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「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」#4

 

林田 (軽くポーズを入れて)どーもー、電球泥棒です。みたいな。白熱灯でしょ?

 

我孫子 (平山に気を取られていて)え?

 

林田 LEDじゃなくて。

 

我孫子 そんなのどっちでも……。

 

林田 どーもー、電球泥棒です。ほら一緒に。おれが電球で、我孫子さんが泥棒。

 

我孫子 なんでおれが泥棒……(と言う間もなく)。

 

林田 (二人で)どーもー、電球泥棒です。まぁまぁまぁ。まぁ、いいんじゃない。いいんじゃないすか? ちょっと思ったんだけど、もう一人入れてコントやんないスか?

 

我孫子 は?

 

林田 若い子には絶対コントのがウケるし。三人いれば色々分担もできるから。

 

我孫子 は?

 

林田 最初は、知り合いとか使って笑い誘った方がいいスよね。雰囲気づくり? 認知度っていうか、やっぱ最初のハードルはさくさくっと行っちゃいたし。ある程度波に乗れば自然とうまくいくようになるかなって。

 

我孫子 お前、何言ってんだ?

 

林田 何って、電球泥棒のブレイク七週間計画。

 

我孫子 突然計画するなよ! ていうか、七週間で売れる気か!

 

林田 だって、売れなきゃ意味ないし。

 

我孫子 売れなきゃって……、おれは漫才一筋なんだよ。

 

林田 ニーズ、ニーズ。コントのが受け入れられやすいって。

 

我孫子 おれたちは漫才をやるんだ。もう一人入れたりなんて絶対しないぞ。それから決定権はおれにある。それを忘れるな。

 

林田 それじゃ売れないと思うんだよなぁ。

 

我孫子 サクラ使って笑い取るとか、お前、笑いをナメてるのか?

 

林田 だって売れたいでしょ?

 

我孫子 売れれば何でもいいってわけじゃないんだよ。

 

林田 売れてから考えればいいじゃん、そんなの。

 

我孫子 そんなの? ……色々考えてみたんだが、おれたちはうまくいきそうにない。

 

林田 なんスか、急に。

 

我孫子 世代とか価値観とか、笑いに対する考え方とか、違いすぎる。

 

林田 (軽々と)そんくらい合わせるって。

 

我孫子 無理して合わせてもらいたくない。

 

林田 じゃ、それを踏まえてのー、意見のすり合わせ、しますか。

 

我孫子 いや、すり合わせられないから。

 

林田 そお?

 

我孫子 絶対ムリ。というわけだから、行ってくれ。

 

林田 行くってどこへ?

 

我孫子 どこへでも。

 

林田 もう少し詳しく。

 

我孫子 行きたいところならどこへでも。ここではないどこかへ。

 

林田 ……ポエム?

 

我孫子 ポエムじゃねぇよ!

 

林田 もしかして、解散ってこと?

 

我孫子 そう取ってくれて結構。

 

林田 マジ? 結成五分で?

 

我孫子 記録を作ったな。

 

林田 ……オーケー、分かった。(去り際に捨て台詞)見とけよ、天下取ってやるからな!

 

   林田、下手から出て行く。

 

我孫子 よく言えるな、あんな恥ずかしいセリフ。

 

   そこへ宇田川とナナがいがみ合いながら戻ってくる。

 

宇田川 そんなに気に入らないならキャンセルすればいい。当日だと返金できませんがね。

 

ナナ 部屋に文句はない。あなたに文句がある。

 

宇田川 何がいけないんだ。私はただお客をもてなそうとしてるだけだ。

 

ナナ 「オタクはツイッターできる?」「オタクは日本食たべられる?」「オタクはバスの乗り方分かる?」。オタクに対する当てつけか!

 

宇田川 言ってる意味が全然分からん。そっちこそ最初からケンカ腰じゃないか。アメリカ人ってのはみんなこうなのか?

 

ナナ ホワット? レイシスト!

 

宇田川 は?

 

ナナ 差別主義者ってこと! 外国人に対する偏見、捨てた方がいいよ。オタク文化に対する偏見も!

 

宇田川 そんな話、誰もしてないぞ!

 

ナナ とにかく、部屋には泊まる。ただし、もうあなたの顔は見たくない。

 

宇田川 けっこう。やり取りはネット上だけ。

 

ナナ ファイン。

 

宇田川 それこそ現代社会だ。では、宿泊後はツイッターやフェイスブックで「とっても快適だった。みんなも日本に来たら絶対ここに泊まって!」と呟いてもらうということで。

 

ナナ ファイン。……待て待て待て! 誰が呟くか!

 

我孫子 アメリカ人にしとくにはもったいないツッコミだな。

 

宇田川 頭のおかしいヤンキー娘が。

 

ナナ ホワット!

 

我孫子 ちょっと落ち着いて。ね、ほら。(宇田川を脇に連れて行き)やっぱり日本に来る外人なんてろくでもない連中ばかりなんすよ。

 

宇田川 日系でこれじゃ黒人だのヒスパニックだのなんて考えられんぞ。

 

我孫子 (合わせて)まぁ、中国人や韓国人も無理でしょうね。

 

宇田川 論外だ、論外!

 

我孫子 今からでも遅くない。民泊なんてやめたらどうです?

 

宇田川 ふん、ガイジンがくそったれのすっとこどっこいだというのと、商売になるかどうかは別の話だ。

 

我孫子 ……あんたもよっぽどだな。(切り替えて)それなら、ネットでいい評判をアップしてもらうにこしたことはないわけだ。

 

宇田川 いくらか握らせてでもな。

 

我孫子 おれにいいアイデアがあります。

 

宇田川 え?

 

我孫子 ここには、他にはない観光スポットがある。

 

宇田川 観光スポット?

 

我孫子 裏の畑に。

 

宇田川 なんのことだ。

 

ナナ こそこそ話さない!

 

我孫子 (ナナに)ナナ、ユーノウジャパニーズ肥溜め?

 

ナナ ホワット? コエダメ? 何それ。

 

宇田川 肥溜め?

 

我孫子 肥溜めイズ肥溜め。ジャパニーズ、伝統的な、ベリベリフェイマス、トラディショナルカルチャー。農業の、アグリ……(単語が出ない)。JAイズベリビューティフル。日本に来たらこれ見とくべきってやつ。ていうか、普通まず見れない、超貴重なやつ。

 

ナナ マジ?

 

我孫子 イエスイエス! 今日は特別に見られるかも。ねぇ大家さん?

 

宇田川 肥溜めを?

 

我孫子 見れますよね?

 

宇田川 そりゃまぁ……。

 

我孫子 民泊利用のお客さんは、オプションで無料です。(宇田川に)ね?

 

宇田川 いくら私でも、あれを見せて金を取るというのは……。

 

我孫子 (ナナに)オッケー出ました!

 

ナナ ワオ!

 

我孫子 じゃ、その前にちょっと注意点を。(ナナを脇に連れて行き)肥溜めっていうのは、一種の、なんていうか、体験型イベントで。

 

ナナ 体験型。

 

我孫子 見るだけじゃなくて参加するってこと。肥溜めっていうのは、これくらいの穴があって、そこに野菜を育てるための、まぁ企業秘密の色々な肥料が溜まってるんだけど。

 

ナナ アーハー。

 

我孫子 そこに誰かを突き落として、みんなでわーっと盛り上がる。

 

ナナ (やや微妙な顔)わお。リアリィ?

 

我孫子 マジマジ。背中どーんと押して、突き落としちゃうの。思いっきり。

 

ナナ (いい気がしてくる)サウンズグッド。いいかも。

 

我孫子 大家が肥溜め見せるでしょ。で、「絶対押すなよ!」って言うから。そしたら?

 

ナナ 押さない?

 

我孫子 最初は。でも「絶対押すなよ!」って三回言ったら、それは押せって意味だから。

 

ナナ 押すなって言ってても、押す?

 

我孫子 イグザクトリ。その通り。三回押すなは、押せの意味。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対押すなよ。(そしたら)押す。

 

ナナ 日本語、そういうとこ難しいからな。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対押すなよ。押す。

 

我孫子 ザッツイット! それが日本の肥溜め文化。

 

ナナ アイガリ(I got it)。

 

我孫子 よし。(今度は宇田川を隅に連れて行き)彼女にはふざけて押したりしないようよく言っておきました。肥溜めに落ちたりしたら危ないですから。

 

宇田川 あんなところに落ちたら大変だよ!

 

我孫子 ええ。でも彼女はあっぱらぱーの外人娘です。肥溜めがどれくらい危険なのか分かってない。

 

宇田川 分かるわけがない。

 

我孫子 肥溜めのところに行ったら改めて注意してください。

 

宇田川 注意?

 

我孫子 「絶対押すなよ!」って言わないとダメです。

 

宇田川 絶対押すなよ?

 

我孫子 もし後ろから押されたらどうします。落ちますよ。

 

宇田川 ダメダメ、絶対ダメ!。

 

我孫子 それなら言ってください。「絶対押すよなよ!」

 

宇田川 (復唱して)「絶対押すなよ!」。でも、本当にあんなものが見たいか?

 

我孫子 もちろん! 日本独自の文化だ。うまくすれば、それ目当ての民泊客が殺到するかもしれない。

 

宇田川 ……やって損はないか。

 

我孫子 いいすか、相手は何も知らない外人だ。念を押して言ってください。「絶対押すなよ!」最低でも三回。

 

宇田川 最低でも三回。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対……。ちょっと待った。どこかで聞いたことがあるような。

 

我孫子 気のせいです。さ、案内してあげてください。

 

宇田川 あぁ。(ナナに、なるべく愛想よくして)では、気を取り直しまして。ナナさん、こちらへどうぞ。アイウィルショウユー肥溜め。

 

ナナ オーケー。

 

我孫子 (ナナに)「絶対押すなよ!」

 

ナナ (我孫子に)スリータイムズ(と指を三本出してウィンク)。

 

   宇田川はナナを伴って下手より出て行く。

   入れ違いに、平山が古い電球を持って戻ってくる。

 

平山 (二人を見送り)どうなってんだ? さっきはケンカしてたのに。

 

我孫子 ま、見てろ。

 

平山 (古い電球を処理して)何したのか知らないが、家賃が払えなかったら出てかなきゃいけないことには変わらないんだからな。

 

我孫子 分かってるよ。

 

   我孫子、ふと座卓脇の小型金庫に目を留める。
   おもむろに近寄って
持ち上げようとするが、
   それは床にくっついて離れない。

   引きはがそうとして悪戦苦闘するが、まったくダメである。

 

平山 ムリだ。大家の金庫は大地震が来ても絶対壊れない。大津波が来ても絶対に流されない。本人がいつも自慢してる。

 

我孫子 (あきらめて)あいつを原子力安全保安院に派遣してやるべきだな。

 

平山 お前の新しい相方はどうしたんだ?

 

我孫子 ……もう一人入れてコントやりたいなんて言いやがる。

 

平山 コント?

 

我孫子 おれは漫才一筋なんだよ。

 

平山 それで?

 

我孫子 別に。

 

平山 別に?

 

我孫子 どっかに消えた。

 

平山 ……。

 

我孫子 なんだよ?

 

平山 別に。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……二人とも計画が白紙になったわけだ。

 

我孫子 らしいな。

 

平山 ……それで?

 

我孫子 それでって。

 

平山 ……別に。

 

我孫子 いい加減、また一緒にやりたいと言ったらどうなんだ?

 

平山 なに?

 

我孫子 そう思ってるんだろうが。お見通しなんだよ。

 

平山 ふざけるな。そう思ってるのはお前だ。

 

我孫子 おれが? ふざけろ。お前が思ってるんだ。顔にそう書いてあるんだよ。

 

平山 考えてることが顔に出るのはお前だろうが。認めろ。また一緒にやりたいってお前が思ってるんだ。

 

我孫子 誰が!

 

平山 一緒にやりたいならそう頼め。そしたら考えてやる。

 

我孫子 考えてやる? エラそうに。

 

平山 言っとくが、お前のために彼女と別れたわけじゃないからな。

 

我孫子 おれだってお前のために新しいコンビをやめにしたんじゃない。

 

平山 これが最後のチャンスだ。一緒にやりたいならそう言え。

 

我孫子 バカ言え! お前と縁切るチャンスができて喜んでるんだよ。

 

平山 じゃ壁の修繕費払って出てけばいいだろ。

 

我孫子 だからなんでおれが。お前が払え!

 

平山 お前が空けたんだろうが。お前が払え!

 

我孫子 そんな金があるわけないだろうが!

 

平山 おれだってないね!

 

我孫子 最後のチャンスをやる。正直にもう一回一緒にやりたいですって言え。そしたらこれまでのことは水に流してやる。

 

平山 お前が水に流すものなんてないだろうが!

 

我孫子 最後のチャンスだぞ!

 

平山 お前こそ、これが最後のチャンスだぞ!

 

我孫子 十秒待ってやる。

 

平山 こっちだって十秒待ってやる。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

   たっぷり間があったあと。

 

我孫子 ……6! ……5!

 

平山 ……。

 

我孫子 ……4! ……。

 

平山 ……3! ……2!

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

   二人が牽制しあってるところへ、下半身がうんこまみれに

   なった宇田川が登場。

   宇田川は、何も言うなと威圧するように二人を睨みつける。

 

宇田川 ……(場が凍りつく)。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

宇田川 ……十日までに払えよ!

 

   宇田川、そのまま上手のドアから自宅に戻っていく。

   そこへナナが笑いながら下手から登場。

 

ナナ オウサム! めっちゃよかった! (宇田川を真似て)「絶対押すなよ! 絶対押すなよ!」。超ウケるー! (スマホを見せて)動画、youtubeにアップしよ。

 

   ナナは手を振って部屋に戻っていく。

   また平山と我孫子の二人きりになって、急に静かになる。

 

平山 ……うんこ宇田川、バズるぞ。

 

   我孫子は、思わず笑う。

   二人で一緒に笑うが、それもすぐに収束して、
   気まずい沈黙となる。

 

我孫子 ……とっくに十秒経ったぞ。

 

平山 お前こそ。

 

我孫子 ふん。

 

平山 ……。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……(渋々)条件がある。

 

我孫子 ……なんだよ。

 

平山 今度はおれが予約する。

 

我孫子 ……。

 

平山 いいな?

 

我孫子 ……そうしろよ。

 

平山 (頷く)

 

我孫子 ……決まりか?

 

平山 ああ。……家賃は?

 

我孫子 バイトしろ。

 

平山 お前もな。

 

我孫子 決まりだ。

 

   我孫子と平山、ためらいがちに目を合わせる。

   我孫子、照れ隠しに「あーあ」と頭を掻きながら
   部屋に戻ろうとする。

 

平山 (呼び止めて)おい。

 

我孫子 ん?

 

平山 ……。

 

我孫子 なんだよ。

 

平山 三千円も忘れるなよ。

 

我孫子 ……(苦々しい顔)分かってるよ。

 

 

 

 

―― 幕 ――

 

 


奥付

 

 

一幕戯曲

金欠ボーイズ 笑いごとじゃない


作 : 十佐間つくお
 
 
 
イラスト:中田仙次郎
 

▼この戯曲の上演をご希望の方は下記までご連絡ください。
tsukuo182@ever.ocn.ne.jp
 
 
 

電子書籍プラットフォーム : パブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社トゥ・ディファクト

 


この本の内容は以上です。


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