目次
第1章  パドルビー
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第2章  動物語
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第3章  またお金の問題
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第4章  アフリカからの便り
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第5章  大旅行
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第6章  ポリネシアと王様
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第7章  サルの橋
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第8章  ライオン総長
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第9章  サルの会議
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第10章 この世でもっとも珍しい動物
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第11章 キモメン王子
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第12章 医学と魔法
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第13章 赤い帆と青い翼
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第14章 ネズミの警告
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第15章 バーバリー・ドラゴン
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第16章 ホーホーは耳のプロ
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第17章 海の情報屋
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第18章 におい
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第19章 岩
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第20章 小さな漁村
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最終章  ふたたび、わが家へ
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第19章 岩

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第19章 岩

次の朝早く、みんながシルクのベッドから飛び起きると、太陽はまぶしく輝き、風は南から吹いていました。

ジップはその南風を30分間かぐと、先生のところへやってきて、首をふりました。

「かぎタバコののにおいはまだしません。東の風をまちましょう」

しかし、お昼の3時になり、東風が吹いてもかぎタバコのにおいはしませんでした。

男の子は、ものすごくガッカリして、また泣き出しました。

「やっぱり見つからないんだね……」

ジップは先生にこういうしかありませんでした。

「この子にいってください。西風に変わったら、たとえおじさんが中国にいたって、見つけてやるって。かぎタバコの『ブラック・ラピー』のにおいさえすれば、きっと見つかります!」

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風が西風に変わるのに、3日かかりました。
それは金曜日の朝早く、ちょうど明るくなってきたころです。

いい感じの雨っぽいモヤが、うすい霧のように海上をただよっていました。
風はやわらかく、あたたかく、しめっていました。

ジップは目をさますと、甲板まで走って上がって、風の中に鼻を突き出しました。
そして、狂ったように興奮して、先生を起こしに階段をかけ下りました。

「先生! やりました! 先生! 先生! 起きてください! 聞いてください! やったんです! 西風です。かぎタバコのにおいしかしません。上に来て、船を走らせてください――すぐに!」

「わかった!」

先生はベッドから転がり落ちると、舵をとるために船のうしろにある操縦室まで走ります。
一緒に走りながらジップがいいます。

「ぼくは船のへさきにいます。先生は、ぼくの鼻を見ててください。ぼくの鼻の方向に船を向けるんです。あの子のおじさんは、そんなにとおくないはずです。においがとても強いんです。それに風もちょうどいい感じにしめっています。さあ、ぼくを見ててください!」

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午前中、ずっとジップは船のへさきに立ち、風のにおいをかいで、先生に舵の方向を示しつづけていました。
そのあいだ、ほかのなかまや男の子は、どうなることかと目を丸くしてジップを見守っていました。

昼ごはんの頃、ジップはアヒルのダブダブに頼みました。

「やばい。ちょっと先生呼んできて」

「ちょっと待ってて」

ダブダブが先生を船の後ろの操縦室からつれてきました。

「どうした!」

「あの子のおじさんは、飢え死にスレスレです。すぐに行かないとまずいです」

「どうして飢えてるってわかるんだ?」

「風のなかに、かぎタバコのにおいしかないんです。もし、なんか作ったり、食べてたりしてたら、そのにおいもするはずです。でも、新鮮な水すら口にしてません。あるのはかぎタバコだけ――わしづかみにして、かいでます。どんどん近づいてます。においがどんどん強くなってます。でも、とにかくいそいでください。飢え死にギリギリなのは確かです」

「わかった。ダブダブや。ツバメに船を引っ張るよう頼んでくれ。海賊に追いかけられたときのアレだ」

勇敢なちいさき鳥、ツバメがたくさん空から下りてきました。
またもや、自分たちの体と船を結びました。

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いまや、恐ろしいほどのスピードで、船は波間を駆け抜けていきます。
あまりに速いので、ぶつかってははかなわないと、海の魚が必死でとびのいています。

みんな、とても興奮していました。
みんなが見ているのは、ジップではなく、海のかなたです。
おじさんが飢えているという、その陸地が見えないか、目をこらしているのです。

しかし、何時間たっても、まだ船は走り続けていました。
海は、いつまでも海のままです。
どこにも陸地は見えません。

みんな、おしゃべりをやめ、静かにすわっています。
不安と失望が、しずかにおそってきます。
男の子の胸に、またもや、悲しみが広がっていきます。
ジップの顔にもあせりの色がうかびます。

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ついに夕方です。

まさに太陽が沈んでいる最中、マストのてっぺんにとまっていたフクロウのホーホーが、突然、素っ頓狂な叫び声をあげて、みんなをおどろかせました。

「ジップ! ジップ! おっきい、おっきい岩が目の前に見えるわ。ほらあそこ見て! 空と海のあいだ。お日さんの光が照り返して、金色に見える! においはあそこからするんちゃうか?」

「そう。そのとおり。あそこだ。ついに、ついに見つけた!」

近づいていくと、それは、とても巨大な岩でした。
そのへんの野原くらいの大きさがあります。木も草も……なにもありません。
なめらかな大きな岩で、カメの甲羅のようにつるっとしていました。

先生は船で岩のまわりを船でぐるりとまわりました。

しかし、どこにも人の姿はありません。
みんなは射るような目で必死に探しまわり、ドリトル先生は望遠鏡を船底から持ってきました。

しかし、生きているものはなにも……一羽のカモメも、一匹のヒトデも、いや、一片の海藻すらみつかりません。

じっとして耳をすませます。
耳をピンとたてて、物音をさぐります。

しかし、聞こえて来るのは、さざ波が船の脇腹をやさしく叩く音だけです。
今度は、呼声を上げ始めました。

「おーい! だれかー! おーい!」

のどが枯れるまで上げ続けました。しかし、ただやまびこが岩からもどってくるだけです。

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男の子は、わっと泣き出しました。

「やっぱりおじさんはいないんだ! 村に帰ったら、なんていおう!」

しかし、ジップはいいます。

「絶対、ここにいます。絶対! 絶対にです! においの元はここです。おじさんは絶対にここにいます。断言します! 船をもっと近づけて、ぼくを岩に飛び移らせてください」

先生は、できるだけ船を近づけて、イカリをおろしました。
ジップと一緒に船からでて、岩にあがります。

ジップは鼻を地面に近づけながら、岩の上をすべて走りまわります。

上がったり下りたり。
バックしたり前に行ったり。
ジグザグにくねったり、往復したり、ターンしたり。

ジップをおいかけて、先生もぜいぜいと息が切れてきました。

「ここだ!」

ついにジップが大きな吠え声をあげました。
先生がかけ上がってくると、ジップは、岩の真ん中にあいている大きな深い穴をのぞき込んでいました。

「あの子のおじさんは、この下です」

ジップは静かにいいました。

「あのバカなワシが見つけられないわけだ! これはイヌでないと無理だ!」

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先生とジップは穴の中にはいりました。
地下まで長く続く、洞窟かトンネルの一種のようです。

先生がマッチをすって暗い道を照らします。
ジップはそのうしろをついていきます。

マッチはすぐに消えてしまうので、先生は、何度も何度も何度もマッチをすりました。

ついに道が終わり、岩に囲まれた小さな部屋のようなところにでてきました。

その部屋の真ん中に、腕枕をした、真っ赤な髪の男が寝ころんでいました――なんと、ぐっすりと眠っています!

ジップはその男に近寄って、かたわらに置いてあるものをかぎました。

先生がつまみあげてみると、それは大量のかぎタバコでした。
『ブラックラピー』のかたまりだったのです!