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異と同の所在は何処・・

 

同棲当初から、互いの当然は違いを見せていたものである。
 
たかが風呂上りのワンシーンですら、

「 えっ、これで体を拭くの?」

用意されたタオルが小ぶりな事に驚く"小鳥"に、

「 えっ? ウチはずっとそうだったよ・・」

"葵"は言った。

「 そうなの? 俺はバスタオルで体を拭いてたけど・・」

「 あぁ、ごめんねぇ・・ だけどさ"リー(小鳥)"ちゃん、バスタオルってでかくて洗濯が大変だしさ、それに一回体を拭くだけならそれで十分だと思うけど・・」

「 おぉ!」

( 確かに・・)

"小鳥"は、いとも容易く覆り、

「 そうだよね、これで十分だよね・・」

「 でしょ?」

" ウンウン・・ "
 
それ以来、バスタオルは使っていない。
 
服装にしてもそうだが、"葵"の主張には割りと素直に従って来た。
 
しかし今は、自分の主張を"葵"に押し付ける事が増えた。
 
ミニスカートを履くなと言ってみたり、買い物に付き添う時には、

「 おぃっ!屈んだらブラジャーが見えちゃうぞ・・」

首周りがルーズな服を着る"葵"が前屈みになると、いちいち不機嫌な指摘をしている。

そして先日には、"葵"がどこかに消えてしまう様な不安に駆られ、それを阻止しようと取り乱し、

「 男の連絡先なんか必要あんのか?」

「 えっ?」

こんな事まで言ってしまった。
 
 

あてずっぽう

 

「 "黒井(小鳥)"さん、明日の閉店後は新台入れ替えがあるんですけど出れますか?」

「 えっ・・ 新台入れ替えに出れるんですか?」

「 はい、社員になってだいぶ経ちますから、そろそろ覚えてもらわないと・・」

「 はい、わかりました・・」

店は月に一度か二度、新台を導入して新装開店を行っている。その作業は閉店後に主力のスタッフによって行われるのだが、これまでの"小鳥"は閉店作業が終われば退社とされていた。新台入替に関しては何かと秘密にされ、当日になるまで導入機種が何で何台であるかなど語られる事は一切無い。
 
その為、参加を依頼された事は、

「 アナタは信用されました・・」

そう言われている様にも取れる。素直に嬉しい。
 
「 "イー(葵)"ちゃん、明日の夜はちっと遅くなるからさ・・」

「 えっ?」

「 新台入れ替えに参加してくれってさ・・」

「 それって何時になるってこと?」

「 おっ?」

言われてみれば、それが何時までの作業になるのか聞いていない。

「 アタシさぁ、明日お母さんと買い物行く約束してたから車を使いたかったんだけど・・」

"葵"が孝行のつもりで、時々車の免許を持たない母親を買い物に乗せて行くのは知っていた。
 
「 これね、お母さんが"リー(小鳥)"ちゃんに食べさせろって・・」
 
その度に"葵"の母親は、"小鳥"が喜びそうなおかずを買っては"葵"に持たせ、"小鳥"は、そんな気遣いをいつもありがたいと思っている。

「 おぉ、いいさいいさ、そしたらアレだなぁ・・ だいたい12時くらいかなぁ・・」

「 じゃぁ、車使っても大丈夫?」

「 あぁ、その代わり迎えがいつもより遅くなっちゃうけどごめんね・・」

「 うん、それは大丈夫・・」
 
 

驚きの勘違い ( 前編 )

 

翌日。

 

「 ありがとうございましたぁ~」

「「「 ありがとうござい・ま・ま・したぁぁ~」」」

最終の客を見送り、

「 では"黒井(小鳥)"さん、撤去台のガラスを抜いてもらえますか?」

「 はい・・」

"竹本"主任からの指示で作業を開始して間も無く、

「 "黒井(小鳥)"さん、新台を運びますので手伝ってもらえますか?」

「 はい・・」

作業を途中にして"竹本"主任と一緒に駐車場に出た。
 
店舗入り口のすぐ近くに停まる箱車のトラック。

「 ごくろうさまです!」

運転席に"竹本"主任が声を掛けると、

「 どうも~」

慣れた感じの運転手が降りて来てトラックの観音扉を開いた。

( おぉ・・)
 
箱の中にはパチンコ台が立った状態で綺麗に並んでいる。
 
運転手は箱に乗り込み、木枠の上部を繋ぐ様に打ち付けられていた木材を外し始めた。

「 "黒井(小鳥)"さん、新台を倒さない様に中まで運びましょう!」

「 は、はい・・」

運転手が送り出して来る台を、

「 よいしょっ!」

"竹本"主任に続いて担ぐと、

( うおっ!)

思った以上に重く、何度か繰り返している内に額には汗が吹き上げていた。

店内の端のスペースに静かに並べては外へ戻りと繰り返す。

( 何で皆で運ばねぇんだ?)

横切る島端からは、余裕の表情で撤去台を外しに掛かっている"西村"と、"小鳥"が途中にしたガラス抜きを代わりに行っている女性スタッフが楽しそうに会話をしている。

当然の事ながら、初の入れ替え作業で感情的に物申す訳にもいかず、結局は"竹本"主任と二人で何往復も重ねて新台を運び込んだ。

「 では"黒井(小鳥)"さん、次は台のカギをウチの店のカギに変えましょう・・」

「 はい・・」

ガラス抜きに戻る事無く次なる作業へと移る。

カギを変えるとは大事になる予感が漂ったものの、実際はマスターキーと呼ばれるカギをシリンダーに差込み、シリンダーに付いている小さなポッチを押し込みながらグルッと回して引っこ抜き、そして店の台カギをズボッと挿入してグルッと回し、ポッチがポキンッと飛び出せば完了という至ってシンプルな作業。

そのシンプルな作業によって、さっきまでまるで機能しなかった台カギがいきなり機能し出す様には、

( うわぁ・・)

思わず感心してしまう。

「 どうですか? びっくりしちゃいますよね?」

「 はい、勉強になりましたぁ・・ ありがとうございます・・」

明るい笑顔で無理強いの無い"竹本"主任に感謝の言葉を抵抗無く出す一方で、

( ば~かば~か・・)

視界に入り込む"西村"には心中罵りを繰り返す。

"小鳥"には"西村"を嫌うべき理由があるのである。

あれは遡る事どれ位だったか、

「 "黒井(小鳥)"さぁ~ん、早く俺の右腕になれる様にがんばってもらわないと・・」

「 えっ?」

「 だからぁ、俺も下が育ってくれないとぉ、主任になれる実力があってもさぁ、なかなかなれない・・ みたいな?」

「 はぁ・・」

「 じっさい"竹本"主任が休みの時に変わりをやらされてぇ? なのに給料は変わらない?みたいな?」

「 そうっすよねぇ・・ それは一理ありますねぇ・・」

「 だろ?」

( イラッ )

「 そうっすねぇ 」

「 っていう事でヨロシクッ!」

「 はい、がんばります・・」

たまたま一緒になった休憩でのワンシーン。

" 一事が万事 "

ささいな端端に出てしまう本質とでも言うか、話している時のいやらしい微笑みひとつ、その言葉のトーンひとつ、どこか人を見下している様な、若しくは自分に酔いしれている様な、客を前にしても必要以上に自信にみなぎる姿の核が見えてしまった様だった。

( まるで人を道具の様に・・)

「 あなた・・ 馬鹿ですか?」

とぶつけてやりたかった。
 
"甘党"マネージャーや"砂糖"サブマネージャー、そして"長嶺"部長などの大幹部の前では見せない二面性をはっきりと見てしまうと、それ以来、例え奇麗な制服をまとっていても薄汚い生き物にしか見えず、惚れたり尊敬する類では無くなっていた。
 
 

驚きの勘違い ( 中編 )

 

「 それでは次は、新台を枠から外しましょう・・」

「 はい・・」

"竹本"主任が台カギを新台に差して右にクルッと回す。パチンコ台は四方を囲む枠から手前に開く様に離れ、それを"竹本"主任は、右足で木枠の下端を踏み抑えながら両手で掬い上げた。

" スルッ・・ "

木枠から分離した台が、ゆっくりと床に寝かされる。

「 はい、"黒井(小鳥)"さんもやってみてください・・」

「 はい・・」

見るとするとでは何故かしら違ってしまう不慣れな作業を、

「 はい・・ はい、そうです・・ そうそう・・ "黒井(小鳥)"さん、ゆっくりですよゆっくり・・ 乱暴にすると液晶が割れてしまいますから・・」

"竹本"主任の親切なフォローによって何とか無事にこなし、

( 意外と大変なんだなぁ・・)

新たな業務に感心する。

「 それでは"黒井(小鳥)"さん、次は撤去台を二階に運びましょう・・」

「 えっ?」

「 "西村"さん達が外してくれた台を、二階の部屋にしまうんですよ・・」

「 は、はい・・」

力仕事の後の力仕事。

しかも今度は、水平運搬では無く、一階から二階へと担ぎ上げるという荒業と来たもんで、一応の返事はするものの、"小鳥"のテンションは、がっつりむしり取られる様に落ち込んでしまった。

"西村"達によって外された台は、対面のイスの間に枠と分離されたまま挟み込まれていて、良い感じに立ってはいるものの、無造作に取り出そうとすれば、イスの回転によって隣の台が倒れてしまいそうなアンバランスを含んでいる。

いくら撤去した台といっても丁寧な取り扱いが要求されている事は何と無くも感じ取れて、不慣れながらも一体に戻して新台が寝転ぶ側とは反対の島端へと運び出す。
 
ふと見ると、"西村"達は新台の木枠を運び込み、設置に取り掛かっている。

( なるほど・・)
 
出口と入り口を別にする事で、狭い通路も混雑していない。流れる様に作業が進んでいるではないか。

動線を考えた場所選びと役割分担に二度目の感心。

( 出来る事をやるしかねぇ・・)

"小鳥"は、今の役割にやる気を持ち直していた。
 
 

驚きの勘違い ( 後編 )

 

「 1番台から2番台、3番台と上がり目に上がりまして、最終は310番台に至りますまで・・」

マイクパフォーマンスでアピールする時、これまでの"小鳥"にとって遊戯台は、

" 店に設置してある台 "

という感覚でしか無く、

「 優秀機優秀台を取り揃えましてぇ~」

などと語っていても、それは言うなれば受け売り。
 
そこにこもっていた感情は、

( 間違えない様に・・)

( 声が裏返らない様に・・)

( 噛まない様に・・)

その位のものでしかなかった。
 
しかし、客目に触れる事無く繰り広げられる新台入替えという舞台裏に参加して初めて、ホールに設置してある一台一台は多くの手順と多くの労力、そして細心の注意が払われて形になっていると知る事になった。
 
台に対して、愛着の様な新たな感情が芽生える。

「 いっぷくですよぉ~」

"甘党"マネージャーからお金を預かった"竹本"主任が自動販売機の前でこんな声を出す。

" ぞろぞろ・・"

まばらにもスタッフが集まり、

「 俺はこれで 」

「 じゃぁこれで」

「 ではこれで 」

" ポチッ、ガラコンッ・・ガラコンッ・・"

「 では、おつかれさまです・・」

「 いただきまぁす 」

" プシュッ、ごくり・・"

そこに参加している全員がホール内でジュースを飲んだりタバコを吸ったりして、揃って休憩を取るという普段では成しえない光景が出来る。それだけで何かを育んだり修正したり、そして何かを明らかにしている様である。

しばらくの談笑の後に、

「 主任・・ 残っている作業は?」

と"甘党"マネージャーが言葉を発し、

「 はい、後はポップと灰皿シールと清掃とデータチェックです・・」

"竹本"主任がハキハキと残りの作業を報告する。

「 あ~それではぁ~、清掃と灰皿シールは早番でやりますから、女性スタッフにポップをやってもらって、男性はデータチェックを・・」

「「 はい 」」

休憩の終わりを告げる様に指示を出した"甘党"マネージャーは、

「 あ、それと"黒井(小鳥)"さんは・・」

( ドキドキ・・)

「 ごくろうさまでした・・」

" ズコッ "

「 は、はい・・」

"小鳥"には、帰宅を命じた。
 
入れ替え作業の全貌を知るには及ばなかったが、

( 参加出来て良かった・・)

収穫は十分にあり、明るい気分で帰り支度に取り掛かった。
 
 


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