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第9章 サルの会議
チーチーは、ドリトル先生が起きるまでジャマがはいらないようにと、ドアのところで見張っていました。
やがて、先生は目をさますと、
「そろそろパドルビーへ帰らないといかんな」
といいました。
それを聞いて、現地のサルはとてもおどろきました。
サルは、先生がずっとここにいてくれるものだと思い込んでいたのです。
夜になると、そのことについて話しあうため、ジャングル中のサルが集まってきました。
まずはチンパンジーの長老が立ち上がりました。
「あの大先生は、なぜ帰るのじゃろう? ワシらと一緒だと、つまらないのじゃろうか」
しかし、だれも答えられません。
今後は、大ゴリラが立ち上がりました。
「先生にここにいてもらうよう、みんなで頼んでみたらどうだ? 家を新しくして、ベッドももっと大きくするんだ。召し使いももっと用意しよう。そうやって、気持よく暮らせますよって約束したら、もしかしたら、ずっといてくれるかもしれないぞ」
次にチーチーが立ち上がると、みんなはいっせいにざわめきたちました。
「ほらほら、見てみな! あれがチーチーだ」
「すごい冒険野郎なんだって」
「シッ、話が始まるぞ!」
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チーチーの話がはじまります。
「みなさん。残念ですが、先生がここに残るのはムリでしょう。先生はいってました。パドルビーでお金を借りてて、それを返しにもどらないといけないって」
「お金ってなんだ?」
サルが質問します。
「都会ではお金がないと何も手にはいりません。何もできません。生きていくことも、ほとんど不可能です」
チーチーがそういうと、他のサルが質問しました。
「お金を払わないと、飲み食いもできないの?」
「そうです」
チーチーはうなずきました。
「ぼくもオルガン弾きにつれられていたころは、こどもに向かって、『お金ちょうだい』といわされてました」
チンパンジーの村長は、オランウータンの長老に耳打ちしました。
「兄弟よ。人間というのはおかしなもんじゃのう。そんなところに住みたがるとは。なんとも、わけのわからん話じゃ」
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チーチーは話を続けます。
「ここへ来るまえ、ぼくたちは海を渡る船もなく、旅の食料を買うお金もありませんでした。食料は、帰ってきたら払うといって、手に入れました。船は、ある船乗りから借りました。でも、その船はアフリカについたとき、岩にぶつかって壊れてしまったんです。先生は、帰って、その船乗りに別の船を用意しないといけないといってます。だって、その人も貧乏で、その船しか財産がないんです」
サルたちは、だまりこんでしまいました。
地面にすわって、じっと考えているのです。
やがて、一番大きなマントヒヒが顔をあげました。
「大先生が帰る前に、なにかすばらしいプレゼントを用意しよう。先生に、感謝の印をみせるべきだ」
すると、木の上の方に座っていた、小さなかわいい赤ザルが叫びました。
「ボクもそう思う!」
その叫び声をきっかけに、みんな口々に叫びだし、無茶苦茶やかましくなりました。
「そうだ、そうだ」
「先生にプレゼントしようじゃないか!」
「人間がまだ手にしたこともないような素晴らしいプレゼントを!」
では、一番素晴らしいものってなんだろうということになりました。
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考えこむ者もいれば、議論をかわすものもいます。
あるものは、
「ココナッツを50袋!」
といい、あるものは
「バナナ100ふさがいいよ。そしたら、お金のいる国に帰っても、くだものだけはお金を払わなくてすむよ!」
とか、いってます。
しかし、チーチーは、
「そういうのは重すぎて遠くまで運べないし、くさってしまって半分も食べられないんです」
と説明しました。
「先生がよろこぶのは動物です。ぜったいに大事にします。動物園にもいないような珍しい動物をプレゼントしてください」
「動物園ってなんだ?」
みんな知らないようです。
チーチーは動物園とはなにか、説明しました。
「都会にある施設で、オリにはいった動物をお客さんが見に来るんです」
すると、みんなはとてもおどろいて、口々にいいました。
「なんとまあ、アホらしいというか、他愛もないというか、そんな幼稚なことが楽しいのかい、人間は? はぁ……牢屋ごっこがねえ」
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次は、先生に贈る珍しい動物には何がふさわしいのか、人間が見たことない動物というのは何なのかという話になりました。
マーモセットの大将が質問します。
「イグアナはむこうにいるかい」
「いますねえ。ロンドン動物園に一匹いました」
別のサルが質問します。
「オカピは?」
「いますねえ。ベルギーです。5年前、オルガン弾きに連れられていったとき、アントワープって大きな街にいました」
また別のサルが質問します。
「オシヒッキーは?」
「あ、それはいません。人間はオシヒッキーはまだ見たことがないでしょう。それを先生に贈ってください」