目次
第1章  パドルビー
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第2章  動物語
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第3章  またお金の問題
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第4章  アフリカからの便り
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第5章  大旅行
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第6章  ポリネシアと王様
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第7章  サルの橋
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第8章  ライオン総長
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第9章  サルの会議
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第10章 この世でもっとも珍しい動物
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第11章 キモメン王子
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第12章 医学と魔法
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第13章 赤い帆と青い翼
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第14章 ネズミの警告
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第15章 バーバリー・ドラゴン
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第16章 ホーホーは耳のプロ
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第17章 海の情報屋
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第18章 におい
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第19章 岩
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第20章 小さな漁村
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最終章  ふたたび、わが家へ
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第12章 医学と魔法

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第12章 医学と魔法

ポリネシアはだれにも見られないように、そおっと、そおっと木のこずえから離れ、牢屋まで飛んでいきました。

ブウブウが、窓の格子から鼻をつきだしているのが見えます。
宮殿の台所から流れてくる料理のにおいをかごうとしているのです。

「ブヒブヒ……いいにおいだなあ」

ブウブウブウブウ!」

「あれ? ポリネシア」

「話があるの。先生をよんできて!」

ブウブウはうたたねをしていた先生を起こしに行きました。
ドリトル先生が顔をだすと、ポリネシアはささやき声で話し出しました。

「聞いてください。今夜、バンポ王子が先生に会いきます。それで、なんとかしてその王子をイケメンにしてほしいんです。ただし、最初に王子と約束してくださいね。牢屋のカギを開けることと、航海に使う船を用意するようにって」

「なるほど、それは素晴らしい。しかし、イケメンにするというのはそう簡単なことじゃないぞ。お前さんの話だと、まるでお面でもかぶるみたいに聞こえるわい。そんなに簡単なもんじゃない。『ヒョウの模様を変えられるか?』ということわざは知っとるか?」

「くわしいことはわかりません。でも、イケメンにするしかないんです。がんばって、何か方法を考えてください。カバンにいっぱい薬があるじゃないですか。イケメンにさえすれば、あの王子はなんだってしてくれますよ。この牢屋からでるには、それしかないんです」

「わかったよ。なんとかしてみよう。そうじゃなあ……」

先生はブツブツいいながら、薬カバンの方へ歩いていきます。

「骨格柔軟……筋肉……弛緩……シリコンを埋め込んで……」

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さて、夜になりました。
バンポ王子が先生のいる牢屋へ忍んできました。

「博士。マロはとても不幸な王子なのでおじゃる。何年か前、マロは『眠れる森の美女』という本にでてくる『眠り姫』を探す旅にでたのじゃ。世界中、何日も何日も旅を続けて、マロは、ついにその姫を見つけたでおじゃるよ」

「へえ」

「姫を起こそうと、本に書いてあるとおり、とてもやさしくキスをしたでおじゃる。そしたらなんと、本当に目を覚ましたのでおじゃる! ところが、姫は、マロの顔を見るなり、『うわっ! キモっ!』って悲鳴をあげて、走って逃げたのじゃ。しかも、結婚してくれるどころか、別のところで二度寝をはじめたのでおじゃるよ」

「あれは気持ちがいいからな」

「マロは悲しみにうちひしがれ、父の王国へと帰ってきたでおじゃる。でも、博士はとても素晴らしい魔術師で、よくきく薬もたくさんもっているそうな。マロを助けてたもれ。もしも、マロをイケメンにしてくれたなら、マロは姫のもとへもどり、博士には私の土地の半分を贈るでおじゃる。他にもほしいものがあったら何でもあげるでおじゃるよ」

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「バンポ王子」

先生は、むつかしい顔をして、薬カバンの中のビンをみました。

「かわりに、髪を染めるというのは?」

「ダメでおじゃる。そんなことではごまかされないでおじゃる。マロはイケメンになるしかないのじゃ」

「イケメンになるのは、かなり大変だとわかっておるかな。魔術師のなす技の中でも、もっとも高度なものじゃ」

しかし、王子は先生の話など耳にはいってません。
うっとりとした顔つきでいいます。

「イケメンになったら、光り輝くアーマーをまとい、鋼鉄のガントレットをつけるのじゃ。それからウマにのったら、本に書いてある王子とまったく同じになるのじゃ。うーん……ワンダフルー!」

「どれくらいのイケメンがご希望かな?」

「徹底的なイケメンでおじゃる。できれば背も高くして……」

「ムリ!」

先生は即座にいいました。

「よかろう。できるだけのことはしよう。しかし、かなり我慢が必要じゃ……ご存知かと思うが、すべての薬が必ずきくとは限らん。何度か試すことになるかもしれん。皮膚は強い方かね?」

先生は、バンポ王子のほおをさわりました。


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「よろしい。大丈夫なようだ。ではこっちに来て、光に……ああ、その前に、いっとかないと。まずは、浜辺へ行って、船の用意をしてもらいたい。それから、航海中の食料も。すべてないしょでな。それから、望みがかなったなら、わしらみんなを必ず牢屋からだしてもらいたい。ジョリンギンキの王冠に誓って、約束してもらえるか?」

「誓うでおじゃる!」


王子が戻ってきて、「用意はすんだ」と告げると、先生はダブダブに洗面器を持ってこさせました。
そこにたくさんの薬を混ぜ入れると、王子に顔をつけるよういいました。

王子は身をかがめ、そこに顔をつけます。
耳元まで深く。

長い間そうしていました……あまり長い間そうしていたので、先生はだんだん心配になってきました。
そわそわして足を組み直したり、混ぜるときにつかった薬ビンを出してきて、なんどもラベルを読みなおします。

牢屋の中に、強烈な匂いがたちこめてきます。
ハトロン紙を燃やしたような匂いです。

「ブッハー!」

ついに王子は洗面器から顔をあげ、大きく息を吐きました。

「おお!」

動物たちがおどろきの声をあげます。

なんということでしょう。
王子の顔がイケメンになっているではありませんか。
しかも、なぜだか背も少しのびています!

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「みてごらん」

ドリトル先生が小さな手鏡を渡すと、王子は自分の姿を見て、うれしさのあまり、牢屋の中で、歌い踊り始めました。

「ヒャッホー!!」

「おい、静かにしてくれ!」

先生は急いで薬カバンを閉じると、牢屋のカギをあけるよう頼みました。

「博士、この国には鏡がないでおじゃる。この手鏡、マロによこしてたもれ! マロは、もう、ずっとずっと自分の顔を見ていたいでおじゃるよ!」

「ダメ! それがないと、ヒゲがそれん」

王子はポケットから銅のカギのたばを出してくると、大きな二重カギを解きました。

先生とみんなは海岸へ向けて、走れるだけのスピードで走って行きました。

バンポ王子は、空っぽの牢屋の壁にもたれて、走っていくみんなの姿をみて幸せそうに笑っています。
月に照らされ、その顔は光り輝いていました。

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海岸まで来ると、ポリネシアとチーチーが船の近くの岩場で待っていました。

「あの王子には悪いことをしたわい」

先生がいいました。

「あの薬のききめは、それほど長くはもたん。明日の朝には、また元に戻っとるかもしれん……鏡をあげなかったのは、それもあったんだ。あるいはもしかして、そのままかもしれん……何しろあんな薬を作ったことなかったからな。ホントのことをいうと、自分でもビックリしとるんじゃ。あんなうまくいくとはな。しかし、やるしかなかった。そうじゃろ? 一生、宮殿の台所をみがき続けるわけにはいかん。あんな汚い台所! 牢屋の窓から見てもわかる……まあ、よかった! ……王子にはわるいことしたがな!」

「当然、私が妖精のふりしてからかったこともばれるでしょうね」

ポリネシアがいいました。

「あたしたちを閉じ込めたりするからいけないのよ」

ダブダブが怒って、しっぽを小刻みに振りました。

「なんにも悪いことしてないのに。いい気味よ。もしまた元にもどるなら、もっとキモくなればいいのよ!」

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「でも、あの王子は関係ないよ。悪いのは、わしらを閉じ込めた王、父親の方じゃ。王子には罪はない……やっぱり、もどってあやまるべきか」

先生は、少し考えました。

「……ま、いいかあ。パドルビーに帰ったらアメでも送ろう。もしかしたら、ずっとイケメンのままかもしれんしな」

ダブダブがいいました。

「だとしても、眠り姫はムリね。元の方がまだ自然な気がするし。なんにせよ、もてるタイプじゃないわね」

「でも、悪いヤツじゃない。かなりお花畑なところはあるが……いいヤツだよ。ほら、『美しさは内面からしみ出す』というじゃろう」

先生はかばいますが、イヌのジップも口をはさんできます。

「そもそも、あのバカが眠り姫を見つけたなんてインチキに決まってるよ。おそらく、そのへんの農家のデブいババアにでもキスしたのさ。リンゴの木の下かなんかで寝てるとこをね。キモがられて当然だよ。あーあ、今度はどこのだれにキスするのやら。バッカバカしい!」


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さて、オシヒッキー、白ネズミ、ブウブウ、ダブダブ、ジップにホーホーは先生といっしょに船に乗り込みました。

しかし、チーチーとポリネシア、ワニは残ります。
アフリカこそがふるさとで、うまれたところですから。

先生は船の上に立ち、海のかなたを見やりました。
そのとき、思いいたったのです。
パドルビーに帰る道を、だれも知らないことを。

月明かりのなか、広い広い海は、おそろしいほど大きく、さびしく見えます。
先生は不安になってきました。

陸地が見えなくなってしまったら、海で迷ってしまうかもしれない。

ところが、そのとき、妙なささやくような雑音が聞こえてきました。

「なんだ? あの音は……」

その音は、夜空の高いところからやってきます。
みんな、別れのあいさつはやめて、耳をすませました。

音はますます大きくなってきます。
すぐ近くまできているようです……秋の風がポプラの葉を揺らすような、強い強い雨が屋根を叩いているような音にもきこえます。

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ジップが鼻をつきだし、シッポをまっすぐに立てました。

「鳥だ! 何百万もいる……すごい速さでとんでくる……あれだ!」

空を見上げると、丸い月を横切る筋のようなものが見えました。
まるで、小さなアリが巨大な群れをなしているような筋です。
それは、何百何千もの小さな鳥でした。

やがて、空全体が鳥でおおわれました。
それでも、鳥の数はまだまだふえつづけます。

あまりの数に月が隠れて光が見えず、海は、嵐の雲が太陽をさえぎった時のように、黒々としたものになってしまいました。

やがて、すべての鳥が舞い降りてきました。
水面をかすめて浜におりてきます。
夜の空はふたたび晴れ上がり、月の輝きがもどりました。


鳴き声を出したり、さえずりを立てる鳥はいません。
しかし、あまりにおびただしい数の鳥の、羽のこすれあう音が耳を圧倒します。

鳥は砂地に広がっています。
船のロープに列をなします。
森以外のすべての場所をうめつくします。

鳥は青い羽と白い胸を持ち、足にはとても短い羽毛がはえています。

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すべての鳥がおりたつと、音がやみました。

あたりを静寂と平穏が包みます。

静かな月明かりの中、ドリトル先生はいいました。

「こんなに長くアフリカにいることになるとは思ってなかったんだ。そうか……。家に帰ったら、もう夏か……。ツバメが帰る季節だ。なのに、ツバメたちよ! わしらを待っていてくれたんだね。……感謝する。なんという思いやりだ!」

先生はみんなの方をふりかえりました。

「さあ、もう何も恐くはない! 海で迷うことはない。イカリをあげろ。出発だ!」

船が海へとこぎ出されました。

チーチーとポリネシア、ワニは残ります。
急にさみしさがつのります。
三人とも、沼のほとりのパドルビーの、ドリトル先生が大好きでした。
今まで生きてきて、こんなに好きな人はいなかったのです。

みんな、何度も何度も何度も、さよならをくり返しました。
岩場にたちつづけて、涙が枯れるまで泣きました。
船が見えなくなるまで手をふりつづけました。