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自己紹介

 

そしてすぐに、

" ガチャッ "

事務所の扉から顔を出し、

「 "黒井(小鳥)"さん、ちょうど部長がいらっしゃるので、自己紹介をお願いします・・」

「 へっ? は、はい 」

"小鳥"は事務所の中へと入った。
 
「 し、ししし、失礼します 」
 
面接をして合格と告げてくれた"甘党"マネージャーは見当たらず、新たに現れた部長という存在に少しの戸惑いを感じていると、

「 さっ!」

"竹本"主任が自己紹介を促した。

「 あっ、ああ・・ 本日よりお世話になる事になりました"黒井小鳥"と言います、どうぞよろしくお願いします・・」

頭をペコリと下げる。
 
部長と呼ばれる男は座っていた椅子から立ち上がり、

「 "長嶺"です、よろしく 」

それだけ言うと、再び腰を下ろして机の上に視線を落とした。
 
「 では上に行きましょう !失礼しました 」

冊子を抱えて事務所を出ようとする"竹本"主任に習って挨拶をする。

「 し、ししし、失礼しゃした・・」
 
事務所の空気は重苦しい。緊張のせいか"小鳥"の舌はもつれていた。
 
 

新人教育

 

再び外へと出る。

" カンカン、カカン・・"
 
階段を叩く足音が聞こえ、

「「 おはようございます・・ おつかれっす・・」」

幾つもの挨拶と共に、袖のボタンや襟首をいじりながら群れの様に現れたスタッフ。

(!?)

やや腰が引ける"小鳥"を、

「 えぇ、みなさん、本日初出勤の"黒井(小鳥)"さんです・・」

"竹本"主任がすかさず紹介する。

「 ども、よろしくお願いします・・」
 
定時(PM4:00)出勤の遅番スタッフとの事。

「 終礼の時に改めて自己紹介の場を設けますから・・」

二階へと上がり、

「 さっ始めましょうか・・ では、そこに座ってください 」

二人が向き合う形で腰を下ろしたのは、先程たばこを吸ったばかりの休憩室のテーブルだった。
 
 

マニュアル

 

「 ええとそれでは、"黒井(小鳥)"さん、こちらをどうぞ・・」

"竹本"主任が手に持っていた冊子のひとつを"小鳥"に渡す。

「 僕がマニュアルを読んで行きますから、"黒井(小鳥)"さんも一緒に見ていてください 」

「 はい 」

「 ではまず、表紙をご覧ください 」

(・・・)

「 "黒井(小鳥)"さん、この漢字は読めますかぁ?」

" 以身作則 "

「 えっ?あ、はい・・ え~~っと、イ ・ シ ・ ン ?」

「 そうですそうです、これはイシンサクソクと読みます 」

「 はい 」

「 ちなみに意味はわかりますか?」

「 いやちっと・・」

「 こちらは我が社の社訓でして・・」

「 へぇ・・」

「 これの意味はと言うと、身を以って規則を作る、要するに自分の行動を手本にするという事です 」

「 はい 」

「 ですから"黒井(小鳥)"さんにも、お客様から見られているという意識を持って本日より振舞って頂く事になります 」

「 はい 」

「 それでは、マニュアルを開いてください 」

「 はい 」
 
 

ルール

 

「 それではまず、身だしなみですが・・」

「 はい 」

「 髪型は耳に掛からない程度で、ロン毛は禁止です・・ 金髪、茶髪はもちろん禁止です・・ 強すぎる香水も禁止です・・ 禁止です・・ 禁止です・・ よろしいですかぁ?」

「 はい 」
 
"竹本"主任が読み上げるマニュアルは、ほとんどの締め括りに"禁止"というワードが伴っている。これと言って該当している事は無いにせよ、

(・・・)

何だか息苦しくなってしまう。

「 制服は二日に一回、廊下に回収用のコンテナがありますから、タグに名前を書いて、それを制服の分かり易い場所にホッチキスで止めて、戻って来た時に自分のモノだとわかるようにして出してください・・」

「 はい 」

「 接客業ですので、汗をかいた制服を何日も着続けてお客様に不快な思いを与えない様に、清潔感のあるホールスタッフに努めてください・・」

「 はい 」

「 では、これから遅番スタッフも休憩に入って来るので、"黒井(小鳥)"さん、急いでマニュアルを読んでしまいましょう・・」

「 はい 」

「 それでは最後に、接客七大用語を僕に続いて言ってもらえますか?」

「 はい 」

「 では・・ いらっしゃいませ~」

「 い、いらっしゃいませぇ 」

「 申し訳ございません~」

「 申し訳ございません・・」

「 かしこまりましたぁ~」

「 か、かしこまりましたぁ・・」

「 お待ちくださいませぇ~」

「 お、お待ちくださいませぇ・・」

「 失礼しまぁ~す 」

「 し、失礼します・・」

「 おめでとうございまぁ~す 」

「 おめでとうございます・・」

「 ありがとうございまぁ~す 」

「 ありがとうございます・・」

「 はい、結構です、"黒井(小鳥)"さん!これは毎日の終礼でも言う事になりますから、すぐにとは言いませんが暗記しといて下さい・・」

「 はい 」

「 ホールに出たら、これを活用して接客しますので・・」

「 はい 」

「 ではこれから、実際にホールに出てもらいます 」

「 えっ?」

「 大丈夫ですよ、僕も一緒に付いてますから・・」

「 はい 」
 
休憩室を間借りしてマニュアルを読み通すだけの意外にもシンプルな新人教育が終わり、

「 その前に、"黒井(小鳥)"さん!いっぷくしてから行きますかぁ~」

「 は、はい!」

"小鳥"は、右も左もわからぬままに店員として客前に出る事になった。

 

ホールデビュー


" ジャンジャカジャンジャカ・・ ズンズンドンドン・・ ッド ・ ッド ・ ッド ・ ッド ・・"

騒がしいホールミュージックで活気付く店内。

 
"竹本"主任が、カウンターでその足を止める。

「 "黒井(小鳥)"さん、出社したらまず、ここでリモコンを借りて下さい・・」

「 はい・・」

「 それから、これを付けてください 」

「 はい・・」

" 新人教育中 黒井 "

と書かれた名札。
 
それを"竹本"主任を真似てベストの左胸辺りに付ける。

「 はい、OKです・・ それからこちらは"大友"さんと言って、カウンター主任ですので、わからない事があったら聞いて下さい。優しく教えてくれますからぁ・・」

「 あ、はい・・ よろしくお願いします 」

挨拶をした"小鳥"に、カウンターの中から小柄で色白な"大友"がニッコリと笑う。

「 ここに名前を書いて下さい 」

「 はい・・」

受け取ったバインダーには、リモコンの持ち出しと返却を管理する用紙が挟まれている。

「 紛失が多いのでカウンターで管理する事になってますから、閉店作業が終わったら返却してください 」

「 はい 」

"小鳥"は持ち出しの欄に自分の名前を書いてリモコンを受け取った。

「 では、そうですねぇ・・」

島端から各島を一通り見て戻った"竹本"主任が言う。

「 "黒井(小鳥)"さん、今お客様の少ない4コースでリモコンの使い方を説明しますので、一緒に来てもらえますかぁ?」

「 はい 」

4コースは、カウンターから見て斜め前辺り。"大友"の視界に入る。そして、少ないとは言え遊戯をしている客もいて興味の眼差しが向けられている。
 
"小鳥"から緊張の汗が出る。
 
 


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