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そんなある日のこと。
「ひゃあ!」
リューマチ患者のおばあさんが、ハリネズミの寝ているイスに腰を下ろしてしまい、二度と来なくなってしまいました。
15キロ先のオクセンソープという町の別のお医者さんに毎週土曜日、車で通うようになったのです。
妹のサラはいいました。
「兄さん、こんなに動物だらけで患者さんが来るわけないでしょ。診察室にハリネズミやネズミがあふれてるなんて、ありえないわ! 動物のせいで来なくなった人はこれで4人目よ。地主のジェンキンスさんも牧師さんも『病気になってもこの家には近づきたくない』ってよ。もう、毎日、貧乏が止まらない! こんなことしてたら、金持ちは誰も来なくなるじゃない」
「金持ちより、動物のほうが好きなんだ」
「この、変人!」
妹は部屋から出て行きました。
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それからも、先生のペットはふえる一方で、患者さんはへる一方です。
とうとう最後には、動物のことを気にしないペット・ショップ『ネコマンマ』の主人以外、だれも来なくなりました。
そのネコマンマの主人にしても金持ちじゃありません。
年に一度、クリスマスの時だけ病気になり、薬をひとビン600円で買うだけです。
いくら昔のことといっても、1年に600円では生活できません。
もし先生が貯金箱に貯金していなかったら、どうなったことでしょう。
それでも、先生はペットをふやすのをやめませんでした。
えさ代が大変です。
貯金はどんどん減っていき、ピアノを売ったので、中に住んでいたネズミは机の引き出しに引っ越しました。
そのお金もなくなると、日曜日に着る用の茶色の服も売り、もっともっと貧乏になってしまいました。
今では、先生が背高帽子をかぶって歩いていると、村の人はこういいます。
「あ、ドリトル先生だ! 医学博士様だ。前は、ウエストカントリーで一番有名な先生だったのに、今は落ちぶれて、クツ下も穴だらけだって!」
だけど、イヌやネコや子供は今もかけより、先生の後について町を歩きます。
それだけは貧乏になっても変わりません。
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第2章 動物語
その日、先生は台所で、おなかが痛くなってやってきたペット・ショップ『ネコマンマ』の主人と話をしていました。
ネコマンマの主人がいいます。
「ねえ、先生。もう人間の医者はやめて、動物の医者になったらどうだい?」
そのとき、オウムのポリネシアは窓にとまって、外の雨を見ながら船乗りの歌をさえずっていました。
しかし、ネコマンマの主人のことばを聞くと、歌をやめて聞き耳を立てました。
「いいかい、先生。先生は、動物のことだったら何でもわかる。そこいらの獣医より、よっぽど何でも知っている。先生の書いたネコの本、あれは本当にすばらしい!」
「それほどでも……」

先生はけんそんしましたが、主人はきいていません。
「いや、オレは読み書きはダメなんだけどね。というか、それができたら、オレも本の一冊くらいは書いてるはずなんだけどね。しかし、女房のテオドシア。あいつは学があるからね。あいつに先生の本を読んでもらったんだ。いやあ、あれはすばらしい。すばらしいとしかいいようがない。」
「いやいや……」
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「先生は、ほんとはネコなんじゃないか? 考えてることが、まんまネコだよ。よく聞きなよ。動物の医者ってのはもうかるんだ。知ってたかい、先生? ほら、ばあさん連中がイヌやネコを飼ってるだろ。あのイヌネコが病気になったら、全部、オレがここへ連れてくるようにいってやるよ。なあに、なかなか病気にならないようだったら、売り物のネコのエサに毒かなんか仕込んで……」
「こらこら、いかん!」
先生はあわてました。
「そんなことしちゃいかん! 悪いことはいかん!」
「もちろん、かるーいヤツでさあ。ちょっとグッタリするくらいのね。……でもたしかに、イヌやネコは割にあわねえな。それに考えたら、そんなことしなくても、あいつら病気になるか! だってね、先生。あのばあさん連中ときたら、イヌネコにエサをやりすぎるんだ。それ以外にも、ほら、この辺の百姓どももみんな、ウマやヒツジが弱ったら、医者にみせるじゃないすか。だから、どうです。動物のお医者になったら?」
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ネコマンマの主人が帰ると、オウムのポリネシアは窓からテーブルに飛んできました。
「あの男、なかなかいい線いってるじゃないですか! 先生、そうしましょう! 動物のお医者さんになってください。もう、バカな人間を相手にするのはやめましょう。あいつら、世界一の名医を見分ける脳みそもないんだから……。先生、動物をみてください。動物なら、すぐにわかってくれます。お願いします!」
「うーん、動物の医者はいっぱいいるからなあ」
ドリトル先生は、鉢植えの花を雨に当てるため、窓の外に出しました。
「たしかに、いっぱいいます。でも、ロクなのがいません。いいですか先生。今から大事なことをいいますよ。先生は、動物がことばを話すことを知っていますか?」
「オウムはしゃべるよね。それは知っている」
「あのですね。私たちオウムは、二つのことばを話すことができるんです。人間のことばと鳥のことばと」
ポリネシアは誇らしそうです。
「もし私が、『ポリネシアはクラッカーを食べたい』と言ったら、先生はわかりますよね。でも、これはどうです? 『カカ、オイ、イー。フィーフィー?』」

麻野一哉