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  • 痛みは消えない。 「すべての人を助けてあげることはできないけど」 それは大きな爪跡を残して。 「こんな俺のことを最後までわかろうとしてくれて」 だけど 「もう、一人じゃないですから」 それでも前に進めることを 「そうやってきっと救うんです。自分自身を。」 君が教えてくれたんだ。 「ただいま。」 君にありがとうを。 ~僕らはこの力と共に。君と共に。~
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もう一度見る未来のために2

次の日。

 


春川さんと待ち合わせして
一緒に電車に乗って行く。

「今日、おいしいもん食べさせてあげる」
「・・・あの」「ん?」
「春川さんって、もしかして、見えるっていうのは」
「あぁ、もう花梨ちゃんもわかってるでしょ?


俺、未来が見えんの」

電車の中
外の景色を見ながら春川さんが言った。

実際うすうす勘付いていたから、もう疑うことはなかった。
一応、触ったら過去が見える話なんかは、ドラマでも見たことがあるし。


「いつから・・・なんですか?」
「んー。多分生まれた時からじゃない?気づいてたら見えてたから」
「どんな風に、見えるんですか?」
「どんなって、まぁとにかくちょっとでも触れば見えるね」
「触れば、絶対見えちゃうんですか?」
「絶対だなぁ。見えないなんてことはまずないかな。
物であれ人であれ、触れれば絶対見えるね」


私の顔を見ないまま
春川さんが言った。


「じゃあ、すごくつらいですよね」

つねに見えてしまう景色。
相手の未来が明るければまだいいのかもしれない。
でもつねに未来は明るいわけではない。
つらい未来も、何もかもを
見たくなくても見てしまうっていうのは、どんな気持ちなんだろう。
そう、思う。


そんな気持ちを否定してしまうかのように
私の発言に春川さんは軽く笑った。
「別に。相手の未来なんてどうでもいいから」

「えっ」
考えてもいなかった返事に思わず驚く。

「知ったところで俺は何もできないし。
未来は絶対変わらないから」

他人のことなんて関係ない。
変えられない未来を知って、何もやれることはない。


「あぁ、そらつらいっちゃつらいよ?
見たくもない未来だってあるし。
でも今はもうそんなん慣れたし。
見るのだけ我慢すればどうってことないから」


見るの・・・だけ?


「ほら、ついた。降りるよ花梨ちゃん」
「・・・あ、はい」

どこかモヤモヤな気持ちを残したまま
私たちは電車を降りて競馬場に向かった。

「花梨ちゃん」
「はい?」「ちょっと失礼」「え?」
そう言って
春川さんが私の肩に手を置いた。

「はい、どうも」
「・・・今」
「うん、見させてもらった」
「金儲けっていうのは」
「そう、これでね。未来は『絶対』だから。
別に競馬じゃなくてもよかったんだけど。近かったし、こっちの方が儲かりやすいでしょ?」
春川さんが微笑む。
「ごめんね。今日花梨ちゃん誘ったのはこのためだったんだ。
なんか悪いから、今日はおごってあげるから楽しみにしといて」
「・・・はぁ」


春川さんが持っている力。
確かに、こんな使い方をするのはありだと思うけど。
「春川さん、いつもこんなことしてるんですか?」
「うん、金無くなったらやってるね。
せっかくこんなことできるんだから
自分のために使わないともったいないでしょ」
「・・・家賃、滞納したりしてるのは?」
「あぁ。あれはね。ちょっと俺、借金あってさ」
「え?」
「まぁ大した額じゃないんだけどさ。返そうと思ったらすぐ返せるんだけど」
「なんで借金なんか」
「まぁ、詐欺にあったっちゅうか、あってあげたっちゅうか」
「え!?」
「俺の家に急に来て、この絵を買ってくれっていうやつ。
わかってたよ?そりゃそいつが詐欺ってのくらい。
ただ、たまたまその人に触れちゃったんだよね。悲惨だった。
会社で怒鳴られて
もう肩身の狭いこの先の生活感ってのが全部見えてちゃって。

俺がたとえ絵を高額で買っても
その人の未来は何も変わらないんだけどさ。
なんだか哀れに思えて、それで金出してとりあえず買ってあげたのよ。
買うって言った時すごい喜んでたからさ。
まぁこの先の不幸を考えたら今だけは喜ばしてあげようかなって。
いわば慈悲だね。御慈悲」

そういって、笑う。

 


「・・・・・・」

「ほら、もうあそこだよ。花梨ちゃん、馬券買う?」
「・・・あ、今日はいいです」
「そ。じゃあ見てて」
「・・・はい」

春川さんのやっていることが
いいことなのか、どうなのか。
私にはまだよくわからないけれど。
どこかでつっかかるこの感じ。


未来は絶対変えられない。


だから、相手の未来を知ったところで何も関係ない。
変えられない未来。
確かに、変えられないのなら
何もできないし
どうしようもないことだと
確かにそう思うんだけど。


だけど・・・。

 


競馬は、もちろん当たった。
いくら稼いだのかは聞かなかったけど
とりあえず高いお店で食べれるくらいなんだから、それなりに稼いだんだと思う。


「これで今月は優雅に暮らせるなぁ。
今度はあれだ。二ヶ月分くらいは稼いでおくか」

帰り道、春川さんが呟いた。
「花梨ちゃんも何かほしいもんあったら買ってあげるよ」
「あ、いえ、別に大丈夫です」
「そう?まぁなんかほしいもんあったら言って。すぐ買ってあらげれるから。
せっかくの力だし。
思う存分自分のためだけに使わないともったいないでしょ」
もう薄暗くなった道。
競馬に来ていたたくさんの客の中に混じって
二人で元来た道を辿りながら、春川さんが言った。


自分のためだけに。
自分のためだけに・・・か。


「・・・・・・春川さん?」
混んでいる歩道。
急に春川さんが横断歩道の方を見て立ち止まった。


そして、少しして。


空にブレーキ音と
たくさんの人の声が響き渡った。


薄暗い空に響いたブレーキ音。

いろんな人の声。


競馬の帰り客がたくさんいて
私はその時、何が起こったのか全くわからなかった。


何が起こったのかわかったのは
それから2、3分して。
回りの人が呟いてた言葉でやっとわかった。


事故。
車に人が撥ねられたらしい。
横断歩道には警備員もいたはずなのに、急に車が突っ込んできたとか。
人だかりで現場を見ることはできなかったけど
とにかくいろんな人の声で
その事故にあった人はとりあえず無事だったことがわかった。

 


「春川さんっ」


無表情のまま
一言も喋らずに
じっとその現場の方向を見ていた春川さん。
何が起きたのか
人は無事だったのか
それが確認できると同時に
表情を一切変えず、また春川さんは歩き出した。


急に早足で歩き出す春川さんに気づいて
必死で後を追う私。


「春川さんっ」
「・・・・・・」
「ちょっと、あのっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 


事故が起こる少し前

なんで春川さんは立ち止まって
横断歩道の

そう

事故現場の方を見ていたのか。

それは。

それは。

 

「・・・まさか」

「・・・・・・」

「もしかして、わかってたんですか?」

「・・・・・・」


少しでも『触れれば』見える未来。

事故に合った人は、春川さんに触れた人。
混んでいた道。
駅の方へ歩く人もいれば、当然逆方向を目指して歩く人だっている。
競馬に関係のない人だってその中にはいるわけで。


触れたのは
事故にあう前。

春川さんとすれ違った人。
私とすれ違った、誰か。あれだけ混んでいればほんの少しでも触れる。
それで見た光景。
春川さんには
この後の出来事がわかってた。
わかっていたのに。


「春川さんっ」

「・・・なんだよ」

「だって、わかってたなら」「わかってたなら止められたって?

・・・・・・いいだろ。結局あの人無事だったんだから」

こちらを見ずに
少しうつむき加減のまま歩きながら、春川さんが言った。

春川さんがどこまで見えていたのかはわからない。

けれど。
「でも、もしもっと大変なことになってたら」
「・・・何を求めてるの?」
「・・・え?」


「俺に正義のヒーローを演じろって?」


「・・・別に、そういう事じゃ」
「みんな結局そう言いたいだけなんだよ。
綺麗事ばっかり。
『誰かを救えたなら』なんて

結局ほんとに救ってほしいのは


【自分自身】なんだ。


自分を美化させることで救いを求めてるだけ。
世の中ヒーローばっかりじゃねぇんだよ。

ヒーローだって悪者に勝てない時がある。

いつでもヒーローが正しいわけがない」
「・・・・・・」
「俺に何も求めんな。
ヒーローなんかより悪者の方がずっと楽」


一切振り向かずそれだけ言うと
春川さんは私を置いて
そのまま早々と駅の方へ行ってしまった。

 


この本の内容は以上です。


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