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登場人物

登場人物

うみっち

本名:海水 さより(うみみず さより)

性別:女性

趣味:推理小説を読む、リアル脱出ゲーム参加等のミステリー全般

出身:兵庫県(現在も両親と姉と実家暮らし)

在籍:北摂国立大学法学部法学科1回生

将来の夢:検事

 

やまっち

本名:山土 ゆりね(やまつち ゆりね)

性別:女性

趣味:料理、カフェ巡り

出身:京都府(現在はひとり暮らし)

在籍:北摂国立大学理学部数学科1回生

将来の夢:アーベル賞受賞

 

そらっち

本名:宙空 れいら(そらく れいら)

性別:女性

趣味:ダーツ、ドライブ

出身:大阪府(現在はひとり暮らし)

在籍:北摂国立大学医学部医学科1回生

将来の夢:監察医

 

ひめ(ひめ姉)

本名:海水 ひめじ(うみみず ひめじ)

性別:女性

趣味:残高照会、人間観察

特技:人の顔と名前を覚えること

出身:兵庫県

学歴:京阪府立大学院経営学研究科卒業

さよりとの関係:7歳上の姉

近況:大阪の魚介レストラン「ヒメジ」のオーナー


円卓の容疑者 - 仮面 -

20XX年9月22日 北摂国立大学池田キャンパスの食堂”タベルナ”

 

「やっぱり、ここのパスタは最高だね!」と私うみっち。

「うみっち、パスタ自体好きだものね。」

やまっちが、野菜たっぷりカレーを頬張りながら言った。

ちなみに私が食べているのは、タコイカと秋ナスパスタだ。

 

「えー、これほんとなの?」

食堂はいつもと変りなく、賑わっている。

そんな中で、驚きの声がどこともなく聞こえてきた。

騒いでいる声の方向を見ると、女の子ふたりが1台のスマホを覗き込んでいる。

また芸能人の大物カップルでも誕生したのかな、と特に気にも留めず、パスタを口に運ぶ。 

 

しかし、驚きの声は彼女たちだけではなかった。

「これ・・・まじかよ・・・。」

「演出じゃなの?よくあるじゃない、こういうの。」

「でも、手が込み過ぎてない?こんなイベントするなんて情報知らないし。」

食堂自体がざわざわし始めている。

 さすがに何だろうと思い始め、皆と同じようにスマホを見て騒いでいる横の席の女の子に聞いてみた。

「何かあったんですか?」

「これ・・・。」

その女の子は自分のスマホの画面を私に見せた。やまっちも覗き込む。

画面は室内のようで、少し薄暗い。

椅子に腰かけたひとりの人間の上半身が映し出されていた。黒いスーツで身を包んでいる。

しかし、表情を伺うことはできない。何故ならピエロの仮面を被っているからだ。

その者の前には一台のモバイルパソコンが置かれている。この映像を自らチェックしているのだろう。

そして、手には・・・拳銃!?

玩具かどうかは判断できない。そして、その者はこう言った。

 

『・・・繰り返す、私と同じ円卓に座っている者の中に、ある傷害事件の犯人がいる。その者を見つけ出せ。』

その者はボイスチェンジャーで声を変えているようで、性別も年齢も分からない。

「・・・何これ?ドラマとか映画じゃないよね?」とやまっち。

そう、ドラマや映画ではないことは確かだった。

映像は固定されており、雑音なども入っている。明らかに素人が撮っているものだった。

そもそもこれは投稿サイト『stars(スターズ)』だし。

その者は続けた。

『つぶやきアプリselfish(セルフィッシュ)に、♯真犯人の真実、をつけて犯人を見つけるための投稿を行え。ハッシュタグを付けない投稿は無効だ。投稿は13:00開始で、開始前の投稿は無効とする。開始後3時間経過した16:00で投稿の受付を終了する。それからの10分間で、誰が犯人かの投票に移る。投票権はこの映像を見ている者すべてだ。最も票数が多かった者を真犯人と断定し私が殺す。他の者を解放した後、私も死ぬ。その者が真犯人かどうかは重要ではない。多数決であれ、皆が認めた者が犯人だ。繰り返す、私と・・・・・・・』

 

ここまでも何度か繰り返していたらしい。「またか。」という声が聞こえてきた。

映像を見ている者の中にも少し飽きてきている者もいるようだ。 

『では、そろそろ・・・』

「あっ、新しいことを言うみたい。」と、スマホを見せてくれている女の子が興奮気味に言った。

食堂全体も再び騒めき出す。

『容疑者をひとりずつ紹介する。計6名だ。現時点では顔、氏名、性別、職業、年齢のみを伝える。これを見ている者にとって、現時点では彼らの疑わしさは平等であり、そうでなければならない。そういう意味を込め、彼らを円卓に座らした。その情報から各自で調べ、投稿しろ。必要ならば、情報は随時開示する。』

 

カメラが切り替わり、 ひとり目の顔が映し出される。

椅子に座らされ、少なくとも手は自由に動くようで卓上に置かれている。

拳銃の威嚇のためか、小刻みに震え顔が青ざめている。

『No.1 一之瀬 栄登(いちのせ えいと) 男性 大学生 21歳』と仮面の者が紹介する。

カメラがまた切り替わり、ふたり目を映す。

おそらく円卓の中央に人数分のカメラが置かれ、仮面の男がその都度切り替えているのだろう。

席の前のモバイルパソコンで操作しているのだろう。

『No.2 難波 小次郎(なんば こじろう) 男性 プログラマー 34歳』

その後も次々と”容疑者”を映していく。

『No.3 山東 あいり(さんとう あいり) 女性 保育士 23歳』

『No.4 獅子宮 美鈴(ししみや みれい) 女性 専業主婦 41歳』

『No.5 神童 栄悟(しんどう えいご) 男性 食品会社社長 52歳』

恐怖からかまともにカメラを見れない者、現実と受け取れていないような者、事態を必死に理解しようとする者、様々な表情がそこにあった。

そして、最後の6人目の映像が映し出された瞬間、

これがふざけているのでも演技でもないことが確実なものとなった。

『No.6 海水 ひめじ(うみみず ひめじ) 女性 レストランオーナー 26歳』 

やまっちが何か確認するような目で私の顔をじっと見る。

私は静かに頷き、ひとこと声を絞り出した。

「間違いない・・・ひめ姉・・・。」

  

「ひめ姉がどうして・・・。」私は激しく狼狽し、その場に倒れそうになった。

その様子を見て、やまっちは私の体を支え、手をぎゅっと握ってくれた。

「大丈夫?」

私はその問いに曖昧に頷くのがやっとだった。

やまっちはスマホを見せてくれた女の子にお礼を言って、

自分と私の分の食器を片付けた後、私を食堂から離れさせた。

 

やまっちは私を北摂国立大学池田キャンパス食堂裏に連れて行ってくれた。

ここはキャンパス内の穴場スポットで、静かに過ごしたい学生に密かに人気なのだ。

幸い、今の時間帯は誰もいなかった。

「ほんとに大丈夫?」

「うん、ありがとう。動画の続きを見よ。」

「・・・分かった。でも、気分が悪くなったらすぐに言うんだよ。」

そう言ってから、やまっちは自らのスマホを使って、先ほどの動画を映した。

『・・・いう意味を込め、彼らを円卓に座らした・・・』

どうやら、先ほどの”容疑者”の紹介を繰り返しているようだ。

 

「この動画、マジなの?」

「どうせ何かの演出でしょ!?」

そんな声が近くから聞こえてくる。

少し前まで、私も半信半疑だった。しかし、今は違う。

「でも、あの拳銃は本物なのかな?」とやまっちは疑問を口にする。

「えっ!?」

「ひめじさんが巻き込まれているんだから、演出や悪ふざけではないのは間違いなけど、拳銃が本物か分からないでしょ。」

確かに言われてみればその通りだ。動揺のあまり、そんな単純なことも見落としていた。

少しだけ希望が持てた。しかし、淡い希望はすぐに打ち崩される。

 

『・・・容疑者の紹介はとりあえず以上だ。ちなみに、この拳銃だが・・・』

そう言いながら、仮面の者は後ろを振り返りおもむろに銃を構え、

自らの後ろにある花瓶を打ち抜いた。花瓶は跡形もなくバラバラになった。

その映像が仮面の者のカメラにはっきりと映し出された。

『もしかしたら、この拳銃が偽物と思っている者がいるかもしれないので披露した。』

私もやまっちも声が出ない。いよいよ、切迫した状況に頭も心もついていけていない。

そんな私たちの心境とは裏腹に仮面の者は話を続ける。  

『13:00まであと30分をきった。では、核心に迫ることとしよう。犯人を見つけてほしい事件は、3か月ほど前の6月1日に梅田で起きた女性傷害事件だ。』

 

仮面の者は淡々と話し始めた・・・ 

『20xx年6月1日(金)午後11時37分、

被害者は或真多 三月(あるまた やよい)24歳、女性。IT会社「Xソフト」で経理として勤務。

趣味はショッピング、特技は合気道。

海水ひめじの店から徒歩11分の場所で、その事件は起こった。

彼女は不意打ちを食らい、頭を鈍器で殴打され重傷。

現在も意識不明だが、現在は快方に向かっており、近いうちに意識を取り戻す可能性は高いらしい。

被害者は犯人の顔を見ておらず、事件そのものの目撃者は見つかっていない。

第一発見者は通りかかったタクシーの運転手。ちなみにこの男は犯人ではない。

お客が乗っていたからだ。そして、警察は聞き込みの結果、

何人かの容疑者をピックアップした。それがこの円卓に座っている者たちだ。』

 

私はここまで聞いて、少し違和感を持ち始めていた。

仮面の者は話を続ける。 

『まず、一之瀬 栄登は、或真多の大学の後輩で、同じ合気道サークルに所属していた。

その頃から彼女に好意を持っており、何度となく告白したが、

彼女にしてみればかわいい後輩の域を抜けず、その思いが届くことはなかった。

しかし、一之瀬のその思いは今も変わっていなかったらしい。

或真多に言い寄った結果、思い余って犯行に及んだかのかもしれない。

難波 小次郎は、或真多の勤める会社のプログラマーで、

ある飲み会の席で彼女にセクハラまがいのことをしてしまい、

出世の道は閉ざされ、今は窓際に追いやられているそうだ。完全な逆恨みだが、動機としては十分だ。

山東 あいりは、或真多の大学時代からの友達だったが、

或真多が山東が好意を持っていた男性と付き合うことになり、そこから疎遠になった。

しかも、結局ふたりは別れることになった。或真多が振ったことによってな。

これも逆恨みの上、動機としては弱いが、可能性としては排除できない。

獅子宮 美鈴は、或真多が住むマンションの隣の部屋に夫と娘とで住んでいる。

或真多が夜遅く帰ってくる時の物音が気になると、

管理人にクレームを入れているところを複数のマンションの住民が聞いている。

騒音トラブルというのは、意外と大きい事件に発展するものだ。

神童 栄悟は、或真多が殴打された付近の路地裏で酔っ払って寝ていた。

或真多との接点は見つかっていないが、

現状としては唯一現場近くに居た人間であり、彼女と何かトラブルになった可能性もある。

ちなみに神童自身はぐっすり寝ており、事件そのものすら気付かなかったと供述している。

そして海水 ひめじは、或真多が事件当夜に飲んでいた店のオーナーだ。

或真多はその店の常連だったそうだ。

しかし、その日は従業員が誤って或真多に水を掛けてしまい、

鬱憤を晴らすために酔っ払っていたのと相成って、

喚く彼女にオーナーである海水は必死に頭を下げていたそうだ。 

カッとなって彼女の後を追って、殴打しても不思議ではない。

 

さぁ、カードは提示した。

あとは君たちの投稿に期待する。13時まで残り5分か。そろそろだな。

私は君たちの書き込みに敬意を表し、全てに目を通すつもりだ。

この映像を見ている諸君。検討を祈る。 

最後に言っておこう。私は彼女を愛している。

全ての決着が着き、彼女が目覚めた時、私は彼女にとって永遠のヒーローになっているだろう。』

 

映像はそこで真っ暗になった。電源を切ったようだ。もう様子を伺うことはできない。

私はすぐにそらっちに電話した。幸い、そらっちはすぐに出てくれた。

「もしもし、そらっち。至急、お父さんと話がしたいの!」

 

 そらっちと合流して、私とやまっちは大阪府警に赴いた。

そらっちのお父さんは、大阪府警の本部長なのだ。

私の姉が事件に巻き込まれたことをそらっち経由で伝えてもらうと、

すぐに大阪府警に来てほしいとのことだった。

当然であるが、大阪府警は既に捜査本部を立ち上げ、情報収集にあたっていた。

私が呼ばれた理由はこれがいたずらではないことを証言してほしいからだった。

被害者とされる全員がグルかもしれないし、

拳銃にしても本物とは限らず、何かトリックを用いて花瓶を割った可能性もあるからだ。

 しかし、私の姉が巻き込まれている以上、少なくとも前者は違う。

 

「私の姉で間違いありません。」

「分かった。必ずお姉さんは我々が助ける。ただ、君の推理力を私はとても信頼している。つらいだろうが、協力してほしい。」

と頭を下げた。

 願ってもないことだ。私の答えはもちろんイエスだった。

 

状況はどんどん悪くなっている。

ネット上には既に何百何千の書き込みがされている。

”自分には関係がない”、”自分は安全だ”、と思うと、人は途端に強気になる。

”被害者への誹謗中傷”、”根拠のない目撃証言”、”悪質な悪ふざけ”、”個人情報の故意の流失”・・・。

皆が匿名という仮面を被り、ひと時の暇つぶしを楽しんでいるようだ。

私はひどい怒りを覚えながらも、もし私の身内が巻き込まれていなければどうだったのだろう、と考えた。

くだらない書き込みに面白半分に目を通し、推理ゲーム感覚で事件を推理していたのではないか・・・。

 

「君のお姉さんも含めてなんだが、彼らが犯人の訳がないんだがな。」

そらっちのお父さんは独白のようにつぶやいた。その言葉に私は我に返る。

「どういうことなんですか?」

横にいたやまっちがすかさず尋ねた。

「我々はプロだ。あの事件については徹底的に調べている。犯人は詰まっていないが、仮面の奴がいうところの”円卓の容疑者”は犯人ではない。奴が話した通り大小の差はあれ、動機があった人たちなのは確かだ。しかし、我々の捜査により、アリバイが成立している。トリックの可能性もない。これは間違いない。」

「ということは、仮面の者が言ってることは全て本当のことなの?」

今度はそらっちが訪ねる。

「そうだ。どうやって調べたかは知らんが、よく調べている。大した執念だよ。それほどまでに或真多さんの無念を晴らそうとしているんだからね。」

「でも、彼女って目を覚ましそうなんですよね?」と私。

「うん、主治医の話では後遺症もないだろう、とのことだったよ。」 

「お父さん、こんなこと言ったら怒るかもしれないけど、犯人は警察関係者じゃないの?これだけ内情を知っているってことは。」

「そう思うのも仕方ないが、それはない。確かにその線もあるかもしれないと思い、或真多さんの事件にあたった警察関係者全員に連絡し、所在を確認済みだ。」

「じゃあ、或真多さんのご家族とか恋人じゃないんですか?」とやまっち。

それは私も考えていた。こんな復讐を実行するような奴だ。或真多さんを深く愛している者の犯行だろうと。

しかし、今は違う推理が頭に浮かびつつあった。

「いや、それは違う。ご両親の所在はすでに確認済みだし、ご兄弟はいない。また恋人だが、事件の1か月ほど前に相手の方から振ったようなんだ。或真多さんは未練があったようだが、彼にはすでに別の彼女がいるよ。」

 

ここまで話を聞いて、私は自分の推理が当たっているのではないか、と確信を持ち始めていた。

そこで、そらっちのお父さんに或真多さんが襲われた状況を確認してみることにした。

「被害者が海水ひめじさんのお店を出たのが午後11時20分頃だそうで、そこから事件現場までは徒歩で10分前後。酔っていたので走ってはいないだろう。そして、第一発見者は被害者を見つけてすぐに119番したらしく、その時刻は午後11時45分。少しばかりの誤差はあるだろうが、事件発生時刻は20xx年6月1日(金)午後11時30~45分頃で間違いないという判断だ。被害者のマンションは大通りに面していて、本来なら人通りが多いところなんだ。真夜中であったとしても、誰かしら目撃者が居そうなんだが、襲われた場所は車一台分ぐらいしか走れない細い道なんだ。その細い道を抜けると近道らしくてな。マンションの住民はよく通っていたらしい。」

「犯人もそんな場所だから襲ったんですね。待ち伏せしていたのか、後を追ってきたのか・・・。」とやまっち。

「そうかもしれないな。残念なことだ。」

続いて、私はそらっちのお父さんにもうひとつ質問してみた。

 「では、或真多さんに振られた人、もしくは付きまとっていたような人はいませんでしたか?」

 「付きまとっていた者はいないが・・・振られた者はどうかな?」

そんな会話を聞いていた若い刑事さんが、話に割って入った。

「いますよ、最近振られた人。或真多さんの周辺を洗っていたんですが、彼女の行きつけの美容院の美容師さんがえらく或真多さんを好いていたようでね。ふたりとも、ミスチルが好きで意気投合したそうです。まぁ、恋愛の方は当たって砕けたようですがね。六畳 間(ろくじょう けん)という男で、振られたのは4か月も前のようです。まぁ、その時は彼女も彼氏いましたし、当然ですよね。でも、その後もお客と美容師として、友好的に接していたようですよ。」

この報告を聞き終えてから、そらっちのお父さんは私に質問した。

「海水さん、それがどうしたんだい?今回の犯行は或真多さんを深く愛している者の犯行じゃないのかね?その六畳って男は確かに或真多さんを好きだったんだろうが、振られている。恨んではいないようだが、今回の事件とは特に関係ないように思えるが・・・。」 

 

まだ決定的証拠はない。しかし、私はその男が今回の犯人だと確信していた。

仮面の者の言葉を思い返してみると、そうとしか思えないのだ。

私は自分に言い聞かせるようにこう言った。

「虚飾も欺瞞も虚構も誹謗も中傷も仮面を被って言い放つ人間がいる。でも、そんな人間は仮面を脱いでも言葉に仮面を被せてしまう。そんな人間は誰かのヒーローなんかに永遠になれない。」


この本の内容は以上です。


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