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四.禁帯出

 クローゼットの中にいたのは、


 私だった。
 私
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 
 私 

 正確には、私の写真がスキマなくびっしりとものすごい数貼られていたのだ。
 自分の顔がキライで、必要最低限しか鏡を見ない私としては、こんなにも自分の顔を見たのは初めてかもしれない。




 これらの写真はどうも、この部屋に来てから撮られたものではない。
 ランドセルを背負っている……ということは、小学生の頃の写真もあれば、こちらは比較的最近の……恐らく先々週あたりの写真もある。
 撮られている場所も、外を歩いているところ、コンビニで立ち読みをしているところ、自分の部屋でテレビを観ているところまで様々だ。部屋……? どの写真も私は撮られた記憶がないので、盗撮ということになる。


 写真が貼りつけられているところは壁かと思ったら引き出しのようで、試しに一つ引き出してみると、そこにも無数のファイルが収納されていた。

 中学1年 10月 外①
 中学1年 10月 外②
 中学1年 10月 お店①
 中学1年 10月 部屋①
 中学1年 10月 部屋②
 中学1年 10月 部屋③……などなど。
 
 まるで愛娘の成長アルバムのようだ。もちろん「実はおじさんが私の父親だったんだ――!」というオチではないだろう。
 試しに「中学1年 10月 部屋②」を開いてみると、私が部屋でくつろいだり、勉強したり、着替えたり、ムラムラしたりしている姿が事細かに写真とメモで記録されていた。


 1020日 1629分 制服から部屋着に着替える。また少しやせたみたいだ。
 どうも成長期のコにしては食事量が少ないようで、これでしっかりと大人の体型になれるのか心配になる。


 やかましいわ。


 ◇


 記録をさかのぼると一番古い記録は、私が小学4年生の頃だった。
 最初は写真もなく、メモ書きだけで、どうやらおじさんは私の家の近所を通りすがったところ、たまたま私を見かけ、そこで

 私 に 一 目 惚 れ を し た そ う な。

 そこからしばらくの間、おじさんは車の中から私の登下校や買い物に出ている姿を盗撮して、こうしてファイルに収めて記録していたのだと。
 女子中学生を監禁している時点でそりゃヤバイ人なんだけど、女子小学生をストーカーして盗撮しているとは、もう一段階更にヤバイ人だった。
 

 しかし、おじさんの私に対する情欲はそれでは収まりきらず、何とか私の家と部屋をつきとめると、私の部屋をのぞきこめる反対側のアパートを借りた。そして、そこで毎日寝起きしながら、私の部屋を覗き、私の部屋を盗撮して、干している服を観察していたとか(決して盗みはしなかったみたいだが)。

 だが、隣のアパートからでは当然見えない角度がある。
 私だって着替えるときはカーテンを閉めるしね。

 なので、おじさんは大胆な行動に出る。
 私が窓を閉め忘れて出かけた日に侵入し(念のため言っておくと、私の部屋は2階なのだが)、窓の鍵が完全には締まらないように細工をする。窓の鍵は、完全に締まっていない「半ロック」の状態だと、実は外から窓を持ち上げて、下ろす、持ち上げて、下ろすを繰り返すことで摩擦によってちょっとずつ開けることが出来るそうだ。

 確かにしばらく前から窓の鍵がかかりにくいと思っていたが、私は特に気にしていなかった。つまり、窓の鍵が完全に締まらないように細工をすることで、私には気付かれず、おじさんは自由に窓から私の部屋に侵入できるようになったのだ。


 少しずつ少しずつ、おじさんは私の部屋に隠しカメラと盗聴器をしかけた。
 最終的にはカメラは8か所、盗聴器が2か所設置された。これが私が小学6年生の頃だ。

 私はこのマンションに監禁されてからカメラによって24時間監視されるようになったと思っていたのだが、実際には小学6年生の頃からすでに365日監視されていたのか……




「ということは……」

 色々と合点がいったところがある。
 おじさんは私の部屋以外には侵入しなかったみたいだが、私の部屋を24時間365日監視していたのなら“あの家”がどんな家なのかが分かっていたのだろう。

 だから――――「心配」なのか…… 

 ◇


 本来なら、女子として「ずっと見られていただなんて気持ち悪い!」みたいな反応をするべきなんだろうけど、私の率直な気持ちは「少し、安心した」だった。
 おじさんからして見れば4年もストーカーしていた念願の相手をこうして監禁して「ようやく手に入れた」現状、すぐに殺すことはないだろうし。少なくともこの4年間は私に執着していて、他のコを監禁しているような余裕もなさそうだった。

 どうしておじさんの用意してくれた服が私のサイズにピッタリだったのかとか、何故この部屋に来て最初に作ってくれた料理が私の好きなチャーハンだったのかとか、どうやって私の愛読している漫画雑誌を知っていたのかとか、腑に落ちたことも多い。
 それと、何より……おじさんが私のことを「かわいい かわいい」 としきりに言っていたのもお世辞じゃなく、本気で私をかわいいと思ってくれているのだろう。



 4年続いた記録の終盤、
 いよいよおじさんは計画を立てる。

 4年間ストーカーを続け、2年間部屋を監視し続けた私を拉致監禁しようという計画。

 両親が帰らない夜をねらって、私の部屋の飲み物にちょっと睡眠が深くなる睡眠薬を仕込んでおく。私が深い眠りに入ったところ、いつも通り窓から侵入する。大きめのバッグに私を詰め込み、部屋のカメラと盗聴器を回収して、そのままこのマンションに連れ込む。

 その準備は終わり、あとはいつ決行するかというだけだったが、この一週間は珍しくウチの両親が共に家に帰っていたのでなかなか決行出来ない――――――ここで記録は終わっている。


 恐らく、なかなか計画を決行できずにやきもきしていたところに、家出をした私を見かけて声をかけたということだろう。拉致するリスクもなく、相手がノコノコと監禁されにやってくるとは、おじさんからすればカモがネギとドナベとガスコンロを背負ってやってきたみたいなものだったことだろう。



 さて。
 ファイルを引き出しに戻し、クローゼットを締め、錠も戻そうかと考えたが、意味もないのでそのままにしておいた。リビングに戻ると、時計は8時をまわっていた。そろそろおじさんも帰ってくる時間だろうか。



 私のするべきことは――――――

 おじさんにとって私が特別な存在だったとしても、それがいつまでも続く保証はない。理想と妄想が積み上げられた分、一瞬で幻滅される可能性もある。
 そうなる前に、こちらから攻撃をしかけなくてはならない。タイミングを間違えれば私の命運は尽きる。それを見極めなくてはならない。


 
 “あの部屋にだけ電灯がついていなかった”理由とは、
 おじさんからのメッセージとは、


 ガチャリ

 玄関の扉が開く音がする。おじさんが帰ってきたのだ。


 私は首輪の鎖が届くぎりぎりの位置まで鉄格子に近づく。
 鉄格子の向こうにおじさんの姿が見えた。急いで帰ってきたのが分かる。少し、息を切らしている。


「お帰りなさい、おじさん」

 だが、まだ攻撃のタイミングではない。
 その時が来るまで私は、全力で媚びる演技をすることにした。

 to be continued...


この本の内容は以上です。


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