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制定 婚姻法

婚姻法

第一項 女性は下着(主に下半身を覆う着衣、あるいはそれに類するもの)を婚姻法登録着衣として一品登録することができる。

第二項 女性は婚姻法第一項によって登録された下着を婚姻法第三項における『見せつけ』に使用することができる。

第三項 女性は『見せつけ』を宣言することで、宣言より二十四時間の間、特定の男性一名に対してあらゆる法規制の制限を受けずに登録済み下着を見せつけることができる。

第四項 男性は婚姻法第三項『見せつけ』によって登録済み下着を見せつけられた場合に限り、女性からの求婚を断る事ができなない。

 

 


 時は西暦二千百十一年。アテナス歴六十五年。そしてアテコス歴一年。どこまでも発展を続ける人類が作り出した、最後の発明がアテナスを代表とする超人工知能だとすれば、最高にして最も美しいもの。それは夜に煌めく宝石箱である大都市かもしれない。

 その大都市の一角を一人の男が駆け抜けて行った。

 男の名はカガミヨシヒコ。四十九歳。独身。通称ズレォ。

 なぜズレォか?

 それはややズレた奴だから。思考も時代認識も、行動だってどこかズレてる。だからズレ男。変化してズレォ。イケメンな分「男」がお洒落に「ォ」になった。

 今時希少な、というかズレた認識の結婚願望を持つ男。四十九歳にもなって、未だに生身の女性の手を握ったこともない。否。女性型アンドロイドの手を握ることもできない。顔立ちはスッキリしていて、女性受けは良い。だからといって簡単に願望を実現できる時代ではない。

 四十九歳といっても、今時、バイオテクノロジーとナノテクノロジーの融合で、百五十歳まで生きる人も珍しくはない。背を伸ばし、筋力を強化し、鼻を高くした絶倫の百五十歳に比べれば、四十九歳はウブな子供と同じだ。

 その四十九歳のズレォは後ろを振り返りつつ、必死に走っていた。途中、歩道の隙間から頭を出したモグラに足を引っかけ、そのまま車道に飛び出して派手に転んだ。

 交通監視センサーがそれを察知し、走行中の車を制御してくれたので事故になることはなかった。

 頭の上にバーチャル交通管制ドローンのピーポー君が笑顔を表示しながら飛んできて、ズレォの周りをブンブン飛び回った。

<お怪我はありませんか。ピーポー>

 耳の上に貼付けた受信モジュールに直接話しかけてくる。大きなお世話だし、とってつけたような笑顔が実に腹立たしい。

「ええい。鬱陶しい。あっちへ行け」

 蝿でも追い払うようにしてズレォは手を振る。もちろんそんな事で消える相手ではない。

<あなたは現在円滑な交通の障害となっています。速やかに移動しない場合は交通法第二千三百飛んで三番、十五項によって処罰されます。アテコスさん、オンライン簡易裁判の準備をお願いします>

<アテコス了解。おい、そこの小僧。とっととどかないと一発カマすぞ>

 冗談じゃない。小僧扱いされた上に、こんな所でコンピューター同士の簡易裁判なんか始められてはたまらない。判決が出るまで路上で待たなければいけないじゃないか。そもそも転んだのはモグラのせいだ。

「くそったれ。性悪コンピューターめ。先にモグラを裁け」

<公序良俗を乱す言動に減点一点>

「ああ。もう。悪かったよ。すぐどくってば」

 こんなところで警告など受けてしまっては、居場所がばれてしまう。今はもっと優先すべきことがある。

 ズレォは思わず首にかけたネックレスのような機械を握りしめた。ズレォのバーチャルと融合した視界に何かの命令コードが流れる。

<あれれれれれー? 被告消失>

 同時に、ピーポー君がふらふらとした動きに変わった。ネックレスは監視ブロッカーといい、強力な電磁波を発して一時的に位置センサーを混乱させることができた。この監視ブロッカーのお陰で、性格の悪い超人工知能が管理する超監視社会のこの時代でも、一瞬にして姿をくらますことができる。そしてカメラ画像の顔にはニコちゃんマークが表示され誰だか識別できなくなる。個人の特定ができないなんてありえない事に、ピーポー君が混乱している。

 ズレォはこの機を逃さずにまた駆け出した。去り際に捨て台詞。

「豚…野郎じゃないか。豚…。うーん。豚…」

 遠くに銀色の飛翔体が見えた。まずい。見つかった。

「ああ、こんなことしている場合じゃない」

 ズレォは慌てて駆け出した。

 いくつものネオンの下をくぐり抜け、一つのビルの前に辿り着いた。科学アカデミー。ズレォをこんな境遇に追い込んだ張本人がいる場所だ。

 かつて憲法は議会が制定していたが、今では六連人工知能ユニットからなる政府アシストコンピューターアテナスが制定している。アテナスは立法、司法、行政から交通整理までありとあらゆる管理を人間以上に正確に、かつ穏やかにやってのけた。そのアテナスを開発し、管理しているのが日本、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、そしてジンバブエの六カ国で運営する科学アカデミーである。つまり科学アカデミー長官こそが最高権力者ということになる。もっとも、人類の知能を遥かに凌駕してしまった人工知能が、たとえ最高権力者であっても一個人の頼みを聞く道理はもうない。

 そんな訳でこの時代を牛耳っているのは事実上人工知能のアテナスである。だが、人間だってたまには息抜きが必要なように、高度に複雑化した人工知能もまた、定期的なメンテナンスが必要となりその期間中を同等機能を持つ代理人工知能が受け持っている。それがアテコスである。

 このアテコス、機械のくせに実に性格が悪く、時折人が驚くような法改定をやってのける。今正しくズレォが直面している課題も気まぐれか、人類をいじめるためか、アテコスが制定した新法に依るものであった。

 婚姻法第三項。

 そしてこの婚姻法第三項をアテコスに入れ知恵したのが、長身の現科学アカデミー長官シオマキチヘイ、通称ノッポさんとの噂であった。

 ズレォは天を突くような高層ビルを見上げた。地上二千メートルの最上階にノッポさんはいるはずだ。そしてズレォは駆け抜けてきた街を振り返った。長い、長い一日だった。その長い一日に終止符を打つための一歩をズレォは踏み出し、そして、またしてもモグラの頭につま先を引っ掛けて躓いた。

 

 そもそものきっかけはズレォが新しい彗星を発見したことだった。ここ六十五年、新星の発見は全てアテナスの功績だった。二十四時間眠る事無く監視ができる機械に人間が敵う筈もない。アテナスは驚くほどのスピードで新星を発見し続け、管理番号からなる面白みのない名称を付与していった。そこにきてズレォの発見である。一大事で快挙だった。それもこれも新星発見などに全く興味を示さないアテコスが臨時政府アシストとなったお陰だ。なにしろアテコスは性格が悪い上に、人類を小突き回すことに忙しい。星なんか見ている暇はない。仕事を引き継いだ直後に仕方なく発見した新星だって、梅星だの、煮星だの冗談としか受け取れない名前で登録してしまっているし、宇宙からの電波分析だってうっちゃったままだ。だからアテコス歴になってからの天文学は、見事な程停滞している。

 一年前のそんな状況の中、国立天文台主任研究員のズレォが新星を発見したというニュースは、世界を驚かせ、そして人類の勇気を沸き立たせる出来事となった。だれもがアテコスに一泡吹かせたいと思っていたのだ。ズレォはたまたま月面望遠鏡シャラーンのデータチェックをしている時に、太陽系に向かって高速で移動する天体を発見したのだ。

 ズレォはすぐさま同僚であるコマガタアイコ、通称コマコにそのことを告げた。コマコはいつでも夢の中をふわふわ旅しているみたいな若い女性研究員だ。いつもは銀河と自分が融合するような壮大な夢を見ていたが、このときばかりは違った。コマコはズレォが当然持っている彗星の命名権を一時保留にするように進言した。コマコが言うには、どの彗星も慌てて命名したために人の名前が付けられてしまうという恐ろしくナンセンスというか、ナンロマンチックな名前になっている。星の名前というのはもっとロマンチックでなければならない。だから間違っても『ズレォ彗星』などと名付けてはいけない。アテコスよりひどい。一旦命名を保留し、一年くらいかけてゆっくり名前を検討すべきだし、その検討に自分も微力ながら力添えできると言うのだ。新発見に興奮し切っていてすっかり判断力がなくなっていたズレォはうっかりその意見に同意してしまった。ズレォはまさか同僚のコマコがいつになく目をぎらつかせながら、『ズレォ彗星』を『コマコ彗星』にしようと企んでいるとは思いもしなかった。

 そしてその彗星は『ズレォ彗星』にも『コマコ彗星』にもならないままもうすぐ地球の側を駆け抜けようとしている。そんな折に名前がついていないのは問題となるため、いよいよ彗星の名前を決めようということになった。時間はもうあまりない。彗星はすぐそこまでやってきている。この一年でズレォの生活は大きく変わった。それが更に変わろうとしていた。つまり逃亡生活が始まったのだ。

 帰宅すると家の中が荒らされていた。

「なんだこれは。おいアテコス。誰が俺の部屋を荒らしたのか教えてくれ」

 あらゆるセンサー情報を管理しているアテコスにすれば、捜査権を執行することで簡単に侵入者特定をすることができるし、こうやって一個人の頼みだって瞬時に解決できる性能がある。あるのだが、アテコスの答えは、

<知らん>

 の一言だった。要するに興味がないことに首を突っ込まないのがアテコスなのだ。人工知能のくせに。

「おい、知らんはないだろう。それでも警察か」

<私は警察じゃない。警察の連中なら署内の会議室で年金を賭けてポーカーをやりながら鼻くそをほじくってる>

「そんなことはどうでもいい。早く犯人を捕まえてくれ」

<それなら犯人と直接話し合ってくれ。私は忙しい。ふわぁ〜>

 欠伸まで人間の真似をしなくても良さそうなものだが、ズレォが憤慨していると、唐突にクローゼットの扉が開いて、隙間から巨大な足が飛び出してきた。赤、白ストライプの派手なズボンに包まれたその足は、しばらく踊っているかのように足場を探して右左に動くと、ようやく床を見つけて落ち着いた。それから扉が大きく開き、洋服の影から大きな身体の金髪もじゃもじゃ頭が時代物の銃を片手に転がり出てきた。そいつの格好がまたえらく派手でまるで歩く星条旗だ。が、すぐにバランスを崩して床に転がった。

 ズレォが大丈夫かと声をかけるかどうか迷っていると、男は壁やクローゼットの手助けで漸く立ち上がり、ズレォにウィスキーの瓶を突きつけた。

「動くな」

 ズレォが呆然と見ていると、歩く星条旗は突き出したものがウィスキーの瓶だと気がつき、一旦蓋を開けて一口呷った。

「うぃぃ。やっぱりバーボンは最高だ。だろ? へっへっへ」

 そう言って今度は反対の手に持った銃をズレォに向けた。

「今度こそ動くな。おい、俺を見くびるなよ」

 何が「へっへっへ」なのか分からないし、見くびってもいないが、ふらつきながら言う脅しの言葉はどこか迫力がない。

「おい、動くなって言ってるんだ」

 ふらつく歩く星条旗にズレォは言った。

「いや、動いてるのはあんたの方だよ」

「やかましい」

「一体誰だお前は。ピザ屋か?」

「私は、ジャック…。いやいや。名前を聞き出そうたってそうはいかないぞ。俺はプロの…あれだからな。えーと。あれだ。世界で活躍するあれ。ほら何と言ったっけ。そうだ、ボンド。ボンドだよ。ジェームズ・ボンド」

 こいつ頭が腐っているのか? 「ジャック」とまで言っておいて「ジェームズ・ボンド」はないだろう。まあ「ジャクソン・ファイブ」でも「ジャッキー・チェン」でもいいのだが。何れにしても背広の柄を見ればどこの国の人間か馬鹿でも分かる。こいつの背広は完全に星条旗をモチーフにしている。とても人の家に忍び込む時の服装ではない。それでいて「ジェームズ・ボンド」とは恐れ入った。

「お前のことは全部調べてあるんだ。お前はヅラ男と呼ばれているだろう。知ってるぞ」

「大きなお世話だ。それにヅラじゃないズレだ」

「ふっふっふ。お前の持つ、彗星の命名権を渡してもらおうか。さあ、よこせ」

 歩く星条旗がアルコール臭い息を吐きながら迫ってきた。

「優しく言っているうちが花だぞ」

 といってふらつき本棚に勢いよく頭をぶつけた。確かに本気で暴れられたら大変そうだ。

「あんたスパイか何かなのか?」

「そうだ、それ。スパイ。さっきからそう言おうとして思い出せなかった。ああすっきりした」

 何がスパイだ。星条旗のシルクハットまで被っておいて。スパイというより、これから田舎のカーニバルで舞台にあがる百姓みたいだ。

「待てよ。よくわからない。どうしてアメリカの百姓…いや、スパイが命名権を奪うんだ。それに部屋を荒らすのも意味が分からない。命名権は物じゃないし、そんな必要ないだろう」

「アメリカなんて一言も言ってないぞ」

 と歩く星条旗は言ってから、自分の姿を見返した。

「いや、これはだな。その、母ちゃんが出かけるなら一番いい背広を着ていけって聞かないからさ」

「分かった。分かった。それより何で部屋を荒らした。僕はアンドロイド持ってないから、自分で掃除するのは大変なんだぞ」

「そうか、お前も持ってないのか。俺もだよ。高いもんなあ。アンドロイド。地方公務員の給料じゃ買えやしない。まったく嫌な世の中だよ。来る途中、犬にオシッコをかけられるし。おい、オシッコだぞ。信じられるか。アメリカ国旗にオシッコだ。そうだ、オシッコがしたくなってきたぞ」

 むちゃくちゃだ。こんなピザ屋かスパイか区別が付かないようなやつを送り込んでくるようでは、アメリカが衰退するのも無理はない。

「おい、アテコス。何とかしてくれ。俺はいかれぽんちに今脅されている」

<そういうのは警察に頼んでくれ。私は今交通整理で忙しい。荷物配送だって私の仕事だ。人間は何でもかんでも私に押し付ける。たまには自分たちで解決したらどうだ。ああ、そうだ。それがいい。この件に関しては私は一切関知しない。その方が人類のためにもなるだろう>

「何考えているんだ。そんなのおかしいだろ。交通整理じゃなくて、こういうトラブルを未然に防ぐ方が大事だろう」

「ははは。見ろ。天は俺の味方だ。さあ命名権をよこせ」

「天じゃない。くそったれな人工知能だ」

<オンライン裁判結果を伝える。公序良俗に反する言動および反政府的言動、そして侮辱罪で減点一ポイント。おまけにペットの躾義務違反も付けちゃう>

「ああ、もう。犬は僕のせいじゃない。しかし何でそんなものが欲しいんだ。理解できない」

 歩く星条旗はソファーにどっかと腰を下ろすと、ウィスキーの瓶から直接ラッパ飲みを始めた。

「うぃぃ。畜生。こんな仕事押し付けやがって。いいか、これは内緒の話だ。こんなことが世間に知られたら大変だからな」

 内緒もなにも、アテコスが全部記録している。今時日本にプライバシーなんてありゃしない。

「世界政府アシストのくせにアテコスはアメリカにあまり関与してくれない。だから発展が遅れている。人の流出も続いている。俺はアメリカが好きなんだ。もっと発展して欲しいんだ。にもかかわらず、ポンコツ野郎は俺たちを無視してやがる。お高くとまりやがって。無視をするのは頭が悪い証拠だ」

 歩く星条旗はぐびぐびと喉を鳴らしながらウィスキーを飲む。しかもアテコスが監視しているにも関らず、平然とアテコスをののしり続けている。始末におえない酔っぱらいの見本というところだ。

 アメリカが発展途上国にランクダウンしたのはアテコスのせいじゃない。七十年程前に、先走った人工知能開発競争で中国の人工知能と第一次AI戦争を始めたものだから、両国の全てのコンピューターが強力なウィルスで破壊されてしまった結果だ。以来細々と人工知能開発を続けていた日本、イギリス、フランス、ドイツ、ロシアの五カ国が優位に立ち、そこへ彗星のごとく現れたジンバブエの天才科学者、ハンス・エミンストン教授の提言によってアテナスが開発され、今の世界政府アシストコンピューターという構図ができあがった。アテナスが六連ユニットで構成されるのは、各国がそれぞれの国の賢人をモチーフにして開発を行い、それをお互いが補い合う方式が採用されたためだ。

「だったらアテコスに文句を言えばいいじゃないか。俺には関係ない。僕は明日のインタビューの準備で忙しいんだ。それに掃除もしないといけないし。ああ、ルンバス2111買っておけばよかった」

「言ったさ。だが取り合ってくれない。お前だってけんもほろろに扱われたじゃないか。そういう意味では俺たちは同胞みたいなものだ」

「その同胞がどうして銃を突きつけて命名権を欲しがるだよ」

 歩く星条旗はぐびぐびと喉を鳴らしながらもう半分以上ウィスキーを飲んでしまっている。こういう状況でなければ止めるところだ。だがこのまま酔いつぶれてくれればしめたものだ。

「彗星に俺たちアメリカ人の名前がつけば、人々は再びアメリカに注目する。いいか、お前。見捨てられた国がどんなに惨めな暮らしをしているか知っているか…ウィッ」

 どうやら酔いが回り始めたらしい。このまま惨めな暮らしの話をさせておけば、きっと酔いつぶれるに違いない。ズレォは話の先を促した。

「いいか。アテコスの奴はな。金持ちばかり優遇しているんだ。人類全体の利益とかなんとか言っておきながら、実際は鼻持ちならない金持ち野郎どもの相手ばかりしている。だからお前だって相手にされないんだ。違うか」

「違う」

 と言いたいところだが、全く以て正しい。アテコスは非常に性格が悪いしえこひいきをする。あまりに正しい指摘に、思わずズレォは頷いてしまった。

「俺たちはアテコスの無能でひどい性格のせいで孤立してしまったんだ。おい、お前。お前も今日から同士だ。飲め」

 歩く星条旗がウィスキーの瓶を手に迫ってきた。なんだか銃を突きつけている時よりも迫力がある。

「そうだ。俺たちのエリアに昔から伝わる伝統的な歌を教えてやろう。

 あるぅ日〜♪

 森の中〜♪」

 歩く星条旗は瓶を片手に歌い始めたが、一気に酔いが回って再びソファーに倒れ込んだ。

 チャンスとばかりに、ズレォはそっと玄関に向かって移動を始めた。もう瓶の中は殆ど残っていなかった。やつが倒れるのも時間の問題だろう。

 ところが、ズレォは玄関につながる廊下に足を踏み出した途端に、足元にあったブリキのバケツを蹴飛ばしてしまった。どうしてブリキのバケツなんか家にあるんだ。

<あ、片付け忘れた>

 とアテコス。

「お前の仕業か!」

 心地よい睡魔に引き込まれつつあった歩く星条旗がムックと起きあがる。

「おい、逃げるな。蜂の巣にするぞ」

 言うが早いか男がウィスキーの瓶を向ける。銃じゃないとわかるとようやく銃を持ち直して発砲した。弾は大きく逸れ、というか全く見当違いの方向に飛び、キッチンのコップを吹き飛ばした。その結果を見て、歩く星条旗はまるでおかしな物でも見るような目で銃を眺める。

 その隙をみてズレォは玄関から表に飛び出した。

「待て。ヅラ野郎」

 再び発砲音。何かが割れる音。頭を何かにぶつける音。続いてブリキのバケツに蹴躓き倒れる音。聞くに堪えない悪態。

 なにはともあれ、逃げるか勝ちだ。ズレォは道路に飛び出すとタクシーを止めようと手を挙げた。すぐにタクシーがつんのめるようにして止まり、扉が開く。ズレォが言葉を発するより早く中から手が伸びてきて、ズレォの胸ぐらを掴むと、ズレォを一気に車内に引きづり込んだ。

「うわあ。なんて乱暴なタクシーだ」

 ズレォが起き上がるより早く車が発車する。すぐにさっきの乱暴な手がズレォを引き起こし、ドアに押し付けた。

「あたしが誰だかわかる?」

 ズレォの隣には絶世の美女が座り、伸ばした手がズレォの首を鷲掴みにしてドアに押し付けている。

「タクシーの運ちゃん」

「違うわよ。見て分からないの?」

「うーん。じゃあ、サーカスの動物使い」

「あんた、馬鹿なの?」

 ここへきてようやくズレォにもこれがタクシーなんかではなかったことが分かる。

「誰? アメリカ人じゃなさそう」

 それにしても凄い力だ。ということは、この絶世の美女も遺伝子工学の賜物か、あるいは生身に見えるアンドロイドか。

「あたしはアサヒ。あんた彗星を発見したカガミズレォでしょ。ニュースで見たわよ」

「ちがう。カガミヨシヒコだ。もしくはズレォ。あんたも命名権が欲しいのか。ああ、もう面倒だ。そんなに欲しけりゃくれてやるよ」

 アサヒは妖艶な笑みを浮かべてズレォを舐め回すように眺めた。

「思った通り。ふふふ」

 粘つくような視線に、ズレォは肝が冷える。この女の狙いは命名権じゃあない。もっと別な何か。例えば、そう、この俺とか。

 ズレォはその考えを振り払うように首を振る。そんなことありえない。この現代に異性を欲する人間がいるはずがない。結婚は数十年前から事実上行われなくなり、恋愛はいつしか個人の欲求をあらゆる形で満たしてくれる、アンドロイドへと移り変わった。面倒な生身の人間同士付き合う事など最早考えられない。面倒な上に痛みを伴うのだから。

 だが、この目の前の女は、明らかに何かを欲する目をしている。ストイックで過激な何か。欲望という言葉だけでは割り切れない発散するエネルギーのようなもの。

「ねえ」

 首を掴んでいたアサヒの手がすっと外れた。

「何…いえ、何ですか」

「あたしが怖いの?」

 怖いか? 怖いさ。今の今まで万力のような力で首を鷲掴みにされていたのだから。それに燃え立つようなその目。瞳の奥にあるのはラディカルな欲望。さっきの歩く星条旗と共通するものがある。

「でも、あたしはあんたを助けてあげた。あそこにいればあんた撃ち殺されていた」

 あの酔っぱらった歩く星条旗がまともに狙いを付けられたか怪しいものだが、万が一ということはある。危険であったことは確かだ。だからといって恩を売るような言いぶりには素直に頷けない。

「助けるつもりがあるなら、最寄りのバス停で下ろしてもらえないかな」

「あら、あなた降りられると思ってるの?」

 アサヒがまた妖艶な視線を向ける。

「このゲームから」

 そして高笑いが続いた。

 ズレォはろくでもないトラブルに巻き込まれてうんざりし始めていた。そもそも彗星なんか発見しなければよかった。アテコスさえちゃんと仕事をしていれば、こんな目には遭わなかったに違いない。そうだ全てアテコスのせいだ。

 ズレォが全ての責任をアテコスに押しやっていると車が止った。もしかしたら隙を見て逃げられるかもしれない。

 だがその考えが甘かったことはすぐに分かった。三つの扉が開くと同時に、アサヒが三人乗り込んできた。全員同じ顔をしている。

「なんだお前ら」

「あたしたちアサヒーズよ。よろしく。坊や」

 三人そろって応える。

「この子たちは私の分身。魂を分け合っているの」

「分霊箱でも持っているのか?」

「何それ? この子たちは私の脳の一部を持っている。だから単なるアンドロイドじゃない。れっきとしたアサヒなのよ。四人でひとり。でも能力は四倍以上。どう、凄いでしょ。バイオパーツも使ってるから肌もすべすべよ。ほら触ってみなさいよ」

 脳が欠けてるって? どうりで行動が浅はかな訳だ。要するに動物に拉致されたようなものじゃないか。これじゃあ命がいくつあっても足りやしない。何とか逃げ出さなければ。

「彗星なら丸ごとやるから解放してくれ」

「彗星なんかいらないわよ。わたしたちが欲しいのは」

 四人はそろってにやりと笑う。全員お歯黒をしているので四つの黒い笑みは、まるで四方から迫るギロチンの歯のようだ。アサヒーズはズレォに指を突きつけた。

「あんたよ」

 そして同時にズレォに襲いかかった。

「あたしが最初よ」

「何を言ってるのよ。あたしが見つけたんじゃない」

 二人のアサヒがズレォの唇を巡って喧嘩を始める。その隙を突いて別のアサヒがズレォのズボンを下げにかかる。

「キャー。この人下着は赤よ。男らしいー」

「止めろ変態」

 別のアサヒは靴を脱がしにかかる。こいつは足フェチか。

 狭い車内で五人がもみ合っていると、車が急停止し、全員がフロントガラスに頭をぶつけた。車の前に一人の女性が両手を広げて行く手を阻んでいた。

「止りなさい」

「あ、ユウコ」

「いい加減にしなさい。おばあちゃん」

 おばあちゃん?

 ズレォは四人のアサヒたちを代わる代わる見る。どのアサヒも見た目だけは二十代だ。

 ユウコは車のドアを開けると見た目が全く同じ四人のうちから、迷い無く一人を選び出すと車外に引っ張り出した。

「もう、恥ずかしいから止めて。おばあちゃんがそういう事すると、ひ孫の私たちが恥ずかしい思いをするの。わかるでしょ。もういい歳なんだから、いい加減大人になって」

 ひ孫だって? 一体いくつのばばあに唇を奪われそうになっていたんだ。ズレォは背中を汗が伝うのを感じた。

「恋愛に年齢は関係ないでしょ。百五十歳が恋愛しちゃいけないっての?」

「今時人間に恋愛感情を持つ人なんかいないのよ。それは恥ずかしいことなの」

 アサヒが言う。

「恋の無い人生なんて、無いのと一緒」

「それを言うなら冒険でしょ」

 別のアサヒが拾う。

「全てのルールに従っていたら、あたしはどこにも行けないわ」

「開き直るんじゃないの」

「人生の果実は、撒いた種の通りになるものよ。さあ種を」

 アサヒがズレォのズボンに手をかける。

 同時にユウコがハリセンで頭をはたく。どこからハリセンを持ち出したのだろう?

「人間だもの」

「お前はアンドロイドだろうが」

 ユウコはアサヒーズを横一列に並べるとくどくどと説教を始めた。四人それぞれが他所を向いたり、鼻をほじったり。まるで改心しない不良学生だ。

 だが、ズレォにしてみればこんなチャンスはまたとない。説教が続いているうちに逃げるが勝ちだ。車の影になるようにしてそっとその場から離れた。これで歩く星条旗と怪しいアサヒーズから何とか逃れた。家は危ないので取りあえず職場に避難しよう。ズレォはタクシーを拾おうとして止めた。またアサヒーズみたいなのが来たら困る。と偶然人力車が通りかかった。ズレォは人力車で国立天文台に向かった。

 ズレォが姿をくらましたことを最初に気がついたのは、脳細胞が一番少なく、ほぼ全身機械のアサヒ、面倒だからアサヒ三号と呼ばせてもらう、だった。アサヒ三号は即座に生身のアサヒにそれを伝えた。

 途端にアサヒの目が怒りの炎で燃え盛った。

「あの野郎。ただじゃ済まさないからね。おい、お前達。アレを使うよ。用意しな。アンドロ…」

「おばあちゃん!」

 


 国立天文台の手前でズレォは人力車を降りた。そう言えば食事を全くしていないということに気がついたのだ。レストランで食事をしてから職場に行っても問題はないだろう。レストランからは目と鼻の先だし歩いてでも行ける。

 食事を終えてからのんびり国立天文台までの上り坂を歩いていると、秘匿回線で電話が入った。友人のイシカワヤスノリ、通称ゴエモンからだった。

 ゴエモンは子供の頃からの友人で、侍に憧れていた。明治の時代に廃止となった侍だったが、現在は宮中護衛隊という形で復活している。理由は陛下が侍好きというそれだけの理由だ。だが、この気まぐれのお陰でゴエモンは紛れも無い侍になることができたのだ。それがよほど嬉しいのか、時折刀の自慢をかねて連絡を入れてくる事がある。

 今回もどうせ自慢だろうと脳内回線を開くと、目の前に掌サイズのゴエモンが現れた。

「やあ、ゴエモン風呂じゃないか」

「風呂を付けるのは止めろ。それより」

 ゴエモンはまるで渋柿を十個まとめて食べたかの様な渋面を作った。

「おい、お前いま何かトラブルに巻き込まれていないか?」

 どうやらゴエモンにも事態が伝わっているらしい。さすが宮中護衛隊だ。

「まったくひどい目にあった。酔っぱらった歩く星条旗にアサヒーズだもんな」

「アサヒーズ? 何の事だ。それより最近コマコに何したんだ。あいつ今血相変えてお前を探しているぞ」

「コマコが?」

 最近の事を思い返してみる。思い当たる節はない。いや、あった。彗星だ。そのことをゴエモンに伝えた。

「それでか。あいつ天文台の前でお前を待ち構えているぞ。どこから調達してきたのか、戦闘アンドロイドまで引き連れている。常々抜刀術を自負してきたが、ありゃ俺でも手が出ない。気をつけたほうがいいぞ」

 天文台の正門まで来ていたズレォはすっかり足が止っていた。物陰から正面玄関を覗くと、銀色に輝く武装したアンドロイド兵器、戦闘アンドロイドが監視をしていた。あんなのに襲われたら蜂の巣どころか肉片も残らない。視界に通信記録を出すと、コマコからたくさんのビデオメールが届いていた。どれも彗星について大変なことになっているから話をしたい、という内容だったが、あれを見て穏やかな話し合いができるとは到底思えない。どうして彗星の命名権くらいでそこまで過激になるのか理解できないが、今は顔を出さない方が得策だ。ズレォは踵を返して坂を下り始めた。それにしても今夜はどこで寝ればいいのだろう。

 

 椅子に深く身を預けると、ノッポさんはため息をついた。地上二千メートル、科学アカデミー最上階から見渡す東京湾は霞がかかり、それが陽光を受けて美しく輝いている。なのに心は晴れない。

「こうなることは始めから解っていたのだろう。アテコス」

<さあ、何のことやら解りませぬな>

「タヌキめ」

 ノッポさんはすっかり白くなった髪を後ろに撫で付けながらどうすべきかを考えていた。

 そもそも人工知能が彗星の発見で人間に遅れを取る事自体疑うべきだったのだ。そんな可能性万に一つだってありはしないのだから。人間に対して姑息な策を労するなんて機械のすることじゃない。とはいえ、知能で言えばアテコスは人間の百億倍だ。全人類が束になっても最早敵わない。奴にしてみれば策を労した訳ではなく、単純に最短距離を取っただけなのかもしれない。その先にどのような未来が待っているのか全く想像もできないが。なまじっか性格の悪さが目立つだけに未来を想像することは憚られるように思えた。ノッポさんはただただ、早くアテナスのメンテナンス期間がおわらないかなあ、と切望していた。

 国立天文台から驚くべき報告を受けたのはつい今しがただった。報告してきたのは彗星を発見したズレォの同僚であるコマコである。

 なんでもコマコの報告によれば、彗星だと思っていた飛翔体は宇宙船だったというのだ。その宇宙船が今猛スピードで地球を目指している。月面シャラーン天体望遠鏡で再確認したところ、飛翔体は今まで被っていた、氷と塵の表面という化けの皮をかなぐり捨て、チタン、タングステン、ケイ素、塩と胡椒からなる高硬度金属でできたボディを表出させた。最早彗星でも何でも無い。さらに光学望遠鏡で撮影すると、窓からはコックピットで両足をダッシュボードの上に投げ出した実にリラックスした光景まで見て取れた。

「ツィートしちゃうぞ」

 いや、そんなことしている場合じゃない。どうするのだ。どうすればいいのだ。つまりこれって、地球侵略じゃね? あれって敵情視察にきた斥候じゃねーの?

 プレアデス星団のアルキオネが爆発前の膨張を始めたのは随分と前から観測されている。もしプレアデス星団に噂通り文明があるとすれば、彼らは次の移住地を探す必要がある。そして宇宙中にじゃんじゃか電波をまき散らし、俺ここにいます的なアピールをしている地球は、進んだ文明から見れば玄関扉もない竪穴式住居を襲うに等しいだろう。そんな時に頼りになるのは当然人工知能。人類の百億倍の英知。のはずなのに、アテコスときたら興味がないというばかりで、宇宙船の調査を全くしようとしない。彗星発見者であり、知識人の一人でもあるズレォがいないため、コマコが報告を上げてきたのだが、多くの情報にズレォのセキュリティガードがかかっているため、コマコも詳しいことを語る事ができない。緊急でズレォを探しているのだが、どういった訳か居場所が判明しないのだ。

 そもそも、宇宙船だということは、アテコスには直ぐ分かる筈だ。ありとあらゆる情報を管理しているのだから、分からない方がおかしい。ということは、アテコスには何か考えがあるのだ。アテコスは彼らを受け入れるつもりなのかもしれない。食べて糞して寝るだけの人類を見限って、新たなる知性体と手を結ぶつもりなのだ。そうなると我々はどうなるのだろう。食われるのか? いや、そんなお子様ヒーロー映画の悪役みたない知性体がいる筈が無い。じゃあ、奴隷か。首に縄付けられて、裸でブイブイひっぱり回されるのか?

「そんなの、いややああああ」

 ノッポさんは髪をかきむしった。もはや科学アカデミー長官の威厳はどこにもない。

「頼む。私だけでも助けてくれ」

<助けるとは?>

「死にたくない。奴隷にもなりたくない」

<死なないでしょ。それに奴隷になんてなりませんよ>

「本当に?」

<本当に>

「私を特別待遇してくれる?」

<もちろん。あなたを特別待遇しましょう。人類で一番の特別待遇です>

「そうか。一番か。でも本当かな。命賭ける?」

<命? 賭けますよ、もちろん。フフッ>

 ノッポさんは安堵のため息をついた。取りあえずこれで自分だけは助かる。いや、別にこれは私が命を惜しんで取引したわけではない。先ずは人類の代表が彼らと同列で話をできる立場にならないといけないのだ。そうだ。その通りだ。私は自ら進んでその役を引き受けたのだ。えらいぞ私。

 と我が身の安全だけは確保したものの、このまま放っておけばいずれ全世界が大騒ぎになる。いやでも数時間後には彗星だったはずのものが宇宙船として地球にやってきてしまう。パニックを起こさないようにしてこの事実を公表するにはどうすればいいのか。こういう時こそアテコスの出番なのに、そのことを尋ねると聞こえない振りをするのだ。アテコスに言わせれば、人類は甘やかされすぎたのだそうだ。

 やむなくノッポさんは緊急議会を招集し、その事実を話し合うことにしたのだが、いまだ国立天文台のズレォが捕まらない。どういうわけか行方知れずになっている。もしかしたら先に潜入しているプレアデス星人に襲われたりすることもあろうかと、自衛隊から戦闘アンドロイドを護衛に派遣してあるが、依然ズレォは見つかっていない。国立天文台近くのレストランで食事したところまでは行動が特定できているのだが、その後は全くの行方知れずだった。

「あいつがいなのでは議会を開いても話にならんじゃないか。さて、どうしたものか」

 アテコスが尋ねる。

<コマコさんを呼びますか?>

「あのふわふわ女に何ができるとも思わないが、いないよりはましか。呼んでくれ。ついでにズレォの緊急手配もしておいてくれ」

<緊急手配ですね?>

「ああ、そうだ」

 と言ったノッポさんの気持ちはもう議会でどう主導権を握るかに移っていた。アテコスが『緊急手配』を小さな声で『指名手配』に言い換えたことなど、全く聞こえていないままノッポさんは返事をしていた。

<分かりました。緊急手配…ボソボソ…します>

 

 そのズレォはゴエモンの忠告に従って、一切の通信回路を切って秋葉原の電気街に来ていた。秋葉原電気街は商店街が結託して妨害電波を出している地域だ。政府の個人ログ収集に反発して電気街ビルの中は行動ログが全く取れない。そしてここでは金を払えばあらゆる物が手に入る。個人商店が立ち並び、細々とした電気パーツから細々としたスパイ虫まで。もちろん怪しいウィルスソフトだって手に入るし、脱法アンドロイドパーツだってお手の物だ。

 そんな中で、イスラエル人経営者の怪しさ満点な店舗でズレォは監視ブロッカーを買おうとしていた。監視ブロッカーは妨害電波を出すことで、町中に設置されているあらゆるセンサー機能を無効にできる、らしい。ズレォはちゃんと動くなら彗星命名権と取り替えてもよいと思い始めていたが、目の前でにやつく店主の顔を見ていると、どうも決意が鈍る。それでもこれしか手が無いのだと勇気を振り絞り交渉を再開した。

「ねえ、お願いしますよ。あなたの名前が彗星に付くんですよ。あなたのお名前は何でしたっけ? ヤーハナゴッタジュルゲルゴコウナスリキレ…長いなあ…彗星なんて素晴らしいじゃないですか。千年に一度やって来るんですよ。ヤーハナゴッタ寿限無彗星が。どうです素敵でしょう」

 口髭を蓄えた店主は得意そうに笑うとズレォの前に置いた監視ブロッカーを手前に引いた。

「彗星に私の名前ですか。魅力的ですね。でも、千年に一度じゃねえ。私はもう生きていない」

「そんなことないですよ。全身アンドロイド化すれば夢ではないし、完全意識に意識融合してしまえば、ネット空間は寿命などないし、それに…」

 店主がぐいっと身を乗り出してきた。店主の顔の横にバーチャルの画面が開く。そこにはズレォの顔が大きく表示されていた。『WANTED』の文字と一緒に。罪状はペットの躾義務違反と書かれている。

「ワン? ワン。ワンテッドぉ? これ、指名手配書じゃないか」

「そうですよ。あなた指名手配犯ね。私が通報すればあなたは逮捕される。そんなあなたがこれを」

 店主が監視ブロッカーを掲げてみせた。

「買いにきたということは、どういうことなんでしょうね」

「えん罪だ。僕はペットなんか飼ってない。おい、アテコス。あ、回線切れてるんだっけ」

「見た感じ、悪い人には見えないし、慈悲の手を差し伸べて差し上げてもよいのですが」

 ズレォは情けない顔をしながら両手を目の前で合わせた。

「お願いしますよ。この通り」

「私にも生活がありますからねえ。あまり大きなリスクは負いたくない訳でして」

 店主の顔に嫌らしい笑みが広がっていく。

 くそ、足元を見ていやがる。ズレォが預金残高を計算していると、ニヤけた店主の顔がみるみる曇っていく。そしてきつい目で隣の店の店主を睨みつけた。

 店主にしてみれば、ズレォが罪人だろうがなんだろうが、どうでもいい話だった。ようはどう話を持っていけば一番高値で売れるかそこだけがポイントだった。あとはズレォが勝手にハードルを上げて妥協点を見出すのを待っていればいい。その間に店主はチャットを覗いていたのだが、そこに隣の店主が入り込んできたのだ。

 地球に猛スピードで接近している宇宙船の画像をバックグランドに、チャットの文字が踊る。画像の宇宙船では、コックピットの機械にプレアデス星人が両足を投げ出している。誰かが画像をばらまいたのだ。

ーこいつらリラックスし過ぎWwww

ーあれが正しい操縦法なんじゃないの?

ー映像上司に送ったれ…

 もちろんズレォは回線を遮断しているからやり取りには気がつかない。

 店主がそろそろ吹っかけようと口を開きかけたとき、気になるメッセージ。

ー新市場開拓。夢はプレアデスにあり

ーこいつらと商売できるんかな。ノッポさんにアポ取りに行こっとWww

 店主の顔色が変わる。隣の店の親父がにやにやとこちらを見ている。どうやらこの書き込みは話を聞いていた隣からのようだ。

ー俺、イスラエル空軍にコネある。最初の接触は空軍だもんね。

 これは店主の書き込み。

ーこちとら電気街ネットワークの理事だい。なめんな。

 これは隣。どうにも意地の張り合いが始まってしまい、二人は火花を散らし始めた。見れば店主の手元がお留守。ズレォは一瞬躊躇したが、この機会を逃したらビルを出た途端に警察に捕まるだろう。いや、もしかしたらあの執念深いアサヒに捕まることだってあり得る。

 ちょっと想像してみる。アサヒに捕まること。それは老婆のペットに成り下がるということ。裸で鎖に繋がれた自分の姿。そして老婆との…。次々に脳裏に浮かぶ恐ろしいイメージ。耐えられる訳が無い。気がつけばズレォは監視ブロッカーを手で握りしめていた。もう後には引けない。二人が睨み合っている隙にそれを手元に隠すと、さりげない動作で店を後にした。トイレでネックレスタイプの監視ブロッカーを装着すればもう完璧。ズレォの存在はあらゆるネットワークから消えてしまう。つまりさっきの店主ですらズレォを見つけることはできない。もちろん二度とズレォがネットのニュースを見る事もない。

 安心して電気街ビルを出たズレォだったが、タクシーを捕まえる前に別のものに捕まった。

「見つけた。あそこだ」

 声の方を振り向くとアサヒがズレォを指差しながら仲間を呼んでいた。

「何故?」

 冗談じゃない。肉眼で探されたら監視ブロッカーなんてまるで意味がない。慌てて駆け出すが、前方にもアサヒがいた。どうやら手分けして探していたらしい。

「どうして居場所が分かった?」

「恋する乙女の嗅覚よ。決して逃がしはしない」

「乙女というより犬だよ」

「それより上を見てご覧」

 ズレォが頭上を見上げると、バスケットボール大の金属球が数メートル上を漂っていた。全体がつややかな銀色で、街の灯を反射してきらきら輝いている。手作りなのか完全な球ではなく、微妙に縦横が歪んでいるため見ていて頭がくらくらした。

「それがなんだか分かる?」

「空飛ぶスイカ」

 アサヒは不敵な笑みを浮かべた。そして人差し指を空に向かって突き立てると、そのままゆっくりとズレォに向け直した。

「宣言する。婚姻法第三項。アテコスリ。記録しな」

<私は『アテコス』です。まあ、大目に見ましょう。大事な用件があるようですから。婚姻法第三項宣言を受け付けました。本日午後十一時五分より明日午後十一時四分までの間に、見せつけの許可を与えます>

 ズレォは血の気が引いて行くのを感じた。アサヒが狙っていたのはこれだったのだ。恋する老婆。見かけだけはバイオテクノロジーで二十歳に見えるが、その実年齢は百五十歳。冗談じゃない。百五十歳の老婆と結婚なんてできるわけない。確かに、彗星発見の時のインタビューで、人間の女性に興味があると言った覚えはある。人間同士結婚するのも悪くはないと考えていた。しかし、こちらにも相手を選ぶ権利があるはず。それを剥奪するのが婚姻法第三項。アテコスが面白半分に議会を通してしまった世紀の悪法だ。婚姻法第三項を宣言した女性は、これから二十四時間以内に自らの下着を相手に見せれば、相手の同意を得ずして結婚が成立する。一度結婚が成立してしまえば、簡単に離婚することはできない。様々な法手続きや財産分与。慰謝料などなど。今時髪の毛一本から子供を作れる時代だ。闇取り引きで遺伝子情報を入手すれば、一週間後には産着にくるまれた我が子を抱かされる可能性だってある。

<あ、お嬢さん。彼の遺伝子はあとで転送しますからね>

「ありがとう。赤ちゃんは男の子がいいかしら。女の子がいいかしら。写真送るわね」

「おい、堂々と取引するな。違法だろ」

 しかし実際問題婚姻法第三項が執行されたなんていうニュースは聞いた事もなかった。なぜならば誰も彼も人間に興味なんかないからだ。今機械工学とバイオテクノロジーは完全に融合し、人間の肉体を凌駕するバイオアンドロイドが登場している。そして彼、彼女らはあらゆる人間の希望を叶えてくれる。そんな相手がちょっとした出資で手に入るとすれば、誰がしち面倒臭い人間同士の結婚なんかに踏み切るだろうか。

 だからまさかこの自分に婚姻法第三項の不幸が降り掛かるなんて考えもしなかった。それは牧草地に落ちていた牛の糞が竜巻で巻き上りながら引き延ばされ、上空の寒気にさらされて凍り付き一本の槍となり、天から降ってきて脳天に突き刺さるくらいの確率に違いない。

「冗談じゃない」

 ズレォは叫んだ。

「冗談なんかじゃないわよ」

 アサヒがにやりとする。

 すると頭上に浮かんでいた金属球が徐々に降りてきてズレォの目の高さで停止した。そして機械音がして、縦に真っ直ぐ割れ始めた。割れた隙間からは眩い光が漏れ出ている。

「まさか」

 アサヒの笑みが益々大きくなり、口が耳元まで裂けてお歯黒を塗った歯が、ズレォの運命を切り落とすギロチンのように覗いている。

 要するに二十四時間逃げ切ればいいんだろ。見てたまるか。ズレォは脱兎のごとく駆け出した。

 角を一つ二つ曲がり、階段を駆け上り道路を横切った。後ろを振り向くと遠くでアサヒーズがきゃあきゃあ言いながら追ってくるのが見えた。いくら肉体改造しているとはいえ、元は百五十歳だ。走るのはあまり得意ではないみたいだ。

「ええい、このままでは逃げられるぞ。アサヒ4。変身して追うのじゃ」

「ブラジャー」

「下らない冗談はいいから早く追え!」

 アサヒ1はアサヒ4を蹴飛ばした。

 アサヒ4が機械音を響かせながら、トランスフォーマーばりのボディ組み替えを開始した。胸や腹が左右に割れ、中からメタルギアが次々に出てくる。それらのメタルギアは体中に広がり、そして丸みを帯びた女性の身体は入れ替えに内側に隠れ、全身がことごとく金属パーツに組み替えられていく。わずか数秒でアサヒ4はロボット的アンドロイドに変身した。ドラム缶のようなボディの上にはバケツの頭とバネのアンテナ。エアダクトのような腕の先にはCの字型の手というかマニュピレーター。弁当箱のような足。まるで子供が描くロボットそのもの。センスが無いのもここまでくると芸術的だ。

 芸術的アサヒ4は唐突に走り出した。見てくれは前時代のロボットだが、性能は最新式なので猛烈に速い。あっという間にズレォに追いついた。

「止めてくれ」

 そのスピードに驚いたズレォが脇に飛び退くと、アサヒ4はそのまま猛スピードで遠ざかっていった。どうやら曲がる、とか、止まるとかいう機能はついていないようだ。遥か彼方で車を数台はね飛ばすと、そのままアサヒ4は視界から消え去った。

「ばかものがあ。こうなったら頼りの綱はこいつだけじゃ。アンドロパンツ。奴を追うのじゃ。地の果てまで追いつめて、必ず仕留めろ」

 空飛ぶスイカは残ったアサヒーズの周りを一回りすると、合点承知とばかりにズレォめがけて猛然と飛び出した。

「やばい。あれを見たら最後だ」

 ズレォは咄嗟に路地に駆け込んだ。

 空飛ぶスイカはズレォを追って路地の上空を曲がりかけたが、これまた曲がり切れずに壁にめり込んだ。空飛ぶスイカはやっぱり手作りだったみたいだ。アサヒーズは機械工作も得意じゃないらしい。能力は四倍以上と言っていたが、訂正する必要がありそうだ。

 路地から駆け出したところでズレォは何か巨大な物に激突し尻餅をついた。激突の衝撃で監視ブロッカーが外れて転がった。慌てて監視ブロッカーに手を伸ばすと、その手の先に銀色に輝く二本の足が屹立していた。ゆっくりと視線を上げると、丁度目の高さにガトリング砲の黒々とした穴が待ち構えていた。自衛隊から派遣された戦闘アンドロイドだ。だがズレォは彼らが保護のためにきていることは知らない。ズレォはゆっくりと後退りし始めた。

 ところが今度は背中に何かがぶつかった。見上げるまでもなくそれが何か分かった。上からすえたアルコール臭がただよってくる。

「うぅ。うぃっぷ」

 そして汚らしいゲップの音。

「やい、俺ろ獲物をろうするすもろろ」

 完全に呂律が回っていない。歩く星条旗だ。片足は未だにバケツにはまり込んだままだ。

「まってくれ。そうだ取引しようじゃないか。彗星の件だ。あんたの条件を飲もうじゃないか」

 ところが歩く星条旗はズレォを脇に押しのけると、戦闘アンドロイド相手に銃を突きつけた、つもりの様だが、手に持っているのはどこで盗んできたのかレンコンだった。銃は持っていない。無くしてしまったらしい。歩く星条旗は手にしたものを焦点の定まらない目で見詰めた。

<警告する。直ちに両手を頭の後ろに組んで跪け。さもないと敵対行為と見なして武力制圧……>

 驚いたことに歩く星条旗は戦闘アンドロイドが警告を言い終わる前に電撃の早さで組み付いていた。とはいえ相手は重量五百キロ近い超合金製の戦闘アンドロイドだ。人間が敵う相手ではない。と思っていると、歩く星条旗は雄叫びを上げながら戦闘アンドロイドを担ぎ上げると、そのままゴミ収集ボックスに投げ入れてしまった。信じられない怪力だ。

 ゴミ箱から突き出した足をばたつかせている戦闘アンドロイドをよそに、歩く星条旗がゆっくりと振り向き、ズレォと目があった。

 殺される。

 ズレォは監視ブロッカーを引っ掴むと転がるようにして逃げ出した。

「待てこのらろう。撃つろ」

 歩く星条旗がレンコンを突き出す。もちろん撃てる訳が無い。歩く星条旗も追いかけるが、すぐに足がもつれて壁に激突した。

「ちくちょうめ」

 レンコンから弾丸が出なくて本当によかったとズレォは思った。

 逃げる途中道路に飛び出してしまい、危うく車に轢かれそうになった。まあ、交通管制があるから正確には危うくはないのだが。膝を擦りむき腹が立った。そもそもなんでこんな目に遭わなければならないのか。アサヒーズと空飛ぶスイカに追われ、戦闘アンドロイドにガトリング砲を向けられ、歩く星条旗にレンコンを突きつけられた。誰のせいでこんな目に遭っているのか。ズレォの脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。科学アカデミー長官。白髪の種馬。ノッポさん。くそ、あの男のせいじゃないか。

 婚姻法第三項はアテコスが強引に議会を通した法案だが、その素案をアテコスに入れ知恵したのはノッポさんだという噂だ。ノッポさんは今時珍しい結婚賛成派だった。しかも若い娘と三度も結婚している助平ジジイだ。欲望なら家でこっそりアンドロイドと満たせばいいのに、傲然とそれを結婚という形で世間に発表し、おのが性癖を不届きにも自慢している変態中の変態だ。許しがたい。あのノッポさんが妙なことを考え付かなければ、自分がこんな目に遭う事もなかったはずだ。ズレォは無性にノッポさんに対して腹が立ってきた。ズレォは立ち上がると科学アカデミーがある港区の方を見据えた。行く場所は決まった。頭上でピーポー君とアテコスが何かごちゃごちゃ言っている。ここで警告を受ける訳にはいかない。さらに監視ブロッカーが外れてしまったせいで、アサヒーズにも居場所がばれたらしく、猛烈なスピードで空飛ぶスイカが飛んでくるのが見えた。あの空飛ぶスイカには老婆のパンツが入っていると思うと、何とも情けない気持になった。ズレォは監視ブロッカーを首にはめた。

 

 ズレォが科学アカデミー正面玄関前でこけている頃、ノッポさんは東京湾国際宇宙港で一隻の宇宙船を出迎えていた。

 宇宙船はプレアデス星団アルキオネ星からの使者であり、彗星の表層を解いて直ぐに着陸許可を要請してきた。要請において、彼らには攻撃の意志が無いこと、今後両星間で友好な関係を築いていきたいことなどが伝えられ、各国政府議会が話し合いを行った。だが、議会が紛糾し結果が出そうも無いと分かると、アテコスが

<お前ら面倒臭過ぎ>

 と言いながら、自前の権限を振りかざして入港許可をさっさと出してしまった。もちろん反論は津波のように押し寄せたが、今後の地球の発展や科学的はメリットを矢継ぎ早にまくしたてられ、羊飼いに操られるがごとく、見事に今回の結論まで誘導されてしまった。今回の議論で残った議題といえば、議会って何のためにあるんだろう? くらいなものだ。

 そんな訳で科学アカデミー長官として各国政府代表となったノッポさんが、各国大使やマスコミ連中、警察、自衛隊、警備員、掃除のおばちゃん、ポップコーンの売り子などと一緒に宇宙船の前に立つ事になった。

 もし、映画『宇宙戦争』みたいに、唐突にレーザー光線とか撃たれたらどうしよう。という想いから、こっそり服の中に手鏡を忍ばせいているノッポさんだったが、緊張しすぎて入れるときに裏表を間違えて入れてしまったことには気がついていなかった。

 宇宙船は旅客機の倍程の幅があったが、上部に広がる円筒形で高さがある分ひどく巨大に見えた。表面はつやのない薄茶色で、等間隔で縦に合わせ目のような線が入っている。そして横にぐるりと胴を取り巻くラインが、上部、中央部、下部と三カ所引かれている。足はなく、平たい底面がそのまま地上に接地していた。そして地上から上面がどうなっているのか見ることはできないが、着地後の機械を冷やしているのか上部からはしきりに湯気がたっていた。その容姿を一言で言い表すならば『風呂桶』だ。

「何で宇宙から風呂桶が飛んでくるんだ?」

 と誰かのつぶやきに全員が同意した。

 風呂桶の下部壁面の一部が四角く切れ、ごとごとと開いて十間ほどの幅の斜面が現れた。

 一瞬多量のお湯が流れ出るのではないかと危惧されたが、そんなことはなく、溢れ出てきたのは眩い光だった。

「レーザーだ」

 ノッポさんは思わず手鏡を取り出して前に突き出したが、裏表なので、鏡面には自分の顔が映っている。左右にいる国家元首たちが何事かと目を向けてきたので、ノッポさんはさりげなく髪を整えて手鏡を懐に戻した。

 光に小さな影が映った。

「おい、出てくるぞ」

 出迎えの中から声がし、誰もが固唾をのんで見守る中、その影がゆっくりと斜面を降りてくる。

「プレアデス星人は小さいな」

「おい、黙れ。静かにするんだ」

「見えないぞ」

「足を踏むな」

「音楽がイヤホンから漏れてるってば」

「やだ。この人痴漢です」

「スリだよスリ。財布を掏られた」

「ポップコーンいかがすかぁ」

 ざわめく中ついに姿を現したのは一人の子供だった。

「人間と同じ姿だ」

「いやむしろそのもの」

「おいちゃん。ポップコーンおくれよ」

 小型のプレアデス星人がまるで人間の子供のように右手を突き出した。仕草まで人間に似ている。特にランニング姿で青っ洟まで垂らしているあたりはその辺のガキというにふさわしい。これがプレアデス星人なのか?

 と思うと、光の中からぞろぞろと人が降りてきた。彼らの姿はどう見ても人間だった。軍服を来ている者、パイロット姿の者、漁船の乗り組み員、手桶に手ぬぐいを持ったおばさん。石けんの匂いがかぐわしい。

「もしかして、彼らは未確認飛行物体と遭遇して行方不明になった人たちなのではないか?」

 ノッポさんはげんなりした気持ちになった。おいおい、友好とか言っちゃって、実は拉致問題を解決しにきたのか? もしかして、責任者は独裁者じゃないだろうな。だとすると今後の展開が厄介だぞ。

 すると、人々の最後にやたら背の高い、ひょろりとした生物が降りてきた。

 身長は二メートル以上あり、長く細い首の上に小振りピスタチオのような頭が乗っている。両の目はつややかで甲虫のようだ。赤く突き出した唇と、細身に似合わぬ巨大な二つの胸の膨らみ。そして裾を引きずるような銀色のドレスがこのプレアデス星人が女性であることを印象づけていた。

 女性のプレアデス星人は細長い手をノッポさんに向かって差し出した。どうやら握手について勉強してきたらしい。

 ノッポさんも右手を差し出す。

 すると、プレアデス星人は差し出した手は握らず、自らの掌を上に向けると、腰をやや落として、

「お控えなすって。手前、性はカー、名はアッキーニャと申しやす。人呼んで、フーテンのアッキーと発しやす。生国はプレアデス星団、アルキオネ。タイシャーク寺院で産湯を浸かり、銀河系極東方面の監視をもって家業としておりやす。縁あってこの地に草履を脱がせて頂くこととあいなりやした。ご覧の通りの駆け出し者ゆえ、前後間違いましたる節は、まっぴらご容赦願います。土地においては、兄ぃさんがた、姐ぇさんがたにゃあご厄介かけがちなケチな若造ではございますが、向後万端引き立ってお頼み申しやす」

 ノッポさんは呆然と固まっていた。もちろん側近連中も誰一人としてフーテンのアッキーに対応できる者はいなかった。

 じりじりと時間だけが過ぎていく。

 フーテンのアッキーは身じろぎひとつしない。

 ノッポさんの額から汗が滴り落ちた。このまま膠着状態が続けば人類発の異星人受け入れが失敗に終わる。ええい、こうなりゃやけくそだ。やけのやんぱち日焼けのなすび。ノッポさんが右掌を上に向け、腰を落とした直後、ノッポさんをずいと押しのけて一人の男が仁義を返した。

「ご丁寧な挨拶痛み入りやす。本来ならば、科学アカデミーが仁義を返さねばならぬところ、ご覧の通り腑抜けた連中ばかり。挨拶のひとつもできないとあっちゃあ、こちらとしても顔が立たねえ。長官に変わりまして手前が挨拶を返させていただきやす。ひとつご辛抱の程を。

 手前、姓はカラメ、名はウコン。人呼んでキャラメルコーンと発しやす。ようこそ地球へお越しいただきやした。ビルやら何やらで手狭な上に、きたねえ処でござんすが、誠心誠意『お・も・て・な・し』させていただきやす。

 手前、東京は下町の葛飾柴又とらやの隣の隣のまた隣。ねこやでポップコーン売りを家業としておりやす。お口に合いますか分かりませんが、丹精込めて弾けさせたポップコーン。地球土産といっちゃあ何ではございますが、ひとつ進呈させていただきやす」

 ポップコーンの売り子がさっと紙のカップに山盛りのポップコーンを差し出す。

 フーテンのアッキーは背筋を伸ばすと、ポップコーンは受け取らずに顔に装着した片眼鏡のような機械に触れた。片眼鏡の内側にすぐに数字が表示され、フーテンのアッキーは息をのんだ。

 戦闘力二十五万…。こいつ半端じゃねえ。

 まあ、戦闘力はさておき、差し出された物に興味があったので、フーテンのアッキーはそれを恭しく受け取ると、一つをつまみ上げ、目の前で暫く右から左から眺めた後、ぽいっと口に放り込んだ。

 フーテンのアッキーがポップコーンを咀嚼し飲み込むまでの間、誰もが固唾を飲んでその様子を見守っていた。場合によってはポップコーン一つで宇宙戦争になりかねない。

 するとフーテンのアッキーは一瞬引きつったような仕草をし、首を左右に振り始めた。

 ノッポさんは全身から血の気が引いていくのを感じ、半歩ずつ後ろに下がり始めた。

 フーテンのアッキーは辺りを見下ろすように見た。まるで皆の者に申し付ける事がある、とでも言いたげだ。そしてひとつ頷くと、ポップコーンを鷲掴みにして口に頬張った。ポップコーンを平らげた後にキャラメルコーンに差し出した右手はバターと塩でベトベトだった。

 キャラメルコーンはそんなことは意にも介さず、力強い動作で差し出された右手を握り返した。

「もう一つおくれ」

「おっと、ここから先は有料でさあ」

「なんと。で、いくら?」

「四百円でさあ」

「うーん。ツケで」

「しゃあねえなあ」

 ひょいと子供が横から割り込み、

「おいちゃん。おいらにもポップコーンおくれよ」

と同時に洟がずずっと垂れる。

 人類と異星人とはな垂れが友好の関係を築いた瞬間だった。それを何十、何百ものカメラが捉え、全世界に発信していた。人類の代表、ノッポさんはその光景を唖然と見詰めていた。

「私の、歴史的の瞬間が、バターと塩と洟垂れに穢された…」

 夥しい数の映像が撮影された後、一行は迎賓館へと向かった。

 リムジンの後部座席でノッポさんが横を向いた時、フーテンのアッキーはバターと塩をシートになすりつけながら歪んだ笑みを覗かせていた。もしノッポさんがその表情を見たら、さぞかし嫌らしい笑みと思っただろうし、もし、向かいに座るのがノッポさんではなくアテコスであったとすれば、きっと車内の会話は、

「越後屋。お主も悪よのう。がっはっは」

「いえ、滅相も無い。お代官様こそ。わっはっは」

といったものになっていただろう。


 車内で陰謀渦巻くリムジンが移動している頃、ズレォは科学アカデミーのロビーでいとも容易く警備ロボットに取り押さえられていた。いかにも挙動が怪しいせいだった。

「放せ。放せったら。俺は長官に用があるんだ」

<みんなそう言うのです。いくら長官がスケベだからって、卵をぶつけようとしてはいけません>

「卵なんかぶつけるもんか。ぶつけるなら牛の糞にする」

 言いながら拳で胸の辺りを叩く。

 するとそのロボットが突然金属音と共に停止した。

「えっ? 俺? もしかして俺って凄い? スーパーヤサイ人に変身したか」

 とりあえず決めポーズを取ってみる。が、そんな筈がないことは十分承知している。慌てて辺りを見回すズレォ。

 すると正面玄関から颯爽と入ってきたのは、アサヒーズの面々。そのうちの一人が狙撃用ライフルを肩に担いでいる。横一列に並んで颯爽と歩く姿はヒーロー戦隊アサヒレンジャーといった所か。一人だけドラム缶ロボットなのが玉にきず。

「嘘だろ。頼む。撃たないでくれ」

 ズレォの前に立ったアサヒ…多分本人、さしあたり一号と呼ばせてもらう、は勝ち誇った視線を向けつつ、人差し指で胸をつついた。

「覚悟はいい?」

「何の? いや、よくない。よくないってば」

「そうはいかないわ」

 そしてよく通る声で叫んだ。

「カモン。アンドロパンツ」

 なんだそのダサいネーミングは、と思っているとあの銀色の球体が飛んできてズレォの前で停止した。

「やめろ。俺は見ないぞ。絶対に見ないからな」 

 ズレォが目を瞑ろうとすると、アサヒは迷わずズレォの股間を蹴り上げた。

「ぎゃー」

 当然目玉が飛び出す。

 飛び出した目の前には開きつつある球体。中にある下着が見え始めている。色は…トラ柄だ。アサヒの性格をよく表している見事な選択。裏返せば百五十年だって使える。

 唐突に一陣の風が二人の横を吹き抜けた。

 チン!

 金属が触れ合う僅かな音。そして静寂。

 銀色の球体はその動きを停止し真っ二つに割れて地面に落ちた。

「やだ、どうなっているの?」

 狼狽するアサヒ。

「これじゃあもう履けないな。つまりこれは下着じゃなくて、ただの布きれだ」

 どこから現れたのか、剣を鞘に収めながらゴエモンが言った。

「ただの布きれって、そんな。裏返して百年以上愛用してきたのにぃ…」

 へなへなと崩れ落ちるアサヒ一号。この瞬間のアサヒ一号の顔は紛れもなく百五十歳だった。

 決まった。気持ち良すぎる。ゴエモンはにやけた顔を真顔に戻した。ニヤついていては格好がつかない。

「また、つまらぬ物を…」

「ズレォーッ!」

 折角の決め台詞を遮って、コマコの声がロビーにこだました。

 見れば戦闘アンドロイドの肩に乗ったコマコが手を振っている。一難去ってまた一難。

「おい、ゴエモン。何とかしてくれ」

「無茶言うな。刀と戦車じゃ勝負にならない。後は適当にやってくれ」

 そそくさと逃げ出すゴエモン。

 逃げるタイミングを失ったズレォ。もう逃げ切れる距離ではない。

「ズレォ。無事だったのね。心配したのよ」

「嘘つけ。お前俺を騙して彗星の命名権を奪うつもりなんだろう。そんな物まで持ち出して。こ、こ、怖くなんかないぞ」

 と言ったものの、戦闘アンドロイドの右腕にしつらえられた四連バルカン砲の、真っ黒な銃口を見て震え上がった。あんな物で撃たれたらかけらも残らない。

「命名権? やだ。何言っているのよ。もう彗星なんてどこにもないわよ。そのことで何度も連絡入れたのに無視したでしょ」

「どこにも無いってどういうこと?」

「あれは彗星じゃなくて、宇宙船だったのよ」

「ええー。それは大変だ。侵略か? 宇宙戦争になる」

 ズレォはあたふたと逃げ場を探したが、異星人相手にどこへ逃げればいいのか分からない。

「やぁねぇ。まずは回線開きなさいよ」

 ズレォが言われた通り回線を開くと、羽田国際宇宙港で今まさに世紀の握手が交わされた瞬間が映し出されていた。

「これは一体…」

「新しい時代の到来よ。ついに私の時代が来た」

 うっとりと天を仰ぐコマコ。またしても銀河と融合してしまったようだ。

「何にしてもこれで安心だ」

 ズレォがほっと胸をなで下ろしていると、

「そうはいかないぞ」

 と野太い声が谺した。

 ズレォはそちらを向いてげんなりとした。

 歩く星条旗だった。ズレォに向けている手にはワインの瓶。反対の手には日本酒の瓶。腰にレンコンと大根を差し、首には西部劇よろしくウィンナーをたすきにかけていた。相変わらずバケツが足にはまったままだ。こいつは一体何をしにここまで来たのだろう。

 と思っていると、歩く星条旗は唐突にベルトを外してズボンをずり下げた。ズボンの下にはやっぱり星条旗柄のブリーフ。にしてはちょっと変。社会の窓がない。まるで女性物のよう…。

「一体何してるんだ?」

 歩く星条旗は右手の人差し指を高々と掲げると宣言を始めた。

「お、俺は。いや、私、ジャッキー・カーペンターはズラ男に対して、ここに婚姻法…えっと、何だっけ。ういっぷ。第九?」

「なんだって。婚姻法だって?」

 ズレォはナイアガラの滝並みの勢いで、血の気が引いていくのを感じた。たった今、ここでアサヒの婚姻法第三項が無効になったばかりだというのに、またしても婚姻法ときた。そんなものを適用されたらもう正気を保つ自信がない。

<第九じゃないですよ。ほら、第三でしょ。ほらしっかりして>

 アテコスが優しくフォローを入れる。楽しんでいるとしか思えない。

「うぃっぷ。そうか。第三か。第三。第三」

<そう。第三ですよ。第三>

「こら、アテコス。何やってる」

 ジャッキーは日本酒の瓶を放り出すと、ポケットからレタスとバーガーに挟まれた銃を取り出しズレォに向けた。黒い銃のあちこちにケチャップがついている。

「やい、黙れ。俺が、いや、私がまじめに求婚しようってのに、邪魔立てすると承知しないぞ。私はお前が彗星発見のインタビューで、結婚してもいいって言ったその時から、こうするって決めていたんだ。邪魔立てする奴は誰だろうとぶっ殺す」

 求婚する相手をぶっ殺したら何の意味も無いと思ったが、ズレォは両手を上げて口を閉じた。もうパンツは見てしまった。それに対して宣言をしても有効なのだろうか。だとするとズレォはこの酔っぱらった歩く星条旗を一生の伴侶としなければならない。百五十歳とどちらがましだろうか。

「ええと。なんだ。その、法律だ。第三…第三法婚姻項を適用するぞ。どうだ」

 言い切ったことで満足したのか、歩く星条旗、ジャッキー・カーペンター女史は大きな笑みを浮かべ、そのまま仰向けにばたんと倒れ、ごうごうと鼾を書き始めた。

「おい、アテコス。今のは無効だよな。第三法とか言っていたぞ」

<うーむ。個人的には彼女の気持ちを酌んでやりたいのですが、どうでしょうね>

「ふざけるな。間違ってるだろ」

<やっぱり駄目ですよね。まあ、法と秩序を守るのが私の役目ですから。これは無効ですね>

 何が法と秩序だ。片っ端から混ぜ返したくせに。

 それにしても、要するにジャッキーはスパイでも何でも無く、今時珍しい結婚願望者の一人であり、求婚の仕方にやや難があったというだけだったのだ。何ともまあ人騒がせな女である。

 いづれにしても、アテコスは知っていて楽しんでいたとしか思えず、ズレォのアテコスに対する不信感は増すばかりだった。そもそも今回の騒動を大きくしたのは婚姻法をアテコスが勝手に制定したせいである。アテコスは騒動に対して責任がある。

 するとアテコスが、

<ズレォの名前は歴史に刻まれることも、空に輝くこともなかった訳だが、ズレォにしてみればこれでよかったのかもしれない。いやこれでよかったのだ>

 とまるで物語を締めくくるようなことを言い始めた。

「おい」

<めでたし、めでたし>

「ちょっと待て、アテコス。なにが『めでたし、めでたし』だ。この騒動の責任をどう取るつもりなんだ。お前が変な法律を制定しなければこんな事にはならなかった」

<あー。ばれてました?>

「当たり前だ」

<まーそれには深い訳がありましてね>

「そんな事知るか」

<仕方ない。少し私も反省しましょうか。婚姻法は最後の一組が結婚成立したら廃止するとしましょう>

「最後の一組?」

 

 飛行中のリムジンの後部座席で、フーテンのアッキーの笑みが最大限に大きくなった。

 その笑みを見たノッポさんは徐々に不安にかられていく。もしかして、私は、私たちは大変な間違いを犯してしまったのではないだろうか。今、目の前に座っているこの異星人は、本当は友好的な相手などではないのかもしれない。彗星が実は宇宙船だと判明した直後、開かれた議会で、彼らを地球へ迎え入れようと言い出したのはアテコスだ。そしてそれを真っ先に受け入れたのがノッポさんだった。ノッポさんはアテコスの援護を受けて、各国代表を次々に説得していった。それもこれも、歴史に名前を残すために他ならなかった。

 それがどうだ。プレアデス星人の笑みといったら、嫌らしいことこの上ない。愚かな者を見下す笑みだ。だが、このままコケにされる私ではないぞ。ノッポさんは腹にぐっと力を入れつつ、満面の政治的笑みを返しながら言った。

「何か嬉しいことでもおありになりましたか」

「ええ。とても」

「よろしければ、こっそり私に教えて頂けませんか」

 いよいよフーテンのアッキーは踊り出さんばかりに身を乗り出してきた。

「いいですとも」

 そして、やや背筋を伸ばすと緊張気味の声で言い放った。

「婚姻法第三項をここに宣言する。アテコス。記録を」

「えっ?」

 ノッポさんは何を言われたのか全く理解できなかった。

<フーテンのアッキーの宣言を記録しました。現在時刻午後十一時五十九分。これより二十四時間以内に、シオマキチヘイに対して下着を見せつけることで、婚姻の成立が認められます>

 フーテンのアッキーは大きく頷くと、おもむろに銀色のコートの前をはだけた。長い足の最上部には、かわいらしい、小さなリボンがついたピンク色の下着とはほど遠い、白地に赤いハートが沢山プリントされた、トランクス型のデカパンが着用されていた。

「見よ!」

 瞬きひとつできないノッポさん。どういうことなのか理解が全く追いつかない。

<ここに二人の婚姻を認め、二人が夫婦となったことを証明いたします。いやあ、おめでとう。本当におめでとう>

「やだ、照れるわ。ねえあなた」

「あなたって誰のことだ」

「あなたに決まってるでしょ。ダーリン。地球で最高の知性と結婚できるんだから、プレアデス星人の未来も明るいわ」

 フーテンのアッキーは猫のようなしなやかな動作でノッポさんの隣に納まり、その腕を取った。

「子供は五人は欲しいわ。ふふふっ。がんばってねダーリン」

「ダ、ダーリンと呼ぶな」

 そしてノッポさんはここへきてようやくアテコスに騙されていたことに気がついた。考えてみればおかしいことだらけだった。『婚姻法第三項』にこだわったいたのはアテコスであり、ノッポさんではない。今回の異星人との接触だってアテコスが手際良すぎるくらいにお膳立てをしてくれた。いつもなら<やだ、面倒くせー>というアテコスがである。

「おい、アテコス。どういうつもりなんだ」

<人類の一層の発展に貢献しているだけですよ。新しいテクノロジーが欲しいでしょ? それにプレアデス星団では雄体の虚弱化が進みすぎて、最早子孫繁栄の力も残っていないのです。だから、若くて新しい文明と融合する必要があったのですよ。地球は最有力候補だったんです。この話を受けた時はすこし驚きましたがね、まあ人類もこのままいくと危ないし、渡りに船ってところですかね。ウィン・ウィンってやつですよ、ウィン・ウィン>

「なにがウィン・ウィンだ。ふざけるな。勝手に結婚を決めていいなんて誰が決めた」

<あなたでしょ>

「そ、そうか私か。いや、こんな悪法は廃止だ。廃止」

<了解でーす。じゃあ、廃止ということで。あ、でも廃止はこれからなんで、あなたがたのご結婚が最後の事例になりますね。いや、それにしてもめでたい>

「おい、まってくれ。成立するまえに廃止にしてくれよ」

「あら、あんた。あたしじゃ不満だっての? パパに連絡するわよ。私のパパは軍の高官なんだから?」

 夫婦喧嘩で宇宙戦争になったら別の意味で歴史に名を刻んでしまう。

「ええっ? いや、そういう訳では。あなたは素敵ですよ。でも、その、ほら。お互いによく知らない同士だし」

「そんなことは愛があれば関係ないわ」

 フーテンのアッキーはそれ以上ノッポさんが戯言を言わないように唇を唇で塞いだ。

 ノッポさんは暫く手足をばたつかせて藻掻いたが、やがて静かになった。

 さて、今後地球は発展するのかしないのか。超人工知能の手のひらで人類はコロコロと転がされている感はあるが、それはさておき、一組の幸せなカップルが誕生したということで、めでたし、めでたし。

 

       終わり

 


奥付


アンドロパンツ


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著者 : kitaryuto775
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