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「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」#3

 

我孫子 (ナナに)それにしても、外国人旅行者っていうからてっきり。

 

ナナ ブロンド期待した?

 

我孫子 そういうわけじゃ、……まぁね。

 

ナナ あんたバカぁ?(笑いながらぶつ)

 

我孫子 いてっ。

 

ナナ 私日系。グランパが日本出身。

 

我孫子 それで日本語も話せるのか。

 

ナナ あと漫画で覚えた。ゴルゴとかね。

 

我孫子 ゴルゴ?

 

ナナ 「その正義とやらはお前たちだけの正義じゃないのか?」

 

我孫子 は?

 

ナナ (背後をさっと警戒して)「おれのうしろに音もたてずに立つような真似をするな」

 

我孫子 ああ、ゴルゴに出てくるセリフ。

 

ナナ 当たり前だろー。『ゴルゴ』と『こち亀』と『おいしんぼ』は全巻揃ってたから。

 

我孫子 ラーメン屋か! 自慢げに言うラインナップじゃないから、それ。

 

ナナ 私が何しに日本来たか分かる?

 

我孫子 いや。

 

ナナ コミケコミケ。

 

我孫子 コミケ?

 

ナナ コスプレコスプレ。

 

我孫子 コスプレ?

 

ナナ 誰のコスプレやるか知りたい?

 

我孫子 いや、別に。

 

ナナ 教えろ、この野郎。

 

我孫子 日本語変だから。お前が教えろよ。

 

ナナ ゴルゴゴルゴ。

 

我孫子 二回言うのやめろよ。

 

ナナ デューク東郷。

 

我孫子 コミケでゴルゴのコスプレやる奴なんていねーだろ。

 

   ナナはゴルゴ風の太眉毛を取り出して装着、ゴルゴ風の表情を作る。

 

ナナ 「おれのうしろに音もたてずに立つような真似をするな」。痺れる!

 

我孫子 民泊ってこういう奴が来るのか。

 

ナナ 写真撮られまくっちゃうな。あとこれ(と拳銃を取り出す)。本物よ。(我孫子に向けて)「おれのうしろに……。

 

我孫子 (焦って)バカ、よせ! しまえよ!

 

ナナ なんてなー。ニセモノニセモノ。

 

我孫子 ふざけんなよ!

 

ナナ なわけないだろー。(我孫子を指さして笑う)見た今の顔。本物持ってたら保安検査で捕まりますー。

 

我孫子 なんかムカつく。

 

ナナ (眉毛をはずす)言っとくけど、向こうじゃめちゃモテるから。

 

我孫子 聞いてねぇよ。

 

ナナ バイザウェイ、ミスタ宇田川は?

 

我孫子 宇田川? 大家? 初めての客だからって色々準備してるよ。(考えて)初めての客か。初めての客で痛い思いをすれば、これ以上手を広げようなんて思わなくなるかも。そうすればおれたちを追い出そうとも考えなくなる……。(ナナに)日本初めてだって?

 

ナナ イエス。

 

我孫子 民泊を利用するのに不安は?

 

ナナ (あっけらかんと)全然。

 

我孫子 あるだろ。そこはあるだろ。初めて日本来て、おんぼろアパートに泊まるんだぞ。女なんだし尚更あるだろ。盗撮されてないかとか、合鍵使って襲われないかとか。

 

ナナ んー、まぁ、安ければオッケー?

 

我孫子 デュークだったら絶対警戒するぞ。

 

ナナ これね(とデューク更家のウォーキングをやる)。

 

我孫子 更家! それ更家だから。相当古いぞ。ホントにアメリカ人かよ。よし、じゃあおれがいいこと教えてやる。

 

ナナ なに?

 

我孫子 うちの大家のミスター宇田川な。あいつ、外人が大嫌いなんだ。

 

ナナ リアリィ?

 

我孫子 (反応を見ながら)特にアメリカ人。

 

ナナ リアリィ。どうして。

 

我孫子 戦争で負けた恨みだな。

 

ナナ ……戦争?

 

我孫子 第二次大戦に決まってるだろ! ワールドウォー2!

 

ナナ あー、それ。

 

我孫子 アメリカの若い奴ってそんな? (効果がないと見て)あいつ、漫画とかアニメとかも大っ嫌いだから。

 

ナナ (激しく動揺)どどどどど、どうして?

 

我孫子 こっちは効くのか。オタクとか、理解不能で気持ち悪いって。

 

ナナ ファック!

 

我孫子 コミケのあととか、毎回裏の畑で同人誌燃やしてるし。

 

ナナ OMG!

 

我孫子 OMG?

 

ナナ オーマイガッ!

 

我孫子 そのときのあいつの顔、見せてやりたいよ。(指で角を作ってみせて)薄ら笑いでこんな角が生えて。

 

ナナ デビルか! 悪魔くんか!

 

我孫子 悪魔! ただの悪魔な! くん付けしたら水木しげるだから。とにかく、この世であいつが信じるものはただ一つ。

 

ナナ 何?

 

我孫子 金。

 

ナナ シット! シットって言っても焼きもちじゃないから。

 

我孫子 分かってるよ!

 

   そこへ宇田川が下手から登場。

 

宇田川 これはこれは、ナナ・ウォーターズさんですね。

 

ナナ ……(警戒して)。

 

宇田川 ウダガワドットコムでご予約承っております。オーナーの宇田川です。

 

我孫子 ウダガワドットコムって。

 

   宇田川は握手しようと右手を差し出すが、ナナは応じない。

 

ナナ (眉毛を装着)「利き腕を人にあずけるほどおれは自信家じゃない。だから、握手という習慣もおれにはない」。

 

宇田川 は?

 

我孫子 ゴルゴです。

 

宇田川 ゴルゴ? アメリカの方には握手と聞いてたんだが……。眉毛に何かついてますよ(と取ろうとする)。

 

ナナ (慌てて身を引いて)ドントタッチミー!

 

宇田川 (当惑)失礼。取ってあげようとしただけなんですが。(気を取り直して)日本語は大丈夫なんですよね。

 

ナナ (自分で眉毛をはずす)ヤ。

 

宇田川 よかった。英語はまだ勉強中で。

 

我孫子 金のこととなると頑張りますね。

 

宇田川 余計なことは言わないように。(ナナに)もう聞いてるかもしれませんが、こちらはアパートの住人の我孫子さんです。ああ、でも、大きな音出したら迷惑なんじゃないかとか、夜遅くまで起きてたら迷惑なんじゃないかとか、気にしなくていいですから。この人と、あともう一人いるんですが、こいつらの方がよっぽど迷惑ですから。それではさっそくお部屋にご案内しますが、まずは(急に英語で)ペイ・ファースト。

 

我孫子 金がらみの言葉だけは覚えが早い。

 

ナナ オーケー(どこかけんか腰で財布からお金を取り出す)。

 

宇田川 (しっかり数えてにっこり)確かに。一泊たったの五千円。お安いと思いますよ。家具家電、調理器具なんかも一通り揃ってるし、電波も良好です。必要なものはここ宇田川商店で全部揃う。これで五千円なんて安すぎる!、って思わずネットで呟きたくなりませんか、はっはっは!

 

我孫子 (ナナにこっそり)オタクが大嫌いなんだ。

 

   宇田川、警戒心むき出しのナナを伴って下手から退場。

   入れ替わりに、下手から林田が軽い足取りで登場。

 

林田 おつかれーッス。

 

我孫子 お前か。

 

林田 林田っす。部屋にいなかったんでこっち来てみました。

 

我孫子 あ、そう。

 

林田 あれ、お呼びじゃないみたいな。

 

我孫子 ちょっとごたごたしてるもんで。

 

林田 ちょっとちょっと、新コンビ結成の祝賀会じゃないすか。アゲていきましょうよ。

 

我孫子 祝賀会じゃないから。ネタ合わせして相性とか見るんだよ。

 

林田 どっちでもいいけど。

 

我孫子 どっちでもいいけどって、それが先輩に対する……。

 

林田 大丈夫大丈夫大丈夫。そういうの気にしない方なんで。

 

我孫子 ……そういや、お前って親が歯医者って言ってたっけ。

 

林田 なんすか、いきなり。

 

我孫子 だよな?

 

林田 まぁ。両親ともみたいな。あと二人いる兄貴も。死んだじいちゃんも歯医者っていうね。

 

我孫子 一族で。

 

林田 おれも一応歯科大行ったんすけど、お笑いの方が面白そうで。モテそうだし、手っ取り早く有名になれるかなって。だいたい、毎日毎日人の口の中見るなんて頭おかしいでしょ?

 

我孫子 歯科医の一族だったりすると、金に困ったこととかないだろ。

 

林田 ま、ぶっちゃけ?

 

我孫子 お前の財布は金でパンパンに膨れてる。

 

林田 カードっす。現金もあるけど。

 

我孫子 いきなりだが、金貸してくれ。

 

林田 金? 金の話?

 

我孫子 少し融通してくれ。頼む。

 

林田 (警戒するような目つきで)親の金? おれの金?

 

我孫子 どっちの金でも。すぐ返すから。……まぁコンビ組むんだから、いつとかはっきり決めなくてもいいだろうけど。

 

林田 どれくらい?

 

我孫子 とりあえず十万。いや、二十。

 

林田 二十。え? それけっこう言っちゃってない?

 

我孫子 林田、お前を見込んでのことだ。

 

林田 それ、ちょっとマジ光栄。……ま、いいすよ。

 

我孫子 マジか! よし。よしよし。

 

林田 手持ちあったかな(とポケットを探ると札束が出てくる)。

 

我孫子 出たな出たな出たな!

 

林田 はい、手出して。(羽振りよさげに渡して)これでどうだっ!

 

我孫子 うおーっ(と歓喜するが、まもなく何か変だと気がつく)……なんだこれ?

 

林田 何って?

 

我孫子 (一枚透かして)金じゃない。

 

林田 金、金。モノポリーの金。

 

我孫子 は?

 

林田 二千ドル。一ドル110円計算で22万円。ちょっとあげすぎかな。

 

我孫子 ふざけろよ、この野郎!(とお札を床に叩きつける)

 

林田 ちょっと何?

 

我孫子 こんなもんいるか!

 

林田 いや、ギャグだし。ギャグ。

 

我孫子 全然面白くねぇよ!

 

林田 あれ? 本物のお金が欲しいわけ?

 

我孫子 当たり前だろうが!

 

林田 そういうこと?

 

我孫子 そうだよ。

 

林田 ただで?

 

我孫子 (言葉に詰まって)……そりゃまぁ、はっきり言っちゃうと。

 

林田 それはちょっとあげられないなぁ。え? ただで? 無理無理。ちょっと無理。だって、お金はトラブルのもとだから。

 

我孫子 そのトラブルを解決するために必要なんだ。

 

林田 めっちゃ分かる。でも、そのやり方だとまた新しいトラブルが生まれて、いつまで経っても解決しないから。トラブルがあっちからこっちに移るだけ。

 

我孫子 そんなまともな回答、期待してないから。

 

林田 それなら消費者金融で借りても同じでしょ。

 

我孫子 そしたら返さなきゃいけないだろうが。

 

林田 確かに。それデカいよねー。

 

我孫子 だろ? だからお前に頼んでるわけよ。

 

林田 ……あれ? なんかおれ、カモられそうになってる?

 

我孫子 そんなわけないだろ。頼む、一生のお願い!

 

林田 それじゃあちょっと無理だなー。

 

我孫子 ……土下座?

 

林田 やってくれてもいいけど、やっぱ貸せないな。

 

我孫子 お前、そういう奴か。

 

林田 それおかしくない? ただで二十万よこせって脅されて、言うこと聞かないと「そういう奴」呼ばわり? 業界の不条理出たー。先輩後輩あるある。

 

我孫子 (打ち切って)分かった分かった分かった。脅したりとかしてないから。この話は終わり。終わり、もうしない。お前はおれに金を貸したくない。

 

林田 そう。

 

我孫子 二十万が手に入らなくておれがどうなろうと、どうでもいい。

 

林田 その通り。おれもそれが言いたかった。

 

我孫子 ……あっそ。

 

林田 この話は終わり。

 

我孫子 おしまい。完全に終わり。

 

林田 ザ・エンド。

 

我孫子 ジな。ジ・エンド。

 

林田 (自分でウケて)それそれ。やばい。めちゃウケ。

 

我孫子 ……で、何の話だっけ?

 

林田 おれたち二人で新しいコンビを組む。

 

我孫子 そうだ。すっかり忘れてた。すっかり忘れてた。すっかり忘れた(わざと何度も繰り返す)。

 

林田 我孫子さんが誘ったんすよ。

 

我孫子 よく覚えてない。

 

林田 「誰にしようかな天の神様の言う通り」って楽屋でやったじゃないすか。相方見つかってないヤツ集めて。

 

我孫子 それでお前に当たったわけか。おれもツキに見離されたな。

 

林田 (聞いてない)コンビの最初の仕事っていったら、やっぱりあれでしょ。

 

我孫子 あれ?

 

林田 (宣言)はい、コンビ名決めます!

 

我孫子 それね。

 

林田 前に組んでたコンビ、なんて名前でしたっけ?

 

我孫子 なんで。

 

林田 いや、かぶったら困るんで。

 

我孫子 ハッピーターン。なかなか悪くない……。

 

林田 ダサッ! ハッピーターン? マジで?

 

我孫子 いい名前だろうが。

 

林田 えー? ハッピーターン、確かにうまいけど。でも、えー?

 

我孫子 (不愉快で)名前はいい。おれが考えとく。

 

林田 ちょちょっ、なんで?

 

我孫子 何だよ。

 

林田 不安だなー、それ不安だなー。またハッピーターンみたいな感じになったら、おれちょっとノレないなー。

 

我孫子 ハッピーターンのどこが……。

 

林田 じゃこれどうすか。いいと思った名前を交互に挙げていく。ブレストと同じで相手の言ったことにケチつけない。よし、それでいこう! よっしゃ!

 

我孫子 (渋々)いいと思った名前を言うんだな。順番に。

 

林田 (わざとらしく)飲み込み早っ! じゃ、さっそくおれから。

 

我孫子 おれから言う。

 

林田 いや、おれのアイデアなんで。いきます。最初は……。

 

我孫子 おれが言うから。最初はおれ。

 

林田 変なとこで主張するなぁ。別にいいけど。

 

  以下、我孫子はひとつひとつ考えながら、林田は一つ言うたびに

  テンションを変えたりそれっぽいポーズを取りながら、

  それぞれ名前を挙げていく。

 

我孫子 (少し考えて)ポリンキー。

 

林田 サイドカー。

 

我孫子 カラムーチョ。

 

林田 マスチゲン。

 

我孫子 あたりめ。

 

林田 チョコ乳首。

 

我孫子 蒟蒻畑。

 

林田 もやしライス。

 

我孫子 ミックスナッツ。

 

   途中から平山が下手に顔をのぞかせてこのやり取りを聞く。

 

林田 横断歩道。

 

我孫子 トッポ。

 

林田 明日のお昼。

 

我孫子 バームロール。

 

林田 (ジョジョ立ちで)ジョジョ。ポーズもジョジョ立ちで。ジョジョ。

 

我孫子 ブランチュール。

 

林田 有頂天。

 

我孫子 シルベーヌ。

 

林田 ちょっと!

 

我孫子 え?

 

林田 全部お菓子の名前でしょそれ!

 

我孫子 ケチつけないんだろうが。

 

林田 そうだけど、バリエーションなさすぎだから。

 

我孫子 (不満げに)え?

 

林田 さすがに。

 

我孫子 最後の三つなんか全部ブルボンだぞ。

 

林田 考えて。もっと考えて。

 

我孫子 好きなんだよ、ブルボン。ブルボンは?

 

林田 もっと幅広く!

 

我孫子 お前、アルフォートだってブルボンだぞ。プチシリーズもブルボンだぞ。

 

林田 知らないから。

 

我孫子 え?

 

林田 ブルボンから離れて。

 

我孫子 え?

 

林田 さすがに。

 

平山 何やってんだ?

 

我孫子 (動揺して)平山。お前こそなんだよ。

 

平山 202の台所の電球が切れてたから取ってきてくれって。

 

林田 新しいコンビ名考えてたんすよ。

 

我孫子 余計なこと言うな。

 

平山 新しいコンビ?

 

林田 元相方の平山さんでしょ。一回舞台で見たっす。

 

平山 元相方?

 

林田 おれと我孫子さんで新しい……。

 

我孫子 (林田を叩いて)黙ってろ。つまりだな……。

 

平山 つまり、そういうことか。ハッピーターン、終了。

 

我孫子 いや……。

 

林田 あれ、何この空気?

 

平山 亀田製菓だしな、ハッピーターン。

 

林田 そうなんだ。……え、なに? お菓子の話?

 

我孫子 舞台から遠ざかりたくないだけだ。

 

平山 よく分かった。

 

我孫子 いや、分かってない。

 

平山 こんな頭悪そうなやつでもおれよりマシってわけだ。

 

我孫子 客前でやらないと勘が鈍るんだよ。

 

平山 ライブ当日に会場押さえることもできないくせによく言うよ。

 

我孫子 またそれを蒸し返す気か。

 

平山 忘れられない出来事だからな。

 

林田 やっぱりお菓子の話じゃねぇ。

 

我孫子 いつまでもぐじぐじ言いやがって。

 

平山 もういい!

 

我孫子 こっちのセリフだ!

 

平山 解散!

 

我孫子 なに?

 

平山 解散! ハッピーターン解散!

 

我孫子 さっきおれが宣言しただろうが!

 

平山 じゃあ再結成して、それから解散だ! 解散!

 

我孫子 勝手にしろ!

 

   平山、商品棚から電球を取って行こうとする。

   と、突然警報が鳴り、ランプが点滅。

   同時に宇田川の声でアナウンスが入る。

 

アナウンス 万引きは犯罪。万引きは犯罪。今すぐ金を払え。

 

平山 なんだ、これ!

 

アナウンス この小屋はすでに警察に包囲されている。繰り返す。万引きは犯罪……。

 

   平山、怒りと焦りで棚を叩いたり揺さぶったりするが、

   どうにも止められない。仕方なくポケットから小銭を出して、

   料金箱に入れる。

 

アナウンス (警報がやむ)お買い上げありがとうございます。あなたの暮らしを豊かに。今後とも宇田川商店をよろしくお願いいたします。

 

平山 何なんだよ!

 

林田 分かった。電球泥棒!

 

平山 (睨んで)大家に頼まれたんだよ!

 

林田 いや、だから、コンビ名。(我孫子に)電球泥棒でどうすか?

 

我孫子 ま、インパクトあるかな。

 

林田 うわっ、売れそう!

 

平山 勝手にしろ!

 

   平山、怒った足取りで下手から出て行く。

 

 

 


「金欠ボーイズ 笑いごとじゃない」#4

 

林田 (軽くポーズを入れて)どーもー、電球泥棒です。みたいな。白熱灯でしょ?

 

我孫子 (平山に気を取られていて)え?

 

林田 LEDじゃなくて。

 

我孫子 そんなのどっちでも……。

 

林田 どーもー、電球泥棒です。ほら一緒に。おれが電球で、我孫子さんが泥棒。

 

我孫子 なんでおれが泥棒……(と言う間もなく)。

 

林田 (二人で)どーもー、電球泥棒です。まぁまぁまぁ。まぁ、いいんじゃない。いいんじゃないすか? ちょっと思ったんだけど、もう一人入れてコントやんないスか?

 

我孫子 は?

 

林田 若い子には絶対コントのがウケるし。三人いれば色々分担もできるから。

 

我孫子 は?

 

林田 最初は、知り合いとか使って笑い誘った方がいいスよね。雰囲気づくり? 認知度っていうか、やっぱ最初のハードルはさくさくっと行っちゃいたし。ある程度波に乗れば自然とうまくいくようになるかなって。

 

我孫子 お前、何言ってんだ?

 

林田 何って、電球泥棒のブレイク七週間計画。

 

我孫子 突然計画するなよ! ていうか、七週間で売れる気か!

 

林田 だって、売れなきゃ意味ないし。

 

我孫子 売れなきゃって……、おれは漫才一筋なんだよ。

 

林田 ニーズ、ニーズ。コントのが受け入れられやすいって。

 

我孫子 おれたちは漫才をやるんだ。もう一人入れたりなんて絶対しないぞ。それから決定権はおれにある。それを忘れるな。

 

林田 それじゃ売れないと思うんだよなぁ。

 

我孫子 サクラ使って笑い取るとか、お前、笑いをナメてるのか?

 

林田 だって売れたいでしょ?

 

我孫子 売れれば何でもいいってわけじゃないんだよ。

 

林田 売れてから考えればいいじゃん、そんなの。

 

我孫子 そんなの? ……色々考えてみたんだが、おれたちはうまくいきそうにない。

 

林田 なんスか、急に。

 

我孫子 世代とか価値観とか、笑いに対する考え方とか、違いすぎる。

 

林田 (軽々と)そんくらい合わせるって。

 

我孫子 無理して合わせてもらいたくない。

 

林田 じゃ、それを踏まえてのー、意見のすり合わせ、しますか。

 

我孫子 いや、すり合わせられないから。

 

林田 そお?

 

我孫子 絶対ムリ。というわけだから、行ってくれ。

 

林田 行くってどこへ?

 

我孫子 どこへでも。

 

林田 もう少し詳しく。

 

我孫子 行きたいところならどこへでも。ここではないどこかへ。

 

林田 ……ポエム?

 

我孫子 ポエムじゃねぇよ!

 

林田 もしかして、解散ってこと?

 

我孫子 そう取ってくれて結構。

 

林田 マジ? 結成五分で?

 

我孫子 記録を作ったな。

 

林田 ……オーケー、分かった。(去り際に捨て台詞)見とけよ、天下取ってやるからな!

 

   林田、下手から出て行く。

 

我孫子 よく言えるな、あんな恥ずかしいセリフ。

 

   そこへ宇田川とナナがいがみ合いながら戻ってくる。

 

宇田川 そんなに気に入らないならキャンセルすればいい。当日だと返金できませんがね。

 

ナナ 部屋に文句はない。あなたに文句がある。

 

宇田川 何がいけないんだ。私はただお客をもてなそうとしてるだけだ。

 

ナナ 「オタクはツイッターできる?」「オタクは日本食たべられる?」「オタクはバスの乗り方分かる?」。オタクに対する当てつけか!

 

宇田川 言ってる意味が全然分からん。そっちこそ最初からケンカ腰じゃないか。アメリカ人ってのはみんなこうなのか?

 

ナナ ホワット? レイシスト!

 

宇田川 は?

 

ナナ 差別主義者ってこと! 外国人に対する偏見、捨てた方がいいよ。オタク文化に対する偏見も!

 

宇田川 そんな話、誰もしてないぞ!

 

ナナ とにかく、部屋には泊まる。ただし、もうあなたの顔は見たくない。

 

宇田川 けっこう。やり取りはネット上だけ。

 

ナナ ファイン。

 

宇田川 それこそ現代社会だ。では、宿泊後はツイッターやフェイスブックで「とっても快適だった。みんなも日本に来たら絶対ここに泊まって!」と呟いてもらうということで。

 

ナナ ファイン。……待て待て待て! 誰が呟くか!

 

我孫子 アメリカ人にしとくにはもったいないツッコミだな。

 

宇田川 頭のおかしいヤンキー娘が。

 

ナナ ホワット!

 

我孫子 ちょっと落ち着いて。ね、ほら。(宇田川を脇に連れて行き)やっぱり日本に来る外人なんてろくでもない連中ばかりなんすよ。

 

宇田川 日系でこれじゃ黒人だのヒスパニックだのなんて考えられんぞ。

 

我孫子 (合わせて)まぁ、中国人や韓国人も無理でしょうね。

 

宇田川 論外だ、論外!

 

我孫子 今からでも遅くない。民泊なんてやめたらどうです?

 

宇田川 ふん、ガイジンがくそったれのすっとこどっこいだというのと、商売になるかどうかは別の話だ。

 

我孫子 ……あんたもよっぽどだな。(切り替えて)それなら、ネットでいい評判をアップしてもらうにこしたことはないわけだ。

 

宇田川 いくらか握らせてでもな。

 

我孫子 おれにいいアイデアがあります。

 

宇田川 え?

 

我孫子 ここには、他にはない観光スポットがある。

 

宇田川 観光スポット?

 

我孫子 裏の畑に。

 

宇田川 なんのことだ。

 

ナナ こそこそ話さない!

 

我孫子 (ナナに)ナナ、ユーノウジャパニーズ肥溜め?

 

ナナ ホワット? コエダメ? 何それ。

 

宇田川 肥溜め?

 

我孫子 肥溜めイズ肥溜め。ジャパニーズ、伝統的な、ベリベリフェイマス、トラディショナルカルチャー。農業の、アグリ……(単語が出ない)。JAイズベリビューティフル。日本に来たらこれ見とくべきってやつ。ていうか、普通まず見れない、超貴重なやつ。

 

ナナ マジ?

 

我孫子 イエスイエス! 今日は特別に見られるかも。ねぇ大家さん?

 

宇田川 肥溜めを?

 

我孫子 見れますよね?

 

宇田川 そりゃまぁ……。

 

我孫子 民泊利用のお客さんは、オプションで無料です。(宇田川に)ね?

 

宇田川 いくら私でも、あれを見せて金を取るというのは……。

 

我孫子 (ナナに)オッケー出ました!

 

ナナ ワオ!

 

我孫子 じゃ、その前にちょっと注意点を。(ナナを脇に連れて行き)肥溜めっていうのは、一種の、なんていうか、体験型イベントで。

 

ナナ 体験型。

 

我孫子 見るだけじゃなくて参加するってこと。肥溜めっていうのは、これくらいの穴があって、そこに野菜を育てるための、まぁ企業秘密の色々な肥料が溜まってるんだけど。

 

ナナ アーハー。

 

我孫子 そこに誰かを突き落として、みんなでわーっと盛り上がる。

 

ナナ (やや微妙な顔)わお。リアリィ?

 

我孫子 マジマジ。背中どーんと押して、突き落としちゃうの。思いっきり。

 

ナナ (いい気がしてくる)サウンズグッド。いいかも。

 

我孫子 大家が肥溜め見せるでしょ。で、「絶対押すなよ!」って言うから。そしたら?

 

ナナ 押さない?

 

我孫子 最初は。でも「絶対押すなよ!」って三回言ったら、それは押せって意味だから。

 

ナナ 押すなって言ってても、押す?

 

我孫子 イグザクトリ。その通り。三回押すなは、押せの意味。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対押すなよ。(そしたら)押す。

 

ナナ 日本語、そういうとこ難しいからな。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対押すなよ。押す。

 

我孫子 ザッツイット! それが日本の肥溜め文化。

 

ナナ アイガリ(I got it)。

 

我孫子 よし。(今度は宇田川を隅に連れて行き)彼女にはふざけて押したりしないようよく言っておきました。肥溜めに落ちたりしたら危ないですから。

 

宇田川 あんなところに落ちたら大変だよ!

 

我孫子 ええ。でも彼女はあっぱらぱーの外人娘です。肥溜めがどれくらい危険なのか分かってない。

 

宇田川 分かるわけがない。

 

我孫子 肥溜めのところに行ったら改めて注意してください。

 

宇田川 注意?

 

我孫子 「絶対押すなよ!」って言わないとダメです。

 

宇田川 絶対押すなよ?

 

我孫子 もし後ろから押されたらどうします。落ちますよ。

 

宇田川 ダメダメ、絶対ダメ!。

 

我孫子 それなら言ってください。「絶対押すよなよ!」

 

宇田川 (復唱して)「絶対押すなよ!」。でも、本当にあんなものが見たいか?

 

我孫子 もちろん! 日本独自の文化だ。うまくすれば、それ目当ての民泊客が殺到するかもしれない。

 

宇田川 ……やって損はないか。

 

我孫子 いいすか、相手は何も知らない外人だ。念を押して言ってください。「絶対押すなよ!」最低でも三回。

 

宇田川 最低でも三回。絶対押すなよ、絶対押すなよ、絶対……。ちょっと待った。どこかで聞いたことがあるような。

 

我孫子 気のせいです。さ、案内してあげてください。

 

宇田川 あぁ。(ナナに、なるべく愛想よくして)では、気を取り直しまして。ナナさん、こちらへどうぞ。アイウィルショウユー肥溜め。

 

ナナ オーケー。

 

我孫子 (ナナに)「絶対押すなよ!」

 

ナナ (我孫子に)スリータイムズ(と指を三本出してウィンク)。

 

   宇田川はナナを伴って下手より出て行く。

   入れ違いに、平山が古い電球を持って戻ってくる。

 

平山 (二人を見送り)どうなってんだ? さっきはケンカしてたのに。

 

我孫子 ま、見てろ。

 

平山 (古い電球を処理して)何したのか知らないが、家賃が払えなかったら出てかなきゃいけないことには変わらないんだからな。

 

我孫子 分かってるよ。

 

   我孫子、ふと座卓脇の小型金庫に目を留める。
   おもむろに近寄って
持ち上げようとするが、
   それは床にくっついて離れない。

   引きはがそうとして悪戦苦闘するが、まったくダメである。

 

平山 ムリだ。大家の金庫は大地震が来ても絶対壊れない。大津波が来ても絶対に流されない。本人がいつも自慢してる。

 

我孫子 (あきらめて)あいつを原子力安全保安院に派遣してやるべきだな。

 

平山 お前の新しい相方はどうしたんだ?

 

我孫子 ……もう一人入れてコントやりたいなんて言いやがる。

 

平山 コント?

 

我孫子 おれは漫才一筋なんだよ。

 

平山 それで?

 

我孫子 別に。

 

平山 別に?

 

我孫子 どっかに消えた。

 

平山 ……。

 

我孫子 なんだよ?

 

平山 別に。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……二人とも計画が白紙になったわけだ。

 

我孫子 らしいな。

 

平山 ……それで?

 

我孫子 それでって。

 

平山 ……別に。

 

我孫子 いい加減、また一緒にやりたいと言ったらどうなんだ?

 

平山 なに?

 

我孫子 そう思ってるんだろうが。お見通しなんだよ。

 

平山 ふざけるな。そう思ってるのはお前だ。

 

我孫子 おれが? ふざけろ。お前が思ってるんだ。顔にそう書いてあるんだよ。

 

平山 考えてることが顔に出るのはお前だろうが。認めろ。また一緒にやりたいってお前が思ってるんだ。

 

我孫子 誰が!

 

平山 一緒にやりたいならそう頼め。そしたら考えてやる。

 

我孫子 考えてやる? エラそうに。

 

平山 言っとくが、お前のために彼女と別れたわけじゃないからな。

 

我孫子 おれだってお前のために新しいコンビをやめにしたんじゃない。

 

平山 これが最後のチャンスだ。一緒にやりたいならそう言え。

 

我孫子 バカ言え! お前と縁切るチャンスができて喜んでるんだよ。

 

平山 じゃ壁の修繕費払って出てけばいいだろ。

 

我孫子 だからなんでおれが。お前が払え!

 

平山 お前が空けたんだろうが。お前が払え!

 

我孫子 そんな金があるわけないだろうが!

 

平山 おれだってないね!

 

我孫子 最後のチャンスをやる。正直にもう一回一緒にやりたいですって言え。そしたらこれまでのことは水に流してやる。

 

平山 お前が水に流すものなんてないだろうが!

 

我孫子 最後のチャンスだぞ!

 

平山 お前こそ、これが最後のチャンスだぞ!

 

我孫子 十秒待ってやる。

 

平山 こっちだって十秒待ってやる。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

   たっぷり間があったあと。

 

我孫子 ……6! ……5!

 

平山 ……。

 

我孫子 ……4! ……。

 

平山 ……3! ……2!

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

   二人が牽制しあってるところへ、下半身がうんこまみれに

   なった宇田川が登場。

   宇田川は、何も言うなと威圧するように二人を睨みつける。

 

宇田川 ……(場が凍りつく)。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……。

 

宇田川 ……十日までに払えよ!

 

   宇田川、そのまま上手のドアから自宅に戻っていく。

   そこへナナが笑いながら下手から登場。

 

ナナ オウサム! めっちゃよかった! (宇田川を真似て)「絶対押すなよ! 絶対押すなよ!」。超ウケるー! (スマホを見せて)動画、youtubeにアップしよ。

 

   ナナは手を振って部屋に戻っていく。

   また平山と我孫子の二人きりになって、急に静かになる。

 

平山 ……うんこ宇田川、バズるぞ。

 

   我孫子は、思わず笑う。

   二人で一緒に笑うが、それもすぐに収束して、
   気まずい沈黙となる。

 

我孫子 ……とっくに十秒経ったぞ。

 

平山 お前こそ。

 

我孫子 ふん。

 

平山 ……。

 

我孫子 ……。

 

平山 ……(渋々)条件がある。

 

我孫子 ……なんだよ。

 

平山 今度はおれが予約する。

 

我孫子 ……。

 

平山 いいな?

 

我孫子 ……そうしろよ。

 

平山 (頷く)

 

我孫子 ……決まりか?

 

平山 ああ。……家賃は?

 

我孫子 バイトしろ。

 

平山 お前もな。

 

我孫子 決まりだ。

 

   我孫子と平山、ためらいがちに目を合わせる。

   我孫子、照れ隠しに「あーあ」と頭を掻きながら
   部屋に戻ろうとする。

 

平山 (呼び止めて)おい。

 

我孫子 ん?

 

平山 ……。

 

我孫子 なんだよ。

 

平山 三千円も忘れるなよ。

 

我孫子 ……(苦々しい顔)分かってるよ。

 

 

 

 

―― 幕 ――

 

 


奥付

 

 

一幕戯曲

金欠ボーイズ 笑いごとじゃない


作 : 十佐間つくお
 
 
 
イラスト:中田仙次郎
 

▼この戯曲の上演をご希望の方は下記までご連絡ください。
tsukuo182@ever.ocn.ne.jp
 
 
 

電子書籍プラットフォーム : パブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社トゥ・ディファクト

 


この本の内容は以上です。


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