目次
登場人物
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畿内
桂女の子
桂女の子 1
桂女の子 2
桂女の子 3
桂女の子 4
桂女の子 5
稚児と唐飴
稚児と唐飴 1
稚児と唐飴 2
稚児と唐飴 3
稚児と唐飴 4
稚児と唐飴 5
悪御所、足利義教
悪御所、足利義教 1
悪御所、足利義教 2
悪御所、足利義教 3
悪御所、足利義教 4
嘉吉の変
嘉吉の変 1
嘉吉の変 2
嘉吉の変 3
嘉吉の変 4
東寺の光と影
東寺の光と影 1
東寺の光と影 2
東寺の光と影 3
東寺の光と影 4
汚れた血
汚れた血 1
汚れた血 2
汚れた血 3
汚れた血 4
汚れた血 5
海を渡った男
海を渡った男 1
海を渡った男 2
海を渡った男 3
海を渡った男 4
後七日御修法
後七日御修法 1
後七日御修法 2
後七日御修法 3
後七日御修法 4
盗まれた法具
盗まれた法具 1
盗まれた法具 2
盗まれた法具 3
盗まれた法具 4
鳥辺野に降る雪
鳥辺野に降る雪 1
鳥辺野に降る雪 2
鳥辺野に降る雪 3
鳥辺野に降る雪 4
鳥辺野に降る雪 5
五鈷杵
興福寺の怪僧
興福寺の怪僧 1
興福寺の怪僧 2
興福寺の怪僧 3
興福寺の怪僧 4
広がる波紋
広がる波紋 1
広がる波紋 2
広がる波紋 3
広がる波紋 4
広がる波紋 5
広がる波紋 6
石清水八幡宮
石清水八幡宮 1
石清水八幡宮 2
石清水八幡宮 3
石清水八幡宮 4
裏鬼門の赤鬼
裏鬼門の赤鬼 1
裏鬼門の赤鬼 2
裏鬼門の赤鬼 3
裏鬼門の赤鬼 4
裏鬼門の赤鬼 5
小者、惣領となる
小者、惣領となる 1
小者、惣領となる 2
小者、惣領となる 3
小者、惣領となる 4
小者、惣領となる 5
小者、惣領となる 6
時を遡る部屋
時を遡る部屋 1
時を遡る部屋 2
時を遡る部屋 3
時を遡る部屋 4
時を遡る部屋 5
時を遡る部屋 6
越えられない溝
越えられない溝 1
越えられない溝 2
越えられない溝 3
越えられない溝 4
越えられない溝 5
聖天尼寺
聖天尼寺 1
聖天尼寺 2
聖天尼寺 3
聖天尼寺 4
鈴蘭の花束
鈴蘭の花束 1
鈴蘭の花束 2
鈴蘭の花束 3
鈴蘭の花束 4
奥付
奥付

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登場人物

           表紙は吉野・金峯山寺の仁王像

    【登場人物】
●修羅(のちの畠山義就)
畠山持国と、娼婦の土用の間にできた子
●土用(トヨ)
当代一の美貌をもつ桂女(高級娼婦)
●畠山持国(徳本入道)
幕府三管領の一人。絶大な権力を持つ
●執行(シギョウ・役職名)
東寺の経営責任者
●惣公文(ソウクモン・役職名)
東寺の経理責任者
●祐栄
修羅の兄。東寺の沙弥(見習い僧)
●定乗
東寺の稚児。修羅の先輩
●覚深上人
東寺ヒジリ方の責任者。修羅の上役になる
●円々
東寺ヒジリ方に仕える散所法師(非人)
●正実坊快運
都一の土倉(高利貸)。公方御倉(幕府の財務担当)も務める
●堅中圭密
南禅寺大僧正。かつて遣明正使を務めた老僧
●足利義教
第七代将軍。恐怖政治から悪御所と呼ばれる
●足利義政
義教の子。十三才で第八代将軍となる
●畠山持永
持国の次弟。遊佐勘解由、斉藤因幡入道とともに兄に対抗する
●畠山持富
持国の末弟。持国に協力して、後継者になる

●細川勝元

畠山家に対抗するため、陰謀を巡らす

●成身院光宣
大和、筒井氏の実権者。畠山氏を倒すことが念願

●楠葉西忍

混血の貿易商

●善見尼

聖天尼寺の庵主。袈裟を義就に託す

       河内弁については山本さんのご指導をいただきました。


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畿内


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桂女の子 1

       【桂女の子】
 京のみやこには、死体の捨て場所が三つある。北の蓮台野、西の化野、そして東の鳥辺野である。
 土葬も火葬もできない貧しい人々か、ここに家族の死体を捨てにくる。行き倒れの死体は、散所法師とか犬神人などの非人が、運んできたりする。
 死体は野犬や鳥たちの餌になることも多い。ふだんは遁世僧(念仏僧)が、餌にならないように守ってやっている。遁世僧たちは、周辺に点在する小屋に住んでいた。
 守られた死体は、次第に腐ってゆく。すさまじい腐臭を発しながら、やがて骨になり、粉となって自然に還ってゆくのだ。室町期の人々は、それを当然のことだと思っていた。死は、すぐ隣にあった。
 今日も、なま暖かい風とともに腐臭が飛んでゆく。遁世僧たちの唱える念仏が、歌声のように流れていた。

 

 

 

 

 


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桂女の子 2

 陽が西に傾きかけた夏の日、ひと組の母と子が、京の桂川の土手を歩いていた。土手とはいっても室町時代の中頃である、平坦にならされた道などない。ゆるやかな起伏の道は見晴らしも、決して良くはない。子供は、十才にもならないだろう。蜻蛉の群を追いかけたりしてはしゃいでいた。秋を思わせる風が、土手を吹き抜けてゆく。
「河原のススキに入っちゃダメだよ。マムシに噛まれるよ」
 母が、心配そうに声をかけるが、子供は気にするそぶりも見せない。振り返って、うれしそうに手を振った。
「だいじょうぶさ。オレはマムシを捕まえるのも得意なんだ。カカさまにも見せてあげる」
「おお、こわい。やめておくれ」
 そのとき道の向こうから、澄んだ歌声が聞こえてきた。
「よかよか飴屋~、あめあめ~唐あめ~」
「あっ、飴売りだ。カカさま、飴売りだよ」
 子供は嬉しそうに振り返った。
「よしよし、今日は格別に買ってあげよう」
 子供は目を丸くして、走って行った。
 当時、日本では砂糖は作られていない。甘葛などの甘味料が使われていた。ただ交易によって幾分かの砂糖がもたらされ、唐飴として売られていた。もちろん高価なものであり、庶人が味わえるものではない。町中でも、店屋などでは売っていない。
 このあたりの屋敷は、実は娼館だった。それも庶民を相手にしたものではない。とびきり高級な娼館だったのである。飴売りは、「桂女」と呼ばれる娼婦と、その客を相手に商いをしているのだ。
 飴売りは、壷の中から大事そうに二粒の飴を取り出した。そして代価を受け取ると、深々と頭を下げて去っていった。
「さあ、おたべ」
 一粒の飴を口にいれると、母はもう一粒を差し出した。子供は飴を受け取ったが、じっと見つめるだけで、舐めようとしない。
「どうしたんだい。お食べよ」
 子供は、母を見上げて首を振った。
「食べたら、溶けてなくなっちまう。オレは取っておくよ」
「ばかだねえ。おいで」
 抱き寄せると、母はわが子の口に口を合わせた。子供の口の中に、母の飴が転がり込んでくる。子供は、母に抱きついたまま、飴の甘さに酔いしれていた。
 母は体をはなすと、にっこりと笑った。目を細めて微笑んだその顔の美しさは、子供の記憶に長い間残っていた。
「ねえカカさま、また寝させ唄を唄っておくれよ。久しぶりに」
 子供は、背中に抱きついてきた。
「もう、こんなに大きくなったくせに、何を言ってるんだい。この子は」
「だって、なかなか一緒にいられないじゃないか。この前唄ってくれたのなんか、いつだか分かんないよ」
 母は、しぶしぶしゃがみ込んだ。この時、母が悲しそうな顔をしていたのを、子供は気づかなかった。
「重いねえ。じっとしてるんだよ」
 背中の我が子に声をかけてから、母は唄いはじめた。
「ねんねん、ねんねん、ろろろろろ、ねんねん法師、古法師、宿れ宿れ古法師」
 子供はうっとりとして、母の背中に頬をこすりつけた。


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桂女の子 3

 二度目の途中で、母が唄うのをやめたので、子供は顔をあげた。見ると三人の武士に囲まれている。直垂を着た、いちばん立派な身なりの武士が、声をかける。
「土用どの、その子を渡してもらおう」
「だれ!あなたたちは」
 母の背から滑りおりた我が子をかばうようにして、土用は逃げ道をさがす。武士たちは、じりじりと間を詰めてきた。
 その時、子供は母の後から飛び出して、河原へ続くススキの中に転がりこんだ。
「あっ、修羅!」
「小僧、待て!」
 ススキの背丈は高い。子供の体は、すぐに見えなくなった。
 武士の一人が、ススキの原に分け入ってみたが、すぐに振り返って首をふった。こんな所に隠れられたら、とても見つけられるものではない。首領らしい武士が、土用と呼ばれた女の腕をつかんだ。
「小僧、さっさと出てくるんだ。さもないと、母の命はないぞ」
「修羅、出てくるんじゃないよ」
 土用も必死に叫ぶ。
「静かにしろ」
 もう一人の武士が、小刀を土用の喉元に当てた。だが首領は手で制した。
「女を傷つけるなよ。少しでも傷をつけたら、お屋形さまに殺されるぞ」
 小刀を持つ武士はうなずいて、土用の身柄を受け取った。
「三つ数える。その間に出てこなかったら・・」
 首領が呼びかける間もなく、ススキの中から答えがあった。
「今出て行く。行くからカカさまを離せ」
 武士たちは顔を見合わせると、目で合図を送った。一人が声のした方角の裏手に回る。逃がさないためだ。小刀を持った武士は、土用を抱えたまま、腰を低くした。そして、首領は声のした方へゆっくりと歩みよった。
 修羅と呼ばれた子供が、突然飛び出してきたので、首領は面食らった。受け止めようと手を差し出す。その手に激痛が走った。
「ぎゃああ」
 首領は、何が起きたのかすぐには分からなかった。手になにかがぶら下がっている。それが地面に落ち、ささっと這っていったので、ようやく事態が飲み込めた。マムシである。
 修羅は隠しもっていたマムシを、首領の腕に押しつけたのだ。首領は腕を押さえて唸りをあげた。
 あっけに取られていた小刀の武士にも、修羅がマムシを投げつけた。武士もびっくりして土用を離し、小刀でマムシを叩き落とした。地面に落ちたマムシにとどめを差そうとした武士が見たものは、ただの腰ヒモだった。
 振り返ると土用と修羅が、手をつないで逃げて行くのが見えた。
「くそっ、舐めやがって」
 武士が追いかけようとすると、後ろから声がかかった。
「待て、おまえたち、手当が先だろう。わしを見殺しにするつもりか」
 首領がかがみこんだまま、真っ青な顔をしていた。



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