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第2章 動物語
その日、先生は台所で、おなかが痛くなってやってきたペット・ショップ『ネコマンマ』の主人と話をしていました。
ネコマンマの主人がいいます。
「ねえ、先生。もう人間の医者はやめて、動物の医者になったらどうだい?」
そのとき、オウムのポリネシアは窓にとまって、外の雨を見ながら船乗りの歌をさえずっていました。
しかし、ネコマンマの主人のことばを聞くと、歌をやめて聞き耳を立てました。
「いいかい、先生。先生は、動物のことだったら何でもわかる。そこいらの獣医より、よっぽど何でも知っている。先生の書いたネコの本、あれは本当にすばらしい!」
「それほどでも……」

先生はけんそんしましたが、主人はきいていません。
「いや、オレは読み書きはダメなんだけどね。というか、それができたら、オレも本の一冊くらいは書いてるはずなんだけどね。しかし、女房のテオドシア。あいつは学があるからね。あいつに先生の本を読んでもらったんだ。いやあ、あれはすばらしい。すばらしいとしかいいようがない。」
「いやいや……」
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「先生は、ほんとはネコなんじゃないか? 考えてることが、まんまネコだよ。よく聞きなよ。動物の医者ってのはもうかるんだ。知ってたかい、先生? ほら、ばあさん連中がイヌやネコを飼ってるだろ。あのイヌネコが病気になったら、全部、オレがここへ連れてくるようにいってやるよ。なあに、なかなか病気にならないようだったら、売り物のネコのエサに毒かなんか仕込んで……」
「こらこら、いかん!」
先生はあわてました。
「そんなことしちゃいかん! 悪いことはいかん!」
「もちろん、かるーいヤツでさあ。ちょっとグッタリするくらいのね。……でもたしかに、イヌやネコは割にあわねえな。それに考えたら、そんなことしなくても、あいつら病気になるか! だってね、先生。あのばあさん連中ときたら、イヌネコにエサをやりすぎるんだ。それ以外にも、ほら、この辺の百姓どももみんな、ウマやヒツジが弱ったら、医者にみせるじゃないすか。だから、どうです。動物のお医者になったら?」
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ネコマンマの主人が帰ると、オウムのポリネシアは窓からテーブルに飛んできました。
「あの男、なかなかいい線いってるじゃないですか! 先生、そうしましょう! 動物のお医者さんになってください。もう、バカな人間を相手にするのはやめましょう。あいつら、世界一の名医を見分ける脳みそもないんだから……。先生、動物をみてください。動物なら、すぐにわかってくれます。お願いします!」
「うーん、動物の医者はいっぱいいるからなあ」
ドリトル先生は、鉢植えの花を雨に当てるため、窓の外に出しました。
「たしかに、いっぱいいます。でも、ロクなのがいません。いいですか先生。今から大事なことをいいますよ。先生は、動物がことばを話すことを知っていますか?」
「オウムはしゃべるよね。それは知っている」
「あのですね。私たちオウムは、二つのことばを話すことができるんです。人間のことばと鳥のことばと」
ポリネシアは誇らしそうです。
「もし私が、『ポリネシアはクラッカーを食べたい』と言ったら、先生はわかりますよね。でも、これはどうです? 『カカ、オイ、イー。フィーフィー?』」
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「なんだそりゃ! どういう意味だ?」
「これは鳥の言葉で、『おかゆはもう、あったまったか?』という意味です」
「へえ! お前さん、今まで、そんな風にしゃべったことなんかなかったじゃないか!」

「どうでしょうねえ」
ポリネシアは、左の羽根からクラッカーのかけらを払いのけながらいいました。
「いっても、先生にはわかんなかったでしょうからねえ」
「もっと聞かせてくれ」

先生はとても興奮して、走ってドレッサーまで行って、引き出しから紙と鉛筆を出してきました。
「いいかい、ゆっくりやってくれよ。書くからね。こいつはおもしろい。実におもしろい! まったく聞いたことがない話だ。まずは、鳥の『あいうえお』からだ。ゆっくりやってくれ」
こんな風にして、ドリトル先生は、動物には言葉があって、おたがいに話をしているということを知ったのです。
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その雨の日の午後いっぱいかけて、ポリネシアは台所のテーブルに座って鳥語を教え、先生はそれを書きとめました。
お茶の時間にイヌのジップが入ってきました。
ポリネシアが先生にいいます。
「ほら、見てください。ジップが話しかけてます」
「わしには耳をかいているようにしか見えんが……」
「イヌが話すとき使うのは、口だけではないんです」
ポリネシアは眉をあげて、甲高い声をあげました。
「イヌは耳で、足で、しっぽで、色んな風に話をします。たとえば音を出したくないとき。そういうとき、イヌは鼻を半分ピクピクさせます。この意味、わかりますか?」
「わからん」
「『雨がやんだか知ってるか?』って意味です。質問ですよ。イヌは質問の時はたいてい、鼻を使います」
それからしばらくかけて、ドリトル先生はオウムに教えてもらって動物の言葉ができるようになりました。
自分でも話せるし、いってることもすべてわかるようになったのです。
こうして先生は人間の医者から足を洗うことにしたのです。

麻野一哉