目次
登場人物
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応仁元年五月二十六日 上京の戦い
応仁元年十月三日 相国寺の戦い
光宣の奇策
光宣の奇策 1
光宣の奇策 2
光宣の奇策 3
光宣の奇策 4
光宣の奇策 5
光宣の奇策 6
流転果てなし
流転果てなし 1
流転果てなし 2
流転果てなし 3
流転果てなし 4
流転果てなし 5
正実坊の預り証
正実坊の預り証 1
正実坊の預り証 2
正実坊の預り証 3
正実坊の預り証 4
正実坊の預り証 5
正実坊の預り証 6
正実坊の預り証 7
たまかき書状
たまかき書状 1
たまかき書状 2
たまかき書状 3
たまかき書状 4
たまかき書状 5
たまかき書状 6
たまかき書状(全文)
北山に春が来た
北山に春が来た 1
北山に春が来た 2
北山に春が来た 3
北山に春が来た 4
解けた公案
解けた公案 1
解けた公案 2
解けた公案 3
解けた公案 4
解けた公案 5
解けた公案 6
吉野千本桜
吉野千本桜 1
吉野千本桜 2
吉野千本桜 3
吉野千本桜 4
吉野千本桜 5
文正の政変
文正の政変 1
文正の政変 2
文正の政変 3
文正の政変 4
文正の政変 5
千本釈迦堂
千本釈迦堂 1
千本釈迦堂 2
千本釈迦堂 3
千本釈迦堂 4
千本釈迦堂 5
上御霊社の戦い
上御霊社の戦い 1
上御霊社の戦い 2
上御霊社の戦い 3
上御霊社の戦い 4
上御霊社の戦い 5
変わらぬ世の中
変わらぬ世の中 1
変わらぬ世の中 2
変わらぬ世の中 3
変わらぬ世の中 4
変わらぬ世の中 5
東寺講堂の謎
東寺講堂の謎 1
東寺講堂の謎 2
東寺講堂の謎 3
東寺講堂の謎 4
東寺講堂の謎 5
東寺講堂の謎 6
大乱始まる
大乱始まる 1
大乱始まる 2
大乱始まる 3
大乱始まる 4
大乱始まる 5
大乱始まる 6
燃え上がる歴史
燃えあがる歴史 1
燃えあがる歴史 2
燃えあがる歴史 3
燃えあがる歴史 4
燃えあがる歴史 5
虚々実々
虚々実々 1
虚々実々 2
虚々実々 3
虚々実々 4
虚々実々 5
倒すべき敵は
倒すべき敵は 1
倒すべき敵は 2
倒すべき敵は 3
倒すべき敵は 4
倒すべき敵は 5
決戦、相国寺
決戦、相国寺 1
決戦、相国寺 2
決戦、相国寺 3
決戦、相国寺 4
決戦、相国寺 5
降りしきる時雨の中で
降りしきる時雨の中で 1
降りしきる時雨の中で 2
降りしきる時雨の中で 3
降りしきる時雨の中で 4
奥付
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光宣の奇策 2

 幕府の中で、嶽山城をどうするか話し合いがもたれた。山名宗全は、和議をむすぶべきだという。朝敵、賊徒として二年以上戦ったのである。もう許してやっても良いのではないか。それが、宗全の意見だった。飢饉のさなかに軍勢を駐留させていたのも、たいへんな負担だった。もう勘弁して欲しいというのも本音だった。
 それに対して、将軍の足利義政や管領の細川勝元は強硬である。いつまでも降伏しないのは、けしからん。今更、許すことなどできないと言う。
 とにかく事態を打開しなければならない。そこで成身院光宣を送ることになった。策士として知られる光宣である。きっと良い手だてが、みつかるだろうと期待していた。
「嶽山城の様子を探るのであれば、ひとつお願いがございます」
 公方と管領を前にして、成身院光宣は進みでた。
「わたくしが立てる策は、公方さまのご指示であるとの御教書(指示書)をいただきたい」
 義政と細川勝元は顔を見合わせた。
「征討軍の者どもは、おぬしの命令に従わないということか」
 光宣はうなずいた。征討軍の総大将は、河内守護になった畠山政長である。細川、山名、武田などの軍勢も守護あるいは守護代が率いていた。大和の官符衆徒棟梁(守護代格)の兄にしか過ぎない成身院光宣の命令では、たしかに立場が弱い。
「わたくしの命では、誰も動きませぬ。ただ、策を立てることはできる。その策をおこなうためには、公方さまのお墨付きが、是非とも入り用なのでございます」
「分かった。おぬしの申す通りにしよう」
 こうして、成身院光宣は公方の御教書を持って、嶽山にやってきたのである。

 


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光宣の奇策 3

 早速、軍議がもたれた。
「公方さまは、お怒りであろう」
 滞陣している武将たちの関心事はそれだった。
「うむ、どのような手だてを講じているのか見てまいれ、との御言葉であった」
 成身院光宣は公方名代として、上座から、言った。
 何度も、総攻めをかけた。だが、このところ何もしていない。厭戦気分で、やる気もおきないというのが実際だった。
 だが、そんなことを報告するわけには行かない。みな、どうやって責任を逃れようかと考えていた。
「いや、兵糧攻めをしているのだが、これが上手くいかぬ。城内には、大きな井戸もあって、水を絶つこともできぬ。われらも困っているのだ」
 成身院光宣は黙った。沈黙は大きな圧力になる。
「嶽山の周囲は三里(十二キロ)もある。大軍を以てしても、出入りを塞ぐことはできないのじゃ」
「大和の越智家栄が、兵糧を運び込んでいるのは分かっているのだが、くい止める術がない」
 武将たちは、口々に言い訳する。ようやく、光宣が口を開いた。
「越智の兵糧は、どこから運ばれてくるのでござろう」
 成身院光宣が差配する筒井家の力は、大和のほとんどに及んでいる。だが南大和に本拠を持つ越智家栄だけは、どうしても倒せなかった。かつて後醍醐天皇の南朝が、盤拠していた吉野を背景にして、頑強に抵抗していた。越智家栄にとっても、畠山義就は幕府内で唯一の味方である。義就が滅びてしまえば、越智家も孤立する。なんとしても義就を支える必要があった。
「荷駄は南大和から国見峠を越えてくる。そのあと包囲陣の隙を縫って、城に運ばれるのだ」
「では、その国見峠を塞げばよかろう」
 光宣にあっさり言われて、武将たちもあわてた。光宣の弟で、筒井家の当主をつとめる筒井順永が、弁明する。ほかの武将のためにも、しっかり説明しておかねばならない。
「われらも、同じように考えた。だが国見峠は、軍勢をおいておくのに不向きな場所なのじゃ。さらに、間道も多くて、出し抜かれることも多い。とても塞ぎきれぬ」
「では、城を築けばよかろう」
「えっ」
「し、城を、峠に」
「まさか」
 同席している者すべてが、仰天した。
「兄上、峠に城を築くなど、正気の沙汰とは思えぬ。とても無理じゃ」
 光宣は順永のほうを見た。
「峠に城を築いてはいかんという『法』でもあるのか?」
「いや、そんな法はないが・・」
 ここで、城攻めの総大将である畠山政長も口をだす。
「峠に城を築けば、たしかに効があがるかもしれぬ。だが、たくさんの労力と、多くの日数がいるのではないか?」
 成身院光宣はにっこりした。
「すでに二年を越える月日と、数万の将兵をつぎ込んでいるのでございますぞ。城を築くくらいの労力は致し方ございますまい」
「むむむ・・」
 ここで成身院光宣は、ふところから書状をとりだした。
「じつは、この策は公方さまにご披露して承認をいただいております。これが、そのお墨付きでございます」
 嘘である。ここに来るまでの間、成身院光宣は、嶽山の周囲を調べてあった。国見峠も行ってみた。その結論が、峠への築城である。公方義政は、そんな策は知らない。だが、承認をもらっている暇はない。それで、御教書を使ったのである。
「うむ、公方さまのご指示とあれば、致し方ないか」
 武将たちも、ほっとした。これで少なくとも、責任を問われることはないだろう。

 


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光宣の奇策 4

 峠に城を築くという、前代未聞の普請がはじまった。大勢の兵たちが、普請道具や石や縄を背負って山に登ってゆく。
 国見峠周辺は、まず木々が伐採された。次に伐採した木を使って、稜線沿いに長い柵が築かれてゆく。柵の内側には、櫓が建てられていった。
 多くの将兵を投入したかいあって、峠の城は意外と早く完成した。数百人の兵が、兵糧を抱えて城に籠もる。河内と大和の国境が、完全にふさがれることになった。

 

 峠を塞いだ効果は、すぐに表れた。嶽山城に蓄えていた兵糧が、目に見えて減ってきたのである。
 すぐに軍議が開かれることになった。
「兵糧の補給が途絶えた今、籠城を続けるのは難しい」
 誰もが同じ意見だった。だが降伏するのは、みな反対である。なんのために頑張ってきたのか。降伏してしまったら、意味がなくなってしまう。
「お屋形さま他、何人かで城を脱けられてはいかが」
 知略にたけた花田家清の意見である。城外への通路は、完全にふさがれているわけではない。義就が城を出ても、気づかれることは少ない。城が落ちるまでに、義就も遠くに逃げることができる。もっとも安全で、良い策のように思われた。
「いや、オレだけで逃げるわけにはいかん」
 義就は首をふった。
 義就のいなくなった後、残された将兵がどうなるか分からない。下手をすると、皆殺しになるかもしれない。長い間、生死をともにしてきた将兵を見捨てることはできない。
「では、敵陣を突破するしかありませんな」
 遊佐就家が、結論を出した。
 ただし、三手に分かれて逃げることとした。敵の狙いは畠山義就の首にある。三手に分かれれば、追っ手の対応も難しいだろう。犠牲も少なくて済むはずだ。
 あまり日延べしても、難しくなるばかりだ。脱出は三日後と決まった。

 


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光宣の奇策 5

 その日の朝、義就は集められるだけの将兵を広場に集めた。
「みなの者、よく聞け。この城は、間もなく落ちる。兵糧が、もう少ししかないのだ」
 将兵たちが、ざわめく。
「落とされるのを、待つつもりはない。今宵、月が登る前に討って出るつもりだ」
 あと五日ほどすれば新月である。月が登るのは、夜半すぎになるだろう。
 集められた将兵が、唾を飲み込んでいるのが分かる。
「この城に籠もってから二年五カ月になる。長い間、ほんとうに苦労をかけた」
 そう言うと、義就は軽く頭を下げた。みな驚いた。お屋形さまと呼ばれるほどの御方が、頭を下げたからだ。
「ともに暮らし、生死をともにしてきたおまえたちは、もう他人とは思えぬ。わしは兄弟同然だと、思っているのだ」
 あちこちから嗚咽が聞こえてきた。長い年月の苦労が、よみがえってきたのだろう。
「みなで一緒に逃げることはできぬ。城から出たら、ばらばらになってしまうだろう。ここが別れの場だ。みな生きて在所の村に帰れ。無事を祈っているぞ」
 義就の言葉が終わっても、みな呆然としていた。はっきり泣き出した者が何人もいた。とうとう城を出るときがきたのだ。
 遊佐就家が、立ち上がった。
「東、北、西の三方に討ってでる。こたびは、敵を倒すのが狙いではない。敵の陣を破って、外側に抜けるのだ」
 就家が改めて見回すと、みな緊張した顔をしている。走ることすら、長い間していないのだ。敵の陣を突破することなど、できるだろうか。
 就家は、声を強めて励ます。
「なに、敵はこの城を攻め落とすこともできぬ、腰抜けぞろいだ。おまえたちの敵ではない。みなで揃って攻めかかろう」
「はい!」
 大きな声で返事したのは、袈裟だった。
「敵陣を突破したら、大人数でいると逆に危ない。いくつかに分かれて逃げることになる」
「はい!」
 また袈裟だ。
「誰と誰が一緒に逃げるか。組分けは、わしが指示する。ともに助け合って、無駄に命を捨てるな」
「はい!分かりましたっ」
「袈裟、ちょっとうるさいぞ」
 就家が注意すると、集まった者たちはどっと笑った。緊張の糸が切れた。
「それから今晩までに、みな身なりを整えろ。そのナリでは、下界に行っても目立つばかりだ」
 そう言われて、みな自分の姿を見直した。二年五カ月の間、着替えなどしていない。小袖を洗ったこともない。水浴びも、したことがなかった。人によっては、髪も髭も伸び放題である。下界の村をうろつけば、たしかに目立つ。
「では、組分けを教える。よく聞け」
 就家は、将兵の名を読み上げはじめた。

 


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光宣の奇策 6

 めいめいが支度を済ませた夕刻、袈裟を訪ねてきた者たちがいる。
「あら弥六さん、ずいぶん変わっちゃったわね。見違えたわ」
 髭をきれいに剃りおとした弥六は、照れくさそうに笑った。
「いい男だろ」
「ほんとに」
 弥六は、真顔になって尋ねる。
「袈裟ちゃんは、お屋形さまと一緒に逃げるそうだな」
「そうなのよ」
 義就もはじめは、袈裟を別のところに逃がすつもりだった。足手まといになっては、かなわない。だが驚いたことに、小柳左近次郎が反対した。
「いや、猿女は役にたつ。連れて行きましょう」
 左近次郎は、遊佐就家とともに義就について行くことになっていた。
 そんなわけで、袈裟も身支度をすませていた。義就について行くとなれば、どこまで行くのか見当もつかない。
「道安たちも一緒だそうだな。オレたちは、のけ者だ」
「しかたないわね」
 一緒に来た者が、弥六の腕をつつく。早く本題にはいれということらしい。
「袈裟ちゃん・・」
「なあに」
「袈裟ちゃんとは、今度いつ会えるかわからん。いや、もしかすると死ぬまで会えないかもしれない」
 弥六の声は寂しそうだ。
「二度と会えないかもしれないから、言っておきたい。オレたちのことを決して忘れないでくれ」
 五、六人が袈裟の前にやってきて、顔をみせる。
「うん・・」
 やっと意味がわかった。この城で過ごした日々は、それぞれにとって大変なことだった。ともに苦労し、ともに笑った思い出はかけがえのないものだった。
「アタシも、アタシも絶対に忘れない。でも、死んじゃだめよ、みんな」
「分かっているさ。袈裟ちゃんも大変だろうが、頑張ってくれ」
 そう言うと弥六たちは、袈裟と手を握りあった。
 ふと気づくと、他の者たちも来ている。袈裟は、たくさんの男たちと手を握るはめになった。

 


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