が見えてきます。各社のシェア、販売価格、流通経路、納入価格、概算の販売数量、小売段階の商品評価、各社の評価、問屋の評価等々。担当した代理店は、主力代理店でありながら、押込をガンとして受け入れない強さがありました。やむを得ず、代理店と取引がある地場スーパーに目をつけて足を運ぶことにしました。しかし、そこは競合他社が主力製品となっており、一筋縄ではいかない雰囲気。とにかくこのスーパーの特売チラシや問屋情報、このスーパーの売場担当者からの情報収集、また直接バイヤーから情報を収集することにしました。数ヶ月かけて集めた情報は、納入価格は非常に安いが販売数量も桁違いに大きいということ、また当時出店攻勢をかけているので将来地域一番店になる要素があることなどがわかってきました。代理店と協議しながら、先ず、出店時のオープン協賛からはじめることにしました。オープン協賛とはスーパーの新規出店時に、特別予算を申請して通常よりも一段と安い価格、所謂、目玉価格で販売することです。その他、オープン時に、商品の品出しの手伝いをやったりしながら、バイヤーとコミュニケーションができるまで徹底的におこないます。

まぁ~、日本的といえば日本的ですね!現在でも新規出店時には、各メーカーや問屋各社は借り出されているようです。

  このように製品を取り巻く環境を十分に把握した上で、自社の強み、製品の強み、販売ルートの強み、担当者としての自らの強みを認識して、他社の弱いところを徹底的に攻めていきます。勿論、自社を取り巻く弱みも把握しておくことが必要です。競合他社と自社の置かれた立場を相対的に比較しながら、自社の弱みを最小限にして自社の強みを最大限に活かして販売攻勢をかけていきます。

  自分なりの目標に近づいていましたが、押込型を変革するには次に担当する北九州地域の営業活動を待たなければなりませんでした。北九州もはじめての地域ですから、先ずは地域のデータを集めます。福岡と違ったのは、比較的中堅クラスの量販店が多く、全体的な数字を維持しておかないと販売目標を落とす、という危険があることでした。とにかく取引先企業の過去の販売実績データと自分で集めたデータから販売プログラムを考えていきます。目標数量、重点販売店、重点販売月、新規開拓先と販売ルート等々。販売目標は、基本的に1年間から月別に展開します。但し、実際は、販売の状況をみながら四半期ごとに目標数字との整合性をとりながら年間の目標に近づける方法をとります。できるかぎり各量販店と年間販売契約をおこない、販売のスケジュール化を推進することなどが重要です。それでも他社の納入価格でだしぬっかれることもありますから、毎月の訪問で問題点と販売施策を検討しておくなど、きめこまかな対策が必要です。それとともに販売数量がすくない小売店に対しても可能な限り対応して、毎月の基礎数字を固めておくなどの配慮が必要になります。

実際に押込をやらずに販売目標を達成することができたのは、入社から8年が経っていました。このように、現実の販売のやり方を改革することは、言うは安く行うは難しです。また、担当者個人でやるには、あまりに多くの課題があります。企業の販売姿勢や販売システムの抜本的改革をやらない限り、経理処理などの点で根本的な問題を発生させるでしょう。しかも企業決算を正しくおこなう前提を失い、コーポレート・ガバナンスや適法性の点で企業存続の基盤を失いかねないほどの問題が発生することになります。

他方、当時新規展開が著しいコンビニエンスストアへの製品定番化ができないか、と思案していました。

新入社員として入社した会社は、創業25年が過ぎ製品は市場において成熟商品として十分な位置づけがされていました。製品自体、商品としての認知度がありますから営業活動上新しく説明する必要性もなく、また流通経路も確立されていましたのでいわゆるルートセールスそのものでした。但し、スーパーの特売商品の一つとされ(目玉商品)、価格交渉は極端に厳しいものがありました。

何とか新規に販売するところがないか、とひとりで思案していました。そんなとき福岡で担当していた代理店が、当時店舗展開をはじめた大手コンビニエンスストアと取引をおこなっていました。このコンビニエンスストアの本部は東京にあり、マーケットシェアの関係で競合他社製品が定番商品化さていました。コンビニエンスストアの戦術としては、

当然の帰結です。このような現実の中にあって、自社製品の定番化を東京営業所の担当者に確認してもらいましたが返ってくる返事は、当社製品の定番化は困難だということだけでした。

九州地区の場合、私が所属していた企業の製品のほうが競合他社製品のマーケットシェアよりも高く、定番化はコンビニエンスストアにとってメリットがあると考えていました。このコンビニエンスストアの九州地域本部を訪問してバイヤーと商談を重ねましたが、直ぐに定番化するのは難しい状況でした。但し、このコンビニエンスストアの場合、データを重視した商品仕入をしてくれることが唯一の望みでしたね。

ともかく私は、継続的にシェアを調査することにしました。それとともに各店舗を訪問して、本来は厳禁ですが、商品陳列棚に空きスペースがあるかどうかを確認しながら、数ヶ月間かけて可能性を探っていました。

これらの調査報告書をもって再度地域本部を訪問して、バイヤーに現時点での可能性を話してみたところ、次のような提案がありました。商品の発注単位の変更(ケース単位では数が多すぎる)が可能であれば、地域定番化を推進してみるという回答でした。ある製品では、通常1ケースに40個の商品が梱包されていますが、その半分の20個単位で納品が可能であれば検討する、という提案です。さて、導入できる前提はできあがりましたが、発注単位の問題が残ります。問屋にケース半分の商品を手作業で小分けしてもらい出荷依頼をするということでは、コスト高は目にみえています。当然、このような出荷作業工数の増加というコスト高を前提にした依頼であれば、問屋側の承諾は非常に難しいと言わざるを得ません。一難去って、また一難です。なにか可能性はないのか、と模索する日々です。

そんなある日、東京営業所時代に販売していた百貨店向け贈答用のハーフケースの存在が頭をよぎりました。これはいけるかも知れない。

早速、本社営業部に前記事情を説明したうえで、コンビニ向けに生産ができないか、と交渉を重ねました。2~3ヶ月間かかりましたが、本社のOKをもらい出荷体制を確立することができました。目をつけてから1年半くらいが経っていましたが、本来の目的を達成することができました。そこには、いくつかの幸運もありました。

第一に、当時、このコンビニエンスストアのバイヤーが地場スーパーから転職をされた方であり、自社製品に理解があったこと。第二には、自社にこのようなハーフケースが存在していたこと。第三に、成熟市場といわれていましたが、既成概念にとらわれずいろいろな視点で市場をながめていたことです。さらに仕事の達成には、いろいろな関係者の協力があってはじめて達成できるものです。

  ひとつの仕事の達成には、複数の企業やそれにかかわる人達などの存在があります。企業活動の前提はこのことが基本になり、さらにこの関係性を理解することが重要になります。

この会社で、疑問に思っていたことに前記押込み販売と販売促進費用の曖昧な運用がありました。これは、どういうことかというと。各営業所における各製品に対する販売促進費用があります。具体的には、製品1個当たり、いくらという金額を指示されます。当然1個当たりこの販売促進費用以内で販売ができれば、何も問題がありません。ところが製品の性質上、非常に厳しい価格競争にさらされています。簡単に予算内で販売できるわけがありません。結果として販売先に販売促進費用が借金として残ることになります。上司の中には、非常に多額の販売促進費用が残り退職を余儀なくされた方達もおられます。どうもこのような販売形態にも非常の多くの課題があるように思われました。

どうしても販売部門で販売計画を立てるといった機能がありませんでしたし、本社ダウンで計画される販売目標ですから、この当時においても現場サイドの販売数量、販促費用、エリア別の他者との競合関係など会社全体で把握するという企業システムには程遠い状況でした。とても企業活動の現場から経営目標を設定することなど不可能に近いと思われました。

さらにこの時期、大手コンサルタントを導入して企業活動全般の見直しを実施してきました。この結果も至って単純なものです。自社の製造工場に近く、販売シェアが高い東京地域に営業活動の重点をおくというもです。この施策のお蔭で、福岡から千葉への転勤が可能になったのはなんとも皮肉な結果といわざるを得ませんが、私にとってはチャンスとチャレンジ精神を発揮できる舞台をもらうことができたとも言えます。

退職後数年を経て親会社どうしの合併を受けて、子会社であるこの会社も合併で消えてしまうことになりました。

残念ですが、経営の結果としては致し方ない結果だと思います。あまりに市場と乖離した経営活動の延長線からは当然の帰結だと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


14
最終更新日 : 2010-10-18 08:13:55

12.ソニー流事業の進め方

12.ソニー流事業の進め方

 

私が、ソニーシステムサービス株式会社に入社してもっとも驚いたことは、担当者レベルで仕事を考える、ということでした。

良い例が、事業計画です。各部門が主体性をもってやるべきテーマを決めて、さらに売上高、経費といった予算を決定します。これまでの与えられた目標数字に慣れきっていた私にはカルチャーショックそのものでした。上司から「P/L、B/Sはわかるか」と質問されて、これもまた当然ですが「わかりません」というしかありませんでした。上司が「やっていればその内わかる」と言ってくれたことが、唯一の救いだったでしょうか。企業によってこれほどまでに仕事のやり方が違うのか、と心底驚きを隠せませんでした。

1年間の企業活動をどのようにおこなうか、誰が決定するのか。事業年度の企業活動の決定権者が誰であるのかということです。現在のように経済環境の変化が大きな時代においては、マーケットサイズが小さくなりしかもお客様が抱える課題をいかに解決することができるかというソリューション型のビジネスが求められており、事業活動の展開そのものを現場主導でおこなうことが必要になっています。

これまでの日本の経済成長のように毎年マーケットサイズが大きくなるような、いわゆる右肩上がりの経済成長が可能な時代では、本社ダウン型の事業計画の策定をおこなうことができるだけの前提があり、むしろ本社で一元的に事業活動を検討し、年間の事業目標を数字に置きかえて事業計画を確定するほうが効率的な時代でもありました。また、市場を含む独自性や創造を鼓舞するよりも横並びと前例主義の方がより低いコストでより大きな市場を獲得できたのですから当然の手法だったと考えられます。

一方、ソニーはそんな時代の中にあって、「人のまねをしない」とうソニー独自の企業運営を前提に企業活動を展開しています。このことは取りも直さず1960年代の高度成長期に入る以前、1950年代盛田さんが単身米国に行かれたことからはじまっているようにも思われます。

即ち大手家電メーカーと同じ土俵で戦っても勝ち目がない、ソニー独自の製品や企業運営を築き上げていかなければこれら多くの大企業に勝てるわけがないという企業存亡の中から自ら単身米国にいかれた行動力があったればこそソニースタイルという独自性の高い企業運営や世界に冠たるソニーブランドの確立できた大きな理由だと考えています。

企業の事業活動をどのようにして展開するのか。ソニーらしさは、どのようにすればできるのか。私が見たソニーの事業活動の特徴は、間違いなく現場主義です。社長の小林さん自らが現場を歩く、現場の社員達とよく話をする。現場サイドの意見をよく聞いている。ちなみに昔は、井深さんや盛田さんをはじめみんながなっぱ服を着ていたので、ある時ガスの検針をやっている方と間違えられたりとユニークな話には事欠きません。

話が横道にそれましたが、新規投資の対応などもこのような企業活動の中から随時展開できる柔軟性を兼ね備えた柔構造の組織システムをもっています。

おそらく事業計画の策定もこのような現場主義の流れの中から自然にできあがってきたものではないかと想像できます。

むしろソニーらしさを生み出すことができる可能性とは、現場、もっと深いところでは、より本質的なところのいわゆる「人」の可能性に源泉を置いている企業だからだと思います。もっともお客様に近いところへ権限を委譲する、否権限委譲の意識すらないのではないかと考えられます。物作りの楽しさ、それもお客様と同じレベルで楽しめる組織、それこそがソニーなのです。

ソニーとは、お客様あっての現場であり、そこに事業展開をやらせていくという基本的スタンスがあります。必ずしも効率的な方法ではないと思います。無駄な時間を費やすことも多々あります。遠回りをしているように思えることもあります。投資の判断が甘くなる場合もあるでしょう。しかしお客様と楽しさを分かち合う場としての「現場」のもつ意味の大きさは無駄なことを止揚するだけの創造性と人間の未来を切り開くというソニーらしい夢があるからだと思います。

ところで実際の事業計画はどのようにやっているのでしょうか。

次年度の事業計画の基礎資料作りを企画部門や経理部門、総務部門が中心になっておこなっていきます。大体、前年度の11月頃から基礎資料を作っていきます。これらの部門で作る基礎資料は、共通費用といわれるものです。

総務部門で作成する資料には、OA機器などのリース費用、営業活動で使用する車両のリース料、建物や備品などに付保する火災、あるいは動産保険などの保険料、建物の賃借料、電気・水道・ガスなどの料金等の共通費用を部門別一覧とします。

人事部門では、職制別の人件費予算を算出します。こちらは、次年度の昇給の概算計算をおこない職制別、いわゆる一般、主任、課長、部長といった役職別月次平均賃金を出すことになります。

各部門で事業計画を作成する際には、それぞれの役職の人員数を入力すると自動計算をおこないP/L上に自動計算されます。また、社会保険料等の会社負担分を自動計算するようになっていますので、各部門で入力するのは人員数だけになります。さらに賞与の毎月度の引当金の基礎資料を作成します。

経理部門では、固定資産の月次減価償却費用の一覧を作成しています。その他各部門が入力時に使用するフォーマットこれは表計算のエクセルを利用して基礎データを入力すようにしてありました。入力作業後、事業計画の決定後には、このフロッピーディスクを利用して予算実績比較表にデータを取り込み次年度の毎月度の予算資料になります。次年度には毎月度の実績と予算の比較をするための予算実績比較表を出力することになります。

次年度の共通費用の作成が終わると、各部門に事業計画作成のためのスケジュールが送付されることになります。

殆どすべての事業活動の権限が委譲されていますので、各部門の責任者の腕の見せ所になります。また、日常業務をやりながら事業計画を策定するわけですからかなりのハードワークになります。自己責任で実行できますが、それだけに厳しく部門運営能力が問われることになります。まさに自由と自己責任をつらぬく姿勢が要求されます。私が経験した最初の企業のように本社ダウンの計画を実施するという他力本願な目標ではないわけですから自分の責任で計画した目標を実行することで成果を出すことが必要になります。文句言う相手はいません。本当に自分の能力との格闘です。

基礎資料をもらった各部門でおこなう事業計画の作業は、先ず部門の基本方針の策定をします。基本方針は、部門活動の将来展望を明確にすることが必要になります。どのような展望をもって部門活動をおこなうのかという行動の指針となります。因みに、ある年度の採用活動に関する基本方針は、21世紀のシステムサービスを担える質的採用の実施、学生・教授に対する企業認識を変革できる採用活動の実施、次代を担う柔軟性と創造性を発揮できる技術のソニーたる人材育成の実施、基礎的研修制度を確立して先端技術に対応できるエンジニアの育成、各部門と一体感ある研修および採用活動の実施というような基本方針を作成していました。

このような方針を受ける形で、半期の重点目標を設定します。会社パンフレットの作成、エンジニア懇親会の開催、新入社員向けエンジニア基礎研修の新設等の目標を設定します。目標が決まると重点目標の実行計画を作成します。これはスケジュール作成とやるべき重点項目の内容を検討しながら具体的な実施項目を決定していきます。これら実行計画書に基き具体的に実施していきます。最後にこれら事業計画を実施するための投資計画を検討して、投資内容を決定します。投資には、固定資産として投資するケースとリース投資をする場合があり、このような投資の判断基準は経理部門と調整をおこないながら最終決定をしていきます。

事業計画の策定も書いてみると簡単のようですが、各項目の具体的な実施項目をつめていく段階では各部門の責任者と十分な打合せと協議をおこない、双方納得することが重要になります。単純に計画を策定すれば、すべての目標計画が実行されるわけではありません。計画はあくまで計画に過ぎません。実行を担保するのは、各部門の責任者と事業計画の実行に関する納得と責任を分担することができたときです。計画を作ることは、誰にもできることでしょう。しかし実行して企業の中で成果を生み出すことができてはじめて事業計画を策定する意味があるのです。

ソニーシステムサービスの場合、事業計画のスタートにあたっては課長職以上のメンバー全員が出席して各部門別の事業計画を発表する機会を設けていました。全メンバーに対して発表するのですから経営トップに話すよりも大変だと思います。計画の具体性の有・無は現場の担当者の方が理解できますからね。結構シビアに見ているもんです。トップは、特に投資や新規事業、あるいは全社にまたがる経営課題に対して、トップの責任で判断をおこない速やかに全社的立場から具体的な企業活動をおこなえるよう決定していきます。さらに中間報告会で事業計画の進捗状況の報告と各部門の業務の課題と修正をおこないます。特に、投資の判断はトップの判断が必要なケースが多いのでこの機会を利用することで課題の検討と実施あるいは中止の判断をおこなうことになります。とにかく課題や問題点に関する検討は十分なくらい徹底的におこないます。また、決定までのプロセスはトップが参加して実施するのでいたって早い決定になります。現場の営業活動もオープンな形で検討をおこないます。悪い情報も良い情報もすべてオープンです。ここから競争戦略が作られていきます。最後に半期毎のレビューを徹底的におこないます。これもまた、各部門の責任者が各部門の実績を発表することになります。上手くいった部門、上手くいかなかった部門、すべて事実に基づく結果報告をおこないます。そこから次期目標の設定あるいは前記目標の未達成部分をどのような形で展開するのかといった次期の計画を策定することになります。大幅な下方修正をやる場合もあれば、上方修正することもあります。これらの修正も半期の業務実績に基づいて実施することになります。事業計画の策定だけを義務的にやっていれば、中間発表、レビューなどの機会で本質的な部門の課題や問題点など把握することができないでしょう。厳しい日常業務の積み重ねの上に事業計画策定、実行、課題の把握といった本質的仕事があるのです。この理解なくして事業計画の意味もないと言えます。これがソニー流事業計画の真髄です。

本社スタッフ部門が作る事業計画ではありません。あくまで各部門が主体性をもって策定します。当然ですが、本社部門が策定するよりも厳しい現実があります。先ず、すべての結果から逃げることができません。日常業務の合間を縫って作成するので、時間的に非常に厳しいもがあります。このような現実があって現場主義は成り立っているのです。日本のサラリーマン社会にこの自覚がある社員がどれほど存在しているでしょうか。

自由闊達なソニーですが、自由と自己責任の厳しさも要求されるのです。この現実があって限りない個人と企業の成長があるのです。

楽なだけのところに人間の成長はありません。

 

 

 

 

 

 

 


15
最終更新日 : 2010-10-18 08:14:11

13.部門の仕事を超える人間達

13.部門の仕事を超える人間達

 

私が入社試験を受けたときに、当時は筆記試験、適性検査、性格検査をやっていました。試験の案内が来たときには、ちょっと驚きました。まぁ、こりゃ筆記試験で落ちるな、と思って試験だけは受けに行くことにしました。試験当日、なんだか気になることがあるのです。なにかと言うと、各試験の担当者がそれぞれ違うのです。しかも長髪といったちょっと風変わりなタイプがいるかと思えば、七三の真面目なおじさんがいたり、長髪でもかなり年齢がいっている人がいたりと、こんなに人事の担当者がいるわけがないし、どう見ても人事部門の人間と思えないのです。まぁ、ソニーだからこんなのもいるのか、やっぱり変った会社だなぁ、と心底思いました。

入社後理解できたことですが、一人を除いてエンジニアでした。人手がないので、試験官を頼んでおいて、人事担当者は採点をやっていたのでした。その人事担当者、先程書いた中の長髪の一人でした。これまた驚きの驚き。

入社すれば結構この手のユニークなタイプがいますので、その内慣れますが、入社直後は異様な雰囲気です。

現在、ベンチャーに在籍していますが、今の若い人達の方が身奇麗にしていますし、長髪は非常に少ないですね。

ソニーの場合、若い人達よりも年配者にこのような個性派が多いのにも驚きます。あまりうるさく言わない企業です。このへんもカルチャーショックの一つになりますかね。

当時、どうしてこのような応援をもらわなければならなかったのか。理由は簡単です。人事・総務担当者一人しかいなかったからです。それでちょっと手伝ってよ、てな感じです。

 この会社の営業開始が平成2年4月1日でしたので、間接部門の人間がいない、だから担当者を募集しているのですが。採用に限らず、ソニーシステムサービスを作り上げるために集まった中堅クラスのメンバー達がどのような部門を作っていくのかということを考えて、実戦的に業務の展開をおこなっていました。

最初から部門があり、仕事ありなどと言うことはないのです。中堅クラスのメンバー達がそれぞれ自分達で仕事を作っているのです。また、自分達が作って仕事に必要な人材の採用も、人事任せにせず自分達も参加して人事担当者といっしょになって採用活動などもおこなっています。まさに社内起業と言えるのです。このへんは、ベンチャー企業の事業展開に通ずる要素が沢山あるように思われます。それぞれの担当者に夢があり、夢の実現のために土曜・日曜にかかわらず自己責任でこれらの仕事をやっています。トップがどうのこうのということは、殆ど感じることはありません。トップの方でもまかせておいたほうが上手くいくと思っているのか、任せっぱなしといった状況です。やっているメンバーは、当時全メンバーが40代です。

  現在のような市場環境の変化が大きな時代にあっても、40代のメンバーに簡単に新しい仕事の展開を任せることができる企業が何社あるでしょうか。だからこそ、今般のベンチャーの起業が増加の一途といった状況になるのだと思われます。特に現在の40代の閉塞感を見るにつけ、30代、20代自らが起業を選択していく動機づけを与えているようなものですね。

今までにない何かができるのではと思う人達にとって、現在、日本企業のシステムの重たさは遺憾ともしがたいものがあるようです。

ソニーは大手企業の中での意思決定が早いといわれていますが、ベンチャーの意思決定の速さにはかなわないと思います。ソニー自身もかってそのようなベンチャーのスピード力と独創性で発展してきた企業なのです。

  ソニーもまた今日のベンチャーに学ぶべき事があるように思えます。時代の流れの中で絶えず、ベンチャースピリッツを注ぎ込む込むことが重要課題だと言えそうです。

このような採用のプロセスを経て、なんとか入社できた私は、総務・人事担当者として3人目のメンバーになりました。ちなみに二人目は、4月に入社した女性の新入社員です。上司を入れて、なんとわずか3名での船出です。前途洋々。今日からパニックでしたが。そんな船出の中で、先ずは採用活動を担当することになるのですが、技術職を採用するにも専門試験を作る、面接時の面接官を依頼するという具合に現場のメンバーにお願いしなければ採用活動そのもが進展しません。当然、このような担当者自身、自分の仕事の立上げをおこなっており、強烈ないそがしさです。その間隙をぬって、依頼しなければなりません。その上、企業組織のシステムでやらせる、いわゆる辞令を出してやらせるなんてことをしない企業ですから、あくまで自分で依頼するしかありません。ルールなんてないのです。自分自身は、相手をどのように口説くかという能力が問われるのです。当然ですが、簡単にOKしてくれません。非組織的、反対に言えば徹底した人間主義の仕事の展開をやらせます。一見すると効率がわるく時間がかかり成果を出しにくいように思えますが、双方が理解でき納得できれば、これほど強力な機能はありません。また、このような方法で仕事をやらせると使命感をもってやる人と給料分、時間分の仕事しかしない人達が明確にわかれます。前者の使命感があるメンバー達が集まってこそ創造的な仕事も可能になります。このような選別も簡単にできることになります。さらに何か、新しい事業展開をやろうとする場合に、いつでも非公式に会って問題点や課題の検討、あるいは事業展開について忌憚ない話あいができます。有形無形の財産になります。

本社移転時のプロジェクトにおいては、電気、通信、情報関係といった知識の習得、図面関係の作成方法など多くのことを短時間で展開することができました。これも入社当時の採用活動における協力関係や人間関係があったればこそできる芸当なのです。この場合も自分の仕事をやりながら協力してくれるのですからこれ以上の喜びはありません。企業展開の上でも、スピードと実行力には申し分なく意義ある事業活動になっていきます。私が経験したどのような企業でもこのようなメンバーの存在があります。ソニーと違うのは、機会を与えているかどうかだけです。大抵の企業は、ほったらかしにしているだけ、このようなメンバーの存在を無視するか、組織にとってマイナスだと思っている伏しがあります。

本当の価値は、このようなメンバーが無報酬で自社の成功のためにチャレンジすることをいとわない人間性を有していることです。これらのメンバーを発見する方法は、自由にチャンスを与えることしかありません。どんなに作り込んだ人事評価制度や目標管理制度などを利用しても発見できるものではないのです。

  ソニーでは、当り前のことを当り前に意図も簡単にやってしまうところに企業としての柔軟性と創発性そのものを内在しており、本当の意味で人間をコアとしたシンプルな組織をもっているのです。

非公式な関係で積み上げられた信頼性が高い人間関係は、ビジネスが厳しい環境にあればあるほど真価を発揮します。企業には、こういう自律的な人間と一見無駄と思われる組織機能の柔軟性が必要なのです。

  組織を超えることができる人材は、企業のより本質的な課題や問題点をつかむことができ全社的な立場から企業活動の進化を促進する役割をもっているのです。徹底的にチャンスを与えることで自己進化をしていきます。特に、その他の条件を心配することはないのです。自分で発見した課題、経営トップからもらう課題でもなんでも良いのです。ただ単にチャンスを与えて結果を求めることが重要です。このタイプの人材は、必ず答えを出します。その繰返しの連続で企業もまた進化していくのです。年齢も関係ありません。年功的な発想そのもがこのような人材を消失させる大きな原因になるのです。個人としてトライ&エラーの徹底的な評価が必要です。しかも人事評価ではないのです。人事部に眠る一律な評価ではないのです。ビジネスの実戦をとおして成果そのものをトップ自らが評価するといった絶対的な評価が必要なのです。

どんなメンバーを揃えて実戦するのか、どのように課題を捉えているのか、どのようなプロセスで課題を分析しているのか。どのような目標を設定しているのか。どのようなプロセスで実行するのか。結果の責任を誰が取るのかといった一連の流れを把握することでビジネスの実践的評価は可能です。これまでの大量採用、相対的評価といった人事部が主体となった評価制度ではこのような人材を発見することなど不可能です。ベンチャーが成長するエネルギーは、まさにこのようなビジネスの実戦的評価が可能だからだと確信できます。大企業でもやろうと思えば簡単にできるのです。これまでの組織運営や制度、あるいは人事機能を抜本的に改革できるかどうかだけです。やるのは経営トップ以外にありません。人材は、ソニーに限らずどのような企業にも必ず存在しています。人材不足を言うなら、むしろベンチャー企業のほうですね。そう思えてなりません。

  このような評価をおこなっていないために、ソニーでも人材の流失があるのではないかと心配です。年齢にかかわらず、人材といわれる人達に常に活躍できる場を提供することが、会社の発展の最短距離なのです。ビジネスの結果は、案外簡単に見えるものです。難しい評価表よりも簡単ではないでしょうか。まぁ、評価できる経営トップが少ないことがもっとも重要な課題ですか。残念ですが、小林さんのような方が少ないということですね。

  みんな仲良く60才定年というのもなんだか変な仕組みです。人事の立場からは公平な人事制度として何も考えることなく、文句も言われず運営できるという最高のシステムです。でもなんだか変だと思うのは、私だけでしょうか。

若い人達にチャンスを与えることは、非常に重要なことは言うまでのありません。その一方、優秀な人材を年齢だけで年功的に退職させていくことは、企業の将来性の点からみても企業成長力を弱め、ひいては企業の存在能力の低下を惹起させてしまうことになるのではないかと考えています。

スタンフォード大学教授  青木昌彦氏は、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス2000年1月号で『情報技術革命の一つの重要な帰結は、デジタル化しえない「暗黙知」が依然として、いや、いままで以上に経済価値をもつ可能性である。シリコンバレーにおけるベンチャー・キャピタリストのガバナンス上の役割も、定型化されない暗黙知、つまり新しい知識創造の可能性を判断することにかかわっている。こう見ると「人は財産なり」という日本企業の伝統的価値観も簡単に捨てるべきではないと考えられる。人的資産のを重視すること自体が間違っているのではなく、情報技術革命によって価値ある人的資産の構成と正味が激しく変わりつつあるということなのだ』と述べられています。

大手企業の人材集積能力に対抗するなどということは、いかに勢いがあるベンチャー企業でも到底太刀打ちできるものではありません。他方、人材の活用といった側面では、人がいないだけにひとりひとりの実戦力=企業力となります。人材の活用といった側面では、ひとりひとりが活躍できる舞台はそろっています。大手企業では、人材集積能力を活かして個々の能力発揮に結び付ける人材活用の場の創造が必要でしょう。他方、年功的に会社を去らざるを得ない年功的処遇を継続するというような人材の無駄遣いを是認するような人事制度とそろそろお別れする時期ではないかと考えています。

  このような制度がいつまでも続くことがないように、ベンチャー企業などとの交流を通じて人材の真の活用できるような仕組みを考えていく必要があるのではないでしょうか。

  日本社会の欠点でもある閉鎖性を打破するためには、大手企業とベンチャー企業が交流できる場を創設していきたいものです。21世紀の日本企業の創造的発展のためには、このような交流をおこなえることが重要だと考えています。こんなチャレンジ制度をもつことがこれからの人事に求められる大きな要素だと考えています。自分の企業を客観的、ないしは相対的に理解していくためにも非常に実戦的で意味あるものになると思っています。

 

 

 


16
最終更新日 : 2010-10-18 08:14:27

14.コーポレート・ガバナンス

14.コーポレート・ガバナンス

 

  現在コーポレート・ガバナンスに関する議論が盛んにおこなわれています。多くの経済誌の新年号等で特集が組まれていますし、これからの企業経営を考えていく上で非常に重要な意味があります。

  また、日本経済新聞2000年1月23日付には、社会経済生産性本部が1999年春の新入社員を対象に実施したアンケート調査からの結果ですが、会社のためなら不正もやむなしとする新入社員は40%もいると、コメントしています。

  総会屋に対する利益供与に関して、警察当局から度々の要請にも関わらず、いまだ一部の企業から利益供与や交際費の提供など、関係部門の担当者、あるいは取締役の逮捕といった不祥事が発覚しています。

  警察当局の再三の呼びかけに、特に過去の経緯は問わないことを前提に、積極的な情報開示と絶縁への取り組みが継続的に要請されています。

  特に警察当局の要請には、過去の経緯を問わないという画期的な条件に恵まれている中にあっても、今だ、このような経営をおこなう日本企業の本質的体質とは、どのようなものなのでしょうか。

  大体、不祥事が起こると決まっておこなわれる定例行事があります。組織変更、組織改革、担当者の異動などです。どうもこのように部門機能や担当者の変更はおこなうのですが、抜本的に経営能力を高めるための努力をしたり、より本質的な経営システムの改革などは依然として苦手のようです。

  苦手とういよりは、嫌な面の本質的究明をしないといったほうがよいでしょうか。日本人のDNAのなせる業ですかねぇ。()

  一部の人間の突出した行動などとして、事態を収集することで、対外的なイメージだけをすばやく回復させたいというような思いが強くあるよう感じられるます。ちょっと違うんじゃない、と言いたいとろですが、そう思うのは私だけでしょうか?

  これまでの日本企業の経営システムに問題はないのでしょうか?実は、新入社員の不正やむなしということよりも、より本質的な問題があります。なんと言っても、経営のチェックがなされていなかったといっても良いのではないかと思います。さらに経営者の経営能力が問われにくいシステムだったのではないか、と考えています。

  経営能力が問われにくいシステムとは、どういことでしょうか?

神戸大学の加護野忠男教授は、企業統治の根本的な『二重の無責任』の問題として、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス1月号に次のように述べられています。

『日本でもコーポレート・ガバナンス(企業統治)をめぐる議論が活発におこなわれている。この議論で気にかかるのは、企業統治に関するグローバル・スタンダードをいかにして受け入れるべきかというところに議論が集中し、日本企業の国際競争力を高めるための企業統治はどうあるべきかという視点が欠落していることである』、また企業統治に関しては『経営者の任免・牽制・誘導を通じて、健全で活力ある企業経営を生み出すための制度と慣行である適切なリーダーを選び、このリーダーがより良いリーダーシップを発揮できるような条件を整備することが企業統治だと言えるかも知れない』と書いておられます。さらに株式会社という制度の欠点について『株式会社という制度は、企業統治という観点から見ると、多くの欠陥を抱えた制度である。それにもかかわらず、株式会社が現代の資本主義社会で支配的な会社形態となったのは、この欠陥を補って余りある利点が存在するからである。株式会社、特に上場会社における企業統治の最も根本的な問題は、「二重の無責任」にある。つまり、経営者と株主が共に無責任になってしまいがちということだ。経営者は他人の財産を預かるわけであるから、自分自身の財産を運用するときに比べて、真剣さが不足しがちである。株主は、株価と配当にのみ関心を持ち、企業経営にコミットしないという意味で、無責任になりがちである』

  加護野教授が言っておられる経営者の無責任とは、経営者の経営能力の欠如と考えてもいいと思います。

  経営能力の中には、適法性に基き企業の独自性を発揮することで市場経済の中で、自社の企業業績を上げていく能力とともにビジネスをおこなっていく際に必要となる経営者個人の倫理観も含まれています。

  経営トップと言えども、我々と同じ人間です。

 企業業績を上げて、経営職へ登用されたからといって個人として正しい倫理感を有しているかどうかは別の問題であり、別の次元のことなのです。また、どのような人間でも間違いを犯すということは、歴史の多くが証明しています。

  このようなリスクがあるからこそ、適法な企業経営ができるようなシステムをいかにつくるかということが重要になります。

コーポレート・ガバナンスの問題は、まさにここに帰着する問題だと言えそうです。当然ですが、経営者をチェックする仕組みをつくることが必要になります。

  ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス同月号で、オリクッス株式会社社長 宮内義彦氏は、『これまでの日本企業のガバナンスについて振り返ると、その姿形こそ株主総会、取締役会、監査役などが整備されているが、株主の立場から見れば実体は形骸化しており、ときとして経営トップ一人の肩にガバナンスを背負わせる人治主義に陥っていた。しかし、グローバル化が進み、複雑化を極めるビジネス環境では、経営トップただ一人にすべての判断を委ねる人治主義はリスクが大きすぎる。チェック機能をシステムとして備えること、すなわち、法治主義へと転換しなければならない』、また『世界のガバナンスの潮流を見ると、アカウンタビリティ(報告責任)、ディスクロジャー(透明性)、フィディシャリティ(公共性)、議決権行使制度、取締役会の役割と責任などが共通要素として取り上げられている』

宮内義彦氏は、同誌面の中で日本企業におけるガバナンスにおける改革として3点をあげておられます。

第一点は、取締役会の改革です。

  『まず手始めに、取締役会と執行役員の分離を検討すべきである。すなわち、経営に不可欠な意思決定と執行に対する監督機能が十分に果されていなかった。日本企業では取締役会が両機能を兼任することがほとんどであり、取締役会の本当の役割である。』

  この点は、宮内社長も書いておられますが、社外取締役制度やアドバイザリー・ボード制を導入することで経営者自身の経営能力をチェックすることが必要になっています。

  米国企業などの経営経験者の就任がより効果的ですね。実際、数は少ないですが一部の企業では就任しています。

 アドバイザリー・ボード制、こちらも米国企業の経験者をいれて、本格的なチェック機能をもたせている企業が現れました。

  いずれにしても経営トップの経営能力の評価・報酬・進退の進言、経営に対する助言などをおこないます。

第二点は、報酬制度の見直しです。

『健全なガバナンスを構築するためには、マネジャー層の安定した協力が不可欠となるそのためには、株主利益と経営者利益のみならず、従業員利益をも一致させる必要がある。 中略  いずれにしても、生産部門と間接部門、採算部門と非採算部門などの特性に応じた正しい評価制度をつくり上げることを前提として、株主に向かった経営を実現するためにマネジャー層などを巻き込んでいくには、報酬制度について再考しなければならない。』

報酬制度に関しても、多くの日本企業で管理職の年俸制をはじめとして多くの改革が進んでいます。

ソニーのようにジョブサイズ制を採用して、これまでの職能資格制度を基本とした賃金から仕事の大きさに合せた賃金に変化をさせようとしています。マネジャー層の活性化と企業業績の連動、さらに株主価値を上げるためチャレンジだと想像できます。

但し、多くの日本企業では、企業業績の低調さから企業コストの削減のための年俸制度導入をおこなっていると思われる企業もあります。

ソニーやオリックスをはじめとしたコポレート・ガバナンスに根ざした報酬制度の改革を実施できている企業は少数だと言えそうです。

第三点は、経営数字の全社的な共有です。

『収益性を向上させるためには、限られた経営資源を効率的に活用しつつ、常に新たな事業機会を探っていかなければならない。とはいえリスクとチャンスは裏腹で、しかも絶えず変化している。だからこそ、資本を各事業に最も高率的に割り当ててマネジメントすることが不可欠となる。同時に、株主利益と経営者をはじめとする従業員の成果を一致させるためにも、社内で経営数値を共有することが必要である。』

  自社の事業活動の結果としての数字をオープンにすることで、自分自身で経営数字を認識することができさらに事業活動の判断をすることで、自分のポジションにおける客観的な状況を把握することができます。それがよりチャレンジングな活動を可能にするのです。

最後に、日本独自のガバナンスを模索して確立することが必要です。

コーポレート・ガバナンスのあり方関して、宮内社長は『ガバナンスの確立に向けた一連の試みの出発点となるのは、実は「株主とはだれか」という問いである。一口に株主と言っても、その種類はさまざまである。なかには、短期的な株価の値上がりのみを追求するような株主もいる。たとえ株主資本主義とはいえ、企業は存在し続けていかなくてはならず、ただ単に、どんな株主の要求にも応じていればよい、というものではない。』

コーポレート・ガバンナンスに関しては、前掲のスタンフォード大学の青木教授は同誌面の中で『企業内部の人的資産を有効利用するためには、経営者と従業員の馴れ合いを規制する第三者的チェックの仕組みを工夫することが必要となる。そうした観点から資本市場による規律の役割も重要である。コーポレート・ガバナンスには一斉に強制されうるような妙薬はない。よりよい仕組みを求めての実験は、21世紀においても経済界の主要なアジェンダであり続けるであろう。』

  オリックスの宮内社長は、これからはガバナンスに優れた企業が有利になると、語っておられます。このことは、前記のとおり経営の透明性が高くなり、人治主義から法治主義経営への転換を意味し、開かれた経営を目指すための当然の帰結だからだと思います。

  新入社員の不正やむなしではなく、経営トップ自らが経営能力を高め自社の経営の在り方を根本から改革できるかどうかにかかっています。適法経営が可能な経営システムをいかにつくることができるかへの挑戦です。

  今後は、このような観点から内部監査システムをつくるなど、各企業の創意工夫により、公共性や透明性、あるいは経営情報の全社的共有といった企業固有のシステムが必ず生まれてきます。このような角度から企業を理解することが非常に重要になります。また、企業間格差もこのような経営システムの差となって広がっていくものと想像されます。

  個々の仕事とともに、このような経営の根幹をなすガバナンスという視点を各個人がしっかりと認識をして勉強しておくことが大切です。

 


17
最終更新日 : 2010-11-11 08:26:04

15.ソニーとガバナンス

15.ソニーとガバナンス

 

現在、ソニーでもコーポレート・ガバナンスに関して多くの改革を急速に展開しています。

  その前に、ソニーに関する経営改革の流れをみておきたいと思います。

  1994年にソニーでは、カンパニー制を導入しています。企業規模の拡大と伴に経営活動の迅速化や効率化を推進していく目的で導入をおこなっています。投資等における決裁権限の大幅な委譲などが実施されています。

ソニーが最初に導入したカンパニー制は、瞬く間に日本企業で導入された経緯があります。しかしその後導入企業を見ていますと、業績を上げている企業もあれば、業績不振に陥っている企業もあります。また、カンパニー制を導入せずとも高い収益性がある企業も存在しています。単に、カンパニー制という仕組みの導入をおこなっても現場における経営活動の抜本的な改革なしに機能することはありません。

ソニーがおこなう経営システムの変更やチャレンジングな数々の挑戦は、それが結果ではなく、いつもはじまりなのです。必ず成功するという確信の元におこなうというよりは、現状のシステムに問題があれば、先ず新しい考え方や仕組みを導入してやってみる。いわば、現状否定から出発しています。また、新しいものにチャレンジしながら、問題点や課題を解決するといったトライ&エラー方式の挑戦なのです。しかも社員達は、全員とは言えませんが、経営トップに近い小林さんなどもそうですが、「またソニー本社がやりやがったな」といいながら果敢に挑戦する姿勢があります。そういう訓練を若い時代から受けているというか、ソニーのDNAというのか、半分は面白がっているようなところもあります。むしろ若い連中や途中入社の我々のほうが度肝を抜かれているような気がします。

まぁ、何事もやってみなくてはわからない、といった哲学を毅然ともっています。このへんもソニーのユニークさのひとつだと思います。

形式ばらず、変化を楽しむ、変化の先にある未来にチャレンジしていくとった柔らかな柔構造の改革です。駄目だったら、元に戻せばいいやぁ、程度の軽い感覚で実行していきます。当然、悲壮感などありません。

なにやら改革そのものが目的となっている日本企業における堅い構造の変革とは、似ても似つかない改革です。問題、OK。課題、OK。あればあったで、気づいた連中がさらに改革すればいいじゃないか、といった現場が主体となったオープンなやり方で実行していきます。

制度改革というととかくご本社様の威光に沿った制度を現場が受け入れて、あくまで本社部門による一貫した変革を目指すというフィックスされた改革を想像するでしょうが、ソニーの改革は、この点最終的な結論などないと考えていたほうがよいでしょう。実戦しながら現状を打破することが目的であり、制度の変更は単なる手段にすぎません。より多くの可能性発見のための挑戦です。

現実に、カンパニー制もその後、1996年には、前年就任した出井社長の登場とともにデジタル技術と通信技術、あるいはネットワーク時代にふさわしい事業展開を推進するためのITカンパニーなどを含む従来の8カンパニーから10カンパニーに変更されています。

カンパニーの独自性が確立するとともにカンパニーだけで自己完結しようとする組織機能が働くことは、自主自律性をもたせて経営スピードを早めより市場に近いところで事業活動がおこなえると同時にソニー全体、いわば企業活動の全体からみた経営スタンスを見失い、カンパニーの中に技術や人材が埋没するといった欠点をも内在しています。

1997年には、このようなカンパニー制の課題とソニーの事業領域の全体活動を強化していく目的で、グループにおける本社機能を強化しています。

このようなチャレンジしながら問題や課題を発見して経営システムの変更や事業活動の修正を適宜できるところにソニーの柔構造の強さがあります。

またかよ、なんて言いながら結構みんなよくやります!

あれだけ大きな企業の割りには、やっている経営システムは驚くほど軽いのです。日本企業には想像できないところではないでしょうか。簡単にまねができないはずです。井深さんや盛田さんが創業期から若い人達を育てあげてきたからこそ、ソニーでは意図も簡単に経営システムの変更が可能ですが、従来からの日本企業では、変更しても自主的に自律した組織運営をできる人材そのものがいないといって言い過ぎではないでしょう。また、本社サイドの過度の干渉のために自律できないといった組織矛盾もあるようです。組織システムを何度変更しても、このような自律した人材と真実権限を委譲できなくては、経営システム改革など夢ではないかと思います。

このような経営活動が子会社を含めて、実戦できるところにソニーの経営システムの真の強さが存在しています。

ベンチャー企業やこれから企業業績を伸ばしていこうとする小企業にとって絶対的に参考になると確信しています。むしろ大企業にとって、ソニー流のやり方はソニーそのものが過度の企業統制をおこなっていないだけに、変革のプロセスにおいては、本質的な意味がまったく違ったものになる危険性があると思われます。このあたりのソニーのマネジメントにおける真実を把握しないで、制度の導入だけを真似しても上手くいかないのではと危惧しています。

ベンチャー企業や小企業にとっては、人材に相当大きな仕事のチャンス与えることができ、また経営システムを簡単に変更するだけの自由度もあります。このような時期からソニー流を学んでおくことには多くの意味と意義があると考えています。

カンパニー制の修正やグループ本社機能の強化と伴に1997年に執行役員制を導入しています。

執行役員制に関して出井社長は、前掲「勝つ経営」城山三郎著 文藝春秋の中で『企業には、競争戦略と成長戦略の二つがあります。競争戦略というは、松下やフィリップスに対してどのよういう競争をしていくかを考えることです。これは執行役員がトップを努めるカンパニー(事業会社)に任せています。成長戦略というのは、ソニー・グループ全体を運営しながら、会社全体としてこっちへいくべきではないかというような将来の基本的な方向性を考えることです。これは本社の9人の取締役の仕事です。』さらに『従来の日本型のボードメンバーは、競争戦略の代表者でした。しかし取締役は本来、会社全体の経営を考えるのが仕事のはず。取締役になったら、この意識改革をすることが大事だと思います。』

現在のソニーの経営システムは、このように成長戦略をソニー全体から見る立場での取締役と競争戦略の立場で事業活動をおこなう執行役員との機能分化をおこなうことを目的にしています。

次に、このような商法上の取締役の経営執行機能に対する目的というよりもソニーの企業活動のより本質的な発展のためという視点でコポレート・ガバナンスの強化をおこなっているようです。

適法な経営をおこなっていくための仕組みづくりや報酬制度の改革、あるいは企業内部の監督のあり方、外部からの経営監督の仕組みづくりなどをおこなっています。

むしろ、以前から内部監査制度など適法経営を推進していく仕組みやシステムは、非常に充実したものがあります。井深さんや盛田さん亡き後、いわゆる創業の時代が終わり多くの経営者を育てあげなくてはなりません。その前提は、なんといっても経営能力がある経営者をいかに育てあげ、次代のソニーを作りあげることができるかにかかっています。急速に経営システムの転換を図っているのも、次代を睨んだ経営戦略の一端だと確信できます。

おそらくこれからもあっと驚くような行動をおこなうでしょうが、進化のために変化ありの企業ですから次々と新たなチャレンジをしていくでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 


18
最終更新日 : 2010-10-18 08:14:59


読者登録

長野修二さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について