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2話 不思議とは即ち

 チャララ〜と目覚まし時計から木星が響き、意識が覚醒する。

朝が来たのだ、起きなくては。
上半身を起こしメロディを止める。
なんとなく頰に触れる。
傷が手当てされたことを感じさせるテープと綿の感触。
淡い現実逃避は打ち砕かれ、夢と現実が混ざり合った光景や暴れるうさぎが脳裏に浮かんまで覚悟を強いてくる。
チャララ〜と止めたはずの目覚ましが早く動き出せと言ってくる。
呆けている場合ではない。
考えてもどうしようもない時はまず行動だ。
アラームのスイッチを切り、手近に取り出せる服に着替えた。
非常時の落ち着かない時こそ、いつも通りが一番だ。
まずは朝食の準備を始める為に一階に降りた。

 「ごちそうさま。」

「アリス君の手作り朝食を食べられて…今日まで生きてて良かったです!」
「なかなか美味しかったぜ!アリスってすごいな、なんでも出来るんだな!」
「サシャもシリルさんも大袈裟だって。これぐらい普通だよ。」
不思議世界とやらと自分達の生きている現実世界が混ざり合って一晩が経過した。
外を見れば見慣れた景色のあちこちに見慣れない風景が点在している。
「やはり圏外だな。」
アールさんがポケットから手のひら位の端末を取り出す。
「アールさん、スマホ持ってるの⁉︎」
「…俺が持ってるとそんなに意外か?」
不思議世界やアリスというキーワードが飛び交い、お茶会は森でやっていたところから完全に『不思議の国のアリス』の世界観を想像していただけに驚きだ。
アールが本ばかり読んでいて如何にも電子機器には弱いとは思っていないでしょう。…不思議世界が近代化しているのに驚いたということですよね、アリス君?」
珍しく不満げな表情を見せたアールさんをシリルさんは揶揄う。
「完全に『不思議の国のアリス』みたいな感じだと思ってました。昨日も森でお茶会してたし。」
「まあ…昔はそうでしたね。今はだいぶ変わりました。城下町や人の住む場所は近代化して現実世界と大差はありませんね。人の寄り付かない迷宮の森などは自然のままですが。」
不思議世界も時が流れ、こちらと同じように発展していったということなのだろう。
「アリスもスマホ持ってんだろ、そっちはどうなんだ?」
「そうだった!」
色々あって確認を忘れていた。
海外にいる両親と都心で働く兄や学校の友人達の安否が心配だ。
早速画面をつけてみる。
左上に目を向けるも無慈悲に圏外と表示されていた。
「……駄目だった。」
昨日うさぎに襲われた記憶のフラッシュバックしてきてより不安が頭を支配する。
「そっか…。」
サシャもバツが悪くなり黙ってしまう。
「大丈夫ですよ、アリス君。君には私がついています!何も心配することはありません!」
いつの間か抱き寄せられていた。
なんとも言えない不思議だけど良い香りと温かな体温。
いきなりで驚いたけれど不安な気持ちが和らいでいく。
「やめろ。お前が一番の心配要素だ。」
アールさんによってシリルさんがべりっと剥がされる。
「私とアリス君を引き裂くとは…アールといえど許しませんよ!」
「別にお前に許してなんてもらわなくてもいい。…アリスももう少し気をつけろ。」
「あ、はい。…シリルさん、ありがとうございました。少しは吹っ切れまし」
突然ガタガタガタと家全体が振動する。
昨日から頻繁に地震が起きている。
慣れてきたけれど…今回はかなり大きい。
「アリス、危ない!」
サシャに突き飛ばされる。
いきなりだったので踏ん張り切れずに体が傾く。
倒れかかる体に追い打ちをかけるようにサシャが覆い被さってくる
「いたっ…。」
完全に仰向けに倒れて尻から背中、後頭部に痛みが走る。
ごとんっと鈍いを音が響いて、思わず瞑ってしまった瞼を開ける。
「大丈夫か⁉︎…ごめん、アリス。もっとカッコ良く助けるつもりだったんだけど…。」
極間近にサシャの顔があった。
深紅の瞳、すっとした鼻筋…全体のバランスも整っている。
別にモテたいとかイケメンになりたいとかではないが、羨ましい。
「さっきからボーっとしてるけど、どっか悪いのか⁉︎」
慌てた声でサシャに魅入っていたことに気づいた。
「あ、いや、大丈」
「サシャ君、いつまでそうしてる気ですか?」
返事をしきる前にサシャが遠退く。
「アリス君を押し倒すなど万死に値しますよ?確かに、棚の上に置いてあった花瓶からアリス君を守ったことは感謝すべきですが、アリス君に接近していい筈がありません。やはりここで事故に見せかけて始末してしまいましょう…!」
鋭く尖った花瓶の破片を拾い、シリルさんがサシャに近づいて行く。
「おかしいでしょ⁉︎なんでそんなことに…って、うわっ!」
後退るサシャが何かに蹴つまずく。
ブゥンと器械の始動音が聞こえ、ここにいる誰でもない声が響く。
『こちら中央区から中継です。区役所があった場所には不気味で物々しい雰囲気の謎の建物があります。…あ、今映りましたでしょか⁉︎赤く煌めく鳥を!まるで伝説上の生物、鳳凰を思わせます!……現場からは以上です。』
液晶パネルが風景を映し、声を届けている。
「テレビが映ってる!」
昨日からテレビはずっと真っ暗だったので嬉しいし、安心する。
「他のチャンネルの確認もしましょう。」
シリルさんが破片をリモコンへ持ち替える。
「…助かったぁ〜。」
サシャは安心したのか、へなへなとその場に座り込む。
一から順に番号を押していくも最初に映ったチャンネル一つだけしか映像は流れなかった。
その後も唯一視聴出来る番組から出来るだけ現在の情報を得た。
自分とサシャはもちろん、シリルさんとアールさんも閉口してしまった。
重い空気が事態の重大さを語っていた。
「…思いの外状況が良くないな。」
「そうですねぇ。はてさて…どうしたものでしょうか。」
何も言えないまま…またも沈黙かと思っていたが、パチンと手を打つ音が響く。
「こんな時こそ、お茶会を開きましょう!さあ、準備に行きますよ!」
「…まあ、悪くないな。」
てっきり止めるものだと思っていたアールさんもお茶会に乗り気だ
「そんなことしてる場合⁉︎」
「焦ってもしょうがないってことだな。………アリスー、ぼうっとしてたら置いてくぞー!」
「ちょっと待って、色々置いてきぼりにしないで!」
いつの間にか既に玄関先に行ってしまった不思議の国住人達を追いかけて、混沌とした世界への一歩を踏み出した。

 「これは無理があるんじゃないかにゃ…。」

カイルは哀れなものであるかのようにテーブルの上を見つめていた
「仕方がないだろう、非常時だ。」
お茶会をする為迷宮の森に来たものの途中の天の川商店街では茶葉もお菓子も手に入らなかったのだ。
不思議世界と現実世界が混ざることにより地形が変わり物資が届いていないことが原因であった。
「ここにはチョコクッキーがあるのが見えませんか?今日は現実世界から仕入れた最高級のアールグレイの紅茶ですよ。
机には何も盛られてない皿と空のカップが置かれていた。
皿とカップは華麗な装飾がなされているのがよくわかる。
お茶会ではなくもはや展示会と言った方がいい気がする。
「俺には何も見えない…。心が綺麗じゃないのかな…。」
「元から何にもないからな。…てか、裸の王様かよ。」
さすがに無いものをあると思うのは無理がある。
「心の綺麗さは関係ありません。裸の王様はは単なる騙しと思い込みだけです。ですが、私達不思議は想像の産物。思えば実現する夢です。さあ、狂言妄想を形にする為に考えましょう!」
シリルさんは元からちょっと危ない人だとは思っていたがここまで来ると目も当てられない。
まあ確かに俺たちはアリスという少女の空想から生まれたからな。あながち間違いではない。」
どういうことだろうか。
空想から生まれるなど意味がわからない。
「大丈夫〜?…まあ戸惑うのはわかるけど、僕らを形作っているのは人間の想像力なんだよ♪」
困ってるのが分かってるなら、もっとマシな一言があるはずだ。
だが、カイルにそんなことを言っても無駄だとは思うけど。
「さあ、ということで…お茶会を始めましょう!」
「まじか…何もないエア茶会って初めてだ。」
「正気なの〜……まあ、とりあえずティム連れてくるね…。」
カイルの体が透明になって消えて行った。
丁度入れ違いになる形でエリアスとハイメが来た。
約束をしたわけでもないのに昨日のお茶会メンバーが揃うことになった。
「おや、珍しいこともあるものですね。ハイメが遅刻だなんて。」
「時計の件で族長達にこってり絞られてきましたからね…。」
よく見ると二人とも目の下のクマが酷かった。
「……眠い、おやすみ。」
「こんなとこで寝るとかふざけんな!お前の不注意なのに連帯責任とか言われる身にもなれよ!」
ハイメは寄りかかろうとしたエリアスの体を揺さぶる。
「二人とも来たんだ!ねぇねぇ、お菓子持って来た?」
カイルがすぅっと姿を表す。
新しいおもちゃという名の二人に興味を示した為、抱えていたティムを無造作に捨ててしまう。
どんっと痛そうな音がする。
「…ってぇな!何しやがんだ!!」
最悪の目覚めにティムがキレる。
昨日も同じようなことが起きた気がする。
目にも留まらぬ速さでカイルとの間合いを詰めて顔面めがけて拳を振るう。
「…危ないなぁ〜。ここまで運んであげたのにその態度はないんじゃない?」
すっと避けてティムの腕を掴んだ。
カイルはティムの鋭い眼差しに全く動じない。
むしろやる気満々に見える。
「やめろ。無駄なエネルギーを浪費するな。」
開戦するのかと思いきやアールさんが待ったをかける。
「なんだよ、これからなんかあんのか?」
「その逆だよ。何もないんだよ…。お茶会なのに…。」
皿とティーセットしか置いていない寂しげなテーブルを指さす。
「なっ…食べ物目当てで来たのに何もないのかよ⁉︎起きろ、エリアス!大変なことになってるぞ!」
寝不足で立ったまま夢の中に行ってしまったエリアスを揺らして引き戻す。
「……うう、なに…。」
「何じゃない、あれを見ろ!」
「………嘘。」
ぐぅぅと多分二人のであろう腹の虫が盛大になる。
「寝てないだけじゃなくて食べてもいなかったのか?」
「まぁな…三食抜きで一晩中説教と反省文のエンドレスだったよ。むしろそれだけで済んで良かったけどな…。」
昨晩のことを思い出したのかハイメは苦い顔をする。
「それだけって…たいぶ辛いと思うけど。」
「何代目の人でしたっけ…確か、時計を失くしてしまった時の番人がエリアス君の他にいましたね。どうなったんでしたっけ、アール?」
「六十九代目だ。結局は失くしておらず自室に置いてあるのを忘れただけだったが、結果処刑された。」
さらりと物騒な言葉が飛び出した。
確かに大切で重要な懐中時計であることはわかってはいたが、命を絶たねばならないほどのものなのか。
「うさぎ一族の持つ懐中時計は一つしかないのです。不思議世界の始まりから存在する不思議なもの。現代の技術でも同じものは、作れません。」
「不思議世界の七不思議の一つだよ♪」
何かと知ってそうなお茶会の面々からも不思議扱いされるすごいものであることはわかった。
だが、やはり自分は命の方が大切だとも思う。
「今までレプリカを作ることの出来なかった懐中時計ですが…この度作ることが出来たんですよ!見てください!」
ハイメがエリアスの右腕を掴んで掲げる。
手首には四角い液晶が付いていた。
林檎がトレードマークの会社が作っている腕時計型の端末に見えてしょうがないのは自分だけだろうか。
「ついに再現に成功したのか。」
アールさんがしげしげと眺める。
「…とは言っても、だいぶ…劣化版。」
「時間の操作は不能で時間は止めることしか出来ないし、空間の方は安定させることとある程度の大きさを運ぶぐらいしか出来ないですけど。」
「でも、それだけ出来れば褒められるものですよ?今までそんなものさえ出来なかったのですから。科学賞受賞も間違いなしですね。」
「さすがは一族始まって以来の逸材と呼ばれるだけはあるね〜。」
カイルが早速液晶に触ろうとするもエリアスが腕を掴む。
「……ただ、これは電気で動いていて……充電式。しかも…時空操作は、バッテリーの消費が…莫大。簡単には……使えない。
「そこも玉に瑕なんですよね…。でも普通に時間確認とかメールならそんな充電は食わないんで。」
やはり林檎のマークが頭から離れない。
「なら…普通に懐中時計でもよかったんじゃないのか?」
「まあ、コストも安くなるしそうなんだけどな…。やっぱ失くすこともあるから腕時計型の方が安心なのと…エリアスがスマホを高確率で忘れるから連絡と位置確認が出来るのがいいかなと思ったんだよ。」
新たな時計にはハイメの苦労が感じられた。
「ねぇねぇ、それでお菓子持って来られないの〜?」
「俺たちに死ねっていうんですか!これ以上勝手なことしたら本当に処刑されますよ!」
一瞬、確かに…とは思ったが世の中やはりそう都合よくは出来ていないみたいだ。
「…使った履歴は、残るから…。残念だけど…私用には……使えない。」
なかなかリアルな話だ。
不思議世界もなかなかに世知辛い。
「やだやだやだ〜!何にもないお茶会なんてお茶会じゃないにゃ〜!」
カイルは腕をぶんぶん振って駄々を捏ねる。
「うるせーぞ、馬鹿猫!そんなになんか食いたいなら自分で取りに行け!」
いつのまにか姿を消していたティムが背丈ほどある大剣を担いできた。
「まあ、そうですね。物資も不足してますし…調達しましょうか。
「今後のことを考えれば、妥当な判断だな。」
「こういうの初めてワクワクするな、サバイバルって感じでさ!」
どうやら皆乗り気のようだ。
自分ももちろんそうだ。
現状世界各地は混乱していて食べるものさえ足りない状態なのだ。
生きるためならやってやろうと思っている。
「過酷かよ…。まあ、さっさとなんか見つけて食べるぞ、エリアス。」
「…そうだね。」
空腹と睡魔の襲う体に鞭を打ちハイメとエリアスも歩き出す。
「みーんな、乗り気になちゃって…でも、まあ…面白そうだしいいかにゃ♪」
こうしてお茶会をする為に食べられるものの調達へと向かって行く
この後、自分が普通というレールから決定的な脱線をすることになろうとは思いもしなかった。

 「今のところ収穫なしですね。」

現在、駅前に向かっている途中であった。
景色はいつも見ていたものと同じである。
時折、河童っぽいやつとか二足歩行の猫など変な生き物とすれ違うけれど
どこのお店も閉まっているし、山や川など食べ物を見つけられそうな場所もなかった。
「この通りをまっすぐに行けば駅です。」
その場にあればの話だが。
「お、これ…パチンコ屋か!」
通り沿いにある大きくて賑やかな建物にハイメが寄っていく。
「…ってまあ、閉まってるよな。しかも営業再開もいつかもわからないのか…。」
しょんぼりとして戻ってくる。
パーカーの垂れたうさ耳が更に垂れてしまった気がする。
「ハイメってギャンブルとかそういうの好きなのか?」
「…三度の飯より…好きって、言ってた。」
「ギャンブラー界隈では有名人らしいんだって。」
「手をつけちゃいけないお金で賭けたこともあったよね〜。」
常識人と思っていただけに少し意外だった。
やはり不思議の国の住人だと思わされる。
皆で話をしながら駅前まであっという間についてしまった。
所々に黄色やピンク、オレンジといったカラフルな木々が生えてしまっていて、その場所にあった建物が消えてしまっていた。
駅自体はその場にあったものの続く線路は丸型や星型の建物建っていて寸断されている。
駅の反対側はピカピカと輝く森が広がっていて少し遠くにはこれまた光る山が見える。
光山こうざんがここに来ているとはラッキーだな。」
「じゃあ、色々食べられるものがあるんですか?」
「ええ、それはもう。高級食材なんかもかなりあります。…ただ、獰猛な動物や植物が多いことでも有名な場所です。」
「よかったですけど…気をつけないと俺たちが食べ物になることもあるじゃ…。」
ハイリスクハイリターンに背筋が凍る気持ちになる。
「大丈夫ですよ、こちらにはティムがいますから。」
「どさくさ紛れに肩を抱くな。」
アールさんがいつの間にか肩に置かれていた手をバシッと叩く。
「アール、何故邪魔をするのです!…もしやあなたもアリス君を…!」
「おい、あんたどうしたんだ?一人じゃ危ないぜ。」
シリルさんが声を荒げ始めた時に後方のティムが誰かを見つけたみたいだ。
「店が、店が無くなっている…。これからどうしたら…!」
悲しい叫びが虚しく響く。
この声には聞き覚えがある。
しかも大切なことを忘れていた気がする。
振り返ると抜けていたことがばっと蘇った。
「店長⁉︎………こんなところで何を…?」
アルバイト先の店長が膝から崩れ落ちていた。
昨日はエリアスに付き合ってしまってアルバイトに行くはずがお茶会に行ってしまったのだ。
「君は…バイトの有栖君か。昨日は本社の方に行っている最中に世の中はこんなになってしまって…心配で店を見に来たんだが…。跡形もなく…。」
「すみません…昨日は無断で行かずに…。」
「頭をあげてくれ…君の安否だけでもわかったんだ、よかったよ。…営業再開がいつになるかな…。」
乾いた笑みを浮かべて立ち上がる。
「もうそろそろ帰るとするよ…。有栖君も気を付けるんだよ…。」
ふらふらと足元がおぼつかない歩きで繁華街のある方向へと消えて行ってしまった。
心配だが自分にはかける言葉も見当たらずただただ見送ることしか出来なかった。
「自分の店も心配になりましたね。」
「それもそうだが、今は」
「わかっていますよ、アール。」
止めていた足を再び動かす。
「今は食料の調達が最優先ですから。…さあ行きましょうか!」
皆色々な心配を抱えているのだと実感した。
けれど今は一緒に生きるのびることに専念しようと改めて思った。

 光山の麓の森の入り口に到着した。

「さて…ここは効率を考えて別れて行動しましょうか。」
「それはいいとして…どうやってペア決めるんだ?」
「色々道具も借りて来たし、役割りごとに分けるのがいいだろう。
引いてきたリヤカー、取ったものを入れるカゴや釣竿、バケツに高枝切りバサミと色々な道具を商店街の皆に借りて来た。
「そうですけど…その役割とやらを誰にするかどうかが問題なんじゃないっすか?」
正直釣りなどやった経験などないし、果物とかを取る係になると助かる。
「それじゃあ…これで決めるのはどうかにゃ?」
カイルはハイメのパーカーのポケットからトランプを取り出す。
「…使って…どうするの…?」
「ここには全員で八人いるから…ハートとクローバーとスペードとダイヤ…は嫌いだからジョーカーにして…。」
五十四枚のカードから八枚のカードを取り出して混ぜる。
「出来上がり♪一枚ずつ取って、同じマークの人がペアだよ〜。それじゃあ…アリスからどうぞ♪」
ずいっとカードを差し出される。
特に何かわかるわけではないので適当に一枚選んで引く。
「なあ、アリスが誰とペアになるか賭けようぜ。ちなみに俺は…クローバーを引いてティムさんだな。」
「……ジョーカーを引いて…アリスと…一緒が、いいな。」
「…エリアスのは単なる願望になっているな。…そうだな、俺は…スペードでティムに賭けよう。そういえば、何を賭けるんだ?」
「皆さん、私に賭けなくていいのですか?もちろん、ハートを引いて私とペアになるに決まってるでしょう!」
次々にカードが引かれていく。
自分を対象に変な賭けが始まってしまったのが気掛かりではあるが
「それを言うなら…ハートの王家の王子である俺とハートを引いてペアでしょ!」
「俺様はこっちを貰うぜ。そうだな…ジョーカーでアールに賭けるぜ。」
「残ったのが僕のだね。僕もティムと同じ意見だにゃ♪」
「狡い!俺も予想変える!」
サシャが駄々をこねる。
「何が狡いんだ?」
「ティムさんは結構勘がいいだよ。だから、ティムさんの後に予想したカイルさんが羨ましいだろ。」
サシャに視線を向けて釘を刺す。
「一度した予想は変更は認めないからな。それに結果がわからない中で賭けるからギャンブルは楽しいんだからな、分かりきったことはつまらないだろ。」
やれやれと肩をすくめる。
ハイメが真性のギャンブラーなのだと理解した。
「ちなみにアリスの予想は?」
「俺…?そうだな……やっぱティムと同じでいい?」
考えてもやはりティムの勘の良さを聞いてしまうと他の予想なんて思いつかない。
「てめぇ、年上相手に呼び捨てたぁ…いい度胸してんなぁ?」
鋭い眼差しがこちらに向けられる。
だが、それよりも意外な事実が判明した。
「年上⁉︎」
どう見ても同い年ぐらいにしか見えなかった。
不思議世界とはやはり常識は通じないのだと痛感した。
「悪いかよ。お前の何百歳も年上なんだよ、わかったらこれからは敬えよ?」
「は、はい!」
何百歳に引っかかりを覚えたが正直ティムさんが怖くて聞き辛い。
「それじゃあ、みんな一斉に開いてね〜♪」
カイルの合図で裏返しのカードを表に返す。
「すごい…本当に当たってる。」
持っていたカードは予想通りのジョーカーだった。
もう一枚のジョーカーを探すとアールさんが持っていた。
「アール、ジョーカーを私のクローバーと交換しませんか?いえ、するべきです!」
「断る。」
「シリルがクローバー?残念だったね、僕もクローバーだにゃ♪」
「嫌です!こんな性悪猫と一緒なんて…!私はアリス君を守るという使命があるんです!」
尚もしつこく駄々をこねる。
何故こんなにも執着されるのか解せないし、足元で泣き付かれるのは困る。
「こんなにしつこくするとまた、アリスに嫌われるぞ。」
「!!」
シリルさんがティムさんの一言に硬直する。
「そういえば俺様の相棒は……ハイメか。」
「…そうみたいですね。お手柔らかにお願いします…。」
「じゃあ、俺はエリアスとだな。よろしくな!」
「…うん。」
ようやく森の中へと足を踏み入れる。
サシャではないがサバイバルのような体験はそうそうに出来るものではないので少しワクワクしていた。


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