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 私はいつものように私は電器屋に行き、ルーターを買ってきた。

 息子がニンテンドーDSのWiFiの設定をして欲しいというので、ついでに私の小遣いでルーターを新調しようと思ったのだった。

 ルーターはいつのまにか機能がどんどん増えていて、かつてオプションや別付けだった無線LAN機能もついていた。

 型番は決めていなかったのだが、一応相場をウェブで見ておいた ら、店頭価格もそのとおりだったので、この田舎の電気店も頑張るものだなと思いつつ、ギガビットなどと書かれているのを見て、昔は10BASEで高速LANだったのだ けれど、今それが1000になっているのにも感慨を抱く。

 電器屋のポイントを全部使って買い、家に戻って設定を始めた。

 小さな箱を開梱すると、簡単な説明書とインストールガイドがあり、ペーパーケースに収まった設定CDがつ いていたので、ケーブルを接続し、そのままドライブに設定CDを入れて、インストールした。

 途中、こんなメッセージが出た。

 MACアドレス設定をExzipMACアドレス に継承しますか?

 特に気にせずに「はい」ボタンを押した。

 設定が完了しました、という表示が出て、設定を反映 し、接続試験をしています、という表示がでて、最後に「接続を確認しました」と出た。



 あまりのあっけなさに、こうして普及するように メーカーも考えているのだなと思いつつ、ちょっとした好奇心で詳細設定のボタンを押してみた。

 すると、「ExzipMACアドレスリ スト」というメニューがあった。

 見ると、26個のナンバーとともに、いろいろな家の中にある、ありとあらゆるものがものがリスト化さ れているのだった。

 ニンテンドーDSもその中に入っていて、「接続有効」となっている。

 え、本当、と思いながら見ると、そのリストの 脇に「応答試驗」「追加」「削除」「無効化」「自動設定」のボタンがある。

 試しに私の持っている鉄道模型で、ジオラマの上に置いてある 「2806 ディーゼル機関車DE10」の脇の「応答試驗」ボタンを押してみた。

 すると、その模型の機関車がちょっと走り出した。


  一瞬、すごい! と思った。

 どういう仕組みなんだろうな、と思いつつ、応答試験を押して、走らせ続けた。

 機関車はジオラマの上の一周 の線路を無事走りきった。


 そこで、他に「ネコ・メイコ」とある列のボタンの「応答確認」を押してみた。

 すると、うちで飼っているネコがないた。

 滅多に鳴かない無愛想な猫が珍しく甘えた声を出したので、つい嬉しくなって何回も押してしまった。

 面白かったけれど、逆に考えてみた。

  義母がいやがる「にわかせんぺい」の箱があったのを思い出した。あれは義母がずいぶん嫌な思い出があると言っていた。

 リストを見ると、「にわか せんぺいの空き箱」という表示があり、その隣に削除のボタンがあった。

 押してみた。

 すると、箱が消えた。



 本当に 消えた。

 ゾクッとしたが、その次に見たのが、自動ナンバー割り当ての設定だった。


 自動割り当て/20-50


  そのリストの20番から50番の間に、猫がいた。

「夕刊でーす」

 配達された新聞の夕刊を見ると、PCの画面に表示が浮かんだ。



 平成22年3月26日・朝月新聞夕刊が接続を要求。
 自動割り当て実施。

 ...

 競合するため、「ネコ・ メイコ」を削除しました。



 !

 おどろいて見ると、猫がいない。

 どこにもいない。

 その時、さらに思った。



 自動割り当て/100-150



 その100番から150番の間に息子がリストされている。

  しまった!

 自動割り当てではじき出されたら!


 同時だった。

「郵便です。EXPACKのお届けです」

  嫁が「はーい」、と受け取りに出ていった。


 まずい!

 予想通り、「廣文館からのゲラEXPACKが接続を要求・127」と出 ていた。



 慌てて「自動割り当て解除」を選ぼうとするが、よりによってそのマウスカーソルが「処理中・応答不能」を示す○表示になっ た。


 息子が消えてしまう!


 背筋がピリピリと凍えている。


 応答してくれ!


「ハ ンコおねがいします」

「はい」


 画面上の表示は、


 自動割り当て解除しました。

 廣文館からのゲラ EXPACKは250に追加しました。


 となり、子供の元気な声と、嫁の「あなた、ゲラだって」の声が聞こえた。


 そして、解除した接続のところに「ネコ・メイコ」があり、接続を修復のボタンが有った。

 迷わず押すと、あの無愛想な、そして息子とともに大事な ネコが、元通りに無愛想に戻ってきて、PCデスクの下に座った。



 私の背中は凍り続けていた。


 なんて危険なんだ。

 スティーブン・キングの短編に「神々のワードプロセッサ」というものがあるが、これじゃ「神々のルーター」ではないか。


 こんなもの、危なくてた まらない。

 かといって、このルーターを捨てるのも恐ろしい。



 私は考えたとき、WLA9800(ルーター)の表示を見た。

 192.168.11.1の番号とともに、26個の数列と、「応答試驗」「追加」「削除」「無効化」「自動設定」のボタンがある。



 私 は、ぞくっとしたまま、そのルーターの無効化、のボタンを押した。



 192.168.11.1に接続しています。

 コマンド実 行。



 すると、ルーターの中で、キシッ、という小さな音がして、その動作ランプがすべて消えた。


 そして、家の中は すべて、このルーターを使う前に戻っていた。


 大きくため息を付いてしまった。



 そして、息子が行ってきた。

「おとーさん、DSの設定まだ? ルーターの設定うまくいかなかったの?」



 私は息子の大きな瞳に、すこしあつくなった目を向けて、答えた。


「な んか初期不良だったみたいだから、また買い直してくるよ。

 今度は別の会社のものに買い換えてくる」


 私はそう答えた後、思わず、息子をだきしめていた。

この本の内容は以上です。


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