閉じる


 もう何回目だろう。

「これを食べたら三十分で死ぬ。」
見つけてくるきのこが毒きのこであることが。
「ちなみにどんなものなんですか?」
センボンダケといって食すと針千本を飲んだかのような激痛が襲うきのこだ。毒は検査で反応しにくく即効性があるから毒殺に非常に適していると言えるな。」
「…ものすごい物騒なものを持ってきちゃったんですね。」
最初は見たことのないものがたくさんあってワクワクもしていた。
しかし、こんなにも食べられるものを見極められないと落ち込む。
「それなりの量も確保出来たし…休憩を取ろうか。」
「…そうですね。」
自分のことを考えてくれたみたいで嬉しいが役に立たない不甲斐なさで複雑な気持ちになる。
胸にもやもやを抱えながら近くの川辺に行って休憩を取ることにした。
歩くこと数分、川に到着した。
水面は陽の光を受けキラキラと輝いていた。
「…綺麗ですね。」
「そうだな。この川はダイヤモンドサーモンなどが釣れるからどこかでサシャとエリアスが釣りをしているかもしれないな。」
サシャ達は釣り、ティムさん達は狩り、シリルさん達は薪や塩などの採取、自分達は山菜やキノコ類や果実を取っている。
アールさんがズボンのポケットから箱を取り出してタバコを一本取り出す。
「アールさんって愛煙家だったんですね。言ってくれれば灰皿出したのに。」
「シリルがうるさいからな。服に匂いが移るから吸うなとしつこく言われている。ティムなんかも鼻が利かなくなるとか言うしな。」
ライターをつけてタバコに火をつける。
煙が風に乗って流れていく。
「アリスも一本いるか?」
「いや、俺未成年なんで吸えないです。」
誰もいないとはいえ良心が法から外れることを許さない。
「現実では十六歳は未成年なのか…すまなかったな。」
アールさんに年齢を言った覚えはないのに何故知っているんだ。
初対面なはずなのにシリルさんといい何故自分のことを知っているんだろう。
「何か腑に落ちないっと言った顔だな。ここには俺とアリスしかいない。好きに聞くといい。」
「…じゃあ、なんで…俺の年知ってるんですか?言った覚えないのに。」
思い切って聞いてしまった。
シリルがお茶会をする度にアリスのことを話すから自然に覚えてしまった。」
「その…シリルさんは何故俺のことを?」
「それは俺も気になるところだが、本人は現実世界で見つけたとしか話さない。」
不思議世界一の知恵袋もそこまでは知らないようだ。
「俺は確かに有栖って苗字ですけど、アールさん達の知ってる少女アリスとは全く関係ない。何の取り柄もない普通の高校生です。加えて食べられるものの見分けのつかない役立たず。なのになんで俺が新しいアリスなんですか?」
思っていたこと全てが堰を切った。
言わなくていいことまで言ってしまった気がする。
不安でアールさんの方が見られない。
「明確な根拠はないし、有栖叶人という存在が新しいアリスであるかどうかもわからない。
言葉が胸に刺さる。
アリスなんて望んではいないのに何故か息が詰まって苦しい。
「ただ俺一個人の意見は」
この以上の事実を拒むかのようにバシャーーンと大きく水飛沫かあがる。
目の前には立派な鬣が印象的なライオンの顔と白黒の牛の胴体、足は馬で尻尾には蛇が牙を向いている。
「これでトドメだっっ!!」
二度目の水飛沫。
お陰で頭からずぶ濡れだ。
ガキーーンと金属同士が打つかる音が響く。
牙と剣が鍔迫り合いの末に離れる。
「アリス⁉︎こんなとこにいたら危ないから離れた方がいいぞ!ティムさんが戦ってるんだ、巻き込まれ…ってうわっ!」
ハイメがぜぇぜぇと息を切らしてこちらに向かってきた。
だが、進路を阻むようにいつの間にか凶暴な珍獣が口を開けて迫ってきた
「お前の相手は…この俺様だ!!」
間一髪でティムさんが間に割って入る。
「逃げるぞ、アリス。」
呆然としていた自分をアールさんが引っ張る。
「っ、はい!」
大慌てで籠を背負って戦いの場から一目散に走った。
全力で力の限りを尽くして。

 「はぁ……はぁ…、けほっ。」

もう息が出来ない。
走ったはずなのに体の末端が冷たい。
足が震える。
「…この辺まで来れば大丈夫だろう。」
アールさんが手を引いて木陰に座らせてくれた。
先程のアリスが何故アリスなのかという質問に対しての意見を言おう。」
隣に腰掛けて話し始める。
何故このような落ち着かない時に先程の話をぶり返すのか突っ込みたい。
体もいっぱいいっぱいなのに精神的にも打撃とは勘弁して欲しい。
「ただ俺は、有栖叶人…お前が本当に新しいアリスだといいと思っている。」
「えっ…。」
思考も停止する予想だにしない一言。
落として上げるとはまさにこの事だ。
「出会ってから約二十四時間、お前と言う人間を知り、俺達のことをなんの躊躇いもなく受け入れてくれたからな。」
柔らかな微笑み。
木々の間から漏れる夕日が差し込んで整った顔立ちをより美しくする。
「まあ、アリスとして必要なことはこれから詰め込めば問題ない。
よしよしと頭を撫でられる。
正直色々問題は山積してるし、新しいアリスだなんて御免なはずなのに…安心した。
一難去ってまた一難とはこのことなのだろう。
どすどすと大きな生物が歩いてくる音がする。
しかもどんどん大きくなって。
「どこに行きやがったー!出てきやがれ!」
遠くの方からティムさんの怒鳴り声。
「静かにしていろ。ティムが先程の獲物を追っているなら…音に反応するからな。」
耳元で囁かれ、口元を手で塞がれる。
木の陰に収まるように肩も抱き寄せられる。
足音がぐっと近づいている。
すぐ後ろにさっきの獰猛な生物がいるぐらいの近さとアールさんとの慣れない距離で心臓が痛いほど鳴る。
「はぁ…なんで俺が囮なんだよ。人使い荒すぎだろ、ティムさん。…………アリスとアールさんか?おーい!」
状況がわかってないのか。
ハイメがてくてくと歩いてくる。
大声を出して。
「馬鹿!そんなに声を出し」
グォォォォォォォォ。
アールさんが慌てて人差し指を唇に当てて静かにしろと伝えるも虚しく凶暴な珍獣が自分達の存在に気付いてしまった。
「アリス、走れるか?」
「はい!」
手を取り引っ張られる形で走り出す。
「マジかよ、なんでいるんだよ⁉︎」
三人と一頭の追いかけっこの始まりだ。
「ハイメは何か使えそうなものをものは持っていないのか?」
「メニーデコゥニンに効きそうなのはないですよ。てか、俺丸腰ですし。」
走りながら打開策を考えても何も思いつかず、ヤツとの距離はどんどん縮まる。
さっき走ったばかりで既に体力はすっからかん。
足が上がらなくなってきた時にやってしまった。
「うわっ…!」
足元の石ころにつまづいたのだ。
リセット不能でコンテュー不可のゲームオーバー。
立ち上がったところで追いつかれてメニなんとかの胃袋の中。
「「アリス!」」
「早く逃げて!」
足手まといの自分がいなければ二人なら逃げ切れるかもしれない。
確かに一人だけ死ぬのは嫌だ。
だけど、自分の道連れでアールさんもハイメも死んでいいはずがない。
「俺が時間を稼ぐ。ハイメはアリスを連れて行け。」
アールさんが道端に転がる木の枝を拾う。
「ちょっと待って下さい、俺が連れてくのはいいですけど…そんな木の棒でなんとするつもりですか⁈」
「出来れば、ティムを連れてきてくれ。わかったな?あちらもそろそろ警戒を解いて襲ってくる。早く行け。」
二人は自分を見捨てなかった。
一番生存率の高い選択肢を放り投げたのだ。
「アールさんはどうするつもりですか⁈」
正直ものすごく嬉しい。
だけど、アールさんが危ない。
自分のせいで彼を死なせるわけにはいかない。
上手く攻撃を避けながら隙を見て逃げるつもりだから心配するな。
ひどく冷静な声。
誰も寄せ付けまいとする雰囲気を感じる。
一人で立ち向かうアールさんの為に何か出来ないだろうか。
「アリス、早く行くぞ。」
ハイメが手を引いてくる。
「え、ちょっと…!」
「…せめて、ティムの大剣くらいあればなんとかなるんだがな。」
アールさんからポツリと呟かれた一言。
ふとここに来る前に話したやり取りが浮かんだ。
『私達不思議は想像の産物。思えば実現する夢です。さあ、狂言妄想を形にする為に考えましょう!』
まあ確かに俺たちはアリスという少女の空想から生まれたからな。
『大丈夫〜?…まあ戸惑うのはわかるけど、僕らを形作っているのは人間の想像力なんだよ♪』
少女アリスが想像から不思議の国をつくったのなら、新しいアリスである自分がティムさんの剣をつくる位出来る筈だ。
こんな発想は現実逃避の何でもないけれど…願わずにはいられない。
あの木の棒は、ティムさんの持っていた剣。
刃は綺麗な銀色の両刃で身長ほどの長さと胴体ほどの幅だった。
柄は赤色と金色の螺旋状で下に星のチェーン飾りが付いていた。
《アールさんの持っている木の枝はティムさんの剣だ!》
心と脳の全てを持ちいて…思い願って、想像して、考えて、妄想の限りを尽くす。
木の枝が光に包まれる。
全部を包んだかと思ったらふわっと弾ける。
「…どういうことだ?俺が持っていたのは木の棒だった筈だ。……考えている場合ではないな!」
いきなりの剣の重みにさすがのアールさんも戸惑っていた。
原因がなんなのか考えている余裕はなく、目の前の珍獣はもう待ってはくれない。
自分達めがけて一直線に突進してくる。
前足をあげて、蹄でアールさんを踏み潰そうとしてきた。
ガキーーーーンと金属同士がぶつかり合う音が辺り一帯に広がる。
蹄を剣の幅いっぱいに使って受け止め跳ね返す。
「これなら本当になりそうだな。」
アールさんはすっと大剣を構えて走り出す。
自分達の生き残りを懸けた反撃の開始が始まった。

2.5話 釣りと採取の様子は即ち

 「ここら辺ならいいのが釣れるかな?」

くるりと振り返って数歩後ろを歩くエリアスに尋ねる。
「……まあ、釣れるんじゃない…?」
ふぁっと口を開けて欠伸をする。
取り敢えず良さそうなので釣り糸を垂らす。
「エリアスも早く釣ろうぜ!」
釣りは経験したことがなかったので楽しみだった。
「…テンション…高いね。……あのさ、サシャ…釣り針に、何つけた?」
かちゃかちゃと魚の形をしたものを針に付けている。
「なんかつけなきゃいけないのか?」
「…ルアーとか、生き餌を…付けないと、魚は食いつかない…から。」
どうやら俺は基本的なこともわかってないようだった。
釣竿を上げてエリアスと同じように魚の形をしたルアーというものを付けた。
「よし、仕切り直して…釣りスタートだな!」
ぽちゃんと浮きを投げて釣りを始めた。
三十分後。
「なんで何も釣れないんだ⁉︎」
何にもヒットしない。
「エリアス、なんかまた俺間違えたか?」
「………………。」
寝ている。
しかも揺すっても起きない。
「……やめて、揺らさ…ないで。……釣りは待つものだから…そのまんまにして……ていいから。」
エリアスはがくりとまた夢に落ちた。
成る程、忍耐が必要だとは…釣りは奥が深い。
俺は景色を眺めて魚をひたすら待つことにした。
三十分後。
結構日が傾いてきた。
もうそろそろ集合時間が迫っている。
しかし、バケツには水しか入っていない。
釣りは待つものだがこれ以上は待っていられない。
エリアスの浮きがじゃぽっと沈んだ。
念願の魚だ。
「…………………。」
また寝ている。
「起きろ、エリアス!」
揺らして揺らして揺らしまくるも起きない。
「ああ、もう!」
エリアスの持っていた釣竿をぶん取り、リールを巻く。
だが、力が強くて川に引っ張られる。
一進一退の攻防。
だが、徐々に巻かれたリールが逆回転する。
「やばっ…!」
ずるずると川に引き込まれる。
「……そのまま、巻いて…いくよ。」
いつの間起きたんだろう。
エリアスが後ろから抱き締める形で一緒に川の中にいる大物と戦う
二人分の力で形勢逆転し始め、水面に形が現れる。
「……網、持ってくる。」
勝負は決した。
川に網を突っ込んで、魚を引き上げる。
初めて釣った魚が姿を現わす。
一メートルを超えるキラキラ宝石のように光った美しい魚だった。
「すげー!なんて魚?」
「……ダイヤモンドサーモン…だと思う。」
「まじで!よく家で出るけど…こんな形してるんだな。初めて見た!」
みんなで食べるのが楽しみだ。
生まれて初めての釣りは成功のうちに終わった。

 「何故です!何故、私のペアはアリス君ではないのです!!」

「うるさいにゃ…。」
さっきからずぅーとこの調子だ。
シリルは普段から面倒くさいけれどアリスが絡むと更に面倒。
はやく諸々を回収して終わりしよう。
行く道で薪に使えそうな木の枝を回収した。
後は調味料系だ。
「着きましたね。ここでアリス君の口に入るものを私が収集する…ふふふ、アリス君♪」
嬉々として岩に張り付いてる塩、岩塩を引き剥がして行く。
新しいアリスと他の男が一緒にいる状況に耄碌して狂っている。
なんの関係もない僕でさえ軽く鳥肌が立つ。
早いところシリルとのペアを解消したいので仕方なく手を動かす。
新しいアリスは日本人だ。
花びらが鰹節の薄肌色の花を摘んで、木の上になっている茶色の醤油の実をもぎ取っておけば間違いはない。
「これだけあれば、アリス君も喜んでくれるでしょうね。…おや、あちらにあるのは布の木ではありませんか!しかも沢山、是非持って帰らねば!」
シリルは目の色を変えてカラフルな木の幹の群生地へ直行する。
訂正だ、シリルが面倒なのはアリスのことだけではなく服のこともである。
「…ここで待ってよっと。こんなに荷物運べないし。」
ちょうど良さそうな岩にもたれかかる。
午後の夕暮れちょっと前。
こうも何も起きないと睡魔が鎌首を持ち上げる。
夢と現の狭間の中で思う。
僕の中のアリスは彼女一人だけ。
彼女はペットの僕を見て自由になりたいかと問い、首輪を消してくれた。
時が経ちもう一度現れた彼女は僕を猫から人間にしてくれた。
だけれども、彼女は僕のそばにはいてくれなかった…いさせてれなかった。
そして、長い時間が経って彼が現れた。
性別も肌の色も違うし、彼は僕に何もしてくれない。
だけれども彼は今日も僕らのそばにいる。
全然違うのに彼女と彼を重ねてしまう。
それどころか、期待してはいけない事を願ってしまいそうになる。
一筋頰に伝う感触を最後に僕は意識を手放した。
寂しさが隙を突いて出てきたのは、新しいアリスこと苗字がアリスなだけの有栖叶人と再会する一時間前のことだった。

後書き

 『不思議狩りのアリス』を手に取っていただきありがとうございます!

なんと…二話が無事に完成しました。
読んで頂ければ分かると思いますが…ボルテージMAXで終わるという状態でした。
もどかしいことこの上ない。
読んだ人だけではない、自分ももどかしい。
二話の後に後書きしかり色々書いて整形してるんで。
 
二話は後半は特にアールさんの活躍が目を見張りましたね。
自分で作っておいてあれですけど…クールだけど案外世話焼きなところ…いいですね!
干渉しないつもりだけど結局世話焼きなアールさんと一緒懸命でちょっと不器用(?)叶人君…考えただけで堪らないですね!
二話後半の内容と後書きをシリルさんが知ったら大変なことになりそうですね。
 
二・五話でも触れましたが、不思議の国をつくった女の子の方のアリスの存在、全体的に『不思議の国のアリス』のその後という時間軸、ティムさんの超年上発言など…まだまだ謎が深まりますね。
 
さて…次回三話はがっつり文化系なアールさんの戦闘シーンから始まります!
新キャラ登場させられそうなら登場させようと計画中です。
一話で気になってたことも結びつけようと思ってます!
また気長に待ってもらえると嬉しいです。
『不思議狩りのアリス』を今後ともよろしくお願いします。


読者登録

163さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について