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中間子論

 

 

 

シルエット

 

団地の中

 

少女が一人で暇そうにしている。

 

そこへ少年が現れる。

 

少年はボールをもって壁あてをしている。

 

 

 

神「地球も月も、私もあなたも、象もミジンコも、木も花も、石ころも水もすべてのものは互いにひきつけています。月は地球の周りを回って、地球は太陽の周りを回って、太陽は銀河の中心を回って、銀河の中心は何の周りを回っているのでしょうか。これが所謂、ニュートンの万有引力の法則。

 

すべてのものは原子でできています。原子の中には原子核と電子があって原子核の周りを電子が回っています。これらは互いに静電気力でひきつけあっています。原子の中心の原子核の中では陽子と中性子という二つの粒子が核力という力でひきつけあっています。これらの力はすべて、物体どうしが離れているにもかかわらず働きます。このような力を遠隔力といいます。遠隔力は離れているのにどうして伝えているのだろうか。物理学者、湯川秀樹は次のような粒子のモデルを考えた。」

 

 

 

少年「あ」

 

ボールが少女のほうに転がっていく。

 

少女「あ」

 

少女、ボールを投げて返す。

 

少年「ありがと」

 

 

 

神「湯川秀樹はこのボールのことを中間子と呼びました。」

 

 

 

少年「ねえ。一緒にやらない?引っ越してきたばっかりで友達いないんだよね」

 

少女「そうなんだ」

 

少年「はい」

 

少年、ボールを投げる。

 

少女「あ。」

 

少女、ボールを投げ返す。

 

少年「お。はい」

 

少年「そうだ。みて。」

 

少年、ボールを静かに手から離す。ボールが落ちる。

 

少年「・・・」

 

少女「え?」

 

少年「なんか悲しくない?」

 

少女「そうかな。」

 

少年「もう一回やるよ。」

 

少女「あ、なんか。うん。」

 

少年「でしょ。でもね、ニュートンはこれをひきつけあってるって考えたんだ。ラブラブだってね。」

 

母「ほらー、ごはんよー」

 

少年「あ、母さんだ。ごめん。いかなきゃ。」

 

少女「うん」

 

少年「またやろ。」

 

少女「またっていつ?」

 

母「ほらー、ごはんだって言ってるでしょー」

 

少年「え?」

 

少女「またっていつ?」

 

少年「またはまただよ」

 

少女「あした?あさって?三ヵ月後?1年後?3年後?10年後?20年後」

 

母「ほらーいつになったらくるの」

 

少年「じゃあ。20年後。」

 

少女「またどこかで」

 

少女の手にはボールが残る。

 

 

 

神「「中間子論」はじまります。」

 

 

 

二人、エレベーターを待っている。

 

「チン」という合図とともに。

 

男、エレベーターに乗る。

 

女、エレベーターに乗る。

 

女、階数ボタンを押す。

 

男、階数ボタンを押す。

 

階があがっているのを見る。

 

「チン」の合図とともにエレベーターの外に出る。

 

 

 

男、喫茶店に入る。

 

男「あ、一人で」

 

女、喫茶店に入る。

 

女「あ、一人で」

 

 

 

二人、席に着き、メニューを眺める。

 

男「あ、じゃあ。サンドウィッチで」

 

女「あ、アイスティー」

 

男、パソコンを出し、本を書き始めるる。

 

女、本を読み始める。

 

女が1ページをめくる頃、注文の品がやってくる。

 

男、あわててパソコンをどかす。

 

女「あ、はい」

 

男「あ、ここらへんで」

 

女、アイスティーを飲む。かなり集中をしている。

 

男、サンドウィッチを食べる。

 

 

 

女、窓の外を見る。

 

男、外を見る

 

二人「あー」

 

 

 

二人、帰り支度をしだし、

 

女「お会計おねがいします。」

 

男「お会計おねがいします。」

 

お会計をすます。

 

 

 

外を出て数歩歩くと雨が降っている。

 

二人「あ」

 

男、置き傘をさす。

 

女、傘を持っていなかったので、ハンカチを探し、ハンカチを頭にのっける。

 

女は急ぎ足で駅に向かう。

 

 

 

二人、改札に入り、階段を上り、ホームに来る。

 

「ぷシュー」の音と共に電車に乗る。

 

女、再び本を読みながら。

 

男、外の眺めながら。

 

 

 

男「立ち並ぶ工場の煙突からでる煙で、薄ぼんやりとした風景は僕が小さい頃にすんでいた公団住宅のベランダから見る風景と良く似ていた。ベランダからは、車の量と割りに合わなほどやたら広い道路と工場地帯と、その先には、すべてを見下ろすほどひときわ大きな高層マンションが建っていた。所謂、国の住宅政策の一環とした「ニュータウン構想」の元に作れられたこの町に引っ越してきたの小学校2年生のときだった。僕の両親は共働きで、いわゆる鍵っ子というやつで、僕はそのベランダから親の車が現れるのをけなげに待ち続けていた。夕方になると工場からでる煙が雲のように太陽からの光を散乱させて、薄紫色の近未来都市のような幻想的な風景を作り上げていた。夜になると、工場は無駄にライトアップされて(まぁ安全のためだとは思うんだけど)「まだまだ働きまっせ」といった感じの姿を横目に、宿題をはじめる。夜も遅くなると、ようやく工場の明かりは消え、高層マンションの部屋の小さな灯りだけが残る。僕はその灯りに向かって、こんばんは、と言いいながら、ベランダにでる。もうすぐ両親が帰って来る。お腹が空いた。」

 

 

 

男、あくびをする。

 

 

 

女「あ。今日はなに食べよっかな」

 

 

 

「ぷしゅー」の音と共に電車を降りる。

 

 

 

電車がつき、外にでる。階段をくだり、改札を出る。空を気にしている。

 

行こうと決意して。歩き出すが。

 

 

 

女「あ、薬局いかなきゃ」

 

男「あ、TUTAYAいこ」

 

 

 

女、薬局に行く。サプリメントと鼻シュッシュとティシュと傘を買う。

 

 

 

男「あ。と偶然手にしたその本は、高校のときの同級生の、佐藤晶子が読んでいた本だった。」

 

 

 

男、本を手にとり、眺める。

 

女、鼻シュッシュのあれこれを見比べている。

 

 

 

女「よし。」

 

男「佐藤晶子は、ほんとよくわからない置物みたいな存在で。

 

女「あ、レシートいらないです」

 

 

 

女、会計を済ます。

 

 

 

男「いつもの一人で本を読んでいて。教室にいるときは耳にイヤホンをして机に絵ばっかり描いていて。いつも一人でご飯を食べていて。でもなんか。・・・、暇さえあれば、佐藤晶子の観察をしていた。」

 

 

 

男「それはたぶん。佐藤晶子の中に自分と同じ何かを感じていたからかもしれない。」

 

 

 

歩きながら

 

 

 

女「ただいま。」

 

男「ただいまー」

 

 

 

二人それぞれの部屋に帰る。

 

 

 

男「佐藤晶子はいったいどんな本を読んでいたんだろう。」

 

 

 

大音量の音楽。

 

音楽もカットアウト

 

 

 

男「ソラミツ~」

 

男、毛むくじゃらの物体とじゃれる。

 

女、テーブルの上に携帯をおき、荷物を台所にもっていく。

 

女、帰ってきて床で寝ながら本を読む。

 

男、本を置く。

 

女「あ、携帯」

 

女、テーブルの携帯をとる。

 

男は本のお供にウーロン茶を飲もうと台所に向かう。

 

男、鼻歌を歌う。

 

男は冷蔵庫を開ける。中にジャスミン茶とウーロン茶とジャーキーカルパスがあることを発見する。

 

男はソラミツにえさあげにいく。

 

 

 

男「ソラミツ、ごはんだよ」

 

女「お腹すいた」

 

 

 

女は台所に向かう。携帯はテーブルの上におく。

 

女、鼻歌を歌う。「あなたは毛沢東、スズメのせいで、イネがとれない、百万人があっという間にしんだ」

 

女は牛乳をコップに注ぎ、その中に大豆プロテインを入れてかき混ぜる。

 

女は大豆プロテイン入りの牛乳をもって部屋にもどる。

 

女はコップをテーブルに置く。

 

男、ウーロン茶とジャーキーカルパスをとりにいく。

 

 

 

女「あ、スプーン忘れた」と言って台所にいく

 

 

 

男はウーロン茶とジャーキーカルパスを持ってくる

 

女、すぐにもどってくる。

 

男、ジャスミン茶をとりにいく。

 

女、一口大豆プロテインを飲み。

 

 

 

女「うえ。まず。・・・なにこれ」

 

 

 

男、ウーロン茶を持ってくる。

 

女、再び、本を読み始める

 

男は、本を読みはじめる。

 

しばらく、この状態がつづく。

 

女、本を読みながら。

 

 

 

女「私は本を読んでいた。私の両親は共働きで、私はいつも本を読みながら親の帰りを待ち続けていた。ふと窓の外を見ると夜で。窓の外にには、模型みたいに小さな公団住宅のアパートの灯りがたくさん見えた。夜も遅くなるとその灯りもひとつ、またひとつと消えていき、最後のひとつの部屋はいつも決まっている。私は、その部屋にむかって」

 

二人「こんばんわ」

 

男「と挨拶をしながらベランダに出る。」

 

女「冷たい夜の風と闇と孤独がその小さな光をより輝かせて見せた」

 

男「ここと同じように、そこに灯りがあるように。」

 

女「私と同じような誰かがきっと何かを待っているんだろう。」

 

男「その灯りをみているとなんとなくそのことを共有することができた。」

 

女「私が見ているその灯りが数秒前の明かりだとしても。」

 

二人「そんなのは近似できるほどの誤差程度でしかないよ!」

 

女「と言ってしまえるような距離」

 

男「と時間が。」

 

女「私達はこの宇宙で一人きりではないのかもしれない」

 

男「と思わせてくれた。」

 

 

 

女、しおりをはさみ、丁寧に本を閉じる

 

男、丁寧に本を閉じる。

 

 

 

女「いつか私は彼と会うことができるのだろうか。」

 

男「いつか僕は彼女と会うことができるのだろうか。」

 

 

 

男「なんてことを考えながら。今日も」

 

二人「おやすみなさい」

 

女「の挨拶をして」

 

男「部屋の電気を消す。」

 

女「またあした」

 

 

 

暗転

 

明転

 

 

 

ソラミツは一回り大きくなっている。

 

携帯のアラーム。と共に起きる二人。

 

女、もぞもぞ起き、アラームをきる。

 

 

 

女「あ。まずい」

 

 

 

ぼさぼさの頭を鏡をみながらとかし。。

 

男、携帯を探すが携帯がない。

 

 

 

男「あれ、ない。ソラミツお前食べただろう」

 

 

 

男、鏡を見て。ひげをチェック。最後に鼻毛をブチっとな。よーし。

 

 

 

女「あ、もういいや」

 

 

 

女は本と携帯とウォークマンと化粧品をバックに入れて外に出る。

 

男は、筆記用具とノートパソコンと本をバッグの中に入れて外に出る。

 

 

 

男「いってきます」

 

女「いってきます」

 

 

 

二人は玄関をでて、鍵を閉める。それぞれの職場に向かっていく。信号待ち。

 

 

 

女「いつからだろうか。私はいつも本を読んでいた。本さえ読んでいれば時間はあっという間に過ぎていったし、めんどくさい現実を多少なりとも忘れることができた。だからこそ、この長ったらしい人生をやり過ごすのには、本こそが最高のアイテムだった。私が両親や学校から何かを得た記憶はない。本は常にある種の知識と見解と教訓を与えてくれた。そのおかげで私は中学のときにはすでに大学レベルの知識を備えており、学校の勉強などというものは退屈そのものだった。」

 

 

 

女、駅のホームへ

 

男、駅のホームへ

 

 

 

男「僕は。まぁクラスの中ではいわゆる下層民族的な存在で、暇さえあれば、数学の問題をといていた。因数分解をしては展開し、展開をしては因数分解を繰り返し、それに飽きたら、微分をしては積分をし、積分をしては微分をしてを繰り返した。まぁだからといって、特にいじめみたいなものを受けていたわけではない。むしろ、バカなやつらとはかかわりたくないと思っていたのが正直なところだ。」

 

 

 

女、ホームから電車へ

 

男、ホームから電車へ

 

 

 

女「まわりのみんながバカに見えてしまったことは仕方が無いことだった。だからといって彼らに対して、バカにした態度をとるなんてバカなことはしない。しかしながら、バカと同じようにバカみたいにに振舞うのもバカみたいだったので、私は、あまりバカとは関わらないように、存在感を薄く薄く薄くして、ただただ空気みたいに生きることにした。特に、虎視眈々と有名大学を狙っていたとかそういうわけではない。ただただ、私は私として誰にも迷惑をかけず、平和に生きたいというのが、最大にして唯一の希望だった。」

 

 

 

女、電車からコンビニへ

 

男、電車からオンビニへ

 

 

 

男「といってもまぁそういう風に自分に暗示をかけていただけで。本当はどうして、自分はアチラ側にいけないのだろうと。常にぐちゃぐちゃした思いを傍らに抱えていた。かといって。なんとなく世の中の渡り方というか、妥協の仕方というか、嘘のつき方というか、そういうものを、ごっくんと飲み込みつつあった自分は、クラスの中で小さなコミュニティを作り、哀れな日常会話を繰り返していた。」

 

 

 

女、コンビニから外へ

 

男、コンビニから外へ

 

 

 

女「別に友達がほしいとなんて思っていなかった。自己完結したこの世界が私にとってもっとも居心地のよう場所だった。にもかかわらず、担任一年目の熱血先生はおせっかいにもそんな私のことをよく気にかけてくれた。その先生は女子からとてもとても人気のある先生で、女どもが、よからぬうわさを立てるには囲うのネタだった。いつの間にやら、私のお腹の中には先生の子供がいるということになっていた。」

 

 

 

女、外から信号待ち

 

男、外から信号待ち

 

 

 

男「その頃というのは結構テレビとかで騒がれるくらいイジメが流行った時期で、となりのクラスなんかはクラスの半数ぐらいが自殺しちゃって学級閉鎖になってしまった。先生も「センター試験の時期はイジメが流行りやすいから、みんなも気をつけるように。」とか言っていたけど、どうやったら気をつけるのか分からなかった。そんな流行病はうちのクラスにもやってきていた。その第一の被害者が、佐藤晶子だった。」

 

 

 

二人、会社へ歩いていく。

 

 

 

女「そうして、所謂いじめがはじまった。学校にいくと机の中の教科書もノートもすべて無くなっていた。三日後、それら部室棟の男子便所の中で発見された。何よりも驚いたことは、何も抵抗できない自分がいたことだった。集団のバカに対して私は無力で、手をあげることも、声をあげることも、言いつけることすらできなかった。私ができる唯一のことは、机の上にぐるぐるとした線を描きながら、怨念を募らせ、彼らを駆逐するべき神を召喚しつづけることだけだった。」

 

同時に

 

男「「女ってほんとめんどくさいね」とか友達と話すくらいで、僕はそれに対して特に何をすることもせ、そんなときでもただただ佐藤晶子を観察し続けていた。佐藤晶子は何があっても、ぴくりとも表情を変えず、何事もないように授業を受けつづけた。しかしながら、そのことがまた、バカどものイジメを進化させていった。そして、いつしか、佐藤晶子は休み時間になると教室から姿を消すようになった。」

 

 

 

二人「おはようございます。

 

 

 

 

 

二人、デスク

 

 

 

男「僕は彼女を探すでもなく、探しながら、なんとなくではないのだけど、まぁなんとなく図書室にいった。そこには案の定、何事もないように静かに本を読んでいる佐藤晶子がいた。」

 

女「あ、これ返しておきますね」

 

男「僕は、勇気を振り絞って彼女に話しかけてみることにした。」

 

 

 

男「ねぇ。」

 

 

 

女「え?」

 

男「ちょっと聞いていい?」

 

女「え。あ。はい」

 

男「あの。太宰治の人間失格ってどこあるかわかる?」

 

女「たぶん、あそこらへんです。」

 

男「え。あ。ありがと。」

 

女「いえ」

 

男「いや。図書室とかはじめてで。え?読んだことある?」

 

女「何がですか?」

 

男「太宰治の人間失格」

 

女「あぁまぁ。」

 

男「面白かった?」

 

女「いや。」

 

男「え、そうなの」

 

女「わたしはですけど」

 

男「なに読んでるの?」

 

女「え?」

 

男「だから。」

 

女「いや。読んでないです」

 

男「読んでるじゃん。それ。」

 

女「これは。」

 

男「おもしろいの?」

 

女「まぁ。はい。」

 

男「どんな話なの?」

 

女「いや。まぁ。話すと長くなるので。」

 

男「面白いよね」

 

女「なにがですか」

 

男「キャラが」

 

女「・・・悪趣味ですね」

 

男「そうね」

 

 

 

男「じゃあ。読み終わったら貸してよ。」

 

女「え。あ。でも。これ下巻なんで」

 

男「あ、そうなんだ。あ、じゃあ。上巻どっかあるかな」

 

 

 

男、本を探しながら

 

 

 

男「なんかいつも変な絵描いてるでしよ。」

 

女「え。」

 

男「毛玉みたいなの。机とかに。」

 

女「あー。」

 

男「いや。ユニークだなと思って」

 

女「え、なんなんですか」

 

男「なんて名前なの?」

 

 

 

女「・・・さとう」

 

男「あ。いや。あの。その。毛玉」

 

女「あ、あああ、あぁ」

 

男「なんか考えてはいるの?」

 

女「いや。別に。」

 

男「教えてよ。」

 

女「いや。いいです。」

 

男「あそ。」

 

 

 

女「・・・ソラミツ

 

男「え?」

 

女「ソラミツです。」

 

男「・・へー。ソラミツっていうんだ」

 

女「・・・」

 

男「とりあえず男の子なのね。」

 

女「え。いや。あ、はい

 

男「え、あ、違った?」

 

女「はい。いや、でもそれでいいです。」

 

男「あ。女。女で」

 

女「男で、男で。」」

 

男「いや。ごめん」

 

女「いや。ごめんなさい」

 

 

 

男「どんなやつなの。」

 

女「いや。そこまでは。」

 

男「たぶんね。ソラミツは・・・魔物なんだよ。」

 

女「え、魔物?」

 

男「え、だめ?」

 

女「いや。いいです。」

 

男「でね。ソラミツははじめはすごい小さいの。もうね。このくらい。ビー玉くらいに小さいの。でもね。いつの間にかどんどんと大きくなっていくの。」

 

女「なんでソラミツは大きくなるの?」

 

男「分からない。でもほらホコリとかってそうじゃん。どこからともなくやってきて。いつの間にか大きくなっていって。」

 

女「でも。」

 

男「え?」

 

女「魔物だったらなんか悪いことをしなくちゃ。」

 

男「そうだね・・・うん。だからソラミツはとにかく食欲が旺盛なんだよ。だから周りにあるものを次々と飲み込んでいく。」

 

女「たとえば?」

 

男「まずは。目覚まし時計が食べられる。」

 

女「なんで目覚ましなの?」

 

男「20デシベル以上の音を発するものをソラミツの好んで食べるんだ」

 

女「だから真っ先に狙われたのね」

 

男「そういうこと」

 

女「それから?」

 

男「それから。テレビが食べられる。」

 

女「次は?」

 

男「お父さんとお母さんが食べられる」

 

女「お父さんもお母さんも?」

 

男「そう、お父さんもお母さんも商店街のおばちゃんも

 

女「八百屋のおじさんも。」

 

男「校門に立っている体育の先生も。」

 

女「クラスもみんなも。」

 

男「先生も。」

 

女「・・・図書室みたい」

 

男「でしょ。もう世界は空っぽ。静かな世界だ」

 

女「私も飲み込まれちゃったの?」

 

男「うん。残念ながら。生きているのは。ソラミツと僕だけさ。」

 

女「え。」

 

男「なに?」

 

女「ずるくない?」

 

男「悲鳴をあげた君がいけないんだよ。}

 

女「どうにかならないの?」

 

男「じゃあ。わかった吐き出そう。」

 

女「ごめんなさい。」

 

男「君はソラミツですら消化不能な特異体質だったってことにしよう。」

 

女「なんか嫌だけど。生き残るためには仕方が無いのね。」

 

男「仕方が無い。まぁなんだろプラスチックみたいなゴムみたいな。それに近い何かだったんだよ。君は。」

 

女「衝撃の事実ね」

 

男「だれももずっといってくれなかったんだね」

 

女「でもそれでよかったと思う。」

 

男「そうだね」

 

 

 

男「さぁどうしよう。」

 

女「ソラミツには乗れる?」

 

男「そうだね。その頃にはだいぶ大きくなっていると思うけど。」

 

女「じゃあ。乗りたい」

 

男「じゃ乗ろう。どこへいく?」

 

女「砂漠にいきたい」

 

男「じゃあいこう。ついたね」

 

女「砂漠だね」

 

男「なにもないね」

 

女「暇だね」

 

男「そうね」

 

男「セックスでもする?」

 

女「・・・」

 

男「いや。うそ。ジョーク」

 

女「・・・」

 

男「少ししゃべりすぎたかな」

 

女「そうですね。」

 

女「あ、ありましたか?本」

 

男「なかった。かりられちゃったのかな」

 

女「そうですか」

 

男「また。話そう」

 

女「・・・」

 

男「・・・。「またっていつですか。あした?あさって?三ヵ月後?1年後?3年後?10年後?20年後?」」

 

女「・・・?」

 

男「いや。昔。近所に住んでる女の子と約束したの。でも。結局「また」はなかったから。」

 

女「・・・。」

 

男「また。明日」

 

女、時計を見る。

 

男、時計を見る。

 

男「いくか」

 

女「そうですね」

 

 

 

電車の音

 

電車の中

 

 

 

二人、本を開いて。

 

女、外を眺めている。

 

男、外の眺めながら

 

 

 

男「僕が佐藤晶子としゃべったののは、結局それが最後でした。」

 

女「私が彼としゃべったの、結局それが最後でした」

 

男「高2くらいから」

 

女「彼はいつのまにか、学校からいなくなっていました」

 

男「父は単身赴任といって家をでていったきり帰ってこなくなったり、」

 

女「マンションのベランダから見る灯りも、夜になる前に消えていました」

 

男「父の分までと一生懸命働いた母は、過労で倒れ、そのまま帰らぬ人になりました。」

 

女「私は学校でひとりきりになってしまいました」

 

 

 

男「僕は、新潟の祖父母の家に預けれることになり、」

 

女「学校での小さないじめは日増しにエスカレートしていったが」

 

男「公団住宅とも学校ともクラスのすばらしい友達とも、」

 

女「それらを何事もなかったかのように」

 

男「おさらばすることになった。」

 

女「隠蔽作業を繰り返した」

 

男「祖父母は二人で旅行にいっちゃうくらいとても仲の良い夫婦で」

 

女「家でも何事もなかったように振舞って」

 

男「本当に僕らによくしてくれた。」

 

女「両親もバカみたいに笑っていた」

 

男「でも、僕が高校3年の新学期がはじまった頃に、」

 

女「私は学校を休みがちになりました。」

 

男「祖父は、はしごから落ちて」

 

女「マンションから見る昼の風景は」

 

男「死んでしまいました。」

 

女「とても新鮮でした。」

 

男「はしごを上っているときに大きな風が吹いて」

 

女「私は」

 

男「はしごは」

 

女「どこか」

 

男「綺麗な」

 

女「遠くに」

 

男「円を描いて」

 

女「いってしまった彼のことを思いました。」

 

男「倒れていったいうことです。」

 

女「彼は今頃きっと。」

 

男「新しい高校で新しい友達との嘘のようなに楽しい学校生活を送りました」

 

女「それなりの生活をしているのだと思います。」

 

男「佐藤晶子のことは僕の頭の中からすっかり消えていました」

 

女「もうきっと彼と会うことは二度とないのだなと思うとすごくすごく悲しい気持ちになりました」

 

男「そんなある日」

 

 

 

男「ただいまー」

 

女「ただいまー」

 

 

 

二人、電車を降りて、家に

 

 

 

男「そんなある日」

 

男「佐藤晶子から手紙が届いた。」

 

女「私は彼に手紙を書きました。」

 

 

 

男、手紙を探す。

 

女、手紙を書く。

 

 

 

男「その手紙が届いたころ。僕はたしか」

 

 

 

女「お元気ですか。私は元気です。私のことをあなたは覚えているでしょうか。きっと覚えていていないかもしれません。いや、たぶん覚えていないでしょう。いや。もしかしたら覚えているかもしれません。覚えているか、覚えていないか。なんて私は知る余地もありません。だから、そんなこと考えたってしかたがないのだけど。私はそのことをよく考えます。とにかく。私が言えることは、あなたはどうかしらないけれど、私はあなたのことを覚えているということです。」

 

 

 

男「たしか、初めてできた彼女と、初めてのセックスをしていました。」

 

 

 

女「私は今でも。あのときのあの会話について考えています。あのとき言えなかったことや、言ってしまったことや、あの話の続きを、今でもよく考えています。ソラミツはいまでは現役を引退し、綺麗な奥さんと結婚をし、子供を生んで、幸せな生活をしています。ちょっと安易でしょうか。あなたならなんていうでしょうか。でも。そういうお話も良いのではないかと思います。」

 

 

 

男「だけれでも初めてのセックスをそんなに刺激的なものではありませんでした。」

 

 

 

女「時が経てば経つほど、あのときのあの会話は、私の人生にとって、もっとも貴重なものであったのだと感じるのです。貴方はもしかすると、私のことを理解してくれる唯一無二の存在で、私も貴方のことを理解できる唯一無二の存在なんじゃないかな、なんてことを思います。でも、これも私が勝手に思っちゃっているだけで、あなたは全然そんなこと思っていないし、思わなくてもいいんだけど。でも、私が思いをはせるのも、そんなの仕方なくて。だって私は、貴方が今何を考えているなんて本当のところ分からないもの。それは貴方だってそうじゃない。だからね。」

 

 

 

男「ずっと触りたいと思っていた女のおっぱいはただの脂肪の塊で

 

 

 

女「私が言いたいのはつまり。いや、あなたは既に理解しつくしてしまっているかもしれないけど。結局、私達はそういう風にしか、物事を語ることも捉えることもできないし。未来の私と未来の貴方について私はなんの保障もできないし、約束もできないってことを。私でない貴方について私は、本当の事実は何も知ることはできないってことを。あなたと共感したいのです。」

 

 

 

男「ずっと触れたいと思っていた女の唇は無味無臭の前戯で、」

 

 

 

女「それは遠くの空の星を見つめているときと同じ感覚だと思うの。その星は光の速さでこちらに届いているんだけど。それはどんなにがんばっても過去の光なの。そこには私と星との距離があって、その間を情報が渡るためには時間が必要なの。それに対して私が返事を書くとするじゃない?でもそれが届くのは、少しあとの未来なの。貴方にその手紙が届いたときには、すでに私は手紙を送ったときの私じゃなくて。私はもうそこにはいなくて。その行き違いが。因果ってやつで私達の間の空間と時間っていう間に付きまとう悲しみってやつなの。そのことについて。きっと貴方は。あなただけは私は気づいているのだと思うのです。私はどうか貴方とその悲しみについて共感をしたいと思うのです。」

 

 

 

男「やりおわったあとの女は」

 

 

 

女「できることならば。もう一度、あなたとお話をしてみたい。次はきっともう少し、愉快にコミカルにお話できると思うので。もしもお話ができるのならば、光速を超えて今の貴方のもとにたどり着きたい。そのためになら私は光にだってなれると思うのです。」

 

 

 

男「ずうずうしく横たわる死んだイルカのようでした」

 

 

 

女「光に、その存在はあるのでしょうか。存在とは何でしょうか。たとえ私が無価値な存在だとしても、私にはその存在があるのです。質量があるのです。大きさがあるのです。叩けば音がなるのです。だから、私がここにいるためには、少なからずスペースが必要で、私はこの空間を神様からお借りしているのです。そのことに価値を見出さなければいけないのでしょうか。」

 

 

 

男「僕はそのイルカを見ながら。」

 

 

 

女「「この手紙が届くころには私はもうそこにいません。でも。あなたに分かっていただきたいのは。これは、逃げることではなく、屈することではなく、私の全身全霊をこめた、最後の一撃であるということです。貴方を除く全人類に対する呪いであり、そのためのイケニエであり、なにより、私の存在証明なのであります。」

 

 

 

男「一瞬だけ君のことを思ったのです。」

 

 

 

女「さようなら。追伸。こうなることはまったくもって貴方のせいじゃないし、むしろ貴方は最後の希望でした、ただ、その希望がかなわなかったとしても、だれも貴方をせめないし。ただただ。宇宙の小さな汚点が、太陽の黒点が、仏様の涙ほくろがひっそりと、大塚美容外科で綺麗になっちゃうみたいなものですから。どうかお気になさらずいてください。それだけが私の願いであります。私があなたに伝えたいことは、ただただただ感謝と。その他のいくつかの、いくつかの思いのみです。さようなら。手を放します。」

 

 

 

暗転

 

 

 

男「落下する物体は、1秒間で9.8メートル毎秒づつ速くなり、1秒後には4.9m、2秒後には19.6m、3秒後には、44.1m落下します。したがって、地上54mの18階建の建物から物体が落下した場合、およそ3・3秒後には、物体と地面の距離は60cm程度になり、そのときの物体の速度は、下向きに32.34メートル毎秒、時速で表すと116.24キロメートル毎時となります。ちなみに、そのときの物体の持っている運動エネルギーはその質量を50kgだとすると、26246ジュール。これはピストル弾丸の40倍、ライフル弾の6倍、TNT火薬5グラム分の爆発のエネルギーに匹敵します。ばん。」

 

 

 

男「その手紙には、ぐるぐるぐるぐるとした線が、描かれていました」

 

 

 

男「佐藤晶子は今頃何をしているだろうか。」

 

男「きっと本の好きだった彼女は図書館の司書にでもなって。どこの図書館で。忙しそうに働いているのかもしれない。」

 

男「もし。仮にそういう未来に君がたどりついていたとしても。宇宙はあまりにも広すぎて。君がいまいる座標を正確に特定することはできないでしょう。」

 

男「でも僕は君を探すでもなく、探しながら、この宇宙を漂っている。」

 

 

 

女「あ、いたい。いたい、いたい。いたい。あいたいあいたいあいたい・・・」

 

男「僕はいま図書館に向かっている。」

 

 

 

明転

 

 

 

男、女を見ている。息を呑んでいる。

 

 

 

男「あの。・・・・この本の下巻ってありますか。」

 

女「あ、ちょっと待ってくださいね」

 

男「あの。」

 

女「はい?」

 

男「あ。いや。なんでもないです。」

 

女「あ、借りられてしまっていますね。」

 

男「そうですか。」

 

女「すいません。」

 

男「いいです。ありがとうございます。」

 

 

 

女「あの。」

 

男「はい?」

 

女「予約しておきますか?」

 

男「え、あ、お願いします。」

 

女「あ。はい。わかりました。」

 

 

 

男「あの。」

 

女「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この本の内容は以上です。


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