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私見

 ここでは黒子、渡部、今西の三者を取り上げたが、他の論(「笑い・ユーモア」を主に説いた論)でもこうした段分けはなされており、大体にして大きく分ければ上記に挙げた二分・四分の試みがなされている。ここにおいて注目すべきは「私」の「犬」に対する視点と「ポチ」に対する視点との相違に先ずあり、特に黒子の論の冒頭部に見られるように、「犬嫌いの『私』は最後に『ポチ』に愛情を持つようになったのであって『私』の犬全体への愛情はそれほど変わっていない」という点は『畜犬談』を読む際、「私」と「ポチ」、延いては「犬」との関係を明確にする際重要と思われる。黒子はこの後「何故、犬嫌いの『私』が『ポチ』を好きになったのか」とし、渡部の論がそうした「私」と「犬全体」を背景にした「ポチ」との関係を扱うものだと主張した上、両者共、「『私』の心のコミュニケーションには、当時の太宰と人間との関係がある」と見て「ポチ」を通した「私」の「自己回復」が作品の結末に来ていると主張している(黒子:「犬との交情を描きながら、実は犬を喩えとした自己回復の物語なのである」、渡部:「人間一般への不信を、人間個々との関係を解き明かすことにより、解消させていこうとしていたのである」)。黒子は作品論に触れながら「芸術性」「文学性」が「商業的」に掠め取られた犠牲であるとの懸念を評しているが、やはりタイトル通りに、作品に付された「笑い」「ユーモア」から見たメディアの様子に重きを置いて、井伏と太宰の「笑い」の相違を理解するのが〝作品解釈の一つの鍵になる〟と説いた。渡部の論では、中期初め頃の太宰の執筆態度に注意しながら「作者自らを戯画化することによりその『滑稽』は『自虐的』に齎された」と、飽くまで作品内部へ繋がる「私」と個との関係を想定するのに重きを置いて「八十八夜」「俗天使」等の前後作品に記された太宰自身の記述を採り、「私」に太宰を投影するまま解釈に結び付けている節が無いでもない。

 これ等の結果は、やはり夫人の回想にはじまる甲府での新婚生活が太宰を取り巻いた大きな平安期に在ると共に、そうした〝平安〟の内にも、作品を通して滲み出て来る「自虐」「自嘲」「戯画」といった当の太宰の実直な姿勢(すがた)が執筆に露わに成りつつ、病的な心身の具合が当時の太宰に混在していた事実を講じて土台としており、「私」=太宰ではない、という一種決った想定があるにせよ、やはり作品に設定され得た環境と人物、そこから実生活への掛け渡しを成す作者自身の〝投影〟を仮定するのは案外容易でもある。

 命題に設けた登場人物への「脚色の限界」とは、簡略すれば「作者の主張がそれ以上派生出来ない極点」を見る為やや無理に設けた想起にあって、読者から見て論考され得る作品主張を作品内部と外部の情報網から多角に見る内、作品を通して作者の意図がどの程度に纏まり得るかを推察するのに役立ちはする。しかし前に記したが、そうした見解を成す行程には読者各自の見方に伴う変化がある為、土台を呈する論決までには力量不足が自然に観られて解決不能の壁にぶつかる。そこで、こうした作者自身の自己投影が在るのと無いのと二つの意向に依存したまま、どういう道理が作品意図へと直結するのか、彼等が為し得た様な作品外部の情報網にも注意をして行き、飽くまで作品において展開され得る人物設定・環境設定が構築出来る許容範囲を設けた上で、なるべく内容主体に距離を置かずに論考され得る手段を採りたい。『便覧』で挙げた「人生をドラマ化しないで率直な心で捉えようとしてい」た太宰の執筆姿勢に参照するまま、キャラクターをして太宰が何を問うかを読者側にて推察して行き、こうした論考手段を確立させ得る確かな情報網など作品外部に配慮し土台に据えて、作者の主張をどういう程度に捉え得るかに視点を置く内、作者が設けた脚色の成り立ちを追及してみる。

 こうした命題を問う際、彼等が呈した「ユーモア」「滑稽」「戯画」の在り方とは当時の太宰の執筆姿勢を彷彿させ得る契機を孕んで立脚して在り、又、「私」「ポチ」を見守る「家内」の動向などにも、ひょっとすると、多大な効果を発揮させ得る脚色効果が内在され得る事実を想わせ大事に見えて、「笑い」を呈した『畜犬談』への論考手順もこうした「ユーモア」の在り方から見付けられるか、推考して行く価値は伺え注目したい。

 


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目次

1.     はじめに

2.     第一章 『畜犬談論』諸説と同時代背景

3.     第一節 先行研究

4.     第一節 先行研究

5.     私見

6.     第二節 同時代背景に纏わる諸事情

7.     第二章 『畜犬談』における構想

8.     私見

9.     第二節 文体構造における段落分け

10.  私見

11.  第三節 伊馬鵜平と当作品との関係性

12.  私見

13.  第三章 『私』『犬』『家内』への脚色の限界

14.  第二節 「私」の「ポチ」への視点

15.  第三節 「家内」の維持する立場

16.  おわりに

17.  注一覧

18.  参考文献

19.  本文校異

20.  語釈


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