目次
第1章  パドルビー
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第2章  動物語
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第3章  またお金の問題
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第4章  アフリカからの便り
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第5章  大旅行
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第6章  ポリネシアと王様
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第7章  サルの橋
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第8章  ライオン総長
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第9章  サルの会議
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第10章 この世でもっとも珍しい動物
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第11章 キモメン王子
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第12章 医学と魔法
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第13章 赤い帆と青い翼
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第14章 ネズミの警告
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第15章 バーバリー・ドラゴン
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第16章 ホーホーは耳のプロ
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第17章 海の情報屋
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第18章 におい
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第19章 岩
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第20章 小さな漁村
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最終章  ふたたび、わが家へ
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長い間、沈黙がつづきました。

ジップは石のようにかたまったままです。
息をするのさえ、つらそうです。
やがて口を開いたとき、ジップはまるで、夢の中で悲しそうに歌っているかのようでした。

「レンガ……」

ジップは、とても低い声でささやきました。

「古い黄色いレンガ……庭のレンガべいが長い年月をかけて、朽ちている。こなごなになっている。山のせせらぎにいる、若いウシの甘い息。屋根に……ハト小屋の……あるいは穀物倉庫の屋根に、昼の光がふりそそいでいる。子供用の黒い手袋が、クルミ材の机の引き出しにはいっている。小さなマッシュルームが、腐葉土の中から今にも顔をだしそうだ。それから……それから……」

ブウブウが聞きました。

「甘くておいしいニンジンはある?」

「ねーよ! ていうか、お前はなんでそう、食いもんのことばっかなんだ。ニンジンなんかどこにもねーっつーの! ……そんなことより、かぎタバコのにおいがしないなあ。パイプやふつうのタバコのにおいはいくらでもするのに。あと、葉巻もすこしだけするな。でも、かぎタバコはない。南風に変わるのをまつしかないか……」


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「そうかい。この風だと弱いのかい」

ブウブウが鼻をならします。

「ガフッ! ウサンくさい話だな、ジップ。こんな海のど真ん中で、においだけを頼りに人をさがすなんて、きいたこともない! ぜったいに見つからねーよ。断言するぜ!」

「なんだと!」

ジップは本気で怒りました。

「そのハナ、かみきるぞ! 先生が甘いからっつって、なめたマネしてんじゃねえ!」

「ケンカはストップ!」

先生がとめました。

「ストップだ! 人生はみじかい。聞かせてくれ、ジップ。そういったにおいはどこから吹いてくる?」

「ほとんどが、デボンやウェールズからです。風がそっちから吹いてるんです」

「なるほど、そうなのか! 本当に驚くべきことだ。いや、まったく。次の本のためにメモしておかないと。わしもそんな風にかげるように、教えてくれんか。……いや……やっぱり、今のままでいいか。『知らぬが仏』ともいうしな。さあ、下へおりて晩ご飯にしよう。すっかり腹ペコだ。」

「ブヒブヒ、オレもー」

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第19章 岩

次の朝早く、みんながシルクのベッドから飛び起きると、太陽はまぶしく輝き、風は南から吹いていました。

ジップはその南風を30分間かぐと、先生のところへやってきて、首をふりました。

「かぎタバコののにおいはまだしません。東の風をまちましょう」

しかし、お昼の3時になり、東風が吹いてもかぎタバコのにおいはしませんでした。

男の子は、ものすごくガッカリして、また泣き出しました。

「やっぱり見つからないんだね……」

ジップは先生にこういうしかありませんでした。

「この子にいってください。西風に変わったら、たとえおじさんが中国にいたって、見つけてやるって。かぎタバコの『ブラック・ラピー』のにおいさえすれば、きっと見つかります!」

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風が西風に変わるのに、3日かかりました。
それは金曜日の朝早く、ちょうど明るくなってきたころです。

いい感じの雨っぽいモヤが、うすい霧のように海上をただよっていました。
風はやわらかく、あたたかく、しめっていました。

ジップは目をさますと、甲板まで走って上がって、風の中に鼻を突き出しました。
そして、狂ったように興奮して、先生を起こしに階段をかけ下りました。

「先生! やりました! 先生! 先生! 起きてください! 聞いてください! やったんです! 西風です。かぎタバコのにおいしかしません。上に来て、船を走らせてください――すぐに!」

「わかった!」

先生はベッドから転がり落ちると、舵をとるために船のうしろにある操縦室まで走ります。
一緒に走りながらジップがいいます。

「ぼくは船のへさきにいます。先生は、ぼくの鼻を見ててください。ぼくの鼻の方向に船を向けるんです。あの子のおじさんは、そんなにとおくないはずです。においがとても強いんです。それに風もちょうどいい感じにしめっています。さあ、ぼくを見ててください!」

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午前中、ずっとジップは船のへさきに立ち、風のにおいをかいで、先生に舵の方向を示しつづけていました。
そのあいだ、ほかのなかまや男の子は、どうなることかと目を丸くしてジップを見守っていました。

昼ごはんの頃、ジップはアヒルのダブダブに頼みました。

「やばい。ちょっと先生呼んできて」

「ちょっと待ってて」

ダブダブが先生を船の後ろの操縦室からつれてきました。

「どうした!」

「あの子のおじさんは、飢え死にスレスレです。すぐに行かないとまずいです」

「どうして飢えてるってわかるんだ?」

「風のなかに、かぎタバコのにおいしかないんです。もし、なんか作ったり、食べてたりしてたら、そのにおいもするはずです。でも、新鮮な水すら口にしてません。あるのはかぎタバコだけ――わしづかみにして、かいでます。どんどん近づいてます。においがどんどん強くなってます。でも、とにかくいそいでください。飢え死にギリギリなのは確かです」

「わかった。ダブダブや。ツバメに船を引っ張るよう頼んでくれ。海賊に追いかけられたときのアレだ」

勇敢なちいさき鳥、ツバメがたくさん空から下りてきました。
またもや、自分たちの体と船を結びました。


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