閉じる


それからの日々

 

変わってしまったのは二州連合だけなのか、と考えてみる。

歌手を目指して上京し、生活力の無さから、

( カスになっちまった・・)

と挫折した自分は、

( 生きていたい・・)

と願って二州連合の世話になり、山梨で奉公しながら栃木帰還を目指して励んでいたはずだった。
 
しかし、"葵"と出会い、

( 一緒になりたい・・)

と思ってからは、

( 幸せにしたい・・)

と結婚を望み、

( 出世したい・・)

パチンコ店に就職してタイムカードに縛られながら働く道を選んでいる。

「 え~本日も多数様大勢様、当ホール、"ハクサイ8931ハクサイ"へとご来店くださいまして誠に有難うございまぁ~す、さぁ本日も当店、1番台2番台と上がり目に上がりましてぇ~、最終310番台に至りますまでぇ~、全機種全台~、優秀機優秀台を取り揃えましてのお出迎えとなっておりまぁ~す・・ パチンココーナーにつきましてはぁ~、当店自慢の1コースは~、さぁ本日も全台、設定オール1となっておりますよぉ~、空き台お探し中のお客様ぁ~、いらっしゃいましたら当店自慢の1コースまでお回り下さいませぇ~・・ さぁお客様ぁ、お時間許します限りぃ~ 最終最後ラストのお声が掛かりますまで、どうぞごゆっくりとぉ~、御遊戯お楽しみくださいませ~、本日も当ホールへとご来店くださいまして誠に有難うございやぁ~す 」

今ではアオリマイクを流暢にこなして、福島を出る時には想像も出来なかった姿になっているではないか。

福島を出る時に見送ってくれた仲間が今の自分を見れば、

「 アイツは変わっちまった・・」

と言うのかもしれないし、言われても仕方が無い。
 
不意に、変わって行く誰かを責める事など出来ない様な気持ちになって来る。
  
「 まぁ、今更栃木には行けないしな・・」
 
"小鳥"は家路を急いだ。
 
 

半休効果

 

「 昔つるんでた仲間にお寺の息子がいるんだけどさぁ、ソイツも親と上手くいってなくて・・ まっそれはいいけど、今度さぁ、そのお寺の息子が居酒屋を始めたって"ラン"から連絡が来てさぁ・・」

"葵"が言う。

「 へぇ・・」

「 それでね、"リー(小鳥)"ちゃんも一緒に皆で飲もうって話になってさぁ・・」

「 俺?」

「 うん、前から何度も言われてたんだけど、皆に紹介してくれって・・」

「 俺はいいけど・・ 迷惑じゃねぇのかい?」

「 何で?」

「 いや、俺からしたら目上だしさ・・ 変な気を使わせても悪いかなってさ・・」

「 なでほぉでぇ~ ほんなこんありっかねぇじゃん、気にし過ぎズラァ・・」

「 ほぉけ・・」

「 ほいだら今度の休みに予定しとくね・・」

「 あぁ・・」
 
"小鳥"が勤める"ハクサイ8931ハクサイ"は毎週火曜日が定休日である。

最近の生活は昼夜逆転ばかりか、二人で外に出掛ける事も無い。

( 久々のお出掛けかぁ・・)

そんな風に思った"小鳥"は、

「 知り合いの店だから安く飲めるし・・」

いささかテンションの高い"葵"につられて、その日を楽しみに待った。
 
 

不活性な休日に

 

夜中の帰宅は、眠りから目覚めれば昼に近い。

「 おはよう・・」

「 おはよう、起きたけぇ~」

「 あぁ・・」

" カチチチッ・・カチチチッ・・"

台所からガスコンロに火を付ける音がする。

" ヒュルルル~・・"

やかんはすかさず蒸気の音を鳴らし、

「 はい!コーヒー 」

「 サンキュッ 」

"葵"がコーヒーを運んでくれる。
 
"小鳥"は、舌をかばい気味に一口すすり、

" シュポッ・・"

「 ふはぁ~~」

とたばこを吸う。

そして"葵"は、

" プシュッ "

「 ゴクゴクッ・・ふは~」

"小鳥"の休日に限って昼からビールを飲む。

" ガヤガヤ・・"

視線をテレビに向ける二人。いつもなら、このまま時が過ぎて行く。

「 "リー(小鳥)"ちゃん、6時位に出るから・・」

そう言ってベランダに出た"葵"に、

「 あぁ・・ 」

と返事をする。
 
予定があると会話は増えるものだと感じながら、"小鳥"はテレビを無感動に眺めた。

毎月毎月の給料日に出る"葵"のため息もそうだが、買い物の時も山梨が地元である"葵"は"小鳥"の選ぶルートに不満を見せ、減ってしまった笑顔の代わりに増えたのは、ささいな喧嘩だった。

「 なんで"リー(小鳥)"ちゃんは無理と遠回りするで?」

「 バカいっちょぉ、こっちの方が早いら・・」

「 何言ってるでぇ、絶対遠回りだって・・」

「 なんでわかるだ・・」

「 もういい・・」

そして、"葵"が普段から口にするのは、

「 酒とタバコを辞めるくらいなら死んだ方がマシ・・」

という言葉。
 
( 俺の為には生きてねぇって事だよなぁ・・)
 
"小鳥"はついつい考え込んでしまうのである。
 
 

夫婦の実寸

 

「 そろそろだけど大丈夫け?」

「 あぁ、俺はいつでも・・」

テーブルに座ってから一時間程になる"葵"から声が掛かり、肘を付いて横になっていた"小鳥"は上体を起こした。

"葵"は置き鏡を前にして化粧に集中している。こんな時は語り掛けてもまともな返事が来る確率は極めて低い。

気の抜けた相槌かスルーを定番にする"葵"に、それ以上を求めようものなら、

「 ちょっとうるさい!」

と言われる事はすでにわかっている。
 
"小鳥"は二口程吸ったたばこを灰皿に置くと着替えに取り掛かった。
 
10代の時に着ていた服を掘り返そうものなら、

「 何でそんな格好するでぇ・・ 一緒に歩きたくないんだけど・・」

"葵"が買ってくれた服をチョイスすれば、

「 いいじゃん、いいじゃん・・」

かぶれた時代のジャージならば、

「 まっ、いいか・・」

出掛ける格好に対する"葵"の反応もすでに知っている。着替えに要する時間は少ない。

"葵"は、テレビにコテコテの強面俳優が映る時、

「 かっこいい・・」

などと反応を示す。
 
散髪代を気にした末の"小鳥"のオールバックは受けが良く、要するにやや悪い感じのする男が好みなのである。

"小鳥"はある時、"葵"の指摘に抵抗を覚え、

「 俺って良いトコどこもねぇみてぇだな・・ 足は臭いし、糞は臭いし、顔はでかいし無愛想だし・・」

いじけた少年の様な台詞を漏らした事があったが、それに対して"葵"は、真顔でこう言った。

「 何言ってるで"リー(小鳥)"ちゃん・・ 全部本当の事だっちことぉ・・ 他人は心で思っていたってさぁ、誰も面と向かっては言ってくれないだよ?自分の旦那がそんな風に思われて影で笑われてたら困るから、言いたくない事だってアタシは言うよ・・」

( なるほど・・)

"小鳥"は妙に納得してしまい、それ以来、流行も気分も無く、ただただ"葵"が認める格好をする様になった。
 
 

出発

 

「 どうで?」

「 どれ・・」

仕上げの付けまつ毛に接着剤を塗っていた"葵"が顔を上げる。

「 上はいいけど、下は違うら・・ 何で"リー(小鳥)"ちゃんはそこでそれを選ぶかなぁ・・」

「 そう?」

「 ほら、アレがあったじゃん・・ こないだ買ってあげたスラックス、アレならバッチリだよ・・」

「 へい!」

おとなしく煙を上げるたばこを口に戻しながら、ダメだしを受けたズボンをすばやく脱ぐ。

「 ちょっと・・」

「 ん?」
 
「 ちゃんとたたんでよ・・」

「 へい!」

恥ずかしげも無くズボンを下ろした所で、"葵"は最早照れもしない。つくづく人間は慣れる生き物である。

"小鳥"が言われた通りの身支度を終えると、

「 いいじゃんいいじゃん! さぁ行くけ?」

「 あぁ・・」

"葵"はなかなかのテンションで缶ビールを片手にバッグを抱えて立ち上がり、二人は久方ぶりの外食にいよいよ出掛ける事となった。
 
 


読者登録

k.kさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について