目次
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第一話 今はとても小さくて曖昧な世界
第二話 ある晴れた春の日
第三話 自らの意志で枝を踏んだ日
第四話 初めておにぎりを食べた日
第五話 私がウサギになった日
第六話 初めて傘をさした日
第七話 私が私になった日
第八話 クーたんとクローバーの丘に行った日
第九話 クーたんとだがしうましに行った日
第十話 クーたんと月饅頭屋に行った日
第十一話 クーたんと自転車に乗った日
第十二話 クーたんと水鳥を見た日
第十三話 クーたんに大好きって言えた日
第十四話 初めてあの小さなウサギを見た日
第十五話 あまり思い出したくない日
第十六話 執念というものを知った日
第十七話 クーたんとヒソヒソ話をした日
第十八話 あの子の名前が決まった日
第十九話 ~とある小さなウサギの回想~
第二十話 初めてはなびをした日1
第二十一話 初めてはなびをした日2
第二十二話 初めてはなびをした日3
第二十三話 とても長い一日1
第二十四話 とても長い一日2
第二十五話 とても長い一日3
第二十六話 とても長い一日4
第二十七話 とても長い一日5
第二十八話 とても長い一日6
第二十九話 とても長い一日7
第三十話 さようならを言った日1
第三十一話 さようならを言った日2
第三十二話 さようならを言った日3
第三十三話 さようならを言った日4
第三十四話 旅立ちの日1
第三十五話 旅立ちの日2
第三十六話 またね
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目次

星のクーたん

 

第一章 遭遇

 

第一話 今はとても小さくて曖昧な世界

第二話 ある晴れた春の日

第三話 自らの意志で枝を踏んだ日

第四話 初めておにぎりを食べた日

第五話 私がウサギになった日

第六話 初めて傘をさした日

第七話 私が私になった日

 

第二章 遊歩

 

第八話 クーたんとクローバーの丘に行った日

第九話 クーたんとだがしうましに行った日

第十話 クーたんと月饅頭屋に行った日

第十一話 クーたんと自転車に乗った日

第十二話 クーたんと水鳥を見た日

第十三話 クーたんに大好きって言えた日

 

第三章 奪兎

 

第十四話 初めてあの小さなウサギを見た日

第十五話 あまり思い出したくない日

第十六話 執念というものを知った日

第十七話 クーたんとヒソヒソ話をした日

第十八話 あの子の名前が決まった日

第十九話 ~とある小さなウサギの回想~

第二十話 初めてはなびをした日1

第二十一話 初めてはなびをした日2

第二十二話 はじめてはなびをした日3

 

最終章 星兎

 

第二十三話 とても長い一日1

第二十四話 とても長い一日2

第二十五話 とても長い一日3

第二十六話 とても長い一日4

第二十七話 とても長い一日5

第二十八話 とても長い一日6

第二十九話 とても長い一日7

第三十話 さようならを言った日1

第三十一話 さようならを言った日2

第三十二話 さようならを言った日3

第三十三話 さようならを言った日4

第三十四話 旅立ちの日1

第三十五話 旅立ちの日2

第三十六話 またね

 


第一話 今はとても小さくて曖昧な世界

 

 

「お別れしなくちゃならないんだ。」



 第一章 『遭遇』 



 いつなのかわからない時、どこなのかわからない場所。たぶん小さな星の小さな国なのだろう。たぶん小さな町の小さな家なのだろう。 

 

 懐かしいといえば懐かしく、新しいといえば新しい。このなんとも曖昧な世界は、今はとても小さくて、そしてどこか優しい。

 

 その小さな家の中に、白くてもこもこしている何かが住んでいる。マシュマロみたいにフワフワで、さわればときっと柔らかい。

 

 頭から二つ伸びている、みょーんと長いものはたぶん耳で、常にひくひくと敏感に動いている。

 

 小さな家に住んでいるその何かは、おそらく私たちの世界の言葉で表現すればウサギと呼ばれることになるだろう。

 

 テクテクと二足歩行をしていることに目をつむりさえすれば。

 

 その、とりあえずはウサギと呼ぶのがふさわしいであろう生き物は、イスに座って、ほおづえをついている。テーブルの上のマグカップの中には茶色くて良い匂いのする飲み物が入っている。どうやらココアのようだ。この不思議なウサギは甘いものが好きらしい。

 

 ウサギが窓から外を見ると、今日も雨が降っていた。ウサギは大きな雨粒が小さな家の屋根を打つ音に耳をピクピクさせている。

 

 庭に植えてある大きな木の葉っぱが雨に打たれている姿は、どこか泣いているようにも見え、ウサギは悲しい気持ちになってしまう。

 

ウサギ「雨は嫌。」

 

 ウサギはポツリとつぶやいて、ため息をつく。ここのところ、ずーっと雨。考えてみると、その前の日も、その前の前の日も雨だったような気がしてくる。ウサギは自分は一体いつからこの家から出ていないのだろう、と心配になった。

 

 時折ゴウッと強く吹く風の音があまりにもウサギを不安にさせるので、ウサギは今日も途中で考えることをやめて、おふとんを頭にかぶって寝てしまった。

 

 昨日はいつ終わり、今日はいつまで続いて、明日はいつから始まるのだろう。そんな当たり前のことすら今は必要としていない、とあるウサギの出会いと別れのお話。


第二話 ある晴れた春の日

 ある春のとき、いつの間にか外は晴れていた。

 

 ウサギは歩くのが好き。走るのも好き。ウサギの日常には考えてもわからないことばかりがあふれているが、好きだというこの気持ちだけは、考えなくてもはっきりとわかる。だから外が晴れているのなら、いつもスタスタと二足歩行で歩くし、いつもタカタカと二足歩行で走る。

 

 ウサギの行動に特に目的は必要なかった。今日が晴れているなら、ただ歩き、ただ走る。それで充分。その日も歩くために歩いていたし、走るために走っていた。

 

 ウサギはいつもどこを目指して行くかは決めていない。前と同じ道を通ることもあれば、違う道を通ることもある。全ては気の向くまま、身体の向くままである。その日は、とても久しぶりに、小さな山の頂上へ向かう道を走っていた。

 

ウサギ「ビクッ!」

 

 気持ちよく山道をグルグル走っていたウサギは何かに気づいて、ピタッと足を止める。ウサギが遠くに見えてきた山の頂上をジーっと見ると、そこに何かが座っているのだ。ウサギはドキドキしながら、用心深く様子をうかがう。

 

ウサギ「何か・・・いる?」

 

 ウサギは少しずつ慎重に山の頂上に近づきながら、目を凝らして、その何かを見つめた。

 

 白くてもこもこしている何か。マシュマロみたいにフワフワで、さわるとたぶん柔らかい。そんな何かが山の頂上に座っていた。頭から二つ伸びている、みょーんと長いのはたぶん耳で、敏感にひくひくと動いている。小さな山の頂上に座っているその何かも、おそらく私たちの世界の言葉で表現すればウサギと呼ばれることになるのだろう。

 

 しかしその山の頂上に座っている何かをおそるおそる見つめているこのウサギは、まだ自分以外のウサギと遭遇したことがない。だから自分がウサギであるということもよくわからないし、相手が自分と同じウサギであるということもよくわからない。

 

 臆病なこのウサギは、今までいなかったものと接触するのがすごくこわかった。

 

 このまま回れ右して、山を下りて他の道を進んでいけば何事もなく、これまで通りのウサギの日常に戻れる。

 

ウサギ「何もいなかったことにしようかな。」

 

 ジワリジワリと山の頂上付近まで歩いてきてしまっていたウサギは、クルリと方向転換をして、そのままソロリソロリと来た道を引き返そうとする。

 

 バキッ!

 

ウサギ「あっ。」

 

 その時、思いがけず落ちていた大きめの枝を踏んづけてしまったウサギ。それなりの大きな音を立ててしまった。

 

?「うん?」

 

 山の頂上に座っていた何かが、その音に敏感に反応し、ウサギの方を見る。

 

ウサギ「ギクッ。」

 

?「・・・やあ!」

 

 その何かはその場に立ち上がり、山の上からちょっとだけ手を振って、大きな声でとても簡単にあいさつをした。

 

ウサギ「あっ・・・。」

 

 ウサギはびっくりして硬直してしまう。

 

?「こんにちは。初めまして。自分と同じ、耳の長い、白い毛のウサギさんだね。」

 

ウサギ「ウ・・・サギ?」

 

 ドキドキしてしまっているウサギが微かに聞き取れたのは、その「ウサギ」という言葉だけだった。

 

 そして気がついたときにはウサギは、来た道をタカタカと走って戻ってしまっていたのだった。

 

?「行っちゃった・・・。あのウサギさんと仲良くなれるといいなぁ。」

 

 あいさつも返さずに、急に走り去ってしまったウサギを見送った何かは、手に持っていた白い三角を大事に抱えながら、その場に寝ころび、ワクワクしながら空を見上げた。

 

 

 一方、急いで逃げ帰ってきてしまったウサギの方は、いつもより短い道のりで家に着いてしまったので、時間を持て余し、退屈になってしまっていた。

 

 退屈になると忘れたいこと、なかったことにしたいことも思い浮かんでしまう。

 

 ウサギは自然とさっき遭遇した何かのことを思い出していた。

 

ウサギ「あれは、何だったんだろう・・・?」

 

 ちょっと離れたところから見た何かの姿。

 

 白い毛、長い耳、ほっぺたには特徴的な赤い星に見える模様が見えた。そしてなぜかとても興味をそそられる白くて三角の物を手に持っていた。

 

ウサギ「ウ・・・サギ・・・星・・・ウサ…ギ?」

 

 ウサギはやることがないので早々におふとんをかぶって寝てしまおうと思ったが、その日の夜はドキドキしてなかなか眠れなかった。


第三話 自らの意志で枝を踏んだ日

 それから何日か後の、とある晴れた日。ウサギは今日も、何も考えずに、歩いたり走ったりしようと思って出かける。今日も特に行先を決めずにどんどん走る。しかし、たまたま足の向いた今日のこの道は、あの何かと遭遇した山の頂上への道につながっていそうだ。

 

ウサギ「違う道にしておこうかな・・・。」

 

 いつも気の向くまま、身体の向くままに道を進んでいる。気にかかることがあるからといって、自分の今日の道を変えるのも何だか悔しい。ウサギは考えるのをやめて、そのまま進み続けることにした。

 

ウサギ「あっ。」

 

 山の頂上には、このあいだ遭遇した何かがまた座っていた。

 

 しかし、今日はウサギの身体は止まらなかった。ずんずんと山の頂上への道を進み、その何かに近づいていく。ウサギは早くも遅くもない速度で進み、何かが座っている山の頂上付近に到達。

 

 あの何かはまだこちらに気づいていない。そこで今日も足元に転がっている大きめの枝をジーッと見つめるウサギ。

 

バキッ!

 

 今日は自らの意志でその大きめの枝を踏み抜いた。

 

 山の頂上に座っていた何かが、その音に敏感に反応し、もう、すぐ近くまで来ていたウサギの方を見た。

 

何か「やあっ。」

 

 何かはこの前と同じようにヒラヒラと手を振って、大きくも小さくもない声でとても簡単に挨拶をした。

 

 ウサギはズンズンと何かに近づき、何かの目の前でピタッと止まる。

 

ウサギ「あ、あ、あ、あなたは誰ですか?」

 

 突然ウサギが、震えた声でその何かにたずねる。

 

何か「・・・。」

 

ウサギ「こ、こ、こわい何かですか?」

 

何か「こわい何かではないよ、たぶん。」

 

 ウサギは注意深く、その何かを隅から隅まで見つめる。そして、その何かが手に持っている白い三角の物に目がいくと、そこで目が釘付けになった。

 

何か「・・・うん?」

 

ウサギ「それは何ですか?」

 

 ウサギは真っ直ぐ白い三角の物を指さし、何かにたずねる。

 

何か「これかい?これはおにぎりだよ。」

 

ウサギ「おにぎり・・・。」

 

何か「そう。ふふふっ。」

 

ウサギ「ウ・・・サギ・・・星・・・星ウサギ・・・おにぎり・・・。おにぎりー!」

 

 何かの返答を聞き、ブツブツと独り言をつぶやいたウサギは、急に叫び声をあげ、また、タカタカと逃げるように走り去ってしまった。

 

何か「あれ、あ・・・。またね。」

 

 その山の頂上に座っている何かは、ちょっと残念そうに小さくつぶやき、走り去るウサギの背中を見送りながらヒラヒラと手を振った。

 

 

 

 ウサギは家に帰り、いつものようにマグカップでココアを飲んでいた。

 

ウサギ「よくわからないけど、あの何かはこわくない・・・かもしれない。」

 

 ウサギはよくわからない不思議なワクワク感を感じていて、なんだか今日は気持ちよく眠れるような気がしていた。


第四話 初めておにぎりを食べた日

 晴れたある日、ウサギは今日も走っていた。いつだって気ままに行き先を決めずに走っていたウサギだが、今日は初めて、あの何かに会いたいという期待をもって昨日と同じくらいの時間に、昨日と同じ道を歩いていた。

 

ウサギ「あの何か、いるかな。」

 

 ウサギが走っていくと、山の頂上の道の先に、昨日遭遇した何かがまた座っていた。

 

 ウサギは何かと接触するために、今日も丁度良い大きさの枝が落ちていないかと一生懸命探した。

 

何か「やあ!」

 

ウサギ「ビクッ!」

 

 なかなか丁度良い枝が見つからなかったので、今日はウサギの方が先に何かに見つかってしまった。

 

 

 ウサギはスタスタと歩き、何かの隣のちょっと離れたところに座る。

 

ウサギ「あの・・・。今日もおにぎりですか?」

 

何か「うん。今日もおにぎりを持っているよ。」

 

ウサギ「おにぎりはなんですか?」

 

何か「おにぎりはなんですか・・・か。うん。おにぎりはね・・・おいしい食べ物だね。」

 

ウサギ「おいしい食べ物・・・。」

 

何か「ふふっ。自分はいつも二つ持っているんだ。ひとつあげるよ。」

 

 ウサギは思いがけぬ何かの発言にとてもびっくりして、逃げ出したくなったが、優しくおにぎりを手渡されると、なぜか幸せな気持ちになった。

 

 何かはさっきよりほんの少しだけ、ウサギの近くに座り、おいしそうに幸せそうに自分のおにぎりをほおばっていた。

 

 ウサギはそんな何かを横目で見ながら、意を決して、パクリとおにぎりをほおばる。

 

ウサギ「・・・。」

 

 思ったよりもおにぎりは地味な味だった。だけど、どこか優しくて元気が出るような味だった。

 

ウサギ「・・・!」

 

 その時、ウサギの身体をピリッとした刺激が突き抜ける。

 

ウサギ「す・・・すっぱ!」

 

何か「あ、ごめん。梅干しだめだったかい?」

 

 ウサギは初めて食べる梅干しの刺激に、表情を歪め、立ち上がる。

 

ウサギ「すっぱ!すっぱ!」

 

何か「あわわ、あわわ。」

 

 ウサギの反応に何かもとても慌ててしまう。

 

ウサギ「ココア、ココアー!」

 

 ウサギは梅干しのすっぱさにどうしても甘いものがほしくなって、食べかけのおにぎりを大事に抱えたまま、その場をグルグル回ったあと、タカタカと走り出してしまう。

 

 だけど、ちょっと走ったところでピタッと止まり、何かの方にクルっと振り返る。

 

ウサギ「ありがとう。」

 

何か「・・・!・・・ありがとう。またね。」

 

 ウサギは梅干しのすっぱさに涙を流しながらニッコリしたあと、また一目散に走り出した。

 

何か「友達に・・・なれるかな・・・。」

 

 何かはニッコリ笑って小さくつぶやき、走り去るウサギの背中を見送り、ヒラヒラと手を振った。



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