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答えのでないミステリー

 

 

 

子供は、いろんな疑問を抱く。だが、そのほとんどは解決されない。そして、大人になるにしたがって、次第に、疑問が減っていく。それはなぜか?おそらく、多くの人々が信じる“常識”という答えを得てしまうからだと私は思う。

 

 

 

素朴な疑問の一つに「地球はどんな形をしているのか?」ほとんどの人は、小学校の授業で地球の形は丸いと習っているから、地球の形を問われたら、「丸い」と答えるでしょう。同じように、「地球と太陽、どちらが動いているのか?」と問われれば、「地球」と答えるでしょう。でも、ほとんどの人は、“地球が丸いこと“、“地球が動いていること“を自分の目で確かめてはいないでしょう。

 

 

 

人は、とにかく答えが与えられれば、気分がよくなります。言い方を変えれば、疑問を持ち続けていると不愉快なので、気分を良くするために常識という”世間の答え“を信じるのです。だから、どんな答えであれ、不快感を取り除いてくれる常識という答えは歓迎されてしまうのです。ほとんどの人は、道徳的、倫理的、法的常識に安住して生きています。また、この常識は、多種多様な性格の人々の人間関係を円滑にして、集団形成に貢献しています。でも、常識という答えは、現実に役立ちますが、それは、やはり自己満足に過ぎないと思っています。

 


 

そこで、小説の話になりますが、推理小説であれば、与えられたデータをもとに推論していけば、答えにたどり着きます。たとえば、殺人事件では、刑事や探偵が、検視や聞き込み捜査を行い、入手した手がかりをもとに推理して、犯人をわりだしていきます。読者は、犯人が分かることによって、気分がよくなります。もし、どんなに推理しても犯人が特定できずにドラマが終結したならば、読者はいら立ちを感じるでしょう。だから、巷では、一件落着する推理小説がよく売れるのです。確かに、結論が出るドラマも面白いとは思うのですが、私が最も好きなのは、答えが出ないミステリーです。

 

 

 

私が構築したい小説は、特定できないものをひたすら追い求めるミステリードラマです。その中でも、エロスミステリー小説です。答えの出ない世界を構築できる作品の一つとして、ミステリー小説があるように思っています。私が小説を書き続けているのは、ミステリーが好きだからではないかと思っています。私のミステリー作品には、“答えらしきもの”はあっても、明確な答えはありません。前述したように、“自分の答え”は、単なる自己満足に過ぎない、という思いが心の底にあるからです。

 

 

 

 ミステリーの中でも、エロスミステリーは、歴史が古く、多くの作品があります。私のミステリー小説も、ほとんどがエロスミステリー作品です。夏目漱石の「こころ」谷崎潤一郎の「秘密」安部公房の「砂の女」三島由紀夫の「音楽」松本清張の「けものみち」大岡昇平の「事件」筒井康隆の「エロチック街道」村上春樹の「ノルウェイの森」などは、私が参考にした小説です。

 


 

自作の補足解説

 

 

 

⑩人形シリーズ「木彫り人形」では、完全犯罪の生命保険金殺人を取り上げました。私は、かつて生命保険会社に勤めていたときに、ふと思いついたアイデアをドラマ化しました。世界中に死に至る死亡事故は、数えきれないほどあります。その中で、殺人と認定され、犯人が検挙される殺人事件数は、ほんの一握りです。つまり、不慮の事故による死亡と思われるものの中にも、他殺が多々含まれているということです。

 

 

 

 主人公は、悩み相談事務所を構え、悩み相談業をやっている澤田健二と離婚を願うあまり、殺人ほう助をしてしまう安西かおり。かおりの夫は、会社倒産後再就職ができず、自暴自棄からアル中になり、お酒が入ると家庭内暴力を犯すまでになっていた。そのことでどうすれいいかわからなくなったかおりは、澤田の相談所にやってきた。澤田は、当初、アル中の夫の再就職による再起を促した。

 

 

 

だが、アル中の夫は、かおりの意見に対してさらに暴力を振るうようになり、かおりは傷害を負わされるまでになった。次第に、かおりは夫との離婚を考えるようになり、穏便に離婚できる方法を澤田に相談した。澤田は、離婚の決意を確認すると、幸運をもたらす木彫り人形にお願いすれば、必ず願いがかなうと言ってかおりを誘導し始めた。そして、かおりは、殺人ほう助と気が付きながら澤田の指示に従う。

 

 

 


 

澤田のアドバイスを受けてから半年後、かおりは澤田に指示された日に実家で外泊した。奇遇にも、外泊したその夜に火災が起き、焼死体となった夫が焼け跡から発見された。出火原因は、夫の寝たばこということで処理され、受取人となっていたかおりの口座に死亡保険金1億円が振り込まれた。この火災には、澤田の愛人で生保レディーの西川が関与していたが、近隣に住宅はなく、誰一人目撃者はいなかったため、彼女への捜査がなされることはなかった。

 

 

 

この完全犯罪に味をしめた澤田は、一年後、死亡保険金受取人になるためにかおりと結婚し、不審火による自宅の火災を引き起こした。そしてさらに、かおり、彼女の母親、子供二人の死亡保険金を手に入れた。大金を手に入れ、働く必要がなくなった澤田と西川は、ハネムーンを兼ねて世界一周旅行に旅立つ計画を立てた。そして、幸運をもたらした木彫り人形に感謝し、二人は澤田の別荘で一夜を過ごした。

 

 

 

翌日、二人は気晴らしに嬉野温泉に出かけることにしたが、デートには邪魔だと思い、木彫り人形を別荘に残して出かけた。助手席に西川を乗せ、ハンドルを握った澤田のベンツは、ヘアピンカーブの多い糸島峠、三瀬峠を軽快に突っ走り、無事佐賀大和インターに到着した。早速、佐賀大和インターから長崎自動車道に乗り上げ嬉野に向かったが、なぜか、武雄北方を過ぎてから突然、車のブレーキが利かなくなった。スピードを落とそうと何度もブレーキを踏んだが、スピードは増すばかりで、大きな悲鳴とともに、ベンツは時速150キロを超すスピードで前方を走るトラックの後部に追突した。そして、二人は即死した。

 

 

 

人は、一度は殺意を持ったことがあるのではなかろうか。でも、ほとんどの人は、殺意を実行に移すことはしない。たとえ、殺人を犯し、完全犯罪が成功したとしても、人を殺したという罪悪が、いつか、人に不幸をもたらすという不可解な現象を描いてみました。

 


 

⑪沢富刑事シリーズ「女優」では、売名行為のために二人の漫才師を自殺に見せかけて殺すという、女優、桂子の愛情を利用した完全犯罪を描きました。中洲芸能大学の学生、田柴と崎山は、日本一の漫才師を目指して、漫才の稽古に打ち込んでいたが、卒業漫才が不評で卒業できなかった。そこで、やむなく学費を稼ぐために、二人は奇妙なバイトを始めることになった。そのバイトとは、人間の内臓を取り出すという気持ち悪いバイトで、崎山はどうにかこなしていたが、田柴にとっては苦痛を伴うものだった。次第に、田柴の体調がおかしくなり、ついには、精神異常に陥ってしまった。

 

 

 

 田柴は、次第に自殺願望が芽生え、一緒に死のうと自殺を崎山に持ちかけるようになった。困り果てた崎山は、田柴の彼女桂子にこのことを相談すると、田柴の自殺願望の原因は自分にあるといって、桂子も自殺したいと言い張った。崎山は、田柴の自殺願望は桂子が原因ではないとひたすら説得したが、桂子の自殺の意思は変わらなかった。結局、すべての責任は、自分にあると思った崎山は、自分も自殺する決意をした。

 



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