目次
登場人物
登場人物
地図
畿内
河内とその周辺
勝竜寺城の夕暮れ
勝竜寺城の夕暮れ 1
勝竜寺城の夕暮れ 2
勝竜寺城の夕暮れ 3
勝竜寺城の夕暮れ 4
勝竜寺城の夕暮れ 5
足軽の跳梁
十一年にわたるいくさ
十一年にわたるいくさ 1
十一年にわたるいくさ 2
十一年にわたるいくさ 3
十一年にわたるいくさ 4
十一年にわたるいくさ 5
ひとりぼっちの阿修羅
ひとりぼっちの阿修羅 1
ひとりぼっちの阿修羅 2
ひとりぼっちの阿修羅 3
ひとりぼっちの阿修羅 4
ひとりぼっちの阿修羅 5
さらば都よ
さらば都よ 1
さらば都よ 2
さらば都よ 3
さらば都よ 4
さらば都よ 5
つかの間の静寂
つかの間の静寂 1
つかの間の静寂 2
つかの間の静寂 3
つかの間の静寂 4
つかの間の静寂 5
つかの間の静寂 6
河内討伐の足音
河内討伐の足音 1
河内討伐の足音 2
河内討伐の足音 3
河内討伐の足音 4
河内討伐の足音 5
国をかけた商い
国をかけた商い 1
国をかけた商い 2
国をかけた商い 3
国をかけた商い 4
国をかけた商い 5
知略をつくした攻防
知略をつくした攻防 1
知略をつくした攻防 2
知略をつくした攻防 3
知略をつくした攻防 4
知略をつくした攻防 5
知略をつくした攻防 6
知略をつくした攻防 7
無明の闇のかなたに
無明の闇のかなたに 1
無明の闇のかなたに 2
無明の闇のかなたに 3
無明の闇のかなたに 4
荒野鬼神大将
荒野鬼神大将 1
荒野鬼神大将 2
荒野鬼神大将 3
荒野鬼神大将 4
護国法会の唄声
護国法会の唄声 1
護国法会の唄声 2
護国法会の唄声 3
護国法会の唄声 4
護国法会の唄声 5
結願満了の日
結願満了の日 1
結願満了の日 2
結願満了の日 3
結願満了の日 4
神兵降臨
神兵降臨 1
神兵降臨 2
神兵降臨 3
河内十七箇所
河内十七箇所 1
河内十七箇所 2
河内十七箇所 3
河内十七箇所 4
幕府軍の崩壊
幕府軍の崩壊 1
幕府軍の崩壊 2
幕府軍の崩壊 3
幕府軍の崩壊 4
幕府軍の崩壊 5
新たなる旅立ち
新たなる旅立ち 1
新たなる旅立ち 2
新たなる旅立ち 3
新たなる旅立ち 4
仏法、王法の敵
仏法、王法の敵 1
仏法、王法の敵 2
仏法、王法の敵 3
明応の政変、そして
明応の政変、そして 1
明応の政変、そして 2
明応の政変、そして 3
明応の政変、そして 4
奥付
奥付

閉じる


勝竜寺城の夕暮れ

試し読みできます

勝竜寺城の夕暮れ 1

       【勝竜寺城の夕暮れ】
 相国寺の戦いから一年以上たった冬の日、義就のいる河内若江城に垣屋豊遠が訪ねてきた。
 あの戦いで、東西両軍は大損害をこうむった。陣容の立て直しを図るとともに、両軍は守りを固めている。堀を深く穿ち、高楼を組み上げた。いまや双方に大城郭が誕生していた。こうなれば、相手を攻めるのは難しい。大乱は長期戦の様相を呈していた。
 そのため、義就は北河内の若江に戻っていた。河内で騒ぎをおこす政長方を押さえるためには、義就自身が動く必要があった。
 垣屋豊遠は、手勢を率いて播磨に向かうという。播磨は山名宗全の分国だが、赤松政則に味方する国人のために、ここでも内乱が起きていた。もともと二十数年前は赤松家が治めていた国だった。嘉吉の変で赤松家が没落したため、山名宗全の支配下になっていたのである。
 細川勝元は戦略を変えた。京の都で決戦するよりも、敵の分国で内乱を起こさせる方がいい。西軍が守護を務める国々では、いくさが頻発していた。
「是豊さまも、赤松方におられますので、やりにくいのですが」
 豊遠がこぼす。
 宗全の次男である是豊は、もともと父と折り合いが悪かった。それに目をつけた細川勝元は、是豊を山城守護にしたり、備後守護にしたりして歓心を買った。大乱が起きたとき、山名一族でただ一人東軍についたのは、山名是豊である。
「嶽山城のときは、是豊と垣屋どのに悩まされたものだが。あれから何年になるか」
 わざと暢気を装っているが、義就の心中はおだやかではない。西軍の盟主でもある山名宗全の力が、削がれてゆくのだ。
(早く決着をつけなければならん)
 このままでは、戦乱は六十余州に及ぶだろう。いまだかつてない時代に突入しようとしている。
「それはそうと義視さまは、どうなさるのでしょうか」
 豊遠が問いかける。義視とはもちろん、将軍義政の弟である足利義視だった。
 大乱が始まった頃、義視は将軍の名代として東軍に指図などもしていた。しかし、伊勢貞親が帰ってくると、様子が一変した。政所執事だった伊勢貞親は、かつて義視の命を狙っていたことがある。真偽はともかくとして義視はそう信じていた。
「貞親と一緒にいるなど耐えられませぬ。貞親を追放していただきたい」
 義視は、何度も将軍義政に陳情した。だが義政にとって、貞親は自分の手足のようなものだ。昔のようにみずからマツリゴトを執ることはできないが、貞親は必要だった。結局、追い出されるように義視は花の御所を出た。そして西軍の陣にやってきたのである。
「オレは、義視どのは好かぬ」
 義就は言い切った。
「あのご仁に、すり寄る奴らの気が知れぬ」
 斯波義廉、一色義直、六角高頼らは、義視を囲んで酒宴を続けていた。


試し読みできます

勝竜寺城の夕暮れ 2

 彼らは元々、将軍から「守護」として任命されている。将軍を敵にまわして一年半、自分たちの地位が取り上げられるのではないかと恐れていた。
 そこに現れたのが副将軍格の義視だった。将軍義政に取りなしを頼んでいるうちに、気持ちが変わっていった。いっそ義視を将軍に祭り上げたい。そんな誘惑にかられて行ったのである。
「もれ聞いたところでは、義視さまは、征夷大将軍になられるとか」
 西軍の諸将は、自分たちの将軍を作ることに決めたらしい。
「そうらしいな。だが義視公には残念ながら、この難局を収める力はない」
「それは、また・・」
「義視公が将軍になれば、公方が怒るだろう。奴らは、そんな事も分かっていない」
 若い頃、義政と親しかった義就には分かる。義視が西軍の将軍になどになったら、義政は激怒するに決まっている。
「だからオレは、義視公を将軍にしてもらいたいと言っておいた」
「えっ、なにゆえ」
「オレは、奴らに本気になってもらいたいのだ」
 この大乱で本気になっている者は少ない。義就は、そう思っていた。自分と大内政弘は、必死に戦っている。山名宗全は必死とは言い切れないが、頑張ってはいる。だが斯波義廉、一色義直、六角高頼などは、本気になっていない。将軍義政とヨリを戻す機会を狙っていた。
(だから相国寺で決着がつけられなかったのだ)
 この際、将軍義政と喧嘩別れするほうが良い。そうすれば、東西の決戦に持ち込めるかもしれない。義就は一縷の望みをいだいていた。
「いずれにしろ、畠山さまもご健勝で」
 垣屋豊遠が、別れの言葉をつげる。
「お分かりでございましょうが、山名の方々で、畠山さまにお味方するのは宗全さまぐらいですぞ」
 跡継ぎの政豊も、ほかの面々も、義就を嫌っていた。畠山義就を支援したばかりに、山名一族も大乱に巻き込まれたのだと思っている。なぜ義就に味方しなければならないのか。山名一族にとって、それが何の利益になるのか。彼らは、それを疑っていた。将軍義政の敵になっているおかげで、是豊は離反し、赤松政則のために分国内は荒らされている。一日も早く和議を結びたい。それが山名一族の本音だった。
 それを邪魔しているのが、畠山義就である。跡継ぎの山名政豊も一族もそう思っていた。
「いくさ好きの畠山のために、振り回されているのは、もう御免じゃ」
 そんな声が聞こえてくる。
「畠山さまのお志は、なかなか分かっていただけないようですな」
 垣屋豊遠が、つぶやく。
 和議など、曖昧なものではダメだ。いくさで早期に決着をつけることが大事だ。そんな気持ちを本当に理解しているのは、山名宗全だけかもしれない。
「まあ仕方あるまい。なんとかしてみよう」
 義就は、そう言うのが精一杯だった。
 若江城の周囲には、莎草(はますげ)が生い茂っている。その中に伸びる一本道を、垣屋豊遠は去っていった。

 


試し読みできます

勝竜寺城の夕暮れ 3

 垣屋豊遠が帰っていったので、義就は居室で横になった。明日には京に戻らなければならない。和平派の勝手にさせるわけには行かない。
 横向きになって考えごとをしていると、袈裟がはいってきた。袈裟は秋口に男子を産み、もう二人目を身ごもっている。
「おまえまた、子守をしているのか。乳母に任せればよかろう」
 袈裟は赤ん坊を背負って、揺らしてやりながら歌を口ずさんでいた。
「たまには、背負ってあげたいの。赤ん坊をあやすのは得意なのよ」
「わかった、わかった」
 義就にとっては嫡男になる赤ん坊は、名を「修羅」という。修羅という名にしたいと言ったとき、袈裟は少し暗い顔をした。
「どうした、父の幼名を子が受け継ぐのは、当たり前のことだぞ」
「分かっています。そうですよね」
 修羅は、あまり泣かない。おとなしい子だった。
 袈裟は寝させ唄を歌い始めた。
「ねんねん、ねんねん、ろろろろろ、ねんねん法師、古法師、宿れ、宿れ、古法師」
(たしか「聖徳太子の寝させ唄」というやつだな。オレも母上に歌ってもらったものだ)
 目を細めながら、袈裟を見つめる。袈裟は円を描くように、部屋の中を歩きまわっている。袈裟の歌は、相変わらず上手い。
(いい声だ)
 母に歌ってくれと、ねだっていた頃を思い出す。
(おや?)
 今、ねんねん法師、修羅法師と言わなかったか?修羅、修羅法師?
(おとうさま!)
 頭の中で、声が聞こえる。
(おとうさま、もう充分でしょ。おとうさまは、よく戦ったわ。もう許してあげて下さい)
 義就は声をあげようとした。だが、声がでない。
(帝釈天さまは、悪い方じゃないの。私をさらった事は、反省しているのよ。それに、今では私たち愛し合ってるの。どうか許してあげて)
 帝釈天?何がなんだか分からない。今度は男の太い声がする。
(シャシィ、言っても無駄だ。おまえの父は、もう何を言っても聞きはしない。あきらめろ。殺しても、殺しても、また蘇ってオレと戦うのだ、この男は)
 えっ、シャシィ?
(とどめを刺せ、毘沙門天)
「やめろ!」
 やっと声がでた。その瞬間、義就は目覚めた。
 目の前に、袈裟の顔が見える。背中の赤ん坊は、大きな声で、泣いていた。
「お屋形さん、大丈夫ですか?」
 袈裟が心配そうにのぞき込んでいた。
「ああ袈裟か・・・オレはいったい」
「ええ急に、気を失ったの。どうかしちゃったんじゃないかと思って、覗いていたら急に・・」
「やめろ、と言ったか?」
 袈裟はコクリと頷いた。
 背中の赤ん坊は、まだ泣いている。火が点いたように泣き続けていた。

 


試し読みできます

勝竜寺城の夕暮れ 4

 応仁二年十一月二十三日、足利義視が西軍の将軍に就任した。西軍にも幕府が誕生したのである。
 兄である足利義政の反応は、義就の予想以上だった。
「義視坊主め。予の恩を忘れたのか」
 もちろん斯波義廉、山名宗全など西軍諸将にたいする怒りも半端なものではない。義視以下西軍に加わっているものの官位をすべて剥奪するとともに、朝廷から治罰の綸旨を発布してもらった。
 義政はもともと弟を、無条件に将軍にする気などなかった。次期将軍であるなどと勘ぐっている者がいたのは知っている。だが自分はまだ三十才を越えたばかりである。弟の義視に将軍を譲るはずがないことは、常識で考えれば分かるはずである。それにもかかわらず将軍を僭称するというのは、明らかな叛乱である。決して許すことはできない。
 義政が怒り狂っていると聞いて慌てたのは、当の斯波義廉たちである。義視を仮の将軍にしなければならないほど困っている。その気持ちを義政に分かってもらいたい。そんな風に考えている者も多かった。
(だから言ったのだ。だが今度こそ、決戦の機会が生まれるかもしれぬ)
 義就は、西軍の諸将にやる気がでてくるのを期待していた。

 

 


試し読みできます

勝竜寺城の夕暮れ 5

 京の南西、西岡でいくさの火の手があがったのは、五カ月後のことだった。西岡は細川勝元の地盤のひとつである。西岡被官衆と呼ばれる地侍たちは、将軍の直轄軍としての役割もになっていた。そんな事情で、多くの地侍は東軍に加わっている。東軍が花の御所周辺しか押さえていないのに勢いを失わないのは、こうした山城の地侍たちの支援があったからだ。その西岡被官衆の中にも西軍に味方する者がいた。今度のいくさは、西軍に味方する者を、他の被官衆が攻めているのである。
 攻撃がはじまってわずか三日後、畠山義就の軍勢が西岡に現れた。予想外の事態に西岡被官衆を率いる野田泰忠は仰天した。あまりの速攻に野田泰忠は敗れ、本拠である松尾の谷ノ堂も陥落した。
(西岡を制すれば、細川勝元は必ず助けにくる。その時が勝負だ)
 義就は、味方の諸将にも檄をとばした。今度こそ決着をつけるのだ。西岡の野で、東西の会戦が行なうのが望みである。
 僚友である大内政弘は、すぐに反応した。大内勢は摂津に攻め込み、細川勝元被官の城を抜いた。だが西軍の他の連中の動きは鈍い。これ以上足利義政を怒らせたくないという者までいる。
 だが西岡を占領され、摂津を席巻されているのである。細川勝元が、我慢できるはずがない。勝元さえ出てきてくれれば、勝負を賭けることができる。
(どちらも勝元の大事な地盤だ。東軍をあげて助けに来るだろう。こない筈がない)
 その期待は、結局はずれた。細川勝元は西岡を見捨てたのである。多少の援軍は送ったが、勝元率いる東軍の本隊が現れることはなかった。
 相国寺でかろうじて引き分けに持ち込んだものの、義就や大内政弘の強さは骨身にしみた。いくさで最も頼りにしていた安富元綱も失ってしまった。細川勝元には、義就や大内政弘と正面きって戦う気持ちはもうない。西軍の諸将が治める国々への攪乱と、政略で勝ちぬく。持久戦で、西軍を破るつもりだった。
 この後、西岡の地は大乱の終わりまで、畠山義就の支配するところとなった。摂津の諸城も、守護である細川勝元に見捨てられて、独自の道を歩むことになる。
 細川勝元という男は、いざという時に非情な決断をすることができる。上御霊社でも畠山政長を、いったんは見捨てた。今度も守ってやるべき分国を見放した。その意志の強さは、義就の及ぶところではない。それだけは確かだった。

 

 勝竜寺城の櫓に、義就はひとりたたずんでいた。今日も空しく暮れてゆく。一日の終わりが近づいていた。
 細川勝元の心に「決戦」という言葉はない。それはよく分かった。だからといって、奴はこのいくさを、どこへ持って行こうというのだろう。
 勝元だけではない。東軍の者たちの考えも、西軍の者たちの気持ちも分からない。いくさが果てしなく長引けば、誰もがたいへんな損失を被るはずだ。もう、ここまで来てしまった以上、乾坤一擲の勝負をするべきなのだ。
「戦わずして、なにが武士だ」
 義就は、大声をだした。だが、その声は夕暮れの山並みに、消えてゆくだけだった。

 

 

 

 

 


試し読みできます

足軽の跳梁