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目 次

「僕の仕事はソニースタイル」

 

 

目 次

 

  はしがき             

1.経営的思考や行動が必要な時代   

2.企業活動を俯瞰する        

3.企業活動の原点をみる       

4.私のソニースタイル        

5.入社早々採用担当者        

6.総務初仕事            

7.本社移転プロジェクト      

8.いきなり新卒採用活動       

9.突然グループ責任者        

10.41才経理新人デビュー     

11.新入社員と営業時代       

12.ソニー流事業の進め方      

13.部門の仕事を超える人間達    

14.コーポレート・ガバナンス    

15.ソニーとガバナンス       

16.ソニーと監査部門        

17.ベンチャー企業と人事的視点   

18.自由と自己責任         

19.ソニーにおける企業実務     

20.企業活動に必要な基本的な知識  

21.文書管理            

22.受取請求書と債務計上      

23.リース資産と固定資産      

24.契約と企業活動         

25.企業活動と保険         

26.企業と特殊暴力         

27.事業計画と管理会計       

28.目標設定の実務         

29.経理知識の必要性        

30.仕事とリスク          

31.企業活動を眺めて        

32.知識の根底に必要なもの     

33.ソニースピリッツを探す旅    

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:23:29

はしがき

はしがき

 

  新入社員時代から約11年間営業の仕事をしてきた私は、こともあろうに36才にして総務・人事の仕事に挑戦しようと、世に言う常識はずれな転職を決意しました。それはバブル期の後半とはいえ、これまでまったく経験したことがない、いわばキャリアがない仕事をやろうとすることであり、当り前ですが無謀きわまりないものでした。

何故かといえば、簡単なことですが、転職そのものが企業で積み上げてきた個人の仕事におけるキャリアを売るということです。また、企業はそのキャリアを買うということだからです。

ある有名人材紹介企業のコンサルタントに転職アドバイスを受けた私は、転職の意味やこの国の転職事情、またキャリアに対する考え方に我を見失うような錯覚を覚えました。

「これはやばいことをやっているなぁ!」と。

今にして思えば、よく転職できたものです。ある面で奇跡に近い、もう一度やれといわれても二度とチャンスがないのではないか、と思います。

すべては、妻がもってきてくれた新聞求人広告がきっかけでした。

「ソニーシステムサービス株式会社、新規設立につき人事担当者求む」という募集広告からはじまりました。

筆記試験、二度の面接。

「これからの時代は現場を知っている人間が、管理部門の仕事をやるべきだ」という人事部長らしき人の話。入社後わかりましたが、なんとこの人、社長でした。入社1年後、この社長に「キャリアがないのによく採用していただけましたね」と尋ねると、社長曰く、東通工時代の採用ってのは、来てくれた人に「何がやりたいの」と尋ねて、総務といえば総務を、開発といえば開発を、と応募してきた人達がやりたいことをやってもらったんだよ、と。「本人がやりたいことをやらせるほうが、企業は伸びる」、また「ソニーはそうやって大きくなったんだ」と。さらに「東通工時代には、今のソニーのように人がきてくれなかった」と。

まさに私がやりたいことをやらせてくれた社長でした。今日、こうして私があるのもソニースピリッツとご自身の信念をもって採用してくださったからにほかなりません。

入社後もカルチャーショックの連続。徹底的な実戦形式の仕事、自分で考え、自分のやり方を作りあげ、自分で部門運営していくという見事なまでの権限委譲。その上事業計画の策定は部門の自主性を尊重して作成するという、本当にオープンなシステムを採用しています。他の企業の人が見ると「経営数字が、こんなに丸見えでいいのか」と思うことでしょう。

  本書は、私がソニーシステムサービス株式会社の立上げ業務を通じて経験したソニーにおける仕事のやり方、特に実戦を通して経営全般を理解させるという、ソニー流の仕事のやり方をなんらかの形で展開してみたいとの思いが強くあり、昨年6月よりメールマガジンを利用して大学生と新入社員向けに発刊していたところ、オーエス出版株式会社の米山弥太氏より執筆依頼をいただくという幸運に恵まれました。

米山氏は、昨今の数多いベンチャー企業の創設に伴い、企業の基礎的、あるいは基本的な仕事を見直す必要性があるのではないか、と考えておられました。一方、私は、企業活動の全体を理解することが、大学生あるいは新入社員にとって自分がおこなう仕事を捉える上からもより重要になる、との認識をもっていました。

このような観点からソニーの企業活動を参考にすることで、仕事の基本的な流れやどのような部門に配属されても、仕事をおこなう上で知っておかなければならい基本的な機能などをわかりやすく展開しようという試みです。

ベンチャー企業の社員、大学生、新入社員、あるいは企業の中堅社員の方達まで含めて、一度仕事の全般的な流れや必要とされる基本的な機能を勉強しようという皆様に、是非ご一読いただきたいと願っています。

最後に、本書を執筆するにあたりソニーシステムサービス株式会社元社長小林宏氏には、ソニーシステムサービス株式会社在職中はもとより退職後も公私にわたるご指導とお付合いをいただき、本書における数々の勉強をさせていただきました。この機会をお借りして改めて御礼申し上げる次第です。


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最終更新日 : 2010-10-18 08:10:52

1.経営的思考や行動が必要な時代

1.経営的思考や行動が必要な時代

 

  21世紀を目前に経済環境の急激な変化に伴い、特に経済活動のグローバル化に伴う会計基準の見直し、時価会計、税効果会計の導入、連結決算制度の見直しと日本企業を取り巻く経営環境が大きく変化しており、新たな経営展開が急がれています。

  これからの企業人としてどのような視点が必要か、企業活動を担う社員としての行動力、組織対応能力、あるいは企業活動のコアとなる個人の人間性や知に関してなど、多くの要素が企業活動の中には存在します。また一方では、成果主義、実力主義の導入で、早晩、年齢に関係なく企業のそれぞれ部門において責任あるポジションを担うことになると考えられます。真に企業活動を支えるために求められる条件とは、一体なにか。仕事の実践とともに、益々多くの自己研鑚が求められることでしょう。

 

  私は、仕事の基本とは、複数の部門で成果を出すことができる基礎的能力の獲得、と定義しています。

 

  これまでの日本企業のキャリアは、一般的にはゼネラリストといわれ、専門性が欠如した企業内キャリアと考えられていました。

  私が見てきた範囲内で簡単に言わせていただければ、日本的なキャリアの実態とは40才前後で課長になる前のキャリアに関しては、どちらかと言えば企業内スペシャリストとして配属された部門における成果を常に求められていたようです。他方、管理職としての課長職は、前記配属部門の中で担当してきた仕事において実績を出しながら企業内評価を積み上げ、相応の年齢を加味されることで昇進してきたポジションではないか、と考えています。さらに管理職昇進後は、マネジメント主体の管理業務をおこなうという、いわゆるゼネラリストとして部下を指導・育成しながら部門目標の達成に努めるといった管理的業務を担ってきたのではないか、と考えています。

  このように日本企業の職務内容は、成果追求をおこなう業務と目標達成を管理する業務という二つの機能を活用しながら経営活動を支えてきたと考えられます。別な観点から見れば、一般職のスペシャリスト機能と管理職のゼネラリスト機能という二面性を前提に人材の活用をしてきたのではないでしょうか。

 

  21世紀の経営は、安定成長、場合によってはマイナス成長をも考慮した企業経営をおこなうことが課題となるでしょう。

  利益を出すことは、言うまでもなくいつの時代にあっても企業経営の根幹をなすものです。しかし今日の企業経営は、多様なお客様のニーズを満足させて、ニーズに対応できる製品の存在、個性的な製品群の開発能力、また高品質な製品や付加価値が認められるサービス、さらに変化に柔軟に対応できる生産技術の有・無、あるいはネットワーク機能を利用しながらお客様と緩やかなコミュニケーションをおこなうといった、創造的で、しかも連続して価値を生み出すことができる経営システムや経営能力が問われようとしています。

  マーケットに成長余力がある時代には、過去のリニアな前提の上に経営システムを構築すれば経営が可能な時代でした。しかしこれからの時代、21世紀は、各企業自らがマーケットを創造していかなければなりません。それは、これまでのシェアの競争からマーケティング本来の意味である『市場の創造』をおこなうことに他なりません。

  このような時代に組織機能に重点を置いた経営、他の言葉を借りれば合理性・機能性だけを追求する経営スタイルでは、お客様の真のニーズを発見することも企業価値を見出すことさえできない時代になるのではないか、と危惧しています。

個人や企業も経営活動に関する真摯な取り組みがない限り、新しい時代における本当の仕事の意味や意義を理解することが難しい時代になりそうです。マーケットを創造するためには、敢えて極端な言い方をすれば全社員が、経営者的視点でビジネスを捉えることが重要ではないか、と。起業的・創業的時代においては、すべての社員がマーケットを覗いたり、あるいはお客様と継続的なコミュニケーションをおこない、また家族や友人など多くの人達から間接的、直接的に知りうる情報の中にこそ真の価値が存在するのではないでしょうか。

企業の仕事もこれまでのように、部門という全体の中における部分機能の役割を担うことから常に変化を前提とした組織システムや組織機能の構築が必要になります。経済や市場、あるいは個人の変化が当り前の時代だからこそ、常に変化に適応できる体勢が要求されるのです。

このような時代の特徴とは、常に変化させることが、実は安定につながるのです。変化に合わせるのではなく、企業やそこで働く個人を変化させるところから、経済や市場の変化を掴まえるといってもいいでしょう。でなければ、何が変化なのか、その本質を把握することなどできるはずがないと思われるからです。

  マイクロソフト社前代表取締役  成毛 真氏は、人材育成に関して次のように語っておられます。

『人事的な面で言えば、当社では5年以上は同じ仕事を続けさせないんですよ。現在関わっている業務に天賦の才能があろうと、人間的繋がりがあろうと、関係なく変えていきます。これは、取引先との癒着を起こさないという問題ではなくて、そうしないと人が育たないと考えているからです。営業マンばかりつくっても仕方がなくて、マーケティングの部門に行って、また戻ってくると。そうすると、マーケティング感覚の身についた営業マンになる。その次に開発部門やサポート部門をやって、もう一度営業に戻す。だんだん付加価値が付いてきます。会社全体の戦力を上げるうえでは、一人一人の能力を向上させ

なければなりませんから、そのために5年で転部させるわけです』

*プレジデント1999年12月号より

 

  大前研一さん流には、『 So What?で考えられるか』と言ったところでしょうか。

『本当の問題は何か』ということを社長の立場で考えることができるかどうかだと書いておられます。

*サラリーマンサバイバルより

 

スペシャリストか、あるいはゼネラリストかを論じる時代は、とうに過ぎ去っているように思えてなりません。即ち経営的思考や行動ができるかどうかが、まさに問われようとしているのだ、と私は確信しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:11:08

2.企業活動を俯瞰する

2.企業活動を俯瞰する

 

新入社員時代からの疑問

  私は、約22年間のサラリーマン時代を通して次の疑問をもつようになりました。

1.大学時代までの勉強と会社の仕事に必要な知識に乖離があるのではないか。

2.企業は、経営あるいは企業活動に必要な知識を理解させてこなかったのではな

    いか。

3.企業は、企業活動をサポートしている機能とそれらを活用する意味を理解させてこなかったのではないか。

 

別な視点で捉えれば、(1)学問的視点から実務的視点への切換えが必要(2)企業活動を俯瞰する知識や考え方の醸成が必要(3)企業における収益をあげるという外部的な機能と企業内で収益部門を支えるという管理的あるいは内部的機能を理解する必要性がある、といったことになるでしょうか。

 

  実は、私自身は卒業してから右肩あがりに直線的に仕事の能力ができあがり、その上自分自身の成長もこのように直線的に成長が可能だと、信じていました。

(図1参照)

  しかし現実の仕事は、想像を絶するギャップの連続で、逃げ出したいほどのショックでした。今思い返えせば、会社の仕事をすることとは、なるほど経験したことがないことばかりなのですからできなことのほうが当然と言えば当然なのですが、当時は卒業して自信満々ですから手におえません。

結論から言わせてもらえば、また約22年間のサラリーマン経験から言わせていただければ、これからベンチャー企業を立ち上げるみなさんや新入社員のみなさん達にとって企業の仕事を考える上で、必ず学ぶべきポイントが厳然と存在しています。

 

 

 

 

 

 

 


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最終更新日 : 2010-10-18 08:24:57

3.企業活動の原点をみる

3.企業活動の原点をみる

 

最も重要なポイントは前記(2)企業活動を俯瞰する知識や考え方の醸成が必要、だということです。

それは、何故か。

企業の存在目的を理解すことが一番重要だからです。具体的には、企業は、それぞれの企業が独自性ある付加価値をもった製品やサービスをお客様に受け入れてもらうこと、即ちお客様に購入していただくことが企業存立の大前提となるからです。さらに経理、総務、法務、資材、開発といった各部門の存在は、企業の存立基盤を支える機能だからです。簡単に考えれば、ひとりで全部の仕事をやれれば、それが一番いいわけです。開発、営業、経理、総務、人事などすべての仕事をやれればいいわけです。

しかし現実には、それができないのでやむを得ず各機能に分けて仕事の効率化を図ろうと試みてきたにすぎません。その結果、今日の企業活動では部門最適を追求しすぎたため、企業の存在目的を忘れ去ったかのように機能不全に陥っています。企業規模の拡大とともに、企業に就職しているようで実際は、企業のそれぞれの部門に就職している現実があります。

部門へ入社した人達が部門最適を目指すのは、ある面で仕方がないことだと言わざるを得ません。企業規模と企業活動があまりに大きいために企業の存立基盤を容易に理解できなくなっていますからね。

ここで企業活動を集約する形で俯瞰してみましょう。(図2参照)

 

 

 


 

企業活動を大枠でまとめてみると、第一に収益部門があります。収益部門とは、企業活動、あるいは企業存続の中心をなす機能です。企業は、なんらかの付加価値を創造して創造した価値をお客様に販売し購入していただくことで成り立っています。この機能なくして企業活動そのものがありえません。

第二には、経理部門の機能、いわゆる企業活動あるいは取引活動は、製品の販売やサービスの提供をおこないながら最終的にはお金に置き換わる取引形態を有しています。その上、このようなお金の取引には、企業会計原則、証券取引法、税法といった慣習および各法律に基づく会計処理が必要な取引活動です。

創業当初、大抵、社長あるいは数人のメンバーが手分けしながらおこなっていた前記営業活動や経理の仕事は、営業活動の拡大とともに、このような会計の仕事は、適法かつ専門的な経理処理の必要性が求められるようになり、創業当初、渾然一体となっていた仕事から営業は営業、経理は経理といった各機能を分離、独立してできあがってきたものです。

ということは、経理部門の本質的なあるいは実態的な仕事とは、まず収益部門で発生するお金の流れの実態があり、それらのお金の流れを伝票に起票することで帳簿の作成をおこなう、あるいは仕入れた商品の代金を支払ったりするという仕事だったはずです。

ここに経理の仕事の原点があるのです。

第三に、さらに事業規模が拡大していくことで、総務・人事的機能、例えば人材の採用、就業環境の整備、給与処理の経理からの分離、社内文書の整備、事務用品・備品の購入、社宅や住宅の整備、固定資産・リース資産、損害保険といった企業活動の発展とともに必要となるサポート機能を充実させることで収益部門あるいは経理部門からさらなる分離、独立をしてきたものです。

現在でも小企業あるいはベンチャー企業などでは、このような発展経過を見ることができます。また、このようなプロセスを見ることで企業活動の発展過程を理解しながら企業存立の原点を知ることは重要な意味があると確信しています。

  現在、ベンチャー企業に在籍する私は、まさにこのような発展段階をつぶさに見ることができます。

では、それぞれの機能をみてみよう。

第一の収益部門とは、各企業で開発される製品の販売、あるいはサービスをあくまでお客様に提供して購入していただけることを前提に、適法な企業活動の結果として創造される付加価値、最終的には利益を上げることを目標にしています。

当然、企業活動の根幹をなす機能です。このような機能があるからこそ企業は継続的に存続することができるという企業の存立基盤をなしているものです。

まさに企業の存在意義が問われるところです。

自分の会社の存在意義は何か、ということをどのような部門で仕事をしていても改めて認識することが重要です。

ソニーの出井会長は、城山三郎著「勝つ経営」の中で、「ソニーは海外で年1回ぐらい、世界中の中間管理職の研修を国籍を問わずいっしょにやっているんですけれど、海外でソニーを代表して責任をもって働いてもらうために、日本国籍の企業の立場と、ソニー企業全体のグローバルな立場と、各々の社員が働く国の立場、この三つを考える力は、ソニーで働く上で重要なことだと私は思うんです。個人の資質によってバランスの置き方は異なっていていい。個別最適でいいんですけど、判断するときに一瞬でもいいから全体最適を考えてほしいと。これは全体最適としてはどうかなと思うことがあれば、必ず本社のしかるべき所に一報をくださいと言っています。もちろん全体最適の解だけ求めたら、現場の責任者とはいえません。個別最適と全体最適の解はいつもちがうわけではない。」と語っておられます。

出井会長の話のように多国籍で企業活動をおこなう場合に限らず、今日の企業活動においても部門の最適が全体の最適なのか、いわば企業活動の最適なのかという疑問を常に考えて仕事をおこなうことが求められるでしょう。

特に本書のテーマは、どのような部門に配属されようと『収益機能』『経理的機能』、『総務・人事的機能』を習得しておかなければ、今後の企業活動を適切におこなうことができないと確信しています。

勿論、専門性を否定するつもりはありませんが、企業活動の大半を占める各部門の実務といわれる仕事では、これら『収益、経理、総務・人事の基本的機能』を理解していなければ全体最適の解、あるいは部門最適の解を見出せないことになると考えています。

いわば企業活動を貫いている本質的機能と言ってもよいでしょう。

 

第二の経理的機能ですが、実務の立場から見る経理の基本的な機能は、受取請求書の処理と債務計上の理解、固定資産・リース資産に関する購入と経理処理、事業計画と管理会計、決算の意味と適正な経理処理といったところが重要な機能となります。

特にカンパニー制やバジェット管理(部門損益の管理)をおこなう企業では、このような経理の基礎的知識が必要になります。最初から正しい経理処理ができるかどうかは、部門経営の第一歩です。そこから部門の課題や問題点などを把握して、最善の施策や対策をすばやく、的確に実行に移すことが可能となります。

また、これまでの日本企業の管理会計システムに関しては、間違いなく優秀だと思います。しかし各企業の社員達のすべてがこのような基礎的知識や機能を理解した上で、このような管理会計システムの運用ができているかどうかは、甚だ疑問だと言わざるを得ません。

なぜか。

これまでの日本企業の多くでは、事業計画策定業務に関して、本社の企画部門などのスタッフ達によっておこなわれてきました。このことは、本社ダウンで事業計画策定をおこなうことができる前提、いわゆる日本的な経済成長の前提があったからであり、さらに社会構造の同一性や画一性を前提にした成長が存在していたからではないでしょうか。

今日、日本経済の構造変化にともない、市場におけるマーケットの縮少や経営システムの抜本的変革の必要性など、いわば大手企業といえども事業の再構築が必然といえるほど大きな経済環境の変化に襲われています。

多くの企業のトップ達が、「時代が変ったのだ」、「新規事業を開拓せよ」などと声高に叫ばれていますが、では、社員個人が新規事業を展開できるだけの基礎的知識の習得や個人の能力を発揮するためのトレーニングをこれまでにやってきたのかというと、これまた甚だ疑問だといわざるを得ません。

だが時代は、多くの日本企業にマーケットへの対応においてさらなる変革を迫ろうとしています。

第三の機能である総務・人事機能ですが、はじめに総務的機能では、事務用品等購買、決裁関係、文書管理、固定資産やリース資産の物品の管理、水道光熱費や事務用品などの受取請求書確認、社屋や工場などの建物や施設の管理、損害保険の付保、危機管理、渉外、株式関係などの機能があり、人事的機能では、出退勤など勤怠、出張精算、人員、募集・採用、就業規則の策定・運用などといった機能を有しています。

人事的機能は、労働法や労働基準法といった法制度に基く運用が前提であり、日常的な会社業務をおこなっていく上での基本的インフラとなる機能です。

このように企業活動を集約すれば、これら三つの機能を併せ持って企業活動がなされているといっても過言ではありません。日常的な仕事では、目の前の仕事に忙殺されることが多いでしょうが、実は、企業の中ではこれらの機能が働いているのです。

さらに広義の企業活動を支える機能としては、生産の三要素である人、金、物といった経営要素を利用しながら企業活動を進めています。(図3参照)

 


こちらは、オーソドックスな経営活動の基本的な仕組みを捉えています。このことから理解しなければならないポイントは、収益を支えるマーケティング機能、いわば外部機能とそれらを支える内部管理機能、こちらは内部機能が存在していることです。

第一に収益を支えるマーケティング機能は、前記収益部門の機能になります。第二の内部管理機能は、収益部門を支える経理的機能と総務・人事的機能ということになります。

また、内部管理機能を支えていくことができるのも、収益部門の機能が健全に働くことで、十分な付加価値、すなわち企業維持費と給与、さらに利潤を生み出してくれるからです。

このような各機能の好循環が企業活動を円滑、継続的且つ創造的に企業を発展させる原動力となっています。

(図2)における三つの機能が重なる部分はなにか。こちらは、いわゆる経営的な機能と考えてください。これまでの日本企業では、戦後の長期的経済成長の中で見失われていた部分でもありますが、これからの企業においては経営者で企業業績が変化するほど厳しい経営環境が待っているでしょう。安定成長あるいはマイナス成長の中にあっても企業の成長戦略を明確に描くことができる経営者がいる企業のみが生き残っていくといえそうです。

横並びや上がり的な人事で昇格してきたこれまでの経営者では、到底これからの激しい変化に耐えうる経営はとても難しいように思えてなりません。

早くもマーケットでは、経営者の資質や企業戦略の変化の速さといったことを織込んだ形で株価の形成がなされているようです。しかもe-エコノミーとt-エコノミーの熾烈な競争は、まだはじまったばかりであり、本格的な競争環境では、経営者や企業価値、あるいは企業文化といった暗黙知の要素がより大きなパワーになっていくものと思われます。

企業規模が大きくなればなるほど企業は複数の事業領域をもっています。このような個別領域のビジネスを良好に展開するだけではなく、複数の事業領域間の連携、企業グループ全体の最適性の追求、それぞれがの事業領域が有している価値連鎖の推進、あるいは形式知と暗黙知による創発性の発生といったより複雑で困難な課題にチャレンジしなくてはなりません。

その意味では、ジュニアボード制などの活用で早期に経営職としての適性を発見するとともに、早期に役員登用をしていく人事制度の実施が待たれます。

また、現在おこなわれている取締役会改革での進展からみて、既存の大企業の中において経営職までいける人というのは、間違いなく極少数の人達にならざるを得ません。

では、チャンスがないかと言えば、そんなこともないでしょう。これからの時代ベンチャー企業の台頭で、経営職のニーズは高まることはあっても下がることはないと考えられます。

勿論、これまでの大企業における社内スペシャリストように営業だけしか理解できない、あるいは経理だけしか理解できない、または総務だけしか理解できないというのでは、このようなベンチャー企業では殆ど役に立たないと思われます。

だからこそ、若い人達は入社時から、また起業した場合には、創業期から企業における仕事の多機能性を十分認識しながら、実践的に3つの機能を習得していく必要があるのです。また、この三つの機能の中心にあるのが経営的機能ですから、収益的機能、経理的機能、総務・人事的機能を習得することが、実は、企業活動の真随に近づく早道なのです。

 


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最終更新日 : 2010-11-11 08:33:49


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