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9.突然グループ責任者

9.突然グループ責任者

 

転職後2年が経ちようやく総務の仕事になれてきた私は、前述したとおり新卒者採用をおこなうことになりました。と同時にこれまで一緒にやってきた上司が企画部門へ異動することになりました。当然、新しい上司が来るのだと思っていた私は、「上司はこない」といわれ、またまた唖然。

これまたお前がすべてをやれ、の一言。

グループ責任者として部門をまとめる、いわゆる課長職同様の仕事をしろということです。入社わずか2年ですよ。本当に変っている会社だなぁ、とつくづく思いましたね。

変ってる会社................

この当時、総務課員5名。この人数で総務、人事のすべてをおこなうことになります。

因みにこの当時やっていた仕事の中身は、図4を参考にしてください。


小林さんに、このような異動をどうしてやったんですか、と最近会って当時の話を伺うことができました。

すると小林さんは、簡単だ、上を変えたほうが組織は変る。下の者ばかり変えても組織はかわらない、と話しておられました。言われてみれば確かにそうですね。しかしそれを大胆にやってしまうことができる。若手を本気で育てるための異動!そんなことができる企業が日本に何社あるでしょうか。

また、運営会議では部長や課長同席の中で、自分の意見を好きなだけ言わせてもらいます。勿論、ピントがずれている話をすることもありますが、「もう一度考えてもってこい」の一言です。やっぱしユニーク。この方法、若い人達を育てるのにはもってこいです。上司の苦労もよく理解できるようになります。真の権限委譲は責任感を育てます。

若い人達にとってチャンスをもらって自分自身が成長できれば、その人はまた必ず次の世代を育てようとするでしょう。

育てるときに、上司やトップのサポートがまた必要なのは言うまでもありません。この世代間の循環が企業文化を醸成して、企業活動のより本質的な要素としての人材を頭数ではなく、異質な人材の多層性となっていくのです。

このような独自性と創造的マネジメントができる人材の多くは、井深さんや盛田さんといっしょにソニーを築いてきた第一世代の人達に強くみられる要因のひとつではないかと想像しています。おそらくこれらの諸先輩達は、井深さんや盛田さん自ら社員をリードされながら、数多くの人達を育ててこられた中で作りあげられてきたものなのでしょう。そう言えば、小林さんもどことなく井深さんや盛田さんに似ていると思うのは、私だけでしょうか。

Sony Way とは、そんなソニーの軌跡であり、未来に向かう指針でもあるようです。

とにかく任せたら徹底的に任せます。最初からすべてをやれる人なんていないのです。ひとつひとつのテーマに対して、全力で仕事をしていくことです。その際重要なことは、既存のルールや仕組みを疑ってみる、また自分の目で確認しながら仕事の抜本的な変更をおこなうことが必要です。実は、このような視点で仕事をする場合に生きてくるのが複数の部門で仕事をしてきた経験です。何故か?簡単です。複眼で物事の本質をみることができるからです。ひとつの部門だけしか経験してきたことがない人達は、既存の枠組みから抜け出せなくなるからです。単眼的な指向になりやすいといえます。さらにこれまで自分達がつくってきたルールや仕組みを自ら壊すことなど実際には不可能に近いと思われます。重要なことは、人や組織、あるいは仕組みを常に変化させることです。そこに変化の兆しをつかみとり、新しい枠組みをつくるチャンスが生まれるのです。変化こそ安定であり、チャンスなのです。過去のキャリアだけでは、進化は進みません。むしろ変化を作れる人達は、過去のキャリアを自己否定しながら現実の矛盾点を知ることで進化を進める役割を担っているのです。もう一度書きますが、変化こそ安定なのです。その認識さえできていれば、こんなに楽しい時代はないと思います。

チャレンジャーの道には、多くの失敗がつきものです。その失敗の中から偉大な成功は生まれるのです。トライ&エラーの繰返し。そこにこそ創造の芽が生まれてくるのです。

  井深さんや盛田さんは、常に変化を起こすことで時代を切り開き、一中小企業だったソニーを世界のソニーへと変化させていかれたのだと思います。

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:13:21

10.41才経理新人デビュー

10.41才経理新人デビュー

 

平成6年8月、総務・人事の仕事を約4年程度やってきた私は、上司の役員から今度経理をやってみないかという話をもらいました。実は、この異動には少しわけがあります。そのわけとは、前年4月にソニーから総務担当の課長が赴任してきていましたが、1年あまりいっしょに仕事をしてきましたがこの方と合わないという実態ができあがっていました。総務・人事を会社設立時期から4年以上やってきたわけですから、やはり変化が必要な時期にきていたのでしょう。タイミング的には、ベストだったのではないか、と思います。但し、本音は、経理部門とは考えていませんでした。私もさすがに経理はやっていけるのかなぁ、と不安がありましたね。なんと言っても簿記の勉強といった基本的知識もないし、経理に関する基礎的な知識もありません。その上、年齢41才です。異動するほうもするほうですが、異動させるほうもさせるほうです。当時の上司も面食らったでしょうね。しかも私はうるさいタイプですからね。経理部門の上司は、一時監査部門に席をおいたことがあるようですが、ソニーシステムサービス株式会社では珍しく経理畑一筋でやってこられた方です。ソニーサービス株式会社出身でありソニーグループの企業の中でも比較的早い時期に設立された企業であること、さらに地域会社制を採用していた関係で本社企業と地域企業間での異動、いわゆる出向による異動を頻繁に経験されてこられ、地域会社の設立時には経理業務の立上げをおこなってきたという特殊な要因もあるようです。また、ソニーシステムサービス株式会社設立時期における経理業務の確立は、この方抜きには語れません。

社長の小林さんは、この方のことをソニーの経理部門が欲しいといってきたそうですが、いなくなると当社の経理ができなくなると断ったそうです。確かに勉強家であり、経理に関する専門性はずば抜けています。管理会計を含めて経理、会計に関する社内信頼度ナンバーワンです。

私自身は、勉強したいという思いと本当に経理の仕事がやれるようになるのか、かなり不安があったのも事実です。それでもそろそろ総務・人事部門でやるべき仕事がなくなったと感じる寂しさとまた新しい仕事にチャレンジしなければという複雑な心境のようでした。心の中は、常に動き回るものです。不安とチャレンジ!まぁ、このようなときは、やってみるに限る。これが私の生き方だと決断しました。変化は安定、といいながらも一面、変化は不安定という心理状況におかれるのが人間です。ここを突き抜ける勇気と実戦力が必要になります。その上に、好奇心旺盛ということであれば、ベストでしょうか。嫌でも好奇心が学ばせてくれます。遊びも仕事もこのような立場からみれば同じではないでしょうか。

スポーツでも同じですね。ゴルフであれば、同じコースで何回プレーしても変化があります。常に好奇心旺盛にチャレンジすることができれば、同じコースでプレーしてもいつも楽しさや面白さといったものを感じ取ることができます。

仕事も同じことが言えます。

ただし、人間の場合、どうしても慣れるに従い変化を遠ざけてしまいます。環境に安住してしまうとも言えるでしょう。

社内異動では、異動という変化を作ることで違った視点を養い、常に新しい事を学ぶという姿勢を継続させていくということに意味があります。

さて、経理に異動して最初にやった仕事は、なんといっても伝票起票です。なんのことはありません。経理伝票、いわゆるひとつは入出金伝票、もうひとつは、振替伝票の起票です。特に自社の銀行口座における入出金を中心とした伝票の起票です。入出金伝票の起票は、現金出金のときに起票します。小口現金といわれる企業の日常活動で使用する現金で経理に保管してあるお金です。外出交通費や出張時の仮払い金の出金といった際に利用することになります。その他会社業務で急に必要となる現金の出金に対応しています。経理規程で必要な金額を設定しています。本社経理部では、残高50万円、地方の営業所では10万円といった具合に決められています。また、本社に隣接した収益部門に入金された現金は、当然経理部門に入金されますので、この場合は銀行への入金処理をおこないます。入出金伝票を起票して、取引銀行に入金します。

一方、銀行口座にお金が入ってくる場合、地方の営業所に入金された売掛金を本社経理部門に送金します。このお金は、送金受入れとして振替伝票を起票することになります。この場合、地方の営業所では本社経理部送金として振替伝票を起票することになります。実務的には、営業所の銀行指定口座から毎月送金日を指定することで自動送金されてきます。一定の残高を指定してそれ以上になれば自動的に送金する仕組みが作ってあります。また、本社経理部門でも売掛金の入金がありますので、これらの入金処理をおこないます。こちらも本来は、振替伝票を起票するのですが、ソニーシステムサービスの場合には売掛金を処理するシステムをもっていましたので、このシステムを利用して売掛金の入金処理をします。請求番号を入力するだけで、自動的に仕訳をおこなってくれます。但し、間違った入金処理をおこなえば、手作業で振替伝票を起票して訂正することになります。また、一部の売掛金には、システムを利用できないものありますから手書きで振替伝票を書くことになります。

銀行口座からの出金の場合には、先ず電話、水道光熱費、通信費、新聞・雑誌の講読料金などがあります。さらに所得税、消費税、労働保険料、地方税などの税金納付もおこないます。このようなお金の動きがあれば必ず振替伝票を起票することになります。毎日相当数の伝票を起票することになります。

では、なぜ伝票起票といった仕事をさせるのでしょうか。

簿記もわからない人は、借方や貸方といった仕訳の基本が理解できません。銀行預金の仕訳が理解できると貸方と借方にくる勘定科目が大枠で理解できるようになります。ちょっと不思議ですが。そんな理由からこの経理課長は、この方法で新入社員の育成をおこなってきたそうです。それを私に応用しただけだそうです。

おそらくやっている本人より教える側のほうが大変だと思います。知識の理解と違い、経理の仕事の流れをつかむまでにはある程度の時間が必要です。実務の基本は、総務・人事でも同様ですが先ず1年間やってみないと理解できないと考えても言い過ぎではないでしょう。新入社員の場合でも、実務をやりながら必要な専門的知識を習得していくなど、日常業務をおこないながら勉強をしていく必要性がありますからかなりの努力を要します。また、労働基準法や税法の改正は、頻繁に実施されますので、実務ができるだけでも問題があります。常に法改正をフォローしながら日常の仕事をおこなうことが求められます。

仕事をおこなっていく前提は、大体複数の要素が複雑に絡みあって仕事そのものが動いています。1年やってみても基本的な部分を理解できるに過ぎません。やはり3年程度同じ仕事をやりぬいてみことが必要です。そうすることで、自分がやっている仕事と他の部門との関連や業務遂行上の実務的なポイントを把握することが可能になります。それぬきにして仕事の本質を理解することは非常に困難だと言えます。

さて、このような伝票起票の仕事を半年程度やりながら、毎月の月次決算処理をやることになりました。ソニーの場合、米国会計基準を採用している関係で連結決算制度を採用しています。ソニーの100%出資の子会社であるため当然月次決算処理を実施することが要求されます。また、事業計画の進捗状況を把握するという目的からしても月次決算の意味は大きいといえます。収益部門では、当月の売上高と利益を確認すことが非常に重要な仕事のひとつです。部門責任者は、担当する部門の売上高と経費、さらに利益をみることで部門のおかれている経営状況を迅速につかむことが必要ですし、事業計画との乖離を把握して、適宜部門の業務内容の変更や新規投資のタイミングなどを毎月検討しています。現在のように経済環境の変化が早い時代にあっては、日常業務の変更、あるいは新たな業務の創設など毎月の経営数字とともに部門業務をしっかりと把握することで、最善の施策を実施することが要求されます。どうにもならなくなってからでは遅すぎるのです。そのためにも月次決算のもつ意味は、今日の企業においては重要なウェイトを占めていると言えそうです。その上、ソニーシステムサービスの場合、経営数字をオープンにしていましたから経営数字の全社的な共有ができていました。毎月おこなわれる所長会議で実績に基づき部門活動のレビューをおこないます。さらに次月の展開、あるいは新規投資が必要な事業展開などを自由に検討できる場を提供しています。生きた経営数字をベースに各部門の事業展開を図っていくことで、事業活動の善循環を作り出していたと思います。

他方、経理部門にとって、正確かつ迅速な決算をおこなうということは、ある意味で経理業務が非常にタイトになるということです。毎月1日から末日までの経理処理を翌月のいつまでにおこなえるかという経理処理能力が問われるからです。経理部門にとっては、厳しい仕事の連続になります。私が在籍していた時期でも実動6日目に前月度の決算を確定していました。現在は、実動4日目だそうです。

決算処理の迅速化ためには、全国にある9個所の営業所での日常的な経理処理も重要になってきます。各営業所では、地域別におこなった営業活動における売掛金の消し込み処理を日常的におこないますが、大体法人企業が得意先になりますので、勢い月末集中することになります。消し込み処理の自動化が欲しいところです。また、ソニーグループの企業全体の請求処理をおこないますし、メンテナンス関係では、前受金の取崩処理、銀行口座の月末残高証明書の取得、通帳のコピーを本社経理部へ送付するなど多くの仕事を迅速におこなっています。まだまだあります。部品や仕掛品といった棚卸資産のデータ入力作業をおこないます。さらにメンテナンスやシステム工事の工数入力といったデータ入力とともに製番管理をおこなっています。最後に、予算実績比較表を出力して最終損益の確認をおこないます。営業所では、お客様からの問い合わせといった営業サポート業務を最優先でおこなっていますので、お客様との仕事の合間をみながらこのような経理処理及び月次決算処理を実施するといった大変な努力をともなった仕事になります。月次決算では、現場の協力があってこそ経理業務を迅速に正確におこなっていけるのだという認識をもつことが大切です。決算終了後も滞留債権の督促をおこなったりとかなりのハードワークになります。

小林さんは、営業所の事務担当の女性社員のことを「真の社長」だといってました。心からそう思っていたようです。女性社員にも人気がある社長でしたね。

では、本社経理部門の月次決算業務は、どのような仕事内容で実施されているのでしょうか。

本社経理部門でおこなう決算処理は、各営業所でおこなっている経理処理と重複する仕事内容があります。この理由は、第一には各営業所でおこなっている経理処理をチェックする機能をもっているからです。各営業所の経理処理に関して、本社の経理担当者による確認作業をしています。例えば、経理システムを利用したエラーチェックをおこない、エラーリストを出力して仕訳を確認して、正しい仕訳を起こすという作業などをおこなっています。エラーチェックに限らず、経理の仕事の大変さは、毎月度の企業活動にともなって発生するお金に関するすべての処理に関して必ず締めをおこない(決算をして)正しい経営数字を確定するという仕事だからです。毎月正しい決算業務をおこなうことが、事業年度の正しい決算となります。この目的のために毎月スケジュールを決めて月次決算処理の迅速化を進めているのです。そのことが株主に対する責務、いわゆる説明責任になります。また、企業活動の課題や問題点の発見には、最新の情報をできるだけ早く現場部門に提供する役割を経理部門は担っていることになります。目立ちませんが、現代の企業では非常に重要な仕事の連続です。

経理部門以外の人達でもこのような機能を理解することが、企業活動の質的レベルを上げていく方法になります。

本社経理部門でおこなう仕事は、このほか全社に共通した請求に関する一括請求業務や売掛金の消し込み作業、未払費用と買掛金の債務計上および支払、家賃や水道光熱費あるいは警備清掃費、OA機器など共通費用の経費配賦、固定資産関係の経理計上と減価償却、消費税チェックと相殺・債務計上、貸借チェック、手形残高チェック、銀行預金・通帳コピー照合、前受金チェック、予算実績チェックなどの仕事をおこなっています。

企業の仕事の中でもお金を扱う部門のため他の部門よりもやや独立性が高く仕事内容が見えにくいといったこと、また経理の仕事の性質上、企業における現金や資産を預かる立場から各部門の経理処理について厳しい指摘をしていくなど、他の部門からすると嫌な存在に写るかも知れませんね。しかしこの様な機能が適切に働いているからこそ企業活動を継続的にしかも積極的に展開できることが可能になるのです。このような経理部門の活動をしらなければ部門をマネジメントすることなどできないと言えます。

ソニーの事業展開は、常に日本をリードする存在です。いや、世界をリードしている存在です。日常的にソニーの話題が新聞に掲載されない日がないくらい頻繁に登場します。さらにソニーをテーマにした書籍も数多く出版されています。日本企業にない自由闊達さと若い人達にチャンスを与えるというソニースピリッツを掲げて、これからのネットワーク時代のさらなる開拓者になっていくことでしょう。

世界最初のトランジスターラジオにはじまり、トリニトロンテレビ、ウォークマン、あるいはハンディカムといった技術革新を前提としたその時代の先端の製品を開発してきたといってもよいでしょう。最近ではバイオですか。とにかく技術革新をともなうソニーらしい製品に注目があたることが多いようです。いわばメーカーの宿命でもありますが。

しかし一方で、1961年米国預託証券(ADR)の発行を日本企業ではじめておこなこない、1970年9月17日にはニューヨーク証券取引所に日本企業ではじめて上場しています。日本で連結決算制度が導入されたのは、2000年3月期決算からです。どうもソニーというと技術の先進性やデザインの独創性に関して話題になることが多いのですが、企業活動の根幹を成す経営システムの先進性も今日のソニーを支えている大きな要因のひとつではないかと考えています。もうひとつの要因は、なんと言っても社員を活躍させるソニー的マネジメントだと言えそうです。

『私は、アメリカへ行くたびに、次第にアメリカで行われている時価発行に関心をもつようになった。周知のように、アメリカの会社は、自分の株価を世に問う姿勢で株式を発行する。好業績は正確に株価に反映される。株価が高ければ、それだけ資本調達のコストは下がる。応募した投資家には、責任をもって応えていく。この時価発行こそ本来の資本調達のあり方ではないか、と思うようになった。そしてソニーはその道を選ぼうという決心をしたのである。

時価発行に踏み切ったときの哲学は「良い会社は、有利な条件で資本調達ができるはずである」というものであった。そしてその哲学が通用する市場で資金を調達しようという目標を設定した。

日本では、良い会社も悪い会社も資金調達の条件は同じである。むしろ、相対的には良い会社がハンディキャップを取られ、悪い会社ほど有利な条件で調達できる面すらある。つまり、銀行借入といういちばん安易な方法に依存するからである。底辺を揃えてしまう銀行融資では、優良会社の国際競争力は落ちる一方で、逆に悪い会社は日本株式会社の保護を受けることになる。

これに対してソニーは、業績を忠実に反映する資本市場で。しかも時価発行によって資本を調達しようと考えた』と盛田さんは明確な将来像を1960年代から描いておられました。日本の場合、2000年になってやっと連結決算制度の導入が実施されました。盛田さんの先見性のすばらしさというほかありません。

また、『元来、私は物理屋のせいか(工学部物理学科卒)、ビジネスに奇跡を信じない。もちろん、運というものはあるだろうが、根本原理は必ず通る、という信念を持っている。ものごと、ショートサイトのいろいろなことに惑わされず、ロングレンジでみれば、必ず根本原理が通る、という考え方をもっているので、こういう決定ができたのかもしれない』と、また『私は常に、ショートサイトで判断し今年だけ儲かれば良い、というような商売はしない。だれからも評価される正当な経営を続け、信用を高めることがソニーの最大の社会的責任であり、またソニーの根本原則であると確信している』と書いておられます。

好奇心旺盛な盛田さんがアメリカでみたものとは。真理とは。思わずそう考えずにはおられません。40年前、ひとりアメリカに立ちグローバルな視点で企業経営の本質をみておられたことに感動を覚えるのは、私だけではないでしょう。

  今日、ソニーがEVAを導入して資本効率を意識して収益性を高め、再投資による事業活動の創造とともに適正な株価を目標とした経営をおこなっていますが、原点はまさに盛田さんがやってこられたことの延長線だといえそうです。

企業会計は、これから益々重要な意味をもってきます。ベンチャー企業の資本調達はまさに時価発行調達を可能にしています。資本市場の自由化にともない容易に資金の調達が可能になったことはそれなりに評価できることです。しかし一方、安易な上場による資本の調達は企業活動の安易な運営に繋がっていく懸念もあります。公開するという立場を十分に理解して、企業運営をおこなっていけるベンチャー企業が何社残っていくことができるのか、これから資本市場の自由化とともに各企業に突きつけられた課題だと言えそうです。

その意味でもソニーがおこなってきた経営姿勢には、ベンチャー企業の経営活動をおこなう上で大きな目標になるといえそうです。

自由な資金調達が可能だからこそ、自らに厳しい企業運営を課していくことが重要になってきます。21世紀のソニーになっていけるベンチャー企業が生まれるかどうかも、実はこのような経営システムの根幹を支えている仕事の全体像を理解できるかどうかにかかっていると言えます。

ソニーは、常に自社に厳しい環境を選択していたのです。

それこそが自分を強くすることができる唯一の方法だと信じていたからだと思います。

これからのベンチャー企業の取るべき道も自社を常に厳しい環境におくことが、次の時代を切り開いていく最短コースなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:13:39

11.新入社員と営業時代

11.新入社員と営業時代

 

  昭和53年新卒で入社した最初の企業では、営業職として東京、福岡、北九州、大分、千葉と約11年間の勤務をしてきました。トイレタリー製品の製造・販売をする企業でした。主たる仕事内容は、代理店および量販店を中心とした営業活動をおこなうことでした。特にこの企業の特徴は、重厚長大企業である親会社の影響を受けているせいか、目標販売数量、販売促進費あるいはマーケティングといった機能に関して本社が主導権をもっている典型的な本社ダウン型企業でした。

当然営業活動は、本社が決定したエリア別、製品別販売目標数量を販売目標として与えられて販売活動をするという活動形態でした。また、販売促進費についても本社が決めた範囲内で営業活動をやるということが当り前でした。

事業計画を作るためのP/L、B/Sといった知識も必要なく、また販売した製品の請求に関しても大半が銀行振込ですから、手形や小切手、あるいは支払遅延といった要素が非常に少なく、営業職としては、販売目標数量を販売予算内で販売すことが主たる仕事でした。後は、代理店の仕入担当者や販売担当者とコミュニケーションをとりながら自社製品をいかに販売するかが営業担当者の役目でもありました。量販店の商談においては、ルートセールスとしての販売システムが確立していましたから、新規取引先の開拓といった社員の独自性を必要とする活動形態もほとんどなかったといっていいでしょう。

私自身も、このようなルートセールス中心の仕事を各エリアでおこなってきました。

私が退職した後、この企業は親会社どうしが合併をすることになり、子会社に関しても親会社同様、子会社どうしが合併することになりました。まさに成熟産業の宿命のような合併であり、これにより企業規模の拡大と安定性を確保したようです。

以上のような内容を書いてみますと、なんだか少しも勉強することがない無価値な仕事ではないかと思われるでしょうが、実は、営業の仕事には多くの学ぶべき要素があります。今日コミュニケーション能力ができたことも、また市場分析をおこなえる力がついたこと、あるいは得意先を選別していく能力をもったことなど、意外に他の仕事でも、総務や経理などの仕事でも活用することができるものです。このような様々な能力を確立できたのも営業職を経験したからだ、と確信しています。

  私が、この会社で最初に配属されたのは東京営業所でした。全国の営業所の中で最も販売実績をもつところです。しかも本社部門と同じビルに入居していたためか、妙な緊張感がありました。新入社員として入社して3年間東京営業所で勤務したところで、初めて福岡営業所への転勤発令をもらうことになります。

福岡営業所に赴任して最初に感じたことは、ここも東京営業所と同じように月末集中型の販売、言葉を変えれば、問屋押込型の販売が主流だ、という現実でした。押込型販売は、いうまでもなく実需がないのに製品を販売するわけですから、多くの問題点を発生させます。さらに営業担当者のプレッシャーも相当なものです。

 

押込み販売の問題点

第1 押込時に過剰な販促費等が必要になる。

第2 問屋側でも販売先がないのに在庫負担を背負う。

第3 問屋とって過剰な資金負担が発生する。

第4 翌月過剰な在庫を意識しながら販売活動をすることになる。

 

  結論から話をすると、前記の対応を受け入れてきた多くの問屋が倒産しています。

とは言ったものの、自分の販売目標は達成しなければなりません。矛盾を感じながらも同様の営業活動を毎月おこなっていました。しかし、一方で何とかしてこの現実を変える事ができないか、とも考えていました。転勤してきたばかりですからすぐに市場の状況が理解できるわけではありません。取りあえず福岡市内の量販店や小売店を訪問しては、競合他社を含む市場の各種デーを収集しながら、自社製品の市場におけるポジショニングを確かめることからはじめました。データも少しではたいして役に立ちませんが、数が集まると一定の整合性が見えてきます。各社のシェア、販売価格、流通経路、納入価格、概算の販売数量、小売段階の商品評価、各社の評価、問屋の評価等々。担当した代理店は、主力代理店でありながら、押込をガンとして受け入れない強さがありました。やむを得ず、代理店と取引がある地場スーパーに目をつけて足を運ぶことにしました。しかし、そこは競合他社が主力製品となっており、一筋縄ではいかない雰囲気。とにかくこのスーパーの特売チラシや問屋情報、このスーパーの売場担当者からの情報収集、また直接バイヤーから情報を収集することにしました。数ヶ月かけて集めた情報は、納入価格は非常に安いが販売数量も桁違いに大きいということ、また当時出店攻勢をかけているので将来地域一番店になる要素があることなどがわかってきました。代理店と協議しながら、先ず、出店時のオープン協賛からはじめることにしました。オープン協賛とはスーパーの新規出店時に、特別予算を申請して通常よりも一段と安い価格、所謂、目玉価格で販売することです。その他、オープン時に、商品の品出しの手伝いをやったりしながら、バイヤーとコミュニケーションができるまで徹底的におこないます。

まぁ~、日本的といえば日本的ですね!現在でも新規出店時には、各メーカーや問屋各社は借り出されているようです。

  このように製品を取り巻く環境を十分に把握した上で、自社の強み、製品の強み、販売ルートの強み、担当者としての自らの強みを認識して、他社の弱いところを徹底的に攻めていきます。勿論、自社を取り巻く弱みも把握しておくことが必要です。競合他社と自社の置かれた立場を相対的に比較しながら、自社の弱みを最小限にして自社の強みを最大限に活かして販売攻勢をかけていきます。

  自分なりの目標に近づいていましたが、押込型を変革するには次に担当する北九州地域の営業活動を待たなければなりませんでした。北九州もはじめての地域ですから、先ずは地域のデータを集めます。福岡と違ったのは、比較的中堅クラスの量販店が多く、全体的な数字を維持しておかないと販売目標を落とす、という危険があることでした。とにかく取引先企業の過去の販売実績データと自分で集めたデータから販売プログラムを考えていきます。目標数量、重点販売店、重点販売月、新規開拓先と販売ルート等々。販売目標は、基本的に1年間から月別に展開します。但し、実際は、販売の状況をみながら四半期ごとに目標数字との整合性をとりながら年間の目標に近づける方法をとります。できるかぎり各量販店と年間販売契約をおこない、販売のスケジュール化を推進することなどが重要です。それでも他社の納入価格でだしぬっかれることもありますから、毎月の訪問で問題点と販売施策を検討しておくなど、きめこまかな対策が必要です。それとともに販売数量がすくない小売店に対しても可能な限り対応して、毎月の基礎数字を固めておくなどの配慮が必要になります。

実際に押込をやらずに販売目標を達成することができたのは、入社から8年が経っていました。このように、現実の販売のやり方を改革することは、言うは安く行うは難しです。また、担当者個人でやるには、あまりに多くの課題があります。企業の販売姿勢や販売システムの抜本的改革をやらない限り、経理処理などの点で根本的な問題を発生させるでしょう。しかも企業決算を正しくおこなう前提を失い、コーポレート・ガバナンスや適法性の点で企業存続の基盤を失いかねないほどの問題が発生することになります。

他方、当時新規展開が著しいコンビニエンスストアへの製品定番化ができないか、と思案していました。

新入社員として入社した会社は、創業25年が過ぎ製品は市場において成熟商品として十分な位置づけがされていました。製品自体、商品としての認知度がありますから営業活動上新しく説明する必要性もなく、また流通経路も確立されていましたのでいわゆるルートセールスそのものでした。但し、スーパーの特売商品の一つとされ(目玉商品)、価格交渉は極端に厳しいものがありました。

何とか新規に販売するところがないか、とひとりで思案していました。そんなとき福岡で担当していた代理店が、当時店舗展開をはじめた大手コンビニエンスストアと取引をおこなっていました。このコンビニエンスストアの本部は東京にあり、マーケットシェアの関係で競合他社製品が定番商品化さていました。コンビニエンスストアの戦術としては、

当然の帰結です。このような現実の中にあって、自社製品の定番化を東京営業所の担当者に確認してもらいましたが返ってくる返事は、当社製品の定番化は困難だということだけでした。

九州地区の場合、私が所属していた企業の製品のほうが競合他社製品のマーケットシェアよりも高く、定番化はコンビニエンスストアにとってメリットがあると考えていました。このコンビニエンスストアの九州地域本部を訪問してバイヤーと商談を重ねましたが、直ぐに定番化するのは難しい状況でした。但し、このコンビニエンスストアの場合、データを重視した商品仕入をしてくれることが唯一の望みでしたね。

ともかく私は、継続的にシェアを調査することにしました。それとともに各店舗を訪問して、本来は厳禁ですが、商品陳列棚に空きスペースがあるかどうかを確認しながら、数ヶ月間かけて可能性を探っていました。

これらの調査報告書をもって再度地域本部を訪問して、バイヤーに現時点での可能性を話してみたところ、次のような提案がありました。商品の発注単位の変更(ケース単位では数が多すぎる)が可能であれば、地域定番化を推進してみるという回答でした。ある製品では、通常1ケースに40個の商品が梱包されていますが、その半分の20個単位で納品が可能であれば検討する、という提案です。さて、導入できる前提はできあがりましたが、発注単位の問題が残ります。問屋にケース半分の商品を手作業で小分けしてもらい出荷依頼をするということでは、コスト高は目にみえています。当然、このような出荷作業工数の増加というコスト高を前提にした依頼であれば、問屋側の承諾は非常に難しいと言わざるを得ません。一難去って、また一難です。なにか可能性はないのか、と模索する日々です。

そんなある日、東京営業所時代に販売していた百貨店向け贈答用のハーフケースの存在が頭をよぎりました。これはいけるかも知れない。

早速、本社営業部に前記事情を説明したうえで、コンビニ向けに生産ができないか、と交渉を重ねました。2~3ヶ月間かかりましたが、本社のOKをもらい出荷体制を確立することができました。目をつけてから1年半くらいが経っていましたが、本来の目的を達成することができました。そこには、いくつかの幸運もありました。

第一に、当時、このコンビニエンスストアのバイヤーが地場スーパーから転職をされた方であり、自社製品に理解があったこと。第二には、自社にこのようなハーフケースが存在していたこと。第三に、成熟市場といわれていましたが、既成概念にとらわれずいろいろな視点で市場をながめていたことです。さらに仕事の達成には、いろいろな関係者の協力があってはじめて達成できるものです。

  ひとつの仕事の達成には、複数の企業やそれにかかわる人達などの存在があります。企業活動の前提はこのことが基本になり、さらにこの関係性を理解することが重要になります。

この会社で、疑問に思っていたことに前記押込み販売と販売促進費用の曖昧な運用がありました。これは、どういうことかというと。各営業所における各製品に対する販売促進費用があります。具体的には、製品1個当たり、いくらという金額を指示されます。当然1個当たりこの販売促進費用以内で販売ができれば、何も問題がありません。ところが製品の性質上、非常に厳しい価格競争にさらされています。簡単に予算内で販売できるわけがありません。結果として販売先に販売促進費用が借金として残ることになります。上司の中には、非常に多額の販売促進費用が残り退職を余儀なくされた方達もおられます。どうもこのような販売形態にも非常の多くの課題があるように思われました。

どうしても販売部門で販売計画を立てるといった機能がありませんでしたし、本社ダウンで計画される販売目標ですから、この当時においても現場サイドの販売数量、販促費用、エリア別の他者との競合関係など会社全体で把握するという企業システムには程遠い状況でした。とても企業活動の現場から経営目標を設定することなど不可能に近いと思われました。

さらにこの時期、大手コンサルタントを導入して企業活動全般の見直しを実施してきました。この結果も至って単純なものです。自社の製造工場に近く、販売シェアが高い東京地域に営業活動の重点をおくというもです。この施策のお蔭で、福岡から千葉への転勤が可能になったのはなんとも皮肉な結果といわざるを得ませんが、私にとってはチャンスとチャレンジ精神を発揮できる舞台をもらうことができたとも言えます。

退職後数年を経て親会社どうしの合併を受けて、子会社であるこの会社も合併で消えてしまうことになりました。

残念ですが、経営の結果としては致し方ない結果だと思います。あまりに市場と乖離した経営活動の延長線からは当然の帰結だと考えています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:13:55

12.ソニー流事業の進め方

12.ソニー流事業の進め方

 

私が、ソニーシステムサービス株式会社に入社してもっとも驚いたことは、担当者レベルで仕事を考える、ということでした。

良い例が、事業計画です。各部門が主体性をもってやるべきテーマを決めて、さらに売上高、経費といった予算を決定します。これまでの与えられた目標数字に慣れきっていた私にはカルチャーショックそのものでした。上司から「P/L、B/Sはわかるか」と質問されて、これもまた当然ですが「わかりません」というしかありませんでした。上司が「やっていればその内わかる」と言ってくれたことが、唯一の救いだったでしょうか。企業によってこれほどまでに仕事のやり方が違うのか、と心底驚きを隠せませんでした。

1年間の企業活動をどのようにおこなうか、誰が決定するのか。事業年度の企業活動の決定権者が誰であるのかということです。現在のように経済環境の変化が大きな時代においては、マーケットサイズが小さくなりしかもお客様が抱える課題をいかに解決することができるかというソリューション型のビジネスが求められており、事業活動の展開そのものを現場主導でおこなうことが必要になっています。

これまでの日本の経済成長のように毎年マーケットサイズが大きくなるような、いわゆる右肩上がりの経済成長が可能な時代では、本社ダウン型の事業計画の策定をおこなうことができるだけの前提があり、むしろ本社で一元的に事業活動を検討し、年間の事業目標を数字に置きかえて事業計画を確定するほうが効率的な時代でもありました。また、市場を含む独自性や創造を鼓舞するよりも横並びと前例主義の方がより低いコストでより大きな市場を獲得できたのですから当然の手法だったと考えられます。

一方、ソニーはそんな時代の中にあって、「人のまねをしない」とうソニー独自の企業運営を前提に企業活動を展開しています。このことは取りも直さず1960年代の高度成長期に入る以前、1950年代盛田さんが単身米国に行かれたことからはじまっているようにも思われます。

即ち大手家電メーカーと同じ土俵で戦っても勝ち目がない、ソニー独自の製品や企業運営を築き上げていかなければこれら多くの大企業に勝てるわけがないという企業存亡の中から自ら単身米国にいかれた行動力があったればこそソニースタイルという独自性の高い企業運営や世界に冠たるソニーブランドの確立できた大きな理由だと考えています。

企業の事業活動をどのようにして展開するのか。ソニーらしさは、どのようにすればできるのか。私が見たソニーの事業活動の特徴は、間違いなく現場主義です。社長の小林さん自らが現場を歩く、現場の社員達とよく話をする。現場サイドの意見をよく聞いている。ちなみに昔は、井深さんや盛田さんをはじめみんながなっぱ服を着ていたので、ある時ガスの検針をやっている方と間違えられたりとユニークな話には事欠きません。

話が横道にそれましたが、新規投資の対応などもこのような企業活動の中から随時展開できる柔軟性を兼ね備えた柔構造の組織システムをもっています。

おそらく事業計画の策定もこのような現場主義の流れの中から自然にできあがってきたものではないかと想像できます。

むしろソニーらしさを生み出すことができる可能性とは、現場、もっと深いところでは、より本質的なところのいわゆる「人」の可能性に源泉を置いている企業だからだと思います。もっともお客様に近いところへ権限を委譲する、否権限委譲の意識すらないのではないかと考えられます。物作りの楽しさ、それもお客様と同じレベルで楽しめる組織、それこそがソニーなのです。

ソニーとは、お客様あっての現場であり、そこに事業展開をやらせていくという基本的スタンスがあります。必ずしも効率的な方法ではないと思います。無駄な時間を費やすことも多々あります。遠回りをしているように思えることもあります。投資の判断が甘くなる場合もあるでしょう。しかしお客様と楽しさを分かち合う場としての「現場」のもつ意味の大きさは無駄なことを止揚するだけの創造性と人間の未来を切り開くというソニーらしい夢があるからだと思います。

ところで実際の事業計画はどのようにやっているのでしょうか。

次年度の事業計画の基礎資料作りを企画部門や経理部門、総務部門が中心になっておこなっていきます。大体、前年度の11月頃から基礎資料を作っていきます。これらの部門で作る基礎資料は、共通費用といわれるものです。

総務部門で作成する資料には、OA機器などのリース費用、営業活動で使用する車両のリース料、建物や備品などに付保する火災、あるいは動産保険などの保険料、建物の賃借料、電気・水道・ガスなどの料金等の共通費用を部門別一覧とします。

人事部門では、職制別の人件費予算を算出します。こちらは、次年度の昇給の概算計算をおこない職制別、いわゆる一般、主任、課長、部長といった役職別月次平均賃金を出すことになります。

各部門で事業計画を作成する際には、それぞれの役職の人員数を入力すると自動計算をおこないP/L上に自動計算されます。また、社会保険料等の会社負担分を自動計算するようになっていますので、各部門で入力するのは人員数だけになります。さらに賞与の毎月度の引当金の基礎資料を作成します。

経理部門では、固定資産の月次減価償却費用の一覧を作成しています。その他各部門が入力時に使用するフォーマットこれは表計算のエクセルを利用して基礎データを入力すようにしてありました。入力作業後、事業計画の決定後には、このフロッピーディスクを利用して予算実績比較表にデータを取り込み次年度の毎月度の予算資料になります。次年度には毎月度の実績と予算の比較をするための予算実績比較表を出力することになります。

次年度の共通費用の作成が終わると、各部門に事業計画作成のためのスケジュールが送付されることになります。

殆どすべての事業活動の権限が委譲されていますので、各部門の責任者の腕の見せ所になります。また、日常業務をやりながら事業計画を策定するわけですからかなりのハードワークになります。自己責任で実行できますが、それだけに厳しく部門運営能力が問われることになります。まさに自由と自己責任をつらぬく姿勢が要求されます。私が経験した最初の企業のように本社ダウンの計画を実施するという他力本願な目標ではないわけですから自分の責任で計画した目標を実行することで成果を出すことが必要になります。文句言う相手はいません。本当に自分の能力との格闘です。

基礎資料をもらった各部門でおこなう事業計画の作業は、先ず部門の基本方針の策定をします。基本方針は、部門活動の将来展望を明確にすることが必要になります。どのような展望をもって部門活動をおこなうのかという行動の指針となります。因みに、ある年度の採用活動に関する基本方針は、21世紀のシステムサービスを担える質的採用の実施、学生・教授に対する企業認識を変革できる採用活動の実施、次代を担う柔軟性と創造性を発揮できる技術のソニーたる人材育成の実施、基礎的研修制度を確立して先端技術に対応できるエンジニアの育成、各部門と一体感ある研修および採用活動の実施というような基本方針を作成していました。

このような方針を受ける形で、半期の重点目標を設定します。会社パンフレットの作成、エンジニア懇親会の開催、新入社員向けエンジニア基礎研修の新設等の目標を設定します。目標が決まると重点目標の実行計画を作成します。これはスケジュール作成とやるべき重点項目の内容を検討しながら具体的な実施項目を決定していきます。これら実行計画書に基き具体的に実施していきます。最後にこれら事業計画を実施するための投資計画を検討して、投資内容を決定します。投資には、固定資産として投資するケースとリース投資をする場合があり、このような投資の判断基準は経理部門と調整をおこないながら最終決定をしていきます。

事業計画の策定も書いてみると簡単のようですが、各項目の具体的な実施項目をつめていく段階では各部門の責任者と十分な打合せと協議をおこない、双方納得することが重要になります。単純に計画を策定すれば、すべての目標計画が実行されるわけではありません。計画はあくまで計画に過ぎません。実行を担保するのは、各部門の責任者と事業計画の実行に関する納得と責任を分担することができたときです。計画を作ることは、誰にもできることでしょう。しかし実行して企業の中で成果を生み出すことができてはじめて事業計画を策定する意味があるのです。

ソニーシステムサービスの場合、事業計画のスタートにあたっては課長職以上のメンバー全員が出席して各部門別の事業計画を発表する機会を設けていました。全メンバーに対して発表するのですから経営トップに話すよりも大変だと思います。計画の具体性の有・無は現場の担当者の方が理解できますからね。結構シビアに見ているもんです。トップは、特に投資や新規事業、あるいは全社にまたがる経営課題に対して、トップの責任で判断をおこない速やかに全社的立場から具体的な企業活動をおこなえるよう決定していきます。さらに中間報告会で事業計画の進捗状況の報告と各部門の業務の課題と修正をおこないます。特に、投資の判断はトップの判断が必要なケースが多いのでこの機会を利用することで課題の検討と実施あるいは中止の判断をおこなうことになります。とにかく課題や問題点に関する検討は十分なくらい徹底的におこないます。また、決定までのプロセスはトップが参加して実施するのでいたって早い決定になります。現場の営業活動もオープンな形で検討をおこないます。悪い情報も良い情報もすべてオープンです。ここから競争戦略が作られていきます。最後に半期毎のレビューを徹底的におこないます。これもまた、各部門の責任者が各部門の実績を発表することになります。上手くいった部門、上手くいかなかった部門、すべて事実に基づく結果報告をおこないます。そこから次期目標の設定あるいは前記目標の未達成部分をどのような形で展開するのかといった次期の計画を策定することになります。大幅な下方修正をやる場合もあれば、上方修正することもあります。これらの修正も半期の業務実績に基づいて実施することになります。事業計画の策定だけを義務的にやっていれば、中間発表、レビューなどの機会で本質的な部門の課題や問題点など把握することができないでしょう。厳しい日常業務の積み重ねの上に事業計画策定、実行、課題の把握といった本質的仕事があるのです。この理解なくして事業計画の意味もないと言えます。これがソニー流事業計画の真髄です。

本社スタッフ部門が作る事業計画ではありません。あくまで各部門が主体性をもって策定します。当然ですが、本社部門が策定するよりも厳しい現実があります。先ず、すべての結果から逃げることができません。日常業務の合間を縫って作成するので、時間的に非常に厳しいもがあります。このような現実があって現場主義は成り立っているのです。日本のサラリーマン社会にこの自覚がある社員がどれほど存在しているでしょうか。

自由闊達なソニーですが、自由と自己責任の厳しさも要求されるのです。この現実があって限りない個人と企業の成長があるのです。

楽なだけのところに人間の成長はありません。

 

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:14:11

13.部門の仕事を超える人間達

13.部門の仕事を超える人間達

 

私が入社試験を受けたときに、当時は筆記試験、適性検査、性格検査をやっていました。試験の案内が来たときには、ちょっと驚きました。まぁ、こりゃ筆記試験で落ちるな、と思って試験だけは受けに行くことにしました。試験当日、なんだか気になることがあるのです。なにかと言うと、各試験の担当者がそれぞれ違うのです。しかも長髪といったちょっと風変わりなタイプがいるかと思えば、七三の真面目なおじさんがいたり、長髪でもかなり年齢がいっている人がいたりと、こんなに人事の担当者がいるわけがないし、どう見ても人事部門の人間と思えないのです。まぁ、ソニーだからこんなのもいるのか、やっぱり変った会社だなぁ、と心底思いました。

入社後理解できたことですが、一人を除いてエンジニアでした。人手がないので、試験官を頼んでおいて、人事担当者は採点をやっていたのでした。その人事担当者、先程書いた中の長髪の一人でした。これまた驚きの驚き。

入社すれば結構この手のユニークなタイプがいますので、その内慣れますが、入社直後は異様な雰囲気です。

現在、ベンチャーに在籍していますが、今の若い人達の方が身奇麗にしていますし、長髪は非常に少ないですね。

ソニーの場合、若い人達よりも年配者にこのような個性派が多いのにも驚きます。あまりうるさく言わない企業です。このへんもカルチャーショックの一つになりますかね。

当時、どうしてこのような応援をもらわなければならなかったのか。理由は簡単です。人事・総務担当者一人しかいなかったからです。それでちょっと手伝ってよ、てな感じです。

 この会社の営業開始が平成2年4月1日でしたので、間接部門の人間がいない、だから担当者を募集しているのですが。採用に限らず、ソニーシステムサービスを作り上げるために集まった中堅クラスのメンバー達がどのような部門を作っていくのかということを考えて、実戦的に業務の展開をおこなっていました。

最初から部門があり、仕事ありなどと言うことはないのです。中堅クラスのメンバー達がそれぞれ自分達で仕事を作っているのです。また、自分達が作って仕事に必要な人材の採用も、人事任せにせず自分達も参加して人事担当者といっしょになって採用活動などもおこなっています。まさに社内起業と言えるのです。このへんは、ベンチャー企業の事業展開に通ずる要素が沢山あるように思われます。それぞれの担当者に夢があり、夢の実現のために土曜・日曜にかかわらず自己責任でこれらの仕事をやっています。トップがどうのこうのということは、殆ど感じることはありません。トップの方でもまかせておいたほうが上手くいくと思っているのか、任せっぱなしといった状況です。やっているメンバーは、当時全メンバーが40代です。

  現在のような市場環境の変化が大きな時代にあっても、40代のメンバーに簡単に新しい仕事の展開を任せることができる企業が何社あるでしょうか。だからこそ、今般のベンチャーの起業が増加の一途といった状況になるのだと思われます。特に現在の40代の閉塞感を見るにつけ、30代、20代自らが起業を選択していく動機づけを与えているようなものですね。

今までにない何かができるのではと思う人達にとって、現在、日本企業のシステムの重たさは遺憾ともしがたいものがあるようです。

ソニーは大手企業の中での意思決定が早いといわれていますが、ベンチャーの意思決定の速さにはかなわないと思います。ソニー自身もかってそのようなベンチャーのスピード力と独創性で発展してきた企業なのです。

  ソニーもまた今日のベンチャーに学ぶべき事があるように思えます。時代の流れの中で絶えず、ベンチャースピリッツを注ぎ込む込むことが重要課題だと言えそうです。

このような採用のプロセスを経て、なんとか入社できた私は、総務・人事担当者として3人目のメンバーになりました。ちなみに二人目は、4月に入社した女性の新入社員です。上司を入れて、なんとわずか3名での船出です。前途洋々。今日からパニックでしたが。そんな船出の中で、先ずは採用活動を担当することになるのですが、技術職を採用するにも専門試験を作る、面接時の面接官を依頼するという具合に現場のメンバーにお願いしなければ採用活動そのもが進展しません。当然、このような担当者自身、自分の仕事の立上げをおこなっており、強烈ないそがしさです。その間隙をぬって、依頼しなければなりません。その上、企業組織のシステムでやらせる、いわゆる辞令を出してやらせるなんてことをしない企業ですから、あくまで自分で依頼するしかありません。ルールなんてないのです。自分自身は、相手をどのように口説くかという能力が問われるのです。当然ですが、簡単にOKしてくれません。非組織的、反対に言えば徹底した人間主義の仕事の展開をやらせます。一見すると効率がわるく時間がかかり成果を出しにくいように思えますが、双方が理解でき納得できれば、これほど強力な機能はありません。また、このような方法で仕事をやらせると使命感をもってやる人と給料分、時間分の仕事しかしない人達が明確にわかれます。前者の使命感があるメンバー達が集まってこそ創造的な仕事も可能になります。このような選別も簡単にできることになります。さらに何か、新しい事業展開をやろうとする場合に、いつでも非公式に会って問題点や課題の検討、あるいは事業展開について忌憚ない話あいができます。有形無形の財産になります。

本社移転時のプロジェクトにおいては、電気、通信、情報関係といった知識の習得、図面関係の作成方法など多くのことを短時間で展開することができました。これも入社当時の採用活動における協力関係や人間関係があったればこそできる芸当なのです。この場合も自分の仕事をやりながら協力してくれるのですからこれ以上の喜びはありません。企業展開の上でも、スピードと実行力には申し分なく意義ある事業活動になっていきます。私が経験したどのような企業でもこのようなメンバーの存在があります。ソニーと違うのは、機会を与えているかどうかだけです。大抵の企業は、ほったらかしにしているだけ、このようなメンバーの存在を無視するか、組織にとってマイナスだと思っている伏しがあります。

本当の価値は、このようなメンバーが無報酬で自社の成功のためにチャレンジすることをいとわない人間性を有していることです。これらのメンバーを発見する方法は、自由にチャンスを与えることしかありません。どんなに作り込んだ人事評価制度や目標管理制度などを利用しても発見できるものではないのです。

  ソニーでは、当り前のことを当り前に意図も簡単にやってしまうところに企業としての柔軟性と創発性そのものを内在しており、本当の意味で人間をコアとしたシンプルな組織をもっているのです。

非公式な関係で積み上げられた信頼性が高い人間関係は、ビジネスが厳しい環境にあればあるほど真価を発揮します。企業には、こういう自律的な人間と一見無駄と思われる組織機能の柔軟性が必要なのです。

  組織を超えることができる人材は、企業のより本質的な課題や問題点をつかむことができ全社的な立場から企業活動の進化を促進する役割をもっているのです。徹底的にチャンスを与えることで自己進化をしていきます。特に、その他の条件を心配することはないのです。自分で発見した課題、経営トップからもらう課題でもなんでも良いのです。ただ単にチャンスを与えて結果を求めることが重要です。このタイプの人材は、必ず答えを出します。その繰返しの連続で企業もまた進化していくのです。年齢も関係ありません。年功的な発想そのもがこのような人材を消失させる大きな原因になるのです。個人としてトライ&エラーの徹底的な評価が必要です。しかも人事評価ではないのです。人事部に眠る一律な評価ではないのです。ビジネスの実戦をとおして成果そのものをトップ自らが評価するといった絶対的な評価が必要なのです。

どんなメンバーを揃えて実戦するのか、どのように課題を捉えているのか、どのようなプロセスで課題を分析しているのか。どのような目標を設定しているのか。どのようなプロセスで実行するのか。結果の責任を誰が取るのかといった一連の流れを把握することでビジネスの実践的評価は可能です。これまでの大量採用、相対的評価といった人事部が主体となった評価制度ではこのような人材を発見することなど不可能です。ベンチャーが成長するエネルギーは、まさにこのようなビジネスの実戦的評価が可能だからだと確信できます。大企業でもやろうと思えば簡単にできるのです。これまでの組織運営や制度、あるいは人事機能を抜本的に改革できるかどうかだけです。やるのは経営トップ以外にありません。人材は、ソニーに限らずどのような企業にも必ず存在しています。人材不足を言うなら、むしろベンチャー企業のほうですね。そう思えてなりません。

  このような評価をおこなっていないために、ソニーでも人材の流失があるのではないかと心配です。年齢にかかわらず、人材といわれる人達に常に活躍できる場を提供することが、会社の発展の最短距離なのです。ビジネスの結果は、案外簡単に見えるものです。難しい評価表よりも簡単ではないでしょうか。まぁ、評価できる経営トップが少ないことがもっとも重要な課題ですか。残念ですが、小林さんのような方が少ないということですね。

  みんな仲良く60才定年というのもなんだか変な仕組みです。人事の立場からは公平な人事制度として何も考えることなく、文句も言われず運営できるという最高のシステムです。でもなんだか変だと思うのは、私だけでしょうか。

若い人達にチャンスを与えることは、非常に重要なことは言うまでのありません。その一方、優秀な人材を年齢だけで年功的に退職させていくことは、企業の将来性の点からみても企業成長力を弱め、ひいては企業の存在能力の低下を惹起させてしまうことになるのではないかと考えています。

スタンフォード大学教授  青木昌彦氏は、ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス2000年1月号で『情報技術革命の一つの重要な帰結は、デジタル化しえない「暗黙知」が依然として、いや、いままで以上に経済価値をもつ可能性である。シリコンバレーにおけるベンチャー・キャピタリストのガバナンス上の役割も、定型化されない暗黙知、つまり新しい知識創造の可能性を判断することにかかわっている。こう見ると「人は財産なり」という日本企業の伝統的価値観も簡単に捨てるべきではないと考えられる。人的資産のを重視すること自体が間違っているのではなく、情報技術革命によって価値ある人的資産の構成と正味が激しく変わりつつあるということなのだ』と述べられています。

大手企業の人材集積能力に対抗するなどということは、いかに勢いがあるベンチャー企業でも到底太刀打ちできるものではありません。他方、人材の活用といった側面では、人がいないだけにひとりひとりの実戦力=企業力となります。人材の活用といった側面では、ひとりひとりが活躍できる舞台はそろっています。大手企業では、人材集積能力を活かして個々の能力発揮に結び付ける人材活用の場の創造が必要でしょう。他方、年功的に会社を去らざるを得ない年功的処遇を継続するというような人材の無駄遣いを是認するような人事制度とそろそろお別れする時期ではないかと考えています。

  このような制度がいつまでも続くことがないように、ベンチャー企業などとの交流を通じて人材の真の活用できるような仕組みを考えていく必要があるのではないでしょうか。

  日本社会の欠点でもある閉鎖性を打破するためには、大手企業とベンチャー企業が交流できる場を創設していきたいものです。21世紀の日本企業の創造的発展のためには、このような交流をおこなえることが重要だと考えています。こんなチャレンジ制度をもつことがこれからの人事に求められる大きな要素だと考えています。自分の企業を客観的、ないしは相対的に理解していくためにも非常に実戦的で意味あるものになると思っています。

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:14:27


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